説明

医用材料の処理液および医用材料

【課題】従来の医療用材料に比べて、抗血栓性、ひいては生体適合性に優れ、かつ、親水性を高くする処理液の提供。特に、水可溶性有機溶媒と水とを混合することにより、医療用具の基材に用いられている高分子への影響を抑制し、膨潤や溶解による基材の劣化を最大限に防止する、水性の処理液の提供。
【解決手段】アルキル(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを共重合したものである、(メタ)アクリレート共重合体を有機溶媒および水からなる混合液に分散させてなる医用材料の処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリレート共重合体のコーティング液に関する。特に、(メタ)アクリレート共重合体を均一に分散させる水可溶性有機溶媒と水とを混合した医用材料の処理液および医用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の高分子材料を利用した医用材料の検討が進められており、血液フィルター、人工腎臓用膜、血漿分離用膜、カテーテル、人工肺用膜、人工血管、癒着防止膜、人工皮膚等への利用が期待されている。この場合、生体にとって異物である合成材料を生体内組織や血液と接触させて使用することとなるため、医用材料が生体適合性を有していることが要求される。
【0003】
医用材料を血液と接する材料として使用する際には、(a)血液凝固系の抑制、(b)血小板の粘着・活性化の抑制、および(c)補体系の活性化の抑制の3要素が、生体適合性として重要な項目となる。中でも、体外循環用医用材料(例えば、人工腎臓、血漿分離膜)のように、血液と接する時間が比較的短い材料として使用する場合においては、一般に、ヘパリン、クエン酸ナトリウム等の抗凝固剤を同時に使用するため、特に、前記(b)および(c)の血小板や補体系の活性化の抑制が重要な課題となる。
【0004】
(b)血小板の粘着・活性化の抑制については、ミクロ相分離した表面や、親水性表面、特に、水溶性高分子を表面に結合させたゲル化表面が優れており、ポリプロピレン等の疎水性表面は劣っているといわれている。(非特許文献1、2参照)。しかし、ミクロ相分離構造を有する表面は、適度な相分離状態にコントロールすることにより良好な血液適合性を発現することが可能となるが、そのような相分離を作製できる条件は限られており、用途に制限があった。また、水溶性高分子を表面に結合させたゲル化表面では、血小板の粘着は抑制されるが、材料表面で活性化された血小板や微小血栓が体内に返還され、しばしば異常な血球成分(血小板)の変動が観察され、問題となることがあった。
【非特許文献1】トランスアクションズ オブ アメリカンソサエティ オブ アーティフィカル インターナショナル オルガンズ(Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organs)、vol. XXXIII、p.75〜84(1987)
【非特許文献2】高分子と医療、三田出版会、p.73(1989)
【0005】
一方、(c)補体系の活性化については、セルロース、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のヒドロキシ基を有する表面が高い活性を示し、ポリプロピレン等の疎水性表面では活性が軽微であることが知られている。(非特許文献3参照)。したがって、セルロース系やビニルアルコール系の材料を、例えば、人工臓器用膜に使用すると補体系の活性化の問題が生じるが、逆に、ポリエチレン等の疎水性の表面を使用すると血小板の粘着・活性化の問題が生じてしまう。
【非特許文献3】人工臓器16(2)、p.1045〜1050(1987)
【0006】
また、例えば、人工血管のように、血液と接する時間が比較的長い材料として使用する場合には、上記3項目のほかに、新生内膜形式や生体内組織の新生と再生が良好に行われるために、生体内組織(細胞)と親和性を有する材料である必要がある。この人工血管の材料としては、例えば、超極細ポリエステル繊維よりなる人工血管が知られている。(非特許文献4参照)。この超極細ポリエステル繊維は、生体の異物認識、生体防御による創傷治癒、自己組織再生を利用した医用材料の1つであり、今日、人工血管として主に使用されている。しかし、この人工血管を微小血管に長期間適用すると、人工血管が閉塞してしまうという問題が生じる。
【非特許文献4】人工臓器19(3)、p.1287〜1291
【0007】
更に、血液以外にも生体内組織や体液と接する医用材料、例えば、生体内に長期間埋入して使用される癒着防止膜、インプラント材、または創傷部(皮膚が剥がれて損傷し、生体内組織が露出した部位)に接して使用される創傷被覆材では、生体からの異物認識が少なく、生体からはく離しやすい表面(非癒着性表面)が必要とされる。しかしながら、従来上記材料として使用されているシリコーン、ポリウレタンおよびポリテトラフルオロエチレンでは、材料表面に生体内組織が癒着するため、生体の異物認識が強すぎて、満足する性能が得られていなかった。
【0008】
その他の医療用材料としては、ポリエチレングリコール(PEG)がある。PEGは非常に優れた血液適合性を有しており、医療分野への応用研究も多くなされている。しかし、PEGは水溶性であるため、医療用材料として使用する場合は、他のポリマーとのブロック共重合体やグラフト共重合体にして材料表面に固定化する必要があった。
【0009】
さらに、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの水溶性共重合体が知られている。(特許文献1参照)。この技術は免疫測定の際に固相の表面の保護を実施することができる。しかし、この共重合体は水溶性のため長期間の生体適合性の持続は困難であった。
【特許文献1】特開平11−287802号公報
【0010】
上記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体を製造する方法としては再沈殿がもっとも簡便に用いられている。ここで、再沈殿とは繰り返し沈殿を生成させ純度を高める手法であり、高分子合成においては低分子量体(モノマーなど)を除去する目的で行われる。しかし、本発明においては、使用するモノマーが親水性および疎水性の二様であるため再沈殿の際に用いる貧溶媒の選択が重要となる。すなわち性質の異なる両モノマーを溶解し、得られた共重合体のみを沈殿させる能力が必要とされるからである。しかし、単一の溶媒ではこのような微妙な溶解性の篩を発現することは困難であった。
【0011】
さらに、上記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体を医療用具表面に塗布する方法としてはエタノール、テトラヒドロフラン、アセトンなどの有機溶媒に溶解させた後、該溶解液を医療用具表面に塗布し、乾燥させることにより容易に達成される。しかしながら、医療用チューブ等に用いられている軟質ポリ塩化ビニルにはフタル酸エステル類といった可塑剤が柔軟化のために大量に含有されているため、有機溶剤による可塑剤抽出を避けることはできない。該軟質ポリ塩化ビニルがコーティング液として用いる有機溶剤の影響をもっとも受けやすいものであるが、それ以外にも医療用具基材に主に用いられている、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーンといったプラスチックは、有機溶剤による硬化、変形、クラックなどを回避することは困難であった。
【0012】
水不溶性の血液適合性高分子として、アルコキシアルキルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの共重合体が知られているが、これは特殊な共重合体を使用するものである(特許文献2、3参照)。
【特許文献2】特開2004−161954号公報
【特許文献3】特開2003−111836号公報
【0013】
さらに、分子内にエチレングリコール鎖を有するビニルモノマーを含むコポリマーを懸濁重合用分散剤という特定の用途に使用することが知られており(特許文献4参照)、又アクリル系アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーを含む共重合体、およびその共重合体を用いたバイオチップ材料として使用すること、即ち生理活性物質を固定する高分子化合物として知られている(特許文献5参照)。
【特許文献4】特開2004−161954号公報
【特許文献5】特開2006−299045号公報 以上の各先行技術を考察しても、本発明の医用材料の処理液を明示する程度の技術事項を開示されている刊行物は発見できないということが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、従来の医療用材料に比べて、抗血栓性、ひいては生体適合性に優れ、かつ、親水性を高くする処理液を提供することを課題とする。特に、水可溶性有機溶媒と水とを混合することにより、医療用具の基材に用いられている高分子への影響を抑制し、膨潤や溶解による基材の劣化を最大限に防止する、水性の処理液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、血液適合性を維持しつつ水に不溶な(メタ)アクリレート共重合体を医療用具に担持させる方法として、該(メタ)アクリレート共重合体を水可溶性有機溶媒と水との混合溶媒に分散させることにより、医療用具基材の特性を損なうことなく均一に塗布できることを見出し本発明を完成した。すなわち、本発明の概要は以下のような構成を有する。
(1)(メタ)アクリレート共重合体を有機溶媒および水からなる混合液に分散させてなる医用材料の処理液。
(2)有機溶媒が、炭素数1〜5の水溶性有機溶媒であることを特徴とする医用材料の処理液。
(3)混合液中の(メタ)アクリレート共重合体濃度が0.001〜10重量%であることを特徴とする医用材料の処理液。
(4)混合液中の有機溶媒と水との重量比が3〜45/97〜55であることを特徴とする医用材料の処理液。
(5)(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを共重合したものである医用材料の処理液。
(6)アルキル(メタ)アクリレートが下記一般式1で示されるものであることを特徴とする医用材料の処理液。
【化3】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
(7)メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが下記一般式2で示されるものである医用材料の処理液。
【化4】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
(8)メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの一般式2において示される化合物において、n=2〜5であることを特徴とする医用材料の処理液。
