説明

医療用離型フィルム

【課題】剥離性およびガスバリア性に優れる医療用離型フィルムを提供する。
【解決手段】基材フィルムの一方の面にCVDによる炭素含有酸化珪素の蒸着膜、所定組成のガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けた積層フィルムと、硬化性シリコーン樹脂層とからなることを特徴とする。ガスバリア性に優れ、エンボス加工を行っても高いガスバリア性を維持することができ、離型性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用離型フィルムに関し、更に詳しくは、ガスバリア性によって貼付薬等の粘着剤層を保護し、薬効成分の透過率が低く、離型性に優れる医療用離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から患部の炎症や疼痛を緩和・抑制する目的で貼付薬が用いられている。貼付薬は、患部に臨床有効量の薬剤を供給するため、微多孔中空繊維からなる編物などを基材とし、その一面に薬効成分を含んだ薬剤層を有し、その上に医療用離型フィルムを積層して形成される。使用時に医療用離型フィルムを剥がし、露出させた薬剤層を幹部に貼付して使用する、いわゆる経皮吸収剤の一種である。経口投与剤とほとんど薬効に差が無く、局所作用のため全身性の副作用が少ないことから近年多用される薬剤である。
【0003】
このような貼付剤に使用する医療用離型フィルムとして、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、バリア性樹脂を含浸させた酸化アルミニウム層を設け、その上に硬化性シリコーン樹脂層を設けてなることを特徴とする医療用離型フィルムがある(特許文献1)。特許文献1に記載される医療用離型フィルムは、従来の医療用離型フィルムは、薬効を長寿命化させるためにガスバリア性の高いポリエチレンテレフタレートフィルムを使用しているが、ガスバリア性が十分でない点に鑑みてなされたものであり、ポリエステルフィルムの片面に、反応性蒸着法にて酸化アルミニウム層を設け、この酸化アルミニウム層にバリア性樹脂を含浸させてガスバリア性を確保している。
【特許文献1】特開2005−170865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、貼付薬の薬剤層は、患部に固着するに足る粘着性を有する基材に薬効成分を含有させたものであり、粘着成分による汚染を防止するために、医療用離型フィルムが貼付薬の最外層に積層されている。したがって、医療用離型フィルムには、薬効成分の維持のほかに薬剤層との優れた剥離性が期待されるが、特許文献1記載の医療用離型フィルムは離型性が十分でない。
【0005】
そこで本発明は、ガスバリア性に優れ、特に、エンボス加工をおこなってもガスバリア性に優れる医療用離型フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、医療用離型フィルムについて詳細に検討した結果、化学気相成長法により有機珪素化合物を蒸着用モノマーとして供給して基材フィルムの一方の面に炭素含有酸化珪素の蒸着膜を設け、該炭素含有酸化珪素の蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けた積層フィルムは、柔軟性およびガスバリア性に優れるためエンボス加工を行っても優れたガスバリア性を確保しうること、硬化性シリコーン樹脂層との密着性に優れるため、硬化性シリコーン樹脂層を積層することで、ガスバリア性と共に優れた離型性を確保しうることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、少なくともガスバリア性積層フィルムと離型層とからなる医療用離型フィルムであって、前記ガスバリア性積層フィルムは、化学気相成長法により有機珪素化合物を蒸着用モノマーとして供給して基材フィルムの一方の面に炭素含有酸化珪素の蒸着膜を設け、該炭素含有酸化珪素の蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けた積層フィルムであり、前記離型層は、硬化性シリコーン樹脂層である、医療用離型フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れたガスバリア性により、貼付薬の薬剤層の薬効成分の保存性を向上させることができる。
本発明の医療用離型フィルムは、エンボス加工を行ってもガスバリア性の劣化が抑制されるため、離型性を向上しうると共にエンボスによる多様な意匠を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の本発明に係る医療用離型フィルムについて図面等を用いて以下に更に詳しく説明する。
(1)医療用離型フィルム
まず、本発明に係る医療用離型フィルムは、図1に示すように、ガスバリア性積層フィルム(20)と離型層(30)とからなる医療用離型フィルムであり、前記、ガスバリア性積層フィルム(20)は、基材フィルム(21)に炭素含有酸化珪素の蒸着膜(23)を設け、該炭素含有酸化珪素の蒸着膜(23)上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜(25)を設けた積層フィルムである。なお、本発明の医療用離型フィルムは、ガスバリア性積層フィルム(20)と離型層(30)とを含むことを特徴とし、更に他の層を含んでいてもよい。
【0010】
(2)ガスバリア性積層フィルム
本発明で使用するガスバリア性積層フィルムは、基材フィルム、炭素含有酸化珪素の蒸着膜およびガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜とからなる。
【0011】
(i) 基材フィルム
本発明で使用しうる基材フィルムとしては、化学的ないし物理的強度に優れ、炭素含有酸化珪素膜を製膜化する条件等に耐え、また、その炭素含有酸化珪素膜等の膜特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる樹脂のフィルムを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリルル−プタジェン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコ−ル系樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂、その他等の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。本発明においては、上記の樹脂のフィルムの中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムを使用することが好ましいものである。なお、基材フィルムは、上記樹脂の未延伸フィルムや一軸方向または二軸方向に延伸したフィルムなどのいずれのものでも使用することができる。
【0012】
本発明において、上記の各種の樹脂のフィルムとしては、例えば、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、押出法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、その他等の製膜化法を用いて、上記の各種の樹脂を単独で製膜化する方法、あるいは、2種以上の各種の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化する方法、更には、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、各種の樹脂のフィルムを製造し、更に、要すれば、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸してなる各種の樹脂のフィルムを使用することができる。
【0013】
本発明において、各種の樹脂のフィルムの膜厚としては、6〜2000μm位、より好ましくは、9〜100μm位が望ましい。
