説明

化合物粉体、その製造方法およびリチウム二次電池へのその使用

本発明は、式LiNiM1M2(O)(SOで示される化合物の粉体およびその製造方法ならびに電極活物質としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiNiM1M2(O)(SOで示される化合物の粉体、その製造方法およびリチウム二次電池への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型やコードレス型の電気装置は、現在広範囲で使用されている。これらの携帯型の電気装置の小型化が続けられているため、これらの装置に電力を供給する高エネルギー密度で、より小さくてより軽いリチウム二次電池の要求が、近年急速に増加している。使用される二次電池は主としてニッケル水素電池やリチウムイオン電池である。民生用の用途(例えば、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ)において、ニッケル水素電池と比較してリチウムイオン二次電池の方が高エネルギー密度であるため、実質的にリチウムイオン二次電池が独占している。
【0003】
この種の二次電池は、リチウムイオンを可逆的に取り込み放出する正極および負極上の活物質によって区別される。この種の電池は、90年代初期に売り出された時、リチウムコバルト酸化物LiCoOが正極の電気化学的活物質として使用された。しかしながら、このLiCoOは、現在、リチウムイオン二次電池の正極活物質として市場で支配的ではあるものの、コバルトは値段が高く、入手しにくい欠点がある。リチウムイオンテクノロジーの市場(例えば、動力工具、ハイブリッドエンジン自動車(HEV)等の新しい応用分野)が拡大しているのに反して、コバルトの入手がしにくいことが、LiCoOが将来リチウムイオン電池の正極活物質の市場に供給されなくなる要因となる。現在においてさえ、年間のコバルト製造の25%より多くが電池部門に使用されている。したがって、正極活物質の代替品が至急必要となる。
【0004】
とりわけ、このような背景に対して、リチウムイオン電池の正極活物質としてLiNiOを使用することが比較的長い間検討されている。ニッケルはコバルトよりも実質的により経済的であり、量が多いために入手しやすい。加えて、LiNiOはLiCoOと比較して実質的に電気化学容量が高い。
【0005】
しかしながら、LiNiOには、二次電池に使用した際に電池の熱安定性が不十分となる。充放電プロセスの際に結晶構造の大きな変化が起き、そのような活物質を使用した電池の長期性能、サイクル特性が市場の要求を満たさない。
【0006】
上記の要因を改善するため、種々のLiNiOのドーピング元素、例えばCo、Al、Mn、Fe及びMgに対して、何年にも渡って、上述の要因を大きく改善するようなテストが行われてきた。例えば、そのようなドーパントを有する化合物としては、LiNi0.80Co0.15Al0.05、LiNi0.33Co0.33Mn0.33が挙げられる。これらのドーパントは、ニッケル含有リチウム混合金属化合物の市場を立ち上げ、元の活物質のLiCoOに加えて現在使用されている。
【0007】
貯蔵メディア(二次電池)の高エネルギー化の要求のため、ワット時/リットル(Wh/l)で示される体積エネルギー密度とワット時/kg(Wh/kg)で示される重量エネルギー密度とが区別される。二次電池の体積エネルギー密度は、とりわけ、正極側と負極側の両方における電極密度(g/cm)に影響される。正極又は負極の電極密度が高いほど貯蔵媒体の体積エネルギー密度も高くなる。電極密度は、電極の製造方法と使用される正極の活物質の順に両方の影響を受ける。正極材料の密度(例えば、タップ密度や圧縮密度)が高密度になるほど、一定の電極製造条件下(例えば、電極製造または電極組成物の製造で)おいて最終的な電極密度が高くなる。この知見は既にいくつかの文献に反映されている。
【0008】
特許文献1は、LiNiCoMOの式で表されるリチウム含有混合酸化物の圧縮密度について記載している。ここで、Mは、Al、Ca、Mg及び/又はBの少なくとも1つの金属元素である。これらの物質は、一次粒子が長方形または正方形の構造で二次粒子が球状であり、圧縮密度は2.4〜3.2g/cmである。
【0009】
特許文献1は、前駆体の形態や粒子形状は生成物(LiNiCoMO)の形状ならびに圧縮密度に非常に重要であることを指摘している。更に、圧縮密度が高いほど、正極の活物質の相対的な充填能が増加し、その結果電気化学的電池の容量が増加する。球状粒子は高い圧縮密度を達成するのに重要であることも記載している。
【0010】
