説明

化粧シートおよびそれを用いた化粧板

【課題】 意匠として視覚的に凹部として認識される凹凸感と深み(奥行き)とを併せ持つと共に耐汚染性や耐候密着性、耐摩耗性等の使用時の耐性においても優れた化粧シートを生産性よく安価に提供することであり、さらには、その化粧シートを用いた化粧板を提供することである。
【解決手段】 合成樹脂製透明基材層の一方の面にパターン状低艶印刷層を設けた後に前記一方の面全面に表面保護層を設け、前記合成樹脂製透明基材層の他方の面側に絵柄印刷層を設けた化粧シートであって、前記パターン状低艶印刷層がポリオール成分とイソシアネート成分とを反応させてなるウレタン樹脂が少なくとも混練されたビヒクルからなる印刷インキで形成されていることを特徴とする化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚的凹凸感を有すると共に深みのある意匠性に優れた化粧シートおよびそれを用いた化粧板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、家具やキャビネット、テーブル、机などの表面装飾用材料として、木質系基材や無機系基材、合成樹脂製基材、金属系基材などの化粧板用基材の表面に、たとえば、木目柄などを印刷した化粧シートを接着剤で貼着した化粧板が用いられている。このような化粧板に使用される化粧シートには、後加工適性としての柔軟性や切削性等が求められると共に、使用適性としての耐候性、耐熱性、耐水性、耐汚染性、耐擦傷性、耐摩耗性等の各種の適性が求められ、これら適性を満足するように構成されている。
【0003】
また、近年の消費者の高級品志向により、家具やキャビネット、テーブル、机などに対しても高級感が求められるようになり、高級感を与える外観を有するものが要望され、これに応えるための種々の提案がなされている。
【0004】
その一つを例示するならば、基材上に模様状に設けた塗布面によって電子線硬化型塗料ないし光硬化型塗料に対する濡れ性の異なる区域を形成し、その後に電子線硬化型塗料ないし光硬化型塗料を塗布し、該塗料に対して濡れ易い区域で塗料表面を陥没させ、濡れ難い区域で塗料表面を隆起させることにより凹凸感を表現した化粧シートが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。しかしながら、この化粧シートは濡れ易い区域、すなわち、凹部が細かい場合には、凹部が潰れて表現することができないという問題や、凹部と凸部との境界が塗料の表面張力により丸みを帯びるためにシャープな凹凸を得られないという問題がある。
【0005】
また、他の一つを例示するならば、基材上に、通常インキからなる模様層及び電子線硬化性組成物からなる凸状模様層の2種類の模様層を順次に設け、その上に透明樹脂層を被覆し、被覆後に前記透明樹脂層を介して電子線を照射して凸状模様を硬化させて凹凸感を表現した化粧材が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。しかしながら、この化粧材は物理的に比較的大きな凹凸があるために凸部が傷付き易く、特に凸部の面積が大きい場合にはそれが顕著になるという問題がある。さらに、この化粧材は、たとえば、木目柄などの艶の強弱を表現したい場合、すなわち、木目導管溝のように大部分が凸部で極めて狭い幅の凹状部が存在するような場合には、透明樹脂層を構成する塗料の流動によって該凹状部が埋まってしまい、しかもその埋まり方の程度にバラツキが生じるために望む意匠が安定して得られないという問題がある。
【0006】
また、他の一つを例示するならば、プリント紙又は化粧紙を貼った基板に放射線重合を行う合成樹脂を塗布した後、放射線を照射して合成樹脂の半硬化状態のときに照射を中止し、凹凸模様を施したロールプレス等の冷加圧体にて加圧した後、合成樹脂を完全硬化することにより凹凸感を表現した化粧板が提案されている(たとえば、特許文献3参照)。しかしながら、この化粧板は樹脂を安定的に一定の程度の半硬化状態にする際の硬化条件を特定するのは容易ではなく、また半硬化状態の合成樹脂は不安定であると共に硬化を2段階に分けて行うのは煩雑であるという問題がある。
【0007】
また、他の一つを例示するならば、基材の上に塗布装置を用いて電子線硬化性樹脂を塗布し、電子線照射機内で型ロールと接触させて型ロールの凹凸を賦型しながら電子線を照射して硬化させて凹凸感を表現した化粧材が提案されている(たとえば、特許文献4参照)。しかしながら、この化粧材は特殊な型ロール装置が必要であり、通常の印刷装置では凹凸を賦型することができないという問題や、型ロールによる賦型速度に限界があり、生産性が低いという問題がある。
【0008】
また、他の一つを例示するならば、基材の表面に塗布層、模様層、電離放射線硬化性樹脂組成物が架橋硬化した表面保護層を有しており、模様層が塗布層に比較して、電離放射線硬化性樹脂組成物の浸透性を高く構成した化粧材が提案されている(たとえば、特許文献5参照)。この化粧材は電離放射線硬化性樹脂組成物が模様の存在する部分に、より浸透し易いため、該部分に凹部が形成され、表面に凹凸感を表現した化粧材が得られるものであるが、模様層に十分な吸収浸透性を付与すべく、多量の体質顔料や多孔質材料を添加すると、凹部が多孔質化や脆弱化するために凹部の耐久性や耐汚染性が低下するし、逆に凹部の耐久性や耐汚染性を向上させるために模様層の多孔質化を抑制しようとすると、十分な深さやシャープさを有する凹部を形成することができないという問題がある。
【特許文献1】特公昭51−26937号公報
【特許文献2】特公平01−41505号公報
【特許文献3】特公昭49−28264号公報
【特許文献4】特公昭63−50066号公報
