説明

医療用鋏

【課題】MRI装置が設置された室内のような強い磁場が発生する場所おいても飛翔しない鋏を提供する。
【解決手段】本発明は、刃体12およびグリップ部13を含む一対の鋏片10と、一対の鋏片10を回動可能に連結する軸体11と、を備えた医療用鋏1に関する。一対の鋏片10および軸体11は、常温において、それぞれ非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料によって形成されている。グリップ部13および軸体11は、たとえばアルミニウムにより形成されている。刃体12は、たとえばジルコニアセラミックスにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療現場において、包帯などを切断するために用いる医療用鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な鋏は、刃部およびそれに連続する把持部を有する一対の鋏片を、刃部と把手部との間において、支軸を介して回動可能に連結した構造を有している。通常、鋏片や支軸は、強磁性材料により形成されている。
【0003】
医療現場においても種々の鋏が用いられており、その一例として、包帯、湿布、あるいは粘着テープなどの比較的に厚みの小さいものを切断するために使用されるものがある。このような用途に使用される医療用鋏は、看護師などの医療従事者がポケットに収容して携帯されることがある。
【0004】
一方、医療現場においては、MRI装置が普及してきている。MRI装置は、強力な磁場を発生するものである。そのため、MRI装置が設置された室内に鋏を持ち込むと、MRI装置の磁場によって鋏に磁力が印加される。この場合、鋏の一部(それがたとえ支軸のみであっても)でも強磁性材料に形成されていれば、磁力によって鋏が室内を飛翔して非常に危険であるという問題があった。したがって、一般的には、MRI装置が設置された室内のような強い磁場のかかる室内においては、ハサミ等の切断器具は持ち込み禁止となっているケースが多い。しかしながら、医療従事者が誤って強い磁場が生じている室内に鋏を持ち込む危険性を完全に排除するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−181036号公報
【特許文献2】特開2008−005896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、MRI装置が設置された室内のような強い磁場が発生する場所おいても飛翔しない鋏を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、刃体およびグリップ部を含む一対の鋏片と、前記一対の鋏片を回動可能に連結する軸体と、を備えた医療用鋏に関する。
【0008】
前記一対の鋏片および前記軸体は、常温において、非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料によって形成されている。
【0009】
前記刃体は、たとえばジルコニアセラミックスにより形成されている。
【0010】
前記グリップ部は、たとえばアルミニウムにより形成されている。前記グリップ部は、マグネシウムまたはシリコンを含んでいるのが好ましい。
【0011】
前記軸体は、たとえばアルミニウムにより形成されている。前記軸体は、マグネシウムまたはシリコンを含んでいるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る鋏は、前記一対の鋏片が閉じた状態において、前記一対の鋏片の先端部同士の間に凹状のガイド部が形成されるものであってもよい。
【0013】
前記ガイド部は、たとえば幅寸法が前記刃体の先端部に向かうにつれて大きくなっている。前記刃体における先端部の内側の領域は曲線状を成しているのが好ましい。
【0014】
前記刃体は、切刃部および非切刃部から成る。前記ガイド部は、前記非切刃部により構成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鋏は、前記一対の鋏片および前記軸体が常温において非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料によって形成されている。そのため、鋏全体が非磁性体もしくは弱磁性体となっている。その結果、MRI室等のような大きな磁場が発生する室内においても、高磁場に起因する鋏の飛翔を抑制することができる。したがって、本発明では、高磁場の室内に鋏を持ち込んだ場合の危険性を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る鋏にストラップを装着した状態で透明ケースに収容した状態を示す平面図である。
【図2】本発明に係る鋏にストラップを装着した状態(透明ケースから取り出した状態)の平面図である。
【図3】図3(a)は図2に示した鋏が開いた状態での先端部を拡大して示した平面図であり、図3(b)は図2に示した鋏が閉じた状態での先端部を拡大して示した平面図である。
【図4】図3(b)をさらに拡大して示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示したように、本発明に係る鋏1は、一例において、透明ケース2に収容した状態で持ち運び可能とされる。
【0018】
透明ケース2は、収容部20およびジッパ21を備えている。
【0019】
