説明

医療用蓋材

【課題】医療用器具等を収納するポリオレフィン系成形容器の通気性を有する蓋材として、滅菌性とその滅菌後の無菌性を保持し、かつコストが嵩まず紙剥けなどのない医療用蓋材の提供。
【解決手段】含浸紙等の紙層10とエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分としたヒートシール剤層11との間にポリエステル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤層が施され、該ヒートシール剤層およびアンカーコート剤層とが固形分5〜50%で、ザーンカップ粘度計による粘度がザーンカップ#3で10〜40秒のワニスをグラビアロールコーティングで形成してあり、透気性を表す透気度がJIS P8117に準拠のB型測定器を用いた試験方法で、30秒/100cc以上、2000秒/100cc以下である医療用蓋材1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙層を基材としたイージーピール性(易剥離開封性)を持った通気性の蓋材に関するものであり、特に、医療用器具などを収納するポリオレフィン系樹脂でなる成形容器の蓋材として、ガス透過による滅菌性と滅菌後の無菌性を両立させ、かつ少ない力で容易にピールオープン(剥離開封)でき、さらに紙剥けなどにより開口部を覆うといった危惧の無い医療用蓋材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系樹脂でなる成形容器に対し、容易にピールオープン(剥離開封)が可能な蓋材としては、紙基材の内面にヒートシール剤としてホットメルト剤を塗布するか、溶剤系のヒートシールラッカーを使用するかあるいはイージーピールフィルムをラミネートするかの方法があった。しかし、この蓋材を医療用器具などを収納するポリオレフィン系樹脂でなる成形容器に用いる場合、その滅菌方法で頻繁に用いられるEOG滅菌をするためや、あるいはその他の滅菌方法であるγ線滅菌によって医療器具の接合樹脂部から発生した揮発性ガスを透過させるため、その蓋材にある程度のガス透過性を必要とし、またガスが透過し過ぎても外部からの細菌や虫が混入しやすくなるので問題となるものであった。
【0003】
以上のようなことから、ガス透過性による滅菌性と滅菌後の無菌性の保持を両立させる医療用蓋材として、その内面に施すヒートシール剤にガス透過性が殆どない上記イージーピールフィルムを用いることは不可能である。
【0004】
また、上記のような医療用蓋材として、そのヒートシール剤に上記のヒートシールラッカーやホットメルト剤を用いる例があり、紙自身のガス透過性で無菌性を保証している紙、例えば特種製紙社より上市されている含浸紙:SベランNFの内面にポリオレフィン系ヒートシールラッカーをコーティングするか、あるいは紙層の内面にエチレン−酢酸ビニル共重合体を主成分とするホットメルト剤をコーティングする構成がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら上記構成のものでは適度なガス透過性があり滅菌性と、滅菌後の無菌性は両立するものの、使用時(剥離開封)に蓋材の紙剥けが発生して取り出し部分(開口部)を覆うことにより取り出すことが困難となったり、開口部に紙が残ることによるユーザーからのクレームなどがあった。さらには、残っている紙剥け部分を再び剥がす作業を行うことにより、無菌性を維持していた内容物を汚染する可能性のあるものであった。
【0006】
さらにまた、旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ社より上市されている高密度ポリエチレン製不織布(タイベック)に上記のヒートシールラッカーをコーティングする構成もあるが、コーティングされた不織布(タイベック)はコストが嵩むことに加え、剥離後に不織布起因の繊維状のケバが発生するという問題点もあった。
【0007】
以下に、上記先行技術文献を示す。
【特許文献1】特開平9−238837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、その課題とするところは、
医療用器具や材料等を収納するポリオレフィン系樹脂でなる成形容器の通気性を有する蓋材として、滅菌性とその滅菌後の無菌性を保持し、かつコストが嵩まず紙剥けなどのない医療用蓋材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に於いて上記課題を達成するために、まず請求項1の発明では、医療用の器具や材料などを収納するポリオレフィン系樹脂でなる容器本体の開口部にヒートシールされ、紙層を基材とし、その片面に少なくともヒートシール剤層が積層されている透気性の医療用蓋材において、前記ヒートシール剤層はエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、該ヒートシール剤層と基材との間にポリエステル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤層が施され、該ヒートシール剤層およびアンカーコート剤層とが固形分5〜50%で、ザーンカップ粘度計による粘度がザーンカップ#3で10〜40秒のワニスをグラビアロールコーティングで形成してあることを特徴とする医療用蓋材としたものである。