【特許文献5】特開2001−199028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、意匠として視覚的に凹部として認識される凹凸感と深み(奥行き)とを併せ持つと共に耐汚染性や耐候密着性、耐摩耗性等の使用時の耐性においても優れた化粧シートを生産性よく安価に提供することであり、さらには、その化粧シートを用いた化粧板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を達成するために、請求項1記載の本発明は、合成樹脂製透明基材層の一方の面にパターン状低艶印刷層を設けた後に前記一方の面全面に表面保護層を設け、前記合成樹脂製透明基材層の他方の面側に絵柄印刷層を設けた化粧シートであって、前記パターン状低艶印刷層がポリオール成分とイソシアネート成分とを反応させてなるウレタン樹脂が少なくとも混練されたビヒクルからなる印刷インキで形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2記載の本発明は、請求項1記載の化粧シートにおいて、前記印刷インキが微粒子を添加したものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項3記載の本発明は、請求項1記載の化粧シートにおいて、前記合成樹脂製透明基材層の他方の面側に、前記絵柄印刷層を挟むように合成樹脂製着色層を設けたことを特徴とするものである。
【0013】
また、請求項4記載の本発明は、請求項1記載の化粧シートにおいて、前記表面保護層側に凹陥模様を設けてなることを特徴とするものである。
【0014】
また、請求項5記載の本発明は、請求項1記載の化粧シートにおいて、前記表面保護層が硬化型樹脂からなることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項6記載の本発明は、請求項5記載の化粧シートにおいて、前記硬化型樹脂が電離放射線硬化型樹脂であることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項7記載の本発明の化粧板は、請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シートを接着剤層を介して化粧板用基材に貼着したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の化粧シートおよびそれを用いた化粧板は、耐汚染性や耐候密着性、耐摩耗性等の使用時の耐性において優れることは元より、特に、視覚的に凹部として認識される凹凸感と深み(奥行き)とにおいて優れた意匠効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上記の本発明にかかる化粧シートの基本構成を図解的に示す層構成図、図2は本発明にかかる化粧シートの一実施例を図解的に示す層構成図であり、図中の1,1’は化粧シート、2は合成樹脂製透明基材層、2’は合成樹脂製着色層、3,3’はプライマー層、4はパターン状低艶印刷層、5は表面保護層、6は絵柄印刷層、7は凹陥模様、8は接着剤層、61は模様柄印刷層、62はベタ柄印刷層をそれぞれ示す。
【0019】
図1は本発明にかかる化粧シートの基本構成を図解的に示す層構成図であって、化粧シート1は合成樹脂製透明基材層2の一方の面全面にプライマー層3を設け、該プライマー層3上にパターン状低艶印刷層4を設け、該パターン状低艶印刷層4上の前記一方の面全面に表面保護層5を設け、さらに前記合成樹脂製透明基材層2の他方の面側に絵柄印刷層6を設け、前記表面保護層5側からエンボス加工を施して凹陥模様7を形成したものである。なお、図1上においては、前記絵柄印刷層6を前記合成樹脂製透明基材層2に当接した状態で示したが、前記絵柄印刷層6は前記合成樹脂製透明基材層2の他方の面側に位置し、前記表面保護層5側から前記合成樹脂製透明基材層2を介して前記絵柄印刷層6を見ることができるように構成されていればよいものであるし、前記絵柄印刷層6は通常、前記合成樹脂製透明基材層2側から模様柄印刷層61とベタ柄印刷層62で構成されているものである。また、図1においては、前記凹陥模様7を設けた実施態様を示したが、前記凹陥模様7は必要に応じて設ければよいのであって必須ではない。
【0020】
図2は本発明にかかる化粧シートの一実施例を図解的に示す層構成図であって、化粧シート1’は合成樹脂製着色層2’の少なくとも一方の面にプライマー層3’を設け、該プライマー層3’上にベタ柄印刷層62、模様柄印刷層61を順に印刷形成した絵柄印刷層6を設け、さらに前記絵柄印刷層6側の面全面にポリオール成分とイソシアネート成分からなる2液硬化型ポリウレタン系接着剤で形成した接着剤層8を介して合成樹脂製透明基材層2を設け、前記合成樹脂製透明基材層2の表面全面にプライマー層3を設け、該プライマー層3上にパターン状低艶印刷層4を設け、該パターン状低艶印刷層4上の前記合成樹脂製透明基材層2の表面全面に表面保護層5を設け、前記表面保護層5側からエンボス加工を施して凹陥模様7を形成したものである。なお、前記凹陥模様7は必要に応じて設ければよいのであって必須ではない。
【0021】
次に、前記化粧シート1、1’を構成する諸材料について説明する。まず、前記合成樹脂製透明基材層2および前記合成樹脂製着色層2’を構成する樹脂としては、加工適性に優れ、燃焼時に有害なガスを発生しないことなどから、たとえば、低密度ポリエチレン(線状低密度ポリエチレンを含む),中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,エチレンαオレフィン共重合体,ホモポリプロピレン,ポリメチルペンテン,ポリブテン,エチレン−プロピレン共重合体,プロピレン−ブテン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−ビニルアルコール共重合体,あるいは,これらの混合物等のオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリエチレンナフタレート−イソフタレート共重合体,ポリカーボネート,ポリアリレート等の熱可塑性エステル樹脂、ポリメタアクリル酸メチル,ポリメタアクリル酸エチル,ポリアクリル酸エチル,ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系熱可塑性樹脂、ナイロン−6,ナイロン−66等のポリアミド系熱可塑性樹脂、あるいは、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等の非ハロゲン系熱可塑性樹脂などを挙げることができる。また、これらの熱可塑性樹脂は、単独であっても2種以上の混合物であってもよいが、意匠としての絵柄印刷層6や凹陥模様7などが設けられるために、これらの適性が求められ、また、昨今問題となっている燃焼時に有害なガスを発生しないこと、あるいは、コストなどを総合的に考慮するとオレフィン系熱可塑性樹脂が好ましい。なお、前記合成樹脂製透明基材層2は半透明であってもよいし、また、着色した透明あるいは半透明であってもよいものであるし、前記合成樹脂製着色層2’は、着色した透明、半透明あるいは不透明(隠蔽性がある)であってもよいし、着色されていない無着色層であってもよいものである。
