説明

医療器具挿入装置及び医療器具挿入装置システム

【課題】簡易な構造により、挿入部を安定させた状態で体内を確実に推進させる。
【解決手段】細長の挿入部10に設けられた螺旋状構造部11と、前記挿入部10を所定の軸方向に沿って進退可能に保持する保持部30と、前記所定の軸の周りに前記保持部30を回転させる回転駆動部20と、を備えることを特徴とする医療器具挿入装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸等の湾曲した体腔内に内視鏡等の医療器具の挿入を行う医療器具挿入補助装置及び医療器具挿入装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、内視鏡を大腸等の体腔管路の深部に挿入するには、S字結腸のような複雑な湾曲部を通過させねばならず、使用する術者に熟練を必要としている。このような内視鏡の挿入を容易にする発明が種々開示されている。
【0003】
例えば、第1の従来例としての特許文献1には、内視鏡の挿入部全体を螺旋状に形成し、挿入部の体外側端部に設けられたハンドルで挿入部を回転させることにより、内視鏡の大腸内への挿入性を向上させた、大腸ファイバースコープが開示されている。第2の従来例としての特許文献2には、円筒と輪(リング)を多数連結し、その外側に螺旋状の部材を設けた大腸ファイバースコープ誘導器が開示されている。ここでは、円筒と輪の内側に内視鏡の挿入部を挿通し、円筒と輪の連結体を回転させることにより、内視鏡の大腸への挿入を行いやすくしている。また、第3の従来例としての特許文献3には、内視鏡の挿入部に対して進退動作及びねじり動作を行う内視鏡挿入装置が開示されている。ここでは、内視鏡挿入部を押圧する複数のボールのうち、モータに接続されたボールが、挿入部の軸方向、または軸方向と垂直な方向に回転することにより、挿入部の進退動作とねじり動作を行っている。
【特許文献1】特開昭54−78884号公報
【特許文献2】実開昭51−73884号公報
【特許文献3】特開平3−92126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第1の従来例及び第2の従来例では、内視鏡後端部で回転力を伝達するため、挿入口である肛門部と回転伝達部が設けられた内視鏡後端部との間で、挿入部が不安定な運動を起こしたり捻れたりすることから、操作性を向上させることが困難である。そして、この挿入部の安定性を向上させるために回転駆動部を挿入口に近づけることは、挿入部の全長を短くすることにつながるため、挿入部を体腔内管路の深部へ挿入させることを困難にする。また、第3の従来例では、内視鏡を推進させる力がある一定の値を超えて出力されないため、例えば、内視鏡の挿入部が体腔管路の深部に挿入される場合等において、挿入部と体腔内管路内壁との間に発生する摩擦力が増加すると、推進力が不足するという問題がある。そして、この挿入部の推進力の不足を補うために、推進力を発生するモータ等のアクチュエータを強力なものにすることは、装置全体の大型化を招くので、コストの増加または操作性の低下につながる。また、挿入部の進退動作とねじり動作を別々のモータにより行っているので、駆動機構が複雑になりやすい。
【0005】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、簡易な機構により、挿入部を安定させた状態で体内を確実に推進させることができる医療器具挿入装置及び医療器具挿入装置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、細長の挿入部に設けられた螺旋状構造部と、前記挿入部を所定の軸方向に沿って進退可能に保持する保持手段と、前記所定の軸の周りに前記保持手段を回転させる回転駆動部と、を備えることを特徴とする医療器具挿入装置を提供する。
【0007】
上記の構成によれば、保持手段は、被験者に対して一定の位置に保たれた状態で、挿入部を軸方向に進退可能に保持する。ここで、挿入部は、保持手段により保持されているので、保持手段の回転に追従して回転する。よって、体腔内管路において、螺旋状構造部が管路内壁に接触して回転することにより、挿入部は円滑な移動を行う。
【0008】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、保持手段は抵抗部を有し、抵抗部は挿入部と接触する位置に設けられ、かつ、抵抗部は前記所定の軸に沿って移動可能であることが望ましい。上記構成によれば、保持手段の回転に伴って、抵抗部が回転する。このとき、抵抗部は挿入部と接触しているため、抵抗部の回転に伴って挿入部も回転する。その結果、挿入部の一部が体腔内にあった場合、この挿入部の一部において推進力が発生する。また、抵抗部は、所定の軸に沿って移動するようになっているので、挿入部が所定の軸に沿って移動しても、抵抗部が挿入部と一緒に移動するだけである。そのため、保持手段及び回転駆動部は、挿入部の移動に引きずられて移動することはない。したがって、保持手段及び回転駆動部の位置を、常に一定の位置に保つことができる。
【0009】
また、抵抗部は、所定の軸の方向と略垂直な方向に抵抗する力を生じることが好ましい。上記構成によれば、抵抗部によって、挿入部に対して、回転駆動部の回転が確実に伝達される。
【0010】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、抵抗部は、所定の軸に沿う方向に断続的に凸部を有するベルトであることが好ましい。上記構成によれば、挿入部の進退方向を制限することが可能になる。
【0011】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、抵抗部は、前記所定の軸方向と略垂直な方向に回転軸を有する回転部材であることが好ましい。上記構成によれば、挿入部の進退方向を制限する手段を設けることが可能になる。
【0012】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、保持手段に磁界発生部を備える構成にしてもよい。上記構成によれば、保持手段を簡単な構造とすることが可能になる。
【0013】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、螺旋状構造部の外径を可変にする外径可変手段を有することが好ましい。上記構成によれば、螺旋状構造部と体内組織表面の接触を適切なものにすることができるため、挿入部を確実に推進させることができる。
【0014】
また本発明は、細長の挿入部と、前記挿入部に設けられた螺旋状構造部と、前記挿入部を所定の軸方向に沿って進退可能に保持する保持手段と、前記保持手段を前記所定の軸の周りに回転させる回転駆動部と、前記挿入部に案内されて体腔内に挿入される医療装置と、を備える医療器具挿入装置システムを提供する。
【0015】
上記の構成によれば、保持手段が挿入部を軸方向に進退可能に保持するので、回転駆動部は、被験者に対して一定の位置に保たれた状態で、保持手段を回転させる。ここで、挿入部が保持手段により保持される状態にあるとき、挿入部は保持手段の回転に追従して回転する。さらに、螺旋状構造部が挿入部に設けられる状態にあるとき、体腔内管路において、螺旋状構造部が管路内壁に接触して回転することにより、挿入部は円滑な推進または後退を行う。
【0016】
