説明

化合物半導体単結晶の製造方法

【課題】種結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、Asの脱離に基いて生じる凝集Gaが固液界面へ到達することで引き起こされる成長結晶の多結晶化を防止することができるLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】 本実施例のLEC法によるGaAs単結晶(化合物半導体単結晶)の製造方法では、種結晶4が液体封止材10の表面14の上方100mmから表面14に到達するまでの時間を10分以内となるように引下げる。若しくは、引上げ軸3の引上げ開始の位置から10mm引上げするまでの引上速度vを3mm/hr≦v≦10mm/hrとする。また、ルツボ5は、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が10mm≦h2−h1≦25mmとなるように昇降移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEC法により化合物半導体単結晶を製造する方法に関し、特に半絶縁性砒化ガリウム(GaAs)単結晶を得ることに適した化合物半導体単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半絶縁性砒化ガリウム単結晶(以下、GaAs単結晶と称する。)等の化合物半導体単結晶を製造する方法としては、LEC法(Liquid Encapsulated Czchralski法)等の製造方法及びその製造装置がある。
【0003】
以下、このLEC法について、製造する化合物半導体単結晶がGaAs単結晶である場合について説明する。まず、LEC法によるGaAs単結晶の製造装置は、図1に示すように、Ar、N等の不活性の雰囲気ガス1が満たされる高圧容器2と、この高圧容器2の内外を上方から貫通するように設けられた、上軸となる引上げ軸3と、この高圧容器2内に設置され、原料9及び液体封止材10が収容されるルツボ5と、このルツボ5の外周を覆うように設けられるサセプタ6と、このサセプタ6を介してルツボ5を支持し、高圧容器2の内外を下方から貫通するように設けられた、下軸となるペデスタル7とから構成される。
【0004】
また、引上げ軸3の先端3Aには、GaAs種結晶4が取り付けられ、上述のルツボ5には、GaAs種結晶4の先端4Aから成長、生成されていくGaAs単結晶8の原料9として、III族原料であるGa、V族原料であるAsが収容され、また、液体封止材10としてBが収容される。以下、GaAs種結晶4、GaAs単結晶8及びGaAs単結晶の原料9を、それぞれ種結晶4、単結晶8及び原料9と略称する。また、以下、上記成長の過程にある単結晶8を成長結晶と称する。
【0005】
また、これら引上げ軸3及びペデスタル7は、図示しない回転装置や昇降装置からの駆動力によりそれぞれが自在に回転、昇降できるように構成されている。この引上げ軸3の昇降において、先端3Aに取付けられた単結晶4は、高圧容器2の上方から高圧容器2内への引下げや上方への引上げといった昇降移動が可能とされる。
【0006】
また、この高圧容器2は、引上げ軸3及びペデスタル7が貫通する貫通部2A、2Bから外部へ不活性の雰囲気ガス1が漏れ出ないように容器内を気密とするように構成されている。
【0007】
また、引上げ軸3と、高圧容器2内に設置されているルツボ5は、それぞれが対峙されるよう構成され、サセプタ6はペデスタル7の上端に固定され、ペデスタル7は、高圧容器2の下方から引上げ軸3と同心に高圧容器2内に挿入される。
【0008】
また、このペデスタル7は地面20上に設置され、ペデスタル7の軸内上部には、ルツボ5内の原料9及び液体封止材10の温度を検出するための温度検出手段となる熱電対13が設けられる。
【0009】
また、高圧容器2内には、原料9及び液体封止材10を溶融する加熱手段となる上部ヒータ11と下部ヒータ12とが設けられる。また、これら上部ヒータ11及び下部ヒータ12は、高圧容器2内であって、サセプタ6の円周方向に沿ってこのサセプタ6を包囲するように且つサセプタ6と同心に設置される。
【0010】
これら上部ヒータ11及び下部ヒータ12は、図示しない温度コントローラにより、上部ヒータ11と下部ヒータ12の温度がそれぞれ制御されるようになっている。
【0011】
以上の構成である上部ヒータ11は、ルツボ5を加熱し、主に結晶の外径を制御する役割を有し、また下部ヒータ12は、主に原料9と液体封止材10における固液界面15の形状を制御する役割を有する。
【0012】
以上のように、LEC法によるGaAs単結晶を製造する製造装置は、GaAs単結晶の成長炉として構成されており、高圧容器2は成長炉の炉体となり、この高圧容器2内は成長炉の炉内となる。
【0013】
次に、上記製造装置を用いた、LEC法によるGaAs単結晶の製造方法について説明する。まず、引上げ軸3の先端3Aには、種結晶4が取り付けられ、ルツボ5には、原料9、液体封止材10が順次収容される。この際、引上げ軸3は液体封止材10の上方に位置する。
【0014】
次に、高圧容器2内が所定圧の不活性の雰囲気ガス1で満たされる。この際、ルツボ5に原料9としてIII族であるGa及びV族原料であるAsを収容した場合は、不活性ガス1の圧力は、原料9からのAsの解離を防止する圧力に設定される。
【0015】
次に、図示しない温度コントローラにより上部ヒータ11及び下部ヒータ12が加熱される。そして、ルツボ5の温度が上部ヒータ11及び下部ヒータ12の加熱により液体封止材10の溶融温度に到達すると、液体封止材10が溶融する。また、ルツボ5の温度が原料9の溶融温度に到達すると原料9が溶融する。
【0016】
