説明

化学物質合成装置及び化学物質合成方法

【課題】安価な構成部材を使用して、所望の位置において化学物質の合成を行うことができる化学物質合成方法を提供する。
【解決手段】光投射装置30からの光Lを用いて化学物質合成ユニット20において化学物質を合成する化学物質合成装置60が提供される。化学物質合成ユニット20は、一方の面に光Lにより抵抗が低下する光導電体32が設けられ、他方の面に光投射装置30からの光Lが投射され、当該光Lを透過する第1基板21と、第1基板21の一方の面に対向配置される第2基板24と、第1基板21と第2基板24との間の領域を、第1基板側の第1領域51と、第2基板側の第2領域52とに区画するプロトン透過体23と、を含み、物質第1領域51でプロトン70を発生させ、第2領域52で化学物質を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質合成装置及び化学物質合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体物質であるDNA(デオキシリボ核酸)を用いた診断において、DNAを基板上にアレイ形状等に配列したチップ(DNAチップあるいはオリゴヌクレオチドマイクロアレイと呼ばれる。以下、DNAチップという。)を用いる方法が、一人一人の人間の違いに対応した、オーダーメード医療の実現に必須なものとして研究され、実用化されつつある。
【0003】
このDNAチップを作成すること等のために、従来から基板上にDNA又はたんぱく質等を合成する化学物質合成装置及び化学物質合成方法の開発が行われている。この例として、特許文献1には、光を利用した化学物質合成装置及び化学物質合成方法が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載の発明によれば、導電性層と溶液との間に電圧を印加し、導電性層と溶液との間を絶縁している光導電性基板の一部に所定のパターンで光を照射する。この光照射のパターンは、半導体集積回路(IC)を作製する場合に使用されるガラスマスク等によって決定される。ガラスマスク等のパターンに対応して光が照射された光導電性基板の一部の抵抗は低下する。この抵抗の低下と導電性層と溶液との間の電圧とにより、光導電性基板を介して、導電性層と溶液との間に電流が流れる。この結果、電気的に化学合成が起こり、この化学合成によって化学物質を光導電性基板上に形成する。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5810989号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明によれば、光導電性基板上に化学物質を合成するので、化学合成の度に高価な光導電性基板を交換する必要がある。従って、化学合成に掛かる費用が増加するという問題があった。
【0007】
また、ガラスマスク等によって光を照射する位置、即ち、化学物質を合成する位置を決定するため、このガラスマスクを用いる方法は、同じパターンのものを大量に生産する場合には適しているが、パターン変更に即座に対応することが困難である。従って、任意の位置に化学物質を合成することが困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、安価な構成部材を使用して、所望の位置において化学物質の合成を行うことが可能な、新規かつ改良された化学物質合成装置及び化学物質合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、光投射装置からの光を用いて化学物質合成ユニットにおいて化学物質を合成する化学物質合成装置であって、化学物質合成ユニットは、一方の面に光により抵抗が低下する光導電体が設けられ、他方の面に光投射装置からの光が投射され、当該光を透過する第1基板と、第1基板の一方の面に対向配置される第2基板と、第1基板と第2基板との間の領域を、第1基板側の第1領域と、第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、を含み、第1領域でプロトンを発生させ、第2領域で化学物質を合成することを特徴とする、化学物質合成装置が提供される。
【0010】
かかる構成によれば、光投射装置から投射され第1基板を透過した光により、光導電体の抵抗を低下させることができる。この光導電体の抵抗の低下により、第1基板とプロトン透過体との間の第1領域において、プロトンを発生させることができる。この発生したプロトンは、プロトン透過体を透過して、プロトン透過体と第2基板との間の第2領域へ移動することができる。そして、この透過したプロトンにより、第2領域において化学物質を合成することができる。従って、安価に構成できるプロトン透過体と第2基板との間において化学物質を合成することができるため、プロトン透過体及び第2基板の少なくとも一方を交換すれば再度化学物質の合成を行うことができる。また、光を投射する位置を選択することにより、プロトンを発生させる位置を選択できるため、化学物質を合成する位置を選択することができる。
【0011】
また、光導電体は、第1基板上に層状に形成されてもよい。かかる構成によれば、光が照射された場合、当該光が照射された光導電体の電気抵抗を低下させることができる。
【0012】
また、光導電体は、第1基板上に相互に離隔して設けられた複数の突起として形成されるとしてもよい。かかる構成によれば、光が照射された場合、当該光が照射された光導電体の突起の電気抵抗を低下させることができる。更に、各突起が離隔していることにより、電気抵抗が低下した際に突起に流れる電流が第1基板の平面方向に拡散することを防ぐことができる。
【0013】
また、化学物質は、第2基板上で合成されてもよい。かかる構成によれば、第2基板上に化学物質が合成される。従って、第2基板を交換することで、再度化学物質の合成を行うことができる。
【0014】
また、化学物質は、プロトン透過体上で合成されてもよい。かかる構成によれば、プロトン透過体上で化学物質を合成することができる。従って、プロトン透過体を交換することで、再度化学物質の合成を行うことができる。また、第2領域中を移動せずプロトン透過体を透過した直後のプロトンにより、化学物質を合成することができ、第2領域中においてプロトンが第2基板の平面方向に拡散することを防ぐことができる。
【0015】
また、プロトン透過体は、ポーラスガラスで形成されてもよい。かかる構成によれば、第1領域で発生したプロトンを第2領域に透過することができる。また、ポーラスガラスは、安価に作成できるため、プロトン透過体を作成するのにかかる費用を削減することができる。そして、化学物質の合成に使用される物質やプロトンを発生させる物質に対するプロトン透過体の化学的安定性を高めることができる。
【0016】
