説明

化粧建築板

【課題】耐褪色性を高く得ることができる化粧建築板を提供する。
【解決手段】化粧建築板に関する。基材1の表面に、下塗り層2、インク受理層3、インクジェット層4、クリアー層5、無機質塗料層6、光触媒塗料層7をこの順に積層して形成される。黄色酸化鉄、Ti−Ni−Ba系イエロー、Ti−Sb−Ni系イエロー、Ti−Nb−Ni系イエロー、Ti−Sb−Cr系イエローから選ばれる顔料を含有するイエローのインクと、Co−Al系ブルー、Co−Al−Cr系ブルーから選ばれる顔料を含有するシアンのインクと、赤色酸化鉄、Fe−Zn系ブラウン、Fe−Zn−Cr系ブラウン、Fe−Ni−Al系ブラウンから選ばれる顔料を含有するマゼンタのインクとからなる、有機顔料を含有しない3色のインクでインクジェット層4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷により所望の模様が施された化粧建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェット印刷により所望の模様が施された化粧建築板としては、様々なものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。図3はその一例を示すものであるが、この化粧建築板は、次のようにして形成されている。まずセメント板等の基材1の表面に下塗り層2を形成した後、この下塗り層2の表面にインク受理層3を形成し、次にこのインク受理層3の表面にインクジェット印刷することによってインクジェット層4を形成する。その後、このインクジェット層4の表面にクリアー層5を形成することによって、図3に示すような化粧建築板を得ることができるものである。
【0003】
そして、上記インク受理層3によって、インクジェット層4のインクを定着させて鮮明な模様を得ることができるものであり、また、上記クリアー層5によって、インクジェット層4を保護することができるものである。
【特許文献1】特開2004−60241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の化粧建築板にあっては、せっかく色鮮やかな有機顔料を用いてインクジェット層4を形成しても、早期に色褪せが生じてしまうという問題があった。そこで、本発明者らは、この問題を解決すべく、耐候性の高い無機顔料のみを用いてインクジェット層4を形成してみたが、色の鮮やかさに大きく欠けてしまうことが分かった。そして本発明者らはさらに研究を続けた結果、有機顔料と無機顔料(中でも酸化物系の無機顔料)とを混合して用いた場合には、この無機顔料が光半導体として作用し、これにより有機顔料が劣化してしまうということを突き止めた。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、耐褪色性を高く得ることができる化粧建築板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る化粧建築板は、基材1の表面に、下塗り層2、インク受理層3、インクジェット層4、クリアー層5、無機質塗料層6、光触媒塗料層7をこの順に積層して形成されると共に、黄色酸化鉄、Ti−Ni−Ba系イエロー、Ti−Sb−Ni系イエロー、Ti−Nb−Ni系イエロー、Ti−Sb−Cr系イエローから選ばれる顔料を含有するイエローのインクと、Co−Al系ブルー、Co−Al−Cr系ブルーから選ばれる顔料を含有するシアンのインクと、赤色酸化鉄、Fe−Zn系ブラウン、Fe−Zn−Cr系ブラウン、Fe−Ni−Al系ブラウンから選ばれる顔料を含有するマゼンタのインクとからなる、有機顔料を含有しない3色のインクでインクジェット層4が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、黒色酸化鉄、Cu−Cr系ブラック、Cu−Cr−Mn系ブラック、Cu−Fe−Mn系ブラック、Co−Fe−Cr系ブラック、カーボンブラックから選ばれる顔料を含有するブラックのインクを加えて、有機顔料を含有しない4色のインクでインクジェット層4が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に係る化粧建築板によれば、所定のイエロー、シアン、マゼンタの3色のインクを組み合わせて用いることによって、有機顔料を用いる場合に比べて色の鮮やかさが低下するのを極力防止することができると共に、このように有機顔料が含有されていない3色のインクを用いてインクジェット層を形成することによって、インクジェット層の劣化が防止され、耐褪色性を高く得ることができるものである。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、所定のブラックのインクを加えることによって、イエロー、シアン、マゼンタの3色で表現される黒色よりも、鮮明な黒色を表現することができると共に、黒色をブラックの1色で表現することによって、イエロー、シアン、マゼンタの3色で黒色を表現する必要がなくなり、材料費を節約することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明に係る化粧建築板は、図1に示すように、基材1の表面に、下塗り層2、インク受理層3、インクジェット層4、クリアー層5、無機質塗料層6、光触媒塗料層7をこの順に積層することによって形成されている。
