説明

医療用ポンプ

流体封入部分を有する貯液部(3)と、流体(5)が管状部材(7)を通過できるようにするためにその内側が流体封入部分と流体連通する状態で構成できる管状部材(7)を備えた医療用ポンプ(1)が提供される。流体封入部分は、空気と連通しないように密封された流体(5)の容積体を含み、流体封入部分は、管状部材(7)の内に移動された流体(5)の任意の容積と基本的に同じ程度まで容積が減少するように構成される。本発明は、医療用流体を送出する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療用ポンプ及び医療用流体の送出方法に関するものである。本出願では、流体という用語は、液体ばかりでなくゲルも含むことに留意されたい。
【背景技術】
【0002】
注射器及び他の注入器具は様々な範囲の用途を有する。その1つは、ゲルのように粘度が1000mPasを超える流体を投与する注射器である。例えば、皮膚の体積を増大させるために、人間又は動物の皮膚にゲルを注入することがある。この用途は、エステティック産業で、例えばしわ及びひだを伸ばすこと、顔の輪郭を形作ること、唇整形などのために使用されてきた。このようなゲルは、例えばRestylane及びPerlaneという製品商標で出願人によって販売されている。これはいわゆるNASHAゲル(安定化した非動物性ヒアルロン酸)を基礎とするものである。別の用途は、女性の尿失禁の治療であり、ゲルの注入が実行される。出願人は、Zuidexという製品商標でこのようなゲル(これもNASHAゲルである)を販売している。Durolaneという商標の別のNASHAゲル製品は、例えば膝変形性関節炎などを治療するために、患者の骨に注入される。
【0003】
大量の流体を送出すべき場合、注射器は大きい容量を有するか、投与中に数回の再充填又は交換をしなければならない。量が多いと、通常は注射器の断面積が大きくなり、加えられた圧力を流体に伝達するプランジャの面積も大きくなる。プランジャの直径が大きいほど、流体を注射器から外に送出するために大きい圧力が必要になる。流体がゲルの形態の場合のように粘性の場合は、大量の流体を含む場合の一般的注射器の特有の問題が、さらに悪化する。
【0004】
米国特許第5496284号、米国特許第6132400号及び国際出願WO96/10430号は、麻酔剤を投与する注射器について記載している。これらの注射器は、面積の小さいプランジャを有する小さい第1室、及び貯液部として使用される第2室を提供して、第2室から第1室へ流体を充填できるようにすることによって、プランジャの面積が大きくなる問題を回避している。プランジャ面積が小さいと、麻酔剤の投与中に加えるべき力が減少される。
【0005】
これらの先行技術の注射器は、粘度の小さい液体の形態で麻酔剤を投与することを容易にするが、ゲルのような比較的粘性の流体を投与するためには不適切である。これらの先行技術注射器の欠点は、貯液部内に含まれる流体が空気と連通していることである。流体を送出室に導入する場合に、プランジャが近位方向に移動する間に、空気が導入される。粘性流体が空気と混合すると、空気が流体中に捕捉され、それによって人間又は動物の体内に投与される危険がある。流体を空気と混合することによる別の問題は、流体の欠陥となる汚染である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、比較的粘性の流体、例えば本明細書の背景技術の項で言及した種類の製品などのゲルのような、とりわけ少なくとも1000mPasの粘性を有する流体を投与するために適切な医療用ポンプを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、空気との混合の防止された流体を含み、それによって捕捉された空気を含む流体を送出するという危険性の低下された医療用ポンプを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、流体の汚染の危険性を低下させ、それによって欠陥のある流体を送出する危険性を低下させるために、自身に含まれる流体が空気と混合することを防止する医療用ポンプを提供することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、基本的に大量の流体を含む容量を有し、加える力が小さくても、ゲルのような粘性流体を容易に送出する医療用ポンプを提供することである。
【0010】
また、本発明の目的は、粘性流体のような医療用流体、とりわけゲルを送出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下の説明から明白になる以上及び他の目的は、添付請求の範囲で定義される特徴を有する医療用ポンプ及び方法によって達成される。
【0012】
本発明の第1の観点によると、医療用ポンプが提供され、この医療用ポンプは、
流体封入部分を有する貯液部と、
流体を管状部材内に通過させるために、内側が流体封入部分と流体連通するように構成可能である管状部材と、
管状部材内側で前進位置と後退位置との間で移動可能な内部密封材であって、流体が、管状部材及び後退した内部密封材によって画定された内部空間内に流体封入部分から移動できるようにするために、前進位置から後退可能であり、前記内部空間に存在する流体をポンプから送出するために、後退位置から前進可能である内部密封材とを備え、
前記流体封入部分が、空気と連通しないように密封された流体の容積体を含み、流体封入部分は、管状部材の前記内部空間に移動される流体の任意の容積と基本的に同じ程度まで、容積が減少するような構成である。
【0013】
本発明は、流体を投与するにつれて容積が減少可能である流体封入部分内に流体を提供することによって、流体を空気と連通しないように密封することが可能であるとの理解に基づく。これは、貯液部内の流体の容積減少が、流体を含む容積部に空気を導入することによって置換されるという特定された先行技術に対する解決法であることは明白である。
【0014】
本出願では、貯液部という用語は、少なくとも部分的に流体を含むように意図された容積部を定義するために使用される。さらに、流体封入部分は、空気と連通しないように密封された貯液部に含まれる流体の容積部と定義され、管状部材の内部空間に含まれる流体の容積体のような管状部材の内側は、流体封入部分の一部ではない。流体封入部分の境界面は、少なくとも部分的に貯液部の境界面と同じでよい。
【0015】
本発明の特定の利点は、流体封入部分に含まれる流体が空気と混合することを防止することである。特に、流体に捕捉される空気を導入する危険性が低下し、それによって流体のさらに安全かつ確実な送出を容易にする医療用ポンプが提供される。空気との混合を防止した流体を含む医療用ポンプの別の利点は、流体の汚染が低下することであり、これは欠陥のある流体を送出する危険性を低下させる。
【0016】