【0022】
また、前記合成樹脂製透明基材層2および前記合成樹脂製着色層2’は、未延伸の状態、あるいは、一軸ないし二軸方向に延伸した状態のいずれの状態であってもよいし、また、2層以上積層した状態であってもよいのであって、種々の構成を適宜採ることができるが、厚さとしては概ね30〜300μmが適当である。また、これらの層2、2’は必要に応じて必要な面にコロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の周知の易接着処理を施してもよいものである。また、これらの層2、2’は、適宜、酸化防止剤、光安定剤、紫外線防止剤等の周知の添加剤を添加したものであってもよいものである。
【0023】
また、前記絵柄印刷層6としては、グラビア印刷法、オフセット印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷法でインキを用いて形成することができる。前記模様柄印刷層61としては、たとえば、木目模様、石目模様、布目模様、皮紋模様、幾何学模様、文字、記号、線画、各種抽象模様柄であり、前記ベタ柄印刷層62としては、隠蔽性を有する着色インキでベタ印刷したものである。なお、図1、2においては、前記絵柄印刷層6として、前記模様柄印刷層61と前記ベタ柄印刷層62の両印刷層を設けた構成を示したが、いずれか一方の構成であってもよいものである。
【0024】
前記絵柄印刷層6を形成するインキとしては、ビヒクルとして塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、イソシアネートとポリオールとからなるポリウレタン、ポリアクリル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、セルロース系樹脂、ポリアミド樹脂等を1種ないし2種以上混合して用い、これに顔料、溶剤、各種補助剤等を加えてインキ化したものを用いることができ、環境問題を考慮すると、ポリエステル、イソシアネートとポリオールからなるポリウレタン、ポリアクリル、ポリ酢酸ビニル、セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂等の1種ないし2種以上混合した非塩素系のビヒクルが適当であり、より好ましくはポリエステル、イソシアネートとポリオールからなるポリウレタン、ポリアクリル、ポリアミド系樹脂等の1種ないし2種以上混合したものである。
【0025】
次に、前記パターン状低艶印刷層4について説明する。前記パターン状低艶印刷層4は、この層を設けた領域がこれ以外の領域に比べて低艶となる領域(低艶領域)である。この機構については十分に解明するまでには至っていないが、前記パターン状低艶印刷層4とこの表面に設けられる硬化型樹脂からなる前記表面保護層5の未硬化物を塗布した際に、各材料の組合せや塗布条件の選択によって前記パターン状低艶印刷層4の樹脂成分と前記表面保護層5の未硬化物が一部溶出、分散、混合等の相互作用を発現することによるものと推測される。すなわち、前記パターン状低艶印刷層4のインキと前記表面保護層5を形成する硬化型樹脂の未硬化物におけるそれぞれの樹脂成分は、短時間には完全に相溶状態にならずに懸濁状態となって、前記パターン状低艶印刷層4上ないしその近辺に存在し、該懸濁状態となった部分が光を散乱して低艶領域をなすものと考えられる。この懸濁状態を有したまま架橋硬化して前記表面保護層5が形成されるために、前記表面保護層5中の前記パターン状低艶印刷層4上の領域が少なくとも低艶領域となり、目の錯覚により、その領域が凹部であるかのように認識されるものと推測される。また、前記パターン状低艶印刷層4を形成するインキと前記表面保護層5を形成する硬化型樹脂組成物の種類・塗布条件によっては、前記表面保護層5の最表面は、前記パターン状低艶印刷層4の形成に伴って隆起し、凸形状を形成する場合がある。前記表面保護層5の表面がこのように凸形状を有することによって、この部分でも光が散乱されるため、さらに視覚的な凹凸感が強調され好ましい。なお、前記凸形状の高さについては、本発明の効果を奏する範囲である高さであることが好ましく、通常2〜3μmの範囲である。
【0026】
前記パターン状低艶印刷層4を形成するインキは前記表面保護層5を形成する硬化型樹脂組成物(硬化型樹脂の未硬化物)との相互作用を起こす性質を有するものであり、硬化型樹脂組成物(硬化型樹脂の未硬化物)との関連で適宜選定されるものである。具体的には、インキのビヒクルとしてはウレタン樹脂を少なくとも含有(混練)しているものが好ましい。前記ウレタン樹脂は、ポリオール成分として、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等のポリオールとイソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート等の脂肪族ないし脂環式イソシアネート等のイソシアネートとを反応させてなるウレタン樹脂(線状に架橋したもの、あるいは、網目状に架橋したもののいずれであってもよい)を挙げることができる。なお、インキのビヒクルとして、ウレタン結合を有するウレタン樹脂を用いるのが好ましいものであるが、ポリオール成分にイソシアネート成分を配合したビヒクルからなる、いわゆる2液硬化型印刷インキを用いて前記パターン状低艶印刷層4を印刷形成し、これを硬化させたウレタン樹脂からなる前記パターン状低艶印刷層4としてもよいものである。
【0027】
また、必要に応じて、低艶領域の発現の程度、低艶領域とその周囲との艶差のコントラストを調整するため、不飽和ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の艶調整樹脂を混合して用いてもよいものである。艶調整樹脂の混合割合はビヒクルの全量に対して10〜90重量%の範囲である。この範囲であると、低艶領域発現の十分な増強効果が得られるものである。また、前記パターン状低艶印刷層4を形成するインキは、無着色であっても、顔料等の着色剤を加えて着色したものであってもよいものである。
