化学処理用カートリッジおよびその使用方法
【課題】成分の分離処理を容易に実行できる化学処理用カートリッジおよびその使用方法を提供する。
【解決手段】外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの内部に化学処理のシーケンスを規定する空間を形成する。カートリッジの内部に、外部からサンプルを受け入れるウェル21と、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒をサンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するためのウェル23と、を形成する。
【解決手段】外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの内部に化学処理のシーケンスを規定する空間を形成する。カートリッジの内部に、外部からサンプルを受け入れるウェル21と、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒をサンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するためのウェル23と、を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで目的成分を分離する化学処理用カートリッジおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで化学反応を行わせる化学反応用カートリッジが開発されている(例えば、特開2005−37368号公報)。このカートリッジは、内部に化学反応のための空間を作り込むとともに、外力を加えた際の変形によって空間内で内容物を移送することで、所定の化学反応を行わせるものである。このカートリッジによれば、カートリッジの構造自体により化学反応のためのプロトコルを規定することができるとともに、密閉状態が保たれるため、所望のプロトコルを個人差なく安全に実行できる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−37368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、化学反応を用いて目的物を得ようとする場合、実験器具や試薬の準備にはじまり、反応開始のための作業、反応終結の見極め、反応試薬、未反応物、副生成物からの目的物の単離、反応物の同定、測定など、一連の操作が必要となる。このような操作には、高価な器具を使用する必要があり、時間、作業量とともに技術を要する。また、試薬として有害物質を使用する場合、あるいは化学反応により有害物質が発生する場合もある。
【0005】
図11は、N−ブロモスクシンイミド(NBS)によるp−キシレンのベンジル位の臭素化の反応に必要な手順を示している。この反応では、(1)p―キシレンを四塩化炭素(CCl4)溶媒に溶解、(2)反応試薬であるN−ブロモスクシンイミド(NBS)を添加、溶解、(3)ラジカル開始剤(α−α´−アゾビスイゾブチロニトリル)AIBNを添加、均一分散、(4)〜(5)沸点還流による加熱。コハク酸の析出、(6)コハク酸の除去、(7)亜硫酸ナトリウム添加による臭素の失活、(8)クロロホルム混合による分液抽出、(9)硫酸ナトリウム添加による脱水、(10)メタノール溶解による再結晶化、(11)シリカクロマトグラフィによる単離、(12)エバポレータによる減圧濃縮、などの手順が必要となる。また、反応経過を観察するため、沸点還流により加熱されている反応液を順次取り出して分液抽出し、反応物を分析、測定する作業が必要となる。さらに、最終的な生成物に対しても、分析等の作業を要する。
【0006】
上記手順のうち、とくに分液抽出や分析等、成分の分離に関わる作業が煩雑であるため、これらの作業を効率的に行う手段があれば実験に有用である。また本例の生成物には、催涙作用があり、実験者の安全を確保するにも有用である。さらに、薬品、試薬、その他の化学成分の製造にも有用となる。
【0007】
本発明の目的は、特開2005−37368号公報等に開示されたカートリッジに係る技術を活用することで、成分の分離処理を容易に実行できる化学処理用カートリッジおよびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の化学処理用カートリッジは、外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、前記カートリッジの内部には、外部からサンプルを受け入れる空間と、受け入れられた前記サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間と、が形成されていることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジによれば、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間が形成されているので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。
【0009】
前記カートリッジの内部には、外部から受け入れた前記サンプルの反応を停止させる空間が形成されていてもよい。
【0010】
前記カートリッジの内部には、前記分離溶媒により分離された目的成分を濃縮するための空間が形成されていてもよい。
【0011】
溶媒の蒸発により前記目的成分が濃縮されてもよい。
【0012】
前記カートリッジの内部には、濃縮された前記目的成分に溶解剤を添加する空間が形成されていてもよい。
【0013】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分を再結晶化させるための空間が形成されていてもよい。
【0014】
前記溶解剤の蒸発、前記溶解剤の冷却に伴う飽和、または低溶解度溶媒の添加により、前記目的成分を再結晶化させてもよい。
【0015】
前記カートリッジの内部には、再結晶化された前記目的成分を洗浄するための空間が形成されていてもよい。
【0016】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分をクロマトグラフィーにより精製するカラムが形成されていてもよい。
【0017】
前記カラムから排出される成分を、時間を区切って収容する空間が形成されていてもよい。
【0018】
前記カートリッジには、内容物を光学的に測定するための光学ウィンドウが設けられていてもよい。
【0019】
前記カートリッジの内部には、前記化学処理のための同一シーケンスを規定する所定の構造が複数形成されていてもよい。
【0020】
前記カートリッジの内部には、受け入れたサンプルを前記複数の構造に分岐させる流路が形成されていてもよい。
【0021】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、油層と水層とを重力により分離してもよい。
【0022】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、空間壁に前記目的成分に対する親和性が異なる2つの領域を設けることで両成分を分離してもよい。
【0023】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法は、外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、前記カートリッジの内部に形成された空間において、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するステップと、前記分離するステップで使用した前記カートリッジを廃棄するステップと、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジの使用方法によれば、カートリッジ内部の空間で、サンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。また、目的成分と他の成分とを分離するステップで使用したカートリッジを廃棄するので、安全性を確保できるとともに、片付けや洗浄等の後作業が不要となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の化学処理用カートリッジによれば、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間が形成されているので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。
【0025】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法によれば、カートリッジ内部の空間で、サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。また、目的成分と他の成分とを分離するステップで使用したカートリッジを廃棄するので、安全性を確保できるとともに、片付けや洗浄等の後作業が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明による化学処理用カートリッジの実施形態について説明する。
【0027】
図1(a)はカートリッジの平面図、図1(b)はウェルおよび流路に沿ったカートリッジのIb−Ib線断面を示す断面図、図1(c)はカートリッジの使用方法を示す平面図である。
【0028】
図1(b)に示すように、カートリッジ10は、基板1と、基板1に重ね合わされる弾性部材2とを備える。
【0029】