本発明の別の利点は、医療用ポンプから送出すべき比較的小さい容積の流体が、流体封入部分から前記内部空間内に移動されるので、送出すべき流体が、全ての流体を備える1つの室に含まれる医療用ポンプと比較して、送出に必要な力が減少することである。流体を前記内部空間内に移動させることによって、流体を医療用ポンプから強制的に送り出すために使用する手段の面積を減少させることができ、それによって送出に必要な力が減少する。これは、一般的に大きい粘度を有するゲルの場合、特に有利である。
【0017】
流体封入部分と管状部材の内側との間に構成できる流体連通は、密封材、弁、又は他の連通閉鎖手段を開くことによって可能になることが好ましい。
【0018】
少なくとも1つの具体例では、管状部材の内部空間と流体封入部分との流体連通は、内部密封材が前進位置から後退位置に後退させられる前に開放される。管状部材の内部空間と流体封入部分との流体連通は、内部密封材が後退した後、又は内部密封材が部分的に後退した時に開放することも可能である。
【0019】
少なくとも1つの具体例では、内部密封材が後退すると、管状部材の内側に負圧が形成され、負圧は流体封入部分の中の流体を強制的に管状部材の内部空間内に移動させる。流体封入部分の境界面の少なくとも一部を移動可能にするか、可撓性にすることによって、流体封入部分の容積は、流体封入部分に空気を導入せずに、流体封入部分から管状部材の内部空間内に移される容積と同じ程度まで減少する。これは、流体封入部分の残りの容積が、流体封入部分から流体が移される前に流体封入部分に含まれる流体の容積と、管状部材内に移された流体の容積との差であることを意味している。
【0020】
本発明は、貯液部内に流体封入部分の境界を画定する手段である可動手段を設けることによって、流体封入部分の容積を変動可能にできるという理解にも基づいている。
【0021】
少なくとも1つの実施例では、流体封入部分は外部密封材を備え、これは貯液部の内側で移動可能であり、流体封入部分に含まれる流体の境界を規定し、外部密封材は、内部密封材が前記前進位置から後退すると、管状部材に対して少なくとも部分的に移動するように構成される。
【0022】
貯液部は管状外筒として形成され、円筒形であることが適切である外部密封材が、貯液部内に設けられることが好ましい。貯液部は、ポリカーボネート、シクロオレフィン共重合体(COC)、ポリプロピレン又は他の適切な材料のような透明プラスチック材料で作製することができる。外部密封材は、貯液部に含まれる流体と環境空気との間に密封効果を形成するように構成され、流体が空気と混合することが防止される。流体封入部分とは反対側の外部密封材の側は、流体が流体封入部分から管状部材の内部空間内に移されるために外部密封材が移動した場合に、外部密封材を囲む圧力と等しくするために空気と連通する。外部密封材は、ゴム材料のような可撓性材料、特にブチルゴムで作製することが好ましい。ゴムの代替物は熱弾性プラスチックである。外部密封材は、密封効果を得るために貯液部の内壁に密接に適合するように設けられる。外部密封材の外周表面に、密封効果を向上させるための溝又は流路を設けると有利である。
【0023】
可動性外部密封材を含む幾つかの実施例について上記で説明してきたが、医療用ポンプの流体封入部分は、流体が流体封入部分から管状部材の内部空間内に移動されると潰れるようになっている可撓性材料で作製できることを理解されたい。これは、プラスチックの袋のように密封された可撓性部分として形成された流体封入部分を設けることによって達成できる。流体封入部分が潰れることによって、流体封入部分の容積が、流体封入部分から移動された容積と同じ程度まで減少し、流体封入部分の中の流体が空気と混合することを防止する。
【0024】
上記のとおり、管状部材には、密封効果を提供するために管状部材の内壁に接触する可動性内部密封材が設けられる。内部密封材は、ゴム材料のような可撓性材料、特にブチルゴム、又は熱弾性プラスチックのような何らかの他の適切な材料で作製することが好ましい。内部密封材は、密封効果を向上させるために溝又は流路を設けた円筒形の外面を有すると有利である。内部密封材が、前進位置から後退位置に向かって後退すると、管状部材内に負圧が形成され、負圧は、貯液部と管状部材の内部空間との間に流体連通が開放された後、流体を流体封入部分から管状部材の内部空間内に引き込む吸引力を形成する。負圧によって形成された力は外部密封材にも加えられ、外部密封材は、貯液部内で、基本的に貯液部内の流体表面の移動と同じ距離だけ移動する。それによって、外部密封材は、流体封入部分から管状部材の内部空間内に移された容積に対応する距離だけ移動する。外部密封材が移動すると、流体を含む封入された容積内に空気を導入せずに、貯液部内の流体の容積を減少させることが可能になる。
【0025】
少なくとも1つの具体例では、管状部材が貯液部内に配置され、外部密封材が貯液部の内面から管状部材の外面に延在する。管状部材は、外部密封材に設けられた穴を通して延在することが好ましく、外部密封材は、外部密封材と管状部材の外壁との間に密封効果を提供するために、管状部材の外壁に密接に適合するように構成することが適切である。組立時に、貯液部、外部密封材及び管状部材は、共通の長手方向軸線に沿って相互内に同心状に構成すると有利である。
【0026】
管状部材と貯液部を分離できることに留意されたい。この場合、流体封入部分と管状部材の内部空間との流体連通は、その間に通路がある状態で構成することが好ましく、これは弁で開閉すると有利である。このような具体例では、外部密封材は、それでも管状部材に対して貯液部内で移動可能であることにも留意されたい。
【0027】
少なくとも1つの具体例では、管状部材は、前進投与位置と後退充填位置との間で移動可能であり、外部密封材は、管状部材が前記投与位置から後退すると、管状部材に対して移動するような構成である。
【0028】
「充填位置」という用語は、流体を流体封入部分から管状部材の内部空間、又は管状部材の間もなく形成される内部空間内に移動させることが可能である管状部材の位置を定義するために使用される。したがって、この充填位置で、内部密封材を後退させて、管状部材の内部空間を形成し、流体封入部分中の流体を管状部材の内部空間内に移動させることができる。「投与位置」という用語は、管状部材の内部空間が、流体封入部分に含まれる流体との流体連通から密封された位置を定義するために使用される。この投与位置で、管状部材の内部空間は、流体を医療用ポンプから送出できるようにするために、医療用ポンプに設けた出口領域と流体連通する状態に構成可能である。
【0029】
貯液部と管状部材の内部空間との流体連通は、弁又は他の流体連通閉鎖手段を使用して確立してもよいことに留意されたい。
【0030】
