説明

医療用シミュレーションシステム及びそのコンピュータプログラム

【課題】病態に対する治療効果を予め確認できるようにする。
【解決手段】 生体の機能を模した生体モデルを用いて、疑似生体応答を生成する医療用シミュレーションシステムSSであって、前記生体モデルが示す複数の生体機能状態値のうち、少なくとも一部の値を置換する置換部STP3と、置換された値が反映された生体モデルに基づいて置換後疑似生体応答を生成するシミュレーション部STP4−1と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病などの治療支援に用いられる医療用シミュレーションシステム及びそのコンピュータプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
病気の治療に際しては、医師による問診に加え、患者に対して様々な検査が行われるのが一般的である。
そして、医師は、患者の検査結果や臨床所見などの判断材料に基づいて、自己の経験と勘を頼りに、治療方法を選択しているというのが現状である。
【0003】
したがって、診療に役立つ情報がコンピュータによって提供されれば、医師による診療が、より的確に行われることを期待できる。
診療を支援するシステムとしては、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、血糖値を予測するシステムがある。
これらのシステムは、患者の血糖値の変化を予測して、予測血糖値を医師に提供することにより、診療を支援するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平10−332704号公報
【特許文献2】特開平11−296598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
適切な治療方法を選択する際には、医師が、病気の各種症状の原因を構成する要因を適切に把握することが望まれる。要因を適切に把握できれば、その要因を改善する治療を行うことで、より適切な治療が期待できる。
例えば、糖尿病の場合、その病気の程度を示す指標として「血糖値」が用いられる。しかし、「血糖値」は、あくまでも結果にすぎず、この結果をもたらしたインスリン分泌不全、末梢インスリン抵抗性、肝糖取込低下、肝糖放出亢進といった要因を、医師が的確に把握することが診療において重要である。
【0006】
そして、医師が、的確な治療を行う際には、ある要因を治療した場合に、どの程度の治療効果が見込めるのかを把握できれば望ましい。
【0007】
また、糖尿病のような疾患においては、例えば、インスリン分泌不全と末梢インスリン抵抗性の両方が現れるといったように、複数の要因が組み合わさっている場合が多い。
このように複数の要因が同時に出現すると、薬剤の組み合わせが困難である等の理由により、全ての病態を治療することは、不可能なことがある。
このような場合には、いずれの要因に対する治療を施せば、効率の良い治療となるかを医師が判断する必要が生じる。
【0008】
上記のような問題に鑑み、本発明は、疾患の要因に対する治療効果を予め確認できるようにすることを目的とする。
また、本発明の他の目的は、複数の要因のうちいずれを治療すれば良いかの情報を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体の機能を模した生体モデルを用いて、疑似生体応答を生成する医療用シミュレーションシステムであって、前記生体モデルが示す複数の生体機能状態値のうち、少なくとも一部の値を置換する置換部と、置換された値が反映された生体モデルに基づいて置換後疑似生体応答を生成するシミュレーション部と、を備えている。
【0010】
上記本発明によれば、疾患の要因に対応する生体機能状態値を、例えば、治療によって生体機能が回復したときの値に置換することで、治療効果が生じた生体モデルを生成できる。この生体モデルに基づくシミュレーションで得られた置換後疑似応答が、治療後の生体応答を模しているから、医師が治療効果を確認することができる。なお、置換は、生体機能が悪化する方向への変更であってもよい。
【0011】
また、前記置換後疑似生体応答の表示部を更に備えているのが好ましい。この場合、置換後の疑似生体応答の表示を容易に確認することができる。
【0012】
前記置換部は、置換対象となる生体機能状態値を、正常な生体が持つべき値に置換するのが好ましい。この場合、置換によって治療が施された状態を得ることができ、治療効果を確認することができる。
【0013】
複数の前記生体機能状態値を表示する生体機能状態値表示部を更に備えているのが好ましい。生体機能状態値を表示することで、生体モデルが示す生体機能状態値を容易に確認することができる。
【0014】
複数の生体機能状態値のうち、置換対象の選択を行う選択部を備えているのが好ましい。置換対象を選択することで、様々な置換を行うことができる。
【0015】
前記表示部は、前記置換後疑似生体応答とともに、生体機能状態値を置換する前の置換前生体応答を表示するよう構成されているのが好ましい。置換前後の生体応答を表示することで、置換によって生体応答がどのように変化したかを容易に確認することができる。
【0016】
生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、生体応答を模した疑似応答を再現するための複数の生体機能状態値を生成する生体機能状態値生成部と、を備え、前記置換部は、前記生体機能状態値生成部によって生成された複数の生体機能状態値のうち少なくとも一部の値を置換するよう構成され、前記表示部は、置換前生体応答として、前記生体応答入力部によって受け付けられた入力生体応答又は生体機能状態値を置換する前の生体モデルによる疑似生体応答を表示するよう構成されているのが好ましい。
上記のように、表示部で表示される置換前生体応答としては、入力された生体応答又は置換前の疑似生体応答のいずれであってもよい。
【0017】
前記表示部は、生体応答の時間的変化を示すグラフによって、表示対象の生体応答を表示するよう構成されているのが好ましい。
【0018】
前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、前記生体機能状態値は、前記パラメータ又は前記パラメータを用いて作成された値であるのが好ましい。
【0019】
前記置換後疑似生体応答に基づいて、治療効果の判断を支援するための判断支援情報を生成する判断支援情報作成部を備えているのが好ましい。医師等のユーザは、判断支援情報によって容易に治療効果の判断を行うことができる。
【0020】
前記判断支援情報作成部は、生体機能状態値の置換の仕方が異なる複数の生体モデルを用いて、シミュレーション部によって生成されたそれぞれの置換後疑似生体応答に基づいて、判断支援情報を作成するよう構成されているのが好ましい。この場合、置換の仕方を替えることで、複数の置換後疑似生体応答が得られる。これらの複数の置換後疑似生体応答に基づいて判断支援情報を作成することで、より信頼性のある判断支援情報を得ることができる。