(9)(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量が2,000〜200,000であることを特徴とする医用材料の処理液。
(10)(メタ)アクリレート共重合体が、混合溶媒による再沈殿方法により精製され、未反応(メタ)アクリレート系モノマーの含有量が5mol%以下であることを特徴とする医用材料の処理液。
(11)(メタ)アクリレート共重合体が、水とアルコールからなる混合溶媒を用いる再沈殿方法により精製されたことを特徴とする医用材料の処理液。
(12)処理液の形態が、エマルジョンまたは懸濁液または溶液であることを特徴とする医用材料の処理液。
(13)処理液が(メタ)アクリレート共重合体を予めアルコールに溶解をさせ、次いでそのアルコール溶液を水に分散させることにより調整された懸濁液であることを特徴とする医用材料の処理液。
(14)医用材料が、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする医用材料の処理液。
(15)医用材料の血液接触面に、(メタ)アクリレート共重合体からなる処理液による塗膜が均一にまたは不均一に形成されていることを特徴とする医用材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明の医用材料の処理液は、有機溶剤を用いる従来法と比較して医療用具の基材劣化、基材の損傷、および基材の変性を最大限に抑制することにより、基材を選ばない表面処理が可能であり、しかも、塗膜は血液と接触した際に親和性が高く抗血栓性を示すとともに、塗膜のポリマーが血液中に溶出することが少なく、それが一定時間安定に持続する。さらに、未反応モノマーなどの溶出物も少ないので、生体に安全で優しいという特徴を有する。ということは、血液に対する悪影響を抑制し、医用基材表面へのタンパクなどの吸着による血漿リークの問題を解決する性能を持っている。特に医用材料が、無数の多孔質の疎水性材料である場合には、多孔部(細孔)への血液の侵入を防止するという特性を維持しながら、塗膜は医療材料等の疎水性材料が血液と接触したときに親和性の高い抗血栓材料としても作用することができるという補足の役割を果たすことになり、医用材料と塗膜とが一体となった複合効果を奏する。このように、本発明の処理液は、如何なる医用材料の種類に対して基材の損傷が少なく、しかも適応性においても優れており、各種医用材料の機能、用途を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、アルキル(メタ)アクリレートおよびメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを含む(メタ)アクリレート共重合体は実質的に水不溶性であることが好ましい。ここで、実質的に水不溶性であるとは、(メタ)アクリレート共重合体を該共重合体1重量%に対して99重量%の37℃生理食塩水中に30日間静置した際、該共重合体の重量減少率が1重量%以下であることを指す。実質的に水不溶性であることにより、生体組織や血液等と接触した場合にも、該共重合体の血液などへの溶出を防ぐ点で好ましい。
【0018】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を構成する、一般式1のアルキル(メタ)アクリレートとしては、R1の炭素数が2〜30のものを使用するのが好ましく、より好ましくは4〜24であり、さらに好ましくは6〜18である。このようなアルキル(メタ)アクリレートの具体例として、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等があるが、コストや性能の観点から炭素数が8〜12のものがより好ましく、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどが特に好ましい。
【化5】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【0019】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を構成する、一般式2のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、エチレンオキサイド単位が1〜1,000であるものを使用するのが好ましい。より好ましくは1〜100、さらに好ましくは1〜50、よりさらに好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜5である。具体的には、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘプタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシオクタエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシノナエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシデカエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがある。繰り返し単位が大きくなり親水性が増大しすぎると共重体の血液への溶解性が高くなるため、医療材料から容易に溶出する可能性がある。したがって、繰り返しエチレンオキサイド単位が4のメトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、3のメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートがさらに好ましい。3のメトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【化6】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
【0020】
本発明の水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体に属する代表的なものを具体的に挙げると、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ノルマルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、シクロヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、フェニル(メタ)アクリレート−メトキシペンタエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−オクチル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−ノニル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、n−デシル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ステアリル(メタ)アクリレート−メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ラウリル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、ミリスチル(メタ)アクリレート−メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体のような、これに限定されるものではないが、一般式1のアルキル(メタ)アクリレートと、一般式2のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの単量体を30〜90/70〜10のモル比で任意に組み合わせて慣用の重合法に従って共重合させたものである。共重合体の重合条件および医用材料としての特性を考慮すれば、好ましくは50〜80/50〜20のモル比で、数平均分子量が2,000〜200,000になるように共重合させたものが最適である。
医用材料という用途を考慮すれば、未反応のモノマーを、再沈殿方法により、5モル%以下になるように精製したものが適している。
【0021】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は2,000以上であることが重合体の再沈殿による精製の容易さの点で好ましい。数平均分子量が小さすぎると、血液中に容易に溶出する恐れがあるばかりでなく、塗膜の強度、安定性などが失われる可能性がある。また、分子量が大きいほどコーティング溶液を調製した際に粘度が上昇するためコーティング基材との粘着性が向上するという副次効果もある。したがって、(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は5,000以上がより好ましく、8,000以上がさらに好ましい。また、該(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量は200,000以下とすることが(メタ)アクリレート共重合体を医用材料(医療用具)等にコーティングする際の作業性が向上するため好ましい。より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは50,000以下、さらにより好ましくは30,000以下、特に好ましくは18,000以下である。ここで、数平均分子量とは全分子の分子量の和を分子数で割ったものであり、高分子の特性の指標の一つである。
この(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量を、2,000〜200,000とすることは、該共重合体の精製、処理液の取り扱い、医用材料への適応性、塗膜の安定性などに関する特定の技術課題を達成する為には、非常に重要な技術要件でもある。
数平均分子量を測定する方法としては、末端基定量法、浸透圧法、蒸気圧オスモメトリー、蒸気圧降下法、氷点降下法、沸点上昇法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法などがあるが、本発明においては操作の容易さの点でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法という慣用の手法を採用する。
【0022】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を構成する、アルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとのモノマー比は、30〜90/70〜30のモル比で共重合されていることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートが少なすぎると共重合体が血液や水などに溶解しやすくなり、多すぎるとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの血液適合性が十分に発揮されない可能性がある。したがって、モル比は40〜90/60〜10であることがより好ましく、45〜85/55〜15がさらに好ましく、50〜80/50〜20がさらにより好ましい。