また上記発明の医療器具挿入装置システムによれば、保持手段は、挿入部の長手方向に移動可能で、螺旋状構造体に対して挿入部の長手方向と略垂直に抵抗する抵抗部を備えることが好ましい。上記の構成によれば、保持手段に設けられた抵抗部によって、内視鏡等の医療装置に確実に回転が伝達される。
【0017】
また上記発明の医療器具挿入装置によれば、保持手段に磁界発生部を備え、挿入部に磁石或いは磁性体を備える構成にしてもよい。このような構成にすることで、保持手段の構成を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上述べたように、本発明の医療器具挿入装置によれば、挿入口付近で挿入部に回転動作を伝達するので、体外にある挿入部が不安定な運動をしたり捻れたりせず、挿入部を安定した状態で体腔内に挿入させることが可能である。この結果、挿入の操作性が向上するので、術者に対し複雑な操作や熟練を要求することなく、挿入部を確実に体腔内へ挿入させることができる。
【0019】
また、本発明の医療器具挿入システムによれば、上記の効果と同様の理由から、医療器具の体腔内管路への挿入を補助する挿入部を、安定した状態で体腔内に挿入させることができる。この結果、挿入の操作性が向上するので、術者に対し複雑な操作や熟練を要求することなく、挿入部及び医療器具を確実に体腔内へ挿入させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る医療器具挿入装置システムについて、図1から図12の図面を参照して説明する。
図1は、本発明における医療器具挿入装置システム1の挿入部が、体腔内管路を推進する状態を示す図である。図2(a)は、医療器具挿入装置システム1の全体構成の概略を説明する図であり、図2(b)は、図2(a)のAで囲まれた部分を拡大した図である。
【0021】
医療器具挿入装置システム1は、図2(a)に示すように、挿入部10と、回転駆動部20と、保持部(保持手段)30とを有する。ここで、挿入部10は、可撓性を有する細長の形状を有し、大腸等の体腔内管路に挿入される。また、回転駆動部20は、保持部30を回転駆動する機能を有する。保持部30は、挿入部10を保持するとともに、回転駆動部20から回転力を受けて回転動作することにより、挿入部10を回転させる機能を有する。
【0022】
挿入部10は、可撓性を有することにより、体腔内管路に挿入された際に、体腔管路の形状に応じて湾曲可能となっている。また、挿入部10の表面には、図2(b)に示すように、螺旋状に構成された紐状の部材からなる螺旋状構造部11が設けられている。螺旋状構造部11は、その少なくとも一部が体腔管路の内壁に接触した状態で挿入部10が回転する時に、推進力を発生させる機能を有する。また、上記回転駆動部20は、回転力を発生するモータ21と、モータ21に接続されたプーリ22と、プーリ22から保持部30に回転力を伝達する回転伝達ベルト23とを有する。
【0023】
図3は、前記回転駆動部20と前記保持部30の詳細な構成を示す図である。保持部30は、中空の円筒形状を有する外筒31の内部に、挿通管32a、32bと、無限軌道部33と、ラッチ34とを有する。ここで、挿通管32a、32bは、挿入部10が挿通されるように中空の円筒形状を有し、外筒31の中心軸(所定の軸)と同軸になるように、該外筒31の端面41a、41bにそれぞれ固定されている。また、無限軌道部33は、外筒31の内部において、挿通管32a、32bの間に複数設けられ、それぞれが外筒31の中心軸を挟んで対向するように配置されている。なお、これに限られることなく、無限軌道部33が3つ以上設けられ、それぞれが外筒31の中心軸の周りを取り囲むように配置される構成としても構わない。また、ラッチ34は、無限軌道部33と対向するように、外筒31の内壁に複数取り付けられている。
【0024】
図4(a)から図4(c)は、保持部30に複数設けられた無限軌道部33の一つについての詳細を示す図である。無限軌道部33は、保持ベルト(抵抗部)42と、凹部43と、突起(凸部)44と、回転筒45とを有している。ここで、抵抗部としての保持ベルト42は、可撓性を有し、挿入部10の外径より広い幅を有する環状の部材であり、2本の回転筒45a、45bによって張られた状態で設けられている。凹部43は、保持ベルト42の表面上の中央付近に、保持ベルト42の長手方向に沿って複数設けられている。また、凸部としての突起44は、鋸状の形状を有し、保持ベルト42の両端付近に、保持ベルト42の長手方向に沿って複数個配置されている。このように構成することで、凹部43は挿通管32a、32bに挿通される挿入部10と接触し、突起44は該挿入部10と接触しないようになっている。また、突起44は、保持ベルト42の形状が湾曲するので、弾性部材であることが好ましい。
【0025】
上記回転筒45a、45bは、それぞれ保持ベルト42の幅と同等か、それ以上の長さを有する円筒形状を有し、軸部材46を軸として回転可能に保持されている。軸部材46の両端には、軸受け47がそれぞれ設けられ、該軸受け47は、バネ48を介して外筒31の内壁に取り付けられている。このように構成することで、無限軌道部33は、バネ48の弾性力により外筒31の中心軸方向へ付勢される。すなわち、挿通管32a、32bに挿通される挿入部10は、複数の無限軌道部33により好適な圧力で挟み込まれる。
【0026】
このようにして、保持ベルト42は、その長手方向に回転可能に保持されるので、複数の無限軌道部33が挿入部10に付勢していても、挿入部10の推進を妨げることがない。また、保持ベルト42に設けられた凹部43により、無限軌道部33は、挿入部10の進退方向には抵抗せずに挿入部10の推進を自由にし、周方向にのみ抵抗する機能を有している。すなわち、保持部30は、常に体腔管路の挿入口付近に位置した状態で、挿入部10に対してその進退方向の動作を妨げずに回転動力を伝達し続ける機能を有している。
【0027】
図5及び図6は、突起44とラッチ34の動作を示す図である。ラッチ34は、外筒31の内壁に複数取り付けられ、無限軌道部33の表面上の突起44に接触するように、該無限軌道部33に対向するように配置されている。また、ラッチ34の側面の一部には、切欠51が設けられている。ここで、図5(a)及び図5(b)に示すような向き(図では、左方向)で無限軌道部33が回転すると、この回転に伴って突起44が移動してラッチ34と接触する。このとき、ラッチ34に設けられた切欠51により、ラッチ34が曲がり、突起44がラッチ34を通過する。これに対して、図6(a)に示すような向き(図では、右方向)で無限軌道部33が回転して、突起44がラッチ34に接触すると、図6(b)に示すように突起44とラッチ34が干渉するため、無限軌道部33は回転しない。この状態でさらに無限軌道部33を回転させる力がはたらくと、図6(c)に示すように、切欠51が裂けるようにラッチ34が曲がる。そして、そのまま力がはたらき続けると、図6(d)に示すようにラッチ34が折れる。このとき、無限軌道部33はどちらの方向にも自由に回転するようになる。このようにして、無限軌道部33は、挿入部10の推進方向には回転自在であり、後退方向には一定以上の反力がかからない限り回転しないようになっている。
【0028】
次に、このように構成された医療器具挿入装置システム1の作用を説明する。ここでは、医療器具挿入装置システム1を大腸への挿入に適用した例を示すが、その他の体腔管路への挿入に適用することも可能であり、その作用は以下に説明する作用と同様である。
