説明

医療用牽引機

【課題】小型の重錘をプーリと一体的に取扱うことができる医療用牽引機を提供する。
【解決手段】牽引機本体12に回転軸14を回動自在に設け、この回転軸14にリール17を一体的に設け、このリール17により一方の紐状体21を巻取るとともに、リール17から引出した紐状体21の先端により治療対象者の被牽引部を牽引する。リール17よりも大径の巻胴部34を有するプーリ31を回転軸14に一体的に取付け、リール17と一体的に回動する。このプーリ31に一方の紐状体21にテンションをかけることが可能な方向に他方の紐状体35を巻掛け、この他方の紐状体35の先端に重錘36を結合する。この重錘36は、重錘取付部39により、プーリ31の側面部分に着脱自在に取付可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重錘を用いた医療用牽引機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の医療用牽引機は、治療対象者の手指などの被牽引部に装着された緊縛具にワイヤ等の紐状体が結合され、この紐状体が万力等の固定部材に取付けられたプーリに巻掛けられて下垂されており、さらに、紐状体の下垂端に重錘が重量調節可能に結合され、そして、固定部材によって、手術台等に医療用牽引機が固定され、治療対象者の被牽引部を略水平になるように牽引するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−255074号公報(第3−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この従来の医療用牽引機は、重錘の重量がそのまま牽引力となるため、十分な牽引力を確保するには大きな重錘が必要となる問題があるとともに、固定部材およびプーリに対して、紐状体および重錘が、分離されて別個に構成されており、これらの取扱いが、ばらばらとなり容易でない問題もある。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、小型の重錘をプーリなどと一体的に取扱うことができる医療用牽引機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載された発明は、牽引機本体と、この牽引機本体に回動自在に設けられた回転軸と、この回転軸に一体的に設けられたリールと、このリールにより巻取られるとともにリールから引出された先端が治療対象者の被牽引部を牽引する一方の紐状体と、前記リールよりも大径の巻胴部を有し前記回転軸を介しリールと一体的に回動するプーリと、このプーリに前記一方の紐状体にテンションをかけることが可能な方向に巻掛けられた他方の紐状体と、この他方の紐状体の先端に結合された重錘と、この重錘をプーリの側面部分に着脱自在に取付可能な重錘取付部とを具備した医療用牽引機である。
【0006】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載の医療用牽引機において、牽引機本体に螺合されたネジの先端部材によりプーリの側面に制動をかけるブレーキ機構を具備したものである。
【0007】
請求項3に記載された発明は、請求項1または2記載の医療用牽引機における重錘が、棒状の重錘本体と、この重錘本体の長手方向中央部よりオフセットされた位置に穿設された取付穴とを備え、重錘取付部は、回転軸の先端部に設けられ、この回転軸の先端部に重錘の取付穴を嵌脱自在に装着したものである。
【0008】
請求項4に記載された発明は、請求項1乃至3のいずれか記載の医療用牽引機において、牽引機本体に回動自在に嵌合されて牽引機本体の下側に突出されたスクリューシャフトと、このスクリューシャフトを牽引機本体の上側で回動操作するクランプ操作部と、スクリューシャフトと平行に牽引機本体に設けられたガイドと、牽引機本体の下面に取付けられた固定クランプ部材と、この固定クランプ部材と対向する下側位置でスクリューシャフトに螺合されるとともにガイドに摺動自在に嵌合されて固定クランプ部材に対し手術台を挟んで固定する可動クランプ部材とを具備したものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載された発明によれば、治療対象者の被牽引部を牽引する一方の紐状体を巻取るリールに対して、このリールよりも大径の巻胴部を有し回転軸を介しリールと一体的に回動するプーリを設け、このプーリに一方の紐状体にテンションをかけることが可能な方向に他方の紐状体を巻掛け、この他方の紐状体の先端に重錘を結合したので、リールよりも大径の巻胴部を有するプーリが倍力装置として機能し、小型の重錘でも十分な牽引力を確保できるとともに、重錘をプーリの側面部分に着脱自在に取付可能な重錘取付部により、小型の重錘をプーリなどと一体的に取扱うことができ、これらの持運び、セッティングなどの取扱いが容易になる。
