説明

化成処理剤及び表面処理金属

【課題】クロムを含まず、鉄、亜鉛、アルミニウム等のすべての金属に対して、リン酸亜鉛処理と同等以上の良好な化成処理を行うことができる化成処理剤を提供する。
【解決手段】ジルコニウム、フッ素、並びに、水溶性エポキシ化合物からなる化成処理剤であって、上記ジルコニウムは、上記化成処理剤中の含有量が金属換算で20〜10000ppmであり、上記水溶性エポキシ化合物は、ビスフェノールFを基本骨格とし、かつ、アミノ基及びイソシアネート基を含有し、数平均分子量が400〜1000であり、上記化成処理剤中の含有量が固形分濃度で100〜2000ppmである化成処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理剤及び表面処理金属に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料表面にカチオン電着塗装を施す場合、通常、耐食性、塗膜密着性等の性質を向上させる目的で、化成処理が施されている。塗膜の密着性や耐食性をより向上させることができる観点から化成処理において用いられてきたクロメート処理は、近年、クロムの有害性が指摘されるようになっており、クロムを含まない化成処理剤の開発が必要とされてきた。このような化成処理としては、ジルコニウム化合物からなる金属表面処理剤が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ジルコニウム化合物からなる金属表面処理液によって得られた化成皮膜は、カチオン電着塗装又は粉体塗装等により得られる塗膜との密着性が悪く、通常、このような塗装の前処理工程として行われることは少なかった。
【0004】
また、このようなジルコニウム化合物からなる金属表面処理液は、特に鉄系基材との密着性が不充分であるために、鉄系基材上に良好な化成皮膜を形成することが困難であった。このため、鉄、亜鉛、アルミニウム等の種々の金属素材からなる物品に対して一回の処理ですべての金属の表面処理を行うことができず、作業性の観点から非効率的であった。したがって、クロムを含まず、種々の金属素材からなる物品に対して一回で化成処理を施すことができる化成処理剤の開発が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平7−310189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、クロムを含まず、鉄、亜鉛、アルミニウム等のすべての金属に対して、リン酸亜鉛処理と同等以上の良好な化成処理を行うことができる化成処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジルコニウム、フッ素、並びに、水溶性エポキシ化合物からなる化成処理剤であって、上記ジルコニウムは、上記化成処理剤中の含有量が金属換算で20〜10000ppmであり、上記水溶性エポキシ化合物は、ビスフェノールFを基本骨格とし、かつ、アミノ基及びイソシアネート基を含有し、数平均分子量が400〜1000であり、上記化成処理剤中の含有量が固形分濃度で100〜2000ppmであることを特徴とする化成処理剤である。
【0008】
上記化成処理剤は、更に、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)、銅イオン(B)及びケイ素含有化合物(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
上記ケイ素含有化合物(C)は、シリカ、水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、アルキルシリケート類及びシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
上記化成処理剤は、pHが1.5〜6.5であることが好ましい。
【0009】
本発明は、上記化成処理剤により形成された化成皮膜を有することを特徴とする表面処理金属でもある。
上記化成皮膜は、皮膜量が化成処理剤に含まれる金属の合計量とエポキシ化合物に含まれる炭素量との合計量で0.1〜500mg/mであることが好ましい。
上記表面処理金属の被処理物は、自動車車体であることが好ましい。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、ジルコニウム、及び、フッ素を含有し、クロム等の有害な重金属イオンを含有しない化成処理剤である。通常のジルコニウム含有化成処理剤により金属基材を処理すると、化成処理剤中に溶出した金属イオンがZrF2−のフッ素イオンを引き抜き、又、界面pHの上昇により、ジルコニウムの水酸化物又は酸化物が生成され、このジルコニウムの水酸化物又は酸化物が基材表面に析出していると考えられる。
【0011】
