説明

化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器

【課題】化合物単結晶の断面における結晶の面方位を特定することができ、かつ1つの断面から複数個のウェハを切り出す場合でも単結晶のへき開により1つの断面を複数個のウェハ単位に分割することが可能な化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器を提供する。
【解決手段】単結晶成長用容器は、下部に種結晶収容部を有し、上部にるつぼ上部1cを有し、種結晶収容部は内部に種結晶を収容した場合に種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつるつぼ上部1cの横断面形状が仮想の正四角形Pに沿う直線部分を正四角形Pの各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部1c1を有し、るつぼ上部1cの横断面形状はコーナー部1c1以外に仮想の正四角形Pに対して内側にラウンド状に窪んだ部分を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周期律表のIIまたはIII族の元素と周期律表のVIまたはV族の元素との組合せにより生じる単結晶の化合物は、電子産業に不可欠のものである。それらの単結晶の化合物の例は、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)、テルル化カドミウム(CdTe)などである。
【0003】
単結晶のII−VI族化合物およびIII−V族化合物は、典型的には約10-3〜約1011Ω・cmの広い範囲内の抵抗率を有しているため、「半導体」と呼ぶことができる。半導体の電気伝導度は、適当な不純物(ドーパント)を単結晶の物質に添加することによって変えることができる。加えられる不純物、すなわちドーパントによって、半導体はn型にもp型にもなり得る。
【0004】
約107Ω・cmより大きい抵抗を有するIII−V族またはII−VI族の単結晶の化合物はしばしば「半絶縁性」半導体と呼ばれ、この半絶縁性半導体はしばしば「半絶縁体」と呼ばれる。
【0005】
このような単結晶の化合物を製造する方法として、たとえば垂直ブリッジマン法(VB法)や垂直温度勾配法(VGF法)がある。
【0006】
たとえば以下の特許文献1には、単結晶GaPをVGF法で製造する方法が開示されている。図13は、特許文献1に開示された単結晶GaPを製造する方法を説明するための図である。図13を参照して、るつぼ51底部の種結晶収容部51aに種結晶53が装填され、その種結晶53上のるつぼ51内部にGaP原料54が充填される。この後、昇温が行なわれて、種結晶53の上半分とGaP原料54とが溶融される。そして、単結晶GaPを成長させるために上部が高温域となり下部が低温域となるように温度勾配を生じさせた状態で、GaP原料中の固−液界面が種結晶の上端部(シードエンド)からGaP原料の上端部(テールエンド)へと移行され、これによりGaP原料の融液54aが種結晶53側から凝固して固体単結晶54bが成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,404,172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、図13に示されたようなるつぼ51においては、種結晶収容部51aのB1−B1線に沿う断面(単結晶の成長方向に直交する方向の断面)の形状は真円形状であり、かつ種結晶収容部51aの底面は平坦な面であった。このため、種結晶収容部51a内に円柱形状の種結晶53を収容すると、種結晶53は種結晶収容部51a内で周方向に容易に回転する。
【0009】
種結晶53から固体単結晶54bが成長する場合、種結晶53のB1−B1線に沿う断面における結晶の面方位の情報は、固体単結晶54bのB2−B2線に沿う断面(単結晶の成長方向に直交する方向の断面)の結晶の面方位にそのまま引き継がれる。
【0010】
このため、上述したように種結晶53が種結晶収容部51a内で周方向に回転してしまうと、固体単結晶54bのB2−B2線に沿う断面の結晶の面方位も周方向に回転してしまうため、B2−B2線に沿う断面の結晶の面方位を特定できなくなるという問題があった。
【0011】
特に、B2−B2線に沿う1つの断面を複数個のウェハに分割する場合に、固体単結晶54bのB2−B2線に沿う断面の結晶の面方位を特定できないと、単結晶のへき開により1つの断面を複数個のウェハ単位に分割することができなくなるという問題があった。
【0012】