収容部20は、透明樹脂などにより形成された一対のシート22を、上縁23を除いて周縁において接着して袋状に形成したものである。この収容部20における上縁23は、一対のシート22が互いに接着されていないため開口を形成可能であり、この開口を利用して収容部20に鋏1を収容し、あるいは収容部20から鋏1を取り出すことができる。
【0020】
ジッパ21は、収容部20における上縁23に形成された開口の開閉状態を選択可能とするものである。ジッパ21としては、公知の種々のものを使用することができ、たとえば図示したようにスライダ24を移動させることによりファスナ25を開閉するように構成されたものを適用することができる。
【0021】
透明ケース2に鋏1を収容した状態では、鋏1に直接手を触れることなく鋏1の持ち運び可能であるため、不容易に鋏1に触れてしまう可能性が低減される。そのため、鋏1の持ち運び時における安全性を確保することができる。また、後述のように、鋏1は、ストラップ3を装着して使用されることもあるが、透明ケース2にストラップ3とともに鋏1を収容しておけば、嵩張ることなく衣服のポケットなどへ鋏1を収容して携帯することができる。
【0022】
鋏1は、医療用として、たとえば包帯、湿布、あるいは粘着テープなどの比較的に厚みの小さいものを切断するために使用されるものである。図2に示したように、鋏1は、一対の鋏片10および軸体11を備えており、全体が非磁性あるいは弱磁性特性を示す材料により形成されている。
【0023】
本発明において、「非磁性体材料」という場合には常温(25℃)における比磁化率が−10−7〜−10−3である材料を意味し、「弱磁性体材料」という場合には常温(25℃)における比磁化率が10−3〜10−7である材料を意味しているものとする。
【0024】
鋏片10は、軸体11を支点として回動可能なものであり、刃体12およびグリップ部13を有している。
【0025】
刃体12は、対象物を切断する部分であり、グリップ部13を操作することによって図3(a)および図3(b)に示したように先端部14が開閉可能とされている。この刃体12は、常温(たとえば25℃)において非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料により形成されている。刃体12を形成するために非磁性あるいは弱磁性材料としては、たとえばジルコニア、アルミナなどのセラミックス、あるいは、チタニウムなどの金属材料を挙げることができる。刃体12は、例示した材料のうち、ジルコニアセラミックスにより形成するのが好ましい。刃体12をジルコニアセラミックスにより形成すれば、刃体12の強度(耐久性)を適切に維持しつつ、刃体12ひいては鋏1の全体の軽量化を図ることができる。
【0026】
図3(a)、図3(b)および図4に示したように、刃体12は、先端部14が丸みを帯びている。そのため、図3(b)に示したように、刃体12(鋏片10)を閉じた状態において、一対の鋏片10の先端部同士の間に凹状のガイド部15が形成される。このガイド部15は、図4に示したように幅寸法Wが刃体12(鋏片10)の先端に向かうにつれて幅広となっているとともに、刃体12における先端部14の内側の領域は曲線状を成している。ガイド部15に幅寸法Wは、たとえば最大幅の部分において、1〜3mmとされる。
【0027】
このように、凹状のガイド部15が設けられているため、鋏片10を開くことなく包帯等の切断対象物4に対して位置決めができ、作業性および安全性が向上する。本実施形態においては、ガイド部の幅が先端に向かうにつれて幅広となっているため、切断対象物4をガイド部15内に特に挿入しやすい。さらに、本実施形態においては、ガイド部15の内側の領域が曲線状となっているため、ガイド部15に挿入された切断対象物4が先端部側から鋏片10の支点側に向かって滑らかに案内され、切断の作業性が良好となる。
【0028】
図2に示したように、刃体12は、切刃部16および非切刃部17を含んでいる。切刃部16は、鋭利なエッジを有するものであり、刃体12の内側において一連に延びるように形成されている。この切刃部16は、図3(a)および図3(b)に示したように刃体12の先端部(丸みを帯びた部分)には形成されておらず、刃体12の先端部14は非切刃部17とされている。そのため、図3(b)および図4に示したように、ガイド部15は、刃体12の先端部14を閉じた状態において非切刃部17により構成されるため、鋏1が閉じている状態における怪我の発生を抑制することができる。また、刃体12の先端部14が丸みを帯びていれば、鋏1が開いている状態(図3(a)参照)においても、鋏1による怪我の発生を抑制することが可能となる。
【0029】
グリップ部13は、刃体12の先端部14を開閉させるために操作される部分であり、この刃体12は、常温(たとえば25℃)において非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料により形成されている。グリップ部13を形成するための非磁性あるいは弱磁性材料としては、たとえばジルコニア、アルミナなどのセラミックス、アルミニウム、チタニウムなどの金属材料、あるいはアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP),ポリアセタール(POM),ポリカーボネート(PC),ポリアミド樹脂(PA)などの樹脂材料を挙げることができる。グリップ部13は、例示した材料のうち、アルミニウムにより形成するのが好ましい。グリップ部13をアルミニウムにより形成すれば、グリップ部13ひいては鋏1の全体を軽量かつ安価に形成することが可能となる。
【0030】