【0021】
前記判断支援情報を表示する判断支援情報表示部を備えているのが好ましい。この場合、判断支援情報を容易に確認することができる。
また、前記判断支援情報表示部は、治療効果を表すグラフを表示するよう構成されているのが好ましい。
【0022】
前記医療用シミュレーションシステムは、コンピュータを当該医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラムをコンピュータに搭載することで実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るシステム及びコンピュータプログラムによれば、病因に対応する生体機能状態値を、例えば、治療によって生体機能が回復したときの値に置換することで、治療効果が生じた生体モデルを生成できる。この生体モデルに基づくシミュレーションで得られた置換後疑似応答が、治療後の生体応答を模しているから、医師が治療効果を確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の医療用シミュレーションシステム(以下、単にシステムともいう)の実施の形態を詳細に説明する。
[システム全体構成]
図1は、医療用シミュレーションシステムSSを、サーバ−クライアントシステムとして構成した場合のシステム構成図を示している。
【0025】
このシステムSSは、WebサーバS1の機能を含むサーバSと、サーバSにネットワークを介して接続されたクライアント端末Cと、によって構成されている。クライアント端末Cは、医師等のユーザによって使用される。
前記クライアント端末Cは、WebブラウザC1を備えている。このWebブラウザC1は、システムSSのユーザインターフェースとして機能し、ユーザは、WebブラウザC1上で、入力、必要な操作を行うことができる。また、WebブラウザC1には、サーバSで生成されて送信された画面が出力される。
【0026】
サーバSは、クライアント端末CのWebブラウザC1からのアクセスを受け付けるWebサーバS1の機能を備えている。
また、サーバSには、WebブラウザC1で表示されるユーザインターフェース画面を生成するユーザインターフェイスプログラムS2がコンピュータ実行可能に搭載されている。このユーザインターフェイスプログラムS2は、WebブラウザC1に表示される画面を生成してクライアント端末Cに送信したり、WebブラウザC1上で入力された情報をクライアント端末Cから受け付ける機能を有している。
なお、クライアント端末Cは、サーバSから、WebブラウザC1に表示される画面の一部又は全部の機能を実現するためのjava(登録商標)アプレット等のプログラムをダウンロードして、WebブラウザC1に画面を表示してもよい。
【0027】
さらに、サーバSには、病態シミュレータプログラムS3がコンピュータ実行可能に搭載されている。この病態シミュレータプログラムS3は、後述のように生体モデルに基づいて疾患に関するシミュレーションを行うためのものである。
また、サーバSには、患者の検査結果等の各種データを有するデータベースS4が設けられており、システムSSに入力されたデータやシステムで生成されたデータその他のデータは、このデータベースS4に保存されている。
【0028】
上記のように、サーバSは、Webサーバとしての機能、インタフェース(画面)生成機能、病態シミュレータとしての機能を有している。
なお、図1では、医療用シミュレーションシステムの構成例として、ネットワーク接続されたサーバ−クライアントシステムを示しているが、本システムを、1つのコンピュータ上で構成してもよい。
【0029】
図2は、前記サーバSのハードウェア構成を示すブロック図である。前記サーバSは、本体S110と、ディスプレイS120と、入力デバイスS130とから主として構成されたコンピュータによって構成されている。本体S110は、CPU S110aと、ROM S110bと、RAM S110cと、ハードディスクS110dと、読出装置S110eと、入出力インタフェースS110fと、画像出力インタフェースS110hとから主として構成されており、CPU S110a、ROM S110b、RAM S110c、ハードディスクS110d、読出装置S110e、入出力インタフェースS110f、及び画像出力インタフェースS110hは、バスS110iによってデータ通信可能に接続されている。
【0030】
CPU S110aは、ROM S110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM S110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。そして、前記プログラムS2,S3などのアプリケーションプログラム140aを当該CPU S110aが実行することにより、後述するような各機能ブロックが実現され、コンピュータがシステムSSとして機能する。
ROM S110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU S110aに実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータ等が記録されている。
【0031】
RAM S110cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM S110cは、ROM S110b及びハードディスクS110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU S110aの作業領域として利用される。
ハードディスクS110dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラム等、CPU S110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。プログラムS2,S3も、このハードディスクS110dにインストールされている。
【0032】
読出装置S110eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記録媒体S140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記録媒体S140には、コンピュータを本発明のシステムとして機能させるためのアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)が格納されており、コンピュータが当該可搬型記録媒体S140から本発明に係るアプリケーションプログラムS140aを読み出し、当該アプリケーションプログラムS140aをハードディスクS110dにインストールすることが可能である。
【0033】