【0029】
図2に示すように、被験者の大腸等の体腔内管路で医療行為を行う必要がある場合、操作者は、被験者の挿入口としての肛門61付近に、保持部30が組み込まれた回転駆動部20を設置し、保持部30内の挿通管32a、32bに挿入部10を挿通させる。このとき、外筒31の端面41a側が被験者に向くように、回転駆動部20を設置する。次に、操作者は、前記挿入部10の先端部付近を大腸内に挿入し、モータ21を駆動する。そして、モータ21で発生した回転駆動力は、プーリ22及び回転伝達ベルト23を介して保持部30に伝達される。
【0030】
該保持部30では、複数の保持ベルト42が、挿通管32a、32bに挿通された挿入部10に対して付勢する。このとき、挿入部10は、保持ベルト42の長手方向に複数設けられた凹部43に接触している。そのため、保持部30が回転すると、この接触部において、挿入部10に対して抵抗する力が、挿入部10の長手方向と略垂直な方向に発生する。その結果、保持部30の回転動作に追従して、挿入部10が回転する。こうすることで、モータ21で発生させた回転駆動力は、確実に挿入部10に伝達される。
【0031】
挿入部10が回転動作を開始すると、該挿入部10の表面に設けられた螺旋状構造部11は、その少なくとも一部が腸壁と接触しながら回転することにより推進力を発生させるので、挿入部10は円滑に大腸内を推進する。それに伴って、保持部30において、挿入部10の移動に追従して、保持ベルト42が所定の軸に沿って移動する。そのため、挿入部10の移動に引きずられて、保持部30や回転駆動部20が移動することはない。すなわち、保持手段及び回転駆動部の位置を、常に一定の位置に保つことができる。これにより、挿入部10の全長によらず回転駆動部20を常に肛門付近に設置することができる。この結果、回転駆動部20と肛門61との間隔を短くすることができるので、この間にある挿入部が、不安定な運動をしたり捻れたりすることがなくなる。
【0032】
挿入部10が体腔管路への挿入を開始した後、挿入部10の挿入された長さが短い間は、螺旋構造部11により発生する推進力が小さいため、挿入部10の先端が腸壁に抵抗するなどして推進が停止し、挿入部10を体外に押し出す後進力がはたらく場合がある。このような場合、無限軌道部33に設けられた突起44とラッチ34のはたらきにより、挿入部10の後退を防ぐように回転が規制される。その後、挿入部10が大腸深部まで推進し、十分な推進力が得られる。これにより挿入部10が十分な推進力を得られるようになるまで、挿入部10を体外に押し出す力が妨げられるので、より挿入を容易にすることができる。一方、腸の形状に沿って挿入部10が曲がり、それによる反力が大きくなることがある。この場合、ラッチ34が破損し、回転を規制しなくなる。よって、挿入部10を無理に挿入するようなことが防止される。
【0033】
このようにして大腸の最深部まで挿入部10が到達した後、操作者は、モータ21を停止させて挿入部10の推進を停止する。その後、図7に示すように、医療器具としての内視鏡71が観察、診断もしくは治療のために大腸内に挿入される。ここで、該内視鏡71の先端付近には、挿入部10を挿通して内視鏡71と挿入部10とを接続する円筒部材72が設けられている。内視鏡71を体腔内管路へ挿入するときには、この円筒部材72の中に、体外にある挿入部10の端部を挿通する。そして、挿入部10に沿って、内視鏡71が大腸の深部へ案内される。すなわち、挿通された挿入部10は、内視鏡71のガイドワイヤとしての機能を有する。このようにして、挿入部10をガイドワイヤとして利用しているので、大腸最深部まで内視鏡71を円滑に挿入することができる。内視鏡71が大腸最深部に到達したら、診断、治療等の妨げとならないように挿入部10を先に抜去してもよい。
【0034】
以上説明したように、本実施例に係る医療器具挿入装置システム1によれば、回転駆動部20が、被験者に対して一定の距離を保った状態で挿入部10の回転駆動を行うことができる。つまり、挿入部の全長によらず、回転駆動部20を常に被験者の挿入口付近に配置させることができる。これにより、回転駆動部20と挿入口との間隔を短くすることができるので、この間にある挿入部10が、挿入部10の回転駆動の際に、不安定な運動をしたり捻れたりしない。そのため、挿入部10を安定した状態で体腔内管路に挿入させることができる。すなわち、螺旋状構造部11が回転しながら体腔内管路内壁と接触することにより体腔内管路を推進する際に、挿入部10が円滑に挿入されて体腔内管路を確実に推進することができる。この結果、術者に対し複雑な操作や熟練を要求することなく、挿入部10の確実な挿入を行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態は、上述した構成に限定されるものではない。
第1に、本実施形態においては、保持部30が無限軌道部33を有する構成としたが、これに限られるものではなく、図8に示すように、複数の回転部材(抵抗部)81を有する構成としてもよい。この場合、抵抗部としての回転部材81は、挿入部10の長手方向に回転自在に構成されて、前記長手方向に沿って複数配置される。この回転部材81の表面には、凹部43が、回転部材81の周方向に沿って複数設けられている。また、該回転部材81の幅は、保持ベルト42と同様に挿入部10の外径より大きく、回転部材81の両端近傍に突起44が複数設けられている。そして、この突起44と対向するように、ラッチ34が、外筒31の内部に固定されている。
【0036】
このように構成することで、第1の実施形態における無限軌道部33と同様に、挿入部10の推進、後退を妨げることなく、挿入部10に対して回転動力を伝達することが可能になる。そして、挿入部10に伝達された回転動力により体腔内管路において螺旋状構造部11が腸壁と接触しながら回転することで、挿入部10が推進または後退できる。また、この回転部材81の幅を挿入部10の外径より大きくすることで突起44とラッチ34を無限軌道部33と同様に取り付けることが可能になり、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0037】
第2に、本実施形態においては、ラッチ34の破壊によって回転方向規制解除を行っていたが、図9(a)に示すように、モータ21にかかる負荷を検知してラッチ34を移動するようにしてもよい。この場合、モータ21にかかる負荷を検出する負荷検出部83が、モータ21とプーリ22の間に設けられるとともに、図9(b)に示すように、ラッチ34を突起44に対して近接離間する方向に移動させるアクチュエータ82が、外筒31とラッチ34の間に設けられる。ここで、負荷検出部83は、挿入部10が大腸深部まで推進することでモータ21にかかる負荷が閾値を超えた時に、回転方向規制が不要な大腸深部まで挿入されたと判断し、アクチュエータ82の駆動を開始させる。アクチュエータ82は、ラッチ34を突起44と接触する位置から離して、回転方向規制を解除する。これによると、回転方向規制を解除する際に、ラッチ34を破壊しないので、保持部30を繰り返し使用することが可能になる。
【0038】