前記前進投与位置から後退充填位置に向かう管状部材の移動は、少なくとも1つの具体例では、内部密封材と管状部材の相互接触表面によって確立され、これは第1摩擦力Fを提供し、管状部材は、内部密封材に後退力を加えることによって、投与位置から後退するようにされる。さらに、管状部材は、内部密封材に前進力を加えることによって、充填位置から前進するようにされ、摩擦力Fとは反対方向である摩擦力が、内部密封材と管状部材の相互接触表面間に形成される。管状部材がそれぞれ前進し、後退する場合に確立される摩擦力は、同じ範囲であることが好ましい。しかし、力は相互に異なってもよく、これらの具体例の基本的な機能は、摩擦力が、管状部材を前進位置と後退位置との間で移動させるのに十分であることである。
【0031】
本出願では、「相互接触表面」という用語は、密封効果及び/又は摩擦力を形成するために相互に接触する表面部分を定義するために使用されることに留意されたい。
【0032】
さらに、管状部材の動作によって流体封入部分と管状部材の内部空間との流体連通を開閉する機能は、内部密封材の後退及び前進機能と分離してよいことに留意されたい。これは、これら2つの構成のために分離した制御手段を備える配置によって達成可能である。
【0033】
少なくとも1つの具体例では、管状部材と外部密封材の相互接触表面は、管状部材が投与位置に向かう前進運動に対して第2摩擦力Fを提供し、外部密封材と貯液部の相互接触表面は、前記第2摩擦力Fより小さい第3摩擦力Fを提供し、外部密封材は、管状部材が投与位置に向かって前進する間に、管状部材と一緒に前進する。
【0034】
ここで、外部密封材は、後退位置から前進投与位置に向かって前進する場合に、管状部材の動作に少なくとも部分的に従うように構成することが好ましい。外部密封材が少なくとも部分的に管状部材と一緒に前進すると、貯液部に含まれる流体内に圧力が形成される。形成された圧力と摩擦力Fとが共になって、外部密封材に摩擦力Fと基本的に同程度の力を加えると、外部密封材の前進運動が中断され、管状部材が外部密封材に対して滑動し始める。外部密封材の少なくとも部分的な運動は、摩擦力の間に、摩擦力Fが摩擦力Fより大きいという関係を構成することによって得られる。
【0035】
医療用ポンプに、管状部材が前進投与位置に向かって前進した場合に、貯液部に対して位置を保持する外部密封材を配置してよいことが当業者には明白である。これは、摩擦力の間に摩擦力Fが摩擦力Fと等しいか、それより小さいという関係を構成することによって得られる。
【0036】
外部密封材を少なくとも部分的に管状部材と一緒に移動させることによって、流体封入部分に含まれる流体内に形成された圧力の増加が、管状部材の内部空間内に含まれる流体の送出後に、流体を流体封入部分から管状部材の内部空間内に移動させるために、内部密封材の追加的な後退を容易にする。
【0037】
少なくとも1つの具体例では、外部密封材と貯液部の相互接触表面が第3摩擦力Fを提供し、管状部材と外部密封材の相互接触表面が、管状部材の充填位置に向かう後退運動に抗する第4摩擦力Fを提供し、前記第3摩擦力Fは前記第4摩擦力Fより大きい。
【0038】
ここで、外部密封材は、管状部材が前進投与位置から後退充填位置に向かって移動した場合、貯液部に対する位置を保持する。貯液部に対して位置を保持することによって、管状部材が前進投与位置から充填位置に向かって移動した場合に、外部密封材は基本的に、流体封入部分内で流体と同じ水準位置を維持する。
【0039】
医療用ポンプは、摩擦力間にF>F>F>Fを満足する関係が構成されることが好ましい。摩擦力Fは、内部密封材の後退運動と前進運動の両方で、管状部材の内壁と内部密封材の間に形成される摩擦力を規定する。外部密封材が貯液部に対して所定の位置に留まり、管状部材に対して移動できるようにしながら、内部密封材と管状部材との間の摩擦力Fによって、管状部材を前進投与位置から後退充填位置に向かって持ち上げられるようにするために、摩擦力間の関係はF>F>Fである。さらに、外部密封材が少なくとも部分的に管状部材の運動を追従できるようにしながら、内部密封材と管状部材との間の摩擦力Fによって、管状部材を後退充填位置から前進投与位置に向かって前進できるようにするために、摩擦力間の関係はF>F>Fである。
【0040】
管状部材と外部密封材と貯液部との相互接触表面に、摩擦力間の関係を獲得できるような方法で表面及び材料を提供することができる。少なくとも1つの具体例では、投与位置に向かう管状部材の前進運動に抗する摩擦力Fと、投与位置に向かう管状部材の後退運動に抗する摩擦力Fとの差は、管状部材の外壁に設けた突出手段のような平坦でない表面によって形成される。この突出手段は、スプライン、かえし又は縁部として形成することができ、管状部材の外壁の周囲に構成したゴム被覆材上に設けることが好ましい。代替方法として、摩擦力FとFとの差は、管状例について説明したのと同様の方法で、管状部材の外壁と接触する外部密封材の表面を設けることによって確立することができる。幾つかの具体例では、寸法F>Fであることが好ましいが、これらの摩擦力は、等しいか、さらには反対の関係を有してもよいことに留意されたい。
【0041】
貯液部は、流体をポンプから送出する出口領域を設けられた突き合わせ表面を備えることが好ましく、前記投与位置で、管状部材の端部分は、管状部材の前記内部空間が前記出口領域と連通するように、前記突き合わせ表面と突き当たる。
【0042】
出口領域が管状部材の幾何学的軸線上に構成されることが好ましいが、基本的特徴は、管状部材の内部空間が前記投与位置で前記出口領域と連通することである。さらに、管状部材及び出口領域は、貯液部の幾何学的軸線上に設けられることが好ましい。
【0043】
貯液部に設けられた突き合わせ表面は、前進投与位置に向かう管状部材の前進に対する止め部として作用することができる。この場合、前進投与位置は、突き合わせ表面に突き当たった場合の管状部材の位置と定義される。しかし、内部密封材の前進の度合いは、医療用ポンプから送出すべき流体の量を規定する。内部密封材は、医療用ポンプから送出する流体の量を減少させるために、例えば、突き合わせ表面に対して半分しか前進しなくてよい。
【0044】
さらに、少なくとも1つの具体例では、突き合わせ表面は、管状部材が前記投与位置にある場合に、流体が管状部材の内部と流体封入部分との間を流れることを防止する密封表面である。突き合わせ表面は、貯液部の底部に設けた別個の材料部片として形成されることが好ましい。突き合わせ表面は、ブチルゴムのようなゴム材料、又は熱弾性プラスチックのような他の適切な材料で作製されることが好ましい。突き合わせ表面は、嵌めあい形状、接着又は他の締結方法によって貯液部に取り付けてよいが、取り付けていない材料部片として突き合わせ表面を設けることも可能である。貯液部の一体部分として突き合わせ表面を設けることも可能である。
【0045】
突き合わせ表面の形状は、幾つかの方法で、例えば平面の表面又は傾斜状表面として設けることができ、基本的特徴は、投与位置を規定すること、及び管状部材の内部空間と流体封入部分内に含まれる流体との間の密封効果である。
【0046】