それゆえ本発明の目的は、化合物単結晶の断面における結晶の面方位を特定することができ、かつ1つの断面から複数個のウェハを切り出す場合でも単結晶のへき開により1つの断面を複数個のウェハ単位に分割することが可能な化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の単結晶成長用容器は、種結晶と化合物原料とを単結晶成長用容器内に充填し、化合物原料を加熱溶融した後に固化して化合物単結晶を成長させる化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器であって、下部に種結晶収容部を有し、上部に単結晶成長部を有し、種結晶収容部は内部に種結晶を収容した場合に種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつ単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形に沿う直線部分を正四角形の各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部を有し、単結晶成長部の横断面形状は、上記コーナー部以外に仮想の正四角形に対して内側にラウンド状に窪んだ部分を有する。
【0014】
本発明の他の単結晶成長用容器は、種結晶と化合物原料とを単結晶成長用容器内に充填し、化合物原料を加熱溶融した後に固化して化合物単結晶を成長させる化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器であって、下部に種結晶収容部を有し、上部に単結晶成長部を有し、種結晶収容部は内部に種結晶を収容した場合に種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつ単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形に沿う直線部分を正四角形の各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部を有し、コーナー部のラウンド形状の曲率半径R1が、10mm≦R1≦L/2(L:採取するウェハの直径)であることを特徴とするものである。
【0015】
上記の一および他の単結晶成長用容器において好ましくは、種結晶収容部の横断面形状が非真円形状である。
【0016】
上記の一および他の単結晶成長用容器において好ましくは、種結晶収容部の底面が凹凸形状を有している。
【0017】
上記の一および他の単結晶成長用容器において好ましくは、単結晶成長用容器はpBN(熱分解窒化ホウ素)からなっている。
【0018】
本発明の化合物単結晶の製造方法は、下部に種結晶収容部を有し、上部に単結晶成長部を有する単結晶成長用容器を準備する工程を備える。その種結晶収容部は内部に種結晶を収容した場合に種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつ単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形に沿う直線部分を正四角形の各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部を有する。本発明の化合物単結晶の製造方法は、さらに、種結晶収容部内で種結晶が周方向に回転しないように種結晶を種結晶収容部内に充填し、かつ単結晶成長用容器内に化合物原料を充填する工程と、単結晶成長用容器内に充填された化合物原料を加熱溶融した後に固化して化合物単結晶を成長させる工程とを備えている。
【0019】
本発明における横断面形状とは、単結晶の成長方向に直交する方向の断面形状を意味する。また、単結晶の成長方向は単結晶成長用容器の上部と下部により規定される上下方向と同じである。また、本発明における周方向とは、単結晶の成長方向を中心軸として種結晶を回転させたときの回転方向である。
【0020】
上記の化合物単結晶の製造方法において好ましくは、化合物単結晶を成長方向に複数に切断する工程と、切断された化合物単結晶をへき開により分割する工程とがさらに備えられている。
【0021】
上記の化合物単結晶の製造方法において好ましくは、化合物単結晶はヒ化ガリウム結晶である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の化合物単結晶の製造方法およびそれに用いる単結晶成長用容器によれば、種結晶収容部は内部に種結晶を収容した場合に前記種結晶が周方向に回転できないような構成を有しているため、この種結晶収容部中に種結晶を収容すれば、種結晶が種結晶収容部内で周方向に回転することを防止することができる。このため、種結晶の面方位を位置決めして種結晶を種結晶収容部に収容すれば、その種結晶から成長する単結晶の面方位を特定することができる。
【0023】
