説明

化粧料

【課題】本発明は、皮膚細胞の死滅を防ぐべく細胞内外のイオン濃度を調整して細胞容積を調整せしめることにより優れた肌への改善効果や使用感を有する化粧料を提供するものである。
【解決手段】細胞表層上のCa2+イオン濃度を減少せしめるべくCa2+イオン用キレ−ト剤を配合せしめ、細胞表層上のCa2+イオン濃度を特異的に減少せしめて細胞容積を調整せしめる。また、上記化粧料には、細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇せしめるべくK+及びCl-イオンを内包せしめた脂質二分子膜小包を配合せしめ、細胞表層上のCa2+イオン濃度の減少とも相まって細胞容積を調整せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料に関し、さらに詳細には、細胞容積を調整せしめることにより優れた肌への改善効果や使用感を有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
人の皮膚は加齡に伴って徐々に老化するが、加齡以外にも様々な外的刺激が皮膚の老化の原因となることが知られている。そして、特に日中の紫外線は細胞外マトリックスの構成成分であるコラ−ゲン、エラスチンなどの架橋や切断を生じさせ、それにより肌の弾力性や保湿性を低下せしめるため、しわ、くすみ、乾燥肌、荒れ性などの原因となるものである。このような変化を受けた肌はさらに外的刺激を受けやすくなり、細胞の活動が低下し、細胞外マトリックスの再生力が減退するという悪循環に陥って老化が急激に進行する
。短時間に進行する肌の艶の消失、しみ、くすみなどの増加は、上述のような強い外的敵刺激に起因することが多いものである。かかる外的刺激による皮膚の老化を防止せしめるため、従来より皮膚の表皮を構成する角質細胞間物質、真皮における細胞マトリックス成分、又はその他皮膚構成要素に着目し、その成分を補強したり、あるいは活性化せしめる化粧料が提案されている。
【0003】
上記の外的刺激による皮膚の老化を防止せしめる一例として、例えば、紫外線吸収剤や保湿剤を化粧料に配合することが行われている。また、コラゲナ−ゼやエラスタ−ゼ阻害剤を配合して細胞外マトリックスを正常状態に維持せしめたもの(特開2003−95857号公報、特開2004−175856号公報等参照)、あるいは、皮膚の細胞を増殖せしめるべく細胞増殖促進剤を配合せしめたもの(特開平5−17335号公報、特開平9−59166号公報等参照)などが提案されている。
【特許文献1】特開2003−95857号公報
【特許文献2】特開2004−175856号公報
【特許文献3】特開平5−17335号公報
【特許文献4】特開平9−59166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常配合し得る程度の紫外線吸収剤のみでは有害紫外線を完全に遮断することが難しく、あえて多量に配合せしめた場合には皮膚に対する刺激性が問題となるものである。また、コラゲナ−ゼやエラスタ−ゼ阻害剤、細胞増殖促進剤の皮膚改善効果は必ずしも満足し得ないものであり、しかも、生理活性を有するため人体への影響等を配慮する必要があるものである。
【0005】
本発明者は従来の問題点を解決しようとするもので、皮膚細胞の死滅を防ぐべく細胞内外のイオン濃度に着目して鋭意研究を行った結果、細胞容積の調整機能を持たせることにより優れた肌への改善効果を示すと共に、良好な使用感を有することを知見し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本願請求項1記載の発明は、細胞表層上のCa2+イオン濃度を減少せしめるべくCa2+イオン用キレ−ト剤を配合せしめたことを特徴とする、化粧料を要旨とするものである。また、上記請求項1記載の化粧料において、細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇せしめるべくK+及びCl-イオンを内包せしめた脂質二分子膜小包が配合せしめられている。
【0007】
そして、本願発明に係る化粧料の皮膚改善メカニズムについては明らかではないが、以下の通りであると思われる。
即ち、すべての動物細胞は固有の容積に調節されており、例え外的要因により収縮・膨張が強いられた場合においても、その後速やかに正常容積へと復帰する能力をもっている
。かかる浸透圧性膨張後の容積調節はRVD(Regulatory Volume Decrease)、浸透圧性収縮後の容積調節はRVI(Regulatory Volume Increase)と呼ばれ、このような容積調節機構は、細胞機能・細胞増殖・細胞生存に不可欠である。
【0008】
そして、上記RVDのアポト−シス性細胞死における容積調節破綻による知見から、皮膚細胞の死滅・縮小を阻害せしめることが必要である。アポト−シス過程のアポト−シス小体形成以前に発生する細胞縮小化AVD(Apoptotic Volume Decrease)の進行時には、RVDの異常亢進が伴われる。すなわち、容積調節に関与するK+イオンチャネル及びCl-イオンチャネルが細胞膨張なしに異常に活性化している。このAVDを阻止すればアポト−シス死が救済され、細胞の死滅を防ぐことが出来ると考えられる。RVDは細胞からのK+及びCl-イオン流出と、それに伴う水の流出に起因することが解明されている。K+とCl-イオンの流出は電気的中性下で移動するものであるから、少なくとも両方のコンダクタンス(透過性)は同時に上昇しなければならない。Cl-イオンのコンダクタンス上昇については必ずしもCa2+イオンの上昇を必要としないが、K+イオンのコンダクタンス上昇には細胞内Ca2+の上昇が必要であることが解明されている。つまり、RVDの異常亢進を阻止するためには、少くともCa2+イオンの細胞内におけるイオン濃度の上昇を防ぎ、さらに、細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇させればよいものと考えられる。
【0009】
そして、前者を実現せしめる方法としては、細胞表層上におけるCa2+イオン濃度をCa2+イオン用キレ−ト剤により特異的に減少せしめることを知見した。また、後者を実現せしめる方法としては、イオンチャネルを介することなく、細胞膜から脂質二分子膜カプセルを用い、直接K+及びCl-イオンを導入せしめ、効率よく、かつ、多量にこれらのイオン濃度を上昇せしめることを知見した。以上の知見により、上述のRVDの異常亢進を阻害し、ダメ−ジを防ぐと共に皮膚細胞の死滅を防ぎ、細胞容積を調整せしめることにより皮膚に対する改善効果が強化されるものと思われる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は上述のように構成されているから、細胞表層上のCa2+イオン濃度をCa2+イオン用キレ−ト剤でもって特異的に減少せしめ、細胞容積を適正に調整せしめることが出来るものであって、ひいては、肌表面のpH値、キメ、表面温度を向上せしめるのみならず、くすみ等を防いで皮膚を改善せしめることが出来るものである。
