説明

化学的検知装置

本発明は、被検物質を検出するための化学的検知装置に関する。この装置は、光源、該光源により照射された時に発光可能であり、該発光が該被検物質により改変され、それによって、熱の発生を変化させることができ、該発熱変化が該被検物質の濃度に比例する、少なくとも一種の発光試薬、焦電もしくは圧電素子および電極を有し、熱の変化を電気信号に変換できる変換器、および電気信号を被検物質の濃度指示に変換することができる検出器を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的検知装置に、より詳しくは、変換器および発光試薬を有する化学的検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検物質、例えば環境中のガスまたは生物検定における生物学的に重要な化合物、のモニタリングには広範囲な用途がある。そのため、多種多様な分析および診断装置を利用できる。多くの装置は、検出すべき化学種の存在下で、目で検出できる変色を受ける試薬を使用している。試薬は、試験片上に支持されることが多く、変色の測定を支援する光学装置を使用することができる。
【0003】
国際公開第90/13017号パンフレットには、細片形態にある焦電素子または他の熱電気的変換器素子が開示されている。薄膜電極を用意し、その変換器の表面上に一種以上の試薬を堆積させる。この試薬は、検出すべき化学種と接触した時に選択的な比色変化を受ける。次いで、この装置を検出器の中に挿入するが、そこでは変換器が下からLED光源により照明され、試薬による光吸収が変換器表面における顕微鏡的加熱として検出される。変換器から発生する電気信号を処理し、検出する化学種の濃度を導き出す。この種の装置は、典型的にはモニタリングされている人の衣服上にクリップ止めした使い捨てバッジおよび別の読み取り機として設計されている。
【0004】
国際公開第90/13017号パンフレットの装置は、露出の履歴を与えるのに良く適している。言い換えると、バッジの着用者が検出すべき化学種に露出され、続いて、その、着用者が露出された化学種の濃度が測定される。この装置は、特定の用途には有用であるが、連続的な測定を行うのが困難である。これは、着用者が特に危険な化学種に露出されるか、または呼吸可能な酸素を監視する場合には、欠点である。
【0005】
もう一つの欠点は、試薬が飽和された場合、それ以上の検出が不可能なことである。
【0006】
この装置は、試薬との組合せで変色を受ける被検物質だけが検出されるので、被検物質の範囲においても制限される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、これらの欠点を回避する化学的検知装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、被検物質を検出するための化学的検知装置であって、
光源と、
該光源により照射された時に発光可能であり、該発光が該被検物質により改変可能であり、それによって、熱の発生を変化させることができ、該発熱変化が該被検物質の濃度に比例する、少なくとも一種の発光試薬と、
焦電もしくは圧電素子および電極を有し、熱の変化を電気信号に変換可能な変換器と、
該電気信号を該被検物質の濃度指示に変換可能な検出器と
を備えた、装置を提供する。
【0009】
好ましくは、該発光が該被検物質により消失し、それによって該発熱を増加させることができ、該発熱増加が該被検物質の濃度に比例する。
【0010】
好ましくは、該発光が該被検物質により強化され、それによって該発熱を減少させることができ、該発熱減少が該被検物質の濃度に比例する。
【0011】
好ましくは、該発光試薬は、該被検物質との反応または組合せにより、異なった発光特性を有する2種類の化学的形態間で相互変換することができる。
【0012】
好ましくは、該発光試薬は、該変換器の上に取り付けられている。
【0013】
好ましくは、該発光試薬は、支持材料の上に吸着、中に捕獲、または上に固定されている。
【0014】
好ましくは、該発光試薬は蛍光試薬である。
【0015】
好ましくは、化学的検知装置は追加の試薬をさらに含んでなり、該追加の試薬は、第二被検物質と反応して該第一被検物質の局所的濃度を変化させ、それによって、該発光試薬の発光を改変し、該第二被検物質の濃度を指示することができる。特に好ましくは、該第一被検物質が酸素であり、該第二被検物質がグルコースであり、該第二試薬がグルコースオキシダーゼである。