また、光投射装置は、光源としてLEDを備えてもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、外部からの光を用いて化学物質を合成する化学物質合成ユニットであって、化学物質合成ユニットは、一方の面に光により抵抗が低下する光導電体が設けられ、他方の面に外部からの光が投射され、当該光を透過する第1基板と、第1基板の一方の面に対向配置される第2基板と、第1基板と第2基板との間の領域を、第1基板側の第1領域と、第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、を含み、第1領域でプロトンを発生させ、第2領域で化学物質を合成することを特徴とする、化学物質合成ユニットが提供される。かかる構成によれば、安価に構成できるプロトン透過体と第2基板との間において化学物質を合成することができるため、プロトン透過体及び第2基板の少なくとも一方を交換すれば再度化学合成を行うことができる。また、光を投射する位置を選択することにより、プロトンを発生させる位置を選択できるため、化学物質を合成する位置を選択することができる。
【0018】
また、光導電体は、第1基板上に層状に形成されてもよい。
【0019】
また、光導電体は、第1基板上に相互に離隔して設けられた複数の突起として形成されてもよい。
【0020】
また、化学物質は、第2基板上で合成されてもよい。
【0021】
また、化学物質は、プロトン透過体上で合成されてもよい。
【0022】
また、プロトン透過体は、ポーラスガラスで形成されてもよい。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、第1基板と、第1基板に対向配置される第2基板と、第1基板と第2基板との間の領域を第1基板側の第1領域と第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、を含む化学物質合成ユニットにおいて、光を利用して化学物質を合成する化学物質合成方法であって、化学物質合成ユニットの外部から投射され第1基板を透過した光を利用して、第1領域でプロトンを発生させるプロトン発生段階と、第1領域で発生しプロトン透過体を透過したプロトンを利用して、第2領域で化学物質を合成する化学物質合成段階と、を含むことを特徴とする、化学物質合成方法が提供される。
【0024】
かかる構成によれば、光投射装置から投射され第1基板を透過した光により、第1基板とプロトン透過体との間の第1領域において、プロトンを発生させることができる。この発生したプロトンは、プロトン透過体を透過して、プロトン透過体と第2基板との間の第2領域へ移動することができる。そして、この透過したプロトンにより、第2領域において化学物質を合成することができる。従って、安価に構成できるプロトン透過体と第2基板との間において化学物質を合成することができるため、プロトン透過体及び第2基板の少なくとも一方を交換すれば再度化学合成を行うことができる。また、光を投射する位置を選択することにより、プロトンを発生させる位置を選択できるため、化学物質を合成する位置を選択することができる。
【0025】
また、プロトン発生段階では、第1基板と第2基板との間に所定の電圧を印加し、第1基板を透過した光を、第1基板上の第1領域側に設けられ光により抵抗が低下する光導電体に照射し、第1領域に導入され電圧の印加に応じてプロトンを発生するプロトン発生物質のうち、光の照射により抵抗が低下した光導電体の近傍のプロトン発生物質から、プロトンを発生させてもよい。かかる構成によれば、第1基板を透過した光の照射により、光導電体の抵抗を低下させることができる。光導電体の抵抗の低下により、第1基板と第2基板との間に印加された所定の電圧に基づく電圧を、第1領域に導入されたプロトン発生物質のうち、抵抗が低下した光導電体の近傍のプロトン発生物質に印加することができる。そして、この電圧が印加されたプロトン発生物質により、プロトンを発生することができる。従って、光を照射する位置を選択することにより、プロトンを発生させる位置を選択することができる。
【0026】
また、化学物質合成段階では、第2基板上で化学物質を合成してもよい。
【0027】
また、化学物質合成段階では、プロトン透過体上で化学物質を合成してもよい。
【0028】
また、光導電体は、相互に離隔して第1基板上に設けられた複数の突起として形成され、
プロトン発生段階では、第1基板を透過した光を、複数の突起の中から選択された少なくとも1つの突起に照射してもよい。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように本発明によれば、安価な構成部材を使用して、所望の位置において化学物質の合成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0031】
<第1の実施形態>
(構成)
まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1の実施形態に係る化学物質合成装置の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す斜視図であり、図2は、図1の化学物質合成装置をA−A線により切断した断面図である。
【0032】
図1に示すように、化学物質合成装置10は、光投射装置30と、化学物質合成ユニット20と、電源40と、を有する。
【0033】
(化学物質合成ユニット20)
化学物質合成ユニット20は、光投射装置30の光軸上に配置されて所定の波長の光の投射を受け、この光を利用して化学物質を合成する装置である。化学物質合成ユニット20は、第1基板21と、光導電性層22と、プロトン透過体23と、第2基板24と、を有する。化学物質合成ユニット20の厚みは、例えば、1mm程度とすることができる。
【0034】
第1基板21は、導電性の基板であり、光を透過する材質で構成され、一方の面に光投射装置30からの光が投射される。第1基板21は、導電性を有し、光を透過する材質によって形成される。第1基板21は、例えば、光が赤外光であればシリコン系の材質、光が可視光であれば光を透過するガラス等からなる支持基板と、支持基板上に配置され導電性を有するITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛、酸化スズ等の透明電極とで形成できるが、かかる例に限定されるものではない。
【0035】
光導電性層22は、光により抵抗が低下する光導電体の一例であって、第1基板21の光投射装置30と反対側の面上に積層配置される。光導電性層22は、第1基板21が支持基板と透明電極とで構成される場合、透明電極上に積層配置される。この光導電性層22は、光の照射により電気伝導率が増加する内部光電効果を有する材質で形成される。光導電性層22の材質の例としては、例えば、アモルファスシリコン、アモルファス SiGe、ZnO、CdS、CdSe、及び光導電性高分子等が挙げられるが、かかる例に限定されるものではない。
【0036】
また、光導電性層22の上面には、触媒層(図示せず)が設けられてもよい。この触媒層は、後述するプロトンを発生させるための触媒として作用する。この触媒層としては、例えば、Pt等が使用できるが、かかる例に限定されるものではない。この触媒層を有することで、プロトンを発生させるプロトン発生物質の活性化エネルギーを低下させ、低い電圧によりプロトンを発生させることができるため、効率的にプロトンを発生することができる。しかし、プロトンを発生させるために十分な電圧が印加できる場合、この触媒は、必ずしも必要ない。