第3に、本実施形態においては、回転方向を規制する手段としてのラッチ34と突起44を設けたが、この回転方向規制手段を省略してもよい。この場合、図10に示すように、保持部30が、保持部30の中心軸と同軸な一本の挿通管32cを有し、該挿通管32cの内周部が、その長手方向に沿って多数の溝84を有するようにしてもよい。また、図11に示すように、挿通管32cの内周部が多数の繊毛85で覆われるようにしてもよい。ここで、繊毛85は、その向きが挿通管32cの長手方向となるように、繊毛85の両端が挿通管32cの内周部に固定される。
【0039】
このように構成することで、保持部30が回転したとき、挿通管32cの内部に設けられた溝84または繊毛85により、挿通管32cに挿通された挿入部10の周方向に抵抗が発生する。そして、この抵抗により、挿入部10の推進或いは後退を妨げずに、保持部30の回転動作が挿入部10に伝達される。挿入部10が回転すると、螺旋状構造部11が腸壁と接触しながら回転するので、挿入部10は推進、後退できる。このとき、挿通管32cの内部に加工された溝84または繊毛85は、挿入部10の長手方向と略平行なので、挿入部10の進退方向に抵抗を発生しない。このように、保持部30の構成を簡単にすることで、コストを低減することができる。
【0040】
第4に、磁力を用いて挿入部10に保持部30の回転動作を伝達してもよい。この場合、図12に示すように、挿入部10が中空構造を有し、その中空構造の内部に磁石86が配置される。この磁石86の形状は、挿入部10の内径と同じ長さの対角線を有する正方形を断面とする直方体であり、挿入部10の径方向に磁化されている。また、保持部30は、外筒31に代えて、円管形状の管状磁石87を有している。ここで、挿入部10に設けられた磁石86と、保持部30が有する管状磁石87とが、互いに反対の磁極を対向させて引き付け合う状態となっている。また、挿入部10が、管状磁石87の内周部に挿通された状態で、進退方向に円滑に移動できるようにするため、挿入部10の表面には摩擦が少なくなるような表面処理が施されている。
【0041】
この構成によれば、モータ21の回転が管状磁石87に伝達することで、管状磁石87の回転に追従して、磁石86を有する挿入部10が回転する。このとき、挿入部10に設けられた螺旋状構造部11が回転しながら体腔内管路内壁に接触するので、挿入部10は体腔内管路を推進する。このようにして、回転駆動部20が、保持部30が有する磁力を用いて挿入部10を回転させるので、挿入部10が円滑に推進、後退動作することができる。また、管状磁石87と挿入部10内の磁石86とは互いに引き付け合うので、磁石86が保持部30に対して移動することはない。
【0042】
〔第2の実施形態〕
次に本発明の第2の実施形態に係る医療器具挿入装置システム100について、図13及び図14を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
本実施形態の医療器具挿入装置システム100は、中空構造を有する挿入部110を備える点で、第1の実施形態と異なる。すなわち、図13に示すように、挿入部110は、可撓性を有するチューブであり、該チューブの内部に各種機能部材を挿通できるようになっている。また、図14に示すように、医療器具挿入装置システム100は、回転駆動部20としての中空軸モータ120と、保持手段としての管状磁石130とを有している。
【0044】
ここで、挿入部110は、湾曲が可能となるように、径方向に極を有する薄いリング状磁石111を多数連結して構成されている。また、挿入部110の表面には、螺旋状構造部112が各々のリング状磁石111に固定されるようにして設けられている。管状磁石130は、内部に挿入部110を挿通できるよう、挿入部110の外径より大きい半径を有する円筒状の管路が設けられ、径方向に着磁された円管状の磁石である。また、中空軸モータ120は、管状磁石130の周囲を囲む中空軸131に固定するように設けられた円管形状のモータであり、管状磁石130を回転駆動する。
【0045】
ここで、医療器具として体腔内管路を観察するカプセル型医療装置140に対して体腔内管路への挿入を補助する場合には、図13に示すように、チューブ状の挿入部110の内部に、カプセル型医療装置140に接続された柔軟なケーブル141が挿通される。カプセル型医療装置140は、先端が透明な半球状部材を有し、カプセル型医療装置140の内部に該半球状部材に対向して、体腔内を照明するLED等の照明装置と、体腔内を撮像するCCD等の撮像素子が内蔵されている。これらの電源は、ケーブル141内に設けられた電力供給線により供給される。また、撮像された画像の画像信号は、ケーブル141内の信号線を介して、体外に設置された画像処理装置142に送られ、処理された画像がモニタ143に表示される。
【0046】
このカプセル型医療装置140及びケーブル141は、挿入部110に対してなんら固定されていないため、挿入部110が回転してもカプセル型医療装置140が回転したり、ケーブル141が捻れたりすることはない。このように、カプセル型医療装置140を回転させることなく、挿入部110のみを回転させることで、カプセル型医療装置140を体腔内管路に円滑に推進させるようになっている。
【0047】
このように構成することにより、カプセル型医療装置140を体腔内管路に挿入する場合、操作者は、管状磁石130が設けられた中空軸モータ120を、被験者の挿入口としての肛門61付近に設置し、挿入部110を管状磁石130の内部に挿通させる。次に、操作者は、前記挿入部110の先端部付近を大腸内に挿入し、中空軸モータ120を駆動する。そして、中空軸モータ120が回転すると、その内部に固定された管状磁石130が回転し、この管状磁石130が生成する磁界の回転に追従して、リング状磁石111を有する挿入部110が回転する。挿入部110の回転により、挿入部110の表面に設けられた螺旋状構造部112が体腔内管路内壁と接触しながら回転するので、挿入部110に推進力が発生する。これにより、カプセル型医療装置140が、体腔管路の深部に押し込まれる。このとき、カプセル型医療装置140は回転動作しないので、撮像素子を用いて体腔内を観察する場合において、撮像した画像は回転しない。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る医療器具挿入装置システム100によれば、挿入部110の内部にカプセル型医療装置140等の医療装置を挿通した状態で、挿入部110を体腔内管路に挿入することができる。また、第1の実施形態と同様の理由から、挿入部110が安定した状態で体腔内管路に挿入されるため、螺旋状構造部112が回転しながら体腔内管路内壁と接触することにより、挿入部110が体腔内管路を確実に推進することができる。この結果、挿入部110に挿通された医療装置を確実に体腔内管路に挿入し、推進させることができる。また、保持手段としての管状磁石130を中空軸モータ120で直接回転させるので、動力伝達の効率が向上する。その他の効果は、第1の実施形態と同様である。
【0049】
なお、本実施形態は、上述した構成に限定されるものではない。
第1に、挿入部110をリング状磁石111ではなく磁性体で構成してもよい。すなわち、挿入部110に用いる材料を磁石に限定しないので、より挿入部110として適した材料を選択することができる。
【0050】