このような化成処理剤中に、エポキシ化合物を含有させると、エポキシ化合物がジルコニウムをキレートする。これによってジルコニウムからなる皮膜とエポキシ化合物皮膜との間に強固な密着性が得られるものと推測される。上記エポキシ化合物皮膜は、有機成分からなるものであるため、更にその上に形成される電着塗膜や粉体塗装による塗膜等を形成する樹脂成分との親和性が強く、これによって強度の密着性が得られるものと推測される。
【0012】
更に、本発明の化成処理剤は、硬化剤として作用する成分を含有するものであることから、上記エポキシ化合物皮膜は、架橋反応を生じ、これによってより物理的性質に優れ、密着性及び耐食性に優れた有機皮膜層を形成することができるものでもある。
【0013】
上記化成処理剤に含まれるジルコニウムは、化成皮膜形成成分であり、基材にジルコニウムを含む化成皮膜が形成されることにより、基材の耐食性や耐磨耗性を向上させ、更に、次に形成される塗膜との密着性を高めることができる。
【0014】
上記ジルコニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、KZrF等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NHZrF等のフルオロジルコネート;HZrF等のフルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0015】
上記化成処理剤に含まれるジルコニウムの含有量は、金属換算で下限20ppm、上限10000ppmの範囲であることが好ましい。上記下限未満であると得られる化成皮膜の性能が不充分であり、上記上限を超えると、それ以上の効果は望めず経済的に不利である。上記下限は50ppmがより好ましく、上記上限は2000ppmがより好ましい。
【0016】
上記化成処理剤に含まれるフッ素は、基材のエッチング剤としての役割を果たすものである。上記フッ素の供給源としては特に限定されず、例えば、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物としては、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩が挙げられ、その具体例としてケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。
【0017】
本発明の化成処理剤は、水溶性エポキシ化合物を含有するものである。上記水溶性エポキシ化合物を化成処理剤に配合すると、エポキシ骨格によって塗料樹脂との親和性が向上するため、塗膜密着性が高まり、良好な安定性を示すことができると考えられる。
【0018】
本発明で用いられる水溶性エポキシ化合物は、ビスフェノールFを骨格として有し、かつ、必要量を化成処理剤中に溶解できる程度の溶解性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールFプロピレンオキサイド付加型エポキシ樹脂、ビスフェノールFエピクロルヒドリン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記水溶性エポキシ化合物がビスフェノールFを骨格とするものであるため、耐食性に優れるため好ましい。
【0019】
上記水溶性エポキシ化合物は、更に、アミノ基及びイソシアネート基を含有するものである。上記水溶性エポキシ化合物は、アミノ基を含有するものであるためカチオン系化合物であり、親水/疎水のバランスを調整しているために、水溶液のpHが上昇することによって不溶化し、析出するという性質を有するものである。このため、金属/水溶液界面でpHが上昇することによって上記エポキシ化合物は、金属表面に析出しやすくなる。X線光電子分光分析による分析の結果では、ジルコニウムからなる化成皮膜上に上記アミノ基を有する水溶性エポキシ化合物が析出していることが明らかとなった。得られた化成皮膜がこのような構造を有することによって、密着性を向上させることができるものと推測される。上記アミノ基としては特に限定されず、例えば、−NH基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノヒドロキシアミノ基、ジヒドロキシアミノ基、その他1級〜3級のアミンを有する化合物等を挙げることができる。
【0020】
上記骨格を形成するエポキシ樹脂にアミノ基を導入する反応としては特に限定されるものではなく、溶媒中でエポキシ樹脂とアミン化合物とを混合する方法等の通常の方法を挙げることができる。
【0021】
上記水溶性エポキシ化合物は、イソシアネート基を含有するため、得られる皮膜に硬化性を付与することができる。これは、イソシアネート基によって上記水溶性エポキシ化合物との間に架橋反応が生じるためである。すなわち、イソシアネート基を含有することによって皮膜形成後に硬化反応が生じ、塗膜の物理的性質を改善し、密着性及び耐食性に優れた有機皮膜層を形成するものである。