【0037】
この光導電性層22は、例えば、第1基板21上にウエハボンディング等、又は、蒸着等によって作製できる。また、光導電性層22は、数μm以上の厚みで形成される。光導電性層22は、かかる厚みを有することにより、光が照射されていない場合、第1基板21の光導電性層22が積層された面上を絶縁することができる。
【0038】
プロトン透過体23は、プロトン(水素イオン)を透過可能な部材であって、光導電性層22上に離隔して対向配置され、光導電性層22と第2基板24との間の領域を、第1流路51と第2流路52とに区画する。
【0039】
プロトン透過体23は、例えば、数百μmの厚みで形成されてもよい。厚みを薄く形成することにより、プロトンがプロトン透過体23内を透過する際に移動する距離を短くすることができるため、プロトン透過体23内を透過している際にプロトンがプロトン透過体23の平面方向に拡散することを最小限に抑えることができる。しかし、プロトン透過体23の厚みは、かかる例に限定されず、適宜変更することができる。
【0040】
プロトン透過体23は、プロトンを透過し、第1流路51及び第2流路52に導入される他の物質を透過させない材質によって形成される。このプロトン透過体23の材質の例としては、例えば、ポーラスガラス等の数十nm程度の孔を有する多孔性物質、又は、燃料電池等に使用される陽イオン交換膜、高濃度リン酸、水酸化カリウム、リチウム・カリウム炭酸塩、ジルコニアセラミック等の電解質が挙げられるが、かかる例に限定されるものではない。
【0041】
尚、ポーラスガラスは、安価に作製することができ、かつ、化学的安定性に優れているので、プロトン透過体23をポーラスガラスで形成する場合、プロトン透過体23の作成に掛かる費用を削減でき、かつ、耐酸性等の化学的安定性を高めることができ、化学物質の合成に使用する溶液及びプロトン発生物質の選択の幅を広げることができる。
【0042】
第2基板24は、導電性の基板であって、プロトン透過体23上に離隔して対向配置される。第2基板24は、例えば、電極層241と、支持基板242と、によって構成できる。しかし、第2基板24は、かかる例に限定されず、例えば、一枚の電極基板によって構成されてもよく、第1基板21との間に所定の電圧を印加できる構成であれば如何なる構成であってもよい。
【0043】
電極層241は、プロトン透過体23に面してプロトン透過体23と離隔して対向配置され、導電性及び後述のプロトンに対する耐酸性を有する材質で形成される。
【0044】
支持基板242は、電極層241のプロトン透過体23と反対側の面上に積層配置され、電極層241を支持する基板であり、例えば、ガラス、プラスチック、アルミ板等で形成されてもよいが、かかる例に限定されるものではない。
【0045】
上記各構成の材質は、光照射装置からの光の波長、及び、要求される耐酸性に応じて適宜設定可能である。例えば、光導電性層22、プロトン透過体23、及び第2基板24の電極層241の材質は、後述するプロトンに対する耐酸性を満たすように選択され、第1基板21、光導電性層22は、光照射装置からの光の波長によって適宜選択される。
【0046】
光導電性層22とプロトン透過体23との間の領域には第1流路51が形成され、プロトン透過体23と第2基板24の電極層241との間の領域には第2流路52が形成される。
【0047】
第1流路51は、光を利用してプロトンを発生する第1領域の一例であって、その内部に電圧の印加によってプロトンを発生するプロトン発生物質が導入される。第1流路51の端部は、プロトン発生物質の導入口及び排出口が形成された隔壁(図示せず)等によって密封される。
【0048】
第1流路51を形成する光導電性層22とプロトン透過体23との間は、この隔壁等に形成されたスペーサ、突起等によって間隙が一定になるように支持される。当該間隙(第1流路51の幅)は、適宜設定可能であるが、プロトン発生物質を導入可能な程度で狭く設定することにより、プロトン発生物質が発生したプロトンが、第1流路51を移動する距離を短くすることができる。従って、プロトンが、第1流路51内で、第1流路51の流路方向(光導電性層22の面内の方向)へ拡散することを最小限に抑えることができる。なお、ここでは、第1流路51の幅は、例えば、数〜数百μmとすることができる。
【0049】
プロトン発生物質は、例えば、電圧が印加されることによって電気分解し、プロトンを発生させる物質である。光導電性層上に触媒が形成される場合、この触媒の作用によって、プロトン発生物質の活性化エネルギーは低下するので、プロトン発生物質は、更にプロトンを発生しやすくなる。
【0050】
プロトン発生物質としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、又は、プロトンを発生する弱酸等が使用可能である。プロトン発生物質としてメタノールを使用する場合、メタノールは、他のアルコール類と比べて低い活性化エネルギーを有しているため、低い電圧に対してプロトンを効率的に発生させることができる。また、メタノールは、弱酸等に比べて低い酸性を有するため、光導電性層22とプロトン透過体23として、高い耐酸性を有する材質を使用する必要がなくなる。しかし、プロトン発生物質は、かかる例に限定されず、例えば、電圧が印加されることにより電気分解を起こし、プロトンを発生させる如何なる物質が使用されてもよい。
【0051】
第2流路52は、第1流路51で発生しプロトン透過体23を透過したプロトン利用して、化学物質の合成を行う第2領域の一例であって、その内部に当該合成に使用される溶液等が導入される。第2流路52の端部は、この溶液等の導入口及び排出口が形成された隔壁(図示せず)等によって密封される。
【0052】
第2流路52を形成するプロトン透過体23と第2基板24の電極層241との間は、この隔壁等に形成されたスペーサ、突起等によって間隙が一定になるように支持される。当該間隙(第2流路52の幅)は、適宜設定可能であるが、化学物質の合成に使用される溶液を導入可能な程度で狭く設定することにより、プロトン透過体23を透過したプロトンが、第2流路52を移動する距離を短くすることができる。従って、プロトンが、第2領域内で、第2流路52の流路方向(プロトン透過体23の面内の方向)へ拡散することを最小限に抑えることができる。化学物質の合成に使用される溶液等については、後述する。なお、ここでは、第2流路52の幅は、例えば、数〜数百μmとすることができる。
【0053】
第2流路52に面する第2基板24の電極層241の面は、便宜上、化学物質を合成するための複数の部位に区画される。以下では、この部位を区画243とする。本実施形態によれば、この区画243毎に、異なる化学物質を合成可能である。
【0054】
この区画243には、例えば、化学物質の合成に使用されるリンカーの集合、又はリンカーと塩基との結合の集合等(以下、塩基等という。)の物質60が配置されてもよい。この物質60は、例えば、各区画243に配置され、図1に示すように、アレイ状(マトリックス状)に配置されてもよい。この際、物質60は、例えば、光投射装置30が有するLED31Aの個数及び配置間隔に対応した個数及び間隔で配置されてもよい。このようにLED31Aに対応して物質60を配置することにより、LED31Aの光により発生し、光導電性層22と垂直な方向に移動したプロトンを効率よく利用して、化学合成を行うことができる。