弾性部材2の裏面(図1(b)において下面)には、その表面(図1(b)において上面)側に凹んだ所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、カートリッジ基板1と弾性部材2との間に空間を生み出すことで、図1(a)および図1(b)に示すように、反応液を受け入れるウェル21と、分離溶媒を収容するウェル22と、反応液および分離溶媒を混合するためのウェル23と、カートリッジ10の側面からウェル21に接続された流路24Aと、ウェル21およびウェル22を接続する流路24Bと、カートリッジ10の側面からウェル22に接続された流路24Cと、ウェル22およびウェル23を接続する流路24Dと、カートリッジ10の側面からウェル23に接続された流路24Eと、を構成している。また、流路24Eには、硫酸マグネシウム相当の脱水能力があるフィルタ25が配置されている。
【0030】
次に、カートリッジ10の使用方法について説明する。
【0031】
最初に、シリンジ等を用いて、流路24Aを介しウェル21に反応液を注入する。また、シリンジ等を用いて、流路24Cを介しウェル22に分離溶媒を注入する。
【0032】
次に、図1(b)に示すローラ3をカートリッジ10に押し付けると弾性部材2が弾性変形し、カートリッジ基板1と弾性部材2との間の空間が押し潰される。ローラ3を右方に回転させると、押し潰される領域が右方に移動することにより、ウェル21に収容された反応液が流路24Bを介して、ウェル22に収容された分離溶媒が流路24Dを介して、それぞれ移動し、ウェル23に到達する。
【0033】
次に、ローラ3を図1(b)において左右方向に移動させることで、ウェル23において反応液と分離溶媒を激しく混合する。
【0034】
次に、図1(c)に示すように、カートリッジ10を垂直に維持した状態で混合液を静置すると、重力によって混合液は上層(例えば、水層)と下層(例えば、クロロホルム層)に分離する。
【0035】
次に、ローラ3を図1(c)において右方に移動させると、流路24を移動する下層の疎水性溶液27がフィルタ25を通過し、脱水されてカートリッジ10から回収される。カートリッジ10はそのまま廃棄できる。
【0036】
上記化学処理方法によれば、処理に必要な操作がカートリッジ10の形状により既定されるため、作業者の技量に影響されることなく、確実な操作が可能となる。また、ローラ3の駆動等を自動化することで、化学処理の自動化を図ることができる。
【0037】
上記化学処理方法では、分液溶媒の添加により、反応試薬と産物を分離することで、反応を停止させている。一連の操作を既定のタイミングで実施することにより反応停止までの各段階の時間を一定に保つことができる。また、例え少量であっても、反応液および分離溶媒の注入分量を容易に一定量に制御でき、添加体積が制御されるため、化学反応を化学量論的に制御でき、分離産物を定量用途に使用することも可能となる。
【0038】
また、カートリッジ10の密閉状態を維持したまま化学処理を行え、カートリッジ10を使い捨てできるので、外部からのコンタミネーションや、容器の洗浄や再利用に起因するコンタミネーションを回避できる。また、有害物質の漏洩を防止できるため、化学処理を安全に行える。さらに、実験器具を用いる場合よりも、容易に少量での化学処理に対応できるため、例えば、貴重な試薬の使用量を抑制することも可能となる。
【0039】
図2(a)は、目的物を排出する流路を取り除いたカートリッジ10Aを示す平面図である。この場合には、図2(b)に示すように、シリンジ28等を用いて、下層の疎水性溶液27をカートリッジ10Aから回収することができる。他の操作手順は、カートリッジ10を用いた場合と同様である。
【0040】
図3(a)〜図3(c)は、カートリッジ10Aおよび再結晶カートリッジを用いて、分液抽出により目的物を抽出し、さらに目的物を再結晶により精製する手順を示す図である。
【0041】
図3(c)に示すように、再結晶カートリッジ30には、溶解サンプルを受け入れるウェル31と、洗浄液を収容するウェル32と、廃液を収容するウェル33と、が形成されている。また、ウェル31および再結晶カートリッジ30の側面の間には流路34Aが、ウェル31およびウェル33の間には流路34Bが、ウェル32および再結晶カートリッジ30の側面の間には流路34Cが、ウェル32およびウェル31の間には流路34Dが、それぞれ形成されている。
【0042】
さらに、流路34Bには弁35として機能する領域が設けられる。弁35は、例えば、適当な部材によって流路34Bを押し潰すようにカートリッジ30Aを押圧することで閉じられ、通常時には開いている。
【0043】
次に、目的物を抽出、精製する操作手順について説明する。
【0044】
上記の操作手順に従って溶液を分離した後、図3(a)に示すように、シリンジ28を用いて、下層の疎水性溶液27をカートリッジ10Aのウェル23から回収する。次に、この溶液を、図3(b)に示すように、エバポレータを用いて濃縮または枯渇させる。さらに、メタノール等の再結晶用溶媒(溶解剤)にこれを再溶解する。
【0045】
次に、再溶解した溶解サンプルを再結晶カートリッジ30に注入して、目的物を精製する。
【0046】
まず、弁35を閉じた状態で、図3(c)に示すように、流路34Aを介して溶解サンプルをウェル31に注入する。ウェル31内の溶解サンプル中の溶媒は、例えば、PDMS(polydimethylsiloxane)等で形成された再結晶カートリッジ30の透過性により、時間経過とともに緩やかに蒸発し、結晶が析出する。なお、ウェル31を加熱して溶媒の蒸発を促進してもよいし、常温で蒸発させてもよい。また、ウェル31を冷却することで、溶媒中で目的物を飽和させ、結晶化させてもよい。
【0047】
次に、ローラ等を用いてウェル32の洗浄液をウェル31に導入し、結晶表面を洗浄する。洗浄液は、例えば、再結晶溶媒と同一溶媒が用いられる。ウェル31の洗浄液は、弁35を開いた状態でローラ等を用いて流路34Bを送液され、ウェル33に廃棄される。
【0048】
目的物はウェル31内に残留する結晶として回収される。例えば、再結晶カートリッジ30を切断して、結晶を取り出すことができる。
【0049】
このように、再結晶カートリッジ30を用いることで、簡単な操作により目的物を精製することができる。
【0050】
図4(a)は、シリカカラムカートリッジの構成を示す平面図である。このカートリッジを用いることで、分液抽出した目的物を簡単な操作で単離精製できる。
【0051】
図4(a)に示すように、シリカカラムカートリッジ50は、基板(不図示)と、基板に重ね合わされる弾性部材5とを備える。
【0052】
弾性部材5の裏面には、所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、基板と弾性部材5との間に空間を生み出すことで、図4(a)に示すように、サンプルを受け入れるウェル51Aと、展開溶媒を保持するウェル51Bと、シリカ粒子を充填したカラム52と、カラム52により分離された各成分を収容するウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dと、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dとカラム52との間をそれぞれ接続する流路54A、流路54B、流路54Cおよび流路54Dと、カートリッジ50の側面およびウェル51Aとの間を接続する流路56と、を形成する。
【0053】
次に、順相のシリカカラムカートリッジ50を用いた単離精製の方法について説明する。
【0054】
再溶解した溶解サンプルは、図3(a)および図3(b)に示した操作手順に従って、作成される。
最初に、再溶解した溶解サンプルを、シリンジ等を用いて流路56を介してウェル51Aに注入する。このとき、弁部材55A、弁部材55B、弁部材55Cおよび弁部材55Dによって、流路54A、流路54B、流路54Cおよび流路54Dは閉じられている。
【0055】
次に、弁部材57をカートリッジ50に押し付けた状態で、カートリッジ50に押し付けたローラ59Aをウェル51Aから弁部材57の位置に向けて移動させることで、ウェル51A内のサンプルをシリカに細いバンドで吸着させる。
【0056】
次に、弁部材57および55Aをカートリッジ50より開放し、ウェル51Aの細いバンドはカートリッジ50に押し付けられたローラ59Aの一定加圧により進行する。ローラ59Bでウェル51B内の展開溶媒を送液することで、サンプルへの一定圧力を保つ。
【0057】
圧力を受けたサンプルはカラム52内を移動し、徐々にサンプル中の各成分の親和性の差、とくにここでは極性の差によりクロマトグラフィーによる分離が起こる。
【0058】
抽出したい最初の成分がカラム52の終点52a(図4(a))に到達したとき、弁部材55Aを移動して流路54Aのみ通過し、終点52aに到達した最初の成分が、流路54Aを介してウェル53Aに導入される。その後、弁部材55Aにより再び流路54Aを閉じる。
【0059】
次に、弁部材55Bを開放し、抽出したい第2の成分がカラム52の終点52aに到達したとき、弁部材55Bを移動して流路54Bを通過し、終点52aに到達した第2の成分が、流路54Bを介してウェル53Bに導入される。その後、弁部材55Bにより再び流路54Bを閉じる。
【0060】
このように時間を区切って流路を変更する手順を繰り返すことで、順次、抽出したい成分、すなわちRf値の高い成分を、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに導入することができる。
【0061】
ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに抽出された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0062】