なお、上記の各種の樹脂の1種ないしそれ以上を使用し、その製膜化に際して、例えば、フィルムの加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性、抗酸化性、滑り性、離形性、難燃性、抗カビ性、電気的特性、強度、その他等を改良、改質する目的で、種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極く微量から数十%まで、その目的に応じて、任意に添加することができる。
【0014】
上記において、一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料、その他等を使用することができ、更には、改質用樹脂等も使用することができる。
【0015】
(ii)表面処理
本発明では、上記の基材フィルムの一方の面に炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成するが、予め基材フィルムに表面処理をおこなってもよい。これによって炭素含有酸化珪素の蒸着膜やガスバリア性塗布膜との密着性を向上させることができる。
【0016】
このような表面処理としては、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理、その他等の前処理などがある。
【0017】
また、本発明で使用する各種フィルムの表面に、予め、プライマーコート剤、アンダーコート剤、アンカーコート剤、あるいは、蒸着アンカーコート剤等を任意に塗布し、表面処理とすることもできる。なお、前記コート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂、その他等をビヒクルの主成分とする樹脂組成物を使用することができる。
【0018】
このような表面処理の中でも、特に、コロナ処理やプラズマ処理を行うことが好適である。例えばプラズマ処理としては、気体をアーク放電により電離させることにより生じるプラズマガスを利用して表面改質を行なうプラズマ処理がある。プラズマガスとしては、上記のほかに、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の無機ガスを使用することができる。例えば、後記する化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成する直前に、インラインでプラズマ処理を行うことにより、基材フィルムの表面の水分、塵などを除去すると共にその表面の平滑化、活性化、その他等の表面処理を可能とすることができる。また、蒸着後にプラズマ処理を行い、密着性を向上させることもできる。本発明では、プラズマ処理としては、プラズマ出力、プラズマガスの種類、プラズマガスの供給量、処理時間、その他の条件を考慮してプラズマ放電処理を行うことが好ましい。また、プラズマを発生する方法としては、直流グロー放電、高周波放電、マイクロ波放電、その他の装置を使用することができる。また、大気圧プラズマ処理法によりプラズマ処理を行なうこともできる。
【0019】
(iii)炭素含有酸化珪素の蒸着膜
炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、化学気相成長法により有機珪素化合物を蒸着用モノマーとして使用して行う。化学気相成長法としては、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等を用いることができる。それらの中でも、特に、低温プラズマ化学気相成長法を用いて製膜化して製造することが望ましい。
【0020】
本発明においては、具体的には、基材フィルムの一方の面に、有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、かつ、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて珪素酸化物等からなる炭素含有酸化珪素の蒸着膜の1層からなる単層膜あるいは2層以上からなる多層膜または複合膜を形成して製造することができる。
【0021】
上記において、低温プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができ、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るためには、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0022】
上記の低温プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜の形成法の一例を低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である図2を用いて説明する。
図2のプラズマ化学気相成長装置(100)は、基材フィルム供給室(110)、真空チャンバーからなる第一製膜室(120)および基材フィルムの上に炭素含有酸化珪素層を製膜化したフィルムを巻き取る巻取り室(150)から構成される。前記基材フィルム供給室(110)内に配置された巻き出しロール(111)から基材フィルム(101)を繰り出し、該基材フィルム(101)を、第一製膜室(120)内の補助ロール(121)を介して所定の速度で冷却・電極ドラム(122)周面上に搬送する。一方、ガス供給装置(125)および、原料揮発供給装置(124)等から酸素ガス、不活性ガス、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスその他等を供給して蒸着用混合ガス組成物を調製し、これを原料供給ノズル(127)を通して第一製膜室(120)内に導入する。該蒸着用混合ガス組成物を上記冷却・電極ドラム(122)周面上に搬送された基材フィルム(101)の上に供給し、グロー放電プラズマ(128)によってプラズマを発生させ照射し、酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を製膜化する。次いで、上記で酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成した基材フィルム(101)を補助ロール(123)を介して巻取り室(150)に移送し、ここで巻き取りロール(151)に巻き取れば、プラズマ化学気相成長法による炭素含有酸化珪素の蒸着膜を有するフィルムを製造することができる。なお、冷却・電極ドラム(122)は、第一製膜室(120)の外に配置されている電源(160)から所定の電力が印加され、冷却・電極ドラム(122)の近傍には、マグネット(129)を配置してプラズマの発生が促進されている。このように冷却・電極ドラムに電源から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成される。このグロー放電プラズマは、混合ガス中の1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態で基材フィルムを搬送させると、グロー放電プラブマによって、冷却・電極ドラム周面上の基材フィルムの上に、酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成することができる。なお、図2中、符号(153)は真空ポンプを表す。
【0023】
本発明において、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等とが化学反応し、その反応生成物が、基材フィルムの一方の面に密接着し、緻密な、柔軟性等に富む薄膜を形成するものであり、通常、一般式SiOX(ただし、Xは、0〜2の数を表す)で表される酸化珪素を主体とする連続状の薄膜である。上記炭素含有酸化珪素の蒸着膜としては、透明性、バリア性等の点から、一般式SiOX(ただし、Xは、1.3〜1.9の数を表す。)で表される炭素含有酸化珪素の蒸着膜を主体とする薄膜であることが好ましい。なお、Xの値は、蒸着モノマーガスと酸素ガスのモル比、プラズマのエネルギー等により変化するが、一般的に、Xの値が小さくなればガス透過度は小さくなり、膜自身が黄色性を帯び、透明性が悪くなる。
【0024】