また、単結晶の面方位を特定することができるため、単結晶成長部の横断面形状を仮想の正四角形に沿う形状としておけば、分割後の形状がそれぞれ同等の形状(仮想に正四角形に沿う形状)となるように単結晶をへき開により分割することが可能となる。このため、それら同等の形状を有する分割後の単結晶から同等の形状(同等の径など)を有するウェハを製造することができる。
【0024】
また、単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形の少なくともコーナー部においてラウンド形状を有するため、最終的に真円形状のウェハを形成する場合に、単結晶のコーナー部分の切捨て量が少なくなる。これにより切捨てロスが少なくなるため、化合物原料から効率良くウェハを製造することが可能となる。
【0025】
上記の化合物単結晶の製造方法において、化合物単結晶を成長方向に複数に切断した後にへき開により分割するため、簡易な設備で分割を行なうことが可能となる。
【0026】
上記の化合物単結晶の製造方法においては好ましくは、化合物単結晶はヒ化ガリウム結晶である。
【0027】
上記の単結晶成長用容器においては、種結晶収容部の横断面形状が非真円形状であるため、これと相似形の横断面形状を有する種結晶を種結晶収容部に収容することで種結晶の種結晶収容部内における周方向の回転を防止することができる。
【0028】
上記の単結晶成長用容器において好ましくは、種結晶収容部の底面が凹凸形状を有しているため、この凹凸に嵌まり込む凹凸を底面に有する種結晶をを種結晶収容部に収容することで種結晶の種結晶収容部内における周方向の回転を防止することができる。
【0029】
上記の単結晶成長用容器においては、単結晶成長部の横断面形状は、コーナー部以外に仮想の正四角形に対して内側にラウンド状の窪んだ部分を有するため、最終的に円形のウェハを形成する場合に、単結晶の窪んだ部分の切捨て量が少なくなる。これにより切捨てロスが少なくなるため、化合物原料からさらに効率良くウェハを製造することが可能となる。
【0030】
上記の単結晶成長用容器において好ましくは、単結晶成長用容器がpBNからなっている。るつぼの構成元素によっては、酸化ホウ素や融液とるつぼが反応し、原料融液が汚染される恐れがある。したがって、酸化ホウ素や融液と反応しないるつぼの材料としてpBNが最適である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器の構成を示す概略断面図である。
【図2】(a)〜(d)のそれぞれは図1のII−II線に沿う断面に対応する断面図である。
【図3】(a)〜(f)のそれぞれは図1のS部に対応する部分の断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿う断面に対応する断面図である。
【図5】図1のIV−IV線に沿う断面に対応する断面図であって、ラウンド形状の窪み部を有する図である。
【図6】1つの断面から3×3の配置で9個のウェハを取り出す場合の単結晶成長部の横断面形状を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器を用いた化合物単結晶の製造方法を説明するための第1工程図である。
【図8】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器を用いた化合物単結晶の製造方法を説明するための第2工程図である。
【図9】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器を用いた化合物単結晶の製造方法を説明するための第3工程図である。
【図10】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器を用いた化合物単結晶の製造方法を説明するための第4〜7工程図である。
【図11】図14に示す従来のるつぼを用いて1つの断面から複数枚(たとえば4枚)のウェハを製造する場合の面方位が特定できないことを説明する図である。
【図12】本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器を用いた場合に面方位を特定できることを説明するための図である。
【図13】米国特許第4,404,172号に開示された単結晶GaPを製造する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
図1は本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器の構成を示す概略断面図である。図2(a)〜(d)のそれぞれは図1のII−II線に沿う断面に対応する断面図である。図3(a)〜(f)のそれぞれは図1のS部に対応する部分の断面図である。図4は図1のIV−IV線に沿う断面に対応する断面図である。なお、図3(a)〜(f)のそれぞれの下側の図は上側の図の矢印A方向から見た底面1dの様子を示している。