なお、カートリッジ50を使い捨てとすることで、カラム52に充填されたシリカ粒子が飛散するおそれがなく、安全性が確保できる。また、カートリッジ化によりカラム52を小型化できるので、シリカ粒子の使用量を抑制できる。
【0063】
図4(a)の例では、圧力によるサンプルの送液を行っているが、重力が作用する方向にカラムを形成ないし配置し、重力による送液を行うようにしてもよい。
【0064】
図4(b)は重力が作用する方向に沿ってカラムを形成したカートリッジを示す平面図である。このカートリッジでは、図4(a)のカラム52に代えて、直線状のカラム152が形成されている。このカートリッジでは、カラム152に吸着されたサンプルが、重力によってウェル51Bからカラム152内に送液される展開溶媒により展開される。図4(a)の場合と同様の手順により、抽出したい成分、すなわちRf値の高い成分を、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに導入することができる。
【0065】
図4(b)のカートリッジにおいても、図4(a)の場合と同様、適宜、ローラ59Aおよびローラ59Bを併用してもよい。また、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dを予め真空状態に形成しておくことで、抽出したい成分を容易に各ウェルに導入できる。さらに、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dを予め真空状態に形成しておき、重力だけでなく弾性部材の復元力による吸引力を利用して各成分を収容することもできる。図4(a)のカートリッジ50においても、同様である。
【0066】
図5は、シリカカラムカートリッジ50Aに廃液を収容するためのウェル41を設けた例を示す平面図である。
【0067】
図5のシリカカラムカートリッジ50Aでは、カラム52の終点には、流路42を介してウェル41が接続されている。流路42は弁部材43により開閉される。ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dへの成分抽出を行わないときに、流路42を開けることで、不要な液(廃液)をウェル41に導くことができる。廃液はカートリッジ50Aとともに廃棄可能である。
【0068】
次に、図6は、反応開始から精製までの工程を実行できるカートリッジの構成を示す平面図である。図6は、図11の操作手順を実行するカートリッジを例示している。
【0069】
反応開始前に、ウェル61にはp−キシレンが、ウェル62には溶媒として四塩化炭素(CCl4)が、ウェル63には失活剤として亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4)水溶液が、ウェル64には分液用溶媒としてクロロホルムが、ウェル65にはシリカクロマトグラフィ用溶媒が、それぞれ注入される。また、ウェル66には、予めペレット化されたN−ブロモスクシンイミド(NBS)および開始剤であるα−α´−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)がカートリッジ60の製造時に収容されている。
【0070】
次に、カートリッジ60に対する操作手順について説明する。
【0071】
ローラ等により、ウェル61のp−キシレンおよびウェル62の溶媒をウェル66に導入する。さらに、ローラ等を往復駆動してN−ブロモスクシンイミド(NBS)を液中に均一分散させ、ペルチェ素子等を用いてウェル62を加熱し、反応を開始させる。
【0072】
反応終了後、ウェル66には反応溶液と析出したコハク酸が残留する。次に、ローラ等によりウェル66の内容物を移送し、ガラスファイバ等で形成されたフィルタ67を通すことでコハク酸を除去し、反応溶液をウェル68に移動する。次に、ローラ等によりウェル68の反応溶液と、ウェル63の失活剤とをウェル69に送液、混合し、生成臭素を失活させる。
【0073】
次に、ローラ等によりウェル69の内容物およびウェル64の分液用溶媒をウェル71に導入し、ローラ等の往復により激しく混合する。その後、カートリッジ60を静置することで、重力によりウェル71の内容物が水層(上層)と油層(下層)とに分離する。
【0074】
次に、ローラ等により、ウェル71の水層はウェル76に廃棄し、ウェル71の油層を硫酸ナトリウム相当の脱水フィルタ72を通過してウェル73に導入する。次に、ウェル73を加熱して溶液を濃縮後、ウェル65の展開溶媒をウェル73に導入する。
【0075】
次に、ウェル73の溶液をシリカカラムウェル74Aにゆっくり送液し、溶液がシリカカラムウェル74Aに吸着後、ウェル74B内の展開溶媒をローラ送液し、バルブ74Cを閉じて一定加圧することで、膨潤シリカ流路75を圧力送液する。これにより、膨潤シリカ流路75に送液される溶液が、親和性の違い、ここでは極性により成分分離される。
【0076】
以降、弁78A、弁78B、弁78Cおよび弁79を適時、選択的に開くことで、Rf値の高い成分をウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収し、不要な成分をウェル76に廃棄することができる。この手順は、図4ないし図5に示すカートリッジにおける手順と同様である。ウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0077】
重力による分液に代えて、ウェル71に親水性の領域および疎水性の領域を設けることで、分液することもできる。例えば、図6のウェル71の領域71aを親水性に、領域71bを疎水性に加工しておけば、ウェル71に導入された内容物が、領域71aの水層と領域71bの油層とに分離する。
【0078】
図7は、すべての試薬が溶液系の場合に対応するカートリッジの構成を示す平面図である。図7のカートリッジ60Aにより、図6のカートリッジと同一処理を実行できる。
【0079】
反応開始前に、ウェル61にはp−キシレンが、ウェル62には試薬としてN−ブロモスクシンイミド(NBS)の四塩化炭素(CCl4)溶液が、ウェル63には失活剤として亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4)水溶液が、ウェル64には分液用溶媒としてクロロホルムが、ウェル65にはシリカクロマトグラフィ用溶媒が、それぞれ注入される。また、ウェル45には開始剤であるα−α´−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が注入される。
【0080】
次に、カートリッジ60Aに対する操作手順について説明する。
【0081】
ローラ等により、ウェル61のp−キシレンおよびウェル62の試薬をウェル66に導入する。さらに、ローラ等を移動してウェル66の内容物と開始剤とをウェル46で混合し、ウェル47に移送する。
【0082】
次に、ペルチェ素子等を用いてウェル47を加熱し、反応を開始させる。
【0083】
反応終了後、ローラ等によりウェル47の反応溶液と、ウェル63の失活剤とをウェル69に送液、混合し、生成臭素を失活させる。
【0084】
次に、ローラ等によりウェル69の内容物およびウェル64の分液用溶媒をウェル71に導入し、ローラ等の往復により激しく混合する。その後、カートリッジ60を静置することで、重力によりウェル71の内容物が水層(上層)と油層(下層)とに分離する。
【0085】
次に、ローラ等により、ウェル71の水層はウェル76に廃棄し、ウェル71の油層を硫酸ナトリウム相当の脱水フィルタ72を通過してウェル73に導入する。次に、ウェル73を加熱して溶液を濃縮後、ウェル65のシリカクロマトグラフィ用溶媒をウェル73に導入する。
【0086】
次に、ウェル73の溶液をシリカカラムウェル74Aにゆっくり送液し、溶液がシリカカラムウェル74Aに吸着後、ウェル74B内の展開溶媒をローラ送液し、バルブ74Cを閉じて一定加圧することで膨潤シリカ流路75を圧力送液する。これにより、膨潤シリカ流路75に送液される溶液が、カラムとの親和性の相違、ここでは極性により成分分離される。
【0087】
以降、カートリッジ60と同様の操作を行うことで、Rf値の高い成分をウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収し、不要な成分をウェル76に廃棄することができる。ウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0088】
図8は、反応経過を観察するための反応物のサンプリングに適したカートリッジの構成を示す平面図である。このカートリッジ80では、分液のための構造が複数アレイ化されて形成されている。
【0089】
図8に示すように、カートリッジ80には、ウェル81と、ウェル81に接続されたウェルWAkと、ウェルWAkに接続されたウェルWBkと、が形成されている。また、ウェル81とウェルWAkとの間には弁VAkが、ウェルWAkとウェルWBkとの間には弁VBkが、それぞれ設けられている。なお、添え字「k」は1〜7の正数である。
【0090】
次に、カートリッジ80の使用方法について説明する。
【0091】
最初に、弁VA1を開き、弁VA2〜弁VA7を閉じ、かつ弁VB1を閉じた状態で、ウェル81に分液用溶媒を注入する。次に、ローラ等により、分液用溶媒をウェルWA1に送液し、弁VA1を閉じる。これにより、分液用溶媒がウェルWA1に充填される。
【0092】
同様の操作をk=2〜7について繰り返し、ウェルWA2〜ウェルWA7に分液用溶媒を充填する。
【0093】
反応経過観察用の溶液サンプルは、ウェル81に注入される。最初のサンプル溶液をウェル81に注入した後、弁VA1および弁VB1を開き、弁VA2〜弁VA7を閉じた状態で、ローラ等を用いて送液を行う。ウェル81の溶液サンプルは、ウェルWA1の分液用溶媒とともに、ウェルWB1に導入される。さらに、ローラ等を往復移動させることで水層と油層とを激しく混合する。