少なくとも1つの具体例では、前記密封表面は逆止め弁として構成され、流体は前記出口領域を通してポンプから流出できるが、外部の流体が前記出口領域を通してポンプに入ることはできない。代替法として、逆止め弁は密封表面の一部として形成されない別個の部品として設けることができる。医療用ポンプの出口領域に沿って逆止め弁の位置を変更することも可能であり、逆止め弁は、突き合わせ表面と接触して配置する必要はない。
【0047】
逆止め弁は密封表面のスリットとして形成することが好ましく、流体を医療用ポンプから送出するように意図した場合に開放可能な少なくとも2つのフラップ(舌)が設けられる。逆止め弁の開放は、内部密封材が前進位置に向かって移動した場合に確立され、管状部材の内部空間に含まれる流体が逆止め弁を強制的に開放する。それによって、管状部材の内部空間と出口領域との流体連通が開放される。
【0048】
逆止め弁の効果を幾つかの方法で達成できることが、当業者には認識される。
【0049】
管状部材の後退充填位置は、管状部材のさらなる後退を防止する貯液部の端部材によって規定される。少なくとも1つの具体例では、端部材は、医療用ポンプの開放領域とは反対側にある貯液部の端部に設けられたカバーで構成される。また、カバーは前進位置から後退位置への内部密封材の後退に対する止め部材として作用するために設けられることが好ましい。この具体例では、内部密封材の後退位置は、カバーと突き当たった場合の内部密封材の位置として定義することができる。しかし、内部密封材の後退の度合いは、管状部材の内部空間内に移動されるべき流体の量を規定する。内部密封材は、管状部材の内部空間に移される流体の量を少なくするために、例えば、カバーに対して半分しか後退しなくてよい。
【0050】
少なくとも1つの具体例では、内部密封材を管状部材の内側で移動可能な細長いアクチュエータに接続し、アクチュエータは貯液部の外側から制御可能である。アクチュエータに作用する後退力により内部密封材が前進位置から後退すると、管状部材は内部密封材に対する摩擦のために充填位置に後退する。さらに、管状部材が充填位置にあり、アクチュエータが後退力を受けると、内部密封材は、摩擦力に打ち勝ち、管状部材に対して移動するように構成される。
【0051】
さらに、アクチュエータに作用する前進力により内部密封材が後退位置から前進すると、管状部材は、内部密封材に対する摩擦により投与位置に前進し、管状部材が投与位置にあり、アクチュエータが連続した前進力を受けると、内部密封材は摩擦に打ち勝ち、管状部材に対して移動するように構成される。
【0052】
アクチュエータには制御手段を設けることが好ましく、これは貯液部の外側に配置され、後退力及び前進力を加えるために片手で把持されるような構成とされる。内部密封材とアクチュエータとの接続は、嵌めあいによって確立することが好ましいが、他の締結方法も有用である。細長いアクチュエータは、内部密封材と制御装置手段との間に構成されたシャフト又は棒材を備えてよい。シャフト又は棒材は、特に内部密封材に対して適切な接続界面を形成するために、十字形の断面を有することが好ましい。
【0053】
ばねを設け、アクチュエータの長手方向に細長いアクチュエータに力を加えるように付勢することが好ましい。ばねは、後退位置に向かう内部密封材の後退運動を容易にするために、アクチュエータに後退力を伝達するように構成するか、前進位置に向かう内部密封材の前進運動を容易にするために、アクチュエータに前進力を伝達するように構成することができる。好ましい具体例では、内部密封材の後退運動を容易にするために、ばねを構成する。ばねの目的は、アクチュエータに力を伝達することによって、内部密封材の運動を容易にし、内部密封材の運動をさらに滑らかにし、制御されるようにすることである。
【0054】
医療用ポンプは、1000mPasより大きく、好ましくは10000mPasよりも大きく、特に100000mPasと1000000mPasの間の粘度を有するゲルなどの医療用流体を貯液部に予め充填したパッケージとして提供されることが好ましい。流体は、流体の汚染を回避するために殺菌状態で医療用ポンプに導入することができる。組立の瞬間に空気の導入を回避するために、医療用ポンプは真空状態で組み立てることが好ましい。単なる例示的な比較として、水は約1mPasの粘度を有することに留意されたい。
【0055】
医療用ポンプは1回の使用で廃棄可能であるように意図することが好ましい。医療用ポンプには、医療用ポンプを使用する前に安全封印材を破損するまで、内部密封材及び管状部材を前進位置に維持する安全封印材を設けると有利である。安全封印材は、安全な輸送のために設けられ、医療用ポンプが最初に使用されることを示す。安全封印材は、安全封印材が破損するまで細長いアクチュエータを後退位置に保持する固定手段として構成することが好ましく、アクチュエータは、流体を流体封入部分から管状部材の内部空間内に移動させることができるようにするために後退できる。安全封印材が破損していない場合は、貯液部と内部空間との流体連通が閉鎖し、全ての流体が貯液部内に留まる。
【0056】
本発明のさらなる観点によると、医療用流体を送出する方法であって、流体封入部分を有する貯液部と、流体封入部分と流体連通するように内側が構成可能である管状部材とを備える医療用ポンプを提供する段階と、
前記流体の一部を流体封入部分から管状部材の内部空間内に移動させることによって、流体封入部分の容積を減少させ、流体封入部分の容積を、基本的に管状部材の内部空間に移される流体の容積と同じ容積だけ減少させる段階と、
管状部材の内部空間に含有される移動された流体をポンプから送出する段階とを含む方法が提供される。
【0057】
ポンプから流体をさらに送出するために、上述したこれまでの段階を繰り返すことができる。この手順は、基本的に流体封入部分に含まれる全ての流体が管状部材の内部空間に移され、そこから送出されるまで繰り返すことができる。
【0058】
医療用ポンプは、
少なくとも1つの開放端を備える貯液部を提供する段階と、
医療用流体を貯液部に導入し、医療用流体が外部密封材によって境界が規定される段階と、
開放端を介して可動外部密封材を貯液部の内側に導入し、外部密封材を密封効果を有して貯液部の内壁に接触させる段階と、
外部密封材の穴を通して密封された管状部材を導入して、貯液部内に含まれる医療用流体の容積を密封することにより、空気のない流体封入部分を確立し、管状部材の外壁を、密封効果を有して外部密封材に接触させる段階とによって組み立てることが適切である。
【0059】
流体封入部分は、管状部材の外壁、外部密封材及び少なくとも部分的に貯液部の内壁によって画定される。医療用ポンプを組み立てる場合は、管状部材の内部空間と流体封入部分との間の流体連通が最初に開放されるまで、全ての流体は流体封入部分内に保持される。
【0060】
医療用ポンプの組立は、真空領域のような空気のない環境で実行することが好ましい。医療用ポンプを組み立てた後、医療用ポンプは殺菌したパッケージ又は同様の構成内に封入することができる。医療用ポンプは1回使用しただけで廃棄可能であることが好ましい。
【0061】