【0055】
しかし、本発明はかかる例に限定されるものではなく、リンカー等の物質60を用いずに化学物質を合成することができる場合は、物質60を各区画243に配置しなくてもよい。
【0056】
(光投射装置30)
光投射装置30は、化学物質合成ユニット20の第1基板21に所定の波長の光を投射する装置である。以下では、光投射装置30は、例えば、LEDロッドアレイであるとする。即ち、光投射装置30は、例えば、LEDアレイ31と、ロッドレンズアレイ32と、LED駆動基板33と、を備えるとする。しかし、光投射装置30は、かかる例に限定されるものではなく、化学物質合成ユニット20の第1基板21の少なくとも一部に選択的に所定の光を投射する装置であれば如何なる構成であってもよい。
【0057】
LEDアレイ31は、光投射装置30に備えられる光源の一例であって、LED駆動基板33上にアレイ状で第1基板21と平行な方向に一列に配置された複数のLED31Aからなる。以下では、このLED31Aが配列された方向をアレイ軸(Y軸)方向とする。
【0058】
各LED31Aは、数十μm間隔で配置される。LED31Aは、化学物質合成ユニット20に向けて、第1基板21と垂直な方向(Z軸方向)に所定の光Lを投射する。この所定の光Lとしては、例えば、波長が約360nm〜1mm程度である可視光又は赤外光等が使用される。さらにこの所定の光Lは、例えば、レーザ光であってもよい。
【0059】
LED31Aが発生する光Lは、構成部材の材質及び化学反応の種類等によって適宜選択可能である。例えば、第1基板21がシリコン系の材質で形成される場合、光Lとして赤外光を使用でき、第1基板21がガラス等の支持基板と透明電極とで形成される場合、光Lとして可視光を使用できる。
【0060】
ロッドレンズアレイ32は、LEDアレイ31から発せられる光を集光するレンズの一例であって、それぞれLED31Aの光軸上においてアレイ軸(Y軸)方向に一列に配置された複数のロッドレンズ32Aを含む。
【0061】
ロッドレンズ32Aは、光を集光して化学物質合成ユニット20に投射する。このロッドレンズ32Aによる集光は、化学物質合成ユニット20の区画243に対応した光導電性層22の一定の領域に光を照射するように調整される。かかる調整をおこなうことにより、プロトンを発生させる位置の選択性を高めることができるので、化学物質を合成する区画243の選択性を高めることができる。そして、ロッドレンズ32Aを使用することにより、アレイを形成しやすく、装置の作成が容易になる。更に、ロッドレンズ32Aは、集光性が高いため、光を照射する領域への集光を正確に行うことができる。
【0062】
しかし、LEDアレイ31から発せられる光を集光するレンズは、かかる例に限定されない。光を集光するために他の如何なるレンズ等による集光系が使用されてもよい。また、ロッドレンズ32Aを使用する場合であっても、ロッドレンズ32Aは、一列に配置されずに、アレイ軸(Y軸)方向に千鳥配置されてもよい。ロッドレンズ32Aを千鳥配置にすると、1つのLED31Aからの光Lを複数のロッドレンズ32Aで集光することにより、ロッドレンズアレイ32の集光性を向上することができ、投射する光の解像度を高めることができる。
【0063】
LED駆動基板33は、LED31Aを駆動するための基板の一例であって、第1基板21に対して平行な面内においてアレイ軸(Y軸)方向に延長形成されて配置される。LED駆動基板33は、各LED31Aに接続され、LED31Aの駆動に必要な配線及び回路を有する。
【0064】
光投射装置30は、LEDアレイ31、ロッドレンズアレイ32、及びLED駆動基板33等を支持する支持部材(図示せず)を有してもよい。
【0065】
光投射装置30は、更に、図示していない駆動装置を有する。駆動装置は、光投射装置30を、アレイ軸(Y軸)に対して垂直で、第1基板21に対して平行な方向である駆動方向(X軸方向)に移動させる。従って、光投射装置30は、駆動方向には光投射装置30を所定の位置に移動することができ、Y軸方向には配列されたLED31Aを選択的に駆動することができるので、化学物質合成ユニット20のどの部位に対しても選択的に光を投射することができる。
【0066】
しかし、本発明にかかる光投射装置30は、かかる例に限定されない。光投射装置30は、例えば、少なくとも1つ以上のLED31A及びロッドレンズ32Aのセットと、当該セットを第1基板21に対して平行な面上の任意の位置に移動させることができる駆動装置と、を有してもよい。かかる構成によれば、所望の位置にそれぞれのセットが移動して光を投射することができる。また、光投射装置30は、例えば、化学物質合成ユニット20に対応して、第1基板21に対して平行な面内にマトリックス状に配置された複数のLED31A及び複数のロッドレンズ32Aを有してもよい。かかる構成によれば、所望の位置に対応したLED31Aだけをを駆動することによって所望の位置に光を投射することができる。
【0067】
(電源40)
電源40は、第1基板21と、プロトン発生物質を電気分解してプロトンを発生させるための所定の電圧Vを、第2基板24の電極層241との間に印加する。そのために、電源40の一端は、第1基板21に接続され、他端は、アースされる。そして、第2基板24も、アースされる。電源40は、第1基板21が第2基板24の電極層241より高電位となるように所定の電圧Vを設定して印加する。この所定の電圧Vは、プロトン発生物質からプロトンを発生しうるように適宜設定可能である。尚、電源40は、例えば、第1基板21と第2基板24の電極層241とに接続され、両基板に所定の電圧Vを印加してもよい。
【0068】
(動作)
以上、化学物質合成装置10の構成について説明した。次に、図2〜図4を参照して、かかる構成を有する化学物質合成装置10の動作について説明する。図3は、図2の化学物質合成装置の部分Bを拡大し、化学物質合成装置の動作を概略的に説明する部分拡大図であり、図4は、本実施形態に係る化学物質合成方法を概略的に示した説明図である。尚、説明の便宜上、図3においては、電源40及び所定の電圧Vの印加を模式的に示した。
【0069】
以下では、説明の便宜上、化学物質合成装置10が合成する化学物質としてDNAの合成を例に挙げて、動作を説明する。この場合、物質60は、例えば、電極層241上に配置され有機化合物を固定するためのリンカー61と、リンカー61の先端に結合された保護基62と、を含む(図4(a)参照。)。この物質60は、リンカー61に結合された塩基を更に含んでもよい。この場合、電極層241の材質としては、リンカー61を固定しうるものが選択される。
【0070】
(プロトン発生段階)
化学物質合成装置10による化学物質を合成する動作は、大きく分けて、プロトン発生段階と、化学物質合成段階に分かれる。そこで、まず、プロトン発生段階について説明する。
【0071】