【0012】
基材1としては、窯業系基材や金属系基材のように無機質のものであっても、樹脂系基材のように有機質のものであっても、いずれでもよい。窯業系基材の外装材は、瓦や外壁材等の用途に使用されるものである。窯業系基材は、無機質硬化体の原料となる水硬性膠着材に無機充填剤、繊維質材料等を配合し、成形した後に養生硬化させて作製されるものであり、水硬性膠着材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、高炉スラグ、ケイ酸カルシウム、石膏等から選ばれたものの一種あるいは複数種を用いることができる。また、無機充填剤としては、フライアッシュ、ミクロシリカ、珪砂等を、繊維質材料としては、パルプ、合成繊維等の無機繊維や、スチールファイバー等の金属繊維を、それぞれ単独であるいは複数種併せて用いることができる。成形は押出成形や注型成形、抄造成形、プレス成形等の方法により行うことができ、成形の後、必要に応じてオートクレーブ養生、蒸気養生、常温養生を行って、外装材として使用される窯業系基材を作製することができる。その他、基材1としては、例えば、フレキシブルボード、珪酸カルシウム板、石膏スラグパーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボード等の無機質板を用いることができる。
【0013】
そして化粧建築板を製造するにあたっては、上記のような基材1の表面にまず、下塗り層2を形成する。下塗り層2は、基材1の目止めやさび止め等のために形成されるものであり、シーラー、プライマー、エナメル塗料等の下塗り層形成用塗料を用いて形成することができる。ここで、シーラーとしては、低分子量の樹脂や小粒径のエマルションからなる浸透性タイプの下塗り材等を用いることができる。また、プライマーとしては、基材1に対する付着性が高く厚膜に塗布可能な樹脂と耐食性に寄与する顔料とからなる防食性の高い下塗り材等を用いることができる。また、エナメル塗料としては、下地の隠蔽力が高く耐久性に優れ種類豊富な色揃えを有し外観意匠性向上に寄与可能な着色塗料等を用いることができる。このように、上塗りとしても使用可能なエナメル塗料を下塗りとして使用する理由は、印刷の下地色を形成することと、その上に形成するインク受理層3の隠蔽や防水、耐久性を助けることにある。また、上記のような各種の下塗り層形成用塗料で下塗り層2を形成するにあたっては、基材1の表面に塗布量1〜300g/m・dryで塗布するのが好ましい。そして、焼付け乾燥は、例えば、ジェット乾燥機を用いて、60〜250℃、0.1〜20分の条件で行うのが好ましい。なお、シーラー、プライマー、エナメル塗料等の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0014】
次に、下塗り層2の表面にインク受理層3を形成する。インク受理層3は、この上に形成されるインクジェット層4のインクを定着させるために必要な層であり、有機溶剤で希釈した塗料で形成することもできるが、水性塗料で形成するのが好ましい。このように、水性塗料でインク受理層3を形成することによって、環境負荷を低減することができるものである。
【0015】
上記水性塗料としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いることができる。水性塗料には、体質顔料と吸湿性樹脂のうちの少なくとも一方を配合しておくのが好ましい。これにより、インクの定着性を向上させることができる上に、後で水性塗料でクリアー層5を形成する際に滲みを防止することができると共に、発色性も向上させることができるものである。ここで、体質顔料としては、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、多孔質シリカ、珪藻土等を用いることができ、吸湿性樹脂としては、酢酸ビニル、ウレタン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール等のインキ吸収性ポリマー等を用いることができる。また、水性塗料には、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の顔料を着色剤として配合することもできる。また、インク受理層3を水性塗料で形成するにあたっては、基材1の表面に水性塗料を塗布量30〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。なお、水性塗料の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0016】