この際、一般に液体封止材10の比重よりも原料9の融液の比重が大きくなるため、液体封止材10により原料9融液の表面が覆われる。これにより、原料9の融液からのAs元素の解離が防止される。
【0017】
次に、炉内の不活性の雰囲気ガス1中に一酸化炭素や二酸化炭素等の炭素含有ガスを混合させ、引上げ軸3を所定の引下速度にて引下げて種結晶4を原料9へと接触させる。これにより、種結晶4より半絶縁性を実現するために必要な炭素の結晶への取り込み、即ち結晶成長が起こる。以下、引上げ軸3を所定の引下時間にて引下げて種結晶4を原料9へと接触させる作業を種結晶の種付け作業と称する。
【0018】
この結晶成長が起こる際、引上げ軸3の先端3Aに固定された種結晶4を原料9の融液に接触させ、この状態で温度コントローラのフィードバック制御によって上部ヒータ11及び下部ヒータ12の温度を徐々に低下させながら種結晶4を引上げ軸3によって所定の引上速度にてゆっくりと引上げていく。こうすることで、結晶が成長し、成長結晶が生成され、液体封止材10を貫いて引上げられていく。そして、成長結晶は図1に示すような単結晶8として生成される。
【0019】
ここで、上記結晶の成長の進行に伴ってルツボ5内の原料9の融液が減少すると、必然的に液面位置14が下がり、上部ヒータ11及び下部ヒータ12と結晶成長界面15との位置関係が変化し、原料9の融液を効率良く加熱することが難しくなってしまう問題が生ずる。
【0020】
この対策として、成長結晶の成長量から原料9の融液の液面位置14の低下量を算出してこれを補正するように上記昇降装置を制御し、ペデスタル7を徐々に上昇させて、ルツボ5の高さ位置を調整し、液面位置14を上部ヒータ11及び下部ヒータ12の発熱帯に対して常に一定の位置に調節する制御が実行される。これにより、原料の融液を効率良く加熱し続けることが可能となる。LEC法は、以上の手順からなる化合物半導体単結晶の製造方法である。
【0021】
上述のLEC法を用いた化合物半導体単結晶の製造方法及び製造装置としては、例えば、特許文献1には、成長炉にて成長させるGaAs単結晶の種付けや引き上げの際に、液体封止材中の種結晶の外側部を液体封止材層上に浮かぶPBN製の種結晶保護治具で包囲して、加熱ヒータから種結晶の側面への輻射熱を遮ることで種結晶の表面荒れを抑えるGaAs単結晶の製造方法及び製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開平7―206587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記特許文献1に記載したような従来のLEC法による製造方法では以下の問題がある。従来のLEC法による製造方法では、種付け作業中の種結晶表面は、1000℃以上の温度で炙られ続けるため、液体封止材で覆われていない種結晶表面では、V族元素であるAsが結晶から脱離する現象が起き、この種結晶表面にはIII族元素であるGaが残される。そして、この残されたGaは凝集する(以下、これを凝集Gaと称する)。
【0024】
この凝集Gaは、成長結晶を溶解する性質があり、成長結晶の生成の際、液体封止材で覆われている成長結晶を侵食していき、この成長結晶の下方に伝い始める。そして、凝集Gaが成長結晶と原料の融液との固液界面にまで達すると、固液界面の該当部において結晶成長面方位が乱され、その結果成長結晶が多結晶化してしまうという問題が生じる。
【0025】
本発明はかかる点に立って為されたものであって、その目的とするところは、上記課題を解決し、LEC法によりGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶を製造するに際し、種結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、Asの脱離に基いて生じる凝集Gaが固液界面へ到達することで引き起こされる成長結晶の多結晶化を防止し得る化合物半導体単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法は、高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造する化合物半導体単結晶の製造方法において、前記引上げ軸は、該引上げ軸の引上げ開始の位置から10mm引上げするまでの引上速度vを3mm/hr≦v≦10mm/hrとすることを特徴としている。
【0027】
本発明のLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法は、また、高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造する化合物半導体単結晶の製造方法において、前記ルツボは、前記地面から前記上部ヒータの発熱中心までの高さh1と該地面から液体封止材の表面までの高さh2との差h2−h1が10mm≦h2−h1≦25mmとなるように昇降移動させることを特徴としている。
【0028】
本発明のLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法は、また、高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造する化合物半導体単結晶の製造方法において、前記引上げ軸は、前記種結晶が前記液体封止材の表面の上方100mmから液体封止材の表面に到達するまでの時間を10分以内となるように引下げることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