本発明において、炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、酸化珪素を主体とし、更に、炭素、水素、珪素または酸素の1種類、または2種類以上の元素からなる化合物の少なくとも1種類を化学結合等により含有する蒸着膜からなることを特徴とする。例えば、C−H結合を有する化合物、Si−H結合を有する化合物、または、炭素単位がグラファイト状、ダイヤモンド状、フラーレン状等になっている場合、更に、原料の有機珪素化合物やそれらの誘導体を化学結合等によって含有する場合があるものである。例えば、CH3部位を持つハイドロカーボン、SiH3シリル、SiH2シリレン等のハイドロシリカ、SiH2OHシラノール等の水酸基誘導体等を挙げることができる。なお、上記以外でも、蒸着過程の条件等を変化させることにより、炭素含有酸化珪素の蒸着膜中に含有される化合物の種類、量等を変化させてもよい。この際、上記の化合物が炭素含有酸化珪素の蒸着膜中に含有する含有量としては、0.1〜50質量%、好ましくは5〜20質量%である。含有率が0.1質量%未満であると、炭素含有酸化珪素の蒸着膜の耐衝撃性、延展性、柔軟性等が不十分となり、曲げなどにより、擦り傷、クラック等が発生し易く、高いバリア性を安定して維持することが困難になる場合があり、一方、50質量%を越えるとバリア性が低下する場合がある。
【0025】
本発明においては、SiOxプラズマにより、基材フィルムの表面が清浄化され、その表面に、極性基やフリ−ラジカル等が発生するので、製膜化される珪素酸化物等からなる炭素含有酸化珪素膜と基材フィルムとの密接着性が高いものとなる。
【0026】
更に、本発明では、炭素含有酸化珪素の蒸着膜において、上記の化合物の含有量が炭素含有酸化珪素の蒸着膜の表面から深さ方向に向かって増減していてもよい。例えば、表面から深さ方向に減少している場合には、これにより、炭素含有酸化珪素の蒸着膜の表面では上記化合物等により耐衝撃性等が高められ、他方、基材フィルムとの界面では、上記化合物の含有量が少ないために基材フィルムと炭素含有酸化珪素の蒸着膜との密接着性が強固なものとなる。このような炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、1層で構成される場合に限定されず、例えば2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよい。
【0027】
上記多層からなる蒸着層を製膜するには、複数の真空チャンバーを製膜室として有する化学気相成長装置(100)を使用することで、異なる組成の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成することができる。図3を使用して、3層の蒸着膜を有する場合を例示する。図3のプラズマ化学気相成長装置(100)は、基材フィルム供給室(110)、第1製膜室(120)、第二製膜室(130)、第三製膜室(140)、および、基材フィルムの上に炭素含有酸化珪素層を製膜化し重層したフィルムを巻き取る巻取り室(150)から構成される。基材フィルム供給室(110)において、巻き出しロール(111)から基材フィルム(101)を第一製膜室(120)に繰り出し、更に、該基材フィルム(101)を、補助ロール(121)を介して所定の速度で冷却・電極ドラム(122)周面上に搬送する。第一製膜室(120)では、原料揮発供給装置(124)、および、ガス供給装置(125)等から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル(127)を通して第1製膜室(120)内に上記の製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム(122)周面上に搬送された基材フィルム(101)の上に、グロー放電プラズマ(128)によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第1層の炭素含有酸化珪素層を製膜化する。
【0028】
上記の第1製膜室(120)で第1層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化した基材フィルム(101)を補助ロール(123)、(131)等を介して第二製膜室(130)に繰り出し、次いで、上記と同様に、第1層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化した基材フィルム(101)を所定の速度で冷却・電極ドラム(132)周面上に搬送する。その後、上記と同様に、原料揮発供給装置(134)、および、ガス供給装置(135)等から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル(137)を通して第二製膜室(130)内に上記の製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム(132)周面上に搬送された第1層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化した基材フィルム(101)の第1層の炭素含有酸化珪素膜の上に、グロー放電プラズマ(138)によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第2層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化する。
【0029】
更に、上記の第二製膜室(130)で第1層と第2層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化し、重層した基材フィルム(101)を補助ロール(133)、(141)等を介して第三製膜室(140)に繰り出し、次いで、上記と同様に、第1層と第2層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化した基材フィルム(101)を所定の速度で冷却・電極ドラム(142)周面上に搬送する。次いで、原料揮発供給装置(144)、および、ガス供給装置(145)等から有機珪素化合物の1種以上からなる製膜用モノマーガス、酸素ガス、不活性ガス、その他等を供給し、それらからなる製膜用混合ガス組成物を調整しながら、原料供給ノズル(147)を通して、第三製膜室(140)内に上記の製膜用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム(142)周面上に搬送された第1層と第2層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化し、重層した基材フィルム1の第2層の炭素含有酸化珪素膜の上に、グロー放電プラズマ(148)によってプラズマを発生させ、これを照射して、珪素酸化物等からなる第3層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化する。
【0030】
次いで、上記で第1層、第2層、および、第3層の炭素含有酸化珪素膜を製膜化し、それらを重層した基材フィルム(101)を、補助ロール(143)を介して、巻取り室(150)に繰り出し、次いで、巻取りロール(151)に巻き取る。
【0031】
なお、各第1、第2、および、第3の製膜室(120)、(130)、(140)に配設されている各冷却・電極ドラム(122)、(132)、(142)は、各第1、第2、および、第3の製膜室(120)、(130)、(140)の外に配置されている電源(160)から所定の電力が印加され、また、各冷却・電極ドラム(122)、(132)、(142)の近傍には、マグネット(129)、(139)、(149)を配置してプラズマの発生が促進されるものである。なお、図示しないが、上記のプラズマ化学気相成長装置には、真空ポンプ等が設けられ、各製膜室等は真空に保持されるように調製し得ることは勿論である。また、上記は、3層で例示したが、製膜室を任意に調製し、4層以上の多層構造とすることができる。
【0032】