【0011】
また、請求項2記載の発明は上述のように構成されているから、細胞膜から直接K+及びCl-イオンを効率よく多量に導入せしめて、細胞内イオン温度を上昇せしめ、細胞表層上のCa2+イオン濃度の減少とも相まって細胞容積をより適正に調整せしめて皮膚を改善せしめることが出来るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の構成について詳述する。
本発明は、細胞表層上のCa2+イオン濃度を特異的に減少せしめるため、Ca2+イオン用キレ−ト剤を配合する。かかるCa2+イオン用キレ−ト剤の好適な一例としてエデト酸
、エデト酸塩類等を挙げることが出来る。上記Ca2+イオン用キレ−ト剤の配合量は、化粧料組成物全量に対して0.0001〜1重量%、好ましくは0.01〜0.1重量%である。そして、Ca2+イオン用キレ−ト剤の配合量が0.0001重量%に満たないと充分なCa2+イオンのキレ−ト作用が発現せず、また、1重量%を越える場合には他の組成物に対して好ましくない影響をあたえる。
【0013】
また、細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇せしめるため、K+及びCl-イオンを内包せしめた脂質二分子膜小包を配合し、細胞膜より直接K+及びCl-イオンを導入し、効率よく、かつ、多量にこれらのイオン濃度を上昇せしめる。かかるK+及びCl-イオンを内包せしめる脂質二分子膜小包の配合量は、化粧料組成物全量に対して0.0001〜3重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。そして、K+及びCl-イオン内包の脂質二分子膜小包の配合量が0.0001重量%に満たない場合には充分に細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇せしめることが出来ず、また、3重量%を超える場合には他の組成物に対して好ましくない影響を与える。上記脂質二分子膜小包の好適な一例としてホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロ−ル、大豆リン脂質、卵胞リン脂質などを挙げることが出来る。かかる脂質二分子膜小包としては、10nm〜300nmが好適である。
【0014】
本発明の化粧料はCa2+イオン用キレ−ト剤、K+及びCl-イオンを内包せしめた脂質二分子膜小包の他、精製水、グリセリン、1,3ブチレングリコ−ル、1,2ペンタンジオ−ル等の多価アルコ−ル類、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、植物性スクワラン等の炭化水素類、ミツロウ、オリ−ブ油、マカデミアナッツ油、モルティエレラ油等の油脂類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、コレステロ−ルエステル等のエステル類、セタノ−ル等の高級アルコ−ル類、シリコ−ン類
、カルボキシビニルポリマ−、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロ−ス等の増粘剤
、界面活性剤、エタノ−ル、無機粉体、ハマメリスエキス等の植物抽出物、アラントイン等の消炎剤、ビタミンC等のビタミン類、シクロデキストリン、塩化ナトリウム等の安定化剤、紫外線吸収剤、腐敗剤、L−アルギニン、水酸化カリウム等のpH調整剤、色素、香料等の化粧料に公知の成分を発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて適宜配合出来る。
【0015】
本発明における化粧料は、常法により製造することができ、化粧水、エッセンス、クリ−ム、乳液、ファンデ−ション、洗顔料、クレンジング料、パック、ヘアトニック、ヘアシャンプ−、ヘアコンディショナ−等として利用出来る。
【実施例】
【0016】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例に限られるものではない。
実施例1〜3、比較例1〜3
表1に示す配合割合(重量%)に基づいて、化粧水を常法によって調製した。ついで、実施例1〜3のそれぞれに、Ca2+イオン用キレ−ト剤とK+及びCl-イオン内包脂質二分子膜小包とを配合した。それぞれの試料を2週間使用し、3名のモニタ−を任意に抽出し、くすみ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、キメ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、ハリ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、肌表面温度及び肌表面pH値を測定し、その結果を表1に併せて示す。なお、上記くすみ評価は
○:くすみ改善あり
×:くすみ改善なし
を基準とし、キメ評価は
○:キメ改善あり
×:キメ改善なし
を基準とし、またハリ評価は
○:ハリ改善あり
×:ハリ改善なし
を基準とした。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から明らかな通り、実施例1〜3は比較例1〜3に比してくすみ評価、キメ評価、及びハリ評価の点において優れた評価が得られると共に、好適な肌表面温度、肌表面pHを保持せしめ、肌への改善効果を有効に発揮せしめていることが理解出来る。
【0019】
実施例4〜6、比較例4〜6
表2に示す配合割合(重量%)に基づいて、クリ−ムを常法によって調製した。ついで
、実施例4〜6のそれぞれに、Ca2+イオン用キレ−ト剤と、K+及びCl-イオン内包脂質二分子膜小包とを配合した。それぞれの試料を2週間使用し、3名のモニタ−を任意に抽出し、くすみ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、キメ評価(額、口下顎、右頬、左頬)
、ハリ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、肌表面温度及び肌表面pH値を測定し、その結果を併せて表2に示す。なお、上記くすみ評価は
○:くすみ改善あり
×:くすみ改善なし
を基準とし、キメ評価は
○:キメ改善あり
×:キメ改善なし
を基準とし、またハリ評価は
○:ハリ改善あり
×:ハリ改善なし
を基準とした。
【0020】
【表2】

