説明

化学方法

式(I)
【化1】


〔式中、RおよびRは、独立して水素以外の有機基から選択される。〕
の化合物の塩の製造方法であって、式(II)
【化2】


の化合物と、水および有機酸をヒドロキシルアミン非存在下で反応させることを含む、方法。本反応は広範囲の中間体、特にキラル化合物の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広範囲の化学物質、および特に医薬化合物の製造における中間体として有用な、キラルヒドロキシルアミンの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシルアミン化合物は、特に医薬化合物の製造における中間体として、広範囲の適用を有する。このような化合物は、エナンチオマー的に純粋であるか、または一エナンチオマーが少なくとも圧倒的に優勢であることが頻繁に要求される。
【0003】
ラセミまたは他の混合物の分割は、しばしば時間がかかり、無駄が多く、大規模製造法には一般に適さない。それ故、立体選択的反応方法が探索される。
【0004】
分割された出発物質を使用するとき、キラル完全性を維持できる一つのこのような方法は、H. Tokuyama et al., Synthesis 2000, No. 9, 1299-1304およびH. Tokuyama et al., Org. Synth. 2003, Vol. 80, 207-218に記載されている。この方法において、1級アミンを、最初の1級アミンのシアノメチル化、次いでニトロンの位置選択的形成、その後のこのニトロンのヒドロキシルアミノリシスを含む3工程によりモノアルキルヒドロキシルアミンに変換する。シアノ基は、ニトロンの位置選択的形成の非常に有効な配向基として働き、それ故所望の生成物が高収率で得られる。しかしながら、この工程の最終段階は、高温を使用するヒドロキシルアミノリシス工程を含む。ヒドロキシルアミンは、大気圧で加熱したときに爆発することが示されており(Bretherick's Handbook of Reactive Chemical Hazards, 6th Ed)、それ故に、このような方法の、特に大規模での操作は危険を伴い得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願は、以下に示す、大規模で使用でき、危険性を減らし、そしてエナンチオマー的に純粋な基質の利用を可能とする、ヒドロキシルアミンの製造の改良法を発見した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって、式(I)
【化1】

〔式中、RおよびRは、独立して水素または有機基から選択される。〕
の化合物の塩の製造方法であって、式(II)
【化2】

の化合物と、水および有機酸をヒドロキシルアミン非存在下で反応させることを含む、方法を提供する。
【0007】
この方法を使用して、得られる式(I)の化合物は塩の形であり、これをそのまま次工程に使用し得るか、または、必要であれば、遊離ヒドロキシルアミンを利用するために塩基性化し得る。
【0008】
特に、本方法で使用する有機酸はp−トルエンスルホン酸(PTSA)であるが、シュウ酸または酢酸のような他の酸も使用してよい。
【0009】
本反応は、酢酸エチルのような有機溶媒中、中程度の温度、例えば20〜60℃、特に約40℃で適当に行う。
【0010】
特にこの反応は、式(IA)
【化3】

〔式中、R1'およびR2'は、上記で定義のRおよびRに相当する。ただし、それらは水素以外であり、互いに異なる。〕
の化合物の製造に有用である。この場合、式(IIA)
【化4】

〔式中、R1'およびR2'は、式(IA)に関して定義の通りである。〕
の化合物を反応に使用する。
【0011】
適切には、式(II)または(IIA)の化合物は、各々式(III)または(IIIA)
【化5】

の化合物と、m−クロロ過安息香酸(MCPBA)のような酸化剤の反応により得る。適切には、m−クロロ過安息香酸は、式(II)または(IIA)の反応に使用するのと同じ有機溶媒中にあり、特にこれは酢酸エチルである。このような組合せは、以前にこの状況で使用されていたジクロロメタンのようなハロカーボンのような環境にあまり優しくない溶媒の非存在下で反応が進行することを可能にする。
【0012】
上記の通り、この反応は位置選択的であり、およびそれ故、キラル化合物の製造に特に有用である。
【0013】
本反応は、低温で、例えば−10〜20℃、特に約5℃で適切に行う。反応は、水性溶液として添加された重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウム、好ましくは重炭酸ナトリウムのようなアルカリ金属炭酸塩、重炭酸塩または水酸化物のような塩基での洗浄により適切に後処理する(work up)。
【0014】
適切には、その後、式(II)または(IIA)の化合物をこの反応前に単離する必要はなく、塩基性溶液および次いで塩水での洗浄後、インサイチュで反応させて、各々式(I)の化合物または(IA)を製造できる。出願人は、式(III)または(IIIA)の化合物とMCPBAの間の反応の生成物の塩基での洗浄が酸副産物を除き、それが生成物分解および収率の低下を減らすことを発見した。この洗浄レジメンからの水性廃棄物は、酸化剤について試験し、それに応じて処理できる。
【0015】
式(III)または(IIIA)の化合物は、適切には、各々式(IV)または(IVA)
【化6】