上記において、真空チャンバー内を真空ポンプにより減圧し、真空度1×10-1〜1×10-8Torr位、好ましくは、真空度1×10-3〜1×10-7Torr位に調製することが望ましい。また、本発明では、炭素含有酸化珪素の蒸着膜が単層で構成されるか多層で構成されるかに係わらず、酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の形成時の真空度は、各真空チャンバー内を真空ポンプにより減圧し、1×10-1〜1×10-4Torr、好ましくは、1×10-1〜1×10-2Torrに調整することが好ましい。従来の真空蒸着法により酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成する時の真空度、1×10-4〜1×10-5Torrに比較して低真空度であるから、基材フィルムの原反交換時の真空状態設定時間を短くすることができ、真空度が安定しやすく製膜プロセスも安定化する。なお、製膜室が複数ある場合には、真空度は、各室において同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
また、基材フィルムの搬送速度は、10〜300m/分位、好ましくは、50〜200m/分位に調製することが望ましいものである。プラズマ化学気相成長では、上記冷却・電極ドラムには、電源から所定の電圧が印加されているため、製膜室内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成される。このグロー放電プラズマは、製膜用混合ガス組成物に含まれる1以上のガス成分から導出されるものであり、基材フィルムを上記範囲で一定速度で搬送させると、グロー放電プラブマによって、前記冷却・電極ドラム周面上の基材フィルムの上に、珪素酸化物等からなる炭素含有酸化珪素膜を均一に製膜化することができる。
【0034】
また、原料である有機珪素化合物、酸素ガス、不活性ガスからなる製膜用混合ガス組成物において、各ガス成分のガス混合比としては、有機珪素化合物の1種からなる製膜用モノマーガスの含有量は、1〜40質量%位、酸素ガスの含有量は、0.1〜70質量%位、不活性ガスの含有量は、1〜60質量%位の範囲として調製することが好ましい。前記蒸着層が多層からなる場合には、各蒸着層において、原料である製膜用モノマーガスと酸素ガス(O2)との比をそれぞれ変化させてもよい。これによって製膜化した炭素含有酸化珪素膜中の炭素量を増減させることができ、該炭素量が増加すると、C−C結合、Si−CH3結合が増加し、柔軟性の高い、かつ、水蒸気に対して高いバリア性を持つ撥水性の炭素含有酸化珪素膜を製膜化可能とすることができる。また、製膜化した炭素含有酸化珪素層中に炭素量の含有が減少すると、Si−CH3結合が少なくなるため柔軟性は劣るが、酸素等に対して高いガスバリア性を保持することができる。
【0035】
本発明において、上記の炭素含有酸化珪素の蒸着膜は、例えばX線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy、SIMS)等の表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングする等して分析し、炭素含有酸化珪素の蒸着膜の元素分析を行うことで、上記の物性を確認することができる。
【0036】
本発明において、上記炭素含有酸化珪素の蒸着膜の総膜厚は、60Å〜4000Å位であることが好ましく、より好ましくは100Å〜1000Åである。4000Åより厚くなると、その膜にクラック等が発生する場合があり、一方、60Å未満であると、バリア性の効果を奏することが困難になる場合がある。なお、膜厚は、例えば、株式会社理学製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。また、炭素含有酸化珪素の蒸着膜の膜厚を変更する手段としては、蒸着膜の体積速度を大きくする方法、すなわち、モノマーガスと酸素ガス量を多くする方法や蒸着する速度を遅くする方法等によって行うことができる。
【0037】
なお、上記した3層からなる多層構造の場合には、第1層を構成する炭素含有酸化珪素膜の膜厚としては、20Å〜200Å位、好ましくは、30Å〜100Å位が望ましく、また、第2層を構成する炭素含有酸化珪素膜の膜厚としては、20Å〜200Å位、好ましくは、30Å〜100Å位が望ましく、更に、第3層を構成する炭素含有酸化珪素膜の膜厚としては、20Å〜200Å位、好ましくは、30Å〜100Å位が望ましいものである。上記において、20Å以下であると、それ自身のバリア性が発現しないことから好ましくなく、また、200Åを越えると、膜にクラック等が入りやすく、特に、製膜中に、基材フィルムが巻き取られる間にクラックが入りやすい傾向にあることから好ましくないものである。また、上記において、上記の炭素含有酸化珪素層の膜厚を変更する手段としては、その層の体積速度を大きくすること、すなわち、製膜用モノマーガスと酸素ガスの量を多くする方法や製膜する速度を遅くする方法等によって行うことができる。
【0038】
本発明において、酸化珪素等の炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成する有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、その他等を使用することができる。これらの中でも、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、または、ヘキサメチルジシロキサンを原料として使用することが、その取り扱い性、形成された連続膜の特性等から、特に好ましい。なお、上記において、不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等を使用することができる。
【0039】
(iv)ガスバリア性塗布膜
本発明で使用するガスバリア性塗布膜としては、一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾル−ゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合してなるガスバリア性組成物からなる塗布膜であり、該組成物を上記基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を設け、20℃〜180℃、かつ上記の基材フィルムの融点以下の温度で30秒〜10分間加熱処理して形成することができる。
【0040】
また、前記ガスバリア性組成物を上記基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に塗工して塗布膜を2層以上重層し、20℃〜180℃、かつ、上記基材フィルムの融点以下の温度で30秒〜10分間加熱処理し、ガスバリア性塗布膜を2層以上重層した複合ポリマー層を形成してもよい。
【0041】
上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物、アルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができ、また、上記アルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されるものに限定されず、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよく、更に、加水分解の縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2〜6量体のものを使用してもよい。
【0042】
上記一般式R1nM(OR2m中、R1としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などを挙げることができる。
【0043】
上記一般式R1nM(OR2m中、R2としては、分岐を有していてもよい炭素数1〜8、より好ましくは1〜5、特に好ましくは1〜4のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、その他等を挙げることができる。なお、同一分子中に複数の(OR2)が存在する場合には、(OR2)は同一であっても、異なってもよい。
