説明

動力伝達装置

【課題】回転機器の回転軸に螺合により結合される動力伝達装置において、前記螺合による結合部に対する封止の信頼度を高める。
【解決手段】本発明による動力伝達装置は、プーリ(1)と、このプーリ(1)に連結されるハブ(2)とを具備し、ハブ中心穴(23c)に形成された雌ねじ部(23f)を回転軸(4)の雄ねじ部(4b)に螺合することによって回転軸(4)に結合され、またハブ中心穴(23c)を封止するシール部材(5)を更に具備する。シール部材(5)が、回転軸(4)の先端部(4a)に嵌着される嵌着穴(5a)を有する固定部(5b)と、半径方向に延在する鍔状部(5c)にして、ハブ中心穴(23c)を囲繞する当接シール部をハブ(2)との間に形成するようにされた鍔状部(5c)とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転力を伝達する動力伝達装置に関するものであり、特に車両用空調装置の常時運転型圧縮機に適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
圧縮機に動力を伝達するプーリ及びハブからなる動力伝達装置において、ハブを圧縮機の回転軸に螺合させて連結するタイプのものが、特許文献1で知られている。この種の動力伝達装置は、圧縮機が焼き付を起こした際にベルト等を保護するためのトルクリミッタをハブ側に備えている。この動力伝達装置では、過大トルクが前記ハブと回転軸の螺合構造により過大軸力に変換されて、その軸力でトルクリミッタの脆弱部を破断するように構成されている。また特許文献1の動力伝達装置では、螺合するネジ部の摩擦係数を一定にしてトルクリミッタの作動を安定化するために表面処理が施されたり油脂類が前記ネジ部に塗布されたりするので、外部よりネジ部に水分やゴミ等が浸入するのを防ぐため又は油脂類の流出又は蒸発を抑制するために、及び更に回転軸の先端部の腐食を防ぐためにシール手段が配設されている。
【0003】
図13は、特許文献1の第6実施形態の動力伝達装置に同等なものの要部の縦断面図であり、この図に示されるように、シール手段500は、有底円筒状を呈していて、回転軸400の先端部400aを覆うようにトルクリミッタ(リミッタ部)230の中心穴230cに圧入されて嵌着される。
【0004】
しかしながら、図13に示される従来技術による動力伝達装置のシール手段500は、リミッタ部230の中心穴230cに圧入されるので、圧入時にシール手段500の外周面に傷が付いてシール機能が損なわれることがあった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−153258公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した従来技術の課題に鑑みてなされたもので、その目的は、回転機器の回転軸に螺合により結合される動力伝達装置において、前記螺合による連結部に対する封止の信頼度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を達成するための技術的手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載の動力伝達装置を提供する。
【0008】
請求項1に記載の動力伝達装置は、回転軸(4)を有する回転機器のケーシング(7)に回転可能に装着されるプーリ(1)と、プーリ(1)との間でトルクを伝達するように、プーリ(1)に連結されるハブ(2)とを具備し、回転軸(4)は回転機器のケーシング(7)より外部に突出した部分に形成された雄ねじ部(4b)を有し、ハブ(2)は、該ハブの軸心に沿って貫通形成されて雌ねじ部(23f)を有するハブ中心穴(23c)を備え、雌ねじ部(23f)を回転軸(4)の雄ねじ部(4b)に螺合することによって回転軸(4)に結合される、動力伝達装置であって、ハブ中心穴(23c)を封止するシール部材(5)を更に具備し、シール部材(5)が、回転軸(4)の先端部(4a)に嵌着される嵌着穴(5a)を有する有底円筒状の固定部(5b)と、固定部(5b)から半径方向に延在する鍔状部(5c)にして、ハブ中心穴(23c)を囲繞する当接シール部をハブ(2)との間に形成するようにされた鍔状部(5c)とからなる。これにより、当接シール部は鍔状部(5c)とハブ(2)とにより形成され、回転軸(4)へのシール部材(5)の嵌着は固定部(5b)によりなされるので、嵌着圧入時に固定部(5b)に傷が付いたとしてもハブ中心穴(23c)に対する封止性が損なわれることがない、信頼度の高い封止構造を得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の動力伝達装置は、ハブ中心穴(23c)が開口しているハブ(2)の端面(23h)にシール部材(5)の鍔状部(5c)が当接することにより当接シール部が形成されることを特徴としている。これにより、ハブ(2)側及びシール部材(5)側共に単純な構造で当接シール部を形成することができるので安価で信頼度の高い封止構造を得ることができる。