まず、図3に示すように、各端部に配置された隔壁の導入口より、第1流路51に、プロトン発生物質81(例えば、メタノール)が導入されて満たされ、第2流路52に、合成に使用される溶液として、例えば、塩化メチレン溶液82が導入されて満たされる。この際、プロトン発生物質81と塩化メチレン溶液82とは、それぞれ導入口及び排出口を介して循環されてもよい。但し、合成に使用される溶液は、塩化メチレン溶液82に限られず、合成の仕方によって適宜変更されうる。
【0072】
次に、電源40により、第1基板21と第2基板24の電極層241との間に所定の電圧Vを印加する。この所定の電圧Vは、第1基板21の方が電極層241よりも高電位となるように印加される。この際、第1基板21と電極層241との間に配置された光導電性層22は、両者の間を絶縁している。従って、第1基板21と電極層241との間は、所定の電圧Vが印加されているが絶縁されているため電流が流れない状態となる。つまり、この所定の電圧Vの大部分は、絶縁層である光導電性層22に印加され、光導電性層22と電極層241との間には、プロトン発生物質81が電気分解しない程度の電圧しか印加されないか、ほとんど電圧が印加されていない状態となる。
【0073】
そして、図2に示すように、駆動装置(図示せず)により、光投射装置30を駆動軸(X軸)方向に走査する。そして、光投射装置30移動している際に、光投射装置30が複数の区画243のうち化学合成を行いたい区画に対応した位置に到達したときに、当該物質60に対応したLED31Aを駆動する。図2に示すように、例えば、複数の区画243のうち区画243Bに対応した位置に到達したとき、区画243Bに対応したLED31Aが駆動される。以下、この区画243Bにおいて、DNAを合成させる場合を例に挙げて説明する。
【0074】
駆動されたLED31Aは、所定の波長を有する光Lを化学物質合成ユニット20に向けて投射する。この際、光Lは、その光路上に配置されたロッドレンズ32Aによって集光される。
【0075】
この集光された光Lは、化学物質合成ユニット20の第1基板21に投射され、第1基板21は、光Lを透過する。第1基板21を透過した光Lは、光導電性層22の部分22Aに照射される。光Lが照射された光導電性層22の部分22Aは、内部光電効果により抵抗が低下する。
【0076】
その結果、光導電性層22の部分22Aの抵抗の低下により、部分22Aを介して、光導電性層22の部分22Aに対応した光導電性層22と電極層241との間の部分Cに、所定の電圧Vに対応した電圧が印加される。
【0077】
第1流路51に導入されたプロトン発生物質(例えば、メタノール等)のうち、部分Cに位置したプロトン発生物質81は、この電圧の印加を受け、下記のように電気分解する。
CHOH → CH + H
この電気分解によって、光Lの照射を受けた光導電性層22の部分22A近傍の第1流路51の部分Cに位置したプロトン発生物質81からプロトン(水素イオン)70が発生する。
【0078】
一方、光Lが照射されていない光導電性層22の部分22Bは、絶縁状態を維持するため、部分22Bに対応した光導電性層22と電極層241との間には、電圧がほとんど印加されず、部分C以外に位置したプロトン発生物質81は、プロトン70を発生しない。
【0079】
従って、光Lを照射する位置を選択することによって、プロトン70を発生させる位置を選択することができる。尚、本実施形態によれば、後述のように、このプロトン70を利用して化学物質を合成するので、このようにプロトン70を発生させる場所を選択することにより、化学物質を合成させる区画243(例えば、区画243B)を選択することができ、化学物質を合成させる物質60を選択することができる。
【0080】
尚、光導電性層22上に触媒層が配置される場合、触媒層は、プロトン発生物質81の活性化エネルギーを低下させるため、プロトン発生物質81に電気分解させるための電圧を低くすることができる。
【0081】
(化学物質合成段階)
以上、プロトン発生段階について、詳しく説明した。以下では、プロトン発生段階において発生したプロトン70を利用して化学物質を合成する化学物質合成段階について説明する。
【0082】
上記のように発生したプロトン70は、光導電性層22と電極層241との間の電圧によって、光導電性層22より電位の低い電極層241に向けて引力を受け、電極層241の方向に移動する。その結果、プロトン70は、まず、第1流路51のプロトン発生物質81中を移動し、更に、プロトン透過体23を透過する。プロトン透過体23を透過したプロトン70は、第2流路52の塩化メチレン溶液82中を移動し、区画243Bに到達する。
【0083】
そして、プロトン70は、区画243Bに配置された物質60と化学反応する。つまり、プロトン70は、物質60に含まれたリンカー61から保護基62を分離させる。その後、第2流路52に所望の塩基を導入することにより、光Lが照射された位置に対応した区画243B上にのみ、リンカー61を介してDNA90を合成することができる。
【0084】
この際、光Lが照射された光導電性層22の部分22Aに対応した区画243(例えば、区画243B)に配置された物質60のみにプロトン70を供給することができるため、光投射装置30によって光Lを照射する位置を選択することにより、所望の区画243に配置された物質60のみに化学反応を起こすことができる。
【0085】
以上、区画243BにDNAを合成する場合を例に、化学物質合成装置10の動作の各段階を説明した。ここで、以下では、図4を参照して、上記の各段階により、所望の位置に所望の配列のDNA90を合成する動作について、区画243A、243B、243Cを例に説明する。
【0086】
図4には、図2における電極層241上の区画243A、243B、243Cに配置された物質60を模式的に示す。図4(a)に示すように、各区画に配置された物質60は、リンカー61と保護基62とを含む。尚、説明の便宜上、図4には、各物質60が含むリンカー61及び保護基62を模式的に示し、各区画の物質60は、ただ1つのリンカー61及び保護基62を含むとしてるが、かかる例に限定されないのは言うまでもない。また、各区画243に合成したい化学物質は、図4(f)に示す配列を有するDNA90であるとする。
【0087】
まず、例えば、アデニンAである塩基90Aを合成する。そのために、この塩基90Aを合成する区画243Bに対応した第1基板21に光Lが投射され、プロトン発生過程を通じてプロトン70が発生する。そして、図4(b)に示すように、プロトン70は、光導電性層22から電極層241に向けた方向(Z軸方向)に、プロトン発生物質81中を移動し、プロトン透過体23を透過して、塩化メチレン溶液82中を移動する。このプロトン70は、区画243Bに到達し、区画243Bの保護基62と反応して、保護基62をリンカー61から離脱させる。その結果、末端に水素原子を有するリンカー61の末端61Aが現れる。
【0088】