【0016】
好ましくは、該発光試薬は、光吸収成分と発光成分の組合せであり、光吸収成分が光を吸収し、次いでエネルギー伝達により、発光成分を間接的に励起する。
【0017】
本発明は、被検物質の検出方法であって、
少なくとも一種の発光試薬を照射し、
該発光試薬を試料に露出し、該被検物質の存在下で、該発光が該被検物質により改変され、それによって発熱量を変化させ、該発熱変化が該被検物質の濃度に比例し、
焦電もしくは圧電素子および電極を有する変換器を使用して熱変化を電気信号に変換し、
該電気信号を該被検物質の濃度指示に変換すること
を含んでなる、方法も提供する。
【0018】
好ましくは、該被検物質が該発光試薬の該発光を消失させ、それによって発熱を増加させ、該発熱増加が該被検物質の濃度に比例する。
【0019】
好ましくは、該被検物質が該発光試薬の該発光を強化し、それによって該発熱を減少させ、該発熱減少が該被検物質の濃度に比例する。
【0020】
好ましくは、該被検物質が該発光試薬を一つの化学的形態から別の化学的形態に転化させ、その際、2種類の化学的形態が異なった発光特性を有する。
【0021】
好ましくは、第二試薬が第二被検物質と反応して該第一被検物質の局所的濃度を変化させ、それによって、該発光試薬の該発光を改変し、該第二被検物質の濃度を指示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
ここで図面を参照しながら、本発明を説明する。
【0023】
本発明は、熱を電気信号に変換できる変換器を使用することにより、発光試薬の発光改変を検出できる、という本出願者の発見に基づいている。そのような変換器は、この分野で良く知られている。好ましくは、変換器はソリッドステート変換器である。発光は、多くの様式で、例えば発光消失、発光強化、発光試薬の、非または弱発光形態から発光形態への、またはその逆の変換により、改変することができる。
【0024】
図は、本発明の一実施態様による、発光消失に基づく化学的検知装置を示す。図(a)は、被検物質の非存在下における化学的検知装置1を示す。装置1は、電極被覆3、4を有する焦電もしくは圧電変換器2を含んでなる。焦電変換器2は、好ましくは分極した(poled)ポリフッ化ビニリデン被膜である。電極被覆3、4は、好ましくは厚さ約35nmの酸化インジウムスズまたは厚さ5〜15nmのスパッター被覆された金から形成される。発光試薬5は、いずれかの好適な技術を使用し、上側電極被覆3の上に堆積させる。試薬は、ストリップ形態でよく、複数の試薬を堆積させることができる。好ましくは、発光試薬5は、支持材料の上に吸着、中に捕獲、または上に固定される。いずれかの好適な材料、例えば重合体マトリックス、多孔質ガラスまたはソル−ゲルガラス、でも使用できる。本発明の重要な特徴は、発光試薬5が光源6、例えばLED、により照射された時に、発光することである。光源が試薬を照明し、その試薬が図(a)で破線矢印により示されるように発光する。光源6は、試薬を照明するように配置される。好ましくは、光源6は、変換器2および電極3、4の下に配置され、試薬5は、変換器2および電極3、4を通して照明される。被検物質の非存在下では、放射線減衰が促進され、従って、熱はほとんど、または全く発生しない。
【0025】
被検物質が存在すると、図(b)に示すように、試薬5の発光が消失する。これは図(b)で、破線矢印が無いことにより示される。発光消失により熱7が発生し、その熱が焦電もしくは圧電変換器2の中に放射される。本出願者は、発生した熱7の量が被検物質の濃度に比例することを見出した。発光消失により発生した熱7は、焦電もしくは圧電変換器2に応力を作用させ、変換器2が電荷を発生し、その電荷が、この分野で公知の技術を使用する検出器8により検出される。次いで、検出器8は、発生した熱の量を指示する。これは、例えば、濃度の読み、聞き取れるアラーム、等でよい。検出器は、無論、使用前に標準的な技術を使用して校正しておく必要がある。
【0026】
図(a)で、試薬5は、光源6による照明で発光する。発光は、広く研究され、十分に理解されている現象である。発光の原理は簡単であり、試薬分子は室温では基底状態にあり(Boltzmann分布のため)、特定波長の放射線により、より高いエネルギーレベルに励起される。より上のエネルギーレベルに達した後、その分子が基底状態に戻るまで、エネルギーが放出される。発光分子では、このエネルギーが光として再放出される(放射線減衰)。本発明の試薬では、発光の際に周囲に熱がほとんど、または全く伝達されない。しかし、被検物質の存在下では(図(b))、発光が消失し、エネルギーが、光ではなく、熱として放出される(非放射線減衰)。消失の強度は被検物質の濃度に比例し、従って、消失の強度は発生する熱の量に比例する。この熱は変換器2により電気信号に変換され、検出器8により検出される。