【0022】
上記イソシアネート基は、例えば、ブロック剤によってブロックされたハーフブロックジイソシアネート化合物を水溶性エポキシ化合物と反応させることによって水溶性エポキシ化合物中に導入することができる。
【0023】
上記ハーフブロックジイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物とブロック剤とを、イソシアネート基が過剰となる割合で反応させることによって得ることができる。上記反応において使用することができるブロック剤としては、上述した化合物を使用することができる。上記ハーフブロックジイソシアネート化合物の合成、及び、ハーフブロックジイソシアネート化合物と水溶性エポキシ化合物との反応は、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。
【0024】
上記ハーフブロックジイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物にブロック剤を付加することによって得られ、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生する。上記ジイソシアネート化合物としては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0025】
上記ブロック剤としては特に限定されず、例えば、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類等を挙げることができる。オキシム類及びラクタム類のブロック剤は低温で解離するため、樹脂硬化性の観点からより好ましい。
【0026】
上記水溶性エポキシ化合物は、リン元素を有するものであってもよい。上記リン元素は、リン酸エステル基として上記化溶性エポキシ化合物中に含まれることが好ましい。上記リン酸エステル基は、部分的にアルキル化されたものであってもよい。上記リン酸エステル基は、上記エポキシ基とリン酸化合物との反応によってエポキシ化合物に導入することができる。
【0027】
上記水溶性エポキシ化合物は、数平均分子量が下限400、上限1000の範囲内である。上記数平均分子量が400未満であると良好な塗膜密着性、安定性を保持できないおそれがある。上記数平均分子量が1000を超えると、溶液の安定性が悪くなるため好ましくない。なお、ここで数平均分子量は、GPC法(ポリエチレン換算)に基づき測定して得られた数値である。
【0028】
本発明の化成処理剤は、上記水溶性エポキシ化合物を固形分濃度で、下限100ppm、上限2000ppmの範囲内で含有するものである。上記含有量が100ppm未満であると、得られる化成皮膜中において、適正な塗装後性能が得られないおそれがあり、上記含有量が2000ppmを超えると、化成処理剤の安定性が低下するおそれがある。好ましい下限は200ppm、好ましい上限は600ppmである。
【0029】
本発明の化成処理剤は、更に、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種(A)、銅イオン(B)、及び、ケイ素含有化合物(C)からなる群から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。これらの成分を含有することによって、より塗膜密着性を向上させることができる。
【0030】
上記亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)の含有量は、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成皮膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下するおそれがある。上記下限は、20ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0031】
上記銅イオン(B)の含有量は、下限0.5ppm、上限100ppmの範囲内であることが好ましい。0.5ppm未満であると、得られる化成皮膜の耐食性が低下して好ましくない。100ppmを超えると、亜鉛系基材及びアルミニウム系基材に対して負の作用をもたらすおそれがある。上記下限は、2ppmがより好ましく、上記上限は、50ppmがより好ましい。上記銅イオンは、特に、金属基材表面に置換めっきすることにより化成皮膜を安定化する効果が高く、金属基材表面に生じる錆を安定化するため、他の成分と比較して少量で高い効果を得ることができると推測される。
【0032】
上記(A)及び(B)の各成分の供給源としては特に限定されず、例えば、硝酸化物、硫酸化物、又は、フッ化物等として化成処理剤に配合することができる。なかでも、化成反応に悪影響を及ぼさないため、硝酸化物が好ましい。