その後、第2流路52に保護基62が結合された塩基90Aを導入すると、塩基90Aのイソプロピル(iPr)基を有した部分が、区画243Bのリンカー61の末端61Aにのみ結合する。その結果、図4(c)に示すように、所望の区画243Bに位置したリンカー61にのみ塩基90Aを合成することができる。そして、塩基90Aを第2流路52から取り除く。尚、この工程は、例えば、この保護基62が結合された塩基90Aを含む溶液(アミダイト液等)を流すことによって行われてもよい。
【0089】
次に、例えば、チミンTである塩基90Bを合成する。そのために、この塩基90Bを合成する区画243A及び区画243Bに対応した第1基板21に光Lが投射され、プロトン発生過程を通じてプロトン71、72が発生する。そして、図4(d)に示すように、プロトン71、72は、光導電性層22から電極層241に向けた方向(Z軸方向)に、プロトン発生物質81中を移動し、プロトン透過体23を透過して、塩化メチレン溶液82中を移動する。その結果、プロトン71は、区画243Aに到達し、区画243Aの保護基62と反応して、保護基62をリンカー61から離脱させる。そして、プロトン72は、区画243Bに到達し、区画243Bの保護基62と反応して、保護基62を塩基90Aから離脱させる。その結果、それぞれ末端に水素原子を有するリンカー61の末端61Aと、塩基90Aの末端61Bが現れる。
【0090】
その後、第2流路52に保護基62が結合された塩基90Bを導入すると、塩基90Bのイソプロピル(iPr)基を有した部分が、区画243Aのリンカー61の末端61Aと、区画243Bの塩基90Aの末端61Bとのみに結合する。その結果、図4(e)に示すように、所望の区画243A、243Bに位置したリンカー61、又はリンカー61及び塩基の結合にのみ、塩基90Bを合成することができる。そして、塩基90Aを第2流路52から取り除く。尚、この工程は、例えば、この保護基62が結合された塩基90Bを含む溶液(フォスフォアアミダイト液等)を流すことによって行われてもよい。
【0091】
光投射装置30による光Lを投射する位置、及び第2流路52に導入する塩基を変更しつつ、かかる工程を繰り返すことにより、図4(f)に示すように、所望の配列のDNA90(化学物質の一例)を、所望の位置に合成することができる。よって、基板上にDNAがアレイ形状等に配列したDNAチップを作成することができる。
【0092】
尚、上記の化学物質合成装置10の駆動は、別途に備えられた制御装置(図示せず)によって行われてもよい。この際、制御装置は、電源40に接続され所定の電圧Vを調整し、光投射装置30の駆動装置(図示せず)に接続され光投射装置30の駆動軸(X軸)方向の位置を調整し、別途の流量調整装置(図示せず)に接続されプロトン発生物質81及び塩化メチレン溶液82の流量を調整し、LED駆動基板33に接続されLED31Aを選択して当該LED31Aを駆動し、塩基導入装置(図示せず)に接続され各塩基90A、90B等の導入を調整してもよい。かかる制御装置は、多様な構成により実現可能であるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0093】
また、化学物質合成装置10が合成する化学物質は、DNA90に限定されるものではなく、例えば、高分子ポリマー等であってもよい。
【0094】
(効果)
以上、本発明の第1の実施形態に係る化学物質合成装置10について詳しく説明した。本実施形態に係る化学物質合成装置10によれば、化学物質を、高価な光導電体で形成される光導電性層22上に合成せずに、安価に形成される第2基板24の電極層241上に合成する。従って、第2基板24だけを交換すれば再度化学物質を合成することができるため、装置の作成にかかる費用を削減し、化学物質の合成にかかる費用も削減することができる。
【0095】
また、光投射装置30による光Lの投射位置を選択することにより、化学物質を合成する区画243を選択することができる。従って、所望の位置に化学物質を合成することが可能であり、所望の物質による化学物質アレイを合成することができる。この際、第1流路51、第2流路52の厚みを、各導入物を導入することができる程度で薄くし、プロトン透過体23の厚みをプロトン70のみを透過することができる程度で薄くすることにより、プロトン70が、第1流路51、第2流路52、プロトン透過体23中を移動する際に、プロトン70が、プロトン透過体23と平行な方向に拡散することを抑えることができ、化学物質の合成を行う区画243の選択性を向上することもできる。
【0096】
そして、化学物質を合成する場所とプロトン70を発生させる場所とが、プロトン透過体23によって互いに離隔しているため、プロトン発生物質81として使用できる物質、及び化学合成に使用する溶液の選択の幅を広げることができる。
【0097】
更に、物質60の化学反応を、化学反応に必要な物質で構成される溶液の中で行うことができるため、化学反応によって形成される化学物質の純度を向上することができる。
【0098】
<第2の実施形態>
(構成)
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第2の実施形態に係る化学物質合成装置について説明する。図5は、本実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す斜視図であり、図6は、図5の化学物質合成装置をD−D線により切断した断面図である。
【0099】
尚、第2の実施形態に係る化学物質合成装置110は、第1の実施形態に係る化学物質合成装置10が有する構成において、光導電性層22の代わりに、複数の光導電性突起221と、絶縁体222と、を有する。その他の構成は同様であるため、それらの説明は省略する。
【0100】
図5及び図6に示すように、光導電性突起221は、光によって抵抗が低下する光導電体の突起の一例であって、第1基板21上に、相互に離隔してアレイ状(マトリックス状)に配置される。光導電性突起221の個々の形状は、任意に設定可能であるが、例えば、光投射装置30から集光され照射される光Lの光路と略同一な側面の形状を有していてもよい。かかる形状に構成することにより、光投射装置30から照射される光Lを効率よく利用することができる。
【0101】
各光導電性突起221は、光導電性層22と同様の材質で、例えば、第1基板21上に数μm以上の厚み、及び数十nm〜数百μmの幅で形成されてもよい。光導電性突起221は、かかる厚みを有することにより、光が照射されていない場合、第1基板21の上面を絶縁することができる。尚、各光導電性突起221は、例えば、数十μm程度の間隔で配置されてもよい。
【0102】
しかし、光導電性突起221の形状及び配置間隔は、かかる例に限定されない。各物質60は、例えば、数十μmの幅で形成されるが、光導電性突起221の幅は、例えば、物質60の幅より小さく、光導電性突起221の単位面積当たりの配置密度を高く形成してもよい。このように形成することにより、光導電性突起221は、プロトン70の発生する領域を小さくすることができる。従って、化学合成する区画243の選択の精度を高めることができる。また、光導電性突起221の幅が物質60の幅より大きく形成された場合、プロトン70の単位時間当たりの発生量を増やすことができる。
【0103】