【0028】
本発明は、前記パターン状低艶印刷層4上に前記表面保護層5が設けられ、前記パターン状低艶印刷層4を構成するインキと前記表面保護層5を構成する硬化型樹脂組成物(硬化型樹脂の未硬化物)との相互作用によって、前記パターン状低艶印刷層4上の領域が少なくとも低艶領域となり、目の錯覚により、その領域が凹部であるかのように認識されるものである。前記パターン状低艶印刷層4の膜厚としては、印刷適性や硬化型樹脂組成物(硬化型樹脂の未硬化物)との相互作用を考慮すると、0.5μm以上5.0μm以下が適当である。
【0029】
また、前記パターン状低艶印刷層4を形成するための印刷インキに微粒子として、体質顔料を配合することが好ましい。体質顔料を配合することにより、光の散乱を助長し、低艶効果を一層高めることができる。前記体質顔料としては特に限定されるものではないが、たとえば、シリカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等から適宜選択される。これらの中で、吸油度、粒径、細孔容積等の材料設計の自由度が高く、意匠性、白さ、インキとしての塗布安定性に優れた材料であるシリカが好ましく、特に微粉末のシリカが好ましい。
【0030】
シリカの平均粒径としては、前記パターン状低艶印刷層4の膜厚(μm)との関係で決めればよいのであって、概ね1.0μm以上であり、また、最大粒径としては、表面保護層5の膜厚(μm)との関係で決めるべきものであるが、表面保護層5の膜厚は化粧シートとして求められる諸物性(後加工適性や使用時適正)とコストを考慮すると、概ね10.0μm以下、好ましくは7.0μm以下であり、平均粒径の最適な範囲としては2.0μm以上5.0μm以下である。また、前記パターン状低艶印刷層4を形成するためのインキに添加する体質顔料の配合量は、体質顔料以外のインキ組成物100重量部に対して5〜15重量部が適当である。5重量部未満では、パターン状低艶印刷層4を形成する印刷インキ組成物に十分なチキソ性を付与することができないし、15重量部超では、低艶を付与する効果の低下が見られるので好ましくない。
【0031】
次に、前記表面保護層5について説明する。この表面保護層5は化粧シート1、1’(図1、2参照)に要求される耐擦傷性、耐摩耗性、耐汚染性、耐水性、耐候性等の表面物性を付与するために設けられるものであり、この表面保護層5を形成する樹脂としては、熱硬化型樹脂ないし電離放射線硬化型樹脂等の硬化型樹脂を用いて形成するのが適当であるが、より好ましくは表面硬度が硬く、生産性に優れるなどから電離放射線硬化型樹脂である。
【0032】
熱硬化型樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂(2液硬化型ポリウレタンも含む)、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を挙げることができる。上記樹脂には必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、または、重合促進剤を添加して用いる。たとえば、硬化剤としては、イソシアネートまたは有機スルホン酸塩等が不飽和ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等に添加され、有機アミン等がエポキシ樹脂に添加され、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物やアゾイソブチルニトリル等のラジカル開始剤は不飽和ポリエステル樹脂に添加される。上記熱硬化型樹脂で表面保護層を形成する方法としては、たとえば、上記した熱硬化型樹脂を溶液化し、ロールコート法、グラビアコート法等の周知の塗布法で塗布し、乾燥すると共に硬化させることにより形成することができる。表面保護層の塗布量としては、固形分で概ね1〜20g/m2が適当であり、特に、パターン状低艶印刷層の膜厚が0.5μm以上5.0μm以下であって、微粒子の平均粒径が1.0μm以上7.0μm以下である場合は、固形分で2〜10g/m2が適当である。
【0033】
次に、電離放射線硬化型樹脂について説明する。電離放射線硬化型樹脂としては、電離放射線を照射することにより架橋重合反応を起こして3次元の高分子構造に変化する樹脂である。電離放射線は、電磁波または荷電粒子線のうち分子を重合、架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、可視光線、紫外線(近紫外線、真空紫外線等)、X線、電子線、イオン線等がある。通常は紫外線や電子線が用いられる。紫外線源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯の光源が使用できる。紫外線の波長としては、190〜380nmの波長域を使用することができる。また、電子線源としては、コッククロフトワルト型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。用いる電子線としては、100〜1000keV、好ましくは100〜300keVのものが使用される。電子線の照射量は、通常2〜15Mrad程度である。
【0034】
電離放射線硬化型樹脂としては、分子中に、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、またはエポキシ基等のカチオン重合性官能基を有する単量体、プレポリマーまたはポリマーからなる。これら単量体、プレポリマーまたはポリマーは、単体で用いるか、あるいは、複数種混合して用いる。なお、本明細書で(メタ)アクリレートとは、アクリレートないしメタアクリレートの意味で用いる。また、電離放射線とは、電磁波ないし荷電粒子線のうち分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常は紫外線ないし電子線である。
【0035】
ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。このプレポリマーは、通常、分子量が10000程度以下のものが用いられる。分子量が10000を超えると硬化した樹脂層の耐擦傷性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性等の表面物性が不足する。上記のアクリレートとメタアクリレートとは共用し得るが、電離放射線での架橋硬化速度という点ではアクリレートの方が速いため、高速度、短時間で能率よく硬化させるという目的ではアクリレートの方が有利である。
