説明

動力伝達装置

【課題】モータを駆動源として入力部材の回転を出力部材に伝達し、出力部材に負荷される逆入力が入力部材に伝達されるのを防止するようにした動力伝達装置において、出力部材からの逆入力トルクの低減化を図ること、モータの駆動トルクの低減化を図ることである。
【解決手段】モータ1の駆動により入力部材3を回転し、その入力部材3とクラッチディスク13間に組込まれた推進カム手段18によってクラッチディスク13を係合解除する位置まで軸方向に移動させた後、クラッチディスク13と共に出力部材7を回転させる。出力部材7の出力ギヤ7aの回転を被駆動ギヤ10に減速して伝達し、被駆動ギヤ10から出力部材7に伝達される逆入力トルクの低減化を図る。また、モータ1の回転軸2に設けたピニオン4の回転を入力部材3の入力ギヤ3aに減速して伝達し、モータ1の駆動トルクの低減化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動車のパワーシートやパワーウインドウ等の駆動用に用いられる動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体の床面にレールを敷設し、そのレールに平行してラックを設け、上記レールに沿って移動可能なシートにラックと噛合するピニオンを回転自在に支持し、このピニオンの回転によりシートを前後方向に位置調整するパワーシートにおいては、普通、モータの回転を動力伝達装置を介してピニオンに伝えるようにしている。
【0003】
上記動力伝達装置として特許文献1に記載されたものが従来から知られている。この動力伝達装置においては、モータによって駆動される入力部材とピニオンに回転トルクを伝える出力部材とを同軸上に対向配置し、その両部材の対向部間に設けられた円すいクラッチのクラッチディスクを出力部材に回り止めし、かつ軸方向に移動自在に支持すると共に、円錐形のクラッチ面を内周に有するクラッチハウジングを静止部材に固定している。
【0004】
また、出力部材上に設けられた弾性部材によりクラッチディスクをクラッチハウジングのクラッチ面と係合する方向に付勢し、上記クラッチディスクと入力部材の相互間に、入力部材の回転運動をクラッチディスクの軸方向の移動に変換して、クラッチディスクを係合解除位置に移動させた後に入力部材の回転をクラッチディスクに伝達する推進カム手段を設けている。
【0005】
上記の構成から成る動力伝達装置においては、モータの駆動による入力部材の回転時に、推進カム手段によりクラッチディスクを係合解除位置まで移動させた後、そのクラッチディスクに入力部材の回転を伝達して出力部材を回転させ、その出力部材の回転をピニオンに伝達してシートを位置調整するようにしている。
【0006】
また、シートからピニオンを介して出力部材に逆入力が負荷された場合には、クラッチディスクをクラッチハウジングのクラッチ面に摩擦係合させて出力部材をロックし、出力部材から入力部材への逆入力の伝達を遮断し、シートを調整位置に保持するようにしている。
【特許文献1】特開2000−346099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の動力伝達装置において、出力部材によってシートの位置調整用のピニオンを直接駆動する構成であると、シートからピニオンを介して出力部材に比較的大きな逆入力が負荷されることになり、その逆入力の入力部材への伝達を遮断するために、比較的大きな円すいクラッチが必要となり、コスト的に不利となる。
【0008】
また、入力部材をモータで直接駆動する構成を採用すると、モータに大きな負荷がかかり、回転駆動力の大きな大型のモータが必要となり、コスト的に不利となる。
【0009】
この発明の課題は、モータを駆動源とする上記のような動力伝達装置において、出力部材に負荷される逆入力トルクの低減化を図ること、モータの駆動トルクの低減化を図ること、および円滑な回転動作が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、モータによって回転される入力部材と、その入力部材と同軸上に対向配置された出力部材と、前記出力部材に回り止めされ、かつスライド自在に支持されたクラッチディスクを有し、そのクラッチディスクの入力部材に向けての移動により静止部材と出力部材とを結合して出力部材をロックするクラッチと、そのクラッチのクラッチディスクを入力部材に向けて付勢する弾性部材と、前記入力部材とクラッチディスクの対向部間に設けられ、前記入力部材の回転によりクラッチディスクを結合解除位置まで軸方向に変位させた後にそのクラッチディスクを回転させる推進カム手段とから成る動力伝達装置において、前記入力部材が、モータの回転軸に取付けられたピニオンに噛合して、そのピニオンにより減速回転される入力ギヤの両端面に一対の軸部を一体に設けた構成とされ、その一対の軸部を軸受によって回転自在に支持し、前記出力部材が、被駆動ギヤを減速回転する出力ギヤの両端面に一対の軸部を一体に設けた構成とされ、その一対の軸部を軸受によって回転自在に支持した構成を採用したのである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、出力部材に形成された出力ギヤによって被駆動ギヤを減速回転させることによって、被駆動ギヤから出力部材に負荷される逆入力トルクの低減化を図ることができ、逆入力遮断用のクラッチとして小型のものを採用することができる。