次に、インク受理層3の表面に水性インクをインクジェット印刷することによってインクジェット層4を形成する。ここで、インクジェット層4を形成するためのインクとしては、有機顔料を含有しないインクを用いる。例えば、無機顔料の一種である弁柄やオーカー等は酸化鉄(Fe)等の金属酸化物を主成分とするものであるが、このような無機顔料は、光半導体としての性質も有している。そのため、無機顔料と有機顔料とが同じインクジェット層4に共存していると、無機顔料が光半導体として作用することによって有機顔料が劣化し、早期に色褪せが生じてしまう。そこで、本発明では、上記のようにインクジェット層4を形成するためのインクとして、有機顔料を含有しないインクを用いるようにしたものである。しかし、一般的に無機顔料は有機顔料に比べて色の鮮やかさに大きく欠けているので、使用する無機顔料の組み合わせが重要である。
【0017】
具体的には、本発明では、インクジェット層4を形成するインクとしては、次のようなものを用いる。すなわち、イエロー(Y)のインクとしては、黄色酸化鉄、Ti−Ni−Ba系イエロー、Ti−Sb−Ni系イエロー、Ti−Nb−Ni系イエロー、Ti−Sb−Cr系イエローから選ばれる顔料を含有するものを用いる。また、シアン(C)のインクとしては、Co−Al系ブルー、Co−Al−Cr系ブルーから選ばれる顔料を含有するものを用いる。また、マゼンタ(M)のインクとしては、赤色酸化鉄、Fe−Zn系ブラウン、Fe−Zn−Cr系ブラウン、Fe−Ni−Al系ブラウンから選ばれる顔料を含有するものを用いる。このように、所定のイエロー、シアン、マゼンタの3色のインクを組み合わせて用いることによって、有機顔料を用いる場合に比べて色の鮮やかさが低下するのを極力防止することができるものである。
【0018】
黒色は、上記イエロー、シアン、マゼンタの3色のインクで表現することができるが、次のようなブラック(K)のインクを加えて、4色のインクとすることが好ましい。すなわち、ブラックのインクとしては、黒色酸化鉄、Cu−Cr系ブラック、Cu−Cr−Mn系ブラック、Cu−Fe−Mn系ブラック、Co−Fe−Cr系ブラック、カーボンブラックから選ばれる顔料を含有するものを用いるのが好ましい。このように、所定のブラックのインクを加えることによって、イエロー、シアン、マゼンタの3色で表現される黒色よりも、鮮明な黒色を表現することができるものである。さらに、黒色をブラックの1色で表現することによって、イエロー、シアン、マゼンタの3色で黒色を表現する必要がなくなり、材料費を節約することができるものである。
【0019】
そして、インクジェット印刷するためのインクジェット装置としては、例えば、図2に示すようなものを用いることができる。このインクジェット装置は、噴射ノズル8を設けた塗装ノズルヘッド9、塗装ノズルヘッド9の噴射ノズル8に水性インクを供給する塗料供給タンク10、塗装ノズルヘッド9の噴射ノズル8からの水性インクの噴射を制御する塗装制御システム11などを設けたインクジェット式塗装機12と、基材1を搬送する搬送コンベア13とを備えて形成されるものである。
【0020】
塗装ノズルヘッド9は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の水性インクを噴出する4種類の塗装ノズルヘッド9y、9c、9m、9kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行うことができるようにしてある。塗料供給タンク10も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの水性インクを供給する塗料供給タンク10yは塗装ノズルヘッド9yに、シアンの水性インクを供給する塗料供給タンク10cは塗装ノズルヘッド9cに、マゼンタの水性インクを供給する塗料供給タンク10mは塗装ノズルヘッド9mに、ブラックの水性インクを供給する塗料供給タンク10kは塗装ノズルヘッド9kに、それぞれ接続してある。また、各塗装ノズルヘッド9y、9c、9m、9kは基材1の搬送方向に沿って配列してある。
【0021】