【0036】
カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂、脂肪族系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル、ウレタン系ビニルエーテル、エステル系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂、環状エーテル化合物、スピロ化合物等のプレポリマーが挙げられる。
【0037】
ラジカル重合性不飽和基を有する単量体の例としては、(メタ)アクリレート化合物の単官能単量体として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンテレフタレート等が挙げられる。
【0038】
また、ラジカル重合性不飽和基を有する多官能単量体として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンポリエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等が挙げられる。
【0039】
カチオン重合性官能基を有する単量体は、上記カチオン重合性官能基を有するプレポリマーの単量体を用いることができる。
【0040】
上記した電離放射線硬化型樹脂を、紫外線を照射することにより硬化させる場合には、増感剤として光重合開始剤を添加する。ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合の光重合開始剤は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、ミヒラーケトン、ジフェニルサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジエチルオキサイト、トリフェニルビイミダゾール、イソプロピル−N,N−ジメチルアミノベンゾエート等を単独ないし混合して用いることができる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル、フリールオキシキソニウムジアリルヨードシル塩等を単独ないし混合物として用いることができる。なお、これら光重合開始剤の添加量は、一般に、電離放射線硬化型樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部程度である。電離放射線硬化型樹脂の塗布法および塗布量は、熱硬化型樹脂と同じであり、説明は省略する。
【0041】
また、前記表面保護層5に、より一層の耐擦傷性、耐摩耗性を付与する場合には、たとえば、無機物としてはα−アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の微粒子が挙げられる。粒子形状は、球形状、楕円形状、多面形状、鱗片形状等が挙げられ、特に制限はないが、球状が好ましい。有機物としては架橋アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂ビーズが挙げられる。粒径は通常膜厚の3〜200%程度とする。これらの中でも球状のα−アルミナは、硬度が高く、耐摩耗性の向上に対する効果が大きいこと、また、球状の粒子を比較的得やすい点で特に好ましいものである。また、前記表面保護層5を形成する硬化型樹脂に対する微粒子の配合割合は、硬化型樹脂100重量部に対して1〜80重量部である。
【0042】
また、前記表面保護層5には、要求される物性に応じて、たとえば、ベンゾトリアゾール系,ベンゾフェノン系,トリアジン系等の周知の有機系紫外線吸収剤や平均粒径が5〜120nm程度の二酸化チタン,酸化セリウム,酸化亜鉛等の無機系紫外線吸収剤、あるいは、ヒンダードアミン系等の周知の光安定剤、あるいは、帯電防止剤、レべリング剤等の周知の添加剤を添加することができる。
【0043】
次に、前記プライマー層3、3’について説明する。前記プライマー層3は前記合成樹脂製透明基材層2と前記パターン状低艶印刷層4または前記表面保護層5との接着強度を向上させる目的で設けるものであり、前記プライマー層3’は前記合成樹脂製着色層2’と前記絵柄印刷層6との接着強度を向上させる目的で設けるものである。特に、前記合成樹脂製透明基材層2および前記合成樹脂製着色層2’がオレフィン系熱可塑性樹脂の場合には、前記パターン状低艶印刷層4または前記表面保護層5および前記絵柄印刷層6との接着強度を向上させるために、前記プライマー層3、3’を設ける方が望ましい。前記プライマー層3、3’に用いる樹脂としてはエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ニトロセルロース樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂は単独ないし混合して塗料組成物、または、インキ組成物とし、ロールコート法やグラビア印刷法等の適宜の塗布手段を用いて形成することができる。
【0044】
しかしながら、前記プライマー層3、3’は、(i)アクリル樹脂とウレタン樹脂との共重合体と、(ii)イソシアネートとからなる樹脂で形成するのが特に好ましい。すなわち、(i)のアクリル樹脂とウレタン樹脂との共重合体は、末端に水酸基を有するアクリル重合体成分(成分A)、両末端に水酸基を有するポリエステルポリオール成分(成分B)、ジイソシアネート成分(成分C)を配合して反応させてプレポリマーとなし、該プレポリマーにさらにジアミンなどの鎖延長剤(成分D)を添加して鎖延長することで得られるものである。この反応によりポリエステルウレタンが形成されると共にアクリル重合体成分が分子中に導入され、末端に水酸基を有するアクリル−ポリエステルウレタン共重合体が形成される。このアクリル−ポリエステルウレタン共重合体の末端の水酸基を(ii)のイソシアネートと反応させて硬化させて形成するものである。
【0045】
