説明

医用画像処理装置、画像処理方法及びプログラム

【課題】脳MRA画像における閉塞の可能性が高い異常血管候補を自動検出することが可能な医用画像処理装置を提供する。
【解決手段】血管部位名が付帯された血管像に対し、細線化の処理を行った後、各血管の長さを算出する。算出した各血管の長さから、全血管の長さにおける各血管の長さが占める割合を更に算出し、算出した当該割合と、正常値との比較を行う事により閉塞血管の有無及び閉塞血管部位名を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRA画像において閉塞が起こっている血管部位を自動検出する医用画像処理装置、画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴断層撮影(MRI;Magnetic Resonance Imaging)装置の高性能化と普及に伴い、脳ドックの検査数が急速に増加している。脳ドッグの目的としては、血管の閉塞や狭窄、未破裂動脈瘤等の脳血管疾患に係る危険因子を早期に発見することで、発見された危険因子の発症あるいは進行を防止することにある。
【0003】
MRI装置では、血管内の血液の流れを画像化するMRA(Magnetic Resonance Angiography)画像を生成することができ、このMRA画像から血管の閉塞や狭窄、未破裂動脈瘤等の異常を発見することができる。
しかし、閉塞、狭窄や未破裂動脈瘤が極微小である場合、生成された画像から当該異常部位を視覚により識別することが困難である。また、たとえ識別できたとしても、多くの読影時間が必要となることから、医師の疲労による見落としが生じてしまう場合がある。
【0004】
そこで、識別し難い複数の血管部位が交差する領域について、交差している後方の血管像の輝度を低下させることにより手前の血管像の識別を容易にする、MRA画像の表示方法に関する技術が開示されている(特許文献1参照)。また、MRIによる血管像から計測された血管の直径と、基準となる血管の直径とを比較することにより、狭窄の検出を自動的に行う方法及び装置に関する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−277091号公報
【特許文献2】特開2004−329929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、医師が観察したい手前の血管像において、更に手前に他の血管像が交差している場合にはその血管像を除去することができない。したがって、必ずしも所望の血管像のみを抽出して観察することが出来るとは限らず、交差部分については詳細な観察が困難となる。また、特許文献2に記載の方法では、血管の狭窄や動脈瘤を自動的に検出する技術ではあっても、血管の「閉塞」を自動的に検出する技術に関するものではない。さらに、特許文献2に記載の方法では、異常血管の有無を検出することは出来ても、特許文献1について上述しているように、血管像が交差していた場合にはどの血管部位について異常が起こっているのかが不明確となる場合がある。
【0006】
本発明の課題は、閉塞が発生している可能性が高い異常血管部位を自動検出する機能を備えた医用画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
検査対象画像から血管像を抽出する抽出手段と、
前記血管像と血管像に含まれる一又は複数の血管部位が予め特定された参照画像とを比較し、その比較結果に基づいて前記血管像に含まれる一又は複数の血管部位を判別する血管判別手段と、
前記血管判別手段により判別された各血管部位のそれぞれにつき相対的血管長を算出し、各相対的血管長を特徴量として用い判別分析した結果に基づいて異常血管部位を検出する異常血管検出手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記検査対象画像を表示する表示手段と、
前記表示された検査対象画像において前記検出された異常血管部位を識別表示させる表示制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記参照画像は、各血管部位についてその血管名が定められており、
前記異常血管検出手段は、前記参照画像に基づいて前記検出された異常血管部位の血管名を判別し、
前記表示制御手段は、前記判別された異常血管の血管名を識別表示された前記異常血管に対応付けて表示することを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、
前記異常血管検出手段は、前記算出された各血管部位の相対的血管長を、正常症例における各血管部位の相対的血管長と比較することにより異常血管部位の有無を検出することを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、
前記異常血管検出手段は、前記血管像に対し細線化処理を施し、当該処理画像を用いて各血管部位の相対的血管長を算出することを特徴としている。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の発明において、
前記検査対象画像は、MRA画像であり、
前記異常血管検出手段は、閉塞が発生した異常血管部位を検出することを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の発明において、
前記異常血管検出手段により検出された異常血管部位に関する情報を、当該検出に用いた相対的血管長の情報と対応付けて記憶する記憶手段を備え、
前記表示制御手段は、前記記憶手段により対応付けて記憶された相対的血管長の情報を2次元空間に分布させて前記表示手段上に表示させ、さらにこの前記2次元空間に分布する何れかの相対的血管長の情報が指定されると、当該指定された相対的血管長の情報に対応付けられた前記異常血管部位に関する情報を前記記憶手段から取得して前記表示手段上に表示させることを特徴としている。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の発明において、
異常血管部位に関する情報と特徴量とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記特徴量を座標空間にプロットしたときの、該座標空間における前記検査対象画像の特徴量との距離が所定範囲内にある、前記記憶手段に記憶された特徴量と対応付けられた異常血管部位に関する情報を検索する検索手段とを有することを特徴としている。
【0015】
請求項9に記載の発明は、
前記抽出手段により、検査対象画像から血管像を抽出する抽出工程と、
前記血管判別手段により、前記血管像と血管像に含まれる一又は複数の血管部位が予め特定された参照画像とを比較し、その比較結果に基づいて前記血管像に含まれる一又は複数の血管部位を判別する判別工程と、
前記異常血管検出手段により、前記血管判別手段により判別された各血管部位のそれぞれにつき相対的血管長を算出し、各相対的血管長を判別分析した結果に基づいて異常血管部位を検出する検出工程と、