なお、前記アプリケーションプログラムS140aは、可搬型記録媒体S140によって提供されるのみならず、電気通信回線(有線、無線を問わない)によってコンピュータと通信可能に接続された外部の機器から前記電気通信回線を通じて提供することも可能である。例えば、前記アプリケーションプログラムがインターネット上のアプリケーションプログラム提供サーバコンピュータのハードディスク内に格納されており、このサーバコンピュータにアクセスして、当該コンピュータプログラムをダウンロードし、これをハードディスクS110dにインストールすることも可能である。
また、ハードディスクS110dには、例えば米マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)等のグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーティングシステムがインストールされている。以下の説明においては、本実施形態に係るアプリケーションプログラムS140a(S2,S3)は当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0034】
入出力インタフェースS110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインタフェース、およびD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインタフェース等から構成されている。入出力インタフェースS110fには、キーボードおよびマウスからなる入力デバイスS130が接続されており、ユーザが当該入力デバイスS130を使用することにより、コンピュータにデータを入力することが可能である。
画像出力インタフェースS110hは、LCDまたはCRT等で構成されたディスプレイS120に接続されており、CPU S110aから与えられた画像データに応じた映像信号をディスプレイS120に出力するようになっている。ディスプレイS120は、入力された映像信号にしたがって、画像(画面)を表示する。
【0035】
なお、前記クライアント端末Cのハードウェア構成も、前記サーバSのハードウェア構成と略同様である。
【0036】
[シミュレーションシステムにおける生体モデル]
図3は、システムSSの病態シミュレータプログラムS3で用いられる生体モデルの一例の全体構成を示すブロック図である。この生体モデルは、特に、糖尿病に関連した生体器官(生体機能)を模したものであり、膵臓ブロック1、肝臓ブロック2、インスリン動態ブロック3及び末梢組織ブロック4から構成されている。
【0037】
各ブロック1,2,3,4は、それぞれ入力と出力を有している。すなわち、膵臓ブロック1は、血中グルコース濃度6を入力とし、インスリン分泌速度7を出力としている。
肝臓ブロック2は、消化管からのグルコース吸収5、血中グルコース濃度6及びインスリン分泌速度7を入力とし、正味グルコース放出8及び肝臓通過後インスリン9を出力としている。
また、インスリン動態ブロック3は、肝臓通過後インスリン9を入力とし、末梢組織でのインスリン濃度10を出力としている。
さらに、末梢組織ブロック4は、正味グルコース放出8及び末梢組織でのインスリン濃度10を入力とし、血中グルコース濃度6を出力としている。
【0038】
グルコース吸収5は、生体モデル外部から与えられるデータである。本実施形態において、グルコース吸収に関するデータは、入力する検査データ(生体応答)の種類に応じて、あらかじめ定められた値を記憶させておく。
また、それぞれの機能ブロック1〜4は、シミュレータプログラムがサーバSのCPUによって実行されることにより実現される。
【0039】
つぎに、前述した例における各ブロックの詳細について説明する。なお、FGB及びWsはそれぞれ空腹時血糖値(FGB=BG(0))及び想定体重を示しており、またDVg及びDViはそれぞれグルコースに対する分布容量体積及びインスリンに対する分布容量体積を示している。
【0040】
[生体モデルの膵臓ブロック]
膵臓ブロック1の入出力の関係は、以下の微分方程式(1)を用いて記述することができる。また、微分方程式(1)と等価な、図4に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(1):
dY/dt = −α{Y(t)−β(BG(t)−h)}
(ただし、BG(t)> h)
= −αY(t) (ただし、BG(t)<=h)
dX/dt = −M・X(t)+Y(t)
SR(t) = M・X(t)
変数:
BG(t):血糖値
X(t) :膵臓から分泌可能なインスリン総量
Y(t) :グルコース刺激に対しX(t)に新たに供給されるインスリン供給速度
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
パラメータ:
h :インスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値
α :グルコース刺激に対する追従性
β :グルコース刺激に対する感受性
M :単位濃度あたりの分泌速度
ここで、図3における膵臓ブロック1への入力である血糖値6はBG(t)と対応し、また出力であるインスリン分泌速度7はSR(t)と対応する。
【0041】
図4のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、12はインスリン供給を刺激できるグルコース濃度のしきい値h、13はグルコース刺激に対する感受性β、14はグルコース刺激に対する追従性α、15は積分要素、16はグルコース刺激に対して新たに供給されるインスリン供給速度Y(t)、17は積分要素、18は膵臓から分泌可能なインスリン総量X(t)、19は単位濃度当たりの分泌速度Mをそれぞれ示している。
【0042】
[生体モデルの肝臓ブロック]
肝臓ブロック2の入出力の関係は、以下の微分方程式(2)を用いて記述することができる。また、微分方程式(2)と等価な、図5に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(2):
dI(t)/dt = α2{−A(t) + (1−A)・SR(t) }
Goff(FGB) = f1 (ただし FGB<f3)
= f1 + f2・(FGB−f3)
(ただしFGB>=f3)
Func1(FGB)= f4 − f5・(FGB−f6)
Func2(FGB)=f7/FGB
b1(I(t))= f8{1 + f9・I4(t)}
HGU(t) =r・Func1(FGB)・b1(I(t))・RG(t)+ (1−r)・Kh・BG(t)・I(t) (ただしHGU(t)>=0)
HGP(t) = I4off・Func2(FGB)・b2+Goff(FGB)−I(t)・Func2(FGB)・b2 (ただしHGP(t)>= 0)
SGO(t) =RG(t)+ HGP(t)−HGU(t)
SRpost(t) = ASR(t)
変数:
BG(t):血糖値(血液単位体積あたりのグルコース濃度)
SR(t):膵臓からのインスリン分泌速度
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