【0033】
図1を参照して、本実施の形態の単結晶成長用容器(るつぼ)1は、相対的に小さい径を有するるつぼ下部1aと、相対的に大きい径を有するるつぼ上部1cと、るつぼ下部1aとるつぼ上部1cとを連結するテーパ部1bとを有している。このるつぼ上部1cの上端部には開口が形成されており、この開口部からるつぼ下部1a、テーパ部1bおよびるつぼ上部1cの内部に種結晶3、化合物原料4などを充填できるようになっている。このるつぼ1の材質はたとえばpBNからなっている。
【0034】
るつぼ下部1aは種結晶を収容するための種結晶収容部であり、るつぼ上部1cは種結晶から単結晶を成長させるための単結晶成長部である。種結晶収容部1aは内部に種結晶を収容した場合にその種結晶が周方向に回転できないような構成を有している。
【0035】
図2を参照して、種結晶収容部1aの横方向断面は、たとえば円形の一部が直線状に切り取られた形状(a)、四角形状(b)、四角形状のコーナー部がラウンドした形状(c)、楕円形状(d)などの非真円形状を有している。これらの各形状のそれぞれは、相対的に大きい第1の径(D1a、D2a、D3a、D4a)の部分と相対的に小さい第2の径(D1b、D2b、D3b、D4b)の部分とを有している。これにより、種結晶収容部1a内に、破線で示すように種結晶収容部1aの横方向断面形状と相似関係にある横方向断面形状を有する種結晶3を収容した場合、種結晶収容部1a内で種結晶3が周方向(矢印C方向)に回転することを防止することができる。
【0036】
なお、種結晶収容部1aの横方向断面は、上記の形状に限定されず、相対的に大きい第1の径部分と、相対的に小さい第2の径部分とを有する形状であれば、如何なる形状であってもよい。横方向断面とは、単結晶成長用容器1の上下方向Bに直交する方向の断面である。
【0037】
また種結晶収容部1aの横方向断面は真円形状を有していてもよいが、この場合には種結晶収容部1aの底面1dを凹凸形状にする必要がある。図3を参照して、種結晶収容部1aの底面1dは、たとえば中央が下方に突き出したV字形状(a)、中央が上方へ突き出したV字形状(b)、直線状の凸部を有する形状(c)、十字状の凸部を有する形状(d)、直線状の凹部を有する形状(e)、十字状の凹部を有する形状(f)を有している。これにより、種結晶収容部1a内に、破線で示すように種結晶収容部1aの底面の凹凸に嵌まり込む凹凸形状の底面を有する種結晶3を収容した場合、種結晶収容部1a内で種結晶3が周方向(矢印C方向)に回転することを防止することができる。
【0038】
なお、種結晶収容部1aの底面1dの凹凸形状はこれらの形状に限定されず、種結晶3の底面の凹凸形状が種結晶収容部1aの底面1dの凹凸形状に嵌まり込むことで種結晶3の周方向の回転を防止できるものであればよい。
【0039】
図4を参照して、単結晶成長部であるるつぼ上部1cの横断面形状は、仮想の正四角形Pに沿う直線部分を正四角形Pの各辺に有するとともに、ラウンド形状のコーナー部1c1を有している。なお、図4は単結晶の1つの断面から複数枚(たとえば4枚)のウェハを取り出す場合を示している。
【0040】
単結晶の1つの断面から直径Lの真円形状のウェハを複数枚(X枚=n2(n=1、2、3、・・・))取り出す場合には、仮想の正四角形Pの1辺の長さはn×L以上(n+1)×L以下であることが好ましい。また、このコーナー部1c1のラウンド形状の曲率半径R1は10mm≦R1≦L/2であることが好ましい。また、ウェハ間の寸法W1はたとえば2mm程度であり、ウェハとコーナーとの間隔W2もたとえば2mm程度である。
【0041】
また、図5に示すように単結晶成長部であるるつぼ上部1cの横断面形状は、コーナー部1c1以外に仮想の正四角形Pに対して内側にラウンド状に窪んだ部分1c2を有することが好ましい。この窪んだ部分1c2は隣合うウェハ取り出し位置の中央部に位置している。このラウンド状に窪んだ部分の曲率半径R2は0mm<R2≦L/2であることが好ましい。また、この横断面形状は正四角形Pの中心線に対して線対称形状を有しており、また正四角形Pの中心点に対して点対称形状を有している。
【0042】
なお、これ以外の図5の構成は上述した図4の構成とほぼ同じであるため、同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
また、図4および図5においては単結晶の1つの断面からたとえば4つのウェハを取り出す場合について説明したが、これに限られず図6(a)、(b)に示すように3×3に配置された9つのウェハが取り出されてもよく、n×nに配置されたn2個のウェハが取り出されてもよい。
【0044】
次に、図1に示す単結晶成長用容器1を用いた本実施の形態の化合物単結晶の製造方法について説明する。
【0045】