【0010】
請求項3及び4に記載の動力伝達装置は、当接シール部を形成する鍔状部(5c)の面(5d)又はハブの端面(23h)に少なくとも一本の環状のラビリンス溝を有するので、より高い封止性を得ることができる。
【0011】
請求項5に記載の動力伝達装置は、シール部材(5)が回転軸(4)の先端部(4a)に嵌着されるとき、シール部材(5)の鍔状部(5c)の外周縁部が先にハブ(2)の端面(23h)に接触するように、鍔状部(5c)が傾斜しているので、鍔状部(5c)の弾性的なたわみを積極的に利用した封止構造を実現でき、その結果、当接シール部の当接圧力を高めること及びシール部材(5)及びハブ(2)の寸法誤差の吸収可能範囲を広げることができるのでより高い封止性を得ることができる。
【0012】
請求項7に記載の動力伝達装置は、シール部材(5)の鍔状部(5c)が、該鍔状部(5c)の外周縁部において軸方向に延びる円筒部(5e)を有し、ハブ中心穴(23c)が開口している端面(23h)の外周縁から軸方向に延在する外周面をハブ(2)が有し、シール部材(5)の円筒部(5e)の内周面(5f)がハブ(2)の外周面に当接することにより当接シール部が形成される。これにより、円筒部はハブ(2)の外周面に冠着して当接シール部を形成するので、この当接シール部を破壊するように作用する外部及び内部からのより大きい圧力に耐え得ることができる。
【0013】
請求項9に記載の動力伝達装置は、ハブ(2)が、過大トルクの伝達を遮断するリミッタ部(23)を該ハブ(2)の中心部に具備し、ハブ中心穴(23c)がリミッタ部(23)に形成される。本発明は、ハブ(リミッタ部)と回転軸(4)の螺合部の摩擦係数を安定化するためにハブ中心穴(23c)の封止が求められるこのようなトルクリミッタ機能を有するハブ(2)に適用して特に好適である。
【0014】
本発明の動力伝達装置は、シール部材(5)の有底円筒状の固定部(5b)が、回転軸(4)の先端部(4a)に代えてハブ中心穴(23c)に嵌着されても、前述されたものと同様の効果を得ることができる。
【0015】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施例に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の第1の実施例について図面を参照しながら説明する。本発明の動力伝達装置は、車両用空調装置の圧縮機に組み付けて用いるのに好適なものであり、以下の説明では、圧縮機に組み付けられたものとして説明するが、本発明の動力伝達装置は圧縮機以外の回転機器にも適宜利用可能である。図1は本発明の第1の実施例に係る動力伝達装置の縦断面図であり、図2は図1の要部の拡大図である。
【0017】
本発明の動力伝達装置は、エンジンや電動機から駆動力を得る駆動側回転部材であるプーリ1と、プーリに凹凸嵌合により結合されると共に圧縮機の回転軸4に固定される被駆動側回転部材であるハブ2とを具備し、回転軸4へ動力(トルク)を伝達するものである。また本発明による動力伝達装置は、回転軸4の先端に装着されるシール部材5を更に具備している。なお、プーリ1、ハブ2、及びシール部材5は同軸に設けられる。
【0018】
図1に示されるように、本実施例のプーリ1は、外周部にベルト(図示せず)が掛けられて動力を受けるリム部1aと、軸受6を保持すると共にプーリ1の剛性を高めるために円環状に軸方向に延びる環状リブ部1bと、リム部1aと環状リブ部1bとを連結する円板部1cと、リム部1aとほぼ同一外径で円板部1cよりもフロント側に形成された円筒部1dとを有している。プーリ1は、圧縮機のケーシング7の一端側に設けられたボス部7aに軸受6及びスリーブリング付き留輪8を介して回転可能に装着されている。このプーリ1は、好適には熱硬化性の合成樹脂で成形されており、通常はプーリ1とスリーブリング付き留輪8と軸受6はインサート成形により一体化している。プーリ1のリム部1aの外周面にはベルト(図示せず)が巻き掛けられ、プーリ1はエンジンや電動機等の外部からの動力によって回転する。軸受6は、ボス部7aの外周面に形成された溝に嵌め込まれたスリーブリング付き留輪8(スナップリング)と、ボス部7aの端部およびスリーブリング付き留輪8内に嵌め込まれたリング部材9とによって、軸方向の移動が阻止されている。また、ケーシング7と回転軸4とは、軸封装置によって密封されており、冷媒やオイル等が外部に漏れるのを防止している。この軸封装置もまた、ボス部の内周面に形成された溝に嵌め込まれた別の留輪(スナップリング)によって軸方向の移動が阻止されている。