塗装制御システム11は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行う基材1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄のパターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また、噴射ノズル制御部は、塗装ノズルヘッド9y、9c、9m、9kの各噴射ノズル8に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル8を制御するものである。各噴射ノズル8は例えばピエゾ制御方式により噴射を行ったり噴射を停止したりするようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル8を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各水性インクの噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行うことができるものである。
【0022】
搬送コンベア13は、インクジェット式塗装機12の下側に配置されるものであり、ベルトコンベアで形成することができる。
【0023】
そして、上記のように形成されるインクジェット装置でインクジェット印刷するにあたっては、まず、インク受理層3を形成した基材1を搬送コンベア13上に導入する。導入された基材1はそのまま送られてインクジェット式塗装機12の塗装ノズルヘッド9y、9c、9m、9kの下を順に通過する。このように、基材1を搬送コンベア13で送りながら、塗装ノズルヘッド9y、9c、9m、9kから水性インクを噴射させて塗着させることによって、インク受理層3の表面にインクジェット層4を形成することができるものである。このように塗装された基材1はさらに送られ、次工程に搬出されるものである。
【0024】
その後、インクジェット層4の表面にクリアー層5を形成する。クリアー層5は、この下に形成されたインクジェット層4を保護するために必要な層であり、水性塗料で形成することができる。このように、水性塗料でクリアー層5を形成することによって、環境負荷を低減することができるものである。
【0025】
上記水性塗料としては、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料や、アクリルシリコン系エマルションをベースにしたアクリルシリコン樹脂塗料を用いるのが好ましい。これにより、後で形成される無機質塗料層6をクリアー層5に強く付着させることができるものである。水性塗料には、アクリルビーズ、マイカ等の骨材を配合しておくのが好ましい。これにより、意匠性を向上させることができる。また、クリアー層5を水性塗料で形成するにあたっては、インクジェット層4の表面に水性塗料を塗布量20〜200g/m・wetで塗布するのが好ましい。そして、焼付け乾燥は、例えば、ジェット乾燥機を用いて、100〜200℃、30秒以上の条件で行うのが好ましい。十分に焼付け乾燥を行わないと、温度湿度等環境条件によって、化粧建築板の耐久性が低下しやすくなる場合がある。なお、水性塗料の塗布は、スプレーガン、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等を用いて行うことができる。
【0026】
また、クリアー層5を形成する水性塗料の固形成分濃度は40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上(実質上の上限は60重量%)であることがより好ましい。これにより、速く乾燥させることができ、インクの滲みを防止することができるものである。しかし、クリアー層5を形成する水性塗料の固形成分濃度が40重量%未満であると、乾燥に時間がかかり、インクが滲んでしまうおそれがある。
【0027】
また、クリアー層5の厚みは3〜30μmであることが好ましい。これにより、耐候性等の耐久性をさらに高く得ることができると共に、クラックの発生及び水性インクの滲みを防止することができるものである。しかし、クリアー層5の厚みが3μmより薄いと、耐候性等の耐久性を高く得ることができないおそれがあり、逆に、クリアー層5の厚みが30μmより厚いと、クラックが発生したり、水性インクが滲んだりするおそれがある。
【0028】
その後、本発明においては、図3に示す従来のものとは異なり、図1に示すようにクリアー層5の表面に無機質塗料層6を形成する。無機質塗料層6は、化粧建築板の耐候性等の耐久性を向上させるために必要な層であり、SiO骨格で構成された塗膜で、紫外線吸収剤、場合によっては、艶消し剤が配合された塗膜からなるものである。例えば、特許第3242442号公報や特許第3193832号公報に記載されたコーティング用組成物や、特開平9−249822号公報に記載された無機コーティング剤で形成することができる。
