説明

化学反応を制御するための方法及び装置

本発明は、マイクロ波を利用した化学反応を実施するための方法及び装置、特に、マイクロ波を利用した有機合成反応をほぼ理想的な加熱条件及び冷却条件下で実施するための方法及び装置に関する。本発明にしたがった方法は、化学反応のための物質を、高温及び高圧に耐えるように適合された反応チャンバーに供給し、マイクロ波加熱を適用して化学反応を開始させ、所望の温度に到達させ、そしてその反応混合物を、断熱冷却を用いることにより、所望の低温に冷却することを含む。また、本発明は、かかる方法を実施するための装置、並びに、有機合成反応を実施するための方法及び装置の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、マイクロ波を利用した化学反応を実施するための方法及び装置、特にマイクロ波を利用した有機合成反応を殆ど理想的な加熱条件及び冷却条件下で実施するための方法及び装置に関する。
【0002】
背景技術
化学反応及び特に化学合成の分野においては、高い純度と収率で生成物を調製することが非常に望ましい。したがって、通常、各化学反応は、所望な反応性生物の形成を促進し、不所望な副生物及び/又は所望な最終生成物の分解を防止する最適な反応条件下で行わなければならない。副生物の発生及び所望な生成物の分解は、とりわけ加熱速度と冷却速度、そして反応混合物がいかに均一に加熱され冷却されたかに依存して、通常、化学反応の加熱及び冷却段階の間に起こる。加熱速度又は冷却速度があまりに遅いと、及び/又は、反応混合物の加熱又は冷却が不均一であると、純度及び収率の程度が低い生成物となる場合が多い。
【0003】
更に、マイクロ波加熱により、すばやく均一な様式で殆ど瞬時に物質を加熱できることが知られている。マイクロ波加熱により提供される迅速で均一な加熱は、とりわけ副生物による不純物が減じられるということに依存して、高純度の生成物を提供する。しかしながら、反応生成物の冷却は、依然として、慣用的な熱伝導冷却手段、例えば熱交換器を用いて行われている。このような慣用的な冷却手段はおそく不均一であるので、例えば形成された生成物の分解又は副生物のために、得られる最終生成物は、純度及び収率の程度が低い。結果的に、マイクロ波加熱工程の間に得られた所望の生成物の高い純度及び収率を維持することができず、実際には上文で述べた理由のため冷却工程の間に低くなる。
【0004】
したがって、マイクロ波加熱を迅速で均一な冷却と組み合わせた結果、加熱及び冷却工程がいずれも瞬時かつ均一に起こり、改良された収率及び純度をもつ最終生成物が得られる、化学反応を実施するための方法及び装置を得るやり方に対する強い要求が存在する。
【0005】
米国特許第5,932,075号は、高温及び高圧条件下で容器の内容物中に浸漬させた熱交換器手段(コールドフィンガー)により冷却を実施する容器中で、マイクロ波エネルギーを用いてバッチ様式の化学反応を実施するための装置に関する。
【0006】
米国特許第5,287,391号は、マイクロ波加熱を用いて連続的なベースで化学反応を実施して、熱交換器手段を用いることにより反応を冷却する方法に関する。
米国特許第5,932,075号及び米国特許第5,387,397号はいずれも、冷却速度がマイクロ波加熱により達成される加熱速度よりはるかに遅い、伝統的な熱交換器冷却手段を使用しているので、加熱工程後の生成物の収率及び純度は冷却工程の間に減少している。
【0007】
本発明の目的は、前述の問題を解決する方法及び装置を提供することである。
発明の要旨
上述の目的は、独立請求項に定義された本発明により達成される。好ましい態様を従属請求項に示す。
【0008】
理想的な化学反応は、最大収率が得られるように反応を実施するために瞬時かつ均一に所望の温度に到達させ、次いで所望の時間一定に保持するように加熱するものとする。続いて、所望の低温に瞬時かつ均一に到達するように冷却するものとする。化学反応を理想的な加熱及び冷却プロフィールに可能な限り近く実施するために、反応混合物は、所望の温度にほぼ瞬時かつ均一に加熱し、冷却するものとする。
【0009】
本明細書中に定義する断熱冷却とは、反応チャンバーの内容物の冷却が瞬時かつ均一に起こることを意味する;その結果、熱(エネルギー)が系に入ったり残されたりすることはまったくなく、反応チャンバーの内容物の一部が系に残される(環境中に失われる)こともない。
【0010】
特許請求の範囲に記載の発明にしたがった方法及び装置は、化学反応のために提供され、これにより、改良された収率及び純度をもつ生成物がもたらされる。
本発明にしたがった方法は:
化学反応のための物質を、高温及び高圧に耐えるように適合された反応チャンバーに供給し、
マイクロ波加熱を適用して該化学反応を開始させ、所望の温度に到達させ、そして、
該反応混合物を、断熱冷却を用いて所望の低温に瞬時に冷却する
ことを含む。
【0011】
本発明にしたがった装置は、少なくとも入口及び出口を有し、高温及び高圧に耐えるように適合された反応チャンバーと、反応混合物を加熱するためのマイクロ波加熱源と、該反応混合物を断熱冷却するための、バルブ、管系、及び膨張容器を含む冷却手段とを含む。
【0012】
発明の具体的な説明