【0027】
あるいは、被検物質と発光試薬の相互作用により、発光が(消失ではなく)強化される。例えば、被検物質の非存在下(図(a)と同様に)で、発光試薬は発光しないか、または弱く発光するだけである。従って、発光していないか、または弱く発光している発光試薬による光吸収により、励起が起こり、続いて非放射線減衰が起こり、熱を発生する。被検物質の存在下では(図(b)と同様に)、発光が強化される、すなわち放射線減衰が促進され、それによって、発生する熱の量が低下する。この発熱低下が、変換器により電気信号に変換され、検出器により検出される。
【0028】
別の実施態様では、発光試薬が2種類の化学的形態、すなわち発光および非または弱発光形態、で存在する。被検物質により、発光試薬が一つの形態から別の形態に転化される。例えば、一つの形態で発光試薬は被検物質の非存在下で発光するが、被検物質の存在下では非または弱発光形態に転化される。この発光の改変が変換器/検出器により検出される。
【0029】
発光試薬は、蛍光性またはりん光性でよい。しかし、蛍光性試薬が好ましい。
【0030】
発光に影響を及ぼす様々なファクターが十分に調査されており、良く理解されている。特に、発光試薬は、量子収率が高く、吸収と放出との間の重なりがほとんど、または全く無いことが必要である。例えば、「蛍光分光分析の原理(Principles of Fluorescence Spectroscopy)」J.R. Lakowicz, 1999, Kluwer Academic / Plenum Press, New York参照。
【0031】
この分野では、本発明の化学的検知装置に使用できる多くの発光試薬が公知である。典型的には、これらの試薬は、金属錯体、(ポリ)芳香族化合物およびアクチニドである。
【0032】
金属錯体は、金属から配位子への電荷移動(MLCT)により発光する(d−d遷移は、禁制であるために通常は弱い)。従って、配位子は、幾らかの電子密度を受け容れることができる必要がある。MLCTバンドは、放射進路(radiative pathway)を統計的に重要にするために、十分に高いエネルギーを有する必要もある。さらに、MLCT状態を枯渇させ、放射を消失させることができる、より下にあるd−dバンドが存在すべきではない。従って、結晶場分裂パラメータΔは、分子軌道ダイアグラムでd−dバンドをMLCTバンドの上に配置するために、十分に大きい必要がある。最後に、スピン−軌道結合は放射進路の可能性を増加し、スピン−軌道結合は原子価と共に増加するので、原子価は高い方が好ましい。
【0033】
そのような金属錯体は、式:
M(L)
(式中、Mは、周期律表のd−ブロック、第二または第三列、酸化状態I−IVの金属イオン、特にRu、Rh、Pd、Os、IrまたはPtを表し、
Lは、金属イオンd−d遷移のどれよりもエネルギーが低いMLCTバンドを有する、中性または帯電した単座または多座配位子を表し、金属イオンからMLCTバンドの中に電子を受け容れ、放射進路によりエネルギーを再放出することができ、
yは、1〜6であり、yが1より大きい場合、それらの配位子は同一でも、異なっていてもよい。)
で表される。
【0034】
錯体全体が帯電している場合、対イオンが存在する。対イオンは、重要ではないが、必要な物理的特性、例えば溶解度、を与えるように選択すべきである。無論、対イオンは、蛍光または消失過程を妨害してはならない。
【0035】
発光するためには、(ポリ)芳香族化合物は、適切なエネルギーのHOMO-LUMO分離を有し、許容できるπ−π遷移を有し、非放射線減衰を抑制するために十分に堅い必要がある。
【0036】
アクチニドは、大きなスピン−軌道結合を有し、発光を容易に増感させる有機発色団、例えば上記の「L」として定義される配位子、を有する必要がある。
【0037】
明らかに、発光試薬の精確な性質は、監視する被検物質の性質によって異なる。本発明の装置および方法を使用して検出できるためには、被検物質は、発光試薬の発光を改変できる必要がある。
【0038】