【0033】
上記ケイ素含有化合物(C)としては特に限定されず、例えば、水分散性シリカ等のシリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等の水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、ジエチルシリケート等のアルキルシリケート類等を挙げることができる。なかでも、化成皮膜のバリアー性を高める効果があることからシリカが好ましく、化成処理剤中での分散性が高いことから水分散性シリカがより好ましい。上記水分散性シリカとしては特に限定されず、例えば、ナトリウム等の不純物が少ない、球状シリカ、鎖状シリカ、アルミ修飾シリカ等を挙げることができる。上記球状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスN」、「スノーテックスO」、「スノーテックスOXS」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスXS」、「スノーテックスAK」、「スノーテックスOUP」、「スノーテックスC」、「スノーテックスOL」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のコロイダルシリカや、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社製)等のヒュームドシリカ等を挙げることができる。上記鎖状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−MO」、「スノーテックスPS−SO」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のシリカゾル等を挙げることができる。上記アルミ修飾シリカとしては、「アデライトAT−20A」(旭電化工業株式会社製)等の市販のシリカゾル等を挙げることができる。
【0034】
上記ケイ素含有化合物(C)の含有量は、ケイ素成分として、下限1ppm、上限5000ppmの範囲内であることが好ましい。1ppm未満であると、得られる化成皮膜の耐食性が低下して好ましくない。5000ppmを超えると、それ以上の効果の向上はみられず経済的に不利であり、塗装後密着性が低下するおそれがある。上記下限は、5ppmがより好ましく、上記上限は、2000ppmがより好ましい。
【0035】
上記ケイ素含有化合物(C)としては、更に、シランカップリング剤及びそれらの加水分解物を挙げることもできる。上記シランカップリング剤としては特に限定されないが、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤等が好適に使用される。化成処理剤に上記アミノ基含有シランカップリング剤を配合することにより、化成皮膜と電着塗装、粉体塗装等による塗膜との界面において硬化反応が促進され、両者の密着性が向上される。上記アミノ基含有シランカップリング剤としては、分子中に少なくとも1つのアミノ基を有し、かつ、シロキサン結合を有するものであれば特に限定されない。
【0036】
上記アミノ基含有シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン等を挙げることができる。
【0037】
上記シランカップリング剤は、その加水分解物であってもよい。上記シランカップリング剤の加水分解物は、従来公知の方法、例えば、シランカップリング剤をイオン交換水に溶解し、任意の酸で酸性に調整する方法等により製造することができる。
【0038】
上記(A)〜(C)の各成分は、単独で使用しても、必要に応じて2以上の成分を併用して使用するものであってもよい。2以上の成分を同時に使用する場合、各成分の含有量がそれぞれ上記範囲内にあることが好ましく、各成分の合計量は、特に限定されるものではない。
特に好ましい組み合わせとしては、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)と銅イオン(B)、ケイ素含有化合物(C)と銅イオン(B)の組み合わせを挙げることができる。
【0039】
本発明の化成処理剤は、pHが下限1.5、上限6.5の範囲内に調整されていることが好ましい。pH1.5未満であると、水溶性エポキシ化合物が析出しにくくなるため、塗膜密着性を充分に改善することができない場合がある。pHが6.5を超えると、化成処理反応が充分に進行しない場合がある。上記下限は、2.0がより好ましく、上記上限は、5.5がより好ましい。上記下限は、2.5が更に好ましく、上記上限は、5.0が更に好ましい。本発明の化成処理剤は、上述したような錯フッ化物イオンや、硝酸塩、硫酸塩、フッ化物塩等を含有する場合があるため、pHを上記範囲内に調整するためには、アルカリ成分を添加することが好ましい。pHを調整するために使用することができるアルカリ成分としては特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アミン化合物等を挙げることができる。
