説明

動画性能評価装置

【課題】種々の表示方式のディスプレイの動画性能を的確にかつ効率よく評価できる動画性能評価装置を提供する。
【解決手段】評価対象のディスプレイ1に標識画像2を表示させるディスプレイドライバ3と、標識画像2を撮影するカメラ4と、カメラ4を移動および/または回転させるカメラムーバ5と、ディスプレイドライバ3、カメラ4、およびカメラムーバ5を同期制御して標識画像2を所定の動画速度Vで移動させ該移動中の標識画像2にカメラ中心10を当てて眼の積分時間よりも長い時間に相当する所定の撮影時間(シャッタスピード)で撮影する撮影制御器6とを有してなる装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイの動画性能を評価する動画性能評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイにおいて動画性能は重要である。LCD(液晶ディスプレイ)では液晶の応答速度遅延のため動画性能が悪くなることが問題となっている(非特許文献1,2)。またLCDのようなホールド型ディスプレイでは、応答速度を十分速くしてもCRTのようなインパルス型ディスプレイに比較し動画性能が劣ることが指摘されている(非特許文献3,4)。このため、ホールド型である従来LCDを点滅バックライト等と組み合わせることによりインパルス型駆動とする検討も行われている(非特許文献5,6)。高透過率、高解像度を実現できることで注目されているFS(フィールドシーケンシャル方式)−LCDにおいてはカラーブレイクによる動画性能の劣化が報告されている(非特許文献7,8)。液晶の応答速度遅延による動画性能の劣化は画像がボケるといった現象であり、FS−LCDのカラーブレイクによる動画性能の劣化は画像のRGBが色割れするといったものであり、これらの現象によりディスプレイの表示品位が低下してしまう。なお、非特許文献9,10は後に参考として引用するためここに挙げた。
【非特許文献1】T.Uchida: 第26回画像工学コンファレンス,p.211(1995)
【非特許文献2】Y.Yamaguchi,T.Miyashita,T.Uchida,p.277,SID'93(1993)
【非特許文献3】S.Ishiguro,S.Kurita,Technical Report of IEICE,EID96-4,p19,1996
【非特許文献4】Saito,Kurita,映像学技法,Vol.22,No.17,p19,1998
【非特許文献5】K.Sueoka,H.Nakamura,Y.Taira,IDRC1997,p203,1997
【非特許文献6】H.Nakamura,p37,IDW'99(1999)
【非特許文献7】K.Taira,T.Saishu,R.Tsuda,N.Matsuda,K.Suzuki,T.Nishimura,IDW00,p73,2000
【非特許文献8】T.Kurita,T.Kondo,IDW00,p69,2000
【非特許文献9】J.E.HohSightberg,Translator:Y.Uemura “Sight ”,Iwanami print Co.Ltd,1981
【非特許文献10】大山他,‘新編 感覚知覚ハンドブック’,pp.102-4,誠信書房,1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように動画性能はディスプレイにとって重要な特性であるが、その評価方法が確立されていないのが現状である。そのため、LCDの動画性能の評価は、液晶の応答速度を測定することにより代用されている。しかしながらこのような方法では、応答速度の測定結果と実際のディスプレイにおける動画性能の劣化との対応がつきにくい中間調に対しての評価も含めると、情報量が多く、測定にも莫大な時間を要するといった問題がある。また、この方法では、ホールド型、インパルス型、FS−LCDでのカラーブレイクも含めた動画性能の評価は不可能である。
【0004】
本発明は、前記従来技術の問題を解決し、種々の表示方式のディスプレイの動画性能を的確にかつ効率よく評価できる動画性能評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、肉眼による動画の視認像を再現しうる画像情報が得られればそれを解析することで前記目的を達成できると考え、さらに、そのような画像情報を得るためには、以下に概説する眼の追従運動と応答特性を模すことのできる装置構成とすればよいことに想い到り、本発明をなすに至った。
(眼の追従運動)
動いている対象を見るとき、眼は巧妙な追従運動によって、対象に視線を固定させるよう、眼を滑らかに回転させている。そして補償運動により、身体が動くときでも対象に視線を固定させることができる。さらに調整(眼の焦点位置を自律調整)と輻輳(眼の回転角度位置を両眼で同時かつ相互補完的に自律調整)により、注目している対象がはっきりと焦点を結び、網膜の中心(中心窩)に位置づけられる(非特許文献9)。そして、この追従運動は対象物の移動速度が視角速度でほぼ30deg/s 以下のとき良好に行われる(非特許文献3)。なお、視角速度=Tan -1(視対象移動速度の視線直角方向成分/視距離)である。
【0006】
(眼の応答特性)