を含むことを特徴としている。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において
コンピュータに、画像処理方法を実行させるプログラムであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、9、10に記載の発明によれば、
検査対象画像における血管像から各血管部位の血管長が算出され、全血管の血管長に対する各血管部位の血管長の割合(相対的血管長)がさらに算出される。このような複数の血管部位との関係で求めた相対的血管長は、ある一つの血管部位でその血管長に変化があれば他の血管部位の相対的血管長に大きな変化をもたらすこととなる。よって、算出された各相対的血管長を特徴量として用い判別分析することにより、対象血管像の各血管部位に異常を伴っている可能性が高い異常血管部位が含まれるか否かを検出することができるとともに、その異常血管部位は何れの血管部位であるかを特定することが可能となる。
【0018】
請求項2の発明によれば、
検査対象画像及び検査対象画像から検出され異常血管部位画像表示されることで、医師や技師等の閲覧者にとって視覚的に把握し易くなり、異常血管の形状や大きさ等の認識が容易となる。血管像は複数の血管部位が重なり合うことが多い。よって、検出された異常血管部位のみを識別表示することにより、医師は注目したい異常血管部位のみ観察することが可能となる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、
対象血管像に各血管部位の名称が付帯され、表示される。これにより、医師は容易に各血管部位の名称を把握することができる。また、血管像が複雑に重なり合う2次元画像上において、血管部位の誤認識を防止することができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、
対象血管像から算出した各血管の相対的血管長と、別に算出した基準となる相対的血管長とを比較することにより、対象血管像の各血管に異常を伴う血管が含まれるか否かが検出される。異常血管が検出された場合、その旨が医師や技師等の閲覧者に通知される。これにより、読影が困難な検査対象画像の場合や医師の疲労等によって、異常血管部位を見落とすことを防止することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、
検査対象画像から抽出した血管像について細線化を施す。血管の長さの算出には血管の太さが大きく影響し、血管の太さは被写体によって個人差が大きい。よって、血管像については細線化処理を施すことにより、血管像の中心部分のみを用いて血管の長さを算出することができ、血管の長さの算出に対する個人差の影響を最小限にすることができる。従って、血管像における各血管部位の相対的血管長を精度良く算出することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、
血管の異常が特に閉塞であった場合に、閉塞が起こっている血管部位を検出することができる。
【0023】
請求項7、8に記載の発明によれば、
記憶手段により、異常血管検出手段が過去に算出した相対的血管長のデータを血管像等と対応付けて記憶することができる。記憶された複数のデータの内、一又は複数のデータが表示制御手段により表示される。操作者は、表示された過去のデータに基づき、現在検出された症例と類似する過去の症例を容易に検索することができる。医師は、検索された症例に基づいて、現在検出された異常血管部位に対する適切な処置を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る医用画像処理装置について最適な実施形態の構成及び動作について図面を用いて詳細に説明する。
【0025】
図1に、本実施形態における医用画像処理装置10の内部構成を示す。図1に示すように、医用画像処理装置10は制御部11、操作部12、表示部13、記憶部14、通信部15から構成される。本実施形態においては、制御部11が抽出手段、血管判別手段、異常血管判別手段、表示制御手段、検索手段の各手段として機能する。また、表示部13は表示手段として、記憶部14は記憶手段として機能する。その他、操作部12、通信部15は、上述した各手段の指示により動作する。
【0026】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等から構成され、記憶部14に格納されている所定のプログラムをRAMに展開し、当該プログラムとの協働により処理動作を統括的に制御する。
【0027】
操作部12は、数字キー、文字キー、機能キー等を備えたキーボードや、マウス等を備えて構成され、操作されたキーに対応する操作信号を制御部11に出力する。
【0028】
表示部13は、LCD(Liquid Crystal Display)等を備えて構成され、制御部11の表示制御に従って、医用画像や操作画面等の各種表示情報を表示する。なお、表示部13は、操作部12と一体型のタッチパネルを構成する態様としてもよい。
【0029】
記憶部14は、システムプログラムの他、制御部11により実行される制御プログラムや画像処理プログラム等の各種プログラムを備え、各プログラムの実行に必要な各種パラメータを記憶し、実行された後に処理されたデータ等を記憶する。また、過去の症例の異常血管部位に関する情報と、該症例において算出された特徴量である相対的血管長とを対応付けて記憶する。なお、相対的血管長については後述する。
【0030】
通信部15は、ネットワークインターフェイスカードやモデム等の通信用のインターフェイスを備えて構成される。医用画像処理装置10により画像生成された医用画像が、通信部15を介してプリンタサーバや画像サーバ、ビューワ等の外部装置へ送信される。
【0031】
次に、図2、図4、図11のフローチャートを参照して上述した医用画像処理装置10の動作について説明する。なお、以下に説明するフローチャートにおける各処理は、制御部11と記憶部14に記憶された各種のプログラムとの協働により実行される。
【0032】
まず、図2のフローチャートを参照して、本発明に係る医用画像処理装置10の処理の概要について説明する。
大略して各血管部位の名付けを行う「血管部位判別処理」(ステップS1〜S4)と、閉塞等の異常血管候補を検出する「異常血管検出処理」(ステップS5〜S8)とで構成されている。
本実施形態において、ステップS1が抽出工程、ステップS2〜S4、ステップS11〜S17が判別工程、ステップS5〜S8、ステップS21〜S30が検出工程に対応している。
【0033】
詳細については後述するが、血管部位判別処理では、まず制御部11により検査対象となる3次元MRA画像(以下「対象画像」)が入力される(ステップS1)。制御部11では入力された対象画像から血管像(以下「対象血管像」)が抽出され、この対象血管像を血管の部位が予め設定されている参照画像(図3参照)と比較するために、当該対象画像について、平行移動、回転を伴う各画像処理が施される(ステップS2)。制御部11では、対象血管像と参照画像とが比較され(ステップS3)、その比較結果に基づいて対象血管像に含まれる複数の血管部位が判別される。その後、参照画像に設定されている各血管部位の名称の情報が原画像である対象画像のヘッダ領域に書き込まれ、付帯される(ステップS4)。