各光導電性突起221のアレイ軸(Y軸)方向の配列は、例えば、LED31Aの配列に対応していてもよい。このように光導電性突起221を配置することにより、1つのLED31Aから発せられた光Lを、少なくとも1つの特定の光導電性突起221に照射することができるため、光Lを有効に活用できると共に、プロトン70を発生させる位置の選択性を向上することができる。
【0104】
また、光導電性突起221の上面には、触媒のキャップ(図示せず)が設けられてもよい。この触媒は、第1の実施形態の触媒と同様である。
【0105】
絶縁体222は、各光導電性突起221の間の第1基板21上に配置され、光導電性突起221が配置されていない第1基板21と第1流路51との間を絶縁する。絶縁体222は、例えば、ポリイミド等の絶縁物質によって構成されてもよい。
【0106】
この光導電性突起221と絶縁体222は、例えば、通常のレーザダイオードを作る工程を使用して作成することができる。この場合、まず、光導電性層を第1基板21上にウエハボンディング等、又は、蒸着等によって形成する。その後、Pt等の触媒を表面に塗布する。そして、エッチング等により光導電性層を突起形状に加工し、絶縁体222の材質、例えば、ポリイミド等を塗布して熱硬化させることにより、光導電性突起221と絶縁体222とが形成される。
【0107】
また、光導電性突起221と絶縁体222の作成は、かかる例に限定されず、まず、第1基板21上に絶縁体222の層を形成し、その後、絶縁体222を所定のパターンでエッチングして複数の孔をあけ、光導電性物質を当該孔に埋め込むことで、光導電性突起221と絶縁体222とを作成してもよい。
【0108】
本実施形態において、プロトン透過体23としてポーラスガラス等の多孔性物質を使用する場合、当該多孔性物質の孔のパターンは、光導電性突起221の配置パターンと略同一に形成されてもよい。かかる構成によれば、多孔性の孔がプロトン導電路を形成し、プロトン70がプロトン透過体23を透過する際に、横方向に拡散することを防ぐことができる。
【0109】
(動作)
この化学物質合成装置110の動作及び化学合成の方法は、光投射装置30からの光Lが光導電性突起221に照射され、光導電性突起221が光導電性層22の動作を行うことを除き、第1実施形態に係る化学物質合成装置10と同じであるため、その詳しい説明は省略する。
【0110】
但し、光投射装置30は、複数の物質60のうち化学物質を合成させたい物質60が配置された区画243に対応した1つ又は複数の光導電性突起221に光を照射する。複数の光導電性突起221が当該区画243に対応する場合、光投射装置30は、当該複数の光導電性突起221の1つずつに光Lを照射してもよい(図6参照)。この場合、光Lを効率よく利用することができる。また、光投射装置30は、当該区画243に対応する複数の光導電性突起221のうちの2以上に同時に光Lを照射してもよい。この場合、光投射装置30は、1つの区画に対して一度の光Lの投射で済むので、装置の駆動時間を短縮することができる。
【0111】
(効果)
本発明の第2の実施形態に係る化学物質合成装置110によれば、上記第1の実施形態に係る化学物質合成装置10の効果に加え、更に、各光導電性突起221が離隔して配置されるので、光導電性突起221内の電子の横方向の拡散を防ぐことができる。そして、光導電性突起221近傍を流れる電流密度を高くすることができるため、プロトン70の発生を促進することができる。更に、1つのLED31Aからの光Lを1つの光導電性突起221に照射することにより、プロトン70を発生させる位置をより精密に制御することができる。
【0112】
<第3の実施形態>
次に、図7を参照して、本発明の第3の実施形態に係る化学物質合成装置について説明する。図7は、本実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す断面図である。
【0113】
(構成)
図7に示すように、本実施形態に係る化学物質合成装置120は、第1及び第2の実施形態に係る化学物質合成装置10、110に対して、化学物質を合成する区画243の位置、即ち、物質60の配置位置のみが異なる。そこで、第2の実施形態に係る化学物質合成装置110の構成において、物質60の配置位置が異なることについて説明し、他の構成についての説明は省略する。但し、第1の実施形態に係る化学物質合成装置10の場合においても同様である。
【0114】
本実施形態に係る化学物質合成装置120においては、第2流路52に面するプロトン透過体23上に化学物質を合成する。そのために、プロトン透過体23は、化学物質を合成するための複数の部位に区画される。以下では、この部位を区画244とする。
【0115】
化学物質としてDNAを合成する場合、この区画244には、例えば、DNAの合成に使用されるリンカーの集合、又はリンカー及び塩基の結合の集合等の物質600が配置される。この場合、プロトン透過体23の材質としては、リンカー61を固定しうるものが選択される。但し、物質600の配置間隔等及び他の構成については、第2の実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0116】
(動作)
本実施形態において、化学物質合成装置120は、プロトン70を利用して、第2流路52のプロトン透過体23上において化学物質を合成する。即ち、DNAを合成する場合、プロトン発生段階により、DNAを合成したい区画244に対応した位置でプロトン70が発生され、発生したプロトンは、第1流路51中を移動し、プロトン透過体23を透過する。そして、プロトン透過体23を透過したプロトン70は、DNAを合成したい区画244に位置した物質600に直接到達し、この物質600に含まれたリンカーから保護基を離脱させる。したがって、化学物質合成装置120は、所望の位置に所望の配列のDNAを合成することができる。尚、他の動作については、第2の実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0117】
(効果)
本実施形態に係る化学物質合成装置120によれば、第1及び第2の実施形態に係る化学物質合成装置10、110が奏する効果に加え、プロトン70がプロトン透過体23を透過した直後に物質600と反応させることができるため、プロトン70が第2流路52において第2流路52の流路方向(X−Y平面内の方向)に拡散することを防ぐことができ、精度を高めて効率よく化学物質の合成を行うことができる。また、安価なプロトン透過体23上に化学物質が合成されるので、プロトン透過体23のみを交換すれば再度化学物質を合成することができるため、装置の作成にかかる費用を削減し、化学物質の合成にかかる費用も削減することができる。
【0118】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の化学物質合成装置をA−A線により切断した断面図である。
【図3】図2の化学物質合成装置の部分Bを拡大し、化学物質合成装置の動作を概略的に説明する部分拡大図である。
【図4】同実施形態に係る化学物質合成方法を概略的に示した説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す斜視図である。