発光試薬と、それらの発光を改変する被検物質の組合せは、良く知られており、従って、特定の被検物質と共に使用するのに適切な発光試薬は、この分野で公知の材料群の中から選択することができる。従って、ここでは化学的化合物の完全なリストを記載する必要はない。しかし、本発明の発光試薬および被検物質を代表する幾つかの化合物を以下に記載する。
【0039】
本発明の化学的検知装置を使用し、酸素レベルを検出することができる。分子状酸素は、多くの化合物の発光を消失させることが知られている。これは、装置の使用者が地下、例えば下水道、で作業している場合に特に重要である。
【0040】
酸素を監視するのに好適な発光試薬としては、例えばルテニウムトリスビピリジル錯体([Ru(bpy)2+)、フルオランテン、テトラフェニルポルフィリンおよびピレンがある。
【0041】
酸素の非存在下で、[Ru(bpy)2+錯体は、青色LEDで470nmで励起させた時に、蛍光を発する。励起により、金属d−電子が配位子のπ軌道に昇位する。エネルギーがd−dバンドより低く、それ自体π−πバンドより低いMLCTバンドから放射が起こる。このエネルギーギャップは、MLCTバンドと基底状態エネルギーレベルとの間で蛍光を発するのに十分である。吸収された光は、再放射され、周囲のマトリックスへの熱伝達がほとんど、または全く無く、従って、信号は得られない。酸素の存在下では、錯体の蛍光が消失し、エネルギーは熱としてマトリックスに放出される。こうして信号を検出することができる。
【0042】
例えば地下水に含まれる第一鉄イオンの濃度は、本装置を使用し、発光試薬としてCalcein Blueを使用して測定することができる。Calcein Blue(4−メチルウンベリフェロン−8−メチレンイミノジ酢酸)は、適切な波長の光で励起することにより蛍光を発し、この蛍光は、鉄(II)イオンにより消失する。従って、Calcein Blueを変換器上に取り付け、鉄(II)塩による蛍光消失を、蛍光消失による熱により検出する。H2tpp(5,10,15,20−テトラフェニルポルフィリン)の蛍光は、Hg2+イオンの存在により消失するので、H2tppを本発明の検知装置に使用し、環境中の毒性水銀塩のレベルを監視することができる。
【0043】
本装置は生物化学検定にも使用できる。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)を、蛍光試薬としてMagdala Red(MR)を使用することにより、検出することができる。MRは、348nmで励起することにより、強い蛍光を示し、この蛍光はBSAにより消失する。
【0044】
本装置は、硝化爆薬またはそれらの残留物を検出することもできる。硝化爆薬、例えば2,4,6−トリニトロトルエン(2,4,6−TNT)、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリニトロ−1,3,5−トリアジン(RDX)、オクタヒドロ−1,3,5,7−テトラニトロ−1,3,5,7−テトラジン(HMX)、ニトロメタンおよび硝酸アンモニウムは、ポリ芳香族炭化水素、例えばピレン、の蛍光を消失させ、従って、本発明の装置に使用できる。
【0045】
ジ−またはトリニトロフェノールは、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンジヒドロクロリド(TMB−d)の蛍光消失により検出することができる。TMB−dは、UV領域で強い蛍光を放射する。非蛍光基底状態は、ジ−またはトリニトロフェノールによる衝突失活により形成される。
【0046】
多の多くの蛍光消失例が公知である。例えば、分子状酸素は、ほとんどの発蛍光団を消失させ、アミンは置換されていない芳香族炭化水素を電荷移動により消失させ、インドール、カルバゾールおよびそれらの誘導体は、塩素化された炭化水素による、および電子補集剤、例えばプロトン、ヒスチジン、システイン、硝酸塩、フマル酸塩、Cu(II)、Pb(II)、Cd(II)およびMn(II)、による消失に特に敏感であり、インドール、トリプトファンおよびそれらの誘導体は、スクシンイミド、ジクロロアセトアミド、ピリジニウム塩酸塩、イミダゾリウム塩酸塩、メチオニン、Eu(III)、Ag(I)およびCs(I)により消失し、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)およびNADH(還元ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)はアデニンにより消失し、生物学的消失剤としては、プリン、ピリミジン、およびN−メチルニコチンアミドがあり、キセノン、過酸化水素、アクリルアミド、過臭素酸塩(perbromate)イオン、ヨウ化物イオン、亜酸化窒素、ニトロメタン、ニトロキシド(nitroxide)、アルケン、立体障害飽和炭化水素およびハロゲン含有物質、特にクロロホルム、トリクロロエタノール、ブロモベンゼンおよびメチル塩化第二水銀は、良く知られている消失被検物質である。