【0034】
さらに、異常血管検出処理では、制御部11により全ての血管部位の長さにおける各血管部位の長さの割合(以下「相対的血管長」)が個別的に算出される(ステップS5)。算出された各相対的血管長は、正常症例における各血管部位の長さの割合(以下「正常値」)と比較される(ステップS6)。なお、ここでいう正常値とは、正常かつ平均的な健康状態であると医師により認定された被写体の3次元MRA画像から算出された相対的血管長である。
【0035】
制御部11では、比較の結果、対象血管像から算出された各相対的血管長が、正常値と所定値以上の差異がある場合、当該所定値以上となる血管部位において閉塞がある可能性が高いと判断され、当該血管部位が異常血管候補として検出される(ステップS7)。
MRA画像は血管の流れを撮影するものである。閉塞が発生している血管は血液が流れないため、MRA画像においては血管像として画像化されないこととなる。よって、閉塞が発生している場合には正常な場合に比して各相対的血管長のバランスが大きく崩れていることが考えられる。本実施形態では、各相対的血管長を求め、これを正常症例の各相対的血管長(正常値)と比較することにより、閉塞の可能性が高い異常血管候補を検出するものである。
次いで、制御部11において上記3次元MRA画像の付帯情報に基づいて、異常血管候補の名称が判別されると(ステップS8)、本処理は終了する。
【0036】
閉塞が発生している可能性が高い血管部位の名称を医師に提示することで、読影に要する時間の短縮化や医師の疲労による異常部位の見落とし防止等を図ることができる。また、異常レベルの数値化(相対的血管長の算出)により、異常の中でも特に重篤であるか否かの判断をすることができる。具体的には、正常値との比較により、正常値との差が大きいほど異常の程度が大きい(重篤である)ことを示す。さらに、異常血管検出処理により算出された、過去の相対的血管長に関するデータを図示しないデータベース等に格納しておくことで、現在検出した症例に類似した過去の症例を検索する際に利用することができる。過去の類似症例の経過観察結果から、現在の症例に対して適切な処置を図ることができる。
【0037】
ここで、図3を参照して、上述した血管部位判別処理において用いる参照画像について説明する。
参照画像は、図3(a)に示すように、3次元MRA画像上の血管像について、一又は複数の血管部位の位置及びその名称が予め設定されたものである。ここで、血管部位とは解剖学上の血管の分類をいい、血管部位の位置とは当該血管部位に属するボクセルの位置をいう。
【0038】
図3(a)では、血管像に含まれる8つの血管部位(前大脳動脈AC、右中大脳動脈RC、左中脳動脈LC、右内頸動脈RI、左内頸動脈LI、右後大脳動脈RP、左後大脳動脈LP、脳底動脈BA)についてその位置及び血管部位の名称を設定した例を示している。なお、図3(a)では8つの血管部位のうち、3つの血管部位(右中大脳動脈RC、前大脳動脈AC、脳底動脈BA)についてのみ名称を示しているが、8つ全ての血管部位について名称は設定される。
【0039】
参照画像g2は、参照画像用に選択された、図3(b)に示すような頭部MRA画像g1の3次元データから作成される。まず、この3次元データからある間隔毎にアキシャル画像(体軸に垂直な面でボクセルを切り出した2次元断層画像)を作成する。そして、一のアキシャル画像において医師の指摘に基づき、手動操作により各血管部位に属するボクセルを指定し、さらにその血管部位の名称を指定する。これを体軸方向に位置を変えてスライスした各アキシャル画像について繰り返すことにより、3次元データを構成する全ボクセルのうち、各血管部位に属するボクセルの位置及び血管部位の名称を設定することができる。
【0040】
また、参照画像g2には血管の屈曲点、終局点、血管部位同士の交差点等の特徴的な箇所においてランドマークのボクセルが設定される。ランドマークは対象画像と参照画像との位置合わせに使用されるものであるが、詳細な説明は後述する。ランドマークについても医師の指摘に基づく手動操作に応じて設定される。
【0041】
以上のようにして作成された参照画像g2は、記憶部14に保存される。
なお、参照画像g2の作成は医用画像処理装置10の制御部11で行ってもよいし、外部で作成されたものを記憶部14に保存することとしてもよい。また、血管像に含まれる8つの血管部位を示すため、図3(a)では各血管部位を識別表示したが、実際の参照画像g2は背景が黒(低信号値)、血管像が白(高信号値)と2値化された画像である。そして、各血管部位に属するボクセルの位置情報、名称の情報及びランドマークであるボクセルの位置情報は、参照画像に付帯されている、或いは参照画像と対応付けて別ファイルとして記憶部14に保存される。
【0042】
次に、図4のフローチャートを参照して血管部位判別処理について具体的に説明する。
医用画像処理装置10では、まず対象画像に対して制御部11により正規化処理が施される(ステップS11)。
対象画像として用いられるMRA画像は、血液の流れを画像化したものであるため、被写体や撮影条件によってボクセルが等サイズではない直方体となったり、ボクセル値の最大値、最小値にばらつきが生じたりする。そこで、対象画像に関する前提条件を統一するため、正規化処理を施す。
【0043】
正規化処理では、まずボクセルを構成する全ての辺が等サイズとなるように線形補間法により対象画像が変換される。次に、対象画像の全てのボクセルのボクセル値についてヒストグラムが作成され、ヒストグラムの上位5%以上のボクセル値を1024、最小のボクセル値を0として、対象画像の全てのボクセル値が0〜1024の階調に線形変換される。このとき、ボクセル値が高信号値であるほど濃度値1024に近く、低信号値であるほど濃度値0に近くなるように変換される。なお、濃度階調のレンジは、0〜1024に限らず適宜設定可能である。
【0044】
図5に、正規化処理の一例を示す。
図5(a)に示す対象画像g3、図5(b)に示す対象画像g4はそれぞれ異なる患者を被写体としたものである。そのため、対象画像g3から得られたヒストグラムh1(図5(a)参照)と、対象画像g4から得られたヒストグラムh3(図5(b)参照)とでは、2つの極大点があるという特徴が共通するが、そのボクセル値の範囲にかなり相違があり、全体としてヒストグラム特性が異なるものとなっていることが分かる。このようなヒストグラム特性を有する対象画像g3、g4について上記の正規化処理を施した後に再度ヒストグラムを作成すると、図5(a)に示すヒストグラムh2、図5(b)に示すヒストグラムh4がそれぞれ得られる。ヒストグラムh2、h4から分かるように、正規化処理によって各対象画像g3、g4のヒストグラム特性がほぼ同じものとなっている。
【0045】
正規化処理を終えると、制御部11では当該正規化された対象画像から血管像が抽出される(ステップS12)。