前記成分Aは、末端に水酸基を有する直鎖状のアクリル酸エステル重合体が用いられる。具体的には、末端に水酸基を有する直鎖状のポリメチルメタクリレート(PMMA)が耐候性(特に光劣化に対する特性)に優れ、ウレタンと共重合させて相溶化するのが容易である点から好ましい。前記成分Aは、共重合体においてアクリル樹脂成分となるものであり、分子量5000〜7000(重量平均分子量)のものが耐候性、接着性が特に良好であるために好ましく用いられる。また、前記成分Aは、両末端に水酸基を有するもののみを用いてもよいが、片末端に共役二重結合が残っているものを上記の両末端に水酸基を有するものと混合して用いてもよいものである。共役二重結合が残っているアクリル重合体を混合することにより、前記プライマー層と接する層、たとえば、前記表面保護層5の電離放射線硬化型樹脂とアクリル重合体の共役二重結合が反応するために電離放射線硬化型樹脂との間の接着性を向上させることができる。
【0046】
前記成分Bは、ジイソシアネートと反応してポリエステルウレタンを形成し、共重合体においてウレタン樹脂成分を構成するものである。前記成分Bは、両末端に水酸基を有するポリエステルジオールが用いられる。このポリエステルジオールとしては、芳香族ないしスピロ環骨格を有するジオール化合物とラクトン化合物ないしその誘導体、またはエポキシ化合物との付加反応生成物、二塩基酸とジオールとの縮合生成物、および、環状エステル化合物から誘導されるポリエステル化合物等を挙げることができる。上記ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、メチルペンテンジオール等の短鎖ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族短鎖ジオール等を挙げることができる。また、上記二塩基酸としては、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等を挙げることができる。ポリエステルポリオールとして好ましいのは、酸成分としてアジピン酸ないしアジピン酸とテレフタル酸の混合物、特にアジピン酸が好ましく、ジオール成分として3−メチルペンタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールを用いたアジペート系ポリエステルである。
【0047】
前記プライマー層3、3’において、前記成分Bと前記成分Cとが反応して形成されるウレタン樹脂成分は、前記プライマー層3、3’に柔軟性を与え、前記合成樹脂製透明基材層2あるいは前記合成樹脂製着色層2’との接着性に寄与する。また、アクリル重合体からなるアクリル樹脂成分は、前記プライマー層3、3’において耐候性および耐ブロッキング性に寄与する。ウレタン樹脂において、前記成分Bの分子量は前記プライマー層に柔軟性を十分に発揮可能なウレタン樹脂が得られる範囲であればよく、アジピン酸ないしアジピン酸とテレフタル酸の混合物と、3−メチルペンタンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールからなるポリエステルジオールの場合、500〜5000(重量平均分子量)が好ましい。
【0048】
前記成分Cは、1分子中に2個のイソシアネート基を有する脂肪族ないし脂環族のジイソシアネート化合物が用いられる。このジイソシアネートとしては、たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、2,2,4(2,4,4)−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4’−シクロヘキシルジイソシアネート等を挙げることができる。ジイソシアネート成分としては、イソホロンジイソシアネートが物性およびコストが優れる点で好ましい。上記の成分A〜Cを反応させる場合のアクリル重合体、ポリエステルポリオールおよび後述する鎖延長剤の合計の水酸基(アミノ基の場合もある)と、イソシアネート基の当量比はイソシアネート基が過剰となるようにする。
【0049】
上記の三成分A、B、Cを60〜120℃で2〜10時間程度反応させると、ジイソシアネートのイソシアネート基がポリエステルポリオール末端の水酸基と反応してポリエステルウレタン樹脂成分が形成されると共にアクリル重合体末端の水酸基にジイソシアネートが付加した化合物も混在し、過剰のイソシアネート基および水酸基が残存した状態のプレポリマーが形成される。このプレポリマーに鎖延長剤として、たとえば、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミンを加えてイソシアネート基を前記鎖延長剤と反応させ、鎖延長することでアクリル重合体成分がポリエステルウレタンの分子中に導入され、末端に水酸基を有する(i)のアクリル−ポリエステルウレタン共重合体を得ることができる。
【0050】
(i)のアクリル−ポリエステルウレタン共重合体に、(ii)のイソシアネートを加えると共に、塗布法、乾燥後の塗布量を考慮して必要な粘度に調節した塗布液となし、グラビアコート法、ロールコート法等の周知の塗布法で塗布することにより前記プライマー層3、3’を形成すればよいものである。また、(ii)のイソシアネートとしては、(i)のアクリル−ポリエステルウレタン共重合体の水酸基と反応して架橋硬化させることが可能なものであればよく、たとえば、2価以上の脂肪族ないし芳香族イソシアネートが使用でき、特に熱変色防止、耐候性の点から脂肪族イソシアネートが望ましい。具体的には、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートの単量体、または、これらの2量体、3量体などの多量体、あるいは、これらのイソシアネートをポリオールに付加した誘導体(アダクト体)のようなポリイソシアネートなどを挙げることができる。なお、図1、図2の化粧シート1、1’においては、プライマー層3、3’を設けた構成のものを示したが、これは、高レベルの要求に応える化粧シート仕様であり、要求レベルが低い場合にはこれらプライマー層3、3’は必ず設けなければならないものでもない。
【0051】
なお、プライマー層3、3’の乾燥後の塗布量としては、1〜20g/m2であり、好ましくは1〜5g/m2である。また、このプライマー層3、3’は、必要に応じてシリカ粉末などの充填剤、光安定剤、着色剤等の添加剤を添加した層としてもよいものである。
【0052】