第2に、挿入部110全体を磁石で構成するのではなく、可撓性を有する磁石を挿入部110の内部に設けられることとしてもよい。例えば、図15に示すように、紐状の軟性磁石113が、チューブ状の挿入部110に円周方向に複数並べて埋め込んでもよい。ここで、複数の軟性磁石113の磁極の方向は、それぞれ挿入部110の中心線を向くように設けられている。また、隣接する軟性磁石113は互いに逆向きの磁化方向を有するように配列されている。この場合の効果は、本実施の形態と同様である。
【0051】
第3に、前記挿入部110内に複数の磁石を埋め込んでもよい。すなわち、図16に示すように、前述した紐状の軟性磁石113が挿入部110内に多数埋め込まれ、回転駆動部20が、中空軸モータ120に代えて磁力発生部121を有するようになっている。該磁力発生部121は、径方向に磁力を発生させるコイル122を、円周方向に多数配置している。また、磁力発生部121内の隣接するコイル122が互いに逆向きに磁力を発生するように、複数のコイル122に流れる電流が制御されるようになっている。
【0052】
この構成によれば、コイル122を流れる電流の向きを反転させる制御を繰り返すことにより、複数のコイル122それぞれの磁力の向きは順々に切り替えられる。このとき、挿入部110は、その内部に設けられた軟性磁石113がコイル122の磁力の変化を受けることによって回転する。挿入部110の回転により、挿入部110の表面に設けられた螺旋状構造部112が体腔内管路内壁と接触しながら回転するので、挿入部110に推進力が発生し、カプセル型医療装置140が体腔内管路の深部方向へ押し出される。このように構成することで、機械的に駆動する部品を減らせるので、各部品の磨耗や疲労による故障の危険性を低減できる。
【0053】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る医療器具挿入装置システム150について、図17ないし図19を用いて説明する。なお第1、または第2の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
本実施形態の医療器具挿入装置システム150は、回転駆動部20が高圧流体を用いて挿入部を回転させる点で、第1及び第2の実施形態と異なる。すなわち、図17に示すように、医療器具挿入装置システム150は、回転駆動部としての高圧空気源151と、前記高圧空気源151に接続された伝達部152とを有している。ここで、高圧空気源151は、挿入部160を回転させるための高圧空気を発生させて、伝達部152に送り込む。また、伝達部152は、該高圧空気源151から送り込まれた高圧空気を挿入部160に対して吹き付け、挿入部160を回転させる機構を有している。また、本実施形態においては、挿入部160は中空構造とし、その内径は内視鏡71を挿通可能な大きさとなっている。
【0055】
図18(a)、(b)に示すように、伝達部152の中央部には、保持手段としてのU字溝153が彫られている。このU字溝153は、挿入部160を摺動可能に設置できるような幅を有し、挿入部160との摩擦が最小限となるように滑らかな表面を有している。また、U字溝153の側壁には、挿入部160をU字溝に設置した時、挿入部160の表面に設けられた螺旋状構造部11の最も高い位置とほぼ等しい高さに、吹出口154が複数空けられている。また、伝達部152の側壁には、高圧空気源151と接続される接続口155が設けられている。この接続口155と複数の吹出口154とは、伝達部152の内部に配置された高圧管路156により連通されている。つまり、接続口155に接続された高圧管路156は、伝達部152の内部で複数に分岐し、複数の吹出口154それぞれに接続されるようになっている。また、吹出口154の近傍では、高圧管路156がU字溝153の側壁に対して垂直に配置されることにより、高圧空気が、U字溝153の側壁から垂直に吹き出され、螺旋状構造部11に対して挿入部160の周方向に吹き付けられるようになっている。
【0056】
このように構成することにより、操作者は、挿入口としての肛門61近傍に高圧空気源151及び伝達部152を設置し、伝達部152に設けられたU字溝153に挿入部160を配置し、高圧空気源151を駆動して高圧空気を伝達部152に供給する。このとき、伝達部152の内部を通過した高圧空気は、複数設けられた吹出口154を介して挿入部160の螺旋状構造部11に吹き付けられる。螺旋状構造部11は、この高圧空気の力を挿入部160の周方向に受けることにより、挿入部160が回転する。そして、挿入部160の表面に設けられた螺旋状構造部11が体腔内管路内壁と接触しながら回転するので、挿入部160に推進力が発生して、挿入部160が体腔内管路を推進する。ここで、伝達部152のU字溝153は低摩擦なので、挿入部160の推進を妨げることはなく、伝達部152が挿入口の内部に引きずり込まれることもない。
【0057】
このようにして、中空構造を有する挿入部160を体腔内管路の深部に到達させた後、図19に示すように、挿入部160の内部に内視鏡71を挿通させることで、通常の内視鏡検査や鉗子161を用いた内視鏡治療を行う。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る医療器具挿入装置システム150によれば、挿入部160の回転を高圧空気により行うので、簡易な構造で挿入部160を回転させて、体腔内管路を推進させることが可能になる。また、伝達部152は、被験者の挿入口付近で、被験者に対して常に一定の距離を保った状態で、挿入部160に対して回転駆動を行うことができる。
【0059】
なお、本実施形態は、上述した構成に限定されるものではない。
例えば、伝達部152が挿入部160に吹き付けて回転させる流体は、高圧空気に代えて、高圧水流であってもよい。また、伝達部152には、U字溝153に代えて、挿入部160を挿通可能な円筒状の管路が設けられるようにしてもよい。これらの場合の効果は、本実施形態と同様である。
【0060】
〔第4の実施形態〕
次に、本発明の第4の実施形態に係る医療器具挿入装置システム200について、図20ないし図24を用いて説明する。なお第1、または第2の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
本実施形態では、保持手段としての保持ベルトを能動的に回転させて挿入部10を直接回転させる回転制御部を備える点で、第1の実施形態と異なる。
すなわち、図20に示すように、医療器具挿入装置システム200は、挿入部10と、被験者の体外に設けられたベース部210と、該ベース部210に接続された回転伝達系220とを有している。この回転伝達系220は、該挿入部10を回転駆動する機能を有している。
【0062】
図21に示すように、ベース部210は、挿入部10の進退方向に2対配置された支持部材211、212からなる。また、支持部材211(212)は、2つの対称な形状を有する支持部材211a(212a)、211b(212b)に分かれている。この支持部材211a(212a)、211b(212b)は、ヒンジ216によって開閉可能に接続され、これらが閉じたときに接触する側の端面の中央付近に、それぞれ挿入部10を通す半円柱状の切欠が設けられている。すなわち、支持部材211a(212a)と支持部材211b(212b)を閉じたときに、支持部材211(212)は、その中央付近に挿入部10を通すことができる略円形の穴が開くように構成されている。
【0063】