【0044】
上記一般式R1nM(OR2m中、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他等を例示することができる。
本発明においてケイ素であることが好ましい。この場合、本発明で好ましく使用できるアルコキシドとしては、上記一般式R1nM(OR2mにおいてn=0の場合には、一般式Si(ORa)4(ただし、式中、Raは、炭素数1〜5のアルキル基を表す。)で表されるものである。上記において、Raとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他等が用いられる。このようなアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(0C374、テトラブトキシシランSi(OC494等を例示することができる。
【0045】
また、nが1以上の場合には、一般式RbnSi(ORc)4-m(ただし、式中、mは、1、2、3の整数を表し、Rb、Rcは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、その他を表わす。)で表されるアルキルアルコキシシランを使用することができる。このようなアルキルアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32、ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252、その他等を使用することができる。本発明では、上記のアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン等は、単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0046】
また、本発明において、上記のアルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的には、例えば、ポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン、その他等を使用することができる。
【0047】
本発明では、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがZrであるジルコニウムアルコキシドも好適に使用することができる。例えば、テトラメトキシジルコニウムZr(OCH34、テトラエトキシジルコニウムZr(OC254、テトラiプロポキシジルコニウムZr(iso−0C374、テトラnブトキシジルコニウムZr(OC494、その他等を例示することができる。
【0048】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがTiであるチタニウムアルコキシドを好適に使用することができ、例えば、テトラメトキシチタニウムTi(OCH34、テトラエトキシチタニウムTi(OC254、テトライソプロポキシチタニウムTi(iso−0C374、テトラnブトキシチタニウムTi(OC494、その他等を例示することができる。
【0049】
また、上記一般式R1nM(OR2mで表されるアルコキシドとして、MがAlであるアルミニウムアルコキシドを使用することができ、例えば、テトラメトキシアルミニウムAl(OCH34、テトラエトキシアルミニウムAl(OC254、テトライソプロポキシアルミニウムAl(is0−OC374、テトラnブトキシアルミニウムAl(OC494、その他等を使用することができる。
【0050】
本発明では、上記アルコキシドは、2種以上を併用してもよい。例えばアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性積層フィルムの靭性、耐熱性等を向上させることができ、また、延伸時のフィルムの耐レトルト性などの低下が回避される。この際、ジルコニウムアルコキシドの使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して10質量部以下の範囲である。10質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜が、ゲル化し易くなり、また、その膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際にガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる傾向にあることから好ましくないものである。
【0051】
また、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いると、得られるガスバリア性塗布膜の熱伝導率が低くなり、耐熱性が著しく向上する。この際、チタニウムアルコキシドの使用量は、上記のアルコキシシラン100質量部に対して5質量部以下の範囲である。5質量部を越えると、形成されるガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、基材フィルムを被覆した際に、ガスバリア性塗布膜が剥離し易くなる場合がある。
【0052】
本発明で使用するポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、ポリビニルアルコール系樹脂、またはエチレン・ビニルアルコ一ル共重合体を単独で各々使用することができ、あるいは、ポリビニルアルコ一ル系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用することができる。本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することにより、ガスバリア性、耐水性、耐候性、その他等の物性を著しく向上させることができる。
【0053】
ポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合、それぞれの配合割合としては、質量比で、ポリビニルアルコ一ル系樹脂:エチレン・ビニルアルコール共重合体=10:0.05〜10:6位であることが好ましい。
【0054】
また、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体の含有量は、上記のアルコキシドの合計量100質量部に対して5〜500質量部の範囲であり、好ましくは20〜200質量部の配合割合である。500質量部を越えると、ガスバリア性塗布膜の脆性が大きくなり、得られるバリア性フィルムの耐水性および耐候性等が低下する場合がある。一方、5質量部を下回るとガスバリア性が低下する場合がある。
【0055】
前記ポリビニルアルコ一ル系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体において、ポリビニルアルコ一ル系樹脂としては、一般に、ポリ酢酸ビニルをケン化して得られるものを使用することができる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸基が数十%残存している部分ケン化ポリビニルアルコール系樹脂でも、酢酸基が残存しない完全ケン化ポリビニルアルコールでも、OH基が変性された変性ポリビニルアルコール系樹脂でもよく、特に限定されるものではない。このようなポリビニルアルコール系樹脂としては、株式会社クラレ製のRSポリマーである「RS−110(ケン化度=99%、重合度=1,000)」、同社製の「クラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2,000)」、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1,400)」等を例示することができる。
【0056】