グリップ部13がアルミニウムにより形成される場合には、グリップ部13にマグネシウムまたはシリコンを含有させてもよい。そうすれば、グリップ部13の酸化を抑制し、グリップ部13における耐食性を向上させることができる。グリップ部13は、使用者によって操作される部分であるが、医療現場においては、使用者の手に薬剤が付着していることがある。そのため、グリップ部13の耐食性を向上させることにより、医療現場において使用される鋏1であっても、鋏1の寿命を長く維持することが可能となる。このような効果を適切に得るためには、グリップ部13におけるマグネシウム含有量は、たとえば0〜0.5wt%とされ、シリコン含有量は、たとえば1.0〜15.0wt%とされる。
【0031】
図2に示したようにグリップ部13には、ストラップ3が装着されている。ストラップ3は、鋏1が不容易に落下しないようにするためのものであり、伸縮部30の端部31にクリップ32および連結紐33が固定されたものである。クリップ32は、衣服のポケットの縁などを挟み込むことによってストラップ3ひいては鋏1を衣服などに付属させるためのものである。連結紐33は、ストラップ3を鋏1に装着するためのものであり、グリップ部13の貫通孔13Aに連結されている。伸縮部30は、クリップ32による固定部分と鋏1との間を連結しつつ、それらの間の距離変動を許容するものであり、エラストマなどの樹脂によってコイル状に形成されている。
【0032】
軸体11は、一対の鋏片10を回動可能に連結するものであり、一対の鋏片10と同様に、常温(25℃)において、非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料により形成されている。軸体11を形成するための非磁性あるいは弱磁性材料としては、たとえばジルコニア、アルミナなどのセラミックス、チタニウム、銅合金(黄銅、りん青銅)、アルミニウム、A5052(マグネシウム系)や超超ジェラルミンA7050等のアルミニウム合金などの金属材料、あるいはポリカーボネート(PC)、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの樹脂材料を挙げることができる。軸体11は、例示した材料のうち、アルミニウムにより形成するのが好ましい。軸体11をアルミニウムにより形成すれば、鋏1の軽量化および低コスト化に寄与することができる。
【0033】
軸体11がアルミニウムにより形成される場合には、軸体11にマグネシウムまたはシリコンを含有させてもよい。そうすれば、軸体11の酸化を抑制して軸体11の耐食性を向上させることができるため、長期間に亘って刃体12の回動状態を適切に維持することが可能となる。そのため、鋏1が薬液等の液体に晒されやすい医療現場において使用される場合であっても、鋏1の寿命を長く維持することが可能となる。このような効果を適切に得るためには、クリップ部におけるマグネシウム含有量は、たとえば1.0〜10.0wt%とされ、シリコン含有量は、たとえば0〜1.0wt%とされる。
【0034】
本発明に係る鋏1は、一対の鋏片10および軸体11が、常温において非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料によって形成されている。そのため、鋏1が全体として非磁性体もしくは弱磁性体となっている。その結果、MRI室等のような大きな磁場が発生する室内においても、高磁場に起因する鋏1の飛翔を抑制することができる。したがって、本発明に係る鋏1は、高磁場の室内に鋏1を持ち込んだ場合の危険性を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 (医療用)鋏
10 鋏片
11 軸体
12 刃体
13 グリップ部
14 (鋏片の)先端部
16 切刃部
17 非切刃部
W (ガイド部の)幅寸法


【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃体およびグリップ部を含む一対の鋏片と、
前記一対の鋏片を回動可能に連結する軸体と、
を備えた医療用鋏において、
前記一対の鋏片および前記軸体は、常温において、非磁性もしくは弱磁性特性を示す材料によって形成されている、医療用鋏。
【請求項2】
前記刃体は、ジルコニアセラミックスにより形成されている、請求項1に記載の医療用鋏。
【請求項3】
前記グリップ部は、アルミニウムにより形成されている、請求項1に記載の医療用鋏。
【請求項4】
前記グリップ部は、マグネシウムまたはシリコンを含んでいる、請求項3に記載の医療用鋏。
【請求項5】
前記軸体は、アルミニウムにより形成されている、請求項1に記載の医療用鋏。
【請求項6】
前記軸体は、マグネシウムまたはシリコンを含んでいる、請求項5に記載の医療用鋏。
【請求項7】
前記一対の鋏片が閉じた状態において、前記一対の鋏片の先端部同士の間に凹状のガイド部が形成される、請求項1に記載の医療用鋏。
【請求項8】
前記ガイド部は、幅寸法が前記刃体の先端に向かうにつれて大きくなる、請求項7に記載の医療用鋏。
【請求項9】
前記刃体における先端部の内側の領域は、曲線状を成している、請求項7に記載の医療用鋏。
【請求項10】
前記刃体は、切刃部と、非切刃部とから成り、
前記ガイド部は、前記非切刃部により構成されている、請求項7に記載の医療用鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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