【0021】
表2から明らかな通り、実施例4〜6は比較例4〜6に比してくすみ評価、キメ評価、及びハリ評価の点において優れた評価が得られると共に、好適な肌表面温度、肌表面pHを保持せしめ、肌への改善効を有効に発揮せしめていることが理解出来る。
【0022】
実施例7〜9、比較例7〜9
表3に示す配合割合(重量%)に基づいて、美容液を常法によって調製した。ついで、実施例7〜9のそれぞれに、Ca2+イオン用キレ−ト剤とK+及びCl-イオン内包脂質二分子膜小包とを配合した。それぞれの試料を2週間使用し、3名のモニタ−を任意に抽出し、くすみ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、キメ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、ハリ評価(額、口下顎、右頬、左頬)、肌表面温度及び肌表面pH値を測定し、その結果を併せて表3に示す。なお、上記くすみ評価は
○:くすみ改善あり
×:くすみ改善なし
を基準とし、キメ評価は
○:キメ改善あり
×:キメ改善なし
を基準とし、またハリ評価は
○:ハリ改善あり
×:ハリ改善なし
を基準とした。
【0023】
【表3】

【0024】
表3から明らかな通り、実施例7〜9は比較例7〜9に比してくすみ評価、キメ評価及びハリ評価の点において優れた評価が得られると共に、好適な肌表面温度、肌表面pHを保持せしめ、肌への改善効を有効に発揮せしめていることが理解出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞表層上のCa2+オン濃度を減少せしめるべくCa2+イオン用キレ−ト剤を配合せしめたことを特徴とする、化粧料。
【請求項2】
細胞内のK+及びCl-イオン濃度を上昇せしめるべくK+及びCl-イオンを内包せしめた脂質二分子膜小包を配合せしめたことを特徴とする、請求項1記載の化粧料。

【公開番号】特開2007−126387(P2007−126387A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319463(P2005−319463)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(399091120)株式会社ピカソ美化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】