RG(t) :消化管からのグルコース吸収
HGP(t) :肝糖放出
HGU(t) :肝糖取込
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
(t) :肝インスリン濃度
パラメータ:
Kh :単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度
:肝臓でのインスリン通過率
Goff :基礎代謝に対するグルコース放出速度
b2 :肝糖放出抑制率に関する調整項
r :インスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率
α2 :インスリン刺激に対する追従性
4off :肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値
関数:
Goff(FGB): 基礎代謝に対するグルコース放出速度
Func1(FGB): 消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率
Func2(FGB): インスリン刺激に対する肝糖放出抑制率
f1〜f9 : 上記の3要素の表現にあたって用いた定数
b1(I(t)): 肝糖取り込み率に関する調整項
ここで、図3における肝臓ブロックへの入力である、消化管からのグルコース吸収5はRG(t)、血糖値6はBG(t)、インスリン分泌速度7はSR(t)とそれぞれ対応し、また出力である正味グルコース放出8はSGO(t)、肝臓通過後インスリン9はSRpost(t)とそれぞれ対応している。
【0043】
図5のブロック線図において、5は消化管からのグルコース吸収RG(t)、6は血糖値BG(t)、7は膵臓からのインスリン分泌速度SR(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、24は肝臓のインスリン取込み率(1−A7)、25はインスリン刺激に対する追従性α2、26は肝臓でのインスリン消失速度A3、27は積分要素、28は肝インスリン濃度I(t)、29はインスリン依存性肝糖取り込み分配率(1−r)、30は単位インスリン、単位グルコース当たりの肝臓でのインスリン依存グルコース取り込み速度Kh、31はインスリン非依存性肝糖取り込みへの分配率r、32は消化管からのグルコース刺激に対する肝糖取り込み率Func1(FGB)、33は肝糖取り込み率に関する調整項b1(I(t))、34は肝糖取込HGU(t)、35は肝糖放出が抑制されるインスリン濃度のしきい値I4off、36はインスリン刺激に対する肝糖放出抑制率Func2(FGB)、37は肝糖放出抑制率に関する調整項b2、38は基礎代謝に対する内因性グルコース放出速度、39は肝糖放出HGP(t)、40は肝臓でのインスリン通過率Aを示している。
【0044】
[生体モデルのインスリン動態ブロック]
インスリン動態分泌の入出力の関係は、以下の微分方程式(3)を用いて記述することができる。また、微分方程式(3)と等価な、図6に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(3):
dI(t)/dt = −A(t)+A(t)+A(t)+SRpost(t)
dI(t)/dt= A(t)− A(t)
dI(t)/dt=A(t) − A(t)
変数:
SRpost(t):肝臓通過後のインスリン
(t) :血中インスリン濃度
(t) :インスリン非依存組織でのインスリン濃度
(t) :末梢組織でのインスリン濃度
パラメータ:
:末梢組織でのインスリン消失速度
:末梢組織へのインスリン分配率
:肝臓通過後のインスリン消失速度
:末梢組織通過後のインスリン流出速度
:インスリン非依存組織でのインスリン消失速度
:インスリン非依存組織へのインスリン分配率
ここで、図3におけるインスリン動態ブロックの入力である肝臓通過後のインスリン9は、SRpost(t)と対応し、また出力である末梢組織でのインスリン濃度10は、I(t)と対応する。
【0045】
図6のブロック線図において、9は肝臓通過後のインスリンSRpost(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I(t)、50は積分要素、51は肝臓通過後のインスリン消失速度A、52は血中インスリン濃度I(t)、53は末梢組織へのインスリン分配率A、54は積分要素、55は末梢組織でのインスリン消失速度A1、56は末梢組織通過後のインスリン流出速度A、57はインスリン非依存組織へのインスリン分配率A、58は積分要素、59はインスリン非依存組織でのインスリン濃度I(t)、60はインスリン非依存組織でのインスリン消失速度Aをそれぞれ示している。
【0046】
[生体モデルの末梢組織ブロック]
末梢組織ブロック4の入出力の関係は、以下の微分方程式(4)を用いて記述することができる。また、微分方程式(4)と等価な、図7に示されるブロック線図を用いて表現することもできる。
微分方程式(4):
dBG´/dt=SGO(t)−u* Goff(FGB)−Kb(BG´(t)−FBG´)−Kp・I(t)・BG´(t)
変数:
BG´(t) :血糖値(単位体重あたりのグルコース濃度)
(ただしBG[mg/dl]、BG´[mg/kg])
SGO(t) :肝臓からの正味グルコース
(t) :末梢組織でのインスリン濃度
FBG´ :空腹時血糖(ただしFBG´=BG´(0))
パラメータ:
Kb :末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度
Kp :単位インスリン、単位グルコースあたりの
末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度
u :基礎代謝に対するグルコース放出速度のうち
基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費が占める割合
関数:
Goff(FGB):基礎代謝に対するグルコース放出速度
f1〜f3 :Goffの表現にあたって用いた定数
ここで、図3における末梢組織ブロックへの入力である末梢組織でのインスリン濃度10はI(t)、肝臓からの正味グルコース8はSGO(t)とそれぞれ対応し、また出力である血糖値6はBG(t)と対応する。
【0047】
図7のブロック線図において、6は血糖値BG(t)、8は肝臓からの正味グルコースSGO(t)、10は末梢組織でのインスリン濃度I(t)、70は基礎代謝に対するインスリン非依存グルコース消費速度u* Goff(FGB)、71は積分要素、72は末梢組織でのインスリン非依存グルコース消費速度Kb、73は単位インスリン、単位グルコース当たりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度Kp、74は単位変換定数Ws/DVgをそれぞれ示している。
【0048】
図3に示されるように、本システムを構成するブロック間の入力、出力は、相互に接続されているため、消化管からのグルコース吸収5を与えることで、疑似生体応答として血糖値及びインスリン濃度の時系列変化を、数式に基づいて計算し、シミュレートすることができる。