また、図示はしないが、図2に示す前記合成樹脂製着色層2’の裏面(前記絵柄印刷層6を設けた面の反対面)にプライマー層を設けて、化粧シート1’を化粧板用基材(図示せず)に接着剤層を介して貼着して化粧板とする際の接着力が向上するように構成してもよいものである。前記合成樹脂製着色層2’の裏面(前記絵柄印刷層6を設けた面の反対面)に設ける前記プライマー層は、接着力が不足している場合に、必要に応じて適宜設ければよいものである。なお、この場合のプライマー層についても、上記のプライマー層3、3’で説明した樹脂を適宜選択して用いればよいものである。また、化粧シート1’と化粧板用基材とを貼着する接着剤層に用いる接着剤としては、たとえば、熱可塑性樹脂系、熱硬化型樹脂系、ゴム(エラストマー)系等のいずれのタイプの接着剤であってもよいものである。これらは、公知のもの、ないし、市販品を使用することができる。熱可塑性樹脂系接着剤としては、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等)、シアノアクリレート、ポリビニルアルキルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ニトロセルロース、酢酸セルロース、熱可塑性エポキシ、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体等を挙げることができ、熱硬化型樹脂系接着剤としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリベンゾチアゾール等を挙げることができる。ゴム系接着剤としては、天然ゴム、再生ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ステレオゴム(合成天然ゴム)、エチレンプロピレンゴム、ブロックコポリマーゴム(SBS、SIS、SEBS等)等を挙げることができる。
【0053】
なお、前記化粧板用基材(図示せず)としては、中密度繊維板(MDF)、高密度繊維板(HDF)、パーティクルボード、合板等の木質系基材、あるいは、セメント板、ケイ酸カルシウム板等の無機系基材、金属板などを挙げることができる。前記化粧板用基材の厚さとしては、金属板にあっては0.5mm厚さ以上、それ以外の場合にあっては1.0mm厚さ以上が実用上において適当である。
【0054】
また、前記凹陥模様7は加熱プレスやヘアライン加工などにより形成することができ、その模様としては、たとえば、導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチュア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝、鏡面等である。
【0055】
次に、本発明について、以下に実施例を挙げてさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0056】
両面をコロナ放電処理した60μm厚さの着色ポリプロピレン系シート(本願発明でいうところの合成樹脂製着色層)の一方の面にアクリルウレタン系印刷インキ(アクリルポリオールを主剤とし、硬化剤としてイソシアネートを添加した2液硬化型印刷インキ)を使用して絵柄印刷層を、そして他方の面にウレタン/硝化綿系プライマー層をそれぞれグラビア印刷法にて形成し、その後に前記絵柄印刷層面に2液硬化型ウレタン樹脂からなる2μm厚さの接着剤層を形成し、該接着剤層面にエチレン/プロピレン/ブテン共重合体を主成分とし、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤を添加したポリプロピレン系熱可塑性エラストマーをTダイ押出機で加熱溶融押出しして、80μm厚さの透明樹脂層(本願発明でいうところの合成樹脂製透明基材層)を形成した中間シートを作製した。
【0057】
前記中間シートの透明樹脂層面にアクリル/ウレタンブロック共重合体を主剤とし、硬化剤としてイソシアネートを添加した2液硬化型ウレタン系樹脂からなる2μm厚さの透明プライマー層を形成し、次いで、前記透明プライマー層面に、数平均分子量が10,000、ガラス転移温度(Tg)が−40.0℃のポリエステル系ウレタン樹脂をビヒクルとした透明印刷インキ100重量部に対し、平均粒子系4μmのシリカ粒子5重量部を配合した印刷インキ組成物を用いて、グラビア印刷法にて導管絵柄層(本願発明でいうところのパターン状低艶印刷層)を形成した後に、前記導管絵柄層を形成した面全面に電離放射線硬化型樹脂組成物(ウレタンアクリレート系電離放射線硬化型樹脂100重量部に対してシリコーンオイルで表面被覆したシリカ16重量部を配合したもの)を塗布すると共に電子線(加速電圧:125KeV、照射量:5Mrad)を照射して5μm厚さの透明性表面保護層を形成し、次いで、前記透明性表面保護層側からエンボス加工を施して凹陥模様を形成した化粧シートを作製した。
【実施例2】
【0058】
シリカ粒子を含まないポリエステル系ウレタン樹脂をビヒクルとした透明印刷インキで導管絵柄層を形成した以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【実施例3】
【0059】
ビヒクルをポリエステル系ウレタン樹脂に代えてアクリル系ウレタン樹脂(アクリルポリオールを主剤とし、硬化剤としてイソシアネートを添加した2液硬化型樹脂)とした印刷インキ組成物を用いて導管絵柄層を形成した以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0060】
[比較例1]
ビヒクルをポリエステル系ウレタン樹脂に代えてアクリル系樹脂とした印刷インキ組成物を用いて導管絵柄層を形成した以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0061】
[比較例2]
ビヒクルをポリエステル系ウレタン樹脂に代えてセルロース系樹脂とした印刷インキ組成物を用いて導管絵柄層を形成した以外は実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0062】
[比較例3]
実施例1で作製した中間シートの透明樹脂層面にアクリル樹脂ビーズを10重量部含有するウレタン樹脂をビヒクルとする印刷インキを用いて、グラビア印刷法でベタ柄印刷層(艶調整層)と該ベタ柄印刷層面にアクリル系艶消し印刷インキ(アクリル樹脂ビーズの含有率が45重量%で、顔料としてカーボンブラックを配合した黒色のアクリル系艶消し印刷インキ)で導管絵柄層(艶消し印刷層)を形成し、表面の光沢差による凹凸模様を有する化粧シートを作製した。