【0040】
本発明の化成処理剤は、実質的にリン酸イオンを含有しないものであることが好ましい。実質的にリン酸イオンを含まないとは、リン酸イオンが化成処理剤中の成分として作用する程含まれていないことを意味する。上記化成処理剤が実質的にリン酸イオンを含まないものであると、環境負荷の原因となるリンを実質的に使用することがなく、リン酸亜鉛処理剤を使用する場合に発生するリン酸鉄、リン酸亜鉛等のようなスラッジの発生を抑制することができる。更に、リンによる環境負荷がなくなり、廃水作業性の点で大きな利点となる。
【0041】
本発明の化成処理剤による金属表面の処理方法は、特に限定されるものではなく、金属表面に上記化成処理剤を接触させることによって行うことができる。処理方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等を挙げることができる。
【0042】
上記処理方法においては、処理液の温度を下限20℃、上限70℃の範囲内に調整することによって行うことが好ましい。このような温度範囲内で反応を行うことによって、化成処理反応を効率よく行うことができる。上記下限は、30℃であることがより好ましく、上記上限は、50℃であることがより好ましい。処理時間は、化成処理剤の濃度や処理温度によっても異なるが、20〜300秒であることが好ましい。
【0043】
上記処理方法においては、上記化成処理剤によって化成処理される前に脱脂処理、脱脂後水洗処理を行い、化成処理後に化成後水洗処理を行うことが好ましい。
【0044】
上記脱脂処理は、基材表面に付着している油分や汚れを除去するために行われるものであり、無リン・無窒素脱脂洗浄液等の脱脂剤により、通常30〜55℃において数分間程度の浸漬処理がなされる。所望により、脱脂処理の前に、予備脱脂処理を行うことも可能である。
上記脱脂後水洗処理は、脱脂処理後の脱脂剤を水洗するために、大量の水洗水によって1回又はそれ以上スプレー処理を行うことにより行われるものである。
【0045】
上記化成後水洗処理は、その後の各種塗装後の密着性、耐食性等に悪影響を及ぼさないようにするために、1回又はそれ以上により行われるものである。この場合、最終の水洗は、純水で行われることが適当である。この化成後水洗処理においては、スプレー水洗又は浸漬水洗のどちらでもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することもできる。
また、本発明の化成処理剤を使用する化成処理は、表面調整処理等を行わなくてもよいことから、作業性の点でも優れている。
【0046】
本発明の化成処理剤を使用する化成処理においては、上記化成後水洗処理の後で乾燥工程は必ずしも必要ではない。乾燥工程を行わず化成皮膜がウェットな状態のまま、塗装を行っても得られる性能に影響は与えない。また、乾燥工程を行う場合は、冷風乾燥、熱風乾燥等を行うことが好ましい。熱風乾燥を行う場合、有機分の分解を防ぐためにも、300℃以下が好ましい。
【0047】
本発明の化成処理剤により処理される金属基材は、鉄系基材、アルミニウム系基材、及び、亜鉛系基材等を挙げることができる。鉄、アルミニウム、及び、亜鉛系基材とは、基材が鉄及び/又はその合金からなる鉄系基材、基材がアルミニウム及び/又はその合金からなるアルミニウム基材、基材が亜鉛及び/又はその合金からなる亜鉛系基材を意味する。本発明の化成処理剤は、鉄系基材、アルミニウム系基材、及び、亜鉛系基材のうちの複数の金属基材からなる被塗物の化成処理に対しても使用することができる。
【0048】
本発明の化成処理剤は、通常のジルコニウムからなる化成処理剤においては、充分な塗膜密着性を得ることが困難である鉄系基材に対しても、良好な塗膜を形成することができる点で好ましく、このため、特に少なくとも一部に鉄系基材を含む被処理物の処理にも使用することができる点で優れた性質を有するものである。本発明の化成処理剤により形成された化成皮膜を有する表面処理金属も本発明の一つである。
【0049】
上記鉄系基材としては特に限定されず、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板等を挙げることができる。上記アルミニウム系基材としては特に限定されず、例えば、5000番系アルミニウム合金、6000番系アルミニウム合金等を挙げることができる。上記亜鉛系基材としては特に限定されず、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板等の亜鉛系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき鋼板等の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等を挙げることができる。上記化成処理剤を用いて、鉄、アルミニウム及び亜鉛系基材を同時に化成処理することができる。本発明の化成処理剤により処理される被処理物としては、自動車車体が特に好ましい。