【図6】図4の化学物質合成装置をD−D線により切断した断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る化学物質合成装置の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0120】
10、110、120 化学物質合成装置
20 化学物質合成ユニット
21 第1基板
22 光導電性層
22A 部分
22B 部分
23 プロトン透過体
24 第2基板
30 光投射装置
31 LEDアレイ
31A LED
32 ロッドレンズアレイ
32A ロッドレンズ
33 LED駆動基板
40 電源
51 第1流路
52 第2流路
60、600 物質
61 リンカー
61A、61B 末端
62 保護基
70、71、72 プロトン
81 プロトン発生物質
82 塩化メチレン溶液
90A、90B 塩基
221 光導電性突起
222 絶縁体
241 電極層
242 支持基板
243、244 区画
243A、243B 区画
L 光
V 所定の電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光投射装置からの光を用いて化学物質合成ユニットにおいて化学物質を合成する化学物質合成装置であって、
前記化学物質合成ユニットは、
一方の面に光により抵抗が低下する光導電体が設けられ、他方の面に前記光投射装置からの光が投射され、当該光を透過する第1基板と、
前記第1基板の前記一方の面に対向配置される第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間の領域を、前記第1基板側の第1領域と、前記第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、
を含み、
前記第1領域でプロトンを発生させ、前記第2領域で前記化学物質を合成することを特徴とする、化学物質合成装置。
【請求項2】
前記光導電体は、前記第1基板上に層状に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質合成装置。
【請求項3】
前記光導電体は、前記第1基板上に相互に離隔して設けられた複数の突起として形成されることを特徴とする、請求項1に記載の化学物質合成装置。
【請求項4】
前記化学物質は、前記第2基板上で合成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化学物質合成装置。
【請求項5】
前記化学物質は、前記プロトン透過体上で合成されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化学物質合成装置。
【請求項6】
前記プロトン透過体は、ポーラスガラスで形成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の化学物質合成装置。
【請求項7】
前記光投射装置は、光源としてLEDを備えることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載の化学物質合成装置。
【請求項8】
外部からの光を用いて化学物質を合成する化学物質合成ユニットであって、
前記化学物質合成ユニットは、
一方の面に光により抵抗が低下する光導電体が設けられ、他方の面に前記外部からの光が投射され、当該光を透過する第1基板と、
前記第1基板の前記一方の面に対向配置される第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間の領域を、前記第1基板側の第1領域と、前記第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、
を含み、
前記第1領域でプロトンを発生させ、前記第2領域で前記化学物質を合成することを特徴とする、化学物質合成ユニット。
【請求項9】
前記光導電体は、前記第1基板上に層状に形成されることを特徴とする、請求項8に記載の化学物質合成ユニット。
【請求項10】
前記光導電体は、前記第1基板上に相互に離隔して設けられた複数の突起として形成されることを特徴とする、請求項8に記載の化学物質合成ユニット。
【請求項11】
前記化学物質は、前記第2基板上で合成されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の化学物質合成ユニット。
【請求項12】
前記化学物質は、前記プロトン透過体上で合成されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれかに記載の化学物質合成ユニット。
【請求項13】
前記プロトン透過体は、ポーラスガラスで形成されることを特徴とする、請求項8〜12のいずれかに記載の化学物質合成ユニット。
【請求項14】
第1基板と、前記第1基板に対向配置される第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間の領域を前記第1基板側の第1領域と前記第2基板側の第2領域とに区画するプロトン透過体と、を含む化学物質合成ユニットにおいて、光を利用して化学物質を合成する化学物質合成方法であって、
前記化学物質合成ユニットの外部から投射され前記第1基板を透過した光を利用して、前記第1領域でプロトンを発生させるプロトン発生段階と、
前記第1領域で発生し前記プロトン透過体を透過したプロトンを利用して、前記第2領域で前記化学物質を合成する化学物質合成段階と、
を含むことを特徴とする、化学物質合成方法。
【請求項15】
前記プロトン発生段階では、
前記第1基板と前記第2基板との間に所定の電圧を印加し、
前記第1基板を透過した光を、前記第1基板上の前記第1領域側に設けられ光により抵抗が低下する光導電体に照射し、
前記第1領域に導入され電圧の印加に応じてプロトンを発生するプロトン発生物質のうち、前記光の照射により抵抗が低下した前記光導電体の近傍の前記プロトン発生物質から、前記プロトンを発生させることを特徴とする、請求項14に記載の化学物質合成方法。
【請求項16】
前記化学物質合成段階では、前記第2基板上で前記化学物質を合成することを特徴とする、請求項14又は15に記載の化学物質合成方法。
【請求項17】
前記化学物質合成段階では、前記プロトン透過体上で前記化学物質を合成することを特徴とする、請求項14又は15に記載の化学物質合成方法。
【請求項18】
前記光導電体は、相互に離隔して前記第1基板上に設けられた複数の突起として形成され、
前記プロトン発生段階では、前記第1基板を透過した光を、前記複数の突起の中から選択された少なくとも1つの突起に照射することを特徴とする、請求項14〜17のいずれかに記載の化学物質合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−200611(P2008−200611A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39851(P2007−39851)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】