【0094】
弁VB1を閉じて混合物を静置することにより、ウェルWB1では、相対的に密度の大きい溶媒が下層へ、密度の小さい溶媒が上層へ、それぞれ重力、またはウェル内面の親水コーティング部と疎水コーティング部との親和性の差によって分離する。
【0095】
反応物を含む油層を、シリンジ等を用いて回収することで、最初のサンプル溶液について反応経過を調べることができる。
【0096】
以下、同様の操作をk=2〜7について繰り返すことで、ウェルWB2〜ウェルWB7から反応物を回収できる。
【0097】
図9に示すカートリッジ80Aには、脱水能力を有するフィルタFL1〜フィルタFL7が設けられた流路が形成されている。カートリッジ80Aを用いた場合には、ウェルWB1〜ウェルWB7から、それぞれフィルタFL1〜フィルタFL7を介してカートリッジ80Aの外部に反応物を回収することができる。
【0098】
図10は、本発明によるカートリッジに測定用光学ウィンドウを設ける例を示している。図10(a)はカートリッジの平面図、図10(b)はカートリッジの断面図である。
【0099】
図10(a)および図10(b)に示すように、カートリッジ90には、精製したサンプルを収容するウェル91が形成されている。ウェル91の領域は測定用光学ウィンドウとして構成され、ウェル91に回収されたサンプルを光学測定できる。
【0100】
図10(b)の例では、光源94と受光器95の間にカートリッジ90を配置することで、光源94から照射され、ウェル91を透過した計測光が受光器95で受光される。このように、カートリッジに測定用光学ウィンドウを設けることにより、吸光量、蛍光光量などを介して光学的な定性測定、定量測定が可能となる。
【0101】
また、図10(a)および図10(b)に示すように、化学処理のシーケンスを規定する構造が形成された領域を遮光部材92で遮光することで、化学処理に対する光の影響を避けることができる。
【0102】
光源と受光器との位置関係、あるいは計測光の波長等は、測定目的に応じて適宜選択できる。図10(c)は、偏光を測定する例を示しており、カートリッジ90Aに対し光源94から斜めに光を照射し、受光器95で偏光を捉えている。また、図10(d)は、反射光を測定する例を示しており、光源94からカートリッジ90Bに照射された光の反射光を受光器95で捉えている。この場合、測定部位の裏側に黒色の遮光部材92Aを設けてもよい。
【0103】
以上説明したように、本発明による化学処理用カートリッジによれば、カートリッジの構造により、予め成分分離のためのアルゴリズムが規定される。このため失敗やロスの発生が抑制され、カートリッジを取り扱う者の技術レベルの差が現れにくく、常に正しい分離手順を実現できる。不用意な事故の発生も防止できる。また、分離処理のための準備も簡単であり、分離に要する作業の時間と手間を大幅に軽減できる。従来、目的成分の分離のために必要であった高価な器具も不要となる。さらに、カートリッジは使い捨て可能であるため、器具の洗浄等、片付け作業も不要となり、作業者や周囲環境への安全性も確保できる。
【0104】
また、カートリッジは密閉状態が保たれ、例えば、嫌気状態を維持することも可能なため、抽出した目的成分や精製物の保存にも適している。また、保存状態が問題となる溶媒その他の物質であって、抽出作業に必要な物質を予めカートリッジに収容することもできるため、抽出前の作業を削減することもできる。
【0105】
本発明による化学処理用カートリッジは、実験目的での試薬等の抽出に広く適用できる。また、薬品、試薬、その他の化学成分の製造、抽出に広く用いることができる。
【0106】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで処理反応を行わせる化学処理用カートリッジおよびその使用方法に対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】カートリッジの構造等を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はウェルおよび流路に沿ったカートリッジのIb−Ib線断面を示す断面図、(c)はカートリッジの使用方法を示す平面図。
【図2】目的物を排出する流路を取り除いたカートリッジの構造等を示す図であり、(a)は平面図、(b)は下層の溶液の回収操作を示す図。
【図3】目的物の抽出、精製手順を示す図であり、(a)〜(c)は、カートリッジ10Aおよび再結晶カートリッジを用いて、分液抽出により目的物を抽出し、さらに目的物を精製する手順を示す図。
【図4】シリカカラムカートリッジの構成を示す平面図であり、(a)は加圧により送液する例を示す図、(b)は重力により送液する例を示す図。
【図5】シリカカラムカートリッジに廃液を収容するためのウェルを設けた例を示す平面図。
【図6】反応開始から精製までの工程を実行できるカートリッジの構成を示す平面図。
【図7】試薬が溶液系の場合に対応するカートリッジの構成を示す平面図。
【図8】反応物のサンプリングに適したカートリッジの構成を示す平面図。
【図9】脱水能力を有するフィルタが設けられた流路が形成されたカートリッジの構成を示す平面図。
【図10】カートリッジに測定用光学ウィンドウを設ける例を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はカートリッジの断面図。
【図11】N−ブロモスクシンイミド(NBS)によるp−キシレンのベンジル位の臭素化の反応に必要な手順を示す図。
【符号の説明】
【0108】
21,23,51,61,66,71,81,WAk,WBk ウェル(空間)
52,75 カラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで目的成分を分離する化学処理用カートリッジおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで化学反応を行わせる化学反応用カートリッジが開発されている(例えば、特開2005−37368号公報)。このカートリッジは、内部に化学反応のための空間を作り込むとともに、外力を加えた際の変形によって空間内で内容物を移送することで、所定の化学反応を行わせるものである。このカートリッジによれば、カートリッジの構造自体により化学反応のためのプロトコルを規定することができるとともに、密閉状態が保たれるため、所望のプロトコルを個人差なく安全に実行できる。
【0003】
【特許文献1】特開2005−37368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、化学反応を用いて目的物を得ようとする場合、実験器具や試薬の準備にはじまり、反応開始のための作業、反応終結の見極め、反応試薬、未反応物、副生成物からの目的物の単離、反応物の同定、測定など、一連の操作が必要となる。このような操作には、高価な器具を使用する必要があり、時間、作業量とともに技術を要する。また、試薬として有害物質を使用する場合、あるいは化学反応により有害物質が発生する場合もある。
【0005】
図11は、N−ブロモスクシンイミド(NBS)によるp−キシレンのベンジル位の臭素化の反応に必要な手順を示している。この反応では、(1)p―キシレンを四塩化炭素(CCl4)溶媒に溶解、(2)反応試薬であるN−ブロモスクシンイミド(NBS)を添加、溶解、(3)ラジカル開始剤(α−α´−アゾビスイゾブチロニトリル)AIBNを添加、均一分散、(4)〜(5)沸点還流による加熱。コハク酸の析出、(6)コハク酸の除去、(7)亜硫酸ナトリウム添加による臭素の失活、(8)クロロホルム混合による分液抽出、(9)硫酸ナトリウム添加による脱水、(10)メタノール溶解による再結晶化、(11)シリカクロマトグラフィによる単離、(12)エバポレータによる減圧濃縮、などの手順が必要となる。また、反応経過を観察するため、沸点還流により加熱されている反応液を順次取り出して分液抽出し、反応物を分析、測定する作業が必要となる。さらに、最終的な生成物に対しても、分析等の作業を要する。
【0006】
上記手順のうち、とくに分液抽出や分析等、成分の分離に関わる作業が煩雑であるため、これらの作業を効率的に行う手段があれば実験に有用である。また本例の生成物には、催涙作用があり、実験者の安全を確保するにも有用である。さらに、薬品、試薬、その他の化学成分の製造にも有用となる。
【0007】
本発明の目的は、特開2005−37368号公報等に開示されたカートリッジに係る技術を活用することで、成分の分離処理を容易に実行できる化学処理用カートリッジおよびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の化学処理用カートリッジは、外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、前記カートリッジの内部には、外部からサンプルを受け入れる空間と、受け入れられた前記サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間と、が形成されていることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジによれば、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間が形成されているので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。
【0009】
前記カートリッジの内部には、外部から受け入れた前記サンプルの反応を停止させる空間が形成されていてもよい。
【0010】
前記カートリッジの内部には、前記分離溶媒により分離された目的成分を濃縮するための空間が形成されていてもよい。
【0011】