なお、以降の本実施形態に係る説明では、支持部材211a側に設けられた構成には、符号の末尾にaを付し、支持部材211b側に設けられた構成には、符号の末尾にbを付し、a及びbの両方を指す場合には、符号の末尾にiを付して説明する。
【0064】
回転伝達系220は、スライダ230i(230a、230b)と、ベルト回転体240i(240a、240b)とを有している。ここで、スライダ230iは、支持部材211iと支持部材212iの間に設けられ、挿入部10の進退方向に移動する。また、ベルト回転体240iは、スライダ230iに接続され、挿入部10を回転させる機能を有する。
【0065】
スライダ230iは、支持部材211iと支持部材212iとの間に設けられたスライダ軸231i上に移動可能に設けられている。また、支持部材211iとスライダ230iの間のスライダ軸231i上には、スライダ230iに対して支持部材212i方向に付勢するバネ232iが配置されている。また、スライダ230iとスライダ軸231iとの間には図示しないリニアエンコーダが内蔵されている。該リニアエンコーダは、スライダ230iのスライダ軸231i上の移動距離を計測することにより、支持部材211i(212i)とスライダ230iとの位置間隔を検出している。
【0066】
また、スライダ230iの挿入部10と対向する側には、リニアアクチュエータ233iが複数取り付けられている。本実施形態では、一例として、リニアアクチュエータ233iがスライダ230iに4つ取り付けられた構成について説明する。このリニアアクチュエータ233iは、ベルト回転体240iを支持部材211i、212iに設けられた切欠に通された挿入部10に対して近接離間する方向に駆動する。このようにして、スライダ230iは、スライダ軸231i上をリニアアクチュエータ233iを介してベルト回転体240iと一体的に移動できるようになっている。
【0067】
ベルト回転体240iは、回転駆動部を構成するベルト回転モータ241iと、回転子242iと、保持ベルト(保持手段、抵抗部)243iとを有している。該ベルト回転モータ241iは、前述した4つのリニアアクチュエータ233iのうち挿入部10の進退方向に離間した2つのリニアアクチュエータ233iに、ベルト回転軸244iを介して接続されている。残りの2つのリニアアクチュエータ233iには、回転子242iがベルト回転軸244iを介して接続されている。保持手段及び抵抗部としての保持ベルト243iは、環状で可撓性を有する部材であり、該ベルト回転モータ241i及び回転子242iによって張られた状態で設けられている。すなわち、ベルト回転体240a、240bは、支持部材211i、212iに設けられた切欠に通された挿入部10を挟み込むように配置されている。また、ベルト回転体240iの回転速度やスライダ軸231i上の位置は、同期するように制御されている。
【0068】
このように構成することで、リニアアクチュエータ233iにより、ベルト回転体240iが挿入部10に対して近接する方向に移動した時には、保持ベルト243iが挿入部10に対して適切な荷重で付勢するようになっている。この挿入部10に付勢する荷重は、リニアアクチュエータ233iの移動により調整される。また、ベルト回転体240iが挿入部10に対して対称に配置されるため、挿入部10を好適な圧力で挟み込むことが可能になっている。
【0069】
なお、リニアエンコーダ、ベルト回転モータ241i、及びリニアアクチュエータ233iへ入出力する信号及び動力を伝達する入出力線251は、スライダ230iを経由して外部に接続されている。
【0070】
次に、このように構成された医療器具挿入装置システム200の作用を図22を用いて説明する。ここでは、医療器具挿入装置システム200を大腸への挿入に適用した例を示すが、その他の体腔管路への挿入に適用することも可能であり、その作用は以下に説明する作用と同様である。なお、図22では、挿入部10の外表面に設けられている螺旋状構造部11は省略してある。
【0071】
まず、操作者は、挿入口としての肛門61の近傍に、ベース部210に設けられた回転伝達系220を、支持部材211i側を被験者に向けるようにして配置する。そして、操作者は、ヒンジ216を軸に支持部材211iを開いて、支持部材211iに設けられた半円柱状の切欠に挿入補助具を配置し、支持部材211iを閉じる。このとき、支持部材211i(212i)は、スライダ230i及びベルト回転体240i等の他の構成とともに一体的に開閉する。次に、操作者は、回転駆動部としてのベルト回転モータ241iを駆動して、保持ベルト243iを回転させる。
【0072】
保持ベルト243iが回転を始めたとき、図22(a)に示すように、スライダ230iは、ベルト回転体240i及びリニアアクチュエータ233iと一体となって、スライダ軸231iの支持部材212i側に位置している。その上で、ベルト回転体240a、240bは,リニアアクチュエータ233iにより挿入部10に対して互いに対向するように荷重を付勢する。この状態で、ベルト回転モータ241iが回転して、保持ベルト243iが挿入部10の進退方向と略垂直な方向に回転することにより、挿入部10が図示していない螺旋状構造部11ごと回転を行う。このとき、2つのベルト回転体240iの回転速度やスライダ軸231i上の位置は、同期するように制御されているので、挿入部10の回転が円滑に行われる。
【0073】
挿入部10が消化管等の体腔内管路で回転すると、挿入部10の外表面に設けられた螺旋状構造部11が体腔内管路内壁と接触しながら回転するので、挿入部10に推進力が発生する。これにより、挿入部10が体腔内管路を前進する。それに応じて、挿入部10に回転動力を伝達しているベルト回転体240iには、挿入部10とともに支持部材211i側へ移動する力が作用するため、スライダ230iがベルト回転体240iと一体に支持部材211i側へ移動する(図22(b))。このとき、バネ232iがスライダ230iに対して支持部材212i側へ付勢する力は、螺旋状構造部11による挿入部10の推進力より弱く設定してあるため、スライダ230iの移動の妨げにはならない。
【0074】
スライダ230iの移動距離はリニアエンコーダにより計測されているため、スライダ230iが移動して支持部材211iに突き当たりそうになると、リニアエンコーダは、スライダ230iが支持部材211iに近接していることを検出する。このとき、リニアアクチュエータ233iが駆動して、ベルト回転体240iを挿入部10と接触しない高さまで引き上げ、ベルト回転体240iから挿入部10への回転動力の伝達を一時的に停止する(図22(c))。これにより、ベルト回転体240iが挿入部10の推進に追従しなくなるため、スライダ230iが自由に移動できるようになる。そして、スライダ230iは、バネ232iの付勢力によって、ベルト回転体240iと一体的に支持部材212i側へ戻される(図22(d))。
【0075】
スライダ230iが支持部材212iに突き当たったことをリニアエンコーダが検出すると、リニアアクチュエータ233iが再度ベルト回転体240iを挿入部10に接触させ、ベルト回転モータ241iによる保持ベルト243iの回転を再開させ、挿入部10を回転させる。以上の動作を繰り返すことにより、挿入部10は、体腔内管路を円滑に推進し続ける。
【0076】
なお、リニアアクチュエータ233iがベルト回転体240iを昇降させる際に、ベルト回転モータ241iを停止させずに、常時保持ベルト243iを回転させてもよい。