【0010】
また、請求項2の発明では、前記透気性を表す透気度がJIS P8117に準拠のB型測定器を用いた試験方法で、30秒/100cc以上、2000秒/100cc以下であることを特徴とする請求項1記載の医療用蓋材としたものである。
【0011】
また、請求項3の発明では、前記ヒートシール剤層に変性ポリオレフィンが含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の医療用蓋材としたものである。
【0012】
さらにまた、請求項4の発明では、前記基材としての紙層が紙にアクリル系樹脂を含浸せしめている含浸紙であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の医療用蓋材としたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上の構成であるから、下記に示す如き効果がある。
【0014】
即ち、上記請求項1に係る発明によれば、紙層を基材とし、その片面に少なくともヒートシール剤層が積層されている透気性の医療用蓋材において、基材とヒートシール剤層との間に施すアンカーコート層にポリエステル系の樹脂を設けることによって、このアンカーコート層に耐熱性を付与し、ポリオレフィン系の容器との熱溶着時にヒートシール層の紙層への染み込みを防止し、安定的に層間剥離することができ、このように層間剥離を利用することによって、シール時の温度起因による剥離強度の不安定さを排除し、広いヒートシール領域で安定的な剥離強度が得られ、紙剥けなどのない医療用蓋材とすることができる。
【0015】
さらにまた、上記請求項1に係る発明によれば、前記ヒートシール剤層およびアンカーコート剤層とが固形分5〜50%で、ザーンカップ粘度計による粘度がザーンカップ#3で10〜40秒のワニスをグラビアロールコーティングで形成することによって、生産性の向上とともに、グラビアロールコートに使用する版の形状と深さでヒートシール剤層やアンカーコート剤層の厚みのコントロール、すなわち透気度のコントロールを可能にする医療用蓋材とすることができる。
【0016】
また、上記請求項2に係る発明によれば、透気性を表す透気度がJIS P8117に準拠のB型測定器を用いた試験方法で、30秒/100cc以上2000秒/100cc以下であることとすることによって、滅菌性とその滅菌後の無菌性の保持を両立せしめる医療用蓋材とすることができる。このように上記測定法による透気度が30秒/100ccに満たないとガス透過性に劣るので滅菌性が無くなり、2000秒/100ccを超えると滅菌後の無菌性の保持ができなくなるので好ましくない。
【0017】
また、上記請求項3に係る発明によれば、ヒートシール剤層に変性ポリオレフィンが含まれていることによって、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)系樹脂でなる成形容器本体とのヒートシールによる溶着を向上させ、より安定的にアンカーコート層との層間で剥離することを可能にする医療用蓋材とすることができる。
【0018】
さらにまた、上記請求項4に係る発明によれば、基材としての紙層が紙にアクリル系樹脂を含浸せしめている含浸紙とすることによって、従来の高密度ポリエチレン製不織布などを用いることに比べコストが嵩まず、かつ紙層の層間強度に大幅な改善ができ、より紙剥けや紙破れなどが発生し難くなる医療用蓋材とすることができる。
【0019】
従って本発明は、滅菌性と滅菌後の無菌性とが両立する、医療用器具や材料等を収納するプラスチック容器の蓋材として、優れた実用上の効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の医療用蓋材1の断面図であり、その構成は、紙層10の片面にアンカーコート剤層12、ヒートシール剤層11が順に積層された構成からなっている。また、図2は、医療用器具等内容物3を収納する成形容器本体2に本発明の医療用蓋材1を設けた医療用成形容器5の外観断面図である。
【0022】
上記図1に示す紙層10としては、上市されている紙自身で滅菌性を保証している紙であれば特に限定するものではなく、例えば、上質紙、コート紙、含浸紙などいずれも使用可能であるが、その中でも紙層の層間強度の大きい含浸紙はより好ましく使用することができる。それらの坪量は、蓋材のとしてある程度の腰が必要であるため30g/m2 〜100g/m2 程度が望ましい。
【0023】
また、アンカーコート剤層12としては、上市されているポリエステル系樹脂を主成分とするグラビアロールコート用アンカーコート剤であれば特に限定するものではなく、固形分が20%〜40%であればロングラン生産を考慮するとより望ましい。
【0024】
また、ヒートシール剤層11としては、上市されているエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を主成分とするグラビアロールコート用ヒートシールラッカーであれば、溶剤で希釈されたラッカー剤、又はエマルジョンタイプであっても特に制限は無い。更には図2に示す被着体である容器本体2がポリオレフィン系容器の時、ヒートシール剤層11に変性ポリオレフィンを含有させることによって被着体である容器本体2との密着が向上し、より安定的な剥離強度が得られる。
【0025】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【実施例1】