【0012】
また、ピニオンによって入力部材の入力ギヤを減速回転すると共に、出力部材の出力ギヤによって被駆動ギヤを減速回転することによって、モータの駆動回転力の低減化を図ることができ、モータとして小型のものを採用することができる。
【0013】
さらに、入力ギヤに一体に設けられた一対の軸部を軸受によって回転自在に支持すると共に、出力ギヤに一体に設けられた一対の軸部を軸受によって回転自在に支持することによって、入力ギヤおよび出力ギヤに負荷されるラジアル荷重を各軸受で支持することができる。このため、入力ギヤおよび出力ギヤの回転が阻害されるようなことはなく、しかも軸受によって支持される各軸部は入力ギヤや出力ギヤに一体化されているため、各ギヤに対する軸部の同軸度は優れ、円滑な回転動作を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態を図面に基いて説明する。図1に示すように、モータ1の回転軸2の周りには、その回転軸2に平行して入力部材3が設けられている。
【0015】
入力部材3は、モータ1の回転軸2に設けられたピニオン4に噛合する入力ギヤ3aと、その入力ギヤ3aの軸方向の両端面に一体に設けられた一対の軸部3b,3cとからなり、上記一対の軸部3b,3cは、軸受5,6によって回転自在に支持されている。入力ギヤ3aはピニオン4より大径とされ、上記ピニオン4の回転が入力ギヤ3aに減速して伝達されるようになっている。
【0016】
入力部材3と同軸上には出力部材7が対向配置されている。出力部材7は、出力ギヤ7aと、その出力ギヤ7aの軸方向の両端面に一体に設けられた一対の軸部7b,7cとを有し、入力部材3側に位置する一方の軸部7cの軸端には小径軸部7dが一体に設けられている。
【0017】
出力部材7の一対の軸部7b,7cは、軸受8,9によって回転自在に支持されている。また、出力部材7の出力ギヤ7aは、その出力ギヤ7aより大径の被駆動ギヤ10と噛合し、出力ギヤ7aの回転が被駆動ギヤ10に減速して伝達されるようになっている。
【0018】
入力部材3と出力部材7の対向面間には、クラッチ11が組込まれている。図1および図2に示すように、クラッチ11は、静止部材としてのクラッチハウジング12と、そのクラッチハウジング12内に組込まれたクラッチディスク13とから成り、クラッチハウジング12は固定の配置とされ、その内周には円錐形のクラッチ面14が設けられている。
【0019】
クラッチディスク13は、上記クラッチ面14に対して摩擦係合される円錐面15を外周に有している。このクラッチディスク13は、出力部材7の小径軸部7dに嵌合され、その嵌合面間に形成されたスプライン16により小径軸部7dに回り止めされ、かつ軸方向にスライド自在とされている。
【0020】
ここで、スプライン16は、角形スプラインであってもよく、インボリュートスプラインであってもよい。円滑な回転力を伝達するためには、インボリュートスプラインを用いるのが好ましい。
【0021】
クラッチディスク13は、出力部材7の軸部7cとの間に組込まれた弾性部材17によってクラッチ面14と摩擦係合する方向に付勢されている。
【0022】
クラッチディスク13と入力部材3の軸部3bの相互間には、入力部材3の回転によりクラッチディスク13を摩擦係合が解除される位置まで軸方向に変位させたのち、入力部材3の回転をクラッチディスク13に伝達する推進カム手段18が設けられている。
【0023】
図2乃至図4に示すように、推進カム手段18は、軸部3bとクラッチディスク13の対向面に周方向の両端に向けて溝深さが次第に浅くなる対向一対のカム溝19a,19bを周方向に間隔おいて設け、そのカム溝19a,19b間にボール20を組込み、クラッチディスク13に対する入力部材3の相対回転により、ボール20でクラッチディスク13を軸方向に押すと共にボール20を介して入力部材3の回転をクラッチディスク13に伝えるようにしている。
【0024】
実施の形態で示す動力伝達装置は上記の構造からなり、モータ1を駆動すると、その回転はピニオン4および入力ギヤ3aを介して入力部材3に伝達され、入力部材3が減速回転すると共に、入力部材3がクラッチディスク13に対して相対回転する。
【0025】