【0010】
請求項2に記載された発明によれば、牽引機本体に螺合されたネジの先端部材によりプーリの側面に制動をかけるブレーキ機構により、プーリの自由回転を規制して、この医療用牽引機の持運び、セッティングなどの取扱性を向上できるとともに、ネジにより制動力を調整することで、重錘による牽引力を調整することも可能となり、さらに、一方の紐状体を弛ませた状態でブレーキ機構を働かせることにより、重錘を吊下げたまま、重錘を取外した場合と同様の非牽引状態での医療処置を必要に応じて容易にできる。
【0011】
請求項3に記載された発明によれば、重錘は、棒状の重錘本体に穿設された取付穴を、回転軸の先端部に設けられた重錘取付部に嵌脱自在に装着したので、重錘を容易に着脱できるとともに、重錘の取付穴が重錘本体の長手方向中央部よりオフセットされた位置に穿設されたので、長手方向中央部よりオフセットされた位置の取付穴によりアンバランスな状態で取付けられた重錘が、プーリの自由回転を規制して、この医療用牽引機の持運び、セッティングなどの取扱性を向上できる。
【0012】
請求項4に記載された発明によれば、スクリューシャフト、ガイド、固定クランプ部材および可動クランプ部材が、牽引機本体の下側または下面に設けられているのに対して、スクリューシャフトを回動操作するクランプ操作部は牽引機本体の上側に位置するので、手術台の下側領域に手を入れることなく、手術台より上側でのクランプ操作により牽引機本体を手術台に固定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1および図2に示されるように、この医療用牽引機11は、牽引機本体12が長尺プレート状に形成され、この牽引機本体12の定位置に設置された軸受部13に回転軸14が回動自在に設けられ、この回転軸14に1対のフランジ15,16が取付けられてリール17が一体的に設けられ、このリール17により一方の紐状体21が巻取られ、この紐状体21のリール17から引出された先端に回転自在連結具22を介し、さらに無端紐23を介してS字形のフック24が取付けられている。
【0015】
このフック24は、図3に示されるように治療対象者の被牽引部(手指を図示する)25に絡まって一体化されるフィンガトラップ26の先端27に引掛けられ、そして、リール17から引出された紐状体21の先端により、回転自在連結具22、無端紐23、S字形のフック24およびフィンガトラップ26を介して治療対象者の被牽引部25を牽引する。
【0016】
回転自在連結具22は、円筒本体部22aの一側部内に一方の連結部22bが回転自在に嵌着され、円筒本体部22aの他側部内に他方の連結部22cが回転自在に嵌着されたもので、これらの連結部22b,22cの回転により、紐状体21や無端紐23の捩じれを防止する。
【0017】
図1に示されるように、この医療用牽引機11は、回転軸14を介しリール17と一体的に回動するプーリ31の中央ボス部32が回転軸14に一体的に嵌着されている。このプーリ31は、リール17よりも大径の巻胴部34を有し、このプーリ31の巻胴部34には、前記一方の紐状体21にテンションをかけることが可能な方向に他方の紐状体35が巻掛けられている。この他方の紐状体35の基端は、プーリ31に穿設された穴35aからプーリ側面に引出され、ビス35bによりプーリ側面に固定され、また、この他方の紐状体35の先端には、重錘36が連結板36aを介して結合されている。
【0018】
この重錘36は、棒状の重錘本体37と、この重錘本体37の長手方向中央部よりオフセットされた位置に穿設された取付穴38とを備え、回転軸14の先端部に設けられた重錘取付部39に、重錘36の取付穴38が嵌脱自在に装着されている。すなわち、重錘取付部39の外周面にはOリング嵌着溝40が形成され、このOリング嵌着溝40にゴム製のOリング41が嵌着され、このOリング41により重錘36の取付穴38に摩擦力を与え、重錘36の一体的な嵌着状態を保持している。
【0019】
この重錘取付部39は、プーリ31の中央ボス部32からその側面に突出しているので、重錘36をプーリ31の側面部分に着脱自在に取付可能となっている。
【0020】
牽引機本体12の先端部には、プーリ31の側面に制動をかけるブレーキ機構44が設置されている。このブレーキ機構44は、牽引機本体12に摘み45によって回転操作可能なネジ46が螺合され、このネジ46の先端に合成樹脂などの先端部材47が取付けられ、この先端部材47がプーリ31の側面に対して進退可能に設置されている。
【0021】