【0026】
紙層として、坪量95g/m2 の含浸紙:SベランNF(特種製紙社製)を用い、その片面にアンカーコート剤層として、固形分26%でザーンカップ#3の粘度18秒のアンカーコート用ワニス:PS008HS(東洋インキ製造社製)をグラビアロールコート法で塗布し、乾燥塗布量5g/m2 のアンカーコート剤層を形成し、さらにその上に、ヒートシール剤層として、固形分25%でザーンカップ#3の粘度26秒のヒートシールラッカー:M−720AH(大日本インキ化学工業社製)をグラビアロールコート法で塗布し、乾燥塗布量5g/m2 のヒートシール剤層を形成して医療用蓋材を得た。
【実施例2】
【0027】
紙層として、坪量64g/m2 の上質紙:KFD−DF(日本製紙社製)を用いた以外は実施例1と同様にして医療用蓋材を得た。
【0028】
以下に、本発明と比較のための実施例について説明する。
【実施例3】
【0029】
紙層とヒートシール剤層との間にアンカーコート剤層を施さないこと以外は実施例1と同様にして比較用の医療用蓋材を得た。
【実施例4】
【0030】
紙層とヒートシール剤層との間にアンカーコート剤層を施さないこと以外は実施例2と同様にして比較用の医療用蓋材を得た。
【0031】
上記実施例1〜4の医療用蓋材を用いて、ポリプロピレン(PP)系成形容器に対して下記条件にてヒートシールし、モニターによりその医療用蓋材の剥離評価を紙剥け発生数で行い、その結果を表1に示した。
〔ヒートシール条件〕
・条件1:シール温度;170℃、シール時間;0.5秒×2回、シール圧力;14.7N/cm2
・条件2:シール温度;230℃、シール時間;0.5秒×2回、シール圧力;14.7N/cm2
・紙剥け発生数:発生数/測定数
【0032】
【表1】

上記表1の実施例1と比較のための実施例3の結果から、ポリエステル系アンカーコート剤は紙剥けの減少に大きな効果があり、更には実施例1と2の比較から含浸紙が紙剥けの減少には大きな効果があった。実施例2のように紙層強度の弱い上質紙を用いても、シール条件においては紙剥けが発生し難いことが確認できた。
【0033】
また、上記実施例1〜4の医療用蓋材を用いて、ポリプロピレン(PP)系成形容器に対して上記条件にてヒートシールし、引っ張り試験機を用いて下記条件にて剥離強度を測定した。更には、剥離後の蓋材の断面観察を実施し、剥離界面を同定し、その結果を表2に示した。
〔剥離強度(引っ張り試験機)の条件〕
・剥離速度:300mm/min、
・剥離角度:180度
〔剥離界面の状態〕
・測定機器:光学顕微鏡;BHSM(オリンパス光学工業社製)
:走査電子顕微鏡;S−4800(日立製作所社製)
【0034】
【表2】

上記表2から実施例1、2と比較のための実施例3、4とでは、アンカーコート剤層を施すことによる剥離界面の差異が極鮮明に見られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の医療用蓋材の一実施の形態を側断面で表した説明図である。
【図2】本発明の医療用蓋材を用いた医療用器具等を収納する成形容器の一実施の形態を側断面で表した説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1‥‥医療用蓋材
2‥‥成形容器本体
3‥‥内容物
5‥‥医療用成形容器
10‥‥紙層
11‥‥ヒートシール剤層
12‥‥アンカーコート剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用の器具や材料などを収納するポリオレフィン系樹脂でなる容器本体の開口部にヒートシールされ、紙層を基材とし、その片面に少なくともヒートシール剤層が積層されている透気性の医療用蓋材において、前記ヒートシール剤層はエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とし、該ヒートシール剤層と基材との間にポリエステル系樹脂を主成分とするアンカーコート剤層が施され、該ヒートシール剤層およびアンカーコート剤層とが固形分5〜50%で、ザーンカップ粘度計による粘度がザーンカップ#3で10〜40秒のワニスをグラビアロールコーティングで形成してあることを特徴とする医療用蓋材。
【請求項2】
前記透気性を表す透気度がJIS P8117に準拠のB型測定器を用いた試験方法で、30秒/100cc以上、2000秒/100cc以下であることを特徴とする請求項1記載の医療用蓋材。
【請求項3】
前記ヒートシール剤層に変性ポリオレフィンが含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の医療用蓋材。
【請求項4】
前記基材としての紙層が紙にアクリル系樹脂を含浸せしめている含浸紙であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の医療用蓋材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−184203(P2008−184203A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20960(P2007−20960)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】