【0019】
圧縮機の回転軸4は、ケーシング7から図2のフロント側へ突出しており、先端側から順に、比較的小径の先端部4a、外周に雄ねじが形成された雄ねじ部4b、ねじ山のない中間軸部4d、及び最も大径の大径軸部4cを有している。中間軸部4dには座金10が挿入され、座金10は中間軸部4dと大径軸部4cとの間に形成される段部とハブ2のリア側の面との間で挟み込まれている。なお、この第1の実施例では先端部4aの横断面形状は円形である。
【0020】
次にハブ2について説明すると、ハブ2は、インナーハブ21と、そのインナーハブ21の外周に接着等の手段により接合されたゴム等の弾性材料から形成されたトルク伝達及び緩衝用のアウターハブ22と、インナーハブ21の内周側に取り付けられるトルクリミッタ機能を有するリミッタ部23とから構成されている。なお、前記トルクリミッタ機能は、圧縮機の焼き付き等に起因する過大トルクからベルト等を保護することを目的としている。インナーハブ21は、リミッタ部23の小径軸部23bが挿入される挿通穴21cをその中心に有していて、そのフロント側の端面には、リミッタ部23の六角形フランジ部23aを嵌め込むことのできるハブ円形凹部21dが形成されている。
【0021】
リミッタ部23は大径の六角形フランジ部23aと小径の小径軸部23bとを有する段付き形状を呈しており、前記フランジ部23aのフロント側端面の中心には円形凹部23dと貫通穴であるハブ中心穴23cとが形成されている。ハブ中心穴23cはフロント側の非ねじ部23eとリア側の雌ねじ部23fとを有している。またフランジ部23aと小径軸部23bとの移行部に、環状切欠き部23gが設けられている。この環状切欠き部23gは、リミッタ部23に過大なトルクが作用したとき、その過大トルクに基づく軸力によって破断するように形作られている。
【0022】
アウターハブ22は、おおむね円筒状を呈していて、その外周に形成されたハブ側凹凸部22fと、インナーハブ21との接合のために中心に形成された接合穴とを有している。アウターハブ22のハブ側凹凸部22fは、ハブの軸心を中心に円環状に配置された一連の凹凸部からなるもので、プーリ1の前記円筒部1dの内周面に形成された一連の凹凸部からなるプーリ側凹凸部1eに嵌合するように形成されている。
【0023】
ハブ2を回転軸4側に固定するときには、前記ハブ円形凹部21dにリミッタ部23の六角形フランジ部23aを嵌め込んでからリミッタ部23のハブ中心穴23cに形成された雌ねじ部23fを回転軸4の雄ねじ部4bに螺合させる。このときインナーハブ21はリミッタ部23のフランジ部23aから力を受けてリア側の座面21eが座金10のフロント側端面に押し付けられることにより回転軸4に間接的に固定され、その結果ハブ2が全体として回転軸4に固定される。本実施例の動力伝達装置は上述したように構成されているので、プーリ1からハブ2を介して回転軸4へトルクを伝達することができる。
【0024】
また、リミッタ部23を回転軸4にねじ込む際には、通常、前記雌ねじ部23f及び雄ねじ部4bに油脂等が塗布される。このように油脂等を塗布することにより、ねじ部23f、4bにおける摩擦係数が低下すると共に安定化することにより環状切欠き部23gを破断させるトルクのばらつきを抑えることができる。
【0025】
次に、第1の実施例の動力伝達装置のシール部材5について図2並びに該シール部材5の縦断面図及びリア側の側面図を含む図3を参照して説明する。シール部材5は、回転軸4の先端部4aに嵌着される嵌着穴5aを有する有底円筒状の固定部5bと半径方向に鍔状に延びる鍔状部5cとから一体に構成されている。嵌着穴5aは回転軸4の先端部4aに対応して円形横断面を有すると共に、先端部4aの外径よりわずかに小径の内径を有している。従って固定部5bを先端部4aに装着するとき、嵌着穴5aはわずかに拡径した状態で先端部4aに圧入されてそれに保持される。鍔状部5cは、その外径がリミッタ部23の円形凹部23dに嵌合する大きさで形作られている。なお、この実施例のシール部材5は、ゴム状の弾性材料より作られているが、金属又は合成樹脂材料から作られてもよく、またこのことは後述する第2〜7の実施例のシール部材についても同様である。
【0026】