医療用流体での貯液部の充填は、外部密封材を貯液部に導入する前、又は外部密封材を貯液部に導入した後に実行してよい。医療用流体、外部密封材及び密封した管状部材を貯液部に導入する場合、貯液部内に含まれる流体封入部分は基本的に空気がなく、環境の空気と混合しないように密封される。
【0062】
医療用流体の前に外部密封材を貯液部に導入する場合、管状部材は、細長いアクチュエータ及びカバーと一緒に貯液部に導入することが好ましい。外部密封材の前に医療用流体を導入する場合、外部密封材は、密封した管状部材、細長いアクチュエータ及びカバーと一緒に導入することが好ましい。
【0063】
例示により、次に本発明の実施例を添付図面に関して説明する。
【実施例】
【0064】
次に、本発明による医療用ポンプの実施例について、図1から図2eに関してさらに詳細に説明する。
【0065】
医療用ポンプ1は、流体5を含むように意図された貯液部3、貯液部3内側に配置された管状部材7、及び貯液部の内壁11と管状部材7の外壁13との間に延在する外部密封材9を備える。管状部材7には、管状部材7内において前進位置(図1及び図2a参照)と後退位置(図2c参照)との間で移動可能な内部密封材15が設けられる。内部密封材15は、管状部材7を囲む貯液部3の部分から、後退した内部密封材15と管状部材7によって画定された内部空間21(図2c参照)に流体5が移動できるようにするために、前進位置から後退位置に後退可能である。さらに内部密封材15は、流体5を医療用ポンプ1から送出するために、後退位置から前進位置に前進可能である。
【0066】
図示の好ましい実施例では、貯液部3は管状外筒として形成され、ポリカーボネート又はシクロオレフィン共重合体のような透明プラスチック材料で作製されることが好ましい。貯液部3は、開口25を備える前端23を含み、この開口を通って流体5が管状端部分27を介して医療用ポンプ1から送出されるように意図される。開口25は貯液部3の幾何学的軸線に配置することが好ましく、管状端部分27は、概ね標準的タイプの針29を受け入れる構成でよい。貯液部は、前端23とは反対側に開放された後端31を有する。
【0067】
外部密封材9は、可動状態で貯液部3内に設けられ、貯液部3に含まれる流体5の水位に追従するように意図される。外部密封材9の円筒形状の外部表面は、貯液部3の内壁11と密封接触する。外部密封材9は、ブチルゴムのようなゴム材料で作製することが好ましく、外部密封材9の前記円筒形外部表面には、密封効果を向上させるために溝又は流路33を設けることができる。さらに、外部密封材9には医療用ポンプ1の軸線方向に延在する同心穴35が配置され、この穴35は、貯液部3内に設けられた管状部材7を受けるように構成される。管状部材7は外部密封材9の穴35を通って延在し、管状部材7と外部密封材9との相互接触表面間の密封接触は、外部密封材9を管状部材7に密接に適合させることによって確立される。
【0068】
円形の内部密封材15が管状部材7の内側に設けられ、管状部材7の内壁37に接触して、内部密封材15と管状部材7との間に密封効果を提供する。ここで、外部密封材9及び内部密封材15は、基本的に空気のない流体5を含むように意図された貯液部3内の封入容積部を画定する。
【0069】
管状部材7は貯液部3に対して、前進投与位置(図1、図2a、図2d及び図2e参照)と後退充填位置(図2b及び図2c参照)との間で移動可能である。さらに、管状部材7は外部密封材9に対しても移動可能である。貯液部3の前端23には、前進投与位置にある管状部材7の端面45を受けるために突き合わせ表面43が設けられる。突き合わせ表面43は、ブチルゴムのようなゴム材料で作製することが好ましい。この前進投与位置で、管状部材7の内部空間21は突き合わせ表面43に対して密封され、貯液部3と管状部材7の内部空間21との間の流体連通は閉鎖される。管状部材の前記前進投与位置で、管状部材7の内部空間21は、貯液部3の前端45に配置された開口25と流体連通し、管状部材7の内部空間21に含まれる流体5を、前記開口25に通して医療用ポンプ1から送出することが可能である。管状部材7が後退充填位置にある場合、管状部材の内部空間21は、流体5を貯液部3から前記内部空間21に移動させるようにするために、貯液部3の残りの部分と流体連通する。
【0070】
管状部材7の外壁13には、スプライン、かえし又は縁部の形態の突出手段47のような平坦でない表面を設けることが、さらに好ましい。突出手段は、管状部材の外壁13の周囲に構成されたゴム被覆材上に設けることができる。突出手段47は、管状部材7と外部密封材9との間の摩擦力が、管状部材7が後退充填位置から前進投与位置に向かって前進した場合の方が、前進投与位置から後退充填位置41に向かって後退した場合の摩擦力と比較して大きくなるように構成される。
【0071】
管状部材7内に設けられた内部密封材15は、管状部材7に対して十分な密封効果を提供するために、ブチルゴムのようなゴム材料で作製することが好ましい。さらに、内部密封材15の円形の周表面には、密封効果を向上させるために溝又は流路49が設けられることが好ましい。前記内部密封材15は、管状部材7内で移動可能な棒材又はシャフト55を備える細長いアクチュエータ51に取り付けられ、アクチュエータ51のシャフト55は貯液部3の外側まで延在する。アクチュエータ51は、内部密封材15を管状部材7内で前進位置と後退位置との間で移動可能にするために、貯液部3の外側から制御可能である。シャフト55の端部では、貯液部3の外側でアクチュエータ51に制御手段53を設け、これは片手で把持して扱うように形成される。操作手段53と内部密封材15の間に延在するシャフト55は、十字形の断面を有する。
【0072】
カバー57が貯液部3の後端31に配置され、アクチュエータ51のシャフト55を案内するために貯液部3に対して同心状に設けることが好ましい穴59を含む。カバー57の穴59は、シャフト55を適切に案内するために、シャフト55と同様の十字形の形態を有すると有利である。カバー57は、前進投与位置から後退充填位置に移動された場合に、管状部材7と内部密封材15の両方にとって止め部材としても作用する。カバー57は、スナップ・ロック(バネ錠)効果によって貯液部3に取り付けることが好ましいが、接着剤又は他の締結方法で取り付けることもできる。
【0073】
管状部材7は、突き合わせ表面43とカバー57との間の距離より短い長さを有し、管状部材7の内部空間21と貯液部3の残りの部分との流体連通を開閉するために、突き合わせ表面43とカバー57との間で自由に移動する。組み立てられた場合、外部密封材9、管状部材7及び内部密封材15は、共通の長手方向軸線に沿って相互に同心円状に適合する。
【0074】
後退力をアクチュエータ51に伝達するために、カバー57とアクチュエータ51の制御手段53との間にばね61を構成してよい。この後退力は、前進位置から後退位置に向かう内部密封材15の移動を容易にするだけでなく、さらに制御され滑らかなものにする。代替方法として、ばね61に圧縮状態に逆に付勢してもよい。つまり、前進力をアクチュエータ51に伝達し、医療用ポンプ1から流体を送出する場合に、前進運動をさらに容易にする。