〔式中、RおよびRは式(I)に関して定義の通りであり、そしてR1'およびR2'は式(IA)に関して定義の通りである。〕
の化合物と、式(V)
【化7】

〔式中、Rはハロおよび特にブロモのような脱離基である。〕
の化合物の反応により得られる。
【0016】
本反応は、有機溶媒中、ヒューニッヒ塩基のような塩基の存在下で行う。ここで使用する有機溶媒が先の反応と同じであるならば、完全な一連の反応を、簡単に、溶媒交換のために、溶媒を例えば蒸発により除去する必要性を除き、実施できる。これは、特に大規模製造を管理する際に非常に望まれる。
【0017】
酢酸エチルは、それがこれらの化合物を得るために先の方法で使用されていたクロロホルムまたはジクロロメタンのようなハロカーボンのような溶媒のいくつかよりも環境的により許容されるため、この状況で特に好ましい溶媒である。さらに、特定例において、それを、特に大規模では実施が困難な可能性がある回転蒸発のような蒸発工程の必要性を避けながら、工程を通して使用できる。
【0018】
およびRに適当な有機基は、官能基またはヘテロ原子は反応を妨害しない限り、官能基で所望により置換されていてよい、または、酸素、硫黄または窒素のようなヘテロ原子を含み得るヒドロカルビル基である。
【0019】
例えば、RおよびRが、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、アラルキルまたはヘテロ環式基を含み得る。これらはどれも所望により1個以上の官能基で置換し得る。官能基の例は、ハロ、ニトロ、シアノ、NR、OR、C(O)、C(O)NR、OC(O)NR、NRC(O)、NRC(O)NR、N=CR、S(O)、S(O)NRまたは−NRS(O)を含み、ここで、R、R、RおよびRは、独立して水素または所望により置換されていてよいヒドロカルビルから選択されるか、またはRおよびRは、それらが結合している原子と一体となって、上記で定義の所望により置換されていてよいヘテロシクリル環を形成し、これは、所望によりS(O)、酸素および窒素のようなさらなるヘテロ原子を含んでよく、nは1または2の整数であり、mは0または1−3の整数である。
【0020】
任意のシクロアルキル、アリールまたはヘテロ環式基はまたアルキル、アルケニルまたはアルキニル基で置換されていてよく、これは、それら自体、上記の官能基で所望により置換されていてよい。
【0021】
ヒドロカルビル基R、R、RおよびRのための適当な所望の置換基は、ハロ、トリフルオロメチルのようなペルハロアルキル、メルカプト、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルコキシアルコキシ、アリールオキシ(ここで、アリール基はハロ、ニトロまたはヒドロキシで置換されていてよい)、シアノ、ニトロ、アミノ、モノ−またはジ−アルキルアミノ、アルキルチオ、アルキルスルフィニル、アルキルスルホニルまたはオキシイミノを含む。
【0022】
およびRが、一体となってヘテロ環式基を形成するとき、これは、アルキルのようなヒドロカルビルならびにヒドロカルビル基R、R、RおよびRについて上記の置換基により所望により置換されていてよい。
【0023】
ここで使用する、表現“アルキル”は、10個まで、好ましくは6個までの炭素原子を有する基を含み、これはプロピル、イソプロピルおよびtert−ブチルのような直鎖および分枝鎖アルキル基の両方であってよい。同様に、用語“アルケニル”および“アルキニル”は、2−10個および好ましくは2−6個の炭素原子を有する不飽和基を意味し、それは直鎖でも分枝鎖でもよい。用語“シクロアルキル”は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルのようなC3−8シクロアルキル基を含む。
【0024】
同様の慣習を他の一般的用語にも適用し、例えば“アルコキシ”は、酸素の方法で連結した上記で定義のアルキル基を含み、従って、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、などを含む。
【0025】
用語“アリール”は、フェニルまたはナフチルのような芳香族性炭化水素環を意味する。用語“ヘテロ環式”または“ヘテロシクリル”は、3〜15原子を含み、少なくともその1個が、および好適にはその1〜4個が酸素、硫黄または窒素のようなヘテロ原子である、単または二環式であり得る環構造を含む。環は、芳香族性、非芳香族性または、縮合関係の1つの環が芳香族性であり、他方が非芳香族性であり得る点で部分的に芳香族性であり得る。このような環系の特定の例は、フリル、ベンゾフラニル、テトラヒドロフリル、クロマニル、チエニル、ベンゾチエニル、ピリジル、ピペリジニル、キノリル、1,2,3,4−テトラヒドロキノリニル、イソキノリル、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニル、ピラジニル、ピペラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、ピロリル、ピロリジニル、インドリル、インドリニル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピラゾリル、インダゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、イソチアゾリル、モルホリニル、4H−1,4−ベンゾオキサジニル、4H−1,4−ベンゾチアジニル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、オキサジアゾリル、フラザニル、チアジアゾリル、テトラゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾチエニルオキシラニル、オキセタニル、アゼチジニル、テトラヒドロピラニル、オキセパニル、オキサゼパニル、テトラヒドロ−1,4−チアジニル、1,1−ジオキソテトラヒドロ−1,4−チアジニル、ホモピペリジニル、ホモピペラジニル、ジヒドロピリジニル、テトラヒドロピリジニル、ジヒドロピリミジニル、テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチオピラニルまたはチオモルホリニルを含む。
【0026】
環が窒素原子を含むとき、これらは、窒素の結合手を満たすために、必要であれば水素原子またはC1−6アルキル基のような置換基を担持してよく、または、それらは窒素原子の方法で構造の残りに連結してよい。ヘテロシクリル基内の窒素原子を酸化して、対応するN−オキシドを得てよい。
【0027】
用語“ハロ”または“ハロゲン”はフッ素、塩素、臭素およびヨウ素を含む。
適切には、RおよびRは非置換ヒドロカルビルまたはヘテロ環式基である。
【0028】
特に、RまたはRの一方がアルキル基、例えばメチルのようなC1−3アルキル基であり、他方が、フェニルのようなアリール基またはピリジルのような芳香族性ヘテロ環式基である。
【0029】
本発明により得られる化合物は、広範囲の適用を有し得る。例えば、キラルヒドロキシルアミンは、修飾ペプチドに至り得るβ−アミノ酸の製造(H. S. Lee et al., J. Org. Chem. 2003, Vol. 68, No.4, 1575-1578)、ならびに有用なグリカン誘導体の製造(WO98/15566)に使用される。それらは、例えば本発明と同じ出願日の本出願人の同時係属出願に記載されている、ある種のメタロプロテイナーゼ阻害剤の製造にも有用であり得る。
【0030】
本発明を、ここで、実施例の方法により具体的に記載する。
【実施例】
【0031】
実施例1
(S)−N−(1−フェニルエチル)ヒドロキシルアミンの製造
工程1
【化8】