【0023】
この(メタ)アクリレート共重合体は、上記一般式[1]のモノマーと一般式[2]のモノマーが交互に配列した共重合体であることも有り得るが、トータル量から解析すれば、疎水性モノマーからなるセグメント又はブロックと、親水性モノマーからなるセグメント又はブロックからなる共重合体であることも有り得る。疎水性モノマーからなるセグメント又はブロックが、親水性モノマーからなるセグメント又ブロックを固定する機能を果たす、いわゆるミクロ相分離構造、モザイク模様のような構造というような複雑な構造を採ることも有り得ることが一応想定できる。いずれにせよ、共重合体の分子量の大小および親水性モノマーの種類、特性なども多少影響するだろうが、疎水性モノマーの量を若干多くすれば、該共重合体の親水性モノマーからなるセグメント又はブロックの溶出を抑えることができる。また、この疎水性セグメントをやや多くするということは、疎水性医用材料との親和性を上げる機能も果たすものと思われ、被膜として医用材料との固着に有利な役割を果たすことも想定できるが、セグメントの有無およびその親和性の状態に関する挙動に関して、現状では技術的根拠に基づいて正確に検証することができないが、該共重合体は生体にやさしい親和性をもった高分子材料である。
【0024】
「アクリル樹脂 合成・設計と新用途開発 中部経営開発センター 昭和60年発行」、「アクリル酸エステルとそのポリマー[II] 株式会社昭晃堂 昭和50年発行」によると、アルキル(メタ)アクリレートの炭素数が増大するにつれ、そのポリマーのガラス転移温度は低下し、ある極小値をむかえた後増大する傾向にある。その極小値はn−アルキルアクリレートでは炭素数が8、n−アルキルメタクリレートでは炭素数が12である。つまり、炭素数8のアルキルアクリレートを共重合成分として組み込むことで共重合体のガラス転移温度を低下させることができることを示している。
【0025】
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単独重合体は親水性が高いため血液適合性には優れているが、水溶性であるので血液等に長期間接触させた場合、徐々に溶出する問題があった。本発明者らは血液適合性に優れるだけでなく、長期使用に耐える材料について鋭意検討した結果、血液等への溶出を防止するための適度な疎水性と、コーティング被膜の物理的な剥がれを防止するための柔軟性とを付与することにより得られる共重合体が該課題を解決できることを見出した。
このように、処理液に含まれる該共重合体は、血液に対処する例えば抗血栓性、溶出防止のような機能を有する親水性モノマー、セグメント、又はブロックからなるものと、医用材料に対処する、例えば親和性、固着性のような機能を有する疎水性モノマー、セグメント又はブロックから構成されているという、いわゆる異なる二面の界面機能を果たす二種類のモノマー成分から実質的に構成されているが、一方で、該共重合体を構成する、モノマー、セグメント、又はブロック同志がお互いに分子構造内で補完しあって、溶出、分散などに対して安定な分子も結合又は構造を形成しているようにも見える。
【0026】
さらに、該(メタ)アクリレート共重合体は水可溶性および水不溶性モノマーを共重合させたものであるため、処理液を調製する際の有機溶媒の選択は困難を極め、該有機溶媒の炭素数が1異なるだけでも不溶となる現象が生じた。また、有機溶媒を用いると、医療用具を構成する高分子材料の膨潤および溶解あるいは可塑剤の溶出といった悪影響を及ぼすことがある。医療用具等への悪影響を抑制する方法としては、共重合体の溶媒として水を用いることで達成できるが、該(メタ)アクリレート共重合体は水不溶性であり、また水単体に均一に分散させることは困難を極める。さらに、水を用いる場合の問題として、有機溶媒と比較して表面張力が大きいために処理液の塗布が困難な上、排液の処置が容易でなくなるとか、沸点が高いことによる乾燥時間の延長という問題が生じる。そこで発明者らは、有機溶媒と水との混合液に該共重合体を分散させた処理液を用いることにより、医療用具等の材料への含浸性や塗布性がよく、表面張力が低いために処理液の廃棄が容易であり、医療用具に高い抗血栓性と血液適合性を付与することができることを見出して本発明を完成した。
【0027】
即ち、該(メタ)アクリレート共重合体は水可溶性モノマーおよび水不溶性モノマーを共重合させたものであるため、疎水性と親水性を兼ね合わせて有することになる。この場合には、疎水性の有機溶媒を処理液の溶剤として使用しても、水可溶性の親水性モノマーに対する影響を無視することができない。一方で、水を溶剤とすることは、該共重合体が本質的に水不溶性であるから、溶剤としての機能を果たすことが困難である。このような特有の性質を有する該共重合体を含む処理液に適用できるような溶剤として、しかも、血液、医用材料という二つの界面機能をはたす処理液として、有機溶剤と水からなる特定の溶剤混合物を選定することは本発明者の知見に基づくものである。本発明の処理液において、水溶性有機溶媒と水との混合溶媒が最も適していることを知見したものであり、その混合割合は後述の理由により、3〜45/97〜55の重量比で混合することが好ましい。
【0028】
そこで、有機溶媒と水の混合溶媒からなる処理液について、その技術的意味をさらに詳細に説明をすれば次のことがいえる。まず、医用材料は、各種プラスチック材料からなり、その材質も可塑剤を含んだり、加工助剤、添加剤などを含む場合がある。その形状も、場合によっては、中空糸膜のような形状、薄いフイルム、繊維状のもの、立体構造の成形品、場合によっては多孔の構造からなるもの、各種の材質および構造を採りうるものである。さらに、特に溶液紡糸などにより得られる製品、脆弱な製品などの場合に、顕著な、膨潤、可塑化、表面破損、変形というような、損傷が発生することが懸念される。本発明の共重合体の場合には、有機溶媒に容易に溶解するが、一方で、医用材料に比較的やさしい水には難溶性である。
【0029】
そこで、図2に基づいて説明をすれば、X軸に有機溶媒と水の混合溶媒の組成を採れば、有機溶媒が5(重量)%、8%、15%、20%、30%、60%と単調に増加をすれば、基材損傷値(例えば、医用材料として軟質塩ビを用いた場合に、溶媒単独の損傷の最大値を5として、1:損傷無し、2:柔軟性低下、3:収縮、4:固化、5:ひび割れの5段階評価で判定をすることができる)を見ると、図2の仮想曲線(1)のような傾向を示す。この傾向は、共重合体の種類、含有量、有機溶媒の種類、医用材料の種類により、若干変動することが考えられる。しかし、該共重合体は、本質的に水不溶性の特性を有しないと、血液への影響が懸念される。そうすると、混合溶媒の水の量30%、40%、50%というように単調に増加すれば、その処理液が医用材料に接触しても非常に優しく、悪影響を与えないから基材の損傷評価が非常によい結果となる。しかし、本発明の処理液は、親水性、疎水性という特有の性質を備えた、分子量などにおいても汎用の共重合体とは若干異なるという事情も加わり、分散液が、水の量が多くなれば、処理の作業性の問題、処理液の性質の変化などもありうるが、必然的に、即または経時変化に従ってエマルジョン破壊や、懸濁液破壊、溶液破壊を起こす恐れがある。このような状態は、図2の仮想曲線(2)にみるような傾向を示すものと考えられる。処理液調製時の理想の状態の指標を1とすれば、経年変化により、それが懸濁液の場合には、共重合体が処理液中に沈殿する傾向を示す恐れがある。一体評価の実施態様として、該共重合体を0.1重量%を含む、有機溶媒8重量%と水92重量からなる混合溶媒に溶解して、経時変化(例えば1月放置した場合)の沈殿量などの状況変化を見れば簡単に評価できる。指標1の半分が沈殿した状態の指標を0.5として吟味すれば正確に評価できる。該共重合体の特性、混合溶媒の特性からすれば、撹拌などの簡単な操作では、もとの処理液のグレードには簡単に戻らないということが懸念される。このような処理液では、医用材料という生命に関する材料に無意識に適用することは当業者なら当然に躊躇することになる。
以上のような諸事情を考慮すれば、本発明の技術要件とも言える、共重合体の特性は勿論のこと、混合溶媒の有機溶媒、水というその物質、3〜45/97〜55の重量比という組成割合などを非常の多面的に吟味した結果に基づくものである。
【0030】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は炭素数1〜6のアルコールのいずれかに可溶であることが好ましい。炭素数1〜3のアルコールに可溶であることがコーティング後の乾燥が容易になるためより好ましい。ここで、可溶であるとは前記アルコール10mlに(メタ)アクリレート共重合体1gを25℃で浸漬した際、室温下16時間以内に少なくとも90重量%の(メタ)アクリレート共重合体が溶解することを言う。
【0031】
「高分子基礎科学 株式会社昭晃堂 1991年発行」によると、高分子を溶融状態から冷却してゆくと、結晶化せずに過冷却状態を経てついにはガラス状態となり固化してしまうことがある。この溶融状態からのガラス状態への転移をガラス転移といい、この温度をガラス転移温度という。ガラス転移温度以下では高分子は流動性を失ってガラス状であるのに対し、ガラス転移温度以上では流動性を持ち、いわば液体の状態にある。つまり、本発明の共重合体に柔軟性を持たせるためには室温(25℃)よりも低いガラス転移温度をもつ必要がある。
【0032】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体のガラス転移温度は−100〜20℃であることが好ましい。−80〜5℃がより好ましく、−80〜−10℃がさらに好ましく、−80〜−20℃がさらにより好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、作業環境においてコーティング膜が医療用具に担持された抗血栓性物質(共重合体)が物理的に剥離してしまう可能性がある。ガラス転移温度が低すぎると、共重合体の流動性が増大し、コーティングの作業性が低下する可能性がある。
【0033】
本発明の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、本発明の共重合体を製造するための共重合反応自体には特別の制限はなく、ラジカル重合、イオン重合、光重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の(メタ)アクリレート共重合体を製造するための一例としてラジカル重合による製造方法を以下に示す。
即ち、還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にモノマーと重合溶媒、開始剤を加え、窒素置換の後加熱することで重合を開始し、一定時間その温度を保つことで重合を進行させる。重合中に窒素をバブリングすることがより好ましい。この重合の際に連鎖移動剤を併用し、分子量をコントロールすることも可能である。重合終了後の溶液より溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得る。引き続き、得られた粗(メタ)アクリレート共重合体を良溶媒に溶解し、攪拌下の貧溶媒中に滴下して精製処理(以下、再沈殿処理ということがある)を行う。精製処理を1〜数回繰り返し(メタ)アクリレート共重合体の純度を上げる。このようにして得られた共重合体を乾燥する。