【0049】
本システムの微分方程式の計算には、例えばE−CELL(慶應義塾大学公開ソフトウェア)やMATLAB(マスワークス社製品)を用いることができるが、他の計算システムを用いてもよい。
【0050】
[全体の処理手順]
図8は、本システムSSが、医師による治療効果の判断を支援するための判断支援情報を生成して表示するまでの処理手順を示している。
図8の処理は、大きくわけて、生体応答入力処理STP1、置換前処理STP2、置換処理STP3、置換後処理STP4、そして判断支援情報作成処理STP5を含んでいる。
なお、図8の処理は、ユーザインターフェイスプログラムS2又は病態シミュレータプログラムS3がコンピュータによって実行されることによって実現される。
【0051】
[生体応答入力処理STP1]
まず、生体応答情報(実測臨床データ)としてのOGTT(Oral Glucose Tolerance Test;経口ブドウ糖負荷試験)時系列データの入力処理が行われる。
OGTT時系列データは、生体モデルによってシミュレートしようとする患者に対して実際に行った検査であるOGTT(所定量のブドウ糖液を経口負荷して血糖値や血中インスリン濃度の時間的変化を測定)の結果であり、本システムは、クライアント端末Cから、実際の生体応答(実際の検査値)として入力を受け付ける。ここでは、OGTT時系列データとして、血糖値データとインスリン濃度データの2つが入力される。
クライアント端末Cに入力された生体応答情報は、サーバSに送信され、サーバSは、その情報を受け付ける。このように、サーバSは、生体応答入力部としての機能を有している。
なお、生体応答入力は、システム外の他のコンピュータから生体応答情報がシステムSSへ送信されることによって行われても良い。
【0052】
図9は、入力された血糖値とインスリン濃度の実測値(時間的変化)をグラフ上に画面表示した例を示している。この図9の画面は、クライアント端末C(必要であればサーバSでも)表示可能である。
なお、図9の血糖値データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の1つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した実測データである。
また、図9のインスリン濃度変動データは、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I(t)の時間的変化に対応した実測データである。
【0053】
[置換前処理STP2]
続いて、置換前処理として、生体モデルのパラメータセット獲得処理STP2−1、病態シミュレーション処理STP2−2、表示処理STP2−3が行われる。
【0054】
[生体モデルのパラメータセット獲得処理(生体機能状態値生成処理)STP2−1]
図3〜図7に示す上述の生体モデルによって、個々の患者の生体器官をシミュレートするには、個々の患者に応じた特性を有する生体モデルを生成する必要がある。具体的には、生体モデルのパラメータと変数の初期値とを、個々の患者に応じて決定し、決定されたパラメータ及び初期値を生体モデルに適用して、個々の患者に対応した生体モデルを生成する必要がある(なお、以下では、特に区別しなければ、変数の初期値も生成対象のパラメータに含めるものとする)。
【0055】
このため、本システムSSのサーバSは、生体モデルの内部パラメータの組である内部パラメータセット(以下、単に「パラメータセット」ということがある)を求め、求めたパラメータセットが適用された生体モデルを生成する機能を有している。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
生体モデル生成部によって生成されたパラメータセットを前記生体モデルに与えることで、生体モデル演算部が、生体器官の機能のシミュレートを行って、実際の生体応答(検査結果)を模した疑似応答を出力することができる。
【0056】
以下、実際の患者(生体)の検査結果(生体応答)に基づき、その患者の生体器官を模した生体モデルを形成するためのパラメータ(生体機能状態値)のセットを生成するパラメータセット獲得処理の詳細について説明する。
【0057】
[テンプレートマッチングSTP2−1−1]
図10に示すように、本システムSSは、入力されたOGTT時系列データと、テンプレートデータベースDB1のテンプレートとのマッチングを行う。なお、テンプレートデータベースDB1は、サーバSのデータベースS4に含まれる1つのデータベースである。
テンプレートデータベースDB1は、図11に示すように、テンプレートとなる生体モデルの参照用出力値T1,T2,・・と、当該参照用出力値を発生させるパラメータセットPS#01,PS#02・・とが対応付けられた複数組のデータが予め格納されたものである。参照用出力値とパラメータセットの組を作成するには、任意の参照用出力値に対して、適当なパラメータセットを割り当てたり、逆に任意のパラメータセットを選択した場合の生体モデルの出力を生体シミュレーションシステムで求めたりすればよい。
【0058】
図12は、テンプレート(参照用出力値)T1の例を示している。図12(a)は、テンプレートとしての血糖値データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血糖値BG(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。図12(b)は、テンプレートとしての血中インスリン濃度データであり、図3〜図7に示す生体モデルにおける出力項目の一つである血中インスリン濃度I(t)の時間的変化に対応した参照用時系列データである。
【0059】
システムSSは、上記テンプレートデータベースDB1の各参照用時系列データと、OGTT時系列データとの類似度を演算する。類似度は、誤差総和を求めることによって得られる。誤差総和は、例えば、次式によって得られる。
誤差総和=αΣ|BG(0)−BGt(0)|+βΣ|PI(0)−PIt(0)|
+αΣ|BG(1)−BGt(1)|+βΣ|PI(1)−PIt(1)|
+αΣ|BG(2)−BGt(2)|+βΣ|PI(2)−PIt(2)|
+・・・
=α{Σ|BG(t)−BGt(t)|}+β{Σ|PI(t)−PIt(t)|}
ここで、
BG:入力データの血糖値[mg/dl]
PI:入力データの血中インスリン濃度[μU/ml]
BGt:テンプレートの血糖値[mg/dl]
PIt:テンプレートの血中インスリン濃度[μU/ml]
t:時間[分]
また、α及びβは規格化に用いる係数であり、
α=1/Average{ΣBG(t)}
β=1/Average{ΣPI(t)}
定式のAverageはテンプレートデータベースDB1に格納された全テンプレートに対する平均値を指す。
【0060】
誤差総和が少ないほど、テンプレートとOGTT時系列データが類似していることになる。また、OGTT時系列データに類似するテンプレートのパラメータセットは、生体機能の状態を良く表している、といえる。