入力部材3とクラッチディスク13の相対回転により、推進カム手段18の対向一対のカム溝19a,19bが図4(ロ)に示すように周方向に位置がずれるため、クラッチディスク13はボール20で押され、弾性部材17の弾性に抗して軸方向に移動する。
【0026】
図2(ロ)に示すように、クラッチディスク13がクラッチ面14に対して摩擦係合が解除される位置まで移動すると、入力部材3の回転がクラッチディスク13に伝達されて出力部材7が回転し、その出力部材7の回転が出力ギヤ7aを介して被駆動ギヤ10に伝達され、被駆動ギヤ10が減速回転する。
【0027】
このため、被駆動ギヤ10の回転を、例えば、パワーシートのピニオンに伝達することによって、シートを前後方向に位置調整することができる。
【0028】
シートの位置調整後に、そのシートからピニオンおよび被駆動ギヤ10を介して出力部材7に逆入力が負荷されると、弾性部材17の押圧によりクラッチディスク13が入力部材3に向けて移動し、図2(イ)に示すようにクラッチディスク13がクラッチ面14に摩擦係合する。その摩擦係合によって出力部材7はロックされ、出力部材7から入力部材3への逆入力の伝達が遮断される。
【0029】
実施の形態で示す動力伝達装置のように、出力部材7に形成された出力ギヤ7aによって被駆動ギヤ10を減速回転させることにより、被駆動ギヤ10から出力部材7に負荷される逆入力の低減化を図ることができ、逆入力遮断用のクラッチ11として小型のものを採用することができる。
【0030】
また、ピニオン4によって入力部材3の入力ギヤ3aを減速回転すると共に、出力部材7の出力ギヤ7aによって被駆動ギヤ10を減速回転することによって、モータ1の駆動回転力の低減化を図ることができ、モータ1として小型のものを採用することができる。
【0031】
さらに、入力ギヤ3aに一体に設けられた一対の軸部3b,3cを軸受5,6によって回転自在に支持すると共に、出力ギヤ7aに一体に設けられた一対の軸部7b,7cを軸受8,9によって回転自在に支持することによって、入力ギヤ3aおよび出力ギヤ7aに負荷されるラジアル荷重を各軸受で支持することができる。このため、入力ギヤ3aおよび出力ギヤ7aの回転が阻害されるようなことはなく、円滑な回転動作を得ることができる。
【0032】
実施の形態では、逆入力遮断用のクラッチ11として、円すいクラッチを示したが、クラッチはこれに限定されるものではない。例えば、噛合いクラッチを採用してもよい。
【0033】
また、推進カム手段18として、カム溝19a,19bとボール20とから成るものを示したが、カム溝19a,19bとボール20に代えて、入力部材3とクラッチディスク13の対向面の一方にV形のカム突起を形成し、他方にV形のカム溝を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明に係る動力伝達装置の実施の形態を示す縦断正面図
【図2】(イ)は、図1のクラッチ部を拡大して示す断面図、(ロ)は、クラッチの係合解除状態を示す断面図
【図3】図2(イ)のIII−III線に沿った断面図
【図4】(イ)は、推進カム手段の断面図、(ロ)は、推進カム手段の作動状態を示す断面図
【符号の説明】
【0035】
1 モータ
2 回転軸
3 入力部材
3a 入力ギヤ
3b 軸部
3c 軸部
4 ピニオン
5 軸受
6 軸受
7 出力部材
7a 出力ギヤ
7b 軸部
7c 軸部
8 軸受
9 軸受
10 被駆動ギヤ
11 クラッチ
12 クラッチハウジング(静止部材)
13 クラッチディスク
17 弾性部材
18 推進カム手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータによって回転される入力部材と、その入力部材と同軸上に対向配置された出力部材と、前記出力部材に回り止めされ、かつスライド自在に支持されたクラッチディスクを有し、そのクラッチディスクの入力部材に向けての移動により静止部材と出力部材とを結合して出力部材をロックするクラッチと、そのクラッチのクラッチディスクを入力部材に向けて付勢する弾性部材と、前記入力部材とクラッチディスクの対向部間に設けられ、前記入力部材の回転によりクラッチディスクを結合解除位置まで軸方向に変位させた後にそのクラッチディスクを回転させる推進カム手段とから成る動力伝達装置において、
前記入力部材が、モータの回転軸に取付けられたピニオンに噛合して、そのピニオンにより減速回転される入力ギヤの両端面に一対の軸部を一体に設けた構成とされ、その一対の軸部を軸受によって回転自在に支持し、前記出力部材が、被駆動ギヤを減速回転する出力ギヤの両端面に一対の軸部を一体に設けた構成とされ、その一対の軸部を軸受によって回転自在に支持したことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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