【0035】
共重合の際に用いる重合溶剤としては、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、トルエン、ベンゼン、メチルエチルケトン等の有機溶剤、あるいは水を用いることができるが、本発明においてはモノマーおよび得られる共重合体の溶解性や入手の容易さの面から酢酸エチル、メタノール、エタノール等を用いるのが好ましい。また、前記溶剤の複数種を混合して用いることもできる。これら重合溶媒とモノマーとの仕込み重量比は20〜90/80〜10が好ましく、30〜90/70〜10がより好ましく、35〜85/65〜15がさらに好ましい。仕込み比が前記範囲にあれば、重合反応率を最大限に高めることができる。
【0036】
重合開始剤としては、一般的にラジカル重合で用いられる過酸化物系、アゾ系のラジカル開始剤が用いられる。過酸化物系ラジカル開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の無機系過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンパーオキサイド等の有機系過酸化物が、アゾ系ラジカル開始剤としては例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチル2,2’−アゾビスブチレート、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が用いられる。また、過酸化物系の開始剤に還元剤を組み合わせたレドックス開始剤も使用できる。これらの重合開始剤等は重合溶液中のモノマーに対して0.01〜1重量%添加するのが好ましい。より好ましい添加量は0.05〜0.5重量%、0.05〜0.3重量%がさらに好ましい。重合開始剤等の添加量を前記範囲にすることにより、良好なモノマー反応率で適正な数平均分子量を有する共重合体を得ることができる。
【0037】
重合する際の温度は、溶剤の種類、開始剤の種類によって異なるが、開始剤の10時間半減期温度付近を使用するのが好ましい。具体的には、前記開始剤を使用する場合20〜90℃が好ましい。30〜90℃がより好ましく、40〜90℃がさらに好ましい。重合の際に分子量を制御するため用いられる連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタン、チオリンゴ酸、チオグリコール酸等の高沸点のチオール化合物、イソプロピルアルコール、亜リン酸、次亜リン酸等を用いることができる。
【0038】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体は親水性と疎水性のモノマーを共重合してできるものであるため、親水性と疎水性の両方の性質を有する。したがって、共重合後の溶液中には、未反応モノマーである親水性モノマー(メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート)と疎水性モノマー(アルキル(メタ)アクリレート)、および(メタ)アクリレート共重合体からなる成分が混在している。これらの混合物の中から水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を単離するためには、例えば親水性モノマーを溶解する再沈殿液に該共重合体溶液を滴下して精製を行い、続いて疎水性モノマーを溶解する再沈殿液を用いて共重合体を精製することができる。しかし、このような精製方法の組合せでは、精製作業が煩雑であるばかりか、精製コストの高騰および共重合体の損失が大きくなるなどの問題がある。本発明者らは精製作業が簡便で、かつ低コスト、高回収率で(メタ)アクリレート共重合体を得る精製方法について鋭意検討した結果、アルコールと水とを特定の割合で混合した再沈殿貧溶媒を用いることにより効率よく(メタ)アクリレート共重合体を回収できることを見出した。
【0039】
本発明において、該共重合体を再沈澱処理により精製するために用いる溶媒としては、該共重合体を溶解せず、親水性・疎水性モノマーの両方を溶解する溶媒を用いるのが好ましい。アルコールのみを用いた場合は(メタ)アクリレート共重合体を沈殿させるためには、アルコールよりも親水性を向上させるか、低下させる必要がでてくる。このようなアルコールの親水性を制御する方法として、アルコールに親水性の高い溶媒を混合して用いる方法が挙げられる。そのような溶媒の具体例として、水、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどがあるが、作業の安全性、容易性、揮発しやすさとコストの面から水を用いるのが好ましい。アルコールと水を一定の混合比で混合して貧溶媒として用いることにより、(メタ)アクリレート共重合体を簡便、低コストで、かつ高回収率で得ることができる。
【0040】
本発明において、再沈殿処理に用いるアルコールとしては、炭素数1〜10のアルコールを用いるのが好ましく、より好ましくは炭素数1〜7のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数1〜4のアルコールである。このようなアルコールの具体例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メトキシ−1−プロパノール、ターシャリーブタノールなどがあるが、低温、短時間乾燥ができることからメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが特に好ましい。
【0041】
本発明における再沈殿処理溶媒としては、炭素数1〜10のアルコールと水とを40〜99/60〜1の重量比で混合して用いることが好ましく、より好ましくは50〜99/50〜1であり、さらに好ましくは60〜95/40〜5である。アルコール比が大きくなりすぎると(メタ)アクリレート共重合体が析出しにくくなり、水比が大きくなりすぎると析出した(メタ)アクリレート共重合体に不純物として未反応のモノマーが混入する恐れがあるため、70〜95/30〜5が特に好ましい。
【0042】
本発明において、炭素数1〜10のアルコールと水との混合液を再沈殿の貧溶媒として用いる態様を詳細に説明する。良溶媒としては、(メタ)アクリレート共重合体が溶解され、貧溶媒と混和し得るものであれば何でもよい。具体的には、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどがあるが、容易に乾燥できる点で沸点の低いテトラヒドロフラン、アセトンが特に好ましい。これらを良溶媒として用いて上記貧溶媒に添加する再沈殿処理を複数回繰り返すことにより精製するのが好ましい。
【0043】
前記説明したような再沈殿操作を必要により2〜8回行うことにより、未反応モノマー含有量が5mol%未満である水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を50重量%以上という高回収率で回収することが可能となる。該共重合体中に含まれる未反応モノマー、オリゴマー、重合残渣の含有量が多い場合には、それが血液中に溶出して、患者のショック症状などの原因物質となることが考えられる。それらの原因物質は再沈殿精製法で大部分は除去できるが、その原因物質を反応モノマー換算で、患者の安全を考慮すれば、その含有量を5mol%以下にする必要がある。しかし、精製工程に配慮すれば、3mol%以下、好ましくは1mol%以下にすることが好ましい。本発明においては、医用材料という特殊な用途を考慮して細心の注意をした結果、再沈殿精製における該共重合体の若干の損失又は放棄などを伴う精製工程を採用した結果、未反応モノマー残留量が理想の0.1mol%以下をはるかに超えた、0.06mol%程度を達成した共重合体を提供することができた。これは、別の慣用の指標である純度で表示すれば、精製共重合体の前重量(W1)に含まれる、共重合体だけの重量(W2)として、両者の比でW2/W1×100により算定をするなら、共重合体の純度に換算すれば、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、特に99重量%以上といい得るが、本発明では、99.9重量%以上のものを提供することができる。
【0044】
本発明において、再沈殿後の(メタ)アクリレート共重合体の回収率が90重量%を超えると回収物中に未反応モノマー含有の恐れが生じ、50重量%を下回ると生産効率が低下するため、回収率は50〜90重量%であることが好ましい。この回収率を50〜90重量%にとどめるということは、共重合体の回収を若干損失又は放棄することにもなるが、未反応モノマーの混入をできるだけ防ぐということからすれば仕方がないことである。というのも、医用材料に適用する親水性、疎水性の性質を兼ね備えた共重合体であるという特有の事情からすれば、それぐらいの配慮は当然にしなければならないことである。
【0045】
この再沈殿精製法の実施態様を詳細に示すと、例えば、粗(メタ)アクリレート共重合体(MTEGA:33.3g/EHA:50.7g)2gをテトラヒドロフラン2gに溶解させることにより調整された溶液を、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収率約80%で、1.60gの共重合体を回収した。次いで、その1.6gの共重合体を同重量のテトラヒドロフランを加え溶解した溶液を、貧溶媒に滴下する操作を約98重量%、約97重量%の回収率で二回繰り返した後、回収した該共重合体を60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、精製した(メタ)アクリレート共重合体1.52gを得ることができる。この場合に、回収率を例えば95%と若干高くすれば、共重合体の回収量が増えるが、それに比例をして未反応のモノマーの残留量が増加するという傾向を示す。
【0046】
精製された共重合体を医療用具の抗血栓性材料として用いるためには乾燥により溶媒の除去が必要となる。乾燥方法としては例えば、60℃で1Torr以下の減圧下において2〜10日間継続して実施し、十分な乾燥が得られないときは引き続き減圧乾燥を行えば良い。このようにして得られた(メタ)アクリレート共重合体は純度が95mol%以上であることが好ましい。共重合体純度が95mol%以上であれば、例えば後述するような医療用具のコーティング材料として用いた場合に血液中にモノマー、オリゴマー等が溶出しないなど医療用として安全性の高い材料を提供することができる。
【0047】
本発明のアルキル(メタ)アクリレートとメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとを共重合することにより得られる(メタ)アクリレート共重合体は、親水性と疎水性が適度にバランスされているので、血液適合性材料として好適に使用することができる。特に、医療用具や人工臓器の処理材料として好適に使用することができる。