シール部材5は、その固定部5bが回転軸4の先端部4aに対して所定の位置まで挿入されて嵌着されたとき、鍔状部5cのリア側の面5dが、リミッタ部23の円形凹部23dの底面23hに当接するように形成されている。前記底面23hにはハブ中心穴23cが開口しており、シール部材5が回転軸4に装着されたとき、鍔状部5cと底面23hとの間にハブ中心穴23cを囲繞する当接シール部が形成されて前記ハブ中心穴23cが封止される。なお、本発明において円形凹部23dは必須ではなく、ハブ中心穴23cが開口する端面が円形凹部23dを有さない平坦な面であってもよい。
【0027】
次に第2の実施例の動力伝達装置について説明する。第2の実施例の動力伝達装置は、そのシール部材が第1の実施例におけるシール部材5と以下に述べる点で異なるが他の構成要素は同一である。本実施例のシール部材5は、その縦断面図である図4に示されるように、第1の実施例におけるシール部材5と同様に、回転軸4の先端部4aに嵌着される有底円筒状の固定部5bと、リミッタ部23のフロント側の端面23hに当接する鍔状部5cとを具備している。ただし、鍔状部5cのリア側の面5dに3本の環状のラビリンス溝5gが同芯状に形成されていることが第1の実施例の場合のシール部材5と異なる。この実施例におけるシール部材5では前記ラビリンス溝5gが封止効果をより高める。なお、本発明においてはラビリンス溝5gの数量は3本に限定されるものではなく1本以上であればよい。
【0028】
次に第2の実施例の動力伝達装置の変更例について説明する。この変更例では、リミッタ部23とシール部材5との縦断面図である図5に示されるように、シール部材5は第1の実施例のものと同様であるが、リミッタ部23の円形凹部23dの底面23h、すなわちシール部材5のリア側の面5dが当接する面に3本の環状のラビリンス溝23jが同芯上に形成される。
【0029】
次に第3の実施例の動力伝達装置のシール部材5をその縦断面図である図6を参照して説明すると、このシール部材5は第1の実施例の場合と同様に鍔状部5cと有底円筒状の固定部5bを有しているが、鍔状部5cは、その外周縁部がリア側に位置するように傾斜している。したがって、シール部材5が回転軸4の先端部4aに挿入されるとき、鍔状部5cの外周縁部が先にリミッタ部23dの円形凹部の底面23hに接触する。また、シール部材5が回転軸4に対して所定の位置まで挿入されて嵌着されたとき、鍔状部5cは弾性変形の範囲で所定のたわみを得られるようにその傾斜角度及び断面係数等が定められている。したがって、シール部材5が先端部4aに所定位置まで挿入されたとき、鍔状部5cの当接部は前記たわみに対応した力に基づいて前記リミッタ部23の端面23hに圧力を加えることとなる。
【0030】
第3の実施例の動力伝達装置のシール部材5の更に別の変更例をその縦断面図である図7を参照して説明すると、このシール部材5は、第3の実施例のシール部材5の鍔状部5cの根元、すなわち固定部5bと鍔状部5cとの移行部に、応力集中を緩和するための根元R部5hを有している。
【0031】
次に第4の実施例の動力伝達装置について、その要部の縦断面図である図8を参照して説明する。本実施例の動力伝達装置のハブ2のリミッタ部23は、前述の実施例のリミッタ部23と同様に雌ねじ部23fが形成されたハブ中心穴23cを備えているが、円形凹部23dを有していない。その代わりにこのリミッタ部23では、ハブ中心穴23cが開口するフロント側の端面23hが周囲に対して円形に突出して、その結果円形凸部23iが形成される。また、本実施例のシール部材5は、第1の実施例におけるシール部材5と同様に、回転軸4の先端部4aに嵌着される嵌着穴5aが形成された有底円筒状の固定部5bと半径方向に鍔状に延びる鍔状部5cとを具備しているが、鍔状部5cはその外周縁部において軸方向に延びる円筒部5eを有している。この円筒部5eは、その内径がリミッタ部23の円形凸部23iの外径よりわずかに小径であるように形成されている。
【0032】
このように構成されているので、シール部材5の固定部5bが回転軸4の先端部4aに対して所定の位置まで挿入されて嵌着されたとき、円筒部5eの内周面5fがリミッタ部23の円形凸部23iの外周面に当接することにより当接シール部が形成されてハブ中心穴23cが封止される。
【0033】
次に前述の第4の実施例の変更例のシール部材をその縦断面図である図9を参照して説明すると、このシール部材は円筒部5eの内周面5fが円形凸部の外周面に当接する比較的小径の第1内周面5f1と、当接しない比較的大径の第2内周面5f2とから構成されており、第1内周面5f1は第2内周面5f2よりも円筒部5eの自由端側に位置している。
【0034】