正極活物質のタップ密度と電極密度、すなわちリチウムイオン電池の体積エネルギー密度との関係が非特許文献1に記載されている。
【0011】
電極製造においてある圧力を負荷させるので、粉末のタップ密度または圧縮密度は必要でなくてもよいが、この粉末を使用する電極の密度を導くものである。ある規定圧力負荷における粉末の圧縮密度は、この粉末を使用した電極密度について、より信憑性の高い結果を導く。上述の圧縮密度の測定、すなわち電極製造の前提条件は、圧縮中に粒子を破壊しないことである。粒子の破壊は、先ず、電極製造の制御不能を意味し、更に、粒子の破壊は不均一性を導く。それ故、破壊された粒子の内部破砕面は、粒子の外部表面として電極のバインダーや導電性添加剤と良好な接触が出来ない。圧縮密度と正極粉末の圧縮強度を決定した文献もある(例えば特許文献3参照)。
【0012】
一般式Li(1−y)で示される基材はリチウム二次電池の正極活物質として挙げられる。ここで、0.2≦x≦1.2及び0≦y≦0.7を示し、Mは遷移金属であり、NはMと異なる遷移金属またはアルカリ土類金属である。特許文献3には、電極製造で負荷される圧力において粒子床に負荷する圧力が穏やかとなるために、粒径分布が規定された形状となる必要があること、及び電極密度がそれにより最適化されるという事実が記載されている。粒径分布に加えるに、粉末粒子は、出来るだけ小さな細孔を有するべきであり、細孔径は1μm以下であり、細孔容積は0.03cm/gを超えないようにと記載されている(水銀ポロシメータで測定)。しかしながら、そのような生成物パラメータを達成するための特別な製法技術についての記載は無い。圧縮密度の測定において、粉末は0.3t/cmの圧力が負荷されている。
【0013】
特許文献3の実施例において、主としてリチウムコバルト酸化物が記載されている。上述の負荷圧力0.3t/cmにより、圧縮密度2.58〜3.32g/cmの範囲を達成している。
【0014】
圧縮密度に加えて、その材料の圧力負荷後の粒径1μm未満の粒子の体積分率が0.1%を超えないということも記載されている。圧縮後に微粒子が顕著に増加することは、圧力負荷中に粒子が破壊されることを意味する。このような現象は、電極の均一性を危うくする。
【0015】
しかしながら負荷圧力0.3t/cmは電極製造中に実際に負荷される圧力とは対応しないと思われる。電極製造中、電極材料は、少なくとも1t/cmの圧力に耐える必要がある。特許文献4においては、実施例1の電極製造で2t/cmの圧力を負荷している。特許文献4では、リチウムに関して3種の金属元素を含み、リチウム二次電池用の活物質として使用できるリチウム混合金属酸化物(LNCO)の圧縮強度に関して記載されている。
【0016】
特許文献4で製造される物質の圧縮強度は0.001〜0.01Nである。特許文献4では、特許文献3の見解とは反対に、電極製造中に一次構成要素への粒子の崩壊は好ましいことが記載されている。特許文献4によれば、より小さい要素に崩壊した物質は、電極中に粒子が均一分散となるような流動性を有する。
【0017】
特許文献5には、リチウム混合金属酸化物の圧縮強度が議論されている。ここで挙げられている化合物は、LiNiCoMn2−aである。特許文献3には負荷圧力が0.3t/cmのみ記載されているが、特許文献5のリチウム混合金属酸化物においては50MPa以上の負荷圧力(=0.5t/cm以上)が記載されている。しかしながら、特許文献5に関連する化合物は、特許文献3におけるそれよりも狭い範囲の化合物である。特許文献5では、マンガンが必須構成成分である。特許文献5では、なぜその物質が特別な圧縮強度を有するかについて言及していない。規定された粒径範囲と規定された比表面積についてのみ記載されている。そのような特別な圧縮強度を有する物質の特殊な製法についてなんら記載がない。
【0018】
特許文献5は、陰イオン酸素に加えて更に陰イオン成分としてフッ化物を含有する化合物を開示している。特許文献6には、実質的にリチウム混合金属酸化物化合物で示され、硫酸アニオンの含有量が0.4〜2.5重量%である非水二次電池の正極活物質が請求されている。硫酸アニオンの高含有率は、最終生成物(実質的にLiCOアロイ)における炭素含有量を低く維持するためである。
【0019】
【特許文献1】独国特許出願公開第19849343号明細書
【特許文献2】Jounal of The Electrochemical Society,Vol.15(2004),10,p.A1749−A1754
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0023113号明細書