また、本発明の(メタ)アクリレート共重合体は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0048】
本(メタ)アクリレート共重合体を用いて処理を行った医療用具が血液と接触した際、親水性の高いメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが表面に張り出して抗血栓性を発揮し、またアルキル(メタ)アクリレートは基材近傍に留まることによって血液と医療用具が直接接触することを防いでいるものと考えられる。
【0049】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の水不溶性を確認する方法としてエージング処理が挙げられる。エージング処理に用いる溶媒としては、簡便性とその後に実施する血液適合性評価の信頼性を向上させる点で、生理食塩水を用いることが好ましい。37℃恒温下にて行うのがさらに好ましい。該(メタ)アクリレート共重合体は水不溶性であるので、エージング処理後も高い血液適合性が維持される。
【0050】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の免疫活性化度を評価する方法として補体価の比較が挙げられる。CH50を測定するMayer法は簡便で速やかな測定が可能であり、しかも測定キットの入手が容易で安価なため好ましい(「人工臓器」23(3)、654−659(1994))。ヒツジ感作赤血球と血清中の補体とが反応することにより、感作赤血球が溶血する。補体系が活性化されるほど溶血度が低下することから、評価方法として有意に利用することができる。
【0051】
本発明の免疫系評価の別法として、アナフィラトキシンとよばれるC3aの定量が挙げられる。生体内でC3aが産生されると血管透過性の変化、平滑筋の収縮、肥満細胞と好塩基球によりヒスタミン遊離を起こし、炎症反応を主にきたす(「補体の分子生物学」−生体防御における役割− 株式会社南江堂)。
C3aの数値が大きいほど補体系が活性化していることを意味し、その数値の比較により、評価方法として有意に利用することができる。
【0052】
さらに本発明の別の免疫系評価方法として、最終補体複合体(Terminal Complement Complex, 以下TCCと表記する)の定量が挙げられる。補体系の活性化により膜障害複合体(以下、MACと表記する)が産生され、標的となる細胞膜を溶解する効果をもたらす一方、プロテインSによってMACの細胞膜溶解効果を不活性化することにより、免疫効果を制御している。プロテインSとMACが結合することによって生じ、細胞膜溶解能をもたないTCCについて、その数値の比較により補体系の活性化度を定量することができる。すなわち、TCC濃度が増大するほど補体系が活性化されるとみなすことができる。
【0053】
本発明において、(メタ)アクリレートの血液適合性評価方法の一つとして、フィブリンゲル形成実験が挙げられる。この手法では、血液凝固因子のひとつであるフィブリノゲンの活性化度を評価することができる。具体的には、血漿中のフィブリノゲンがカルシウムイオンによってゲル化し、フィブリンゲルになる反応を利用するものである。サンプルと接触したカルシウムイオン添加血漿において、ゲル化に要す時間(以下、ゲル化時間とする)を計測することにより、血液凝固系の活性化を特別な測定機器を要すことなく容易に評価することができるため、本手法が好ましい。ゲル化時間が長くなるほど血中タンパクの異物認識作用が惹起されにくいことを意味し、血液適合性が高いことを意味する。
【0054】
本発明の処理液を用いて処理された医療用具は、表面の少なくとも一部、好ましくは表面の血液等と接触する部分の全部が本発明の(メタ)アクリレート共重合体で処理されている。本発明の処理液は、優れた抗血栓性を要求される医療用具に適用されるのが好ましい態様の一つである。そのような医療用具としては、例えば、血液フィルター、血液保存容器、血液回路、留置針、カテーテル、ガイドワイヤー、ステント、人工肺装置、透析装置、癒着防止材、創傷被覆材、生体組織の粘着材、生体組織再生用の補修材が挙げられる。特に、体外循環回路を有し、そこに血液接触部を有する医療用具が好ましい態様である。
【0055】
本発明の医用材料が使用される医療用具の基材としては、通常使用される全ての材料が含まれる。すなわち、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、熱可塑性ポリエーテルポリウレタン、熱硬化性ポリウレタン、架橋部を有するポリジメチルシロキサン等のシリコーンゴム、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアセタール、ポリスチレン、ABS樹脂およびこれらの樹脂の混合物、ステンレス、チタニウム、アルミニウム等の金属などが挙げられる。
【0056】
本発明の処理液は、少なくとも一種の水溶性有機溶媒と水とを混合した混合液に(メタ)アクリレート共重合体が分散されたものであることが好ましい。水溶性有機溶媒と水との混合液を用いることにより、該処理液の粘度を低くすることができるだけでなく、水不溶性の(メタ)アクリレート共重合体を均一に分散させ、かつ分散状態を長期間安定に保つことが可能となる。また、このような処理液は、比較的水を多く添加することにより基材である医療用具の損傷や変質を最小限に抑えることができる。
【0057】
本発明の水溶性有機溶媒は、炭素数1〜5の有機溶媒であることが好ましい。炭素数1〜5の水溶性有機溶媒としては具体的に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、アセトン、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が使用されるが、この中でも沸点が低く、コーティング後の乾燥が容易なメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフランが特に好ましい。
【0058】
本発明の処理液中、(メタ)アクリレート共重合体の濃度は0.001〜10重量%であることが好ましい。(メタ)アクリレート共重合体の濃度が低すぎると、例えば医療用具に適用した場合に十分に性能が発現しない可能性があるため、0.01重量%以上であることがより好ましい。また、濃度が高すぎると、溶液粘度が上昇しすぎて作業性が低下する恐れがあるために5重量%以下であることが好ましい。
【0059】
本発明の処理液において、水溶性有機溶媒と水とを3〜45/97〜55の重量比で混合して用いることが好ましい。水溶性有機溶媒量が多すぎると、医療用具基材の変形や変質、亀裂による損傷の恐れがあるため37重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましく、23重量%以下がさらにより好ましい。また、水溶性有機溶媒量が少なすぎると、(メタ)アクリレート共重合体を混合液に均一に分散させることができないため5重量%以上がより好ましい。
【0060】
本発明の処理液の調整方法としては、水溶性有機溶媒と水とをあらかじめ混合した混合液を攪拌しながら(メタ)アクリレートを混合液中に添加して分散させる方法、(メタ)アクリレート共重合体を一旦水溶性有機溶媒に溶解させたのち、攪拌下の水に添加し分散させる方法があるが、後者が均一な分散が得られるためより好ましい。
【0061】
本発明の処理液は、例えば、医療用チューブの内表面に(メタ)アクリレート共重合体をコーティングする場合、該処理液をそのまま医療用チューブの中空部に接触させた後、液体を蒸発させるなどして処理することもある。したがって、処理液中に分散している該共重合体が比較的短時間に沈殿を生じるのはあまり好ましくない。処理液の使用形態や保存期間等にもよるが、具体的には30日間の室温静置状態にて(メタ)アクリレート共重合体の目視確認可能な沈殿が生じるといった不均一状態が生じないことが好ましい。該(メタ)アクリレート共重合体はアルコール類への分散性が高く、アルコール類と水とを混合することにより長期間分散状態の維持が可能となる。水と混合して用いる該アルコール類として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、ターシャリーブタノール等があるが、該(メタ)アクリレート共重合体の分散性が特に高い、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノールがより好ましい。
【0062】
通常、ポリマーを溶解した溶液の粘度は、ポリマー濃度の増加に伴って増大する。しかしながら、エマルジョンすなわち分散状態をとることにより、ポリマー濃度を高めても比較的粘度を低く抑えることができ、高濃度でも溶液状態に比較して大幅に溶液粘度を下げることができる。(非特許文献7:新高分子文庫6 入門・エマルジョンの応用 高分子刊行会参照)。つまり、本発明の処理液を用いることにより、分散状態といういわば厳密には均一ではない状態を形成することによりポリマー分子鎖同士の絡み合いによる粘度上昇を最小限にとどめ、溶液粘度の上昇という作業性の低下を最大限に抑制することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0064】
((メタ)アクリレート共重合体の合成)
還流塔を装着した攪拌可能な反応装置にアルキル(メタ)アクリレートおよびメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、重合開始剤、重合溶媒を加え、重合反応を行った。重合反応終了後、減圧下でエバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体を再沈殿処理用良溶媒に溶解し、攪拌下の貧溶媒中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、さらに同重量のテトラヒドロフランを加え溶解し、貧溶媒に滴下する操作を複数回繰り返した後、減圧条件下にて減圧乾燥を行い、(メタ)アクリレート共重合体を得た。
【0065】
(数平均分子量の測定)
試料15mgに3mLのGPC測定用の移動相(0.03重量%のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を添加したテトラヒドロフラン(THF))を加えて溶解し、0.45μmの親水性PTFE(Millex−LH;日本ミリポア社)でろ過を行った。GPC測定は510高圧ポンプ、717plus自動注入装置(日本ウォーターズ社)、RI−101(昭和電工社)の測定装置を用い、カラム;PLgel 5μMIXED−D(600x7.5 mm)(Polymer Laboratories社)、カラム温度は常温で行った。RIにて検出を行い、50μL注入した。分子量校正は単分散PMMA(Easi Cal: Polymer Laboratories社)で行った。
【0066】