【0075】
さらに、突き合わせ表面43は、貯液部3の内側と前端23の開口25との間に設けられた逆止め弁63を含むことが好ましい。逆止め弁63は、流体5を貯液部3から管状部材7の内部空間21に移動可能にするために内部密封材15が前進位置から後退位置に向かって動く場合に、流体5が空気又は他の流体と混合することを防止する。流体5を医療用ポンプ1から送出するために、管状部材7が前進投与位置にあり、内部密封材15が後退位置から前進位置に向かって動くと、逆止め弁63が開放され、貯液部3の前端23にある開口25との流体連通が可能になる。逆止め弁63は、突き合わせ表面のスリットとして形成することが適切であり、貯液部3と開口25の間の流体連通を開閉するために、2つのフラップ(舌)を設ける。流体5を医療用ポンプ1から送出するために、内部密封材が後退位置から前進位置に向かって移動すると、流体5がフラップを強制的に分離し、それによって逆止め弁63が開放される。
【0076】
医療用ポンプ1を使用するためには、管状部材7及び内部密封材15を最初に、図2aで見られるような前進位置に配置する。この時点で、全ての流体5は貯液部3内にある。管状部材7の内部空間21が突き合わせ表面43に対して密封され、それによって貯液部3との流体連通を閉鎖されているからである。
【0077】
医療用ポンプ1は、この状態で納入されることが好ましく、管状部材7及び内部密封材15を前進位置に維持するために、安全封止材(図示せず)が配置される。医療用ポンプ1に対してアクチュエータ51の前進位置を確保するために、安全封止材を設けると有利である。医療用ポンプ1は、1回の使用で廃棄可能であることが好ましく、安全封止材は医療用ポンプが使用済であるか否かを示す。安全封止材は、医療用流体5を投与する直前に適切に破壊される。
【0078】
図2bでは、アクチュエータ51の制御手段53に後退力Fを加える。アクチュエータ51、したがって内部密封材15の後退運動は、内部密封材15と管状部材7の間に摩擦力Fを形成する。この摩擦力Fは、管状部材7を貯液部3の後端31にあるカバー57に向かって後退方向に変位させる。管状部材7が前進投与位置から後退充填位置に移動すると、内部密封材15がさらに後退して、管状部材7の内部空間21を形成するとすぐに、管状部材7との流体連通が可能になる。さらに、管状部材7が後退充填位置に向かって移動すると、外部密封材9と貯液部3の内壁11との間に摩擦力Fが形成され、外部密封材9と管状部材7の外壁13の間に摩擦力Fが形成される。摩擦力F及びFは基本的に、管状部材7の運動中に貯液部3に対して外部密封材9の位置を保持するが、管状部材7を外部密封材9に対して変位可能にするような大きさに設定される。これを達成するための摩擦力間の関係はF>Fである。したがって、外部密封材9は、貯液部3内で流体5と同じ水準位置を有するように、所定の位置に保持される。さらに、外部密封材9が貯液部3に対して所定の位置に留まり、管状部材7に対して移動できるようにしながら、内部密封材15と管状部材の間の摩擦力Fのために管状部材7を持ち上げられるようにするために、摩擦力間の関係はF>F>Fである。
【0079】
管状部材7がカバー57に接触する位置に後退し、したがってさらなる後方への移動が防止された後、内部密封材15が後退し続けると、管状部材7内の圧力が低下する。この低下した圧力により、流体5が貯液部3から管状部材7の内部空間21に移動又は引き抜かれる。図2cに示すように、流体5は管状部材7と突き合わせ表面43との間の間隙を通過し、管状部材7の内部空間21に入る。内部密封材15の後退は、貯液部3の後端31にあるカバー57によって制限される。内部密封材15が後退位置に完全に後退し、カバー57に突き当たった場合、約3mlの流体が管状部材7の内部空間21に含まれることになる。
【0080】
流体5が貯液部3から管状部材7の内部空間21に移動されると、外部密封材9は、管状部材7の外側にある貯液部3の部分で低下した流体5の水準に追従する。流体5が貯液部3から管状部材7に移動された場合に生じる貯液部3の圧力低下により、吸引力が形成され、これによって外部密封材9が貯液部3内の流体5の水準に追従する。外部密封材9を移動させることによって、流体5に空気を導入せずに、管状部材7の外側にある流体5の水準が低下する。流体とは反対側の外部密封材9の側では、外部密封材9を囲む圧力を等しくするために、カバー57の開口(図示せず)を通るか、カバー57の下に空気が導入される。
【0081】
管状部材7の内部空間21が充填されると、内部空間21に含まれる流体5を医療用ポンプ1から送出するために、前進力Fをアクチュエータ51の操作手段53に加える。図2dで見られるようなアクチュエータ51の前進運動、及びそれによる内部密封材15の前進運動は、内部密封材15が後退した場合と同じように、内部密封材15と管状部材7の間に摩擦力Fを形成する。この摩擦力Fによって、貯液部3の前端23にある突き合わせ表面43に向かう前進方向に管状部材7を変位させる。管状部材7が後退充填位置から前進投与位置に移動すると、管状部材7の端面45と突き合わせ表面43との間に形成された密封効果によって、貯液部3と管状部材7の内部空間21の間の流体連通が閉鎖される。また、管状部材7が前進投与位置に向かって移動すると、外部密封材9と貯液部3の内壁11との間に摩擦力Fが形成され、外部密封材9と管状部材7の外壁13との間に摩擦力Fが形成される。摩擦力F及びFは、外部密封材9が少なくとも部分的に管状部材7の並進運動に追従できるように大きさを設定される。これを達成するために、摩擦力間の関係はF>Fである。したがって、この場合、外部密封材9と管状部材7の外壁13との間の摩擦力は、管状部材の前進中(F)と後退中(F)とでは異なり、F>Fであることに留意されたい。この差は、以前に検討した外壁13の平坦でないゴム表面によって達成することができる。貯液部3に対して管状部材7の運動を少なくとも部分的に追従した外部密封材9の運動は、流体5中に圧力を形成し、圧力が摩擦力Fとともになって、摩擦力Fより大きくなり、外部密封材9に向かう上方向の力が形成されると、外部密封材9の運動が停止する。本発明による医療用ポンプには、管状部材7が前進投与位置に向かって移動する間に、貯液部3に対する位置を基本的に維持する外部密封材9を配置できることが、当業者には明白である。これを達成するための摩擦力間の関係はF>Fとなる。
【0082】
管状部材7が突き合わせ表面43と接触する位置まで前進した後、内部密封材15がさらに前進運動すると、図2eで見られるように、流体5が内部空間から貯液部3の前端23にある開口25を通って強制的に出される。内部密封材15は、貯液部3の前端23にある突き合わせ表面43に接触するまで前進し、ここで管状部材7の内側は、内部空間21が消滅するにつれて流体5が排水される。貯液部3と開口25との間に設けられた逆止め弁63がある実施例では、流体5が逆止め弁63を強制的に開放し、それによって管状端部分27との流体連通が開放される。