【特許文献4】特開第2001−80902号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0220700号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1450423号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、電極製造(正極)において二次粒子が破壊されず、粉末状にならないリチウム混合金属酸化物を提供することである。
【0021】
電極製造における二次粒子の維持は、電極の均一性にとって非常に重要である。同時に、高い電極密度および良好な電気化学特性は、そのようなリチウム混合金属酸化物により達成できる。本発明の更なる目的は、リチウム混合金属酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的は、LiNiM1M2(O)(SO(「LNMOS」または「リチウム混合金属酸化物」と称されることがある)で示される化合物の粉体であって、M1はFe、Co、Cr、Mg、Zn、Cu及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、M2はMn、Al、B、Ca、Sr、Ba、Si及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、a、b、c、d、xはそれぞれ0.95≦a≦1.1、0.3≦b≦0.83、0.1≦c≦0.5、0.03≦d≦0.5、0.001≦x≦0.03であり、二次粒子の圧縮強度が100MPa以上であることを特徴とする粉体によって達成できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の化合物の粉体は、電極製造(正極)において二次粒子が破壊されず、粉末状にならないリチウム混合金属酸化物を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1で合成した本発明のリチウム混合金属酸化物粉体の走査型電子顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【図2】図2は、実施例1で合成した本発明のリチウム混合金属酸化物粉体を200MPaの圧力を負荷した後の走査型電子顕微鏡写真を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の化合物の一部として、以下の表に示すものが挙げられる。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明の粉体LNMOS化合物の二次粒子は、圧縮強度が好ましくは200MPa以上であり、更に好ましくは300MPa以上である。二次粒子は、一次粒子の集合体から成る小型でぎっしりつまったものである。一次粒子は、結晶化プロセス中の核から形成される。
【0028】
本発明における二次粒子の圧縮強度は、上述の特許文献3(米国特許出願公開第2004/0023113号明細書)の第6ページの実施例1に記載されている方法で決定される。
【0029】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、非常に低い空隙率によって区別される。本発明のリチウム混合金属酸化物粉体のASTM D 4222に従って決定される空隙率は、0.01cm/g以下、好ましくは0.008cm/g以下、更に好ましくは0.006cm/g以下である。
【0030】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、回転楕円体状(球状)と規則正しい非回転楕円体状の形状の両方で調製できる。
【0031】
本発明の好ましいリチウム混合金属酸化物粉体は、二次粒子の形状が回転楕円体状(球状)であることによって区別される。二次粒子の形状ファクターが0.8より大きく、好ましくは0.9より大きい。
【0032】
二次粒子の形状ファクターは、米国特許第5,476,530号明細書、第7及び8欄ならびに図5に記載される方法で決定される。この方法は、粒子の球形度である粒子の形状ファクターを決定する。形状ファクターは生成物の走査型電子顕微鏡写真からも決定できる。
【0033】
二次粒子の形状ファクターは、粒子の外周や粒子面積、ならびにそれらから算出される粒径を評価することによっても決定できる。すなわち、粒径は以下の式で算出される。
【0034】
【数1】

【0035】
粒子の形状ファクターfは、粒子の外周Uと粒子面積Aとから以下の式で導かれる。
【0036】
【数2】

【0037】
理想的な球状粒子の場合、dおよびdは等しい大きさとなり、形状ファクターは1ちょうどとなる。