【0029】
無機質塗料の具体例として、特許第3242442号公報に記載されたコーティング用組成物を以下に挙げる。すなわち、
(A)一般式(I)
SiX4−n…(I)
(式中、Rは同一または異種の、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換炭化水素基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基およびγ−メルカプトプロピル基からなる群より選ばれる、炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、nは0〜3の整数、Xはアルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基、アミノ基、アミノキシ基およびアミド基からなる群より選ばれる加水分解性基を示す。)で表わされる加水分解性オルガノシランを有機溶媒または水に分散されたコロイダルシリカ中で、X1モルに対し水0.001〜0.5モルを使用する条件下で部分加水分解してなる、オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液、
(B)平均組成式(II)
Si(OH)(4−a−b)/2…(II)
(式中、Rは同一または異種の、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換炭化水素基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基およびγ−メルカプトプロピル基からなる群より選ばれる、炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aおよびbはそれぞれ0.2≦a≦2、0.0001≦b≦3、a+b<4の関係を満たす数である。)で表わされ、成分中のRにフェニル基を全R基に対して1〜30モル%含有するポリオルガノシロキサン、および、
(C)(A)成分と(B)成分との縮合反応を促進する触媒を必須成分とし、(A)成分においてシリカを固形分として5〜95重量%含有し、加水分解性オルガノシランの少なくとも50モル%がn=1のオルガノシランで、(A)成分1〜99重量部に対して(B)成分99〜1重量部が配合されているコーティング用組成物である。
【0030】
そして、無機質塗料層6を形成するにあたっては、クリアー層5を形成した基材1をあらかじめ40℃以上に加温しておき、この状態でスプレーガンを用いて無機質塗料を塗布することによって行うことができる。このとき、乾燥条件は、100〜200℃、1〜5分間であることが好ましい。十分に焼付け乾燥を行わないと、温度湿度条件によっては、無機質塗料層6の耐久性能が発揮されないおそれがあると共に、後述する光触媒塗料層7の性能を十分に引き出すことができないおそれがある。また、無機質塗料層6を形成するにあたっては、クリアー層5の表面に無機質塗料を塗布量4〜40g/m・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が4g/m・dryより少ないと、耐候性等の耐久性を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、塗布量が40g/m・dryより多いと、硬化収縮が大きくなり、クラック等が発生するおそれがある。
【0031】
さらに、本発明においては、図1に示すように無機質塗料層6の表面に光触媒塗料層7を形成する。光触媒塗料層7は、超親水性を有しており、化粧建築板の防汚性を向上させるために必要な層であり、SiO骨格で構成された塗膜で、光触媒、場合によっては、艶消し剤が配合された塗膜からなるものである。例えば、特許第2776259号公報に記載された抗菌性無機塗料や、松下電工(株)製「フレッセラPS1000」で形成することができる。
【0032】
光触媒塗料層7を形成するにあたっては、無機質塗料層6を形成した基材1をあらかじめ40℃以上に加温しておき、この状態でスプレーガンを用いて光触媒塗料層形成用塗料を塗布することによって行うことができる。このように、基材1をあらかじめ加温しておくことで、光触媒塗料層7を形成した後の乾燥工程でのエネルギーを小さく抑えることができるものである。また、光触媒塗料層7を形成するにあたっては、無機質塗料層6の表面に光触媒塗料層形成用塗料を塗布量0.5〜5g/m・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が0.5g/m・dryより少ないと、防汚性を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、塗布量が5g/m・dryより多いと、化粧建築板が乳白色となり、意匠性が低下するおそれがある。