溶媒の蒸発により前記目的成分が濃縮されてもよい。
【0012】
前記カートリッジの内部には、濃縮された前記目的成分に溶解剤を添加する空間が形成されていてもよい。
【0013】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分を再結晶化させるための空間が形成されていてもよい。
【0014】
前記溶解剤の蒸発、前記溶解剤の冷却に伴う飽和、または低溶解度溶媒の添加により、前記目的成分を再結晶化させてもよい。
【0015】
前記カートリッジの内部には、再結晶化された前記目的成分を洗浄するための空間が形成されていてもよい。
【0016】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分をクロマトグラフィーにより精製するカラムが形成されていてもよい。
【0017】
前記カラムから排出される成分を、時間を区切って収容する空間が形成されていてもよい。
【0018】
前記カートリッジには、内容物を光学的に測定するための光学ウィンドウが設けられていてもよい。
【0019】
前記カートリッジの内部には、前記化学処理のための同一シーケンスを規定する所定の構造が複数形成されていてもよい。
【0020】
前記カートリッジの内部には、受け入れたサンプルを前記複数の構造に分岐させる流路が形成されていてもよい。
【0021】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、油層と水層とを重力により分離してもよい。
【0022】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、空間壁に前記目的成分に対する親和性が異なる2つの領域を設けることで両成分を分離してもよい。
【0023】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法は、外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、前記カートリッジの内部に形成された空間において、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するステップと、前記分離するステップで使用した前記カートリッジを廃棄するステップと、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジの使用方法によれば、カートリッジ内部の空間で、サンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。また、目的成分と他の成分とを分離するステップで使用したカートリッジを廃棄するので、安全性を確保できるとともに、片付けや洗浄等の後作業が不要となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の化学処理用カートリッジによれば、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間が形成されているので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。
【0025】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法によれば、カートリッジ内部の空間で、サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するので、目的成分と他の成分とを容易に分離できる。また、目的成分と他の成分とを分離するステップで使用したカートリッジを廃棄するので、安全性を確保できるとともに、片付けや洗浄等の後作業が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明による化学処理用カートリッジの実施形態について説明する。
【0027】
図1(a)はカートリッジの平面図、図1(b)はウェルおよび流路に沿ったカートリッジのIb−Ib線断面を示す断面図、図1(c)はカートリッジの使用方法を示す平面図である。
【0028】
図1(b)に示すように、カートリッジ10は、基板1と、基板1に重ね合わされる弾性部材2とを備える。
【0029】
弾性部材2の裏面(図1(b)において下面)には、その表面(図1(b)において上面)側に凹んだ所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、カートリッジ基板1と弾性部材2との間に空間を生み出すことで、図1(a)および図1(b)に示すように、反応液を受け入れるウェル21と、分離溶媒を収容するウェル22と、反応液および分離溶媒を混合するためのウェル23と、カートリッジ10の側面からウェル21に接続された流路24Aと、ウェル21およびウェル22を接続する流路24Bと、カートリッジ10の側面からウェル22に接続された流路24Cと、ウェル22およびウェル23を接続する流路24Dと、カートリッジ10の側面からウェル23に接続された流路24Eと、を構成している。また、流路24Eには、硫酸マグネシウム相当の脱水能力があるフィルタ25が配置されている。
【0030】
次に、カートリッジ10の使用方法について説明する。
【0031】
最初に、シリンジ等を用いて、流路24Aを介しウェル21に反応液を注入する。また、シリンジ等を用いて、流路24Cを介しウェル22に分離溶媒を注入する。
【0032】
次に、図1(b)に示すローラ3をカートリッジ10に押し付けると弾性部材2が弾性変形し、カートリッジ基板1と弾性部材2との間の空間が押し潰される。ローラ3を右方に回転させると、押し潰される領域が右方に移動することにより、ウェル21に収容された反応液が流路24Bを介して、ウェル22に収容された分離溶媒が流路24Dを介して、それぞれ移動し、ウェル23に到達する。
【0033】
次に、ローラ3を図1(b)において左右方向に移動させることで、ウェル23において反応液と分離溶媒を激しく混合する。
【0034】
次に、図1(c)に示すように、カートリッジ10を垂直に維持した状態で混合液を静置すると、重力によって混合液は上層(例えば、水層)と下層(例えば、クロロホルム層)に分離する。
【0035】
次に、ローラ3を図1(c)において右方に移動させると、流路24を移動する下層の疎水性溶液27がフィルタ25を通過し、脱水されてカートリッジ10から回収される。カートリッジ10はそのまま廃棄できる。
【0036】
上記化学処理方法によれば、処理に必要な操作がカートリッジ10の形状により既定されるため、作業者の技量に影響されることなく、確実な操作が可能となる。また、ローラ3の駆動等を自動化することで、化学処理の自動化を図ることができる。
【0037】
上記化学処理方法では、分液溶媒の添加により、反応試薬と産物を分離することで、反応を停止させている。一連の操作を既定のタイミングで実施することにより反応停止までの各段階の時間を一定に保つことができる。また、例え少量であっても、反応液および分離溶媒の注入分量を容易に一定量に制御でき、添加体積が制御されるため、化学反応を化学量論的に制御でき、分離産物を定量用途に使用することも可能となる。
【0038】
また、カートリッジ10の密閉状態を維持したまま化学処理を行え、カートリッジ10を使い捨てできるので、外部からのコンタミネーションや、容器の洗浄や再利用に起因するコンタミネーションを回避できる。また、有害物質の漏洩を防止できるため、化学処理を安全に行える。さらに、実験器具を用いる場合よりも、容易に少量での化学処理に対応できるため、例えば、貴重な試薬の使用量を抑制することも可能となる。
【0039】
図2(a)は、目的物を排出する流路を取り除いたカートリッジ10Aを示す平面図である。この場合には、図2(b)に示すように、シリンジ28等を用いて、下層の疎水性溶液27をカートリッジ10Aから回収することができる。他の操作手順は、カートリッジ10を用いた場合と同様である。
【0040】
図3(a)〜図3(c)は、カートリッジ10Aおよび再結晶カートリッジを用いて、分液抽出により目的物を抽出し、さらに目的物を再結晶により精製する手順を示す図である。
【0041】
図3(c)に示すように、再結晶カートリッジ30には、溶解サンプルを受け入れるウェル31と、洗浄液を収容するウェル32と、廃液を収容するウェル33と、が形成されている。また、ウェル31および再結晶カートリッジ30の側面の間には流路34Aが、ウェル31およびウェル33の間には流路34Bが、ウェル32および再結晶カートリッジ30の側面の間には流路34Cが、ウェル32およびウェル31の間には流路34Dが、それぞれ形成されている。
【0042】
さらに、流路34Bには弁35として機能する領域が設けられる。弁35は、例えば、適当な部材によって流路34Bを押し潰すようにカートリッジ30Aを押圧することで閉じられ、通常時には開いている。
【0043】
次に、目的物を抽出、精製する操作手順について説明する。
【0044】
上記の操作手順に従って溶液を分離した後、図3(a)に示すように、シリンジ28を用いて、下層の疎水性溶液27をカートリッジ10Aのウェル23から回収する。次に、この溶液を、図3(b)に示すように、エバポレータを用いて濃縮または枯渇させる。さらに、メタノール等の再結晶用溶媒(溶解剤)にこれを再溶解する。
【0045】
次に、再溶解した溶解サンプルを再結晶カートリッジ30に注入して、目的物を精製する。
【0046】
まず、弁35を閉じた状態で、図3(c)に示すように、流路34Aを介して溶解サンプルをウェル31に注入する。ウェル31内の溶解サンプル中の溶媒は、例えば、PDMS(polydimethylsiloxane)等で形成された再結晶カートリッジ30の透過性により、時間経過とともに緩やかに蒸発し、結晶が析出する。なお、ウェル31を加熱して溶媒の蒸発を促進してもよいし、常温で蒸発させてもよい。また、ウェル31を冷却することで、溶媒中で目的物を飽和させ、結晶化させてもよい。