本発明は、添付の図面を参照する本明細書中に与えられた具体的な説明から、より充分に理解されるだろう。
【0013】
以下の本発明の態様の説明においては、異なる態様における同様な要素は、同じ参照番号で示す。
図1においては、化学反応についての理想的な加熱及び冷却プロフィール1と慣用的なプロフィール2を図示している。理想的な加熱及び冷却プロフィールにしたがって実施される化学反応は、初期温度Tiから所望の高温Tdへと瞬時かつ均一に加熱され、次いで、所望であれば所望な時間Tdにて保持され、最後に所望な低温Tcに瞬時かつ均一に冷却されることになる。化学反応の加熱及び/又は冷却は、領域3(慣用的な加熱及び冷却プロフィール2と理想的なプロフィール1との間の領域)の内部で起こり、低い純度及び収率をもつ最終生成物が生ずることとなる。
【0014】
マイクロ波により加熱される化学反応を実施するために使用される装置としては、マイクロ波源、典型的にはマグネトロンからマイクロ波が導かれる空洞を有する装置が通常挙げられる。そのような装置は当業者にとって周知であるので、本明細書中では詳細には説明しない。
【0015】
本発明にしたがった断熱冷却は、反応混合物の体積を変化させることにより達成することができる。これは、反応チャンバーに機能的に接続された膨張容器中に反応混合物を膨張させることにより、達成することができる。
【0016】
本発明の概略的な実例を図2に示す。この態様においては、反応チャンバー4は、図に示すように、バルブ8を介して膨張容器9に機能的に接続される。反応チャンバーは体積V1を有しており、部分的に反応混合物が充填される。膨張容器は、反応チャンバー4の体積より大きい体積V0を有し、バルブ8を閉じたときに、好ましくは、周囲圧力P0及び温度T0を有する。反応チャンバー4中の反応混合物を温度T1に加熱し、圧力をP1に上昇させ、バルブ8を閉じる。反応チャンバー4中の反応混合物は、支配的な温度及び圧力条件により、二つの相、すなわち液体及び/又は固体相7と蒸気相6とを含む。冷却が必要な場合は、バルブを開け、これにより、反応チャンバー4の低端部にある任意の液体又はスラリー又は固体粒子は膨張容器9中に流れる。反応チャンバー4と膨張容器との間の圧力差により、反応混合物は膨張容器中に流れる。この過程の間に、反応混合物全体は、断熱冷却条件下で熱を失う。また、膨張容器9の壁上での反応混合物の熱伝導も、反応混合物の温度を下げるためにある程度寄与することになる。膨張容器9が、反応チャンバー4の体積V1より充分に大きい体積V0を有する場合は、膨張容器9中の最終温度及び圧力、それぞれT2及びP2は、初期の温度及び圧力、それぞれT0及びP0よりわずかに高くなる。
【0017】
図3は、本発明にしたがった装置の一態様をより詳細に図示している。この態様では、反応チャンバー4及び膨張容器9は、反応チャンバー4の底部に近接したバルブ8、例えばボールバルブと、バルブ8と膨張容器9の間の管系10とにより接続される。
【0018】
図4は、本発明にしたがった装置の別の態様を図示している。この態様では、バルブ8、例えばボールバルブは、反応チャンバー4の頂部に近接して配置され、管系11はバルブ8から反応チャンバー4の底部へと入る。反応チャンバー4の底部は、管系11と反応器底部の最も低い部分との間の死空間を最小限にするように形づくられている。バルブ8は、管系11により膨張容器9と接続される。
【0019】
管系10は、0〜約1メートルの長さを有することができる。
達成される冷却速度は、反応体積、試薬、使用される溶媒及び反応体、並びに温度条件に依存することとなるが、慣用的な冷却手法を用いるよりも有意に速くなる。例として、水200mlを200℃から40℃に冷却するのに秒単位であるのに対して、慣用的な冷却手段の場合では分又は時間単位であることが示された。
【0020】
本発明において使用する圧力は、1000バールまでであることができる。使用する温度は、500℃までであることができる。冷却過程に使用される時間間隔は、数秒〜数分であることができる。
【0021】
膨張容器(9)の体積と反応チャンバー(4)の体積との間の体積比率は、0.25〜1000、適切には1〜500、好ましくは10〜100であることができる。
また、本発明にしたがった装置は、反応チャンバー(4)に機能的に接続された1より多い膨張容器(9)を含んでもよい。
【0022】
更に、本発明にしたがった装置は、例えば、一定の化学反応について所望の温度プロフィールを得るために、マイクロ波入力電源、圧力、温度などの重要な種々のパラメータを制御するための制御手段を含んでもよい。これらの制御手段は、本発明に関する使用に適した任意の既知の手段であることができる。
【0023】
本発明は、改良された純度をもつ化学的生成物を提供するので、その後の精製過程が簡単となる。
本発明にしたがった方法及び装置は、化学反応をバッチで並びに連続的なベースで実施するために利用することができる。
【0024】
本発明にしたがった方法及び装置は、化学反応及び特に化学合成反応を、実験室規模並びに大きな工業規模で実施するのに適している。本発明にしたがった方法及び装置は、大規模で化学反応を実施するのに特に適している。
【0025】
そのうえ、本発明の方法及び装置は、有機合成反応に特に適しており、不安定な分子の生成に特に適している。