【0050】
本発明の化成処理剤により得られる化成皮膜は、皮膜量が化成処理剤に含まれる金属の合計量とエポキシ化合物に含まれる炭素量との合計量で下限0.1mg/m、上限500mg/mであることが好ましい。0.1mg/m未満であると、均一な化成皮膜が得られず好ましくない。500mg/mを超えると、経済的に不利である。上記下限は、5mg/mがより好ましく、上記上限は、200mg/mがより好ましい。
【0051】
本発明の化成処理剤により形成された化成皮膜を有する金属基材に対して行うことができる塗装としては特に限定されず、カチオン電着塗装、粉体塗装等の従来公知の塗装を行うことができる。なかでも、鉄、亜鉛、アルミニウム等の全ての金属に対して良好な処置を施すことができることから、少なくとも一部が鉄系基材からなる被処理物のカチオン電着塗装の前処理として好適に使用することができる。上記カチオン電着塗装としては特に限定されず、アミノ化エポキシ樹脂、アミノ化アクリル樹脂、スルホニウム化エポキシ樹脂等からなる従来公知のカチオン電着塗料を塗布することができる。
【発明の効果】
【0052】
本発明の化成処理剤は、ジルコニウムを皮膜形成成分として含有する化成処理剤である。本発明の化成処理剤によって形成された化成皮膜は、塗膜との密着性が良好であるため、金属と塗膜との密着性を改善させるための金属表面の前処理として使用することができる。更に、本発明の化成処理剤は、従来ジルコニウム等からなる化成処理剤では充分な密着性を得ることができなかった鉄系基材に対しても良好な化成皮膜を形成することができるものであって、鉄、亜鉛、アルミニウム等の種々の金属素材からなる被塗装物に対して一回の処理ですべての金属に表面処理を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0054】
実施例1〜9、比較例1〜5
冷延鋼板(SPC、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)、溶融亜鉛めっき鋼板(GA、日本テストパネル社製、70mm×150mm×0.8mm)及び自動車用アルミニウム鋼板(AP、6K21株式会社神戸製鋼所製、70mm×150mm×0.8mm)を基材として、下記の条件で塗装前処理を施した。
(1)塗装前処理
脱脂処理:2質量%「サーフクリーナーEC92」(日本ペイント社製脱脂剤)で40℃、2分間浸漬処理した。
脱脂後水洗処理:水道水で30秒間スプレー処理した。
【0055】
化成処理:表1に示した組成を有する化成処理剤を調製し、金属基材を60秒間浸漬することによって、化成処理を行った。なお、pHの調整には、硝酸及び水酸化ナトリウムを用いた。Zr源としてはHZrFを使用し、添加金属の供給源としてはそれぞれの硝酸塩を使用した。
【0056】
ここで、用いた樹脂A〜Cは、それぞれ、樹脂A:アミノ基及びイソシアネート基含有水性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(旭電化社製、数平均分子量500)、樹脂B:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(旭電化社製、数平均分子量500〜)、樹脂C:イソシアネート基含有ビスフェノールF型エポキシ樹脂(旭電化社製、数平均分子量2000)である。
【0057】
化成後水洗処理:水道水で30秒間スプレー処理した。更にイオン交換水で30秒間スプレー処理した。
水洗処理後の金属基材を乾燥せずにウェットなまま電着塗装を行った。
【0058】
(2)塗装
化成処理剤1L当たり1mの金属基材を処理した後に、「パワーニクス110G」(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を用いて乾燥膜厚20μmになるように電着塗装し、水洗後、170℃で20分間加熱して焼き付けた。
【0059】
次に、25秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に予め希釈されたオルガP−30(日本ペイント社製メラミン硬化型中塗り塗料、商品名)を、乾燥膜厚35μmとなるようにエアスプレーで2ステージ塗装し、塗布後、5分間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で3分間のプレヒートを行った。
【0060】