図7〜図10は、本発明の一実施の形態における単結晶成長用容器1を用いた本実施の形態の化合物単結晶の製造方法を説明するための図である。図7を参照して、まず化合物単結晶の製造に必要な原料として、予め準備された種結晶3と、化合物原料4とがるつぼ1内に充填される。種結晶3はその周方向に回転しないように種結晶収容部1a内に収容される。また、化合物原料4としては、たとえばGa(ガリウム)とAs(ヒ素)とが予備合成されたGaAs多結晶体が用いられ、種結晶3上に配置される。この状態で単結晶成長用容器1が図8に示すVB装置20に搬送される。
【0046】
図8を参照して、VB装置20のチャンバー15内には断熱筒14が設けられており、断熱筒14内にはたとえば10個の円筒形状のヒータ13a〜13jが配置されている。単結晶成長用容器1は、ヒータ13a〜13j内に挿入されて、ステージ11上に載置される。ステージ11の下部には昇降軸12が取り付けられており、これにより単結晶成長用容器1はヒータ13a〜13j内で昇降可能である。
【0047】
単結晶成長用容器1がVB装置20に設置された後、ヒータ13a〜13jにより加熱される。これにより、種結晶3の上半分と化合物原料4とが溶融する。この後、化合物単結晶を成長させるために上部が高温域となり下部が低温域となるように温度勾配をヒータ13a〜13jが生じさせる。この状態で、単結晶成長用容器1をヒータ13a〜13j内で昇降軸12により昇降運動させることにより、化合物原料中の固−液界面が種結晶3の上端部(シードエンド)から化合部原料の上端部(テールエンド)へと移行することになり、化合物原料の融液4aが種結晶3側から凝固して化合物単結晶4bが成長していく。この際、結晶成長方位はたとえば<100>である。これにより、図9に示すように化合物単結晶4bが得られる。
【0048】
図10(a)を参照して、このようにしてたとえばコーナー部がラウンド形状を有する四角柱状の化合物単結晶4bが得られる。この化合物単結晶4bが、たとえばワイヤソーなどにより成長方向Dに複数枚に分割される。
【0049】
図10(b)を参照して、分割された各単結晶4b1はへき開破壊により複数枚(たとえば4枚)に分割される。この際のへき開面はたとえば(011)面と(0−1−1)面とである。
【0050】
図10(c)を参照して、へき開により複数枚に分割された単結晶4b2は真円(またはオリエンテーションフラットなどを有する形状)にたとえば研削加工されて、図10(d)に示されるウェハ4b3が得られる。
【0051】
本実施の形態によれば、単結晶4bの面方位を特定できるため、図10(b)に示す単結晶4b1から複数のウェハ4b3を製造することが容易である。以下、そのことを説明する。
【0052】
図11は図13に示す従来のるつぼ51を用いて1つの断面から複数枚(たとえば4枚)のウェハを製造する場合の問題点について説明する図である。なお、図13に示するつぼ51のるつぼ上部の横断面形状が四角形状である場合を想定して説明する。
【0053】
図13を参照して、従来のるつぼ51の場合、種結晶収容部51a内に収容された種結晶53はその周方向に回転する。図11(a)は種結晶53が周方向(矢印C方向)に回転した様子を示す上面図である。この場合、種結晶53のある面方位が破線の矢印で示す向きとなるように種結晶53を種結晶収容部51a内に配置しても、種結晶53が周方向に回転することにより、種結晶の面方位も実線で示すように回転してしまう。
【0054】
この状態でこの種結晶53から単結晶を成長させると、図11(b)に示すように成長した単結晶54bの結晶の面方位は種結晶の面方位の向きそのままに引き継がれる。その結果、単結晶54bの結晶方位も所定角度分だけ回転した状態となる。
【0055】
このため、図11(c)に示すように単結晶をへき開面に沿って分割すると、分割後の単結晶からウェハを取り出せない場合が生じる。
【0056】
これに対して本実施の形態では、種結晶3が種結晶収容部1aに対して周方向に回転しないようにされている。このため、図12(a)に示すように種結晶収容部1aに収容された種結晶3の結晶方位は回転しない。よって、図12(b)に示すようにその種結晶3から成長する単結晶4bの結晶方位を所定の向きに特定することができる。したがって、図12(c)に示すように単結晶4bをへき開面に沿って分割しても、分割された各単結晶からウェハを取り出すことが可能である。
【0057】
上記の実施の形態においては、GaAs単結晶の製造方法について説明したが、これ以外の化合物単結晶、たとえば周期律表のIIまたはIII族の元素と周期律表のVIまたはV族の元素との組合せにより生じる化合物単結晶(GaP、InP、CdTeなど)にも本発明は適用することができる。
【0058】
また上記の実施の形態においては、るつぼを炉(ヒータ)に対して相対的に移動させる垂直ブリッジマン法(VB法)について説明したが、本発明は、炉内多段ヒータを用いる垂直温度勾配法(VGF法)や、垂直ゾーンメルティング法(VZM法)に適用することもできる。