ある程度以下の輝度であれば、数十ms以下の短時間の光刺激はほぼ完全に積分される(非特許文献10)。図2に示すように、十分に短時間の光刺激が眼に入った場合、眼の感度は最初徐々に立ち上がり、一定の感度が数十ms持続する。この一定の時間は、1/CFF(CFF:臨界フリッカ周波数=ちらつきが見え始める周波数)と考えられる。その後感度が低下していく。すなわち、眼は短時間の光刺激を網膜上の各点で図2に示す感度の面積の範囲で完全に積分する時間積分効果を有すると考えられている(非特許文献10)。
【0007】
前記目的を達成した本発明は、ディスプレイの動画性能を評価する装置であって、前記ディスプレイに標識画像を表示させるディスプレイドライバと、前記標識画像を撮影するカメラと、該カメラを移動および/または回転させるカメラムーバと、前記ディスプレイドライバ、前記カメラ、および前記カメラムーバを同期制御して前記標識画像を所定の動画速度で移動させ該移動中の標識画像にカメラ中心を当てて眼の積分時間よりも長い時間に相当する所定の撮影時間(シャッタスピード)で撮影する撮影制御器とを有してなることを特徴とする動画性能評価装置(本発明装置)である。
【0008】
前記所定の動画速度の大きさは視角速度で30deg/s 以下が好ましい。前記眼の積分時間は40〜70ms が好ましい。前記カメラのシャッタは透過強度可変のもの(透過強度可変シャッタ、中でもとりわけLCD)が好ましい。透過強度可変シャッタの場合、透過強度変更パターンは、立ち上がり時間=0〜100ms 、一定保持時間=5〜50ms、立ち下がり時間=0〜100ms とするのが好ましい。前記カメラは視野を制限する視野フィルタを有するものが好ましい。
【0009】
前記カメラムーバは、前記カメラを前記ディスプレイの画面に平行でかつ互いに直交する二軸の方向に移動および/または該二軸の回りに回転させるものが好ましい。
前記標識画像は、輝度が空間周期的に変化する明暗パターンをなすものが好ましい。
前記撮影制御器は、前記カメラの撮影結果をデータ処理するものが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業負荷の大きい液晶応答速度測定を行わずとも、容易かつ的確に種々のディスプレイの動画性能を評価できるようになり、加えて、MTFを評価パラメータに用いることができて、さらに簡便でしかもより客観的かつ定量的な評価が可能となるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明装置の1例を示す模式図である。図示のように、本発明装置は、動画性能評価対象のディスプレイ1に標識画像2を表示させるディスプレイドライバ3と、標識画像2を撮影するカメラ4と、カメラ4を移動(回転でもよい)させるカメラムーバ5と、ディスプレイドライバ3、カメラ4、およびカメラムーバ5を同期制御して標識画像2を所定の動画速度Vで移動させ該移動中の標識画像2にカメラ中心10を当てて眼の積分時間よりも長い時間に相当する所定の撮影時間(シャッタスピード)で撮影する撮影制御器6とを有する。
【0012】
なお、7はシャッタ、8はカメラ4とカメラムーバ5を支持するガイドアーム、9はガイドアーム8を支持するスタンドである。シャッタ7は、この例では外付けとしたが、カメラ4に内蔵したものでもよい。
標識画像の外形形状はとくに限定されず、円形、長方形などの各種幾何学図形を適宜用いうる。標識画像のサイズもとくに限定されず、ディスプレイの画面サイズやカメラの視野範囲、対物距離(視距離または視線長ともいう)などを勘案して設定すればよい。
【0013】
カメラは、光学カメラ(フィルムに撮影するもの)、デジタルカメラ、CCD等のいずれも好ましく用いうる。
本発明装置は、上記構成を採用したことにより、カメラ中心を動画(動いている標識画像)に釘付けにした状態で所望のシャッタスピードで動画を撮影することができる。シャッタスピードは眼の感度に対応すると考えられるから、本発明装置によれば、前記した眼の追従運動と応答特性(時間積分効果)を良好に再現すること、すなわち、種々の表示方式のディスプレイについて肉眼による動画視認像に近い状態の撮影画像データを得ることができ、これを解析することで、種々の表示方式の動画性能(像ボケや色割れの程度)を的確にかつ効率よく定量評価できるようになる。
【0014】
本発明装置では、前記所定の動画速度Vの大きさ|V|が視角速度で30deg/s を超えると、前述の肉眼追従性が良いとされている範囲を逸脱することになって肉眼による動画視認像を再現したものとはいえなくなるので、|V|≦30deg/s とするのが好ましい。なお、より好ましくは|V|≦20deg/s である。
また、前記所定のシャッタスピード(シャッタ開時間:tso)は、10〜100ms とするのが好ましい。tsoが10ms未満では感光時間が不足し、tsoが100ms 超では感光時間が過剰となって、適切な撮影像を得難くなるからである。なお、tsoは図2に示した眼の積分時間tW(=40〜70ms)に合わせるのがより好ましい。
【0015】
また、カメラのシャッタは、機械的に開閉するものでもよいが、電圧印加などにより透過強度を変えうるもの(透過強度可変シャッタ)の方が、肉眼の応答性をより良く近似できて好ましい。かかる透過強度可変シャッタとしては、制御応答性に優れるLCDが好適である。また、画像の情報の信号処理をうることによりシャッタと同様の効果を得ることも可能である。
【0016】
シャッタを透過強度可変シャッタとした場合、透過強度変更パターンは、前記時間積分効果を忠実に模擬したもの、すなわち、立ち上がり時間=0〜100ms 、一定保持時間=5〜50ms、立ち下がり時間=0〜100ms となるパターンとするのが好ましい。