まず、対象画像について閾値処理が施され、2値化が行われる。一般的に、MRA画像では、図6(a)に示すように血管像は白く、その他の組織部分は黒っぽく表示されるため、2値化画像では血管像はその他の領域とは異なる値となる。よって、領域拡張法により血管像と同程度の信号値を有する領域の抽出を行う。
【0046】
領域拡張法では、2値化画像を用いて始点となるボクセル(最も白く高濃度値のボクセル)を決定し、2値化処理前の対象画像においてその始点と決定されたボクセルの近傍26ボクセルを調べ、ある判定条件(例えば、濃度値が500以上であること)を満たす近傍ボクセルを血管像と判断する。そして、この血管像と判断された近傍ボクセルについても上記と同様の処理を繰り返す。このように、領域を拡張しながら判定条件を満たすボクセルを順次抽出することにより、血管像の画像領域を抽出することができる。
【0047】
図6(b)に、血管像を抽出した対象血管像g6を示す。
対象血管像g6は、図6(a)に示す正規化後の対象画像g5から血管像を抽出し、当該血管像の領域を白(濃度値1024)、その他の領域を黒(濃度値0)で2値化したものである。
【0048】
次に、制御部11では、対象血管像の位置と参照画像の血管像の位置とを略一致させるため、各画像の重心位置を元に位置合わせが行われる(ステップS13)。重心位置は、血管像に属する全てのボクセルの重心となるボクセルの位置である。
【0049】
図7を参照して、具体的に説明する。
図7(a)は、位置合わせ前の対象血管像と参照画像とを重ね合わせた図である。図7(a)から単に対象血管像と参照画像を合わせただけではそれぞれの血管像の位置が一致していないことが分かる。
そこで、制御部11では、図7(a)に示すように対象血管像の重心P(x1、y1、z1)、参照画像の重心Q(x2、y2、z2)の位置が求められる。次いで、この重心位置P、Qが一致するように、対象血管像又は参照画像が平行移動される。平行移動により各重心位置P、Qを一致させた結果が、図7(b)に示す図である。図7(b)から対象血管像と参照画像の位置が大まかに一致していることが分かる。
【0050】
さらに、精度よく位置合わせを行うため、制御部11では対象血管像について剛体変形が行われる(ステップS14)。
まず、剛体変形の前処理として相互相関係数を用いた対応点の検索が行われる。剛体変形は、位置合わせを行う2つの画像についてそれぞれ複数の対応点を設定し、この2つの画像において設定された対応点がそれぞれ一致するように一方の画像を変換するものである。ここでは、参照画像において予め定められているランドマークのボクセルと、局所的に画像特性が類似する対象血管像のボクセルが対応点として設定される。画像特性の類似性は、対象血管像と参照画像について相互相関係数が求められ、この相互相関係数に基づいて判断される。
【0051】
具体的には、図8(a)に示すように、予め参照画像g7の血管像において設定されている12点のランドマークに対応する対応点が対象血管像から検索される。対応点の検索時には、図8(b)に示すように、対象血管像g8において、参照画像g7の各ランドマークと対応する位置のボクセルを開始点とし、対象血管像g8及び参照画像g7において当該開始点及びランドマークのボクセルからX軸、Y軸、Z軸方向に−10〜+10ボクセルの範囲(21×21×21ボクセルの立方領域)内のボクセルが探索され、各ボクセルについて、下記式(1)により相互相関係数C(以下「相関値C」)が算出される。
【数1】

上記式(1)においてA(i,j,k)は参照画像g7のボクセル位置、B(i,j,k)は対象血管像g8のボクセル位置を示す。IJKは探索領域のサイズを示し、IJK=21×21×21である。
【0052】
また、α、βは、それぞれ参照画像g7、対象血管像g8における探索領域内のボクセル値の平均値であり、下記式(2)、(3)により示される。σ、σは、それぞれ参照画像g7、対象血管像g8における探索領域内のボクセル値の標準偏差であり、下記式(4)、(5)により示される。
【数2】

【0053】
相関値Cは−1.0〜1.0の値域を持ち、最大値1.0に近いほど、参照画像g7と対象血管像g8の画像特性が類似していることを示す。
そこで、最も大きな相関値Cをとるボクセルの位置が、参照画像g7のランドマークに対応する対象血管像g8の対応点として設定される。
【0054】
対応点が設定されると、制御部11ではこの対応点に基づき、対象血管像g8に対して剛体変形を施すことにより、対象血管像g8と参照画像g7との位置合わせが行われる。剛体変形は、アフィン変換の一つであり、回転、平行移動により座標変換を行うものである。位置合わせは、最小二乗法を用いた剛体変形を複数回繰り返すICP(Iterative Closest Point)アルゴリズムにより対象血管像g8の対応点が参照画像g7のランドマークに一致するように行われる。このアルゴリズムによれば、剛体変形を行う毎に、参照画像のランドマークと対象血管像の対応点における距離の最小二乗誤差を算出し、当該最小二乗誤差がある閾値を超える等の終了条件を満たすまで剛体変形が繰り返される。なお、剛体変形に代えてアフィン変換(回転、平行移動に加えて拡大縮小を行う変換方法)を行うこととしてもよい。
【0055】
次いで、参照画像に基づき、剛体変形により位置合わせされた対象血管像に含まれる各血管部位が制御部11において判別される(ステップS15)。
まず、参照画像の各血管部位に属するボクセル全てを対象に(以下「対象ボクセル」)、対象血管像における一の注目ボクセルとのユークリッド距離の2乗が求められる。そして、その求めたユークリッド距離が最短となる対象ボクセルが属する血管部位が、注目ボクセルが属する血管部位であると判断される。またこのとき、対象ボクセルに設定されている血管部位の名称から、注目ボクセルの血管部位の名称が判断される。
【0056】
対象血管像の血管像を構成する全てのボクセルに対し、注目ボクセルを設定して上記の処理を行い、全ボクセルについて対応する血管部位が判別されると、その判別された血管部位に属するボクセルの位置、血管部位の名称を示す血管部位情報が制御部11により生成され、対象画像に付帯される(ステップS16)。
例えば、位置(x3、y3、z3)のボクセルは前大脳動脈の血管部位であると判別された場合、そのボクセル位置「(x3,y3、z3)」のボクセルは血管名称「前大脳動脈」の血管部位であることを示す血管部位情報が対象画像のヘッダ領域に格納されることで付帯される。
【0057】
図9に、血管部位の判別結果を示す。
図9(a)に示す対象血管像g9と図9(b)に示す対象血管像g11は、それぞれ異なる被写体から得られた画像であり、図9(a)に示す画像g10、図9(b)に示す画像g12はそれぞれ対象血管像g9、g11から各血管部位が判別され、その血管部位毎に色を変えて識別表示した画像である。画像g10、g12から、剛体変形による位置合わせを行うことにより、画像g10、g12の血管像が異なる形態(血管の位置、大きさ、延在方向等)であるにも拘わらず、同じように血管部位を識別できていることが分かる。
【0058】