【0047】
蛍光強化(消失ではなく)も利用できる。モリン(2’,3,4’,5,7−ペンタヒドロキシフラボン)は、420nmで励起することにより弱い蛍光を発する。しかし、この蛍光は、Al3+イオンの存在により強化される。従って、モリンを本発明の装置に使用し、アルミニウム塩を検出することができる。モリンを変換器上に取り付け、弱く蛍光を発するように照明する。従って、エネルギーは、非放射線減衰により放出される、すなわち熱が発生する。Al3+イオンの存在下で、蛍光が強化され(すなわち非放射線減衰よりも放射線減衰が促進され)、それによって、発生する熱の量が低下する。この発熱低下を検出し、Al3+イオン濃度を測定する。
【0048】
発光および非または弱発光形態の相互変換も利用できる。
【0049】
例えば、テルビウム(III)を使用し、局所麻酔薬ベンゾカインおよびプロカインを検出することができる。これらの麻酔薬の非存在下では、テルビウム(III)は重大な発光を示さない。しかし、これらの麻酔薬は、アルカリ性媒体における加水分解工程でp−アミノ安息香酸を放出し、これがテルビウム(III)と反応して発光キレートを形成する。従って、麻酔薬の加水分解生成物の非存在下では、テルビウム(III)錯体による光の吸収で非放射線減衰により発熱する。麻酔薬の加水分解生成物が存在すると、テルビウム(III)キレートによる光吸収により発光が起こり、発熱が減少する。この発熱低下が、存在するこれらの麻酔薬の濃度の関数になる。
【0050】
別の例では、発光試薬がpH指示薬であり、そこでは酸または塩基、ただし両方ではない、が発光する。非発光形態に転化される時、非発光化合物による光の吸収が熱として検出される。非発光形態への転化度を利用し、検出している試料のpHを測定することができる。好適な試薬は、1−ヒドロキシピレン−3,6,8−トリスルホネート(HPTS)である。
【0051】
あるいは、装置を湿度測定に使用できるように、試薬を、発光が局所的な含水量によって異なるように選択する。
【0052】
同様に、発光試薬は、発蛍光団が共有的に付加している分子受容体であり、その蛍光効率は、分子受容体の活性キャビティに対する位置に応じて変化し、被検物質、例えばβ−シクロデキストリンに付加したダンシル(dansyl)基、によりこの活性キャビティから置き換えることができ、その蛍光は小さな疎水性分子、例えばシクロヘキサンおよびトルエン、の存在下で減少する。
【0053】
上記の系では、発光が被検物質化学種の存在により直接改変される。あるいは、発光改変を二次的反応と併用して第二被検物質(「標的」被検物質)を検出することができるが、この第二被検物質は、それ自体、発光試薬の発光を重大な程度には直接改変しない。その代わりに、この第二被検物質は、第一被検物質または発光試薬と反応するか、または他の様式で組み合わされ、被検物質の発光を改変する能力に影響を及ぼす。
【0054】
例えば、グルコース用の検出器は、[Ru(bpy)2+/酸素系、ならびにグルコース(第二被検物質)と反応して局所的な酸素濃度を下げる追加の試薬、例えばグルコースオキシダーゼ、を使用する。酸素濃度の低下が検出器により検出され、その検出器が、存在するグルコースの量を指示する。このように、試料中のグルコース濃度が酸素の蛍光消失を使用して測定される。
【0055】
あるいは、第二被検物質が反応してpHを変化させ(例えば尿素がウレアーゼの触媒作用により加水分解され、アンモニアを発生する)、このpH変化が検出器により検出される。
【0056】
別の実施態様では、発光試薬が光吸収成分と発光成分の組合せであり、光吸収成分が光を吸収し、エネルギー伝達により発光成分を間接的に励起する。この光吸収分子によるエネルギー伝達は、被検物質の存在により刺激される。被検物質の非存在下では、光吸収分子は、そのような光をエネルギー伝達せずに吸収し、従って、蛍光を発しないが、被検物質の存在下では光吸収しながらエネルギー伝達する。
【0057】
検出方法として蛍光の変化を利用する非常に多くの生物検定もある。本装置は、免疫検定および核酸に基づく検定に特に適している。
【0058】