【0083】
管状部材7の内部空間21に含まれる流体5を医療用ポンプ1から送出する場合は、上述した手順を繰り返すことによって、内部空間21を再度形成し、再度充填することができる。この手順は、基本的に全ての流体5が管状部材7へ移され、そこから送出されるまで繰り返すことができる。
【0084】
医療用ポンプ1を組み立てるためには、(図3aで見られるように)貯液部3を最初に提供し、ここで(図3bで見られるように)外部密封材9を貯液部3に導入する。外部密封材9の外周表面が、貯液部3の内壁11と接触して密封効果を提供する。外部密封材9を導入した後、図3cで見られるように外部密封材9の穴35を通して流体5を貯液部に導入する。外部密封材9によって境界が決定された容積部全体に、基本的に流体5を充填する。流体5を導入すると、内部密封材15を備える管状部材7を(図3dで見られるように)外部密封材9の穴35に通して導入し、貯液部3に含まれる流体5の容積を(図3eで見られるように)外気と連通しないように密封する。
【0085】
内部密封材15を備える管状部材7は、予め組み立てられたユニットとして細長いアクチュエータ51及びカバー57と共に導入することが好ましい。
【0086】
外部密封材9を導入する前に流体5を貯液部3に導入することによって、同じ結果が達成されることが当業者には明白である。流体5を外部密封材9の前に導入する場合、外部密封材9は、予め組み立てられたユニットとして内部密封材15、細長いアクチュエータ51及びカバー57を備えた管状部材7と共に貯液部3に導入することが好ましい。
【0087】
医療用ポンプ1の組立は、貯液部3の流体封入部分への空気の導入を回避するために、真空領域のような空気のない環境で実行することが好ましい。医療用ポンプ1を組み立てる場合、医療用ポンプ1は汚染を回避するために殺菌したパッケージに封入することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】医療用流体を備える医療用ポンプの部分断面概略斜視図。
【図2a】図1の医療用ポンプから流体を送出する方法を示す断面図。
【図2b】図1の医療用ポンプから流体を送出する方法を示す断面図。
【図2c】図1の医療用ポンプから流体を送出する方法を示す断面図。
【図2d】図1の医療用ポンプから流体を送出する方法を示す断面図。
【図2e】図1の医療用ポンプから流体を送出する方法を示す断面図。
【図3a】図1の医療用ポンプを組み立てる方法を示す断面図。
【図3b】図1の医療用ポンプを組み立てる方法を示す断面図。
【図3c】図1の医療用ポンプを組み立てる方法を示す断面図。
【図3d】図1の医療用ポンプを組み立てる方法を示す断面図。
【図3e】図1の医療用ポンプを組み立てる方法を示す断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体封入部分を有する貯液部と、
流体を管状部材内に通過させるために、内側が前記流体封入部分と流体連通するように構成可能である管状部材と、
前記管状部材の内側で前進位置と後退位置との間で移動可能な内部密封材であって、前記流体が、前記流体封入部分から前記管状部材及び前記後退した内部密封材によって画定された内部空間内に移動できるようにするために、前記前進位置から後退可能であり、前記内部空間に存在する流体を前記ポンプから送出するために、前記後退位置から前進可能である内部密封材とを備える医療用ポンプにおいて、
前記流体封入部分が、空気と連通しないように密封された流体の容積体を含み、前記流体封入部分が、前記管状部材の前記内部空間に移動される流体の任意の容積と基本的に同じ程度まで容積減少するようになっている医療用ポンプ。
【請求項2】
前記流体封入部分が外部密封材を備え、該外部密封材は、前記貯液部内で移動可能であって、前記流体封入部分に含まれる前記流体の境界を規定し、前記外部密封材は、前記内部密封材が前記前進位置から後退すると、前記管状部材に対して移動するように構成されている請求項1に記載された医療用ポンプ。
【請求項3】
前記管状部材が前記貯液部内に配置され、前記外部密封材が、前記貯液部の内面から前記管状部材の外面まで延在する請求項2に記載された医療用ポンプ。
【請求項4】
前記管状部材が前進投与位置と後退充填位置との間で移動可能であり、前記外部密封材は、前記管状部材が前記投与位置から後退すると、前記管状部材に対して移動するように構成されている請求項2又は請求項3に記載された医療用ポンプ。
【請求項5】
前記内部密封材と前記管状部材の相互接触表面が第1摩擦力Fを提供し、前記管状部材は、前記内部密封材に後退力を加えることによって前記投与位置から後退するように構成されている請求項4に記載された医療用ポンプ。
【請求項6】
前記管状部材は、前記内部密封材に前進力を加えることによって前記充填位置から前進するように構成されている請求項5に記載された医療用ポンプ。
【請求項7】
前記管状部材と前記外部密封材の相互接触表面が、投与位置に向かう前記管状部材の前進運動に抗する第2摩擦力Fを提供し、前記外部密封材と前記貯液部の相互接触表面が、前記第2摩擦力Fより小さい第3摩擦力Fを提供し、前記外部密封材は、前記管状部材が投与位置に向かって前進する間は、前記管状部材と一緒に前進するようになっている請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項8】
前記外部密封材と前記貯液部の相互接触表面が第3摩擦力Fを提供し、前記管状部材と前記外部密封材の相互接触表面が、充填位置に向かう前記管状部材の後退運動に抗する第4摩擦力Fを提供し、前記第3摩擦力Fが前記第4摩擦力Fより大きい請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項9】
前記内部密封材と前記管状部材の相互接触表面が第1摩擦力Fを提供し、
前記管状部材と前記外部密封材の相互接触表面が、投与位置に向かう前記管状部材の前進運動に抗する第2摩擦力Fを提供し、
前記外部密封材と前記貯液部の相互接触表面が第3摩擦力Fを提供し、
前記管状部材と前記外部密封材の相互接触表面が、充填位置に向かう前記管状部材の後退運動に抗する第4摩擦力Fを提供し、
前記摩擦力が関係式F>F>F>Fを満足する請求項4に記載された医療用ポンプ。
【請求項10】
前記貯液部が、前記ポンプから流体を送出するための出口領域を設けられた突き合わせ表面を備え、前記投与位置で、前記管状部材の端部分が、前記管状部材の前記内部空間が前記出口領域と連通するように前記突き合わせ表面に突き当たるようになっている請求項4から請求項9までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項11】