以上が、対象画像における血管部位を判別し、その血管部位情報を付帯するまでの流れである。そして、このような対象画像について操作部12を介して表示指示操作がなされると、制御部11により対象画像にMIP(Maximum Intensity Projection)処理が施されてMIP画像が生成され、表示部13上に表示される(以下、MIP画像の表示をMIP表示という)。
なお、MIP法とは、3次元的に構築された画像データに対し任意の視点方向に投影処理を行うことで投影経路中の最大値を投影面(2次元面)に表示する手法であり、断層像だけでは全体としての連続性が把握し難い場合に有効な手法である。
【0059】
対象画像がMIP表示された状態においてさらに血管部位の識別表示の指示操作がなされると、制御部11では対象画像に付帯されている血管部位情報が参照され、この血管部位情報に基づき、MIP画像中の血管像において各血管部位が識別可能となるように表示制御が行われる(ステップS17)。
【0060】
例えば、血管部位情報に基づいて各血管部位のボクセル位置及び名称が判別されると、制御部11では、MIP画像において前大脳動脈ACの血管部位に属するボクセルには青色、脳底動脈BAの血管部位に属するボクセルには緑色等、血管部位毎に判別された位置にあるボクセルに血管部位毎の色が設定される。そして、対象画像のMIP画像に当該設定色を反映させる。さらにその血管部位の名称を指示すアノテーション画像が作成されてMIP画像の対応する血管部位に合成される。
【0061】
図10に、識別表示例を示す。
図10においてMIP画像g13は対象画像が頭部上方向からMIP表示されたものである。このMIP画像g13が表示された状態で各血管部位の識別表示が指示操作されると、識別表示画像g14が表示される。識別表示画像g14は、対象血管像において8種類の血管部位にそれぞれ異なる色を付す等して、各血管部位を識別表示したものである。識別表示画像g14において、医師によりある血管部位が選択操作されると、制御部11の表示制御により当該選択された血管部位に関連づけて「脳底動脈」等の血管部位の名称を示すアノテーションmが表示される。
【0062】
上記頭部上方向のMIP画像g13に対して、側面方向からのMIP表示が指示されると、制御部11により側面方向に応じたMIP画像g15が作成されて、表示される。MIP画像g15では、手前側の血管像と後方側の血管像とが重なり合っており、観察しづらい表示となっている。このようなMIP画像g15においても、血管部位の識別表示が可能である。血管部位情報を参照することにより、何れのボクセルが何れの血管部位に該当するのかを判別することができるため、MIP表示の観察方向の変動によらず、識別表示すべきボクセルを特定できるからである。
【0063】
MIP画像g15に対応する識別表示画像は画像g16である。この識別表示画像g16においては、何れかの血管部位のみを抽出して表示することが可能である。
制御部11では、操作部12を介して何れか一の血管部位が選択操作されると、当該選択された血管部位のボクセルの輝度のみを投影させたMIP画像、つまり対象画像のMIP画像g15から選択された血管部位のみが抽出された血管選択画像g17が表示される。血管選択画像g17では、選択された血管部位のみMIP表示され、その他の血管部位が非表示とされているため、医師は関心のある血管部位のみに注目して観察することができる。
【0064】
また、これら表示された画像g13〜g17は、同一画面上に並べて表示することとしてもよいし、一画面一画像として切替表示することとしてもよい。前者の場合、MIP画像g13と識別表示画像g14、血管選択画像g17等とを比較観察することが可能となるし、後者の場合は全画面表示で各画像g13〜g17を観察することができ、詳細を観察しやすくなる。
【0065】
次に、図11のフローチャートを参照して、異常血管検出処理について具体的に説明する。
上述した血管部位判別処理の後、制御部11により対象血管像に対して細線化処理が施される(ステップS21)。細線化とは、一定の太さのある図形を、屈曲点、終局点、血管部位同士の交差点等の特徴的な箇所を除いて、太さ1の線図形に変換する処理をいう。後段の処理において血管の長さを算出するがこの長さは血管領域を構成するボクセル数によって算出されるものである。血管領域は同じ血管部位であっても被写体によって個人差が生じる。細線化処理はこの血管領域の個人差を最小限とするために行うものである。
【0066】
具体的には、まず、血管領域を抽出した2値画像(血管領域の濃度値が1、背景の濃度値が0となる画像)に対して、2乗ユークリッド距離変換を行う。ユークリッド距離変換された画像とは、入力画像の全てが0の値となるボクセル(以下「0ボクセル」)から注目ボクセルまでの距離の最小値の2乗で定義される画像である。境界ボクセル(注目ボクセルの26近傍に1以上の0ボクセルが存在する)中で最小の距離をもつ画像を抽出し、それらのボクセルをその近傍の0ボクセルの配置によって9種類に分類する。分類した一のボクセルについて、同一種類の境界ボクセルの消去可能性を判定し、消去可能なボクセルを逐次的に消去(0ボクセルに変更)する。9種類の境界ボクセルの各々について上述と同様の処理を行い、消去可能ボクセルが存在するまで繰り返すことで細線化の処理が実行される。なお、細線化については上記以外の何れの方法を適宜適用してもよく、例えば、文献「Saito T, Toriwaki J. A sequential thinning algorithm for three dimensional digital pictures using the Euclidean distance transformation. Proceedings of the 9th Scandinavian Conference on Image Analysis SCIA 95. Uppsala, Sweden 1995;507-516.」に記載されている3次元画像における細線化処理が、いわゆる当業者において知られている。
【0067】
図12に、細線化処理の結果例を示す。
図12(a)には、正常かつ平均的な健康状態である被写体の血管像(以下「正常血管像」)g18、g19を示し、図12(b)には、閉塞を伴った被写体の血管像(以下「閉塞血管像」)g19、g20を示す。また、血管像g18、g20は細線化処理を施す前のものであり、血管像g19、g21は細線化処理を施した後のものである。正常血管像g19と閉塞血管像g21とを比較すると、例えば、右中大脳動脈RCの血管の長さの違いが明確に表示されていることが分かる。
【0068】
細線化処理が施されると、制御部11により細線化処理された閉塞血管像g21から各血管部位における血管の長さが算出される(ステップS22)。
具体的には、細線化処理が施されることにより、血管の芯線画像(血管を細線化して得られた血管の中央部分(芯)が1ボクセルでその他のボクセルが0ボクセルとなった画像)が取得される。取得された芯線画像から、1ボクセルのボクセル数をカウントすることにより血管の長さが算出される。
【0069】