牽引機本体12の基端側には、この医療用牽引機11を図3に示されるように手術台50に固定するためのクランプ機構51が設置されている。このクランプ機構51は、図2および図3に示されるように牽引機本体12に、軸受スリーブ52を介してスクリューシャフト53の上端部54が回動自在に嵌合され、スクリューシャフト53は牽引機本体12の下側に垂直に突出され、このスクリューシャフト53の上端部54には、スクリューシャフト53を牽引機本体12の上側で回動操作するノブ状のクランプ操作部55が一体的に嵌着されている。
【0022】
さらに、このクランプ機構51は、スクリューシャフト53と平行にピン状のガイド57が牽引機本体12に嵌着され、また、牽引機本体12の下面に固定クランプ部材58が溶接などにより一体的に取付けられ、この固定クランプ部材58と対向する下側位置でスクリューシャフト53に可動クランプ部材59が螺合されるとともに、ガイド57にこの可動クランプ部材59が摺動自在に嵌合されている。この可動クランプ部材59は、固定クランプ部材58に対し手術台50を挟んで固定する機能を有する。
【0023】
前記S字形のフック24は、図1および図2に示されるように、この医療用牽引機11を用いないときは、固定クランプ部材58の上面に取付板61を介し回動自在に取付けられたD形の止輪部材62に係合されている。
【0024】
次に、この一実施の形態の作用効果を説明する。
【0025】
図1および図2に示されるように、S字形のフック24を固定クランプ部材58上の止輪部材62に引掛けた状態のまま、ノブ状のクランプ操作部55を回動操作して、可動クランプ部材59を上下方向に動かし、図3に示されるように固定クランプ部材58と可動クランプ部材59とによって手術台50を挟むようにして、牽引機本体12を手術台50に固定する。このときは、ブレーキ機構44の先端部材47をプーリ31の側面に押付けておいて、プーリ31および重錘36の回転を防止する。
【0026】
牽引機本体12を手術台50に固定したら、ブレーキ機構44の摘み45を操作してネジ46を回し、プーリ31の側面に作用している先端部材47の制動力をやや緩める。そして、フック24を止輪部材62から外して、一方の紐状体21をリール17から引出し、治療対象者の被牽引部(手指)25に装着されたフィンガトラップ26の先端27に引掛ける。このとき、徒手でリール17を回動して弛んでいる紐状体21をリール17に巻取りながら、フィンガトラップ26にテンションをかける。
【0027】
重錘36を回転軸14の重錘取付部39から抜取るようにして取外し、図3に示されるようにプーリ31の下側に垂下させる。最後に、プーリ31の側面に作用しているブレーキ機構44の先端部材47の制動力を完全に解除し、必要に応じて他方の紐状体35に図示されない例えば勾玉形重りなどの小さな補助重錘を引掛けて牽引力を調整する。
【0028】
図3に示されるように、この医療用牽引機11は、例えば橈骨、尺骨などの骨折治療のための手術中に治療対象者の被牽引部25である手指の指先などを牽引することで、この被牽引部25を略水平にして治療の補助をする。
【0029】
この手術中などにおいて、治療対象者の被牽引部25に作用する牽引力を解除する必要が生じた場合は、一方の紐状体21をリール17から引出したり、他方の紐状体35を巻取る方向にプーリ31を回すなどして、一方の紐状体21を弛ませ、フィンガトラップ26にかかるテンションを解除した状態で、ブレーキ機構44のネジ46を回して先端部材47をプーリ31の側面に押付けることで、すなわちブレーキ機構44を働かせることにより、重錘36を吊下げたまま、この重錘36を取外した場合と同様の非牽引状態での医療処置を随時行なう。
【0030】
治療対象者の被牽引部25を牽引する一方の紐状体21を巻取るリール17に対して、このリール17よりも大径の巻胴部34を有し回転軸14を介しリール17と一体的に回動するプーリ31を設け、このプーリ31に一方の紐状体21にテンションをかけることが可能な方向に他方の紐状体35を巻掛け、この他方の紐状体35の先端に重錘36を結合したので、リール17よりも大径の巻胴部34を有するプーリ31が倍力装置として機能し、小型の重錘36でも十分な牽引力を確保できるとともに、重錘36をプーリ31の側面部分に着脱自在に取付可能な重錘取付部39により、小型の重錘36をプーリ31などと一体的に取扱うことができ、これらの持運び、セッティングなどの取扱いが容易になる。
【0031】
牽引機本体12に螺合されたネジ46の先端部材47によりプーリ31の側面に制動をかけるブレーキ機構44により、プーリ31の自由回転を規制して、この医療用牽引機11の持運び、セッティングなどの取扱性を向上できるとともに、ネジ46により制動力を調整することで、重錘36による牽引力を調整することも可能となり、さらに、一方の紐状体21を弛ませた状態でブレーキ機構44を働かせることにより、重錘36を吊下げたまま、重錘36を取外した場合と同様の非牽引状態での医療処置を必要に応じて容易にできる。