本発明のLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法は、上述のように構成したので、LEC法によりGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶を製造するに際し、種結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、Asの脱離に基いて生じる凝集Gaが固液界面へ到達することで引き起こされる成長結晶の多結晶化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例の化合物半導体単結晶の製造装置の概略図及びこの製造装置による製造方法の手順を説明する図である。
【図2】図1の製造装置による製造方法の別の手順を説明する概略図である。
【図3】図1の製造装置による製造方法の別の手順を説明する概略図である。
【図4】図1の製造装置による製造方法の別の手順を説明する概略図である。
【図5】図1の製造装置による製造方法の別の手順を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施例では、化合物半導体単結晶がGaAs単結晶である場合についての製造装置及び製造方法を説明する。
【0032】
図1〜図5は、本実施例で用いる化合物半導体単結晶の製造装置を示す。また、以下の各実施例で用いるGaAs単結晶の製造は、いずれも図1〜図5に示す化合物半導体単結晶の製造装置により行っており、同様の個所については同符号で示して説明する。
【0033】
また、以下説明する各実施例のLEC法におけるGaAs単結晶の製造方法は、高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造するLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法において、更に以下各実施例で説明する特徴ある構成を備えるものである。
【実施例1】
【0034】
本実施例では、図2、図3に示すように、引下げた引上げ軸3を上昇させる際に、引上げ軸は、この引上げ軸3の引上げ開始の位置から10mm引上げするまでの引上速度vを3mm/hr≦v≦10mm/hrとしている。
【0035】
この場合、引上げ軸3の引上げは、引上げ軸3に接続された種結晶4を原料9に付着させ、種結晶の先端4Aに単結晶8が成長し始めた時点から、開始するものとする。
【0036】
上記の手段を取った理由について、成長結晶の引上げ開始の位置から10mmに到達するまでの引上速度vの下限を3mm/hrとしたのは、3mm/hr未満にしてしまうと、凝集Gaが発生した場合に、引上速度よりも凝集Gaの成長結晶と原料の融液との固液界面15への垂れ速度の方が上回ってしまい、凝集Gaが固液界面15に到達し、成長結晶が多結晶化してしまう問題が生じるからである。
【0037】
またvの上限を10mm/hrとしたのは、10mm/hrを越えてしまうと、成長結晶の引き上げの際に、成長結晶の頭部17に付着した液体封止材10が原料9の融液へ流れ落ちるよりも早く、不活性の雰囲気ガス1により冷却され固まり頭部17に残ってしまい、これによって熱収縮により成長結晶にクラックが発生する問題が生じるからである。
【0038】
<本実施例の適用例1>PBN製のルツボ5に原料9としてGaAs多結晶40,000g、液体封止材10として三酸化硼素(以下、Bと略称する。)2,500gを入れ、高圧容器2に収納し、上部ヒータ11および下部ヒータ12により加熱することで、B、GaAs多結晶を溶融させた。種結晶4への種付けを開始する際の液体封止材10の厚さは約20mm程である。種結晶4の種付け終了後、引上げ軸3は、成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを6mm/hrとし、そして結晶径φ150mmの単結晶を成長させ、結晶全長300mmのGaAs結晶を生成した。
【0039】
以上の条件で、20本の結晶を作製し、これらの結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶の頭部17へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。次に上記適用例1と同様の構成で、引上げ軸3の引上速度は異なる条件での適用例及び比較例を以下に示す。
【0040】
<本実施例の適用例2>種付け後、成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを3mm/hrとして、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0041】
<本実施例の適用例3>種付け後、成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを10mm/hrとして、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0042】
<比較例1>成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを1mm/hrとして、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は7本であった(発生率35%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0043】
<比較例2>成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを12mm/hrとして、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは7本であった(発生率35%)。
【0044】