【0047】
次に、ローラ等を用いてウェル32の洗浄液をウェル31に導入し、結晶表面を洗浄する。洗浄液は、例えば、再結晶溶媒と同一溶媒が用いられる。ウェル31の洗浄液は、弁35を開いた状態でローラ等を用いて流路34Bを送液され、ウェル33に廃棄される。
【0048】
目的物はウェル31内に残留する結晶として回収される。例えば、再結晶カートリッジ30を切断して、結晶を取り出すことができる。
【0049】
このように、再結晶カートリッジ30を用いることで、簡単な操作により目的物を精製することができる。
【0050】
図4(a)は、シリカカラムカートリッジの構成を示す平面図である。このカートリッジを用いることで、分液抽出した目的物を簡単な操作で単離精製できる。
【0051】
図4(a)に示すように、シリカカラムカートリッジ50は、基板(不図示)と、基板に重ね合わされる弾性部材5とを備える。
【0052】
弾性部材5の裏面には、所定形状の凹部が形成されている。この凹部は、基板と弾性部材5との間に空間を生み出すことで、図4(a)に示すように、サンプルを受け入れるウェル51Aと、展開溶媒を保持するウェル51Bと、シリカ粒子を充填したカラム52と、カラム52により分離された各成分を収容するウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dと、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dとカラム52との間をそれぞれ接続する流路54A、流路54B、流路54Cおよび流路54Dと、カートリッジ50の側面およびウェル51Aとの間を接続する流路56と、を形成する。
【0053】
次に、順相のシリカカラムカートリッジ50を用いた単離精製の方法について説明する。
【0054】
再溶解した溶解サンプルは、図3(a)および図3(b)に示した操作手順に従って、作成される。
最初に、再溶解した溶解サンプルを、シリンジ等を用いて流路56を介してウェル51Aに注入する。このとき、弁部材55A、弁部材55B、弁部材55Cおよび弁部材55Dによって、流路54A、流路54B、流路54Cおよび流路54Dは閉じられている。
【0055】
次に、弁部材57をカートリッジ50に押し付けた状態で、カートリッジ50に押し付けたローラ59Aをウェル51Aから弁部材57の位置に向けて移動させることで、ウェル51A内のサンプルをシリカに細いバンドで吸着させる。
【0056】
次に、弁部材57および55Aをカートリッジ50より開放し、ウェル51Aの細いバンドはカートリッジ50に押し付けられたローラ59Aの一定加圧により進行する。ローラ59Bでウェル51B内の展開溶媒を送液することで、サンプルへの一定圧力を保つ。
【0057】
圧力を受けたサンプルはカラム52内を移動し、徐々にサンプル中の各成分の親和性の差、とくにここでは極性の差によりクロマトグラフィーによる分離が起こる。
【0058】
抽出したい最初の成分がカラム52の終点52a(図4(a))に到達したとき、弁部材55Aを移動して流路54Aのみ通過し、終点52aに到達した最初の成分が、流路54Aを介してウェル53Aに導入される。その後、弁部材55Aにより再び流路54Aを閉じる。
【0059】
次に、弁部材55Bを開放し、抽出したい第2の成分がカラム52の終点52aに到達したとき、弁部材55Bを移動して流路54Bを通過し、終点52aに到達した第2の成分が、流路54Bを介してウェル53Bに導入される。その後、弁部材55Bにより再び流路54Bを閉じる。
【0060】
このように時間を区切って流路を変更する手順を繰り返すことで、順次、抽出したい成分、すなわちRf値の高い成分を、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに導入することができる。
【0061】
ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに抽出された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0062】
なお、カートリッジ50を使い捨てとすることで、カラム52に充填されたシリカ粒子が飛散するおそれがなく、安全性が確保できる。また、カートリッジ化によりカラム52を小型化できるので、シリカ粒子の使用量を抑制できる。
【0063】
図4(a)の例では、圧力によるサンプルの送液を行っているが、重力が作用する方向にカラムを形成ないし配置し、重力による送液を行うようにしてもよい。
【0064】
図4(b)は重力が作用する方向に沿ってカラムを形成したカートリッジを示す平面図である。このカートリッジでは、図4(a)のカラム52に代えて、直線状のカラム152が形成されている。このカートリッジでは、カラム152に吸着されたサンプルが、重力によってウェル51Bからカラム152内に送液される展開溶媒により展開される。図4(a)の場合と同様の手順により、抽出したい成分、すなわちRf値の高い成分を、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dに導入することができる。
【0065】
図4(b)のカートリッジにおいても、図4(a)の場合と同様、適宜、ローラ59Aおよびローラ59Bを併用してもよい。また、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dを予め真空状態に形成しておくことで、抽出したい成分を容易に各ウェルに導入できる。さらに、ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dを予め真空状態に形成しておき、重力だけでなく弾性部材の復元力による吸引力を利用して各成分を収容することもできる。図4(a)のカートリッジ50においても、同様である。
【0066】
図5は、シリカカラムカートリッジ50Aに廃液を収容するためのウェル41を設けた例を示す平面図である。
【0067】
図5のシリカカラムカートリッジ50Aでは、カラム52の終点には、流路42を介してウェル41が接続されている。流路42は弁部材43により開閉される。ウェル53A、ウェル53B、ウェル53Cおよびウェル53Dへの成分抽出を行わないときに、流路42を開けることで、不要な液(廃液)をウェル41に導くことができる。廃液はカートリッジ50Aとともに廃棄可能である。
【0068】
次に、図6は、反応開始から精製までの工程を実行できるカートリッジの構成を示す平面図である。図6は、図11の操作手順を実行するカートリッジを例示している。
【0069】
反応開始前に、ウェル61にはp−キシレンが、ウェル62には溶媒として四塩化炭素(CCl4)が、ウェル63には失活剤として亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4)水溶液が、ウェル64には分液用溶媒としてクロロホルムが、ウェル65にはシリカクロマトグラフィ用溶媒が、それぞれ注入される。また、ウェル66には、予めペレット化されたN−ブロモスクシンイミド(NBS)および開始剤であるα−α´−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)がカートリッジ60の製造時に収容されている。
【0070】
次に、カートリッジ60に対する操作手順について説明する。
【0071】
ローラ等により、ウェル61のp−キシレンおよびウェル62の溶媒をウェル66に導入する。さらに、ローラ等を往復駆動してN−ブロモスクシンイミド(NBS)を液中に均一分散させ、ペルチェ素子等を用いてウェル62を加熱し、反応を開始させる。
【0072】
反応終了後、ウェル66には反応溶液と析出したコハク酸が残留する。次に、ローラ等によりウェル66の内容物を移送し、ガラスファイバ等で形成されたフィルタ67を通すことでコハク酸を除去し、反応溶液をウェル68に移動する。次に、ローラ等によりウェル68の反応溶液と、ウェル63の失活剤とをウェル69に送液、混合し、生成臭素を失活させる。
【0073】
次に、ローラ等によりウェル69の内容物およびウェル64の分液用溶媒をウェル71に導入し、ローラ等の往復により激しく混合する。その後、カートリッジ60を静置することで、重力によりウェル71の内容物が水層(上層)と油層(下層)とに分離する。
【0074】
次に、ローラ等により、ウェル71の水層はウェル76に廃棄し、ウェル71の油層を硫酸ナトリウム相当の脱水フィルタ72を通過してウェル73に導入する。次に、ウェル73を加熱して溶液を濃縮後、ウェル65の展開溶媒をウェル73に導入する。
【0075】
次に、ウェル73の溶液をシリカカラムウェル74Aにゆっくり送液し、溶液がシリカカラムウェル74Aに吸着後、ウェル74B内の展開溶媒をローラ送液し、バルブ74Cを閉じて一定加圧することで、膨潤シリカ流路75を圧力送液する。これにより、膨潤シリカ流路75に送液される溶液が、親和性の違い、ここでは極性により成分分離される。
【0076】
以降、弁78A、弁78B、弁78Cおよび弁79を適時、選択的に開くことで、Rf値の高い成分をウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収し、不要な成分をウェル76に廃棄することができる。この手順は、図4ないし図5に示すカートリッジにおける手順と同様である。ウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0077】
重力による分液に代えて、ウェル71に親水性の領域および疎水性の領域を設けることで、分液することもできる。例えば、図6のウェル71の領域71aを親水性に、領域71bを疎水性に加工しておけば、ウェル71に導入された内容物が、領域71aの水層と領域71bの油層とに分離する。