そこで、CPU S110aは、テンプレートデータベースDB1中の各テンプレートについて誤差総和を求め、誤差総和(類似度)が最小となるテンプレート、すなわちOGTT時系列データに最も近似するテンプレートを決定する。
【0061】
[パラメータセット獲得STP2−1−2]
さらに、システムSSは、STP2−2−1において決定されたテンプレートに対応するパラメータセットを、テンプレートデータベースDB1から獲得する。以下では、獲得されたパラメータセットを「置換前パラメータセット」といい、置換前パラメータセットを構成する個々のパラメータを「置換前パラメータ」という。
【0062】
なお、パラメータセット(生体モデル)を生成する方法は、上記のようなテンプレートマッチングに限られるものではない。例えば、パラメータセットを遺伝的アルゴリズムによって生成してもよい。つまり、パラメータセットの初期集団をランダムに発生させ、初期集団に含まれるパラメータセット(個体)に対して、選択・交叉・突然変異処理を行って、新たな子集団を生成するという遺伝的アルゴリズムを適用することができる。この遺伝的アルゴリズムによって生成されたパラメータセットのうち、入力された生体応答(検査結果)に近似した疑似応答を出力するパラメータセットを採用することができる。
このように、生体モデル生成部は、入力され生体応答を模した疑似応答を出力できる生体モデルを生成できるものであれば、その具体的生成方法は特に限定されない。
【0063】
[置換前シミュレーション処理STP2−2]
システムSSは、パラメータセット獲得処理STP2−1によって得られた置換前パラメータセットを生体モデルに与え、その生体モデルに基づき演算を行い、入力されたOGTT時系列データを模した疑似生体応答情報(血糖値及びインスリン濃度の時間変化を示すグラフ)を生成する。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
また、以下では、シミュレーション(置換前)STP2−2で生成された疑似応答を、「置換前疑似生体応答」という。置換前疑似生体応答は、OGTT時系列データを模したものである。
【0064】
[表示処理STP2−3]
[置換前生体応答(入力された生体応答と置換前疑似生体応答)の表示]
図13は、STP2−2の処理結果に基づき、サーバSのユーザインターフェイスプログラムS2によって生成され、サーバS2からクライアントCに送信されて、当該クライアントCのWebブラウザC1上に表示される画面表示を示している。
図13の画面は、入力されたOGTT時系列データと置換前疑似生体応答を共に表示するものである。OGTT時系列データと置換前疑似生体応答の両方を出力することで、置換前疑似生体応答が、OGTT時系列データ(入力された生体応答)を良く再現しているか否かをユーザが確認することができる。
なお、OGTT時系列データとこれを再現した置換前疑似生体応答とを、特に区別しない場合、両者を総称して「置換前生体応答」という。
【0065】
[生体機能状態値(パラメータセット)表示]
図14は、STP2−1の処理結果に基づき、サーバSのユーザインターフェイスプログラムS2によって生成され、サーバS2からクライアントCに送信されて、当該クライアントCのWebブラウザC1上に表示される画面表示を示している。
図14の画面は、生体モデルが示す生体機能の状態値として置換前パラメータセットを表示するものである。より具体的には、図14の画面は、生体モデルのパラメータ名(BETA、H、・・等)表示部100、置換前パラメータセット表示部101、健常者の平均パラメータ値を示す正常型平均表示部102、境界型糖尿病患者の平均パラメータ値を示す境界型平均表示部103、糖尿病患者の平均パラメータ値を示す糖尿病型平均表示部104を含んでいる。
【0066】
図14のように、置換前パラメータセットと共に、病態を把握するために役立つ比較対象値として、正常型平均、境界型平均、糖尿病型平均などの値を表示することで、ユーザ(医師)は、患者の病態を把握し易くなる。
例えば、図14におけるパラメータ「BETA」は、生体モデルの膵臓ブロック1における「β:グルコース刺激に対する感受性(「インスリン分泌感度」ともいう)」に対応している。置換前パラメータセットの「BETA」の値は、正常型平均値の「BETA」の値から離れており、医師は、病態としてインスリン分泌感度が悪化しているという判断を容易に行うことができる。
【0067】
また、図14におけるパラメータ「Kp」は、生体モデルの末梢組織ブロック4における「Kp:単位インスリン、単位グルコースあたりの末梢組織でのインスリン依存グルコース消費速度(末梢インスリン感受性ともいう)」に対応している。置換前パラメータセットの「Kp」の値は、正常型平均の「Kp」の値から離れており、医師は、病態として末梢インスリン感受性が悪化しているという判断を容易に行うことができる。
【0068】
このように、図14の表示は、医師が患者の病態把握を支援する情報を提供している。
なお、図14の表示は、パラメータセットを構成するパラメータのうち、一部のパラメータだけを表示しているが、他のパラメータを表示してもよい。また、図14では、生体機能状態値として、パラメータ値をそのまま表示しているが、1又は複数のパラメータ値に基づいて演算された値を、生体機能状態値としてもよい。
【0069】
[置換処理STP3]
[置換対象選択処理STP3−1]
続いて、ユーザは、図14の画面表示を参照しつつ、値の置換対象となるパラメータ(生体機能状態値)の選択を行う。この選択は、図14の画面上で、マウスポインタにより、置換対象としたいパラメータ名をクリックする等の、コンピュータにおいて採用されている一般的な選択入力機能を利用して行うことができる。
なお、置換対象の選択は、ユーザからの入力に限らず、システムSSが自動的に行っても良い。例えば、正常型平均から所定値以上離れているパラメータを置換対象として自動選択としてもよい。
また、システムSSによる自動選択で挙げられた置換候補の中から、ユーザが置換したいパラメータを選択してもよい。
【0070】
[置換処理STP3−2]
システムSSは、置換対象(置換対象パラメータ)の選択を受け付けると、置換対象パラメータ値を、正常な生体(健常者)の値、すなわち、図14の正常型平均表示部102に表示されている値、に置換する。
例えば、図14に示す置換前パラメータセットのうち、「BETA」を置換対象パラメータとして置換処理を行った場合(以下、この処理を「BETA置換」という)、置換後パラメータセットは、BETAの値が、正常型平均値である「0.39939」になり、その他のパラメータ値は、置換前パラメータセットの値と同じである。図14では、BETA置換後パラメータセットを、BETA置換表示部105に表示している。
【0071】