プレヒート後、塗装板を室温まで放冷し、上塗り塗料として058(日本ペイント社製)を乾燥膜厚35μmとなるようにマイクロマイクロベル(ABBランズバーグ社製回転霧化式静電塗装機)にて1ステージ塗装し、7分間セッティングした。更に、140℃で18分間焼き付けて、試験板上に複層塗膜を形成した。
【0061】
比較例6
脱脂後水洗処理の後に、サーフファイン5N−8M(日本ペイント社製)を用いて室温で30秒間表面調整を行い、サーフダインSD−6350(日本ペイント社製リン酸亜鉛系化成処理剤)を用いて35℃で120秒間浸漬処理を行うことで化成処理を施したこと以外は実施例1と同様にして試験板を得た。
【0062】
評価試験
〈浴外観〉
化成処理剤1L当たり1mの金属基材を処理した後、化成処理剤中の濁りを目視観察した。評価結果を表1に示した。
【0063】
〈二次密着性試験(SDT)〉
得られた試験板に、素地まで達する縦平行カットを2本入れた後、5%NaCl水溶液中において50℃で480時間、及び、720時間浸漬した。その後、カット部をテープ剥離し、塗料の剥離を観察した。
◎:1mm未満
〇:1〜2mm未満
△:2〜3mm未満
×:3mm以上
評価結果は、表1に示す。
【0064】
〈屋外曝露試験〉
得られた試験板に、長さ10cmのカットを中央で交わるように入れた後、直接曝露試験(JIS Z 2381 屋外曝露試験方法通則、及び、K 5600−7−6等による)に基づき、日本ペイント株式会社宮古島暴露場において暴露試験を行った。曝露場の位置は以下の通りである。
曝露場住所:沖縄県平良市字狩俣3742番地
上記試験6ヶ月経過後、カット部の膨れ幅を観察した。
◎:3mm未満
〇:3〜4mm未満
△:4〜5mm未満
×:5mm以上
評価結果は、表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1より、本発明の化成処理剤にはスラッジの発生がみられず、本発明の化成処理剤により得られた化成皮膜は、良好な塗膜密着性を有することが示された。一方、比較例で調製した化成処理剤により得られる化成皮膜は、すべての項目で良好な結果を得ることはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の化成処理剤は、クロム等の環境に対する負荷が大きい重金属を使用する必要がなく、本発明の化成処理剤を使用する化成処理においては、表面調整を行わなくても良好な化成皮膜が形成されることから、作業性及びコストの面でも良好な化成処理剤である。更に、本発明の化成処理剤は、鉄系基材に対しても充分な塗膜密着性を与えることができるため、少なくとも一部に鉄系基材を含む被処理物に対しても処理を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、フッ素、並びに、水溶性エポキシ化合物からなる化成処理剤であって、前記ジルコニウムは、上記化成処理剤中の含有量が金属換算で20〜10000ppmであり、前記水溶性エポキシ化合物は、ビスフェノールFを基本骨格とし、かつ、アミノ基及びイソシアネート基を含有し、数平均分子量が400〜1000であり、前記化成処理剤中の含有量が固形分濃度で100〜2000ppmであることを特徴とする化成処理剤。
【請求項2】
更に、亜鉛イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、鉄イオンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)、銅イオン(B)及びケイ素含有化合物(C)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1記載の化成処理剤。
【請求項3】
ケイ素含有化合物(C)は、シリカ、水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、アルキルシリケート類及びシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2記載の化成処理剤。
【請求項4】
pHは、1.5〜6.5である請求項1、2又は3記載の化成処理剤。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の化成処理剤により形成された化成皮膜を有することを特徴とする表面処理金属。
【請求項6】
化成皮膜は、皮膜量が化成処理剤に含まれる金属の合計量とエポキシ化合物に含まれる炭素量との合計量で0.1〜500mg/mである請求項5記載の表面処理金属。
【請求項7】
被処理物は、自動車車体である請求項5又は6記載の表面処理金属。

【公開番号】特開2006−161115(P2006−161115A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355863(P2004−355863)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】