【0078】
図7は、すべての試薬が溶液系の場合に対応するカートリッジの構成を示す平面図である。図7のカートリッジ60Aにより、図6のカートリッジと同一処理を実行できる。
【0079】
反応開始前に、ウェル61にはp−キシレンが、ウェル62には試薬としてN−ブロモスクシンイミド(NBS)の四塩化炭素(CCl4)溶液が、ウェル63には失活剤として亜硫酸ナトリウム(Na2S2O4)水溶液が、ウェル64には分液用溶媒としてクロロホルムが、ウェル65にはシリカクロマトグラフィ用溶媒が、それぞれ注入される。また、ウェル45には開始剤であるα−α´−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が注入される。
【0080】
次に、カートリッジ60Aに対する操作手順について説明する。
【0081】
ローラ等により、ウェル61のp−キシレンおよびウェル62の試薬をウェル66に導入する。さらに、ローラ等を移動してウェル66の内容物と開始剤とをウェル46で混合し、ウェル47に移送する。
【0082】
次に、ペルチェ素子等を用いてウェル47を加熱し、反応を開始させる。
【0083】
反応終了後、ローラ等によりウェル47の反応溶液と、ウェル63の失活剤とをウェル69に送液、混合し、生成臭素を失活させる。
【0084】
次に、ローラ等によりウェル69の内容物およびウェル64の分液用溶媒をウェル71に導入し、ローラ等の往復により激しく混合する。その後、カートリッジ60を静置することで、重力によりウェル71の内容物が水層(上層)と油層(下層)とに分離する。
【0085】
次に、ローラ等により、ウェル71の水層はウェル76に廃棄し、ウェル71の油層を硫酸ナトリウム相当の脱水フィルタ72を通過してウェル73に導入する。次に、ウェル73を加熱して溶液を濃縮後、ウェル65のシリカクロマトグラフィ用溶媒をウェル73に導入する。
【0086】
次に、ウェル73の溶液をシリカカラムウェル74Aにゆっくり送液し、溶液がシリカカラムウェル74Aに吸着後、ウェル74B内の展開溶媒をローラ送液し、バルブ74Cを閉じて一定加圧することで膨潤シリカ流路75を圧力送液する。これにより、膨潤シリカ流路75に送液される溶液が、カラムとの親和性の相違、ここでは極性により成分分離される。
【0087】
以降、カートリッジ60と同様の操作を行うことで、Rf値の高い成分をウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収し、不要な成分をウェル76に廃棄することができる。ウェル77A、ウェル77B、ウェル77Cに回収された成分は、シリンジ等を用いてそれぞれ採取することができる。
【0088】
図8は、反応経過を観察するための反応物のサンプリングに適したカートリッジの構成を示す平面図である。このカートリッジ80では、分液のための構造が複数アレイ化されて形成されている。
【0089】
図8に示すように、カートリッジ80には、ウェル81と、ウェル81に接続されたウェルWAkと、ウェルWAkに接続されたウェルWBkと、が形成されている。また、ウェル81とウェルWAkとの間には弁VAkが、ウェルWAkとウェルWBkとの間には弁VBkが、それぞれ設けられている。なお、添え字「k」は1〜7の正数である。
【0090】
次に、カートリッジ80の使用方法について説明する。
【0091】
最初に、弁VA1を開き、弁VA2〜弁VA7を閉じ、かつ弁VB1を閉じた状態で、ウェル81に分液用溶媒を注入する。次に、ローラ等により、分液用溶媒をウェルWA1に送液し、弁VA1を閉じる。これにより、分液用溶媒がウェルWA1に充填される。
【0092】
同様の操作をk=2〜7について繰り返し、ウェルWA2〜ウェルWA7に分液用溶媒を充填する。
【0093】
反応経過観察用の溶液サンプルは、ウェル81に注入される。最初のサンプル溶液をウェル81に注入した後、弁VA1および弁VB1を開き、弁VA2〜弁VA7を閉じた状態で、ローラ等を用いて送液を行う。ウェル81の溶液サンプルは、ウェルWA1の分液用溶媒とともに、ウェルWB1に導入される。さらに、ローラ等を往復移動させることで水層と油層とを激しく混合する。
【0094】
弁VB1を閉じて混合物を静置することにより、ウェルWB1では、相対的に密度の大きい溶媒が下層へ、密度の小さい溶媒が上層へ、それぞれ重力、またはウェル内面の親水コーティング部と疎水コーティング部との親和性の差によって分離する。
【0095】
反応物を含む油層を、シリンジ等を用いて回収することで、最初のサンプル溶液について反応経過を調べることができる。
【0096】
以下、同様の操作をk=2〜7について繰り返すことで、ウェルWB2〜ウェルWB7から反応物を回収できる。
【0097】
図9に示すカートリッジ80Aには、脱水能力を有するフィルタFL1〜フィルタFL7が設けられた流路が形成されている。カートリッジ80Aを用いた場合には、ウェルWB1〜ウェルWB7から、それぞれフィルタFL1〜フィルタFL7を介してカートリッジ80Aの外部に反応物を回収することができる。
【0098】
図10は、本発明によるカートリッジに測定用光学ウィンドウを設ける例を示している。図10(a)はカートリッジの平面図、図10(b)はカートリッジの断面図である。
【0099】
図10(a)および図10(b)に示すように、カートリッジ90には、精製したサンプルを収容するウェル91が形成されている。ウェル91の領域は測定用光学ウィンドウとして構成され、ウェル91に回収されたサンプルを光学測定できる。
【0100】
図10(b)の例では、光源94と受光器95の間にカートリッジ90を配置することで、光源94から照射され、ウェル91を透過した計測光が受光器95で受光される。このように、カートリッジに測定用光学ウィンドウを設けることにより、吸光量、蛍光光量などを介して光学的な定性測定、定量測定が可能となる。
【0101】
また、図10(a)および図10(b)に示すように、化学処理のシーケンスを規定する構造が形成された領域を遮光部材92で遮光することで、化学処理に対する光の影響を避けることができる。
【0102】
光源と受光器との位置関係、あるいは計測光の波長等は、測定目的に応じて適宜選択できる。図10(c)は、偏光を測定する例を示しており、カートリッジ90Aに対し光源94から斜めに光を照射し、受光器95で偏光を捉えている。また、図10(d)は、反射光を測定する例を示しており、光源94からカートリッジ90Bに照射された光の反射光を受光器95で捉えている。この場合、測定部位の裏側に黒色の遮光部材92Aを設けてもよい。
【0103】
以上説明したように、本発明による化学処理用カートリッジによれば、カートリッジの構造により、予め成分分離のためのアルゴリズムが規定される。このため失敗やロスの発生が抑制され、カートリッジを取り扱う者の技術レベルの差が現れにくく、常に正しい分離手順を実現できる。不用意な事故の発生も防止できる。また、分離処理のための準備も簡単であり、分離に要する作業の時間と手間を大幅に軽減できる。従来、目的成分の分離のために必要であった高価な器具も不要となる。さらに、カートリッジは使い捨て可能であるため、器具の洗浄等、片付け作業も不要となり、作業者や周囲環境への安全性も確保できる。
【0104】
また、カートリッジは密閉状態が保たれ、例えば、嫌気状態を維持することも可能なため、抽出した目的成分や精製物の保存にも適している。また、保存状態が問題となる溶媒その他の物質であって、抽出作業に必要な物質を予めカートリッジに収容することもできるため、抽出前の作業を削減することもできる。
【0105】
本発明による化学処理用カートリッジは、実験目的での試薬等の抽出に広く適用できる。また、薬品、試薬、その他の化学成分の製造、抽出に広く用いることができる。
【0106】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、外力を加えた際の変形によって内容物を移送することで処理反応を行わせる化学処理用カートリッジおよびその使用方法に対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】カートリッジの構造等を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はウェルおよび流路に沿ったカートリッジのIb−Ib線断面を示す断面図、(c)はカートリッジの使用方法を示す平面図。
【図2】目的物を排出する流路を取り除いたカートリッジの構造等を示す図であり、(a)は平面図、(b)は下層の溶液の回収操作を示す図。
【図3】目的物の抽出、精製手順を示す図であり、(a)〜(c)は、カートリッジ10Aおよび再結晶カートリッジを用いて、分液抽出により目的物を抽出し、さらに目的物を精製する手順を示す図。
【図4】シリカカラムカートリッジの構成を示す平面図であり、(a)は加圧により送液する例を示す図、(b)は重力により送液する例を示す図。
【図5】シリカカラムカートリッジに廃液を収容するためのウェルを設けた例を示す平面図。
【図6】反応開始から精製までの工程を実行できるカートリッジの構成を示す平面図。
【図7】試薬が溶液系の場合に対応するカートリッジの構成を示す平面図。
【図8】反応物のサンプリングに適したカートリッジの構成を示す平面図。
【図9】脱水能力を有するフィルタが設けられた流路が形成されたカートリッジの構成を示す平面図。
【図10】カートリッジに測定用光学ウィンドウを設ける例を示す図であり、(a)はカートリッジの平面図、(b)はカートリッジの断面図。
【図11】N−ブロモスクシンイミド(NBS)によるp−キシレンのベンジル位の臭素化の反応に必要な手順を示す図。
【符号の説明】
【0108】