また、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。例えば、酢酸基が数十モル%残存している部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないかまたは酢酸基が残存しない完全ケン化物まで含み、特に限定されるものではない。ただし、ガスバリア性の観点から好ましいケン化度は、80モル%以上、より好ましくは、90モル%以上、さらに好ましくは、95モル%以上であるものを使用することが好ましい。なお、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常、0〜50モル%、好ましくは、20〜45モル%であるものことが好ましい。このようなエチレン・ビニルアルコール共重合体としては、株式会社クラレ製、「エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)」、日本合成化学工業株式会社製、「ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)」等を例示することができる。
【0057】
本発明で使用するガスバリア性組成物は、前記一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、上記のようなポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾル−ゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合して得たガスバリア性組成物である。上記ガスバリア性組成物を調製するに際し、シランカップリング剤等を添加してもよい。
【0058】
本発明で好適に使用できるシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを広く使用することができる。例えば、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適であり、それには、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、あるいは、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を使用することができる。このようなシランカップリング剤は、1種ないし2種以上を混合して用いてもよい。なお、シランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100質量部に対して1〜20質量部の範囲内である。20質量部以上を使用すると、形成されるガスバリア性塗布膜の剛性と脆性とが大きくなり、また、ガスバリア性塗布膜の絶縁性および加工性が低下する場合がある。
【0059】
また、ゾル−ゲル法触媒とは、主として、重縮合触媒として使用される触媒であり、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三アミンなどの塩基性物質が用いられる。例えば、N、N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、その他等を使用することができる。本発明においては、特に、N、N−ジメチルべンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、および、シランカップリング剤の合計量100質量部当り、0.01〜1.0質量部である。
【0060】
また、上記ガスバリア性組成物において用いられる「酸」としては、上記ゾル−ゲル法において、主として、アルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。例えば、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに、酢酸、酒石酸な等の有機酸、その他等を使用することができる。上記酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対し0.001〜0.05モルを使用することが好ましい。
【0061】
更に、上記のガスバリア性組成物においては、上記のアルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モル、好ましくは、0.8から2モルの割合の水をもちいることができる。水の量が2モルを越えると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、更に、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなり、そのような多孔性のポリマーは、ガスバリア性積層フィルムのガスバリア性を改善することができなくなる。また、上記の水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる場合がある。
【0062】
更に、上記のガスバリア性組成物において用いられる有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、その他等を用いることができる。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記アルコキシドやシランカップリング剤などを含む塗工液中で溶解した状態で取り扱われることが好ましく、上記有機溶媒の中から適宜選択することができる。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて使用する場合には、n−ブタノールを使用することが好ましい。なお、溶媒中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体を使用することもでき、例えば、日本合成化学工業株式会社製、商品名「ソアノール」などを好適に使用することができる。上記の有機溶媒の使用量は、通常、上記アルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、酸およびゾル−ゲル法触媒の合計量100質量に対して30〜500質量部である。
【0063】
本発明において、ガスバリア性積層フィルムは、以下の方法で製造することができる。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾル−ゲル法触媒、酸、水、有機溶媒、および、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合し、ガスバリア性組成物を調製する。混合により、ガスバリア性組成物(塗工液)は、重縮合反応が開始および進行する。
【0064】
次いで、基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に、常法により、上記のガスバリア性組成物を塗布し、および乾燥する。この乾燥工程によって、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤およびポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体等の重縮合が更に進行し、塗布膜が形成される。第一の塗布膜の上に、更に上記塗布操作を繰り返して、2層以上からなる複数の塗布膜を形成してもよい。
【0065】
次いで、上記ガスバリア性組成物を塗布した基材フィルムを20℃〜180℃、かつ基材フィルムの融点以下の温度、好ましくは、50℃〜160℃の範囲の温度で、10秒〜10分間加熱処理する。これによって、前記炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に、上記ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を1層ないし2層以上形成したガスバリア性積層フィルムを製造することができる。
【0066】
なお、エチレン・ビニルアルコール共重合体単独、またはポリビニルアルコール系樹脂とエチレン・ビニルアルコール共重合体との両者を用いて得られたガスバリア性積層フィルムは、熱水処理後のガスバリア性に優れる。一方、ポリビニルアルコール系樹脂のみを使用してガスバリア性積層フィルムを製造した場合には、予め、ポリビニルアルコール系樹脂を使用したガスバリア性組成物を塗工して第1の塗布膜を形成し、次いで、その塗布膜の上に、エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物を塗工して第2の塗布膜を形成し、それらの複合層を形成すると、熱水処理後のガスバリア性が向上したガスバリア性積層フィルムを製造することができる。