【0033】
そして、上記のようにして形成される化粧建築板にあっては、インクジェット層4が有機顔料を含有しないインクで形成されている。このように、有機顔料が含有されていない3色又は4色のインクを用いてインクジェット層4を形成することによって、インクジェット層4の劣化が防止され、耐褪色性を高く得ることができるものである。
【0034】
また、上記のようにして形成される化粧建築板にあっては、クリアー層5の表面に無機質塗料層6が形成されているので、図3に示す従来のものに比べて、耐候性等の耐久性を高く得ることができるものである。すなわち、クリアー層5は緩衝層として作用するため、脆いインク受理層3の上に、インクジェット層4を介して、硬い無機質塗料層6を形成することができ、この無機質塗料層6で化粧建築板の耐候性等の耐久性を高く得ることができるものである。さらに、図1に示す化粧建築板にあっては、化粧建築板の表面に付着した有機物などの汚れは、光触媒塗料層7の光触媒作用によって分解されると共に、光触媒塗料層7が超親水性を発現することにより、分解した汚れを雨水等によって容易に除去することができるので、化粧建築板の防汚性を高く得ることができるものである。もちろん、従来の化粧建築板と同様に、インク受理層3によって、インクジェット層4のインクを定着させて鮮明な模様を得ることができるので、本発明においては、このようなフルカラー印刷による鮮明な模様を長期間維持することができるものである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0036】
実施例1〜5及び比較例1、2の化粧建築板は、図1に示すように、基材1の表面に、下塗り層2、インク受理層3、インクジェット層4、クリアー層5、無機質塗料層6、光触媒塗料層7をこの順に積層することによって製造した。
【0037】
ここで、実施例1〜3、5、比較例1、2の基材1としては、窯業系セメント基板を用いた。また、実施例4の基材1としては、化成処理したアルミ板(厚み0.35mm)を用いた。
【0038】
また、下記[表1][表2]に示すように、下塗り層2は、実施例1〜3及び比較例1、2については、仕様1のシーラーを用いて形成し、また、実施例4については、仕様9のプライマーを用いて形成し、また、実施例5については、仕様10のエナメル塗料を用いて形成した。
【0039】
ここで、仕様1のシーラーとしては、BASFジャパン(株)製「アクロナールYJ1110D」(アクリルスチレン樹脂水性エマルション)を固形分量で70重量部、BASFジャパン(株)製「アクロナールYJ1120D」(アクリルスチレン樹脂水性エマルション)を固形分量で30重量部混合し、樹脂固形分の含有量が25重量部、水の含有量が45重量部となるように調製したものを用いた。また、仕様9のプライマーとしては、日本ペイント(株)製「オルガセレクト30NCプライマーP−2」(ウレタン変性エポキシ樹脂系:アルミ用防食プライマー)を用いた。また、仕様10のエナメル塗料としては、関西ペイント(株)製「IMコート4100」(アクリルエマルション塗料)を用いた。
【0040】
また、インク受理層3は、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料を用いて形成した。なお、この塗料の樹脂成分は、主成分樹脂であるアクリルエマルション樹脂70重量部と、吸湿性樹脂である吸湿性アクリル樹脂30重量部とで構成されている。
【0041】
また、インクジェット層4は、図2に示すようなインクジェット装置を用い、インク受理層3の表面に水性インクをインクジェット印刷することによって形成した。
【0042】
ここで、水性インクとしては、分散体を50重量%、ジエチレングリコールを10重量%、グリセリンを20重量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを10重量%、水を10重量%含有するものを用いた。上記分散体としては、顔料と水溶性樹脂(アクリル酸共重合体)と水とを、顔料/水溶性樹脂/水=10/4/86となるように混合したものを用いた。なお、上記顔料としては、下記[表1]の仕様3、7、8、11、12に示すものを用い、各色の顔料ごとに水性インクを調製した。
【0043】
また、クリアー層5は、アクリル系エマルションをベースにしたアクリル樹脂塗料を用いて形成した。
【0044】
また、無機質塗料層6は、(A)オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液を70重量部、(B)ポリオルガノシロキサンを30重量部、(C)N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランを1重量部混合して得られたコーティング用組成物を用いて形成した。