21,23,51,61,66,71,81,WAk,WBk ウェル(空間)
52,75 カラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、
前記カートリッジの内部には、
外部からサンプルを受け入れる空間と、
受け入れられた前記サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間と、
が形成されていることを特徴とする化学処理用カートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジの内部には、外部から受け入れた前記サンプルの反応を停止させる空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項3】
前記カートリッジの内部には、前記分離溶媒により分離された目的成分を濃縮するための空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項4】
溶媒の蒸発により前記目的成分が濃縮されることを特徴とする請求項3に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項5】
前記カートリッジの内部には、濃縮された前記目的成分に溶解剤を添加する空間が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項6】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分を再結晶化させるための空間が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項7】
前記溶解剤の蒸発、前記溶解剤の冷却に伴う飽和、または低溶解度溶媒の添加により、前記目的成分を再結晶化させることを特徴とする請求項6に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項8】
前記カートリッジの内部には、再結晶化された前記目的成分を洗浄するための空間が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項9】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分をクロマトグラフィーにより精製するカラムが形成されていることを特徴とする請求項5に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項10】
前記カラムから排出される成分を、時間を区切って収容する空間が形成されていることを特徴とする請求項9に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項11】
前記カートリッジには、内容物を光学的に測定するための光学ウィンドウが設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項12】
前記カートリッジの内部には、前記化学処理のための同一シーケンスを規定する所定の構造が複数形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項13】
前記カートリッジの内部には、受け入れたサンプルを前記複数の構造に分岐させる流路が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項14】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、油層と水層とを重力により分離することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項15】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、空間壁に前記目的成分に対する親和性が異なる2つの領域を設けることで両成分を分離することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項16】
外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、
前記カートリッジの内部に形成された空間において、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するステップと、
前記分離するステップで使用した前記カートリッジを廃棄するステップと、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項1】
外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジにおいて、
前記カートリッジの内部には、
外部からサンプルを受け入れる空間と、
受け入れられた前記サンプル中の目的成分を分離するための分離溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間と、
が形成されていることを特徴とする化学処理用カートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジの内部には、外部から受け入れた前記サンプルの反応を停止させる空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項3】
前記カートリッジの内部には、前記分離溶媒により分離された目的成分を濃縮するための空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項4】
溶媒の蒸発により前記目的成分が濃縮されることを特徴とする請求項3に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項5】
前記カートリッジの内部には、濃縮された前記目的成分に溶解剤を添加する空間が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項6】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分を再結晶化させるための空間が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項7】
前記溶解剤の蒸発、前記溶解剤の冷却に伴う飽和、または低溶解度溶媒の添加により、前記目的成分を再結晶化させることを特徴とする請求項6に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項8】
前記カートリッジの内部には、再結晶化された前記目的成分を洗浄するための空間が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項9】
前記カートリッジの内部には、溶解剤が添加された後に前記目的成分をクロマトグラフィーにより精製するカラムが形成されていることを特徴とする請求項5に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項10】
前記カラムから排出される成分を、時間を区切って収容する空間が形成されていることを特徴とする請求項9に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項11】
前記カートリッジには、内容物を光学的に測定するための光学ウィンドウが設けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項12】
前記カートリッジの内部には、前記化学処理のための同一シーケンスを規定する所定の構造が複数形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項13】
前記カートリッジの内部には、受け入れたサンプルを前記複数の構造に分岐させる流路が形成されていることを特徴とする請求項12に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項14】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、油層と水層とを重力により分離することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項15】
前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するための空間では、空間壁に前記目的成分に対する親和性が異なる2つの領域を設けることで両成分を分離することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジ。
【請求項16】
外力を加えた際の変形によって内部の送液を行うことで化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、
前記カートリッジの内部に形成された空間において、受け入れられたサンプル中の目的成分を分離するための親水性溶媒および疎水性溶媒を前記サンプルに混合し、前記サンプル中の目的成分と他の成分とを分離するステップと、
前記分離するステップで使用した前記カートリッジを廃棄するステップと、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジの使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−43843(P2008−43843A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219444(P2006−219444)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]