上述の適用例と比較例によれば、引下させた引上げ軸を上昇させる際に、この引き上げ軸3は、成長結晶の引上げ開始の位置から10mm上方に到達するまでの引上速度vを3mm/hr≦v≦10mm/hrとすることで、結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、凝集Gaの固液界面への到達が引き起こす成長結晶の多結晶化を防止することができるLEC法によるGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶の製造方法を提供することができる。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、図4に示すように、ルツボ5は、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が10mm≦h2−h1≦25mmとなるように昇降移動させている。
【0046】
上記の手段を取った理由について、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1の下限を10mmとしたのは、h2−h1が10mmを下回る場合には、液体封止材表面位置14が上部ヒータ発熱中心11Aに近くなって高温となるため、Asの脱離によるGaの凝集が起き、凝集Gaが固液界面15に到達し、成長結晶が多結晶化する問題が生じるからである。
【0047】
またh2−h1の上限を25mmとしたのは、h2−1が25mmを超える場合は、液体封止材表面14の温度が低温となるため、液体封止材10の粘性が増加してしまい、成長結晶の頭部17に液体封止材10が固まって残ってしまい、これによる熱収縮により成長結晶にクラックが発生してしまうためである。
【0048】
<本実施例の適用例1>PBN製のルツボ5に原料9としてGaAs多結晶40,000g、液体封止材10としてB2,500gを入れ、高圧容器2に収納し、上部ヒータ11および下部ヒータ12により加熱することで、B、GaAs多結晶を融解させた。また、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が15mmになるようにルツボの位置を調節し、結晶径φ150mmの結晶8を成長させ、結晶全長300mmのGaAs単結晶を成長させた。
【0049】
以上の条件で、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。次に上記適用例1と同様の構成で、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1は異なる条件での適用例及び比較例を以下に示す。
【0050】
<本実施例の適用例2>地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が20mmになるようにルツボの位置を調節し、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0051】
<本実施例の適用例3>地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が25mmになるようにルツボの位置を調節し、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0052】
<本実施例の適用例4>地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が10mmになるようにルツボの位置を調節し、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa行集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0053】
<比較例1>地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が5mmとなるようにルツボの位置を調節し、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は6本であった(発生率30%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは0本であった(発生率0%)。
【0054】
<比較例2>地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が30mmになるようにルツボの位置を調節し、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。また、結晶頭部へのB残りが発生したものは8本であった(発生率40%)。
【0055】
上述の適用例と比較例によれば、ルツボは、種結晶の成長を開始して成長結晶生成する際に、地面20から上部ヒータ11の発熱中心11Aまでの高さh1と地面20から液体封止材10の表面14までの高さh2との差h2−h1が10mm≦h2−h1≦25mmとなるように昇降移動させるようにしたことで、結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、凝集Gaの固液界面への到達が引き起こす多結晶化を防止することができるLEC法によるGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶の製造方法を提供することができる。
【実施例3】
【0056】
本実施例では、図5に示すように、引上げ軸3は、種結晶4が液体封止材10の表面14の上方100mmから液体封止材10の表面14に到達するまでの時間を10分以内となるように引下げるようにしている。
【0057】