(共重合組成比の測定)
NMR用試験管(規格;N−5、日本精密化学社)中にサンプル50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格;NC−5、日本精密化学社)で蓋をした。共重合組成比は、VARIAN社のGEMINI−200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、共重合組成比を算出した。共重合組成比は、アルキル(メタ)アクリレートの末端メチル基由来プロトンの積分比および、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの末端メトキシ基由来のプロトン積分比を用いて決定した。
【0067】
(収率の計算)
仕込みモノマーの総重量に対する、再沈殿及び乾燥後の共重合体重量比を収率として算出した。収率が50〜90%の範囲内に入れば、良好と評価した。
【0068】
(アルコール可溶性テスト)
50 mLバイアル中にサンプル500mgを加えた後、エタノール2 mLを加え室温にて48時間静置したのち、目視により溶解を確認した。
【0069】
(ガラス転移温度の測定)
示差走査熱量計(島津DSC−50)を用いた。試料10 mgをセル(Alセル,6mmφ,島津製作所)につめ、蓋をして、シーラ・クリンパ(島津製作所社)でクリンプおよびシールした後、測定機器にセットして測定を行った。サンプルを30℃から300℃まで50℃/minにて昇温し5min保持した後、10℃/minにて−100℃まで冷却し、5min保持した。その後の−100℃から300℃までの熱履歴によりガラス転移温度(Tg)を算出した。
【0070】
(エージング処理)
(メタ)アクリレート共重合体0.2 gにエタノール19.8 gを加えて溶解することで1重量%のエタノール溶液を調製し、処理液を得た。処理液中に25x25x1mmの軟質塩ビシートを浸漬した後、軟質塩ビシートを取り出し、60℃で24 h乾燥させた。さらに、37℃生理食塩水中で30日間エージングを行い、血液適合性試験用エージングサンプルとした。30日間エージング後のサンプルについて、重量減少率が1重量%以下であれば、(メタ)アクリレート共重合体は水不溶であると判断した。
【0071】
(血液適合性試験)
ウサギより脱血した加クエン酸新鮮血60mLを50mL遠沈管二本に等分し、それを1000rpmにて10分間遠心分離した。その上澄みを10mL遠沈管四本に等分した。それをさらに1500rpmで10分間遠心分離した後、上澄みを除去し、沈殿である血小板ペレットを分離した。その中にHBSS(ハンクス平衡塩溶液)を添加して希釈することで、血小板濃度3.0x10/mLの血小板溶液を得た。血小板濃度は血球カウンター(KX−21 シスメックス社)で確認した。この濃度の血小板溶液を試験液とした。得られた試験液を0.2mLとり、60x15mmのシャーレ(コーニング社、ポリスチレン製)内の血液適合性試験用エージングサンプル上面に滴下した後、蓋をして37℃で1時間インキュベートした。その後、2.5重量%のグルタルアルデヒド水溶液5mLを加え、室温で24時間静置した。水でシャーレ内の溶液を置換する操作を3回行った後、排水した。水で洗浄した塩ビシートを−5℃で24h凍結させた後、0.1Torrにて24h乾燥させた。塩ビシートから血小板液滴下部位から10x10 mm分を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)用サンプル台に両面テープではりつけ、測定サンプルとした。イオン蒸着を行ったサンプルを用いてSEMにて粘着血小板の様子を撮影した。撮影したSEM写真(x3000倍)を目視により比較観察した。付着血小板数が50以下であれば、良好と評価した。付着血小板数が50以下であれば、撮影部位の血小板分布を加味しても有意に血小板が粘着しないとみなすことができる。
【0072】
(補体評価−サンプル調製)
(メタ)アクリレート共重合体0.2gにエタノール19.8gを加えて溶解することにより得られた処理液に直径1mmのガラス球1gを10秒間浸漬後、排液し、60℃にて24時間乾燥させることにより、補体(補体価、C3a)評価用サンプルとした。
【0073】
(補体−補体価−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLを室温にて静置することで凝固させ、3000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血清3.5mL得た。前記の方法で、表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ1gに希釈液0.1mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートした。得られた血清0.2mLを添加し、同様に37℃にて1時間インキュベートを行った。希釈液2.6mL、接触した血清12.5μL及び感作ヒツジ赤血球0.4mLを十分混合した後、37℃にて1時間インキュベートを行い、0℃にて10分冷却した後、2000rpmにて遠心し、上澄み2mLの吸光度を541nmにて測定した(U−2000 Spectrometer、HITACHIを使用)。同時に希釈液2.6mLおよび感作ヒツジ赤血球0.4mLを添加したものを溶血なしのものとしてデータを差し引いた。測定にはオートCH50−L「生研」(統一商品番号400437・希釈液52mL、感作ヒツジ赤血球6mL)を用いた。表面処理を行わないガラス球の吸光度値を1としての相対的な吸光度を算出した。1.2未満であれば、測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化したと判断できるため、良好と判断した。
【0074】
(補体−C3a−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLと3.2重量%のクエン酸三ナトリウム水溶液1mLとを十分混合したのち、2000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)させることにより血漿を4.5mL得た。前記の方法で表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ4.6gに生理食塩水0.5mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートし、得られた血漿1mLを添加して同様に37℃にて1時間インキュベートを行い、うち0.5mLを評価検体とした。検体は速やかに−20℃以下に冷却し、測定まで保存した。評価はHuman Complement C3a Des Arg[125I] Biotrak Assay System, code RPA518(Amersham Biosciences社)を用い、添付マニュアルに従って行った。データ数3の平均値として算出した。未処理評価検体の値が94ng/mLであったことから、C3a値が100ng/mL以上の場合は、測定誤差を考慮しても有意に補体が活性化されたとみなせるため、不良と評価した。
【0075】
(フィブリンゲル形成実験)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)中の加クエン酸牛血45mLを、2000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)することによりウシ血漿を8mL得た。先述の方法で表面処理を行った直径1mmのガラスビーズ1gおよび、同様に内面を表面処理した10mLポリスチレン製遠沈管を評価サンプルとした。表面処理済みのガラスビーズが封入された同遠沈管内に、ウシ血漿1.8mLを添加後、37℃にて3分間インキュベートし、0.125NのCaCl水溶液0.2mLを添加、混合した直後を反応開始とし、37℃にてインキュベートした。反応開始後10秒間隔でゲル化完了の有無を確認し、ゲル化時間を計測した。N数を5とし、その平均値を求めた。表面未処理のサンプルの凝固時間は635秒であったことから、測定誤差を考慮しても600秒未満となった場合に有意に凝固系を活性化させていると判断できるため、良好と評価した。なお、実験に用いたウシ血漿中のタンパク濃度が凍結乾燥後の秤量値により算出され、79mg/mLであった。
【0076】
(未反応モノマー残存量測定)
NMR用試験管(規格;N−5、日本精密化学社)中にサンプル50 mgをパスツールピペットにて加えた後、重クロロホルム(和光純薬社)0.7 mLを加え十分に混和し、試料用キャップ(規格NC−5、日本精密化学社)で蓋をした。共重合組成比は、VARIAN社のGEMINI−200を用いて室温下1H NMR測定を実施し、算出した。算出には、未反応モノマー由来の二重結合に存在するプロトン積分比(M1)および、ポリマー中のメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレート由来プロトンの積分比の和(P1)による、M1/(P1+M1)×100の演算式を用いた。モノマー含有量が5mol%以下となれば、良好と評価した。
【0077】
(基材損傷評価)
実施例の処理液20gに、軟質ポリ塩化ビニル(品種;F930、色;ナチュラル、昭和化成工業社)1gを浸漬させた状態で室温下48時間静置した。排液後キムタオルにて表面に付着した処理液を除去し、秤量することにより浸漬前後の重量変化率を算出した。重量変化率が負の値となったときは、溶媒による膨潤を勘案したとしても有意に可塑剤が表面処理剤中に溶出したとみなせるため×とし、正の値となったときは○と評価した。
【0078】
(補体−TCC−評価用試験片の調製)
塩ビ(アラム社)は直径3/32インチ球を100個、ポリプロピレン(PP)は直径3/32インチ球(PPコード、アラム社)を100個、ポリカーボネート(PC、アラム社)は5x5x1(mm)のチップを0.6g、ポリメチルペンテン(TPX)は直径3mm球を0.3g、シリコーン(アラム社)は直径2mm・長さ3.17mmの円柱45個を1サンプルにつき使用し、処理液20g中にそれぞれ10秒間浸漬後排液し、60℃にて24時間乾燥させることにより調製した。
【0079】
(補体−TCC−測定)
50mLポリプロピレン製遠沈管(IWAKI社)内に分取したヒト新鮮血10mLを室温にて静置することで凝固させ、3000rpmにて30分間遠心(LC06、TOMY SEIKO CO. LTDを使用)することにより血清を3.5mL得た。前記試験片に希釈液0.1mLを添加した後、37℃にて1時間インキュベートし、得られた血清0.2mLを添加し同様に37℃にて1時間インキュベートを行い、これを接触血清とした。評価サンプルは、接触血清10μLに対してspecimen diluent 240μLを加えることにより希釈したものを用いた。評価はA009−CS5b−9 Enzyme Immunoassay Kit(Quidel社)を用い、添付マニュアルに従って行った。測定データはn数3の平均値を用い、平均値が未処理試験片のものよりも小さい場合に良好と判断した。
【0080】
(処理液安定性試験)