【0045】
ここで、上記(A)成分は、次のようにして調製した。すなわち、攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー及び温度計を取付けたフラスコ中にメタノール分散コロイダルシリカゾルMA−ST(粒子径10〜20mμ、固形分30重量%、日産化学工業社製)100重量部、メチルトリメトキシシラン68重量部、水10.8重量部を投入して攪拌しながら65℃の温度で約5時間かけて部分加水分解反応を行い冷却して(A)成分を得た。
【0046】
また、上記(B)成分は、次のようにして調製した。すなわち、攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロート及び温度計を取付けたフラスコにメチルトリイソプロポキシシラン(0.95モル)とフェニルトリクロロシラン(0.05モル)とトルエン150重量部との混合液を計り取り、水150重量部を上記混合液に20分で滴下してメチルトリイソプロポキシシランを加水分解した。滴下40分後に攪拌を止め、二層に分離した少量の塩酸を含んだ下層の水・イソプロピルアルコールの混合液を分液し、次に残ったトルエンの樹脂溶液の塩酸を水洗で除去し、さらにトルエンを減圧除去した後、イソプロピルアルコールで希釈し平均分子量約2000のシラノール基含有オルガノポリシロキサンのイソプロピルアルコール40%溶液を得た。
【0047】
また、光触媒塗料層7は、松下電工(株)製「フレッセラPS1000」を用いて形成した。
【0048】
そして、実施例1〜5及び比較例1、2について、耐褪色性を評価する試験を行った。
【0049】
<耐褪色性>
耐褪色性の試験は、次のようにして行った。すなわち、各化粧建築板を1週間養生し、次に各化粧建築板の表面にサンシャインウェザオメーター(SWOM)により紫外線を1000時間照射した後、各化粧建築板の表面を目視により観察して耐褪色性を評価した。各化粧建築板の耐褪色性は、以下の基準に基づいて判定した。その結果を下記[表2]に示す。
【0050】
「◎」:色褪せが全く生じなかったもの。
【0051】
「○」:気にならない程度であるが、色褪せがわずかに生じたもの。
【0052】
「×」:色褪せが生じたもの。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
上記[表2]にみられるように、実施例1〜5はいずれも、比較例1、2に比べて、耐褪色性に優れていることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】インクジェット装置の一例を示す概略正面図である。
【図3】従来技術の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 基材
2 下塗り層
3 インク受理層
4 インクジェット層
5 クリアー層
6 無機質塗料層
7 光触媒塗料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、下塗り層、インク受理層、インクジェット層、クリアー層、無機質塗料層、光触媒塗料層をこの順に積層して形成されると共に、黄色酸化鉄、Ti−Ni−Ba系イエロー、Ti−Sb−Ni系イエロー、Ti−Nb−Ni系イエロー、Ti−Sb−Cr系イエローから選ばれる顔料を含有するイエローのインクと、Co−Al系ブルー、Co−Al−Cr系ブルーから選ばれる顔料を含有するシアンのインクと、赤色酸化鉄、Fe−Zn系ブラウン、Fe−Zn−Cr系ブラウン、Fe−Ni−Al系ブラウンから選ばれる顔料を含有するマゼンタのインクとからなる、有機顔料を含有しない3色のインクでインクジェット層が形成されていることを特徴とする化粧建築板。
【請求項2】
黒色酸化鉄、Cu−Cr系ブラック、Cu−Cr−Mn系ブラック、Cu−Fe−Mn系ブラック、Co−Fe−Cr系ブラック、カーボンブラックから選ばれる顔料を含有するブラックのインクを加えて、有機顔料を含有しない4色のインクでインクジェット層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧建築板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63831(P2008−63831A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243066(P2006−243066)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】