【0067】
更に、上記エチレン・ビニルアルコール共重合体を含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、または、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体とを組み合わせて含有するガスバリア性組成物により塗布膜を形成し、これらを複数積層しても、本発明に係るガスバリア性積層フィルムのガスバリア性の向上に有効な手段となる。
【0068】
本発明で使用するガスバリア性積層フィルムの製造法について、アルコキシドとしてアルコキシシランを使用し、より詳細に説明する。
ガスバリア性組成物として配合されたアルコキシシランや金属アルコキシドは、添加された水によって加水分解される。加水分解の際には、酸が加水分解の触媒として作用する。次いで、ゾル−ゲル法触媒の働きによって、加水分解によって生じた水酸基からプロトンが奪取され、加水分解生成物同士が脱水重縮合する。このとき、酸触媒により同時にシランカップリング剤も加水分解されて、アルコキシ基が水酸基となる。
【0069】
また、塩基触媒の働きによりエポキシ基の開環も起こり、水酸基が生じる。また、加水分解されたシランカップリング剤と加水分解されたアルコキシドとの重縮合反応も進行する。反応系にはポリビニルアルコール系樹脂、または、エチレン・ビニルアルコール共重合体、または、ポリビニルアルコール系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコール共重合体が存在するため、ポリビニルアルコール系樹脂およびエチレン・ビニルアルコール共重合体が有する水酸基との反応も生じる。なお、生成する重縮合物は、例えば、Si−O−Si、Si−O−Zr、Si−O−Ti、その他等の結合からなる無機質部分と、シランカップリング剤に起因する有機部分とを含有する複合ポリマーである。
【0070】
上記反応において、例えば、下記の式(III)に示される部分構造式を有し、更に、シランカップリング剤に起因する部分を有する直鎖状のポリマーがまず生成する。
【0071】
【化1】

このポリマーは、OR基(エトキシ基などのアルコキシ基)を、直鎖状のポリマーから分岐した形で有する。このOR基は、存在する酸が触媒となって加水分解されてOH基となり、ゾル−ゲル法触媒(塩基触媒)の働きにより、まず、OH基が、脱プロトン化し、次いで、重縮合が進行する。すなわち、このOH基が、下記の式(I)に示されるポリビニルアルコール系樹脂、または、下記の式(II)に示されるエチレン・ビニルアルコール共重合体と重縮合反応し、Si−O−Si結合を有する、例えば、下記の式(IV)に示される複合ポリマー、あるいは、下記の式(V)及び(VI)に示される共重合した複合ポリマーを生じると考えられる。
【0072】
【化2】

【0073】
【化3】

【0074】
【化4】

【0075】
【化5】

【0076】
【化6】

上記の反応は常温で進行し、ガスバリア性組成物は、調製中に粘度が増加する。このガスバリア性組成物を、基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に塗布し、加熱して溶媒および重縮合反応により生成したアルコールを除去すると重縮合反応が完結し、基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の上に透明な塗布膜が形成される。なお、上記の塗布膜を複数層積層する場合には、層間の塗布膜中の複合ポリマー同士も縮合し、層と層との間が強固に結合する。
【0077】
更に、シランカップリング剤の有機反応性基や、加水分解によって生じた水酸基が、基材フィルム、または、基材フィルム上の炭素含有酸化珪素の蒸着膜の表面の水酸基等と結合するため、基材フィルム、または前記炭素含有酸化珪素の蒸着膜表面と、塗布膜との接着性も良好なものとなる。このように、本発明においては、炭素含有酸化珪素の蒸着膜とガスバリア性塗布膜とが、例えば、加水分解・共縮合反応による化学結合、水素結合、あるいは、配位結合などを形成するため、炭素含有酸化珪素の蒸着膜とガスバリア性塗布膜との密着性が向上し、その2層の相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得る。
【0078】
なお、本発明では、添加される水の量をアルコキシド類1モルに対して0.8〜2モル、好ましくは1.0〜1.7モルに調節した場合には、上記直鎖状のポリマーが形成される。このような直鎖状ポリマーは結晶性を有し、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造をとる。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高く分子鎖剛性も高いため、特にガスバリア性(O2、N2、H2O、CO2、その他等の透過を遮断、阻止する)に優れる。特に、N2、CO2ガス等を充填した、いわゆる、ガス充填包装に用いた場合には、その優れたガスバリア性が、充填ガスの保持に極めて有効となる。更に、本発明にかかるガスバリア性積層フィルムは、熱水処理、特に、高圧熱水処理(レトルト処理)に優れ、極めて優れたガスバリア性特性を示す。
【0079】
上記の本発明のガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーターなどのロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイツピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗布手段により、1回あるいは複数回の塗布で、乾燥膜厚が、0.01〜30μm、好ましくは、0.1〜10μm位の塗布膜を形成することができ、更に、通常の環境下、50〜300℃、好ましくは、70〜200℃の温度で、0.005〜60分間、好ましくは、0.01〜10分間、加熱・乾操することにより、縮合が行われ、本発明のガスバリア性塗布膜を形成することができる。
【0080】
(3)離型層
本発明において、ガスバリア性積層フィルムと積層される離型層は、硬化性シリコーン樹脂層である。このような硬化性シリコーン樹脂としては、例えば、付加反応型シリコーン樹脂、縮重合反応型シリコーン樹脂、紫外線硬化性シリコーン樹脂等を好適に使用することができる。
【0081】
付加反応型シリコーン樹脂としては、具体例として、信越化学工業(株)製のKS−774、KS843、KS847、KS847HおよびKS838(いずれも商品名)、東レダウコーニング(株)製SD7226、SD7236およびSRX211(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0082】
縮重合反応型シリコーン樹脂としては、具体例として、東レダウコーニング(株)製SRX290やSYLOFF23(いずれも商品名)が挙げられる。
また、紫外線硬化性シリコーン樹脂としては、具体例として、信越化学工業(株)製X62−5039やX62−5040(いずれも商品名)、東レダウコーニング(株)製BY24−510(商品名)、GE東芝シリコーン(株)製TPR6501、UV9300およびXS56−A2775、東洋インキ(株)製、Y184フルシェードU311(商品名)などが挙げられる。
【0083】
これらの硬化性シリコーン樹脂を、基材フィルム上に形成する方法としては、一般的なコーティング方式を利用することができる。例えば、グラビアコート、グラビアリバースコート、リップコート、ダイコート、マイクログラビアコート、マイヤーバーコートおよび多段リバースコートなどの塗布方式を使用することができる。
【0084】
離型用の硬化性シリコーン樹脂層の塗布厚みは、乾燥後塗布厚で0.02〜1.0μmとすることが好ましく、さらには0.1〜0.5μmとすることがより好ましい。塗布厚みが0.02μm未満では剥離性能が悪くバラツキも多く、また1.0μmを超えると乾燥性が悪くシリコーン移行性も低下することがある。