ところで、眼の網膜は、中心窩両側の視野角±1deg 程度の範囲にピークをもつ視力分布を有するとされているので、この状態を再現できるように、カメラには、視野を制限する視野フィルタを設けることが好ましい。この視野フィルタは、フィルムの表面に拡散処理をしたもので構成するのが好ましい。また信号処理により同様の効果を実現することも可能である。
【0017】
また、カメラムーバは、カメラ中心を標識画像の動きに追従させるために、カメラをディスプレイの画面に平行でかつ互いに直交する二軸の方向(所謂x方向とy方向)に移動させるか、あるいは該二軸の回り(所謂極角θ方向と方位角φ方向)に回転させるものが好ましい。無論、移動、回転の両方ともできるものでもよい。カメラムーバは周知の機械要素を適宜組み合わせて構成しうる。
【0018】
また、標識画像は、無地(模様なし)のものでも本発明装置による動画撮影写真からボケや色割れの程度を目視評価しうるが、輝度が空間周期的(例えば正弦波状)に変化する明暗パターンをなす標識画像を用いると、MTF(Modulation Transfer Function)による像ボケの定量化が可能となり、より客観性の高い評価ができるようになるので好ましい。すなわち、図3に示すように、明暗パターンを有する原画像を動画化して本発明装置で撮影するとボケが生じた状態の変換後画像が得られる。そこで、画像解析手法を用いて、原画像パターンの振幅(Li0/2)と変換後画像(動画撮影像)パターンの振幅(Lf0/2)の比( Lf0/Li0)で定義されるMTFを測定することにより、動画化による像ボケを定量化することができる。なお、種々のディスプレイの動画性能を評価する場合、パターンの空間周波数Fと動画速度の大きさ|V|を適当な値に固定して求めたMTFの値を比較するのが簡便である。
【0019】
また、撮影制御器は、前記の制御を行うことに加え、カメラの撮影結果をデータ処理する機能をもたせておくと、像ボケやRGBの色割れ程度をより効率よく評価できて好ましい。かかるデータ処理機能は周知の画像解析ソフトウエアあるいはこれをハード化したLSIチップ等を用いて容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明装置の1例を示す模式図である。
【図2】眼の時間積分効果を示す説明図である。
【図3】MTFの定義説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ディスプレイ
2 標識画像
3 ディスプレイドライバ
4 カメラ
5 カメラムーバ
6 撮影制御器
7 シャッタ
8 ガイドアーム
9 スタンド
10 カメラ中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイの動画性能を評価する装置であって、前記ディスプレイに標識画像を表示させるディスプレイドライバと、前記標識画像を撮影するカメラと、該カメラを移動および/または回転させるカメラムーバと、前記ディスプレイドライバ、前記カメラ、および前記カメラムーバを同期制御して前記標識画像を所定の動画速度で移動させ該移動中の標識画像にカメラ中心を当てて眼の積分時間よりも長い時間に相当する所定の撮影時間(シャッタスピード)で撮影する撮影制御器とを有してなることを特徴とする動画性能評価装置。
【請求項2】
前記所定の動画速度の大きさは視角速度で30deg/s 以下である請求項1記載の動画性能評価装置。
【請求項3】
前記眼の積分時間は40〜70ms である請求項1または2に記載の動画性能評価装置。
【請求項4】
前記カメラのシャッタは、透過強度可変なシャッタである請求項1〜3のいずれかに記載の動画性能評価装置。
【請求項5】
前記透過強度可変なシャッタはLCDである請求項4記載の動画性能評価装置。
【請求項6】
前記透過強度可変なシャッタの透過強度変更パターンを、立ち上がり時間=0〜100ms 、一定保持時間=5〜50ms、立ち下がり時間=0〜100ms とした請求項4または5に記載の動画性能評価装置。
【請求項7】
前記カメラは視野を制限する視野フィルタを有する請求項1〜6のいずれかに記載の動画性能評価装置。
【請求項8】
前記カメラムーバは、前記カメラを前記ディスプレイの画面に平行でかつ互いに直交する二軸の方向に移動および/または該二軸の回りに回転させる請求項1〜7のいずれかに記載の動画性能評価装置。
【請求項9】
前記標識画像は、空間周期的な明暗パターンをなす請求項1〜8のいずれかに記載の動画性能評価装置。
【請求項10】
前記撮影制御器は、前記カメラの撮影結果をデータ処理する請求項1〜9のいずれかに記載の動画性能評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−42376(P2006−42376A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234197(P2005−234197)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【分割の表示】特願2001−90883(P2001−90883)の分割
【原出願日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願人】(393024821)
【出願人】(592235008)株式会社東北テクノブレインズ (19)
【Fターム(参考)】