次に、制御部11により相対的血管長が算出される(ステップS23)。相対血管長は全血管部位の長さに対する各血管部位の長さの比率である。全血管部位の長さは、ステップS22において算出した各血管部位の長さの総和を求めることにより算出される。ここでは、血管判別処理において上述した8つの血管(前大脳動脈AC、右中大脳動脈RC、左中脳動脈LC、右内頸動脈RI、左内頸動脈LI、右後大脳動脈RP、左後大脳動脈LP、脳底動脈BA)の8つの血管部位の各相対的血管長を算出する例を説明する。
【0070】
図13に、複数の被写体において算出された相対的血管長の一例を示す。正常かつ平均的な健康状態である被写体の正常血管像から算出された各相対的血管長(正常値)は、異なる被写体同士であっても同程度の割合となる(例えば、図13に示すように被写体A〜Cの前大脳動脈ACの割合は同程度である)。一方、閉塞を伴った被写体の血管像から算出された各相対的血管長は、閉塞が発生している血管部位の割合が著しく小さくなるとともに、その他の正常な血管部位の割合が大きくなり、各相対的血管長のバランスが大きく崩れている。これは閉塞が生じた血管部位の長さが短くなると、全血管長を占める閉塞の血管部位の長さの比率が小さくなるに伴い、その他の正常な血管部位の比率が大きくなるためである。図13では、被写体Dは右中大脳動脈RC、被写体Eは前大脳動脈AC及び左後大脳動脈LPにそれぞれ閉塞が起こっている可能性を確認することができる。
【0071】
次に、図14、15を参照して、算出された相対的血管長をある任意の座標系に分布させる処理について、以下に説明する。
正常血管像から算出された各相対的血管長(正常値)と、閉塞血管像から算出された各相対的血管長(閉塞値)との分布の様子から、各血管部位が正常か否かを容易に判断する事ができる。さらに、閉塞値同士が近い位置に分布する場合、当該分布の範囲内にある閉塞値を、過去の類似症例として容易に検索することができる。
【0072】
制御部11では、上述したステップ23の処理により算出した8つの相対的血管長が8つの特微量として8次元空間にプロットされる(ステップS24)。
図14(a)に、3つの相対的血管長を特微量として3次元空間にプロットした分布図を示す。なお、説明の便宜上、ここでは3つの相対的血管長を基に3次元空間にプロットする例を示したが、実際には上述したように、8つの相対的血管長を要素として8次元空間にプロットするものとする。また、図14(b)は、3つの相対的血管長における正常な被写体A〜Cと、閉塞を伴う被写体D、Eを示す。
【0073】
図14(a)のPA〜PCは、正常血管像g19から算出された正常値の特微量の分布である。正常値では、各相対的血管長が一定のバランスを保っているため、PA〜PCは互いに近い位置に分布し、一定の範囲N(以下「正常範囲N」)を構成する。
一方、PD、PEは閉塞値の分布であり、正常範囲Nから一定の離れた距離の位置に分布することとなる。よって、PD又はPEから、正常範囲Nまでのユークリッド距離が制御部11により計算され、計算された距離が所定値を超える分布については閉塞の可能性が高いと判断される。
【0074】
次に、図15を参照して、特微量がプロットされた多次元空間を、2次元空間に変換する処理について説明する。2次元空間へと変換することにより、表示部13に表示した場合には、視覚的に正常値と閉塞値との分布の様子を認識することができる。また、分布する閉塞値の中でも、過去の類似症例を検索することが容易となる。
【0075】
制御部11では主成分分析により特微量空間である8次元空間を2次元空間へと変換する(ステップS25)。
主成分分析とは、相関関係にある複数の要素を合成、圧縮して複数の成分を一つの成分とし、その特性を求める方法である。ここで施される主成分分析は、8つの相対的血管長を圧縮して一つの成分を算出し、その特性を2次元空間上にプロットする。プロットされた位置は、8つの特微量の内全てが同一でない限りは、同一の場所にプロットされることはない。
【0076】
図15(a)は、8次元空間を主成分分析により2次元空間に変換した分布図であり、複数の正常値(PA〜PC、PAa〜PCa)及び閉塞値(PD、PE、PDa、PEa)が2次元空間にプロットされている。なお、座標空間にプロットされている正常値及び閉塞値は、記憶部14に記憶された過去症例及び検査対象画像に基づくものである。
図14(a)と同様に、正常値は正常値同士近い位置となるような正常範囲N内に分布し、一方で閉塞値は正常範囲Nから離れた閉塞範囲ANに分布する。閉塞範囲AN内でも、閉塞値同士で近い距離(所定範囲)に分布する場合もある。閉塞値同士が近い位置に分布しているということは、閉塞が発生した血管部位が同じであり、かつ閉塞の起きている程度(相対的血管長)も同程度であることを意味する。
【0077】
ところで、8次元空間に分布している特微量を2次元空間に分布させて、表示部13により表示させる利点は、視覚的に認識することが容易となることである。また、過去の類似症例について検索したい場合には、例えば、プロットされている所望の個所を操作部12が備えるマウス等(図示省略)でクリックする。操作部12から指示を受けた制御部11の表示制御により、当該クリック操作された特徴量に該当する過去の類似症例が表示部13に表示される。
図15(b)に、プロットされている所望の個所をマウス等でクリックした場合における表示画面の一例を示す。操作者がマウス等で、相対的血管長の情報となるプロット個所Pをクリックすると、相対的血管長の情報と対応付けられて記憶部14に記憶されている異常血管部位に関する情報Iが画面に表示される。異常血管部位に関する情報Iとは、例えば、異常血管部位名、相対的血管長、閉塞血管像等の各情報である。
このように、表示部13に過去の類似症例が表示される態様とすることで、過去症例のデータについて簡易に検索することができる。
【0078】
次に、主成分分析により2次元空間に分布された特微量について、更に2次識別器(QDA;Quadratic Discriminant Analysis)処理を施す(ステップS26)。
図15(c)は、QDAを用いた判別分析により正常値(PA〜PC、PAa〜PCa)と閉塞値(PD、PE、PDa、PEa)とを判別した一例である。
【0079】
QDAとは、正常値と閉塞値とから特微量を抽出し、特微量空間での正常値の分布と閉塞値との分布とを2次曲面で分離することにより、一方を正常値クラスNa、他方を閉塞値クラスANaとして判別する方法である。なお、2次曲面は下記式(6)により表すことができる。
【数3】

ここで,Xはすべての候補の特徴量ベクトルである。(MA, ΣA)と(MN, ΣN)はそれぞれ閉塞値と正常値の平均特徴量ベクトルと特徴量の共分散行列を表す。QDAは,8つの特徴量によって測定された特徴量空間を,2つのクラス,すなわち正常値クラスNaと閉塞値クラスANaに分割する識別境界Mを生成する。QDAによる識別境界は,識別関数によって与えられる2次曲面である。識別関数Mの出力値は、閉塞値の可能性を示す。したがって、識別関数Mの出力を閾値処理することによって特微量を正常値クラスNaと閉塞値クラスANaに分類することができる。また、識別関数Mの出力値の閾値を変化させることにより、閉塞値の検出性能を任意に決定することができる。