免疫検定の一形態では、測定すべき抗原に対して抗体を発生させる。抗原の蛍光変形も調製し、その蛍光を、抗体との結合により消失させる。次いで、未知量の、標識を付けていない、検出すべき抗原を含む試料を取る。3種類の成分(抗体、標識を付けた抗原および試料)全てを混合する。試料が大量の、標識を付けていない抗原を含む場合、これは主として抗体に結合し、標識を付けた抗原は溶液中に残り、高い蛍光を発する。あるいは、溶液中にある抗原が非常に少ない場合、標識を付けた抗原は抗体に結合し、抗原の蛍光消失を引き起こす。予め作成した校正曲線を使用し、消失の程度を、溶液中にある抗原(すなわち被検物質)の量を示す間接的な尺度として使用する。本発明の装置では、蛍光抗原を変換器上に取り付ける。
【0059】
この種の検定に対する他の変形は良く知られており、例えば「The Immunoassay Handbook, 2nd Ed.」David Wild, Ed., Nature Publishing Group, 2001参照。
【0060】
蛍光改変は、核酸検定の分野でも良く知られている。一例は、二重ストランドDNAの尺度として使用されるSYBR Green染料である。この染料は、二重ストランドDNAに結合した時に蛍光を発するが、それを含まない溶液中では発しない。
【0061】
SYBR Green染料によるリアル−タイム定量PCRは、蚊の薬物耐性遺伝子における複製および削除、ヒトの病気遺伝子における染色体転座および塩基置換を包含する、遺伝子突然変異を検出するための、信頼性があり、簡単な、診断検定の開発に使用されている。これは、ウイルス、細菌または菌類病原体の明確な識別にも使用されている。この方法は、定量的逆転写PCRにも効果的に使用されている。
【0062】
他の例としては、DNAまたはRNAの標的配列にハイブリダイゼーションした時に蛍光を発するオリゴヌクレオチドプローブである「分子信号」がある。これらのプローブは、標的にハイブリダイゼーションされた時に構造的な変化を受ける。例えば「分子信号を使用するリアル−タイムPCRによる半自動クローン確認(Semiautomated clone verification by real-time PCR using molecular beacons)」van Schie RC, Marras SA, Conroy JM, Nowak NJ, Catanese JJ, de Jong PJ. Biotechniques 29, 1296-1300 (2000)、「分子信号を使用する4種類の病原性レトロウイルスの多重検出(Multiplex detection of four pathogenic retroviruses using molecular beacons)」Vet JA, Majithia AR, Marras SA, Tyagi S, Dube S, Poiesz BJ, Kramer FR. Proc Natl Acad Sci USA 96, 6394-6399 (1999)、および「mRNA減衰を研究するための定量的逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応:終点の比較およびリアル−タイム方法(Quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction to study mRNA decay: comparison of endpoint and real-time methods)」Schmittgen TD, Zakrajsek BA, Mills AG, Gorn V, Singer MJ, Reed MW. Anal Biochem 285, 194-204 (2000)参照。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の化学的検知装置を、(a)被検物質の非存在下で、および(b)被検物質の存在下で、示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を検出するための化学的検知装置であって、
光源と、
前記光源により照射された時に発光可能であり、前記発光が前記被検物質により改変可能であり、それによって、熱の発生を変化させることができ、前記発熱変化が前記被検物質の濃度に比例する、少なくとも一種の発光試薬と、
焦電もしくは圧電素子および電極を有し、前記熱の変化を電気信号に変換可能な変換器と、