【0038】
図1に、実施例1で合成した本発明のリチウム混合金属酸化物粉体の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0039】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、好ましくは、初期粉体と200MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD10値の差が、1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下である。
【0040】
圧縮後のD10値の減少は、粒子の一部が破壊されてより小さい粒径となることを意味する。それ故、D10値の変化は本発明の粉体の圧縮強度を決定するための定量的な数値となる。
【0041】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、好ましくは、初期粉体と200MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD90値の差が、1μm以下である。
【0042】
図2は、実施例1で合成した本発明のリチウム混合金属酸化物粉体を200MPaの圧力を負荷した後の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0043】
図2は、圧力を負荷した後に回転楕円体状の二次粒子が破片に破壊されていないことを示す。これより、実施例1で合成した本発明のリチウム混合金属酸化物粉体床は、200MPaの圧力を負荷しても粒子の破壊無しに耐えられることが明らかである。
【0044】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、以下の式(1)で示されるように粒径分布の幅が規格化されている。
【0045】
【数3】

【0046】
Dは二次粒子の直径を示し、1.4未満であり、好ましくは1.2未満である。
【0047】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体の200MPaの圧力を負荷して測定した圧縮密度は、3.2g/cm以上、好ましくは3.5g/cm以上である。
【0048】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体のASTM B 527に従って測定したタップ密度は、2.2g/cm以上、好ましくは2.4g/cm以上であることにより区別される。
【0049】
本発明は、更にリチウム混合金属酸化物粉体の製造方法に関し、当該方法は、(a)ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.05cm/g未満である共沈させたニッケル含有前駆体を調製する工程と、(b)(a)で調製した前駆体とリチウム含有化合物を混合する工程と、(c)CO非含有(CO含有率0.5ppm以下)酸素含有キャリアガスを使用しながら(b)で調製した前駆体混合物を多段階で1000℃に加熱して粉体生成物を製造する工程と、(d)超音波による粉末の解砕および解砕された粉末の篩分けを行う工程とから成る。
【0050】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体の製造方法において、ニッケル含有前駆体が0.05cm/g未満の低い空隙率を有していることが必要であり、好ましくは空隙率が0.04cm/g未満、更に好ましくは0.03cm/g未満である。好ましいニッケル含有前駆体は、Ni、Co、Mn、Al、Fe、Cr、Mg、Zr、B、Zn、Cu、Ca、Sr、Ba及びそれらの混合物などの混合酸化物、混合水酸化物、混合オキシ水酸化物が好ましく、更にそれらの部分酸化混合水酸化物および部分酸化ヒドロキシサルフェートが好ましい。
【0051】
共沈ニッケル含有前駆体の沈殿反応は、pH8〜14、好ましくは9〜13において、アルカリ金属水酸化物溶液および必要に応じてアンモニアガス又は水溶液状アンモニアを供給することによって沈殿させて行う。共沈ニッケル含有前駆体を得る反応は、バッチ式でも半連続式でも効果があるが、連続式で行うことが好ましい。連続法では、金属塩溶液、アルカリ金属水酸化物溶液およびアンモニア溶液を反応器に同時に供給し、生成物の懸濁液を連続的に取出す。好ましい金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、ハロゲン化物などの塩化物などの水溶性金属塩である。沈殿反応を行う際、アルカリ金属の水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ金属塩溶液として使用する。
【0052】
ニッケル含有前駆体として、回転楕円体状(球状)のものでも非回転楕円体状(非球状)のものでも製造でき、回転楕円体状(球状)のものはアンモニア又はアンモニア塩の存在下で沈殿反応を行うことによって得られる。
【0053】
本発明のリチウム混合金属酸化物の製造のため、共沈ニッケル含有前駆体は、各成分の均一混合物が形成されるようにリチウム含有化合物と十分に混合させられる。リチウム含有化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム一水和物またはそれらの混合物が好ましく使用できる。
【0054】
本発明のリチウム混合金属酸化物を得るための前駆体混合物の反応において、熱処理(焼成)を複数の温度段階で行うことが重要である。好ましくは、焼成を3段階の温度で行い、第1段階の前駆体混合物の加熱が200〜400℃で2〜10時間であり、第2段階の加熱が500〜700℃で2〜10時間であり、第3段階の加熱が700〜1000℃で2〜20時間である。好ましくは、前駆体混合物の焼成において、第1段階の加熱が250〜350℃で2〜10時間であり、第2段階の加熱が550〜650℃で2〜10時間であり、第3段階の加熱が725〜975℃で2〜20時間である。特に好ましくは、前駆体混合物の焼成において、第1段階の加熱が250〜435℃で4〜8時間であり、第2段階の加熱が550〜650℃で4〜8時間であり、第3段階の加熱が725〜975℃で5〜15時間である。
【0055】
上記の温度保持段階と関連する反応制御により、強く互いに焼結した二次粒子の凝集が無い生成物が得られる。強く互いに焼結した二次粒子の凝集は、超音波篩によって個々の二次粒子に崩壊することが無いことを意味する。強く互いに焼結した二次粒子の凝集が無い生成物は、焼成後に通常必要とされる粉砕工程を省くことが出来るという利点がある。粉砕工程は、個々の球状二次粒子の破壊が角を有する角形粒子の形成を引き起こすという欠点がある。特にこのような粒子は電極製造において、高圧力下の材料床内で、更なる粒子の破壊が起こる。
【0056】
焼成後に得られ、僅かに凝集形態が認められる本発明のリチウム混合金属酸化物は、超音波および引続いて篩分けによる穏やかな解砕工程に供ずる。超音波により焼成中に付随的に生じたゆるい凝集体を個々に解きほぐすことにより、穏やかな方法で、二次粒子自身が破壊されることなく構成成分(二次粒子)に分解することが出来る。
【0057】
更に、LNMOSを得る反応が、CO非含有酸素含有キャリアガス雰囲気で行われることが重要である。CO非含有キャリアガス雰囲気は、キャリアガスのCO含有量が0.5ppm以下のことを意味する。COの不存在は最終生成物中のCOの混入を防ぎ、結晶格子欠陥の形成を少なくする。
【0058】
好ましくは、キャリアガスが20〜100体積%、特に好ましくは40〜100体積%の酸素を含有する。本発明の製造方法は、ニッケル含有前駆体の反応が二次粒子の形状および/または粒径分布を保持しながら行われるという点に特徴がある。
【0059】
本発明の製造方法は、非常に狭い粒径分布を有する球状ニッケル含有前駆体を二次粒子の形状を保持したままリチウム混合金属酸化物に変換することを可能とする。
【0060】
本発明のリチウム混合金属酸化物粉体は、特にリチウム二次電池の製造に好適に使用できる。好ましくは、公知の材料と一緒にリチウム二次電池の電極材料(負極、正極)に使用される。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の実施例および比較例を用いて更に詳述する。
【0062】
回転楕円体状Ni0.33Co0.33Mn0.33(O)0.2OH1.8(SO0.01を共沈Ni前駆体として使用した。この物質は空隙率が0.0372cm/gであっ
た。粒径40μm未満のLiCO(Chemetall社製)をNi前駆体と、混合比Li/(Ni+CO+Mn)=1.05:1.00となるように乾式混合した。このようにして調製したドライブレンド(予備混合体)をオーブンに室温で入れ、第1段階として300℃で6時間加熱した。予備混合体の加熱およびオーブンにおける加熱工程は、キャリアガスとして実質的にCOを含まない(0.5ppm以下)酸素気流中で行った。300℃の加熱において、ニッケル含有前駆体からの水の放出制御を行った。
【0063】
この温度制御の後、温度を600℃にして6時間この温度を維持した。このオーブン温度で2つの原料成分の非常に制御された反応が行われ、Li1.04Ni0.33Co0.33Mn0.33(SO0.01を得た。反応温度は2成分の反応がゆっくりと制御されて最終生成物を得るために、時間をかけて低めに保った。この制御された反応により、結晶格子の欠陥や粒子構造中に大きな孔が形成されるのを防いだ。反応中の物質からのガスの通気排出は許されていた。結晶の熟成を行って高結晶化度を達成するために、最終的に物質を860℃に加熱して10時間この温度を維持した。
【0064】
加熱後、生成物の温度を室温まで戻し、メッシュサイズ50μmの篩に直接注いだ。篩は更に、200wの超音波を発生する超音波発生器を装着した。解砕および篩分けした生成物のタップ密度は2.2g/cmで、空隙率は0.0029cm/gであった。また、D10値は5.67μm、D50値は8.96μm、D90値は13.62μmであり、粒径分布の規格化幅は、(13.62μm−5.67μm)/8.96μm=0.89と算出された。
【0065】
得られた生成物の100MPaの圧力負荷後の圧縮密度は3.0g/cmであり、200MPaの圧力負荷後の圧縮密度は3.3g/cmであった。
【0066】
100MPaの圧力負荷後のD10値は、負荷前の生成物と比較して0.2μm減少した、200MPaの圧力負荷後のD10値は、負荷前の生成物と比較して0.4μm減少した。200MPaの圧力負荷前と負荷後の生成物の粒径分布を図3に示す。
【0067】
実施例で製造したLNMOSについて、負極(負極)としてリチウム金属を使用した電気化学的半電池の正極活物質としての性能を測定した。電解質としては、LiPFを1mol/L濃度で含有するエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びジエチルカーボネートの1:1:1混合物を使用した。正極は83重量%の活物質と10重量%のカーボンブラック(carbon black super P)とバインダーとして7重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とから成っていた。初期電気化学的容量は、2.75〜4.3Vで、0.1Cの定電流レート(10時間で完全に充放電)において測定した。この測定条件下で、初期放電容量は160mAh/gを達成した。
【0068】
電気化学的サイクル挙動は2.75〜4.3Vで、1Cの定電流レート(1時間で完全に充放電)において測定した。40回の電気化学的充放電サイクルを行った後においても、1Cの定電流レートにおける電池の放電容量は、初期放電容量の98.5%を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNiM1M2(O)(SOで示される化合物の粉体であって、M1はFe、Co、Cr、Mg、Zn、Cu及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、M2はMn、Al、B、Ca、Sr、Ba、Si及びこれらの組合せから選択される1種以上の元素を示し、a、b、c、d、xはそれぞれ0.95≦a≦1.1、0.3≦b≦0.83、0.1≦c≦0.5、0.03≦d≦0.5、0.001≦x≦0.03であり、二次粒子の圧縮強度が100MPa以上であることを特徴とする粉体。
【請求項2】
圧縮強度が200MPa以上である請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
圧縮強度が300MPa以上である請求項1に記載の粉体。
【請求項4】
ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.01cm/g以下である請求項1〜3の何れかに記載の粉体。
【請求項5】
ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.008cm/g以下である請求項1〜3の何れかに記載の粉体。
【請求項6】
ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.006cm/g以下である請求項1〜3の何れかに記載の粉体。
【請求項7】
二次粒子が球状である請求項1〜6の何れかに記載の粉体。
【請求項8】
二次粒子の形状ファクターが0.8より大きい請求項7に記載の粉体。
【請求項9】
二次粒子の形状ファクターが0.9より大きい請求項7に記載の粉体。
【請求項10】
初期粉体と200MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD10値の差が、0.5μm以下である請求項1〜9の何れかに記載の粉体。
【請求項11】
初期粉体と200MPaで圧縮した後の粉体とでASTM B 822に従って測定したD90値の差が、1μm以下である請求項1〜9の何れかに記載の粉体。
【請求項12】
二次粒子の直径をDで示した場合の式(1):(D90−D10)/D50で示される粒径分布の規格化幅が1.4未満である請求項1〜11の何れかに記載の粉体。
【請求項13】
二次粒子の直径をDで示した場合の式(1):(D90−D10)/D50で示される粒径分布の規格化幅が1.2未満である請求項1〜11の何れかに記載の粉体。
【請求項14】
200MPaで圧縮した際の圧縮密度が3.2g/cm以上である請求項1〜13の何れかに記載の粉体。
【請求項15】
ASTM B 527に従って測定したタップ密度が2.2g/cm以上である請求項1〜14の何れかに記載の粉体。
【請求項16】
ASTM B 527に従って測定したタップ密度が2.4g/cm以上である請求項1〜14の何れかに記載の粉体。
【請求項17】
請求項1〜16の何れかに記載の粉体の製造方法であって、(a)ASTM D 4222に従って測定した空隙率が0.05cm/g未満である共沈させたニッケル含有前駆体を調製する工程と、(b)(a)で調製した前駆体とリチウム含有化合物を混合する工程と、(c)CO非含有(CO含有率0.5ppm以下)酸素含有キャリアガスを使用しながら(b)で調製した前駆体混合物を多段階で1000℃に加熱して粉体生成物を製造する工程と、(d)超音波による粉末の解砕および解砕された粉末の篩分けを行う工程とから成ることを特徴とする粉体の製造方法。
【請求項18】
ニッケル含有化合物が、Ni、Co、Mn、Al、Fe、Cr、Mg、Zr、B、Zn、Cu、Ca、Sr、Ba及びこれらの組合せの金属の混合酸化物、混合水酸化物、混合オキシ水酸化物、部分酸化混合水酸化物、部分酸化混合硫酸水酸化物である請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
リチウム含有化合物が、炭酸リチウム、水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウム、硝酸リチウム又はそれらの混合物である請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
工程c)の前駆体混合物を多段階で1000℃に加熱する工程が、第1〜3段階の加熱より成り、第1段階の加熱が200〜400℃で2〜10時間であり、第2段階の加熱が500〜700℃で2〜10時間であり、第3段階の加熱が700〜1000℃で2〜20時間である請求項17〜19の何れかに記載の製造方法。
【請求項21】
工程c)の前駆体混合物を多段階で1000℃に加熱する工程が、第1〜3段階の加熱より成り、第1段階の加熱が250〜350℃で2〜10時間であり、第2段階の加熱が550〜650℃で2〜10時間であり、第3段階の加熱が725〜975℃で2〜20時間である請求項17〜19の何れかに記載の製造方法。
【請求項22】
工程c)の前駆体混合物を多段階で1000℃に加熱する工程が、第1〜3段階の加熱より成り、第1段階の加熱が250〜435℃で4〜8時間であり、第2段階の加熱が550〜650℃で4〜8時間であり、第3段階の加熱が725〜975℃で5〜15時間である請求項17〜19の何れかに記載の製造方法。
【請求項23】
酸素含有キャリアガスが20〜100体積%の酸素を含有する請求項17〜22の何れかに記載の製造方法。
【請求項24】
酸素含有キャリアガスが40〜100体積%の酸素を含有する請求項17〜22の何れかに記載の製造方法。
【請求項25】
ニッケル含有前駆体の反応が、二次粒子の形状および/または粒径分布を維持しながら行われる請求項17〜24の何れかに記載の製造方法。
【請求項26】
請求項17〜25の何れかに記載の方法で得られる粉体化合物。
【請求項27】
請求項1〜26の何れかに記載の粉体化合物のリチウム二次電池の電極材料としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−505732(P2010−505732A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531776(P2009−531776)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008848
【国際公開番号】WO2008/043558
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507421234)トダ・コウギョウ・ヨーロッパ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (6)
【Fターム(参考)】