また、図23に示すように、スライダ230iの支持部材212i側への移動は、バネの代わりにスライダ230iに設けられたリニアモータ261iにより行うようにしてもよい。この場合、挿入部10へ回転動力を伝達しているとき(図22(a)、(b)の状態)、リニアモータ261iは駆動を停止してスライダ230iの移動を自由にし、スライダ230iを支持部材212i側に戻すとき(図22(c)、(d)の状態)のみ、リニアモータ261iが駆動してスライダ230iを移動させる。このように制御するように構成することで、上述した作用と同等の作用が得られる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に係る医療器具挿入装置システム200によれば、挿入部10の回転を保持ベルト243iにより直接的かつ能動的に伝達するため、より確実に挿入部10を回転させることができる。また、スライダ230iによりベルト回転体240iと挿入部10とが一体的に挿入口側に前進することにより、挿入部10の体腔内管路の前進を妨げることがないため、挿入部10の推進をより確実に行うことができる。
【0078】
なお、本実施形態は、上述した構成に限定されるものではない。
第1に、図24に示すように、回転伝達系220が、挿入部10の進退方向に沿って複数設けられるようにしてもよい。すなわち、本変形例では、支持部材211i、212iの中間位置に、中間支持部材213iが設けられ、支持部材211iと中間支持部材213iに挟まれる空間、及び支持部材212iと中間支持部材213iに挟まれる空間に、それぞれ上述したような回転伝達系220が配置される。
【0079】
このように構成することにより、回転伝達系220が1組のときと異なり、複数の回転伝達系220を交互に駆動して、挿入部10を回転させることが可能になる。つまり、一方の回転伝達系220のベルト回転体240iが挿入部10から離間しているとき、他方の回転伝達系220が挿入部10に対して回転動力を伝達することができる。したがって、挿入部10を常時回転させることができるため、推進時間のロスがなくなり、効率的に挿入部10を推進させることが可能となる。その他の効果については第4の実施形態と同様である。
【0080】
また第2に、スライダ230iの位置を検出するリニアエンコーダに代えて、スライダ230iの一端に接触を検知する図示しない接触センサを設けてもよい。この接触センサにより、スライダ230iが支持部材211iに接触したことが検出でき、この検出結果に反応して、リニアアクチュエータ233iを動作させることができる。接触センサは、圧力センサ、光センサ、またはスイッチ等のセンサであるが、スライダ230iが支持部材211iに近接したことを検出できるものであれば、特に方式を限定するものではない。また、接触センサは、スライダ230i一端へ搭載せずに、支持部材211iのスライダ230iと対向する位置に搭載してもよい。これにより、リニアエンコーダのように常時スライダ230iの位置を検出せずに済むため、効率的である。
【0081】
〔第5の実施形態〕
次に、本発明の第5の実施形態に係る医療器具挿入装置システム300について、図25を用いて説明する。なお第1、または第4の実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0082】
本実施形態では、ベース部210及び回転伝達系220が、第1の実施形態における保持部30の中に設けられる点で、第4の実施形態と異なる。すなわち、医療器具挿入装置システム300は、第1の実施形態と同様に、挿入部10と、回転駆動部20と、保持部(保持手段)30とを有している。そして、該保持部30が、ベース部210と、回転伝達系220を有している。
【0083】
この場合、図25に示すように、回転伝達系220がベルト回転体240i及びベルト回転モータ241iに代えて、回転動作せずに挿入部10に押圧する押圧部材310iを有している。また、ベース部210の支持部材211iが外筒31の一端に固定され、支持部材212iが外筒31の他端に固定されている。このようにして、ベース部210及び回転伝達系220全体が、保持部30の外筒31に固定されることにより、保持部30とともに回転するようになっている。
【0084】
このように構成することにより、押圧部材310iが、それぞれリニアアクチュエータ233iによって駆動され、挿入部10を好適な圧力で挟み込む。そして、回転伝達系220全体が回転駆動部20によって回転されることにより、押圧部材310iを介して挿入部10に回転動力が伝達される。このようにして、挿入部10は回転しながら体腔内管路を推進する。なお、このときの挿入部10の推進方向に対するスライダ230i及び押圧部材310i等の動作は、第4の実施形態における動作と同様である。
【0085】
以上説明したように、本実施形態に係る医療器具挿入装置システム300によれば、回転駆動部20が、被験者の挿入口付近で、被験者に対して一定の距離を保った状態で挿入部10の回転駆動を行うことができる。また、スライダ230iにより押圧部材310iと挿入部10とが一体的に挿入口側に前進することにより、挿入部10の体腔内管路の前進を妨げることがないため、挿入部10の推進をより確実に行うことができる。さらに、回転駆動するモータ21は、保持部30の外部に配置されることから、出力の大きいものを使用することができるため、より確実に挿入部10を回転、推進させることが可能となる。
【0086】
なお、本発明は、以上述べた実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において上述した各実施形態を部分的に組み合わせる等して種々変形実施が可能である。
【0087】
また、各実施形態に記載の螺旋状構造部11(112)は、上述した形態に限られるものではない。
図26(a)は、螺旋状構造部11の変形例に係る医療器具挿入装置システムの全体構成を示す図であり、図26(b)は、図26(a)に示す挿入部10の一部を拡大した図である。本変形例においては、螺旋状構造部11が外径可変手段を備えている。すなわち、螺旋状構造部11は、図26(b)に示すように、中空部を有し、伸縮性に富むゴム等の弾性部材により形成された中空チューブ(外径可変手段)12により構成されている。また、図26(a)に示すように、中空チューブ12の体外側の一端には、流体供給部15が設けられる。流体供給部15は、例えば圧縮空気等の流体を中空チューブ12の内部に形成された中空部に供給する機能を有する。
【0088】
上記構成において、流体供給部15を駆動して圧縮空気を中空チューブ12内に送った状態にすると、図27(a)に示すように、伸縮性に富む中空チューブ12は、挿入部10の外径よりも突出した螺旋状突起を形成する。一方、流体供給部15の駆動を停止させて圧縮空気を送らない状態にすると、図27(b)に示すように、中空チューブ12は、それ自身の弾性力により縮むため、中空チューブ12の高さは、挿入部10の表面と殆ど同じ高さとなる。また、中空チューブ12に対して圧縮空気を送る量を多くすることにより、図27(c)に示すように、中空チューブの外径が大きくなるため、該螺旋状突起の高さは図27(a)に示す状態に比べて高くなる。このようにして、中空チューブ12内に送られる圧縮空気の量を調整することにより、中空チューブ12により形成される螺旋状突起の高さが調整される。なお、流体供給部15は、中空チューブ12の中空部から流体を排出する機能を有するようにしても良い。