前記電気信号を前記被検物質の濃度指示に変換することができる検出器と
を備えた、化学的検知装置。
【請求項2】
前記発光が前記被検物質により消失可能であり、それによって前記発熱を増加させ、前記発熱増加が前記被検物質の濃度に比例する、請求項1に記載の化学的検知装置。
【請求項3】
前記発光が前記被検物質により強化可能であり、それによって前記発熱を減少させ、前記発熱減少が前記被検物質の濃度に比例する、請求項1に記載の化学的検知装置。
【請求項4】
前記発光試薬が、前記被検物質との反応または組合せにより、異なった発光特性を有する2種類の化学的形態間で相互変換可能である、請求項1に記載の化学的検知装置。
【請求項5】
前記発光試薬が前記変換器の上に取り付けられる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化学的検知装置。
【請求項6】
前記発光試薬が、支持材料の上に吸着、支持材料の中に捕獲、または支持材料の上に固定されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化学的検知装置。
【請求項7】
前記発光試薬が蛍光試薬である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の化学的検知装置。
【請求項8】
前記化学的検知装置が追加の試薬をさらに備えてなり、前記追加の試薬が、第二被検物質と反応して前記第一被検物質の局所的濃度を変化させ、それによって、前記発光試薬の前記発光を改変し、前記第二被検物質の濃度を指示することができる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化学的検知装置。
【請求項9】
前記第一被検物質が酸素であり、前記第二被検物質がグルコースであり、前記第二試薬がグルコースオキシダーゼである、請求項8に記載の化学的検知装置。
【請求項10】
前記発光試薬が、光吸収成分と発光成分の組合せであり、前記光吸収成分が光を吸収し、次いでエネルギー伝達により、前記発光成分を間接的に励起する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の化学的検知装置。
【請求項11】
被検物質の検出方法であって、
少なくとも一種の発光試薬を照射し、
前記発光試薬を試料に露出し、前記被検物質の存在下で、前記発光が前記被検物質により改変され、それによって発熱量を変化させ、前記発熱変化が前記被検物質の濃度に比例しており、
焦電もしくは圧電素子および電極を有する変換器を使用して前記熱変化を電気信号に変換し、
前記電気信号を前記被検物質の濃度指示に変換すること
を含んでなる、方法。
【請求項12】
前記被検物質が前記発光試薬の前記発光を消失させ、それによって前記発熱を増加させ、前記発熱増加が前記被検物質の濃度に比例する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記被検物質が前記発光試薬の前記発光を強化し、それによって前記発熱を減少させ、前記発熱減少が前記被検物質の濃度に比例する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記被検物質が前記発光試薬を一つの化学的形態から別の化学的形態に転化させ、その際、2種類の化学的形態が異なった発光特性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
第二試薬が第二被検物質と反応して前記第一被検物質の局所的濃度を変化させ、それによって、前記発光試薬の前記発光を改変し、前記第二被検物質の濃度を指示する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−528994(P2008−528994A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552710(P2007−552710)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000236
【国際公開番号】WO2006/079795
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(507251192)ビバクタ、リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】VIVACTA LIMITED
【Fターム(参考)】