【0032】
重錘36は、棒状の重錘本体37に穿設された取付穴38を、回転軸14の先端部に設けられた重錘取付部39に嵌脱自在に装着したので、重錘36を容易に着脱できるとともに、重錘36の取付穴38が重錘本体37の長手方向中央部よりオフセットされた位置に穿設されたので、長手方向中央部よりオフセットされた位置の取付穴38によりアンバランスな状態で取付けられた重錘36が、プーリ31の自由回転を規制して、この医療用牽引機11の持運び、セッティングなどの取扱性を向上できる。
【0033】
スクリューシャフト53、ガイド57、固定クランプ部材58および可動クランプ部材59が、牽引機本体12の下側または下面に設けられているのに対して、スクリューシャフト53を回動操作するクランプ操作部55は牽引機本体12の上側に位置するので、医療行為を行なう上で不潔領域となる手術台50の下側領域に手を入れることなく、手術台50より上側でのクランプ操作により牽引機本体12を手術台に固定できる。
【0034】
この医療用牽引機11は、構造がシンプルであり、また、プーリ31と重錘36とを一体的に取扱うことができるとともに、重錘36の着脱が容易であるので、高圧蒸気滅菌を容易に行なうこともできる。
【0035】
なお、重錘36は、円柱状に形成されているが、この形状に限定されるものではなく、例えばリング状の重錘36をプーリ31の側面に直接取付けるようにしてもよい。
【0036】
本発明は、例えば手術等の治療の補助をする医療用牽引機に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る医療用牽引機の一実施の形態を示す一部を破断した平面図である。
【図2】同上牽引機の一部を破断した側面図である。
【図3】同上牽引機の牽引状態を示す一部を破断した側面図である。
【符号の説明】
【0038】
11 医療用牽引機
12 牽引機本体
14 回転軸
17 リール
21 一方の紐状体
25 治療対象者の被牽引部
31 プーリ
34 巻胴部
35 他方の紐状体
36 重錘
37 重錘本体
38 取付穴
39 重錘取付部
44 ブレーキ機構
46 ネジ
47 先端部材
50 手術台
53 スクリューシャフト
55 クランプ操作部
57 ガイド
58 固定クランプ部材
59 可動クランプ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牽引機本体と、
この牽引機本体に回動自在に設けられた回転軸と、
この回転軸に一体的に設けられたリールと、
このリールにより巻取られるとともにリールから引出された先端が治療対象者の被牽引部を牽引する一方の紐状体と、
前記リールよりも大径の巻胴部を有し前記回転軸を介しリールと一体的に回動するプーリと、
このプーリに前記一方の紐状体にテンションをかけることが可能な方向に巻掛けられた他方の紐状体と、
この他方の紐状体の先端に結合された重錘と、
この重錘をプーリの側面部分に着脱自在に取付可能な重錘取付部と
を具備したことを特徴とする医療用牽引機。
【請求項2】
牽引機本体に螺合されたネジの先端部材によりプーリの側面に制動をかけるブレーキ機構
を具備したことを特徴とする請求項1記載の医療用牽引機。
【請求項3】
重錘は、棒状の重錘本体と、この重錘本体の長手方向中央部よりオフセットされた位置に穿設された取付穴とを備え、
重錘取付部は、回転軸の先端部に設けられ、この回転軸の先端部に重錘の取付穴を嵌脱自在に装着した
ことを特徴とする請求項1または2記載の医療用牽引機。
【請求項4】
牽引機本体に回動自在に嵌合されて牽引機本体の下側に突出されたスクリューシャフトと、
このスクリューシャフトを牽引機本体の上側で回動操作するクランプ操作部と、
スクリューシャフトと平行に牽引機本体に設けられたガイドと、
牽引機本体の下面に取付けられた固定クランプ部材と、
この固定クランプ部材と対向する下側位置でスクリューシャフトに螺合されるとともにガイドに摺動自在に嵌合されて固定クランプ部材に対し手術台を挟んで固定する可動クランプ部材と
を具備したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載の医療用牽引機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−82303(P2010−82303A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256072(P2008−256072)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(595120806)株式会社エム・イー・システム (6)
【Fターム(参考)】