また、図14に置換前パラメータセットのうち、「Kp」を置換対象パラメータとして置換処理を行った場合(以下、この処理を「Kp置換」という)、置換後パラメータセットは、Kpの値が、正常型平均値である「0.000161」になり、その他のパラメータ値は、置換前パラメータセットの値と同じである。図14では、Kp置換後パラメータセットを、Kp置換表示部105に表示している。
【0072】
上記のように、本システムSSでは、1つの置換前パラメータセットに対して、置換の仕方が異なる複数の置換後パラメータセットを生成することができる。そして、これらの置換後パラメータセットを生体モデルに適用すれば、置換の仕方が異なる複数の置換後生体モデルを生成できる。
【0073】
なお、上記説明では、1つの置換処理において、置換対象となるパラメータは1つだけである(例えば,BETA置換であれば置換対象パラメータはBETAのみ)が、1つの置換処理において、複数のパラメータを置換してもよい。
また、上記説明では、正常型平均値への置換を行ったが、境界型平均値や糖尿病型平均値への置換を行っても良い。つまり、病状が悪化する方向の置換を行っても良い。
【0074】
さらに、置換後のパラメータ値は、任意の値でもよい。つまり、置換後のパラメータ値をユーザが入力して、任意の値に設定できるようにしてもよい。
また、置換の仕方が異なる複数の置換後パラメータセット(置換後生体モデル)を生成するという処理には、同じパラメータを、異なる値に置換することも含まれる。例えば、置換前パラメータセットのBETAを、正常型平均値に置換した置換後パラメータセットと、境界型平均値に置換した置換後パラメータセットは異なるパラメータセットであるとみなすことができる。
【0075】
[置換後処理STP4]
[置換後シミュレーション処理STP4−1]
置換前シミュレーション処理STP2−2と同様に、システムSSは、置換処理STP3によって得られた置換後パラメータセットを生体モデルに与え、その生体モデルに基づき演算を行い、置換後疑似生体応答情報(血糖値及びインスリン濃度の時間的変化を示すグラフ)を生成する。なお、この機能は、病態シミュレータプログラムS3によって実現されている。
また、以下では、置換後シミュレーションSTP4−1で生成された疑似応答を、「置換後疑似生体応答」という。置換後疑似生体応答は、置換されたパラメータに対応する病態が改善された患者のOGTT時系列データを模したものである。
【0076】
[置換後生体応答の表示処理STP4−2]
図15及び図16は、STP4−1のシミュレーション処理結果に基づき、サーバSのユーザインターフェイスプログラムS2によって生成され、サーバS2からクライアントCに送信されて、当該クライアントCのWebブラウザC1上に表示される画面表示を示している。
図15の画面は、置換前擬似生体応答とBETA置換を行った置換後疑似生体応答とを共に表示するものである。置換前疑似生体応答と置換後疑似生体応答の両方を出力することで、BETA置換前の生体応答とBETA置換後の生体応答とが、どのように変化しているかを、ユーザが容易に把握することができる。
すなわち、図15の画面をみれば、BETA(インスリン分泌感度)という病因を薬物治療などによって治療を行ったときに、OGTTデータがどのようになるかを治療前に確認することが可能である。すなわち、図15の画面は、治療効果の判断を支援するための判断支援情報となっており、図15の画面表示機能は、判断支援情報作成部及び判断支援情報表示部としても機能している。
【0077】
また、図16の画面は、置換前擬似生体応答とKp置換を行った置換後疑似生体応答とを共に表示するものである。図16の画面をみれば、Kp(末梢インスリン感受性)という病因を薬物治療などによって治療を行ったときに、OGTTデータがどのようになるかを治療前に確認することが可能である。すなわち、図16の画面は、治療効果の判断を支援するための判断支援情報となっており、図16の画面表示機能は、判断支援情報作成部及び判断支援情報表示部としても機能している。
【0078】
さらに、図15及び図16に示す複数の置換後生体モデルの置換後疑似生体応答は、共に画面表示されるため、ユーザは、複数の置換後疑似生体応答を見比べることで、複数の病因のうち、どの病因の治療が効果的であるかの判断支援情報を得ることもできる。
【0079】
[判断支援情報作成処理STP5]
図15及び図16の表示も治療効果の判断を支援する情報として機能するが、ここでは、ユーザにとってさらに分かり易い判断支援情報を生成する。具体的には、処理STP5では、置換の仕方が異なる複数の置換(治療)について、どの置換(治療)が効果的であるかの判断をし易くする情報を生成する。
【0080】
[血糖降下度算出STP5−1]
まず、複数の置換(BETA置換とKp置換)について、それぞれの置換前後の血糖降下度を算出する。血糖降下度は、置換前の血糖値と置換後の血糖値との差分(グラフでの差分面積)を求めることによって得られる。
【0081】
[病因占有比率算出・表示処理STP5−2]
続いて、BETA置換とKp置換のそれぞれの血糖降下度の比率から、病因の占有比率を算出する。図15及び図16の場合、病因「BETA」の占有比率は24%であるのに対して、病因「Kp」の占有比率は76%と高くなっていることがわかる。つまり、この患者の病因としては、比較的「Kp」が支配的であり、「Kp」を是正する治療の方がより効果が高いことになる。
図17は、判断支援情報としての病因占有比率を円グラフで画面表示したものである。図17の表示は、クライアントCのWebブラウザC1上にて行われる。医師は、この図17の表示をみることで、Kpを是正する治療の方が、治療効果が高いと判断することができる。
【0082】
図18〜図23は、他の患者について、図8に示す処理を行った場合の、画面表示例を示している。
つまり、図18は、入力されたOGTT時系列データのグラフ表示画面であり、図19は、入力されたOGTT時系列データとその置換前疑似生体応答を示すグラフ表示画面である)。図20は、置換前パラメータセット他の表示画面であり、BETA置換及びKp置換を行った場合の値も表示されている。
【0083】
そして、図21及び図22は、それぞれ、置換前生体応答と置換後疑似生体応答を示すグラフ表示画面であり、図21及び図22の対比から、BETAを是正する治療、すなわち、インスリン分泌感度を改善する方が、治療効果が高いと考えることができる。
さらに、図23は、図21及び図22の結果から算出された病因占有率のグラフ表示画面であり、図23の表示によって、インスリン分泌感度を是正する治療を行うと効果が高いことを、医師が一層容易に判断することができる。
【0084】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、本発明のシステムが対象とする疾患は、糖尿病に限られるものではなく、高血圧症等他の疾患であってもよい。高血圧症の場合、生体モデルの出力する生体応答としては血圧とするのが好適である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】医療用シミュレーションシステムのシステム構成図である。
【図2】サーバのハードウェア構成を示すブロック図である。