(S)−(−)−1−フェニルエチルアミン(化合物A)(4.70g)を、ブロモアセトニトリル(5.12g)で、ヒューニッヒ塩基(7.6mL)存在下、酢酸エチル(27.5mL)中、40℃でモノアルキル化した。3時間後、水(7.5mL)を添加して、ヒューニッヒ塩基臭化水素酸塩を溶解させた。水性層を除去し、化合物B含有有機層を−2℃に冷却した。
【0032】
工程2
【化9】

m−クロロ過安息香酸(MCPBA)(14.72g)の酢酸エチル(30mL)溶液を、化合物Bを含む工程1からの有機相に、温度を5℃未満に維持するようにゆっくり添加した。反応混合物を、連続的に重炭酸ナトリウム(3×25mL)および塩水(25mL)で洗浄し、化合物Cの酢酸エチル溶液を残した。
【0033】
工程3
【化10】

p−トルエンスルホン酸一水和物(PTSA)(7.38g)を、化合物Cを含む工程2からの有機相に添加し、バッチ温度を40℃に3時間加熱した。次いで、化合物Dをトシル酸塩として結晶化させた。バッチ温度を0℃に冷やし、1時間維持する。生成物(化合物D)を濾過により回収し、酢酸エチルで置換洗浄し、その後真空で40℃で一定重量となるまで乾燥させた(8.56g、3工程で71%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、RおよびRは、独立して水素以外の有機基から選択される。〕
の化合物の塩の製造方法であって、式(II)
【化2】

の化合物と、水および有機酸をヒドロキシルアミン非存在下で反応させることを含む、方法。
【請求項2】
有機酸がp−トルエンスルホン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(II)の化合物が式(IIA)
【化3】

の化合物であり、それ故、式(I)の生成物が式(IA)
【化4】

〔式中、RおよびRは請求項1で定義の通りであるが、互いに異なる。〕
の化合物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(II)の化合物が、式(III)
【化5】

の化合物と酸化剤の反応により得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
酸化剤がm−クロロ過安息香酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
m−クロロ過安息香酸が酢酸エチル中にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(III)が、式(IV)
【化6】

〔式中、RおよびRは、式(I)に関連して定義した通りである。〕
の化合物と、式(V)
【化7】

〔式中、Rは脱離基である。〕
の化合物の反応により得られる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
およびRが、独立して、非置換ヒドロカルビルまたはヘテロ環式基から選択される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
およびRが水素以外であり、そして互いに異なる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
またはRの一方がアルキル基であり、そして他方がアリール基または芳香族性ヘテロ環式基である、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2010−502581(P2010−502581A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526172(P2009−526172)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/GB2007/003278
【国際公開番号】WO2008/029090
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】