【実施例1】
【0059】
以下、本発明の実施例について説明する。
図13に示すB1−B1線およびB2−B2線に沿う各形状が真円の従来のるつぼ51を用いてウェハを作成した。
【0060】
また、図1に示すII−II線に沿う横断面形状が図2(c)に示す形状で、IV−IV線に沿う横断面形状が図4に示す形状の単結晶成長用容器1を用いてウェハを作成した。この場合、上記のるつぼ51を用いる場合と比較して、単結晶のサイズを5%減少させながら、かつウェハ研削時の研削ロスを5%改善することができた。
【0061】
なお、図13に示すB1−B1線に沿う形状が図11(a)に示す真円形状で、かつB2−B2線に沿う形状が図11(b)に示す略正四角形状(コーナー部はラウンド形状を有している)のるつぼ51を用いてウェハの作成を試みたところ、図11(c)に示すようにへき開面が単結晶54bに対して大幅に回転してしまい(ずれてしまい)、へき開により分割すると、所定の径のウェハを取り出すことはできなかった。
【0062】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、1つの断面から複数枚のウェハを取り出すための化合物単結晶の製造方法に用いられる単結晶成長用容器に特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0064】
1 単結晶成長用容器(るつぼ)、1a 種結晶収容部(るつぼ下部)、1b テーパ部、1c るつぼ上部、3 種結晶、4 化合物原料(GaAs原料)、4a 化合物原料融液、4b 化合物単結晶、11 ステージ、12 昇降軸、13a〜13j ヒータ、14 断熱筒、15 チャンバー、20 VB装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶と化合物原料とを単結晶成長用容器内に充填し、前記化合物原料を加熱溶融した後に固化して化合物単結晶を成長させる化合物単結晶の製造方法に用いられる前記単結晶成長用容器であって、
下部に種結晶収容部を有し、上部に単結晶成長部を有し、前記種結晶収容部は内部に前記種結晶を収容した場合に前記種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつ前記単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形に沿う直線部分を前記正四角形の各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部を有し、前記単結晶成長部の横断面形状は、前記コーナー部以外に前記仮想の正四角形に対して内側にラウンド状に窪んだ部分を有する、単結晶成長用容器。
【請求項2】
種結晶と化合物原料とを単結晶成長用容器内に充填し、前記化合物原料を加熱溶融した後に固化して化合物単結晶を成長させる化合物単結晶の製造方法に用いられる前記単結晶成長用容器であって、
下部に種結晶収容部を有し、上部に単結晶成長部を有し、前記種結晶収容部は内部に前記種結晶を収容した場合に前記種結晶が周方向に回転できないような構成を有し、かつ前記単結晶成長部の横断面形状が仮想の正四角形に沿う直線部分を前記正四角形の各辺に有するとともにラウンド形状のコーナー部を有し、前記コーナー部のラウンド形状の曲率半径R1を、10mm≦R1≦L/2(L:採取するウェハの直径)とすることを特徴とする、単結晶成長用容器。
【請求項3】
前記種結晶収容部の横断面形状が非真円形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の単結晶成長用容器。
【請求項4】
前記種結晶収容部の底面が凹凸形状を有していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の単結晶成長用容器。
【請求項5】
前記単結晶成長用容器はpBNからなっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の単結晶成長用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−132553(P2010−132553A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16712(P2010−16712)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【分割の表示】特願2004−124536(P2004−124536)の分割
【原出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】