【0063】
上記で作製した実施例1〜3および、比較例1〜3の化粧シートについて、艶の評価、光沢差による意匠視認性、耐汚染性、耐候密着性、耐摩耗性を下記する評価方法で評価し、その結果を表1に纏めて示した。
【0064】
【表1】

【0065】
〔評価方法〕
・艶の評価:
グロスメーター〔村上色彩技術研究所製:GMX−203(商品名)〕を用い、入射角75度の条件で、高艶領域と低艶領域におけるグロス値を測定した。数字が高いほど高艶(高光沢)であることを示し、数字が低いほど低艶(低光沢)であることを示す。
・光沢差による意匠視認性の評価:
化粧シートの表面側から、導管絵柄層の部位と、その他の部位とを目視にて観察し、導管絵柄の視認性を評価した。
(評価基準)−導管絵柄が明確に認められるものを優良として◎印で示し、導管絵柄は認められるものの明瞭性に若干欠けるものを良好として○印で示し、導管絵柄は僅かに認められて意匠として実用上問題がないものを可として△印で示し、導管絵柄が全く認められないものを不良として×印で示した。
・耐汚染性:
JIS K−6902に準拠して汚染物を化粧シート表面に塗布し、拭き取った後の汚染物の残存具合を下記の評価基準で目視評価した。
(評価基準)−汚染物塗布前と比べて変化がなものを優良として◎印で示し、汚染物塗布前と比べて軽微の変化があるものを良好として○印で示し、汚染物塗布前と比べて変化があるものの実用上問題がないものを可として△印で示し、汚染物塗布前と比べて著しい変化があるものを不良として×印で示した。
・耐候密着性:
アイ・スーパーUVテスター〔岩崎電気(株)製:SUV−W231(商品名)〕を用いて化粧シートを100時間暴露した後に、25mm幅のセロハンテープ〔ニチバン(株)製:セロテープ(登録商標)〕を化粧シートの表面に貼着し、45度方向に急激に剥離し、化粧シートの剥離面を下記の評価基準で目視評価した。
(評価基準)−絵柄の剥離が全く認められないものを優良として◎印で示し、絵柄の剥離は認められるものの軽微であるものを良好として○印で示し、絵柄の剥離が明らかに認められるものの実用上問題がないものを可として△印で示し、絵柄の剥離が著しく認められるものを不良として×印で示した。
・耐摩耗性:
29.4kPa(300g/cm2)の荷重となるように調整された重りに、スチールウール(#0000)を取り付けて、化粧シートの表面を20回擦り、表面変化を下記の評価基準で目視評価した。
(評価基準)−表面変化が全く認められないものを優良として◎印で示し、表面変化は認められるものの軽微であるものを良好として○印で示し、表面変化が明らかに認められるものの実用上問題がないものを可として△印で示し、表面変化が著しく認められるものを不良として×印で示した。
【0066】
表1からも明らかなように、実施例1の化粧シートは、低艶領域(導管絵柄層領域)と高艶領域(導管絵柄層以外の領域)とを備え、低艶領域が視覚的に凹部として認識されると共に高艶領域が視覚的に凸部として認識されるリアルな凹凸感を有すると共に導管絵柄層と絵柄印刷層とが少なくとも透明樹脂層(実施例においては80μm厚さ)を介して形成されるために奥行き感(深み)を併せ持った意匠性においても優れた化粧シートとすることができると共に、使用時に求められる耐汚染性、耐候密着性、耐摩耗性等のいずれの物性においても優れた性能を有するものである。また、パターン状低艶印刷層を微粒子を含まないポリエステル系ウレタン樹脂で形成した実施例2、および、パターン状低艶印刷層をポリオール成分にイソシアネート成分を配合したビヒクルからなる、いわゆる2液硬化型印刷インキを用いて形成した実施例3についても実施例1には及ばないものの、意匠性においてもリアルな凹凸感と奥行き感(深み)を併せ持つと共に各種耐性においても優れた性能を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明にかかる化粧シートの基本構成を図解的に示す層構成図である。
【図2】本発明にかかる化粧シートの一実施例を図解的に示す層構成図である。
【符号の説明】
【0068】
1、1’ 化粧シート
2 合成樹脂製透明基材層
2’ 合成樹脂製着色層
3,3’ プライマー層
4 パターン状低艶印刷層
5 表面保護層
6 絵柄印刷層
7 凹陥模様
8 接着剤層
61 模様柄印刷層
62 ベタ柄印刷層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製透明基材層の一方の面にパターン状低艶印刷層を設けた後に前記一方の面全面に表面保護層を設け、前記合成樹脂製透明基材層の他方の面側に絵柄印刷層を設けた化粧シートであって、前記パターン状低艶印刷層がポリオール成分とイソシアネート成分とを反応させてなるウレタン樹脂が少なくとも混練されたビヒクルからなる印刷インキで形成されていることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記印刷インキが微粒子を添加したものであることを特徴とする請求項1記載の化粧シート。
【請求項3】
前記合成樹脂製透明基材層の他方の面側に、前記絵柄印刷層を挟むように合成樹脂製着色層を設けたことを特徴とする請求項1記載の化粧シート。
【請求項4】
前記表面保護層側に凹陥模様を設けてなることを特徴とする請求項1記載の化粧シート。
【請求項5】
前記表面保護層が硬化型樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の化粧シート。
【請求項6】
前記硬化型樹脂が電離放射線硬化型樹脂であることを特徴とする請求項5記載の化粧シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シートを接着剤層を介して化粧板用基材に貼着したことを特徴とする化粧板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−18579(P2008−18579A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190909(P2006−190909)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】