【0089】
以上説明したように本変形例によれば、螺旋状構造部11を形成する中空チューブ12に対して圧縮空気等の流体の供給及び供給停止を制御することにより、挿入部10の表面から突出する螺旋状突起を形成するか否かを選択できるとともに、螺旋状突起の高さの調整を行うことができる。したがって、挿入部10を体腔内管路に挿入する時には、図27(a)或いは図27(c)に示すように、中空チューブ12により螺旋状突起を形成することにより、体腔内管路における挿入部10の推進力を向上させることができる。また、挿入部10を体腔内管路から抜去する時には、図27(b)に示すように、挿入部10の表面を平坦面とすることにより、挿入部10を円滑かつ短時間に抜去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の医療器具挿入装置システムの挿入部が体腔内管路を推進する状態を 示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る医療器具挿入装置システムの全体構成を示す 概略図。
【図3】図1の医療器具挿入装置システムにおける回転駆動部及び保持部の詳細を示 す図。
【図4】図3の保持部における無限軌道部の構成を示す図。
【図5】無限軌道部が動作した時のラッチの変形を示す図。
【図6】無限軌道部が図5と逆方向に動作した時のラッチの変形を示す図。
【図7】図2の医療器具挿入装置システムを用いて内視鏡を体腔内管路へ挿入する状 態を示す図。
【図8】図3の保持部の変形例に係る保持部の回転部材の構成を示す図。
【図9】図3の保持部の変形例に係る保持部の内部構造を示す図。
【図10】図3の保持部の変形例に係る保持部の構成を示す概略図。
【図11】図3の保持部の変形例に係る保持部の構成を示す概略図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る医療器具挿入装置システムの全体構成を示 す概略図。
【図13】図12の医療器具挿入装置システムを用いてカプセル型医療装置を体腔管 路内へ挿入する状態を示す図。
【図14】図12の医療器具挿入装置システムの変形例に係る回転駆動部を示す図。
【図15】図12の挿入部の変形例に係る挿入部の内部構成を示す図。
【図16】図12の医療器具挿入装置システムの変形例に係る挿入部及び回転駆動部 を示す図。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る医療器具挿入装置システムの全体構成を示 す概略図。
【図18】図17の医療器具挿入装置システムの変形例に係る伝達部を示す図。
【図19】図17の医療器具挿入装置システムを用いて鉗子を体腔内管路へ挿入する 状態を示す図。
【図20】本発明の第4の実施形態に係る医療器具挿入装置システムの全体構成を示 す概略図。
【図21】図20の医療器具挿入装置システムにおける回転伝達系等の詳細を示す断 面図。
【図22】図21の回転伝達系のスライダの動作を示す図。
【図23】図21の回転伝達系の変形例に係るスライダの構成を示す断面図。
【図24】図21の回転伝達系の変形例に係る回転伝達系の構成を示す断面図。
【図25】本発明の第4の実施形態に係る医療器具挿入装置システムのベース部及び 回転伝達系の詳細を示す図。
【図26】本発明の螺旋状構造部の変形例に係る医療器具挿入装置システムの全体構 成を示す概略図。
【図27】螺旋状構造部の形状の変化を示す図。
【符号の説明】
【0091】
1、100、150、200、300…医療器具挿入装置システム
10、110、160…挿入部
11、112…螺旋状構造部
12…中空チューブ(外径可変手段)
20…回転駆動部
21…モータ
22…プーリ
23…回転伝達ベルト
30…保持部(保持手段)
31…外筒
33…無限軌道部
34…ラッチ
42、243…保持ベルト
71…内視鏡
81…回転部材
83…負荷検出部
86…磁石
87、130…管状磁石
111…リング状磁石
120…中空軸モータ
121…磁力発生部
140…カプセル型医療装置
151…高圧空気源
152…伝達部
210…ベース部
220…回転伝達系
230i(230a、230b)…スライダ
240i(240a、240b)…ベルト回転体
241i(241a、241b)…ベルト回転モータ
310i(310a、310b)…押圧部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長の挿入部に設けられる螺旋状構造部と、
前記挿入部を所定の軸方向に沿って進退可能に保持する保持手段と、
前記保持手段を回転させる回転駆動部と、
を備えることを特徴とする医療器具挿入装置。
【請求項2】
前記保持手段は、抵抗部を有し、前記抵抗部は前記挿入部と接触する位置に設けられ、かつ、抵抗部は前記所定の軸に沿って移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の医療器具挿入装置。
【請求項3】
前記抵抗部は、前記所定の軸の方向と略垂直な方向に抵抗する力を生じることを特徴とする請求項2に記載の医療器具挿入装置。
【請求項4】
前記抵抗部は、前記所定の軸に沿う方向に断続的に凸部を有するベルトであることを特徴とする請求項2又は3に記載の医療器具挿入装置。
【請求項5】
前記抵抗部は、前記所定の軸方向と略垂直な方向に回転軸を有する回転部材であることを特徴とする請求項2又は3に記載の医療器具挿入装置。
【請求項6】
前記保持手段は、磁界発生部を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の医療器具挿入装置。
【請求項7】
前記医療器具挿入装置は、前記螺旋状構造部の外径を可変にする外径可変手段を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の医療器具挿入装置。
【請求項8】
体腔内に挿入される細長の挿入部と、
前記挿入部の外周に設けられた螺旋状構造部と、
前記挿入部を所定の軸方向に沿って進退可能に保持する保持手段と、
前記保持手段を回転させる回転駆動部と、
前記挿入部に案内されて体腔内に挿入される医療器具と、
を備えることを特徴とする医療器具挿入装置システム。
【請求項9】
前記保持手段は、前記挿入部の長手方向に移動可能で、前記螺旋状構造部に対して前記挿入部の長手方向と略垂直に抵抗する抵抗部を備えることを特徴とする請求項8に記載の医療器具挿入装置システム。
【請求項10】
前記保持手段は、磁界発生部を備え、
前記挿入部は、磁石を備えることを特徴とする請求項8に記載の医療器具挿入装置システム。
【請求項11】
前記保持手段は、磁界発生部を備え、
前記挿入部は、磁性体を備えることを特徴とする請求項8に記載の医療器具挿入装置システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−305320(P2006−305320A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57375(P2006−57375)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】