次に第5の実施例の動力伝達装置のシール部材5について図10を参照して説明する。第5の実施例のシール部材5は、外観形状は前述の第1の実施例のシール部材5と同様に有底円筒状の固定部5bと半径方向に鍔状に延びる鍔状部5cとから一体に構成されている。ただし、第5の実施例のシール部材5の固定部5bは、回転軸4の先端部4aではなくリミッタ部23のハブ中心穴23cの非ねじ部23eに嵌着されるように、前記非ねじ部23eの内径よりわずかに大きい固定部5bの外径を有している。またシール部材5の固定部5bの嵌着穴5aは、その内径が回転軸の先端部4aの外径より大であるように形成されていて、嵌着穴5aと先端部4aは接触しない。このように構成されているので、シール部材5がハブ中心穴23cに嵌着されたとき、鍔状部5cは円形凹部23dの底面hとの間に、ハブ中心穴23cを囲繞する当接シール部を形成して前記ハブ中心穴23cを封止する。
【0035】
本発明においては、第5の実施例におけるシール部材5の鍔状部5cを第3の実施例のシール部材5の鍔状部5cと同様に傾斜させたり、第4の実施例におけるシール部材5と同様に円筒部5eを設けて当接シール部を形成することが可能である。
【0036】
次に、第6の実施例の動力伝達装置のシール部材5をその縦断面図とリア側の側面図を含む図11を参照して説明する。本実施例のシール部材5は鍔状部5c及び有底円筒状の固定部5bを第1の実施例の場合と同様に具備している。ただし、嵌着穴5aの横断面形状は正六角形であり、これは本実施例の場合回転軸4の先端部4aの横断面形状が正六角形であるためである。嵌着穴5aの正六角形は、嵌着穴5aが先端部4aに嵌着可能であるように、先端部4aの正六角形よりわずかに小さなサイズを有している。
【0037】
次に、第7の実施例の動力伝達装置のシール部材5をその縦断面図とリア側の側面図を含む図12を参照して説明する。本実施例のシール部材5の嵌着穴5aの横断面形状は正方形であり、これは本実施例の場合回転軸4の先端の先端部4aの横断面形状が正方形であるためである。嵌着穴5aの正方形は、嵌着穴5aが先端部4aに嵌着可能であるように、先端部4aの正方形よりわずかに小さなサイズを有しており、また正方形の互いに隣接する辺は、四隅への応力集中を緩和するために、この正方形の幅より外側に突出した円弧5iによって接続されている。
【0038】
シール部材5の嵌着穴5aの横断面形状は、第6及び第7の実施例では正六角形及び正方形であったが、本発明においては、他の正多角形又は多角形の横断面形状も可能であり、また前記円弧5iを有さない第7の実施例の変更例も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施例に係る動力伝達装置の縦断面図である。
【図2】図1の要部の拡大図である。
【図3】第1の実施例に係る動力伝達装置のシール部材の縦断面及び側面を表す図である。
【図4】第2の実施例に係る動力伝達装置のシール部材の縦断面図である。
【図5】第2の実施例に係る動力伝達装置の変更例のシール部材及びリミット部の縦断面図である。
【図6】第3の実施例に係る動力伝達装置のシール部材の縦断面図である。
【図7】第3の実施例の変更例のシール部材の縦断面図である。
【図8】第4の実施例に係る動力伝達装置の要部の縦断面図である。
【図9】第4の実施例の変更例のシール部材の縦断面図である。
【図10】第5の実施例に係る動力伝達装置の要部の縦断面図である。
【図11】第6の実施例に係る動力伝達装置のシール部材の縦断面及び側面を表す図である。
【図12】第7の実施例に係る動力伝達装置のシール部材の縦断面及び側面を表す図である。
【図13】従来の動力伝達装置の要部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 プーリ
2 ハブ
4 回転軸
4a 先端部
4b 雄ねじ部
5 シール部材
5a 嵌着穴
5b 固定部
5c 鍔状部
7 ケーシング
21 インナーハブ
23 リミッタ部
23c ハブ中心穴
23f 雌ねじ部
23h 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(4)を有する回転機器のケーシング(7)に回転可能に装着されるプーリ(1)と、
前記プーリ(1)との間でトルクを伝達するように、前記プーリ(1)に連結されるハブ(2)と、を具備し、
前記回転軸(4)は前記回転機器の前記ケーシング(7)より外部に突出した部分に形成された雄ねじ部(4b)を有し、
前記ハブ(2)は、該ハブの軸心に沿って貫通形成されて雌ねじ部(23f)を有するハブ中心穴(23c)を備え、前記雌ねじ部(23f)を前記回転軸(4)の前記雄ねじ部(4b)に螺合することによって前記回転軸(4)に結合される、動力伝達装置であって、