前記突き合わせ表面は、前記管状部材が前記投与位置にある場合に、流体が前記管状部材の内部と前記貯液部の間で流れることを防止する密封表面である請求項10に記載された医療用ポンプ。
【請求項12】
前記密封表面は、前記出口領域を通って流体が前記ポンプから流出できるが、前記出口領域を通って流体が前記ポンプに流入することを防止する逆止め弁として構成されている請求項11に記載された医療用ポンプ。
【請求項13】
前記管状部材の前記後退充填位置が、前記管状部材の更なる後退を防止する前記貯液部の端部材によって規定されている請求項4から請求項12までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項14】
前記内部密封材が、前記管状部材の内側で移動可能な細長いアクチュエータに接続され、前記アクチュエータが前記貯液部の外側から制御可能であり、
前記内部密封材が、前記アクチュエータに作用する後退力により前記前進位置から後退すると、前記管状部材が、前記内部密封材に抗する摩擦のために充填位置に後退し、
前記管状部材が充填位置にあり、前記アクチュエータが後退力を受けると、前記内部密封材は、前記摩擦に打ち勝って、前記管状部材に対して移動するように構成されている請求項4から請求項13までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項15】
ばねが設けられ、該ばねが、前記アクチュエータの長手方向で前記細長いアクチュエータに力を加えるように付勢される請求項14に記載された医療用ポンプ。
【請求項16】
前記ポンプは、1000mPasより大きく、好ましくは10000mPasより大きく、とりわけ100000mPasと1000000mPasの間の粘度を有するゲルの形態の医療用流体が前記貯液部に予め充填されたパッケージとして提供される請求項1から請求項15までのいずれか1項に記載された医療用ポンプ。
【請求項17】
流体封入部分を有する貯液部と、
流体が管状部材内に通過させるために内側が前記流体封入部分と流体連通するように構成可能であり、前進した流体投与位置を有する管状部材と、
前記管状部材の内側にて前進位置と後退位置の間で移動可能な内部密封材であって、前記流体が、前記流体封入部分から前記管状部材及び前記後退した内部密封材によって画定された内部空間内に移動できるようにするために、前記前進位置から後退可能であり、前記内部空間に存在する流体を前記ポンプから送出するために、前記後退位置から前進可能である内部密封材とを備える医療用ポンプにおいて、
前記貯液部が、前記管状部材の外面と前記貯液部の内面との間に配置された可動の外部密封材を備え、前記外部密封材は、空気が前記流体封入部分に含まれる流体と混合することを防止し、前記管状部材が前記投与位置から後退すると、前記管状部材に対して移動するように構成されている医療用ポンプ。
【請求項18】
医療用流体を送出する方法において、
流体封入部分を有する貯液部と、前記流体封入部分と流体連通するように内側が構成可能である管状部材とを備える医療用ポンプを提供する段階と、
前記流体の一部を前記流体封入部分から前記管状部材の内部空間内に移動させることによって、前記流体封入部分の容積を減少させ、前記流体封入部分の容積を、基本的に前記管状部材の前記内部空間に移動される前記流体の容積と同じ容積だけ減少させる段階と、
前記管状部材の前記内部空間に含まれる移動された前記流体を前記ポンプから送出する段階とを含む、医療用流体を送出する方法。
【請求項19】
前記ポンプを提供する段階が、前記貯液部内で移動可能であり、前記流体封入部分に含まれる前記流体の境界を規定して、前記流体と空気との混合を防止する外部密封材を、前記流体封入部分に設ける段階を含み、前記容積を減少させる段階が、前記流体の一部を前記流体封入部分から前記管状部材の内部空間内に移動させることによって、前記管状部材に対して前記外部密封材を移動させる段階を含む請求項18に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項20】
前記ポンプから流体をさらに送出するために、前記段階を繰り返す段階をさらに含む請求項18に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項21】
前記管状部材を前進投与位置から後退充填位置に向かって移動させることによって、前記管状部材に対して前記外部密封材を移動させる段階をさらに含む請求項19に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項22】
前記管状部材を前記前進投与位置から前記後退充填位置に向かって移動させる場合に、前記貯液部に対する前記外部密封材の位置を保持する段階をさらに含む請求項21に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項23】
後退した前記管状部材を前記前進投与位置に向かって移動させることによって、前記外部密封材を後退した前記管状部材と一緒に前進させる段階をさらに含む請求項22に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項24】
前記外部密封材を移動させる段階が、前記管状部材の内側に負圧を確立する段階を含み、負圧が前記流体及び前記外部密封材を移動させる請求項19に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項25】
前記ポンプを提供する段階が、前記管状部材の内側に可動内部密封材を設ける段階を含み、前記負圧を確立する段階が、前記管状部材の内側の前記内部密封材を前進位置から後退位置に移動させ、それによって前記流体の一部を前記貯液部から前記管状部材の前記内部空間内に移動させる段階を含む請求項24に記載された医療用流体を送出する方法。
【請求項26】
前記流体をポンプから送出する段階が、前記内部密封材を前記後退位置から前記前進位置に移動させ、それによって前記管状部材の前記内部空間に含まれる移動された前記流体を前記ポンプから送出する段階を含む請求項25に記載された医療用流体を送出する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−527625(P2006−527625A)
【公表日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517015(P2006−517015)
【出願日】平成16年5月12日(2004.5.12)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000723
【国際公開番号】WO2004/110530
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(503035556)キュー メド アクチボラゲット (4)
【Fターム(参考)】