なお、本実施形態においては識別器としてQDAを用いることにしたが、これに限らず、ニューラルネットワークやサポートベクタマシン等を用いてもよい。
【0080】
QDAにより生成された識別境界Mにより、主成分分析による表示に加えて閉塞分布をより視覚的に把握することができ、正常値と閉塞値の区分けも容易となる。表示部13に表示されたプロット値の内、操作者が操作部12により任意に選択したプロット値(或いは、対象画像から取得されたプロット値)が正常値か閉塞値かは、識別境界Mとの比較により、制御部11によって判断される(ステップS27)。
【0081】
選択されたプロット値が識別境界Mよりも小さいと判断された場合(ステップS27;No)、すなわち正常値クラスNaである場合には、当該プロット値は正常値であると認識される。なお、このような判別分析により制御部11において当該判断、認識する他、図15(a)〜(c)に示す分布図を表示部13に表示する態様とした場合であれば、操作者(医師)による人為的な判断、認識が可能である。
【0082】
選択されたプロット値が識別境界Mよりも大きいと判断された場合(ステップS27;Yes)、すなわち閉塞値クラスANaである場合には、当該プロット値は閉塞値であると認識される(ステップS28)。閉塞値と認識されたプロット値については、以下に説明する血管部位の検出処理へと移行する。
【0083】
図16に、血管部位判別処理により対応付けられた各血管部位名(前大脳動脈AC、右中大脳動脈RC、左中脳動脈LC、右内頸動脈RI、左内頸動脈LI、右後大脳動脈RP、左後大脳動脈LP、脳底動脈BA)と、異常血管検出処理により算出された各相対的血管長とが対応付けられた検査対象値の一例を示す。また、同様の対応付けが正常値についても実行される(以下、対応付けされた正常値を「正常対象値」という)ものとする。検査対象値及び正常対象値は、特微量空間においてプロットされた特徴量に、各血管部位名を対応付けたものである。なお、当該対応付け及び以下に説明する処理は、制御部11により実行される。
【0084】
検査対象値と正常対象値が比較されることで、どの血管部位に閉塞が発生している可能性が高いかが検出され(ステップS29)、閉塞が発生している可能性が高い血管部位名が検出された場合には、操作者に対して検出した血管部位名が通知されることとなる。
操作者に対する通知手段として、上述した「血管判別処理」におけるステップS17と同様の処理を行う。具体的には、閉塞が発生している可能性が高い血管部位名にのみアノテーションmが表示されるように表示制御が行われる(図10のg14参照)。操作者に対して当該血管部位名の表示がなされ(ステップS30)、本処理は終了する。
【0085】
以上のように、本実施形態によれば、制御部11により対象画像の相対的血管長が算出され、算出された相対的血管長を用いて正常値を基準とする判別分析が行われる。判別分析の結果、閉塞血管の有無及び閉塞血管部位名が検出される。検出された閉塞血管部位名が、読影医師や閲覧者等に提示されることにより、複雑なMRA画像について読影する際の、読影時間の短縮化、閉塞血管の見落とし防止等を図ることができる。
【0086】
複数の血管部位との関係で求めた相対的血管長によって判別分析を行うことにより、閉塞血管部位の検出が容易となる。これは、ある一つの血管部位でその血管長に変化があれば他の血管部位の相対的血管長に大きな変化をもたらすこととなるためである。よって、算出された各相対的血管長を判別分析すると、閉塞血管部位が含まれている場合には正常値ではなく閉塞値のほうへ分布しやすくなり、閉塞血管部位が含まれているか否かの判断が容易となる。また、同じ閉塞値側に偏って分布する場合でも、閉塞が発生している血管部位毎に分布に偏りが生じる。従って、何れの閉塞値に近いかを判断することにより、閉塞が発生した血管部位を特定することも可能である。
【0087】
また、8つの相対的血管長を特微量として8次元空間へプロットし、主成分分析した結果に基づいて2次元空間へと変換する。これにより、正常値の分布と閉塞値の分布とを視覚的に認識することが容易となる。更には、過去の類似症例についての検索を行う場合には、特微量空間において対象検査値と近い位置にプロットされたものについて検索すればよく、検索効率の向上を図ることができる。
【0088】
また、血管判別処理によれば、画像上の血管像に含まれる8つの血管部位の位置及び名称を予め定めた参照画像と対象画像とを、その血管像について位置合わせすることにより、対象血管像に含まれる各血管部位の位置及び名称を判別する。そして、この位置及び名称の情報を血管部位情報として対象画像に付帯させるので、対象画像のMIP表示を行う際には当該血管部位情報に基づき、各血管部位を容易に判別することができ、各血管部位の識別表示が可能となる。従って、医師は対象画像における特定の血管部位に注目して対象画像を観察することが可能となり、読影効率の向上を図ることができる。
【0089】
MIP表示を行う際、そのMIP表示を行う方向によっては複数の血管部位が重複し、注目したい血管部位に対する観察が困難となる場合がある。
しかしながら、本処理を施すことにより各血管部位の識別表示が可能となるため、医師は各血管部位についての位置や名称を容易に特定することができ、読影作業の効率化を図ることができる。
【0090】
また、識別表示された各血管部位のうち、任意の血管部位の選択操作に応じて、当該選択された血管部位のみを抽出して表示したターゲットMIP画像を作成し、表示するので、医師は注目したい血管部位のみを観察することが可能となる。よって、複数の血管部位の重複を解消することができ、動脈瘤の多発部位等、ある血管部位に特定して観察を行うことができる。
【0091】
また、対象画像と参照画像の血管像の位置合わせを行う際には、まず重心位置に基づいて大まかな位置合わせを行った後、相互相関係数により対象画像に剛体変形を施して対象画像の血管像の特徴点を参照画像の血管像の対応する特徴点に一致するように細かな位置合わせを行う。
【0092】
異なる被写体(患者)であっても主要な血管部位の形態(血管の長さや延在方向、太さ等)は概ね共通するが、主要でない細い血管部位についてはその形態に個体差が生じるため、血管部位の形態は被写体によって様々なものとなる。
しかしながら、本処理のように最終的に剛体変形により血管像の主な屈曲点等の特徴点の位置を合わせこむことにより、対象画像中の各血管部位がどのような形態を呈していても、精度よく参照画像の血管部位と対応させることができる。従って、被写体によらず一律に血管部位を判別することができ、汎用性が高い。
【0093】
さらに、位置合わせは2段階(重心位置に基づくものと、剛体変形によるもの)で行うので、血管部位を判別する判別精度を向上させることができる。また、剛体変形の前に重心位置により位置合わせを行っておくことにより、剛体変形に係る処理時間の短縮化を図ることができ、処理効率が良い。
【0094】