上記の手段を取った理由について、種付け作業で、液体封止材上方100mmから原料融液表面まで種結晶を引下げる際に、液体封止材表面に到達するまでの時間が10分よりも長くかかってしまうと、種結晶4が液体封止材の表面14に着液する前にヒーター11、12からの熱を長く受け、種結晶4が加熱されるため、種結晶表面でAsの脱離によるGaの凝集が起き、成長結晶の成長の際に凝集Gaが固液界面に到達し、多結晶化してしまうからである。
【0058】
また、この液体封止材の表面14への種結晶4の着液は、10分以下であれば、昇降装置の駆動が可能な限り引上げ軸3を早く引下げることで、種結晶4はヒーター11、12からの熱を長く受けずに加熱されなくなるため、よりAsの脱離を防ぐことができる。
【0059】
<本実施例の適用例1>PBN製のルツボ5に原料9としてGaAs多結晶40,000g、液体封止材10としてB2,500gを入れ、高圧容器2に収納し、上部ヒータ11および下部ヒータ12により加熱することで、B、GaAs多結晶を融解させた。種結晶を引下げる際、B表面上方100mmからB表面に到達するまでの時間を5分で行い、結晶径φ150mmの結晶8を成長させ、結晶全長300mmのGaAs単結晶を成長させた。
【0060】
以上の条件で、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。次に上記実施例1と同様の構成で、引下げ時間は異なる条件での適用例及び比較例を以下に示す。
【0061】
<本実施例の適用例2>種結晶を引下げる際、B表面上方100mmからB表面に到達するまでの時間を10分で行い、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。
【0062】
<本実施例の適用例3>種結晶を引下げる際、B表面上方100mmからB表面に到達するまでの時間を3分で行い、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は0本であった(発生率0%)。
【0063】
<本実施例の比較例1>種結晶を引下げる際、B表面上方100mmからB表面に到達するまでの時間を15分で行い、20本の結晶を作製し、結晶の外観を目視にて確認した結果、種結晶でのGa凝集による多結晶の発生は5本であった(発生率25%)。
【0064】
上述の適用例と比較例によれば、引上げ軸を引下げる際に、引上げ軸3は、種結晶4が液体封止材10の表面14の上方100mmから液体封止材10の表面14に到達するまでの時間を10分以内となるように引下げるようすることで、種結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、凝集Gaの固液界面への到達が引き起こす生長結晶の多結晶化を防止することができるLEC法によるGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶の製造方法を提供することができる。
【0065】
本発明の実施例の化合物半導体単結晶の製造方法は、上述のように構成したので、LEC法によりGaAs単結晶等の化合物半導体単結晶を製造するに際し、種結晶からのAsの脱離を可能な限り抑制し、かつ、Asの脱離に基いて生じる凝集Gaが固液界面へ到達することで引き起こされる成長結晶の多結晶化を防止することができる。
【0066】
なお、本発明の実施例の化合物半導体単結晶の製造方法は、本発明の効果を達成できる範囲において、上述の各実施例とは別の構成を適用することもできる。また、本発明の実施例の化合物半導体単結晶の製造方法は、上述の各実施例をそれぞれ組み合わせて構成しても上述の実施例と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…不活性の雰囲気ガス、2…高圧容器、3…引き上げ軸、4…種結晶、5…ルツボ、6…サセプタ、7…ペデスタル、8…GaAs単結晶、9…原料、10…液体封止材、11…上部ヒータ、11A…上部ヒータの発熱中心、12…下部ヒータ、14…液体封止材の表面、15…固液界面、20…地面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造するLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法において、
前記引上げ軸は、該引上げ軸の引上げ開始の位置から10mm引上げするまでの引上速度vを3mm/hr≦v≦10mm/hrとすることを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造するLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法において、
前記ルツボは、前記地面から前記上部ヒータの発熱中心までの高さh1と該地面から液体封止材の表面までの高さh2との差h2−h1が10mm≦h2−h1≦25mmとなるように昇降移動させることを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項3】
高圧容器内外を昇降移動可能な引上げ軸の先端に種結晶を取り付け、地面に設置した昇降移動可能なペデスタルに支持されて高圧容器内を昇降移動するルツボに単結晶の原料及び液体封止材を順次収容し、高圧容器内を不活性の雰囲気ガスで満たし、上部ヒータ及び下部ヒータにより原料及び液体封止材を加熱して溶融し、前記引上げ軸を所定の引下げ速度で引下げ、前記種結晶と溶融した液体封止材及び原料とを接触させて種結晶の先端部から成長結晶の生成を開始し、前記引下げた引上げ軸を所定の引上速度で引上げて単結晶を製造するLEC法による化合物半導体単結晶の製造方法において、
前記引上げ軸は、前記種結晶が前記液体封止材の表面の上方100mmから液体封止材の表面に到達するまでの時間を10分以内となるように引下げることを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate