説明

化学処理プラントの安全を考慮した化学処理の最適化法

【課題】特定の化学処理プラントの安全を確保する方法。
【解決手段】特定の化学処理プラントでの特定の化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、前記特定の化学処理で使用される少なくとも1つの材料の意図的に含まれた発火の後の圧力上昇率を測定する。前記化学処理プラントにおける前記特定の化学反応の安全操業を可能とする特定の圧力上昇率は、前記複数組の処理条件案に対応する最終的圧力上昇率から選択することができる。前記特定の化学処理は、選択した圧力上昇率に対応する前記複数組の処理条件のうちの特定の一組の処理条件を使用しながら、前記特定の化学処理プラントで実施することができる。補足として、前記特定の化学反応は、製品収率又は原料活用などの補助パラメータごとに、引き続き及び追加的に最適化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、化学処理の最適化に関する。特に、本発明は、化学処理プラントの安全を考慮した化学処理の最適化に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業用化学薬品は、化学処理プラントで、一般には大量に(年間数千トン)生成される。化学処理プラントは、有機化学薬品(即ち、石油化学製品を含む)且つ無機化学薬品の生成に使用できる。一般に、化学処理プラントは、バッチ処理方式(即ち、バッチ化学処理反応器を用いた一括処理)、或いは、連続処理方式(即ち、連続化学処理反応器を用いた連続処理)での化学薬品の生成に使用できる。
【0003】
一般に化学薬品を生成する際、及び、特に有機化学薬品を生成する際には、化学反応物質から所望の化学生成物への効率的化学反応が容易になるよう、高温及び高圧の条件下で化学反応物質を反応させるのが化学処理技術では一般的である。多くの化学反応においては、化学反応物質及び生成された化学生成物の少なくとも1つは、化学的に不安定(即ち、急速に化学反応を起こしがち)である。化学的に不安定な化学反応物質及び化学的に不安定な化学生成物の少なくとも1つが化学反応器内に存在することは、化学生成物を生成するため化学反応物質を反応させる化学処理プラントにおける安全への配慮につながる。非限定的な例として、酸化エチレンを生成するためのエチレンと酸素の反応などのオレフィンの酸化反応(即ち、オレフィンのエポキシ化反応)は、酸化剤(即ち、酸素)の存在下における酸化しやすい有機化学反応物質(即ち、オレフィン)の存在により、特に可燃性の影響を受けやすい。
【0004】
背景としては、化学処理プラントでの高温且つ高圧におけるエチレンと酸素の反応による酸化エチレン生成の様々な様態が、化学処理技術において知られている。
【0005】
例えば、Evansらは、米国特許第6,372,925号、国際特許第/2004/092148号及び米国特許公開第2004/0236124号にて、化学処理に用いられる選択性銀系触媒の時効作用を考慮した、エチレンと酸素の反応による酸化エチレンの生成のための化学処理を開示している。選択性銀系触媒の時効作用を踏まえ、化学処理では、化学処理に用いられる選択性銀系触媒が時効する前及び後に、異なる反応温度と異なる酸化エチレン化学反応体濃度が用いられる。
【0006】
また、Garyらは、米国特許第7,153,985号において、化学処理を行う化学処理プラントにおける後発火状態(ポストイグニッション)を避けた、エチレンと酸素の反応による酸化エチレンの生成のための化学処理を開示している。化学処理プラントにおける後発火状態は、後発火状態の化学処理プラントへの影響を示す少なくとも4つの炭素原子を有する炭化水素の濃度を化学処理プラントにおいて監視することにより、ある程度回避される。
【0007】
化学処理プラントの安全性は、化学処理プラントにおける新規及び既存の化学処理の実施において、相当重要であり続ける傾向にある。そのためには、化学処理プラントにおいて新規及び既存の化学処理の実施する際、化学処理プラントの安全を確実にするために使うことができる一般的方法が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、化学処理プラントにおいて化学処理を実施する際(即ち、通常、特に化学反応器での化学処理の実施を含む)、化学処理プラント(即ち、通常、化学反応器を含む)の安全な操業方法を提供する。方法は、化学処理で使用される少なくとも1つの材料の格納容器内での意図的な発火の後の、格納容器内の圧力上昇率の測定を基礎としている。格納容器の上述の圧力上昇率の複数の測定が、複数組の化学処理条件案で行われる。複数組の化学処理条件案の意図的な発火は、通常(必然ではないが)、化学処理プラントとは別の試験装置の格納容器内で行われる。本発明は、特定の化学処理プラントで特定の化学処理を実施する際、化学処理プラントが安全操業を提供する格納容器の圧力上昇率を基礎として、化学処理プラントの安全操業のため、複数組の化学処理条件案が1つ以上選択されることを意図している。
【0009】
本発明による化学処理プラントの特定の安全な操業方法は、特定の化学処理プラントでの特定の化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、特定の化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定することを含む。こうして、前述の測定では、複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率が求められる。この特定の方法は、複数の圧力上昇率から、特定の化学処理プラントにおける特定の化学処理の安全操業を可能とする特定の圧力上昇率を選択することも含む。この特定の方法は、複数の圧力上昇率のうち特定の圧力上昇率に対応する複数組の処理条件のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、特定の化学処理プラントにおいて特定の化学処理を実施することも含む。
【0010】
本発明による化学処理プラントの別の特定の安全な操業方法は、特定の化学処理プラントでの特定の化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、特定の化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定することも含む。こうして、前述の測定では、複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率が求められる。この特定の方法は、複数の圧力上昇率から、特定の化学処理プラントにおける特定の化学処理の安全操業を可能とする準−複数の圧力上昇率を選択することも含む。この特定の方法は、準−複数の圧力上昇率内の各圧力上昇率について、特定の化学処理のための補助パラメータの値を決定することも含む。よって、前述の決定は、準−複数の圧力上昇率に対応する特定の化学処理のための準−複数の補助パラメータの値を提供する。この特定の方法は、準−複数の補助パラメータの値から選択された補助パラメータの特定の値に対して最適化された前記準−複数の圧力上昇率のうち、特定の圧力上昇率に対応する複数組の処理条件案のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、特定の化学処理プラントにおいて特定の化学処理を実施することも含む。
【0011】
本発明によるオレフィン酸化化学処理プラントの特定の安全な操業方法は、特定の化学処理プラントでのオレフィンの酸化化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、オレフィンの酸化化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定することを含む。こうして、前述の測定では、複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率が求められる。この特定の方法は、複数の圧力上昇率から、特定の化学処理プラントにおけるオレフィンの酸化化学処理の安全操業を可能とする特定の圧力上昇率を選択することも含む。この特定の方法は、複数の圧力上昇率のうち特定の圧力上昇率に対応する複数の処理条件のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、特定の化学処理プラントにおいてオレフィンの酸化化学処理を実施することも含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、化学処理プラントで化学処理を実施する際の化学処理プラントの安全な操業方法を含み、以下の説明の文脈において理解される。以下の説明は、上述の図面において理解される。上述の図面は、説明を意図するものであって、上述の図面は必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の目的、特徴及び利点は、以下に記載される発明を実施するための形態の文脈において理解される。発明を実施するための形態は、添付の図面において理解され、本開示の大部分を形成する。
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る、特にエチレン酸化反応を実施することができる化学酸化処理プラントの概略図を示す。
【図2】本発明の方法に係る試験データの生成及び収集に使用することができる試験装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の方法により安全操業を確実にできる特定の化学処理プラントの概略図を示す。図1に概略図が示された特定の化学処理プラントは、オレフィンの酸化化学処理、これに限定はしないが、に適用できる化学酸化処理プラントを意図するものである。特に、オレフィンの酸化化学処理としては、エチレン反応物質と限定はしないが酸素などの酸化剤から酸化エチレン(即ち、エチレンエポキシド)化学生成物を生成するエチレンの酸化化学処理が挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。
【0016】
図1は、オレフィン酸化処理、特にエチレン酸化処理などの化学酸化処理を実施する際に、安全性を確実にできる化学処理プラント(化学反応器を含む)を示すが、本実施形態も本発明も、これに必ずしも限定されない。正確には、本実施形態及び本発明は、特定の化学処理プラント(特定の反応器を含む)で行われるのが望ましい特定の化学処理における少なくとも1つの材料の望まない又は意図しない発火による圧力上昇率が、特定の化学処理プラントの危険な操業の原因となる可能性がある状況において適用できることも意図する。
【0017】
従って、広義には、本実施形態及び本発明は、限定はしないが無機化学プロセス、有機化学プロセス及びハイブリッド(即ち、無機及び有機)化学処理などを含む化学処理が実施できる、限定はしないがバッチ式化学処理プラント及び連続化学処理プラントなどを含む化学処理プラントの安全性を確実にするために適用できる。有機化学処理においては、本実施形態及び本発明は、化学酸化処理、更に詳しく言えば、特にエチレンの酸化処理などのオレフィンの酸化処理において有利に実践できる。
【0018】
まず最初に、図1に概略図が示された化学処理プラントは、(1)酸化性ガス供給管13bを流れる酸化性ガス13a、(2)バラストガス供給管14bを流れるバラストガス14a、及び、(3)酸化剤ガス供給管15bを流れる酸化剤ガス15aを示している。酸化性ガス供給管13b、バラストガス供給管14b及び酸化剤ガス供給管15bはそれぞれ、連結管16に接続され、供給を行う。以下の更なる検討によれば、リサイクルガス供給管12もまた、連結管16に接続され、供給を行う。
【0019】
本実施形態においては、酸化性ガス13aは、通常、特にエチレンなどのオレフィンからなる。しかし、上述のように、本実施形態も本発明も、一般的にはオレフィンの酸化処理、更に詳しくはエチレンの酸化処理に限定されない。正確には、本実施形態は、更に一般的には、(1)エチレンの酸化処理を含むオレフィンの酸化処理を含んでもよい酸化処理、且つ、(2)エチレンの酸化処理以外のオレフィンの酸化処理を含んでもよい酸化処理、及び、(3)オレフィンの酸化処理以外の酸化処理に適用でき、前述の酸化処理全てにおいて酸化性ガスが使用される。
【0020】
バラストガス14aは、図1に概略図が示された化学処理プラントで実施することができる特定の化学処理においては従来的な、幾つかのバラストガスのいずれを含んでもよいが、これに限定されない。このようなバラストガスは、大抵の場合、それを使用する特定の化学処理で不活性なガスを意図するが、必ずしも他を排除するものではない。従って、一般にバラストガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン及びキセノンのガスを含んでもよい。オレフィンの酸化処理においては、窒素バラストガス及びメタンバラストガスのいずれか1つが、一般的なバラストガスである。
【0021】
酸化性ガス13aは、図1に概略図が示された化学処理プラントで実施することが望ましい、通常特定の化学酸化処理においては従来的な幾つかの酸化剤ガスのいずれかからなる。特に、酸素、オゾン、亜酸化窒素及び一酸化窒素の酸化剤ガスが含まれている。特に最も一般的なものは、オレフィンの酸化反応においてエチレンなどのオレフィンを酸化するための、酸素酸化剤ガスである。
【0022】
図1に示すように、リサイクルガス供給管12、酸化性ガス供給管13b、バラストガス供給管14b及び酸化剤ガス供給管15bに接続され、供給を行う連結管16は、ガス対ガス熱交換器5にもまた接続される。一般に、連結管16及びそれに接続される対応して取り付けられたガス供給管12/13b/14b/15bは、図1に概略図が示された化学処理プラントの所望の生産率に適切な寸法とすることを意図している。同様に、ガス対ガス熱交換器5もまた、図1に概略図が示された化学処理プラントの所望の生産率のため同様の寸法とされる。
【0023】
以下の更なる詳細で検討される化学処理プラントに含まれる連結管16、ガス供給管12/13b/14b/15b、ガス対ガス熱交換器5及び他の構成要素の構成材料は、図1に概略図が示された化学処理プラントで実施される特定の化学処理に適切であることが意図される。このような構成材料には、幾つかの金属及び金属合金のいずれかが挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。例えば、また限定はしないが、ステンレス鋼合金が特に一般的である。
【0024】
ガス対ガス熱交換器5で熱交換処理を行った後、通常少なくとも酸化性ガス13a、バラストガス14a及び酸化剤ガス15aからなる供給物ガス混合物が、供給ガス供給導管1を通して供給され、反応器及びガス冷却器3に到達する。反応器及びガス冷却器3のヘッドには、反応器通気口2bに接続された反応器破裂板2aがある。
【0025】
反応器及びガス冷却器3には、通常、酸化性ガス13aと酸化剤ガス15aの混合及び反応を可能とする、特に微小孔性触媒材料などの支持触媒材料があり、一方で、そのような触媒の存在下で、酸化性ガス13aと酸化剤ガス15aが局所的で望ましくない高濃度になることを避けるため、バラストガス14aが最初に供給される。本実施形態においては、(1)酸化性ガス13aがエチレンなどのオレフィンを含む、又は、から成る場合、及び、(2)酸化剤ガス15aが酸素などの酸化剤を含む、又は、から成る場合、大抵は、特に図1には示されない特定の酸化触媒材料が含まれてもよく、また必ずしも含まれるわけではないが、選択性銀触媒材料、又は支持選択性銀触媒材料が含まれてもよい。
【0026】
反応器破裂板2a及び反応器通気口2bは、反応器及びガス冷却器3内から余分な圧力を排出(即ち、通常は脱気)することを意図している。反応器破裂板2aの特定の圧力解放条件は、反応器及びガス冷却器3の圧力格納の水準と圧力設計の水準が基礎となっている。一般に、このような圧力解放条件は、平方インチあたり約325から約450ポンドの範囲であるが、反応器破裂板2aのこのような特定の圧力解放条件は、本実施形態又は本発明を限定するものではない。
【0027】
反応器及びガス冷却器3での反応の後、反応ガス流が、反応器及びガス冷却器3の底に取り付けられた反応ガス導管4を通って反応器及びガス冷却器3を抜け出す。そして、反応ガス導管4が、反応ガス導管4内の反応ガス流を冷却するために、ガス対ガス熱交換器5に接続される。本実施形態においては、酸化性ガス13aが特にエチレンからなり、酸化剤ガス15aが特に酸素からなる場合、反応ガス導管4内の反応ガス混合物は、所望の反応生成物としての酸化エチレンからなる。また、通常、反応ガス混合物に含まれるのは、(1)おそらくは幾分かの未反応の反応体エチレンガスと幾分かの未反応酸素ガス、(2)幾分かの未反応窒素又は幾分かの未反応メタン、(3)望ましくない副生成物の二酸化炭素ガス、及び、(4)アルゴンガスである。
【0028】
冷却された反応ガス混合物は、次に洗浄塔7につながる冷却反応ガス導管6を通って、ガス対ガス熱交換器5を抜け出す。洗浄塔7では、所望の酸化エチレン反応生成物が、その他の幾つかの冷却された反応ガス混合物組成の水への溶解性よりも高い酸化エチレンの水への溶解性により、冷却された反応ガス混合物から分離される。生成された水溶性酸化エチレン溶液は、栓17を通って洗浄塔7から移動する。
【0029】
続いて、水溶性酸化エチレン溶液は、精製された非水溶性酸化エチレン反応生成物又はエチレン・グリコールを提供するために、蒸留されるか、でなければ、加水分解される。冷却反応ガス導管6を通って洗浄塔7に入る冷却された反応ガス混合物中の残余ガスは、次にリサイクルガス導管8につながる退出ガス出口を通って洗浄塔7を出る。リサイクルガス導管8内の残余ガスの一定部分は、次にリサイクルガス導管8へと入り込む空気抜き弁9aに接続される空気抜き弁9bを通って、リサイクルガス導管8から取り除かれる。リサイクルガス導管8内の残余ガスの取り除かれなかった部分は、リサイクルガス圧縮機11へと供給を行う追加リサイクルガス導管10を通って流れ続ける。リサイクルガス圧縮機11では、残余ガスの取り除かれなかった部分が、順に適切な圧力に再圧縮され、(先に簡潔に説明した)リサイクルガス供給管12を通って上述の連結管16に供給される。これら再圧縮された残余ガスは、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントの閉回路(即ち、連続化学処理)内での更なる処理のため、連結管16内で、酸化性ガス13a、バラストガス14a及び酸化剤ガス15aと混ぜ合わされる。
【0030】
当業者に理解されるように、ガス対ガス熱交換器5を通過した後、供給ガス供給導管1及び反応器とガス冷却器3内の加熱された酸化性ガス13a、加熱されたバラストガス14a及び加熱された酸化剤ガス15aに加わった加熱されたリサイクルガスは、供給ガス供給導管1内又は反応器及びガス冷却器3内の前述の供給ガス供給混合物の発火、燃焼、爆燃、爆轟又は爆発の原因となる望ましくない反応を起こしがちである。そこで、反応器及びガス冷却器3内に溜まった望ましくない圧力を緩和又は低減するため、反応器破裂板2aが使用される。溜まった望ましくない圧力を緩和又は低減するため、供給ガス供給導管1内、又は、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントの代替的に追加した位置で、追加の破裂板を使用してもよい。
【0031】
本実施形態及び本発明においては、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントの安全操業、且つ、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントに関連する或いは関連しない他の化学処理プラントいずれもの安全操業を確実にすることが望ましい。特に「安全操業」とは、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントに含まれるいずれかの構成要素内に溜まった望ましくない圧力による怪我人又は化学処理プラントへの損傷無しに、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントなどの化学処理プラントにおいて化学処理が実施されることを意味することを目的としている。
【0032】
図1に概略図が示された特定の化学処理プラント、又は全ての関連する化学処理プラントの前述の安全操業を提供するため、本実施例では、必ずしも必要ではないが、まず最初に試験装置を用いてみた。このような試験装置は、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントで使用される少なくとも1つの材料の発火に基づき、圧力上昇率を測定するよう設計されている。
【0033】
本実施例に係る試験目的に使用される特定の試験装置を図2に示す。
【0034】
図2は、格納容器20の排気に使用できる真空ポンプ22へと次に接続される反応ガス導管21に接続した、格納容器20を示す。格納容器20はまた、エチレン酸化性ガス(即ち、C2H4)、酸素酸化剤ガス(即ち、O2)、二酸化炭素副生ガス(即ち、CO2)、アルゴン不純物ガス(即ち、Ar)、窒素バラストガス(即ち、N2)及びメタンバラストガス(即ち、CH4)へと繋がる注入用連結管23にも接続されている。また、図2は、それぞれ格納容器20を部分的に貫く点火装置24(即ち、発火源)及び圧力変換器25を示している。最後に、点火装置24及び圧力変換器25は、同期及びデータ収集のためコンピュータ26にそれぞれ電気的に接続される。特に、コンピュータ26は、前述の格納容器20内の材料を発火させる際に、点火装置24を制御する。また、コンピュータは、前述の材料の少なくとも1つを発火させた後の時間関数として、格納容器2内の圧力上昇の監視もする。最後に、コンピュータ26は、格納容器20内の特定のガス混合物の発火後の最大圧力上昇率も計算するが、本発明は、特定のガス混合物の発火後の最大圧力上昇率を測定する代替方法を排除するものではない。
【0035】
図2に概略図が示された試験装置の操作は、まず、反応ガス、副生ガス、不純物ガス及びバラストガスの混合物を調査が望まれる特定の濃度レベルで格納容器20に詰めることを意図している。内容物が詰まった格納容器20内が特定の温度と圧力に達した後、次に、(1)内容物が詰まった格納容器20内の、生成された反応ガス、副生ガス、不純物ガス及びバラストガス混合物のうち少なくとも1つを、点火装置24を使って発火させ、そして、(2)圧力変換器25を使用して圧力上昇率(即ち、発火後の時間関数として格納容器20内の圧力が増加する率)を測定する。特定の圧力上昇率は、通常、平方インチ圧あたりのポンドの圧力単位で、時間関数単位として、通常はミリ秒で測定することができる。
【0036】
本実施形態と本発明において、圧力上昇率(即ち、絶対圧又は圧力ピークとの比較)が、容易に開放されないであろう圧力の非常に急速な増加(即ち、高圧力上昇率)がしばしば化学処理プラントの構成要素障害や、おそらくそれに関わる人身傷害の原因となりがちである範囲で、利益のパラメータと見なされるのは、そのような非常に急速な圧力上昇率が、化学処理プラント全体を通して容易に均一化され得ないからである。一方、試験装置内の低圧力上昇率は、そのような低圧力上昇率が最終的に高絶対圧の原因となる一定の状況下ではあるが、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントなどの化学処理プラントを操業する際、一定の状況においては、設備損傷を少なくできる。これは、爆発性損傷が、化学処理プラント内での非常に急速な圧力上昇率により起こる可能性があるからである。
【0037】
図2に概略図が示された試験装置の操作においては、本実施形態では、第一に、図1に概略図が示された特定の化学処理プラントでの特定の化学処理を行いたいとする、対応する複数組の処理条件案のため、少なくとも1つの材料の発火に基づいた複数の圧力上昇率を得る。複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率の結果から、最初に複数の圧力上昇率を測定した特定の化学処理を実施することを意図した特定の化学処理プラントの安全操業の限界となる、任意で決定した又は工学的に意図した圧力上昇率よりも数値的に低い準−複数の圧力上昇率を選択することができる。最後に、特定の化学処理プラントで特定の化学処理に安全に用いることができるであろう準−複数組の特定の処理条件を有することで、特定の化学処理プラントでの特定の化学処理用の前述の準−複数の安全操業用処理条件案から、少なくとも1つの補助パラメータの最適値を次に導く一組の特定の安全操業用処理条件案を選択することができるであろう。そのような補助パラメータは、例えば、製品収率、或いは、出発原料の利用、或いは、特定の化学処理プラントでの特定の化学処理に望ましいその他幾つかの操業パラメータを含んでもよい。
【0038】
図2に示された上記記載の試験装置、特に酸化エチレンを生成するためのエチレンと酸素の反応における操作の具体例を、表Iに示すデータとして以下に提供する。
【表1】

【0039】
表1は、エチレンと酸素の化学酸化反応を第一に含む上記酸化エチレン生成反応に妥当である化学処理条件案で行われた、一連の31回の試験例の最大圧力上昇率を示している。特定の処理条件では、異なる濃度(即ち、モル%で測定)のエチレン反応ガス、酸素酸化剤ガス、二酸化炭素副生ガス及びアルゴン不純物ガスが含まれていた。試験例1及び試験例2では、窒素バラストガスをバラストとして使用し、100モル%の試験混合物を得た。試験例3から試験例31にかけては、メタンバラストガスをバラストとして使用し、100モル%の試験混合物を得た。
【0040】
発火前の一連の31回の試験例における他の定数パラメータに含まれたのは、格納容器20(及びそれが含む反応物質)の温度が250℃、格納容器20(及びそれが含む反応物質)の全圧が大気圧以上で平方インチあたり約330ポンドであった。各試験例1〜31における試験例混合物案のそれぞれの発火は、点火装置24としてスパーク光源を用いて行われた。圧力上昇は、圧力変換器25を用い、約2から3秒の時間周期で測定された。試験例1〜31それぞれの最大圧力上昇率は、数学的漸近線として測定された。
【0041】
表Iのデータに見られるように、エチレン酸化生成反応にバラストガスとして窒素を使用することで、代替的にバラストガスとしてメタンを使用した場合より、概して高圧力上昇率になるようである。この特定の観察結果を理解するための分子基盤ははっきりとは知られておらず、そのため、この観察結果の基本的原因をめぐる憶測は対象としていない。また、図1に示される最大圧力上昇率のデータは、最大圧力上昇率がエチレン、酸素及び二酸化炭素濃度に依存していること、特に酸素濃度への強く依存していることを示していると思われる。
【0042】
上記観察結果に基づき、図1に示された化学処理プラントのような化学処理プラントで安全に行われる酸化エチレン生成反応は、通常、高エチレン濃度と高酸素濃度が酸化エチレンの高収率を提供することは期待できるが、低二酸化炭素副生成物濃度が比較的低い最大圧力上昇率を提供している試験例27に対応していることが予期できる。
【0043】
本発明の好適な実施形態と実施例は、本発明の限定ではなく、本発明の実例である。本発明、更には添付の請求項による化学処理プラントの安全な操業方法を提供しながら、特定の化学処理プラントとそこでの実施を意図した化学処理の修正および変形ができる。
【符号の説明】
【0044】
1・・・供給ガス供給導管、2a・・・反応器破裂板、2b・・・反応器通気口、3・・・ガス冷却器、4・・・反応ガス導管、5・・・ガス対ガス熱交換器、6・・・冷却反応ガス導管、7・・・洗浄塔、8・・・リサイクルガス導管、9a・・・空気抜き弁、9b・・・空気抜き弁、10・・・追加リサイクルガス導管、11・・・リサイクルガス圧縮機、12・・・リサイクルガス供給管、13a・・・酸化性ガス、13b・・・酸化性ガス供給管、14a・・・バラストガス、14b・・・バラストガス供給管、15a・・・酸化剤ガス、15b・・・酸化剤ガス供給管、16・・・連結管、17・・・栓、20・・・格納容器、21・・・反応ガス導管、22・・・真空ポンプ、23・・・注入用連結管、24・・・点火装置、25・・・圧力変換器、26・・・コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の化学処理プラントでの特定の化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、前記特定の化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定して、前記複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率を求め、
前記複数の圧力上昇率から、前記特定の化学処理プラントにおける前記特定の化学処理の安全操業を可能とする特定の圧力上昇率を選択し、及び、
前記複数の圧力上昇率のうち前記特定の圧力上昇率に対応する前記複数組の反応器条件のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、前記特定の化学処理プラントにおいて前記特定の化学処理を実施することを含む化学処理プラントの安全な操業方法。
【請求項2】
特定の化学処理プラントでの特定の化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、前記特定の化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定して、前記複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率を求め、
前記複数の圧力上昇率から、前記特定の化学処理プラントにおける前記特定の化学処理の安全操業を可能とする準−複数の圧力上昇率を選択し、
前記準−複数の圧力上昇率内の各圧力上昇率について、前記特定の化学処理のための補助パラメータの値を決定することで、前記準−複数の圧力上昇率に対応する前記特定の化学処理のための準−複数の前記補助パラメータの値を提供し、及び、
前記準−複数の前記補助パラメータの値から選択された補助パラメータの特定の値に対して最適化された前記準−複数の圧力上昇率のうち、特定の圧力上昇率に対応する前記複数組の処理条件案のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、前記特定の化学処理プラントにおいて前記特定の化学処理を実施することを含む化学処理プラントの安全な操業方法。
【請求項3】
前記化学処理プラントは、バッチ式化学処理プラントを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記化学処理プラントは、連続化学処理プラントを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記特定の化学処理は、有機化学プロセスを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項6】
前記有機化学プロセスは、酸化プロセスを含むことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記特定の化学処理は、無機化学プロセスを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
前記意図的に含まれた発火と前記圧力上昇率の前記測定は、前記化学処理プラントとは別の試験装置を用いて行われることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
特定の化学処理プラントでのオレフィンの酸化化学処理のための複数組の処理条件案のそれぞれについて、前記オレフィンの酸化化学処理において意図的に含まれた少なくとも1つの材料の発火の後の圧力上昇率を測定して、前記複数組の処理条件案に対応する複数の圧力上昇率を求め、
前記複数の圧力上昇率から、前記特定の化学処理プラントにおける前記オレフィンの酸化化学処理の安全操業を可能とする特定の圧力上昇率を選択し、及び、
前記複数の圧力上昇率のうち前記特定の圧力上昇率に対応する前記複数組の処理条件のうち特定の一組の処理条件を使用しながら、前記特定の化学処理プラントにおいて前記オレフィンの酸化化学処理を実施することを含むオレフィン酸化化学処理プラントの安全な操業方法。
【請求項10】
前記オレフィン酸化反応は、エチレン酸化反応を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記オレフィン酸化反応は、エチレン酸化反応以外を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記選択は、前記特定の化学処理プラントにおける前記オレフィンの酸化化学処理の安全操業を可能とする準−複数の圧力上昇率を提供することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記準−複数の圧力上昇率内の各圧力上昇率について、前記オレフィンの酸化化学処理のための補助パラメータの値を決定することで、前記準−複数の圧力上昇率に対応する前記オレフィンの酸化化学処理のための準−複数の前記補助パラメータの値を提供することを更に含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記特定の化学処理プラントにおける前記オレフィンの酸化化学処理の前記実施には、前記準−複数の前記補助パラメータの値から選択された前記補助パラメータの特定の値に対して最適化された前記準−複数の圧力上昇率のうち特定の圧力上昇率に対応する前記複数組の処理条件案のうち特定の一組の処理条件を用いることを特徴とする請求項13記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−538811(P2010−538811A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524079(P2010−524079)
【出願日】平成20年8月12日(2008.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/072880
【国際公開番号】WO2009/035807
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(507273035)エスデー リ−ツェンスフェルヴェールトゥングスゲゼルシャフト エムベーハー ウント コー. カーゲー (13)
【氏名又は名称原語表記】SD LIZENZVERWERTUNGSGESELLSCHAFT MBH & CO.KG
【Fターム(参考)】