なお、上記実施形態における医用画像処理装置10の細部構成及び詳細動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能であり、本実施形態に限られない。例えば、本実施形態では、対象血管像から各相対的血管長を算出し、算出した各相対的血管長を2次元の特微量空間にプロットする。プロットした検査対象値と、正常対象値と比較することとにより閉塞血管の有無及び血管部位名を検出することとしたが、これに限らず、2次元空間に変換せずに、算出した検査対象値を記憶部14に予め記憶された正常対象値と比較することにより閉塞血管部位を検出する態様としてもよい。
【0095】
また、上述した実施形態は、本発明を適用した好適な一例であり、これに限定されない。例えば、MRA画像を用いた例を説明したが、造影剤を用いて血管を撮影した造影MRA画像等、他の撮影方法によるMRI画像を用いてもよい。また、CTA(Computed Tomography Angiography)、DSA(Digital Subtraction Angiography)等、他の撮影装置により血管が撮影された画像を用いることとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明に係る医用画像処理装置10の内部構成を示す図である。
【図2】本発明に係る医用画像処理装置10の処理の概要について説明するフローチャートである。
【図3】参照画像を示す図である。
【図4】血管部位判別処理について説明するフローチャートである。
【図5】正規化処理の一例を示す図である。
【図6】2値化画像の一例を示す図である。
【図7】位置合わせ前の対象血管像と参照画像とを重ね合わせた図である。
【図8】参照画像におけるランドマークと、血管抽出画像における対応点を示す図である。
【図9】血管抽出画像とその血管部位の判別結果を示す図である。
【図10】対象画像において判別された各血管部位の識別表示例を示す図である。
【図11】異常血管検出処理について説明するフローチャートである。
【図12】細線化処理の一例を示す図である。
【図13】複数の被写体において算出された相対的血管長の一例を示す図である。
【図14】3次元の特微量として3次元空間にプロットした分布を示す図である。
【図15】2次元空間に変換した後の分布を示す図である。
【図16】各血管部位名と、各相対的血管長とを対応付けた一例を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
10 医用画像処理装置
11 制御部
12 操作部
13 表示部
14 記憶部
15 通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象画像から血管像を抽出する抽出手段と、
前記血管像と血管像に含まれる一又は複数の血管部位が予め特定された参照画像とを比較し、その比較結果に基づいて前記血管像に含まれる一又は複数の血管部位を判別する血管判別手段と、
前記血管判別手段により判別された各血管部位のそれぞれにつき相対的血管長を算出し、各相対的血管長を特徴量として用い判別分析した結果に基づいて異常血管部位を検出する異常血管検出手段と、
を備えることを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記検査対象画像を表示する表示手段と、
前記表示された検査対象画像において前記検出された異常血管部位を識別表示させる表示制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記参照画像は、各血管部位についてその血管名が定められており、
前記異常血管検出手段は、前記参照画像に基づいて前記検出された異常血管部位の血管名を判別し、
前記表示制御手段は、前記判別された異常血管の血管名を識別表示された前記異常血管に対応付けて表示することを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記異常血管検出手段は、前記算出された各血管部位の相対的血管長を、正常症例における各血管部位の相対的血管長と比較することにより異常血管部位の有無を検出することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記異常血管検出手段は、前記血管像に対し細線化処理を施し、当該処理画像を用いて各血管部位の相対的血管長を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記検査対象画像は、MRA画像であり、
前記異常血管検出手段は、閉塞が発生した異常血管部位を検出することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記異常血管検出手段により検出された異常血管部位に関する情報を、当該検出に用いた相対的血管長の情報と対応付けて記憶する記憶手段を備え、
前記表示制御手段は、前記記憶手段により対応付けて記憶された相対的血管長の情報を2次元空間に分布させて前記表示手段上に表示させ、さらにこの前記2次元空間に分布する何れかの相対的血管長の情報が指定されると、当該指定された相対的血管長の情報に対応付けられた前記異常血管部位に関する情報を前記記憶手段から取得して前記表示手段上に表示させることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
異常血管部位に関する情報と特徴量とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記特徴量を座標空間にプロットしたときの、該座標空間における前記検査対象画像の特徴量との距離が所定範囲内にある、前記記憶手段に記憶された特徴量と対応付けられた異常血管部位に関する情報を検索する検索手段とを有することを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記抽出手段により、検査対象画像から血管像を抽出する抽出工程と、
前記血管判別手段により、前記血管像と血管像に含まれる一又は複数の血管部位が予め特定された参照画像とを比較し、その比較結果に基づいて前記血管像に含まれる一又は複数の血管部位を判別する判別工程と、
前記異常血管検出手段により、前記血管判別手段により判別された各血管部位のそれぞれにつき相対的血管長を算出し、各相対的血管長を判別分析した結果に基づいて異常血管部位を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
コンピュータに、請求項9に記載の画像処理方法を実行させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−73332(P2008−73332A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257617(P2006−257617)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【特許番号】特許第3928977号(P3928977)
【特許公報発行日】平成19年6月13日(2007.6.13)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】