以下の実施例に示す処理液20mLを20mLガラス製バイアル中に密閉状態にて室温下に静置し、放置30日後に目視確認可能な沈殿がない場合は○、沈殿がある場合は×と判断した。処理液を調整後30日間放置しても沈殿が生じない場合は、処理液として安定して用いることができる。
【0081】
(実施例1)
(1)((メタ)アクリレート共重合体の合成)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.3gおよび2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAと表記する)(東京化成工業社)50.7g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0815g、エタノール(和光純薬社)33.7gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、(メタ)アクリレート共重合体を得た。
疎水性(メタ)アクリレート/親水性(メタ)アクリレート比=67.5/32.5
数平均分子量:19,700
ガラス転移温度(℃):−63
未反応モノマーの残留量:約0.06mol%
得られた(メタ)アクリレート共重合体0.002gをエタノール(以下EtOHと表記する)1gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水18.998g中に30秒かけて滴下することにより処理液1を得た。
この処理液1の(メタ)アクリレート共重合体の濃度は0.01重量%であり、溶媒組成はEtOH/水=5:95である。
(1)エージング処理
上記エージング処理の仕様に従って試験をした結果、本発明の(メタ)アクリレート共重合体の重量減少率は1重量%以下であったので、(メタ)アクリレート共重合体は水不溶であることを確認した。
(2)アルコール可溶性テスト
上記アルコール可溶性テストの使用により試験をした結果、良好○と評価できる。
(3)基材損傷評価試験
上記基材損傷評価試験の仕様に従いテストした結果は、表1に示すように、正の値○であることが確認された。
(4)フィブリンゲル形成実験
上記フィブリンゲル形成実験の仕様に従って実験した結果、820秒であった。
(5)補体−TCC評価結果
上記、補体−TCC測定の仕様に従って実験した測定結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをEtOH2.50gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水17.48g中に30秒かけて滴下することにより、共重合体濃度が0.1重量%、溶媒組成比がEtOH/水=12.5:87.5の処理液2を得た。
この処理液2および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.2gをEtOH3.0gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水16.8g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が1重量%、溶媒組成比がEtOH/水=15.2:84.8の処理液3を得た。
この処理液3および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表1に示す。
【0084】
(実施例4)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体1gをEtOH4gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水15g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が5重量%、溶媒組成比がEtOH/水=21.1:78.9の処理液4を得た。
この処理液4および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.002gをイソプロパノール(以下IPAと表記する)1.000gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水18.998g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.01重量%、溶媒組成比がIPA/水=5:95の処理液5を得た。
この処理液5および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表1に示す。
【0086】
(実施例6)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをIPA2.50gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水17.48g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.1重量%、溶媒組成比がIPA/水=12.5:87.5の処理液6を得た。
この処理液6および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表1に示す。
【0087】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.2gをIPA3.0gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水16.8g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.1重量%、溶媒組成比がIPA/水=15.2:84.8の処理液7を得た。
この処理液7および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
(実施例8)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体1gをIPA4gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水15g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.1重量%、溶媒組成比がIPA/水=21.1:78.9の処理液8を得た。
この処理液8および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0090】
(実施例9)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.002gを1−プロパノール(以下1−PAと表記する)1.000gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水18.998g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.01重量%、溶媒組成比が1−PA/水=5:95の処理液9を得た。
この処理液2および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0091】
(実施例10)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gを1−PA2.50gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水17.48g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が0.1重量%、溶媒組成比が1−PA/水=12.5:87.5の処理液10を得た。
この処理液2および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0092】
(実施例11)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.2gを1−PA3.0gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水16.8g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が1重量%、溶媒組成比が1−PA/水=15.2:84.8の処理液11を得た。
この処理液2および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0093】
(実施例12)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体1gを1−PA4gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水15g中に30秒かけて滴下することにより共重合体濃度が5重量%、溶媒組成比が1−PA/水=21.1:78.9の処理液12を得た。
この処理液12および、共重合体の特性は、実施例1と同じ仕様に従って試験をすれば、実施例1に示す(1)〜(4)の特性を備えている。特に(5)補体−TCC試験の測定結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをEtOH19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒がEtOHの処理液13を得た。この処理液による、特に基材損傷評価において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0096】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをIPA19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒がIPAの処理液14を得た。この処理液による、特に基材損傷評価において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0097】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gを1−PA19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒が1−PAの処理液15を得た。この処理液による、特に基材損傷評価において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0098】
(比較例4)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをテトラヒドロフラン(以下THFと表記する)19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒がTHFの処理液16を得た。この処理液による、特に基材損傷評価において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0099】