【図3】生体モデルの全体構成図である。
【図4】生体モデルの膵臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図5】生体モデルの肝臓モデルの構成を示すブロック線図である。
【図6】生体モデルのインスリン動態モデルの構成を示すブロック線図である。
【図7】生体モデルの末梢組織モデルの構成を示すブロック線図である。
【図8】システムの全体処理フローチャートである。
【図9】実測OGTT時系列データの表示画面である。
【図10】生体モデルのパラメータセット獲得処理のフローチャートである。
【図11】テンプレートデータベースを示す図である。
【図12】テンプレートのOGTT時系列データを示す図であり、(a)は血糖値、(b)はインスリン濃度である。
【図13】入力されたOGTTデータ及び置換前疑似生体応答を示す表示画面である。
【図14】置換前パラメータセット等の表示画面である。
【図15】BETA置換を行った場合の置換前後の生体応答表示画面である。
【図16】Kp置換を行った場合の置換前後の生体応答表示画面である。
【図17】病因占有率を示す円グラフ表示である。
【図18】実測OGTT時系列データの表示画面の他の例である。
【図19】入力されたOGTTデータ及び置換前擬似生体応答を示す表示画面の他の例である。
【図20】置換前パラメータセット等の表示画面の他の例である。
【図21】BETA置換を行った場合の置換前後の生体応答表示画面の他の例である。
【図22】Kp置換を行った場合の置換前後の生体応答表示画面の他の例である。
【図23】病因占有率を示す円グラフ表示の他の例である。
【符号の説明】
【0086】
SS 医療用シミュレーションシステム
1膵臓ブロック
2肝臓ブロック
3インスリン動態ブロック
4末梢組織ブロック
5消化管からのグルコース吸収
6血糖値
7インスリン分泌速度
8正味グルコース放出
9肝臓通過後インスリン
10末梢組織でのインスリン濃度
STP1 生体応答入力処理(生体応答入力部)
STP2−1 パラメータセット獲得処理(生体機能状態値生成部)
STP2−3 表示処理(生体機能状態値表示部)
STP3 置換処理(置換部)
STP3−1 置換対象選択受付処理(選択部)
STP4−1 置換後シミュレーション処理(シミュレーション部)
STP4−2 置換後生体応答表示処理(置換後生体応答表示部)
STP5 判断支援情報作成処理(判断支援情報作成部)
STP5−2 病因占有比率算出表示処理(判断支援情報表示部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の機能を模した生体モデルを用いて、疑似生体応答を生成する医療用シミュレーションシステムであって、
前記生体モデルが示す複数の生体機能状態値のうち、少なくとも一部の値を置換する置換部と、
置換された値が反映された生体モデルに基づいて置換後疑似生体応答を生成するシミュレーション部と、
を備えていることを特徴とする医療用シミュレーションシステム。
【請求項2】
前記置換後疑似生体応答の表示部を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項3】
前記置換部は、置換対象となる生体機能状態値を、正常な生体が持つべき値に置換することを特徴とする請求項1又は2記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項4】
複数の前記生体機能状態値を表示する生体機能状態値表示部を更に備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項5】
複数の生体機能状態値のうち、置換対象の選択を行う選択部を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記表示部は、前記置換後疑似生体応答とともに、生体機能状態値を置換する前の置換前生体応答を表示するよう構成されていることを特徴とする請求項2記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項7】
生体応答を示す生体応答情報の入力を受け付ける生体応答入力部と、
生体応答を模した疑似応答を再現するための複数の生体機能状態値を生成する生体機能状態値生成部と、
を備え、
前記置換部は、前記生体機能状態値生成部によって生成された複数の生体機能状態値のうち少なくとも一部の値を置換するよう構成され、
前記表示部は、置換前生体応答として、前記生体応答入力部によって受け付けられた入力生体応答又は生体機能状態値を置換する前の生体モデルによる疑似生体応答を表示するよう構成されていることを特徴とする請求項6に記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項8】
前記表示部は、生体応答の時間的変化を示すグラフによって、表示対象の生体応答を表示するよう構成されていることを特徴とする請求項2、6又は7記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項9】
前記生体モデルは、生体の機能に関する複数のパラメータを含む数理モデルによって構成されており、前記生体機能状態値は、前記パラメータ又は前記パラメータを用いて作成された値であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項10】
前記置換後疑似生体応答に基づいて、治療効果の判断を支援するための判断支援情報を生成する判断支援情報作成部を備えていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項11】
前記判断支援情報作成部は、生体機能状態値の置換の仕方が異なる複数の生体モデルを用いて、シミュレーション部によって生成されたそれぞれの置換後疑似生体応答に基づいて、判断支援情報を作成するよう構成されていることを特徴とする請求項10記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項12】
前記判断支援情報を表示する判断支援情報表示部を備えていることを特徴とする請求項10又は11記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項13】
前記判断支援情報表示部は、治療効果を表すグラフを表示するよう構成されていることを特徴とする請求項12記載の医療用シミュレーションシステム。
【請求項14】
コンピュータを、請求項1〜13のいずれかに記載の医療用シミュレーションシステムとして機能させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−200093(P2007−200093A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18789(P2006−18789)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】