本発明にしたがった方法及び装置により化学反応を実施する場合に達成される更なる予期せぬ利点は、最終生成物が結晶化可能な物質である場合に結晶がもっぱら膨張容器中で形成される、すなわち、全反応混合物の瞬時の冷却により管系中で結晶が形成されることがないということである。この場合において、膨張容器の体積と反応チャンバーの体積との間の体積比率は少なくとも1である。
【0026】
また、本発明は、これまでに説明した、有機化学合成反応を実施するための方法及び装置の使用に関する。上文に説明した方法及び装置を用いることにより実施することができる化学反応は、例えば、酸化、求核置換、付加、エステル化、エステル交換、アセタール化、ケタール交換、アミド化、加水分解、異性化、縮合、脱カルボキシル化、及び脱離である。
【0027】
本発明を次の実施例により説明するが、これにより限定されない。
サルコシン(5.35g,60.05mmol)及びフェニルイソチオシアネート(9.49g,70.2mmol)をエタノール(120ml)中で溶解し、マイクロ波バッチ反応容器に入れた。反応混合物を180℃で2分間照射した。生成物を、350mlの体積をもつ反応容器から3mm管系を介して400mlの体積をもつ膨張容器へと完全に移し、本発明にしたがった断熱冷却手段を使用して、30秒以内に40℃未満に冷却した。所望の生成物の結晶化は膨張容器中で起こり、接続管系中や完全に空になった反応容器中では結晶化は見られなかった。
【0028】
これまでの本発明の開示は、例示目的のために示してきたが、本発明をいかなるようにも限定するものではない。本明細書中に説明した方法及び装置の種々の代替物及び修飾が問う業者に明らかになるだろう。本発明の範囲は特許請求の範囲により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、慣用的な加熱及び冷却の方法及び装置により得られる加熱/冷却プロフィール(断続線)と、本発明にしたがった方法及び装置により意図された理想的な加熱/冷却プロフィール(間断のない線)とを示す。
【図2】図2は、本発明にしたがった装置を示し、膨張容器に機能的に接続された反応チャンバーを図示している。
【図3】図3は、本発明にしたがった装置を詳細に示し、反応チャンバーと膨張容器の間の接続を図示している。
【図4】図4は、本発明にしたがった装置を詳細に示し、別の適する態様にしたがった反応チャンバーと膨張容器の間の接続を図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応を実施する方法であって:
化学反応のための物質を、高温及び高圧に耐えるように適合された反応チャンバー(4)に供給し、
マイクロ波加熱を適用して該化学反応を開始させ、所望の温度に到達させ、そして、
該反応混合物を、断熱冷却を用いて所望の低温に瞬時に冷却する
ことを含む方法。
【請求項2】
更に、所望の温度を所望の時間実質的に一定に維持して、化学反応を実施することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
反応混合物を膨張容器(9)中へと膨張させて反応混合物の体積を増大させることにより、冷却が行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、少なくとも入口及び出口を有し、高温及び高圧に耐えるように適合された反応チャンバー(4)と、反応混合物を加熱するためのマイクロ波加熱源と、該反応混合物を断熱冷却するための、バルブ(8)、管系(10)、及び膨張容器(9)を含む冷却手段とを含む装置。
【請求項5】
膨張容器(9)の体積と反応チャンバー(4)の体積との間の体積比率が1〜500である、請求項4記載の装置。
【請求項6】
更に、反応チャンバー(4)に機能的に接続された1より多い膨張容器(9)を含む、請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
管系(11)の底部端を、反応チャンバー(4)の低端部にて、反応混合物の液相レベル又はそれより低いところに配置する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
有機合成反応を実施するための請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項9】
有機合成反応を実施するための請求項4〜7のいずれか1項に記載の装置の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−510683(P2006−510683A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560235(P2004−560235)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/SE2003/002009
【国際公開番号】WO2004/054707
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(505233125)バイオテージ・アクチボラグ (1)
【Fターム(参考)】