(比較例5)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gをアセトン19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒がアセトンの処理液17を得た。この処理液による、特に基材損傷評価において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0100】
(比較例6)
実施例1と同様の方法で得られた(メタ)アクリレート共重合体0.02gを水19.98gに溶解させ、(メタ)アクリレート共重合体の濃度が0.1重量%、溶媒が水の処理液18を得た。この処理液による、特に処理液の安定性において、適正でないことが判明した。結果を表3に示す。
【0101】
【表3】

【0102】
(実施例13)
(1)((メタ)アクリレート共重合体の合成)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.3gおよび2−エチルヘキシルアクリレート(以下、EHAと表記する)(東京化成工業社)50.7g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0654g、エタノール(和光純薬社)126gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、 0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、(メタ)アクリレート共重合体を得た。
疎水性(メタ)アクリレート/親水性(メタ)アクリレート比=69.2/30.8
数平均分子量:9,800
ガラス転移温度(℃):−60
未反応モノマーの残留量:約0.05mol%
得られた(メタ)アクリレート共重合体0.002gをエタノール(以下EtOHと表記する)1gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水18.998g中に30秒かけて滴下することにより処理液19を得た。
この処理液19の(メタ)アクリレート共重合体の濃度は0.01重量%であり、溶媒組成はEtOH/水=5:95である。
(1)エージング処理
上記エージング処理の仕様に従って試験をした結果、本発明の(メタ)アクリレート共重合体の重量減少率は1重量%以下であったので、(メタ)アクリレート共重合体は水不溶であることを確認した。
(2)アルコール可溶性テスト
上記アルコール可溶性テストの使用により試験をした結果、良好○と評価できる。
(3)基材損傷評価試験
上記基材損傷評価試験の仕様に従いテストした結果は、正の値○であることが確認された。
(4)フイブリンゲル形成実験
上記フイブリンゲル形成実験の仕様に従って実験した結果、800秒であった。
(5)補体−TCC評価結果
上記、補体−TCC測定の仕様に従って実験した結果を表2に示す。
【0103】
(実施例14)
(1)((メタ)アクリレート共重合体の合成)
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(以下、MTEGAと表記する)(新中村化学工業社)33.4gおよびラウリルアクリレート(以下、LAと表記する)(東京化成工業社)38.9g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(和光純薬社)0.0747g、酢酸エチル(東京化成工業社)72.5gを加え、80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、60℃、1Torrの条件下で4日間エバポレートすることにより重合溶媒を除去し、粗(メタ)アクリレート共重合体を得た。得られた粗(メタ)アクリレート共重合体2gをテトラヒドロフラン2gに溶解し、攪拌下の貧溶媒(メタノール/水=85/15(重量比))20g中にパスツールピペットを用いて滴下した。沈殿をデカンテーションにて回収し、同様の操作で再沈殿精製を二回繰り返した後、60℃、0.1Torrの減圧条件下にて4日間減圧乾燥を行い、(メタ)アクリレート共重合体を得た。
疎水性(メタ)アクリレート/親水性(メタ)アクリレート比=56.4/43.6
数平均分子量:14,300
ガラス転移温度(℃):−40
未反応モノマーの残留量:約0.06mol%
得られた(メタ)アクリレート共重合体0.002gをエタノール(以下EtOHと表記する)1gに溶解させた後、磁気撹拌子による撹拌下の水18.998g中に30秒かけて滴下することにより処理液20を得た。
この処理液20の(メタ)アクリレート共重合体の濃度は0.01重量%であり、溶媒組成はEtOH/水=5:95である。
(1)エージング処理
上記エージング処理の仕様に従って試験をした結果、本発明の(メタ)アクリレート共重合体の重量減少率は1重量%以下であったので、(メタ)アクリレート共重合体は水不溶であるということを確認した。
(2)アルコール可溶性テスト
上記アルコール可溶性テストの使用により試験をした結果、良好○と評価できる。
(3)基材損傷評価試験
上記基材損傷評価試験の仕様に従いテストした結果は、正の値○であることが確認された。
(4)フイブリンゲル形成実験
上記フイブリンゲル形成実験の仕様に従って実験した結果、820秒であった。
(5)補体−TCC評価結果
上記、補体−TCC測定の仕様に従って実験した結果を表2に示す。
【0104】
なお、実施例1、13、14の共重合体について、それらの組成、物性、性能を表4に纏める。
【0105】
【表4】

【0106】
本発明において、(メタ)アクリレート共重合体の表面処理液を用いることにより、基材を損傷、変質、変性させることなく、免疫系活性化を抑制する性能を発揮することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、基材表面を損傷することなく、補体系活性化を抑制する表面処理液を提供できる。したがって、産業の発展に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本願発明と従来技術との相違点を示す概念図。
【図2】本願発明の処理液の挙動解析に関する概念図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート共重合体を有機溶媒および水からなる混合液に分散させてなる医用材料の処理液。
【請求項2】
有機溶媒が、炭素数1〜5の水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の医用材料の処理液。
【請求項3】
混合液中の(メタ)アクリレート共重合体濃度が0.001〜10重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の医用材料の処理液。
【請求項4】
混合液中の有機溶媒と水との重量比が3〜45/97〜55であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の医用材料の処理液。
【請求項5】
(メタ)アクリレート共重合体がアルキル(メタ)アクリレート及びメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを共重合したものである請求項1〜4いずれか記載の医用材料の処理液。
【請求項6】
アルキル(メタ)アクリレートが下記一般式1で示されるものであることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の医用材料の処理液。
【化1】

(式中、Rは炭素原子数2〜30のアルキル基またはアラルキル基、Rは水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項7】
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが下記一般式2で示されるものであることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の医用材料の処理液。
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、nは1〜1,000の整数を示す。)
【請求項8】
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートの一般式2において示される化合物において、n=2〜5であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の医用材料の処理液。
【請求項9】
(メタ)アクリレート共重合体の数平均分子量が2,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の医用材料の処理液。
【請求項10】
(メタ)アクリレート共重合体が、混合溶媒による再沈殿方法により精製され、未反応(メタ)アクリレート系モノマーの含有量が5mol%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の医用材料の処理液。
【請求項11】
(メタ)アクリレート共重合体が、水とアルコールからなる混合溶媒を用いる再沈殿方法により精製されたことを特徴とする請求項10に記載の医用材料の処理液。
【請求項12】
処理液の形態が、エマルジョンまたは懸濁液または溶液であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の医用材料の処理液。
【請求項13】
処理液が(メタ)アクリレート共重合体を予めアルコールに溶解をさせ、次いでそのアルコール溶液を水に分散させることにより調整された懸濁液であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の医用材料の処理液。
【請求項14】
医用材料が、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリウレタン、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1〜13の医用材料の処理液。
【請求項15】
医用材料の血液接触面に、請求項1〜14のいずれかに記載の(メタ)アクリレート共重合体からなる処理液による塗膜が均一にまたは不均一に形成されていることを特徴とする医用材料。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−264266(P2008−264266A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112407(P2007−112407)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【特許番号】特許第4100452号(P4100452)
【特許公報発行日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】