前記ハブ中心穴(23c)を封止するシール部材(5)を更に具備し、
前記シール部材(5)が、前記回転軸(4)の先端部(4a)に嵌着される嵌着穴(5a)を有する有底円筒状の固定部(5b)と、前記固定部(5b)から半径方向に延在する鍔状部(5c)にして、前記ハブ中心穴(23c)を囲繞する当接シール部を前記ハブ(2)との間に形成するようにされた鍔状部(5c)とからなることを特徴とする、動力伝達装置。
【請求項2】
前記ハブ中心穴(23c)が開口している端面(23h)に前記シール部材(5)の前記鍔状部(5c)が当接することにより前記当接シール部が形成されることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記シール部材(5)が、前記当接シール部を形成する前記鍔状部(5c)の面(5d)に少なくとも一本の環状のラビリンス溝(5g)を有することを特徴とする、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ハブ(2)が、前記当接シール部を形成する前記端面(23h)に少なくとも一本の環状のラビリンス溝(23j)を有することを特徴とする、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記シール部材(5)が前記回転軸(4)の先端部(4a)に嵌着されるとき、前記シール部材(5)の前記鍔状部(5c)の外周縁部が先に前記ハブ(2)の前記端面(23h)に接触するように、前記鍔状部(5c)が傾斜していることを特徴とする、請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記固定部(5b)と前記鍔状部(5c)との移行部に、応力集中を緩和する根元R部(5h)が形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記シール部材(5)の前記鍔状部(5c)が、該鍔状部(5c)の外周縁部において軸方向に延びる円筒部(5e)を有し、
前記ハブ中心穴(23c)が開口している端面(23h)の外周縁から軸方向に延在する外周面を前記ハブ(2)が有し、
前記シール部材(5)の円筒部(5e)の内周面(5f)が前記ハブ(2)の前記外周面に当接することにより前記当接シール部が形成されることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記シール部材(5)の前記円筒部(5e)の前記内周面(5f)が、前記ハブ(2)の外周面に当接する比較的小径の第1内周面(5f1)と、前記ハブ(2)の外周面に当接しない比較的大径の第2内周面(5f2)とから構成され、前記第1内周面(5f1)が第2内周面(5f2)よりも前記円筒部(5e)の自由端側に形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記ハブ(2)が、過大トルクの伝達を遮断するリミッタ部(23)を該ハブ(2)の中心部に具備し、
前記ハブ中心穴(23c)が前記リミッタ部(23)に形成されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記シール部材(5)の前記固定部(5b)が、前記回転軸(4)の前記先端部(4a)に代えて前記ハブ中心穴(23c)に嵌着されるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項11】
前記回転軸(4)の先端部(4a)の横断面形状が六角形であり、
前記シール部材(5)の前記固定部(5b)の前記嵌着穴(5a)の横断面形状は、前記固定部(5b)が前記回転軸(4)の前記先端部(4a)に嵌着するように六角形であることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項12】
前記回転軸(4)の先端部(4a)の横断面形状が矩形であり、
前記シール部材(5)の前記固定部(5b)の前記嵌着穴(5a)の横断面形状は、前記固定部(5b)が前記回転軸(4)の前記先端部(4a)に嵌着するように矩形であるとともに、該矩形の互いに隣接する辺が、該矩形の長さ及び幅より外側に突出した円弧(5i)によって接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−281143(P2008−281143A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127036(P2007−127036)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】