【0085】
なお、硬化性シリコーン樹脂層とガスバリア性積層フィルムとの密着性を向上させるために、硬化性シリコーン樹脂を塗布する前に、前記ガスバリア性積層フィルムの表面にコロナ処理を施してもよい。
【0086】
(4)医療用離型フィルムの製造方法
本発明の医療用離型フィルムは、予め基材フィルムの一方の面に、炭素含有酸化珪素の蒸着膜を設け、更に、該炭素含有酸化珪素の蒸着膜の面上に、前記ガスバリア性塗布膜を設けたガスバリア性積層フィルムを製造し、次いで、硬化性シリコーン樹脂層をグラビアコーターを用いてコートして製造することができる。なお、前記ガスバリア性積層フィルムが市販されている場合には、市販品を使用することもできる。
【0087】
上記によって調製された本発明の医療用離型フィルムは、厚さが25〜100μm、より好ましくは50〜75μmである。
一方、本発明では、医療用離型フィルムの製造時に、更にエンボス加工を行い、特定模様の凹凸パターンを形成することができる。このようなエンボス加工を医療用離型フィルムに形成するには、例えば、凹凸パターンの鋳型を表面に有するエンボスロールとこのエンボスロールの凹凸を受けるペーパーロールまたは金属ロールとを対向して備えるエンボス加工機、あるいは前記エンボスロールとこのエンボスロールの凹凸形状に対応した表面凹凸をもつ金属ロールとを対向して備えるエンボス加工機に上記医療用離型フィルムを流し、加熱されたエンボスロールによって圧力をかけて、医療用離型フィルムに凹凸パターンを形成する。通常、エンボスロールの加熱温度は、80〜150℃、圧力は40〜100kgf/cmで十分である。なお、エンボスロールを使用せず、平エンボス版を用いて平プレスでエンボス加工をおこなってもよい。
【0088】
本発明によれば、このようなエンボス加工を行った場合であっても、得られる医療用離型フィルムのガスバリア性が維持される。
なお、任意の凹凸形状をエンボス加工によって医療用離型フィルムに形成した場合、医療用離型フィルムは、凹凸パターンの最薄部の厚みが20μm以上であることが好ましい。20μm未満であると剥離性の向上が少なく、エンボス加工の効果が少ない場合がある。
【0089】
本発明の医療用離型フィルムは、天然ゴム系、水系の粘着剤種類に関わらず、薬効剤を含む粘着剤を用いた消炎鎮痛剤(プラスター剤、パップ剤)、皮膚疾患用テープ剤、経皮薬剤、絆創膏等の医療用離型フィルム用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0090】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
(実施例1)
(1) 一方にコロナ処理面を有する厚さ50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、これを図3に示すような3つの製膜室(チャンバー)からなるプラズマ化学気相成長装置に装着した。次に、プラズマ化学気相成長装置のチャンバー内を減圧した。
【0091】
一方、原料である有機珪素化合物であるヘキサメチルジシロキサン(以下、HMDSOという。)を原料揮発供給装置(124、134、144)おいて揮発させ、ガス供給装置(125、135、145)から供給された酸素ガスおよび不活性ガスであるヘリウムと混合させて原料ガスとした。
【0092】
第1の製膜室(120)で使用する原料ガスとして、原料ガスの混合比を、HMDSO:O2:He:Ar=1.0:5.0:3.0:0.4(単位;slm、スタンダードリッターミニット))、製膜出力:11kWとし、また、第2の製膜室(130)で使用する原料ガスとして、原料ガスの混合比を、HMDSO:O2:He:Ar=1.0:3.0:4.0:0.4(単位;slm)、製膜出力:10kWとし、更に、第3の製膜室(140)で使用する原料ガスとして、原料ガスの混合比を、HMDSO:O2:He:Ar=1.0:3.0:4.0:0.4(単位;slm)、製膜出力:10kWとした。
【0093】
上記のような原料ガスを使用し、その原料ガスをそれぞれ第1の製膜室、第2の製膜室、および、第3の製膜室にそれぞれ導入し、次いで、上記の厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムをライン速度150m/minで搬送させながら、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの前記コロナ処理面の上に、第1層、第2層、第3層の膜厚がそれぞれ5nm、総膜厚15nmの3層重層の炭素含有酸化珪素層を製膜化した。
【0094】
次いで、炭素含有酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス(O2):アルゴンガス(Ar)=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-5Torr、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、炭素含有酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させてプラズマ処理面を形成した。
【0095】
(2) 他方、表1に示す組成に従って調製した組成aの混合液に、予め調製した組成bの加水分解液を加えて攪拌し、無色透明のバリアー塗工液を得た。
【0096】
【表1】

上記で製造したバリア性塗工液を使用し、これをグラビアロールコート法により前記(1)のプラズマ処理面上にコーティングし、次いで、200℃で60秒間、加熱処理して、厚さ0.3μm(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成した。
【0097】
(3) 前記(2)のガスバリア性塗布膜面に、ロールコート法を利用して硬化性シリコーン樹脂(信越化学工業(株)製、商品名「KS847」)を塗工し、厚さ0.5μmの硬化性シリコーン樹脂層を形成し、本発明の医療用離型フィルムを製造した。
【0098】
実施例2
実施例1の(1)、(2)と同様に操作した。
(3) 前記(2)のガスバリア性塗布膜面に、ロールコート法を利用して硬化性シリコーン樹脂(東レダウンコーニング(株)製、商品名「SD7236」)を塗工し、厚さ0.5μmの硬化性シリコーン樹脂層を形成し、エンボスロールにより凹凸を形成して、本発明の医療用離型フィルムを製造した。
【0099】
比較例1
(1) 一方にコロナ処理面を有する厚さ50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着して繰り出し、そのフィルムのコロナ処理層にアルミニウムを蒸着源に用いて酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、下記の蒸着条件で膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した。
【0100】
(蒸着条件)
蒸着源:アルミニウム
蒸着チャンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチャンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:25kw
フィルムの搬送速度:240m/min
蒸着面:コロナ処理層上
(2) 前記酸化アルミニウムの蒸着膜の上に、ロールコート法を利用して硬化性シリコーン樹脂(信越化学工業(株)製、商品名「KS847」)を塗工し、厚さ0.5μmの硬化性シリコーン樹脂層を形成し、比較医療用離型フィルムを製造した。
【0101】
比較例2
比較例1の(1)と同様に操作した。
(2) 前記(1)の酸化アルミニウムの蒸着膜の上に、ロールコート法を利用して硬化性シリコーン樹脂(東レダウンコーニング(株)製、商品名「SD7236」)を塗工し、厚さ0.5μmの硬化性シリコーン樹脂層を形成し、エンボスロールにより凹凸を形成して、比較医療用離型フィルムを製造した。
【0102】
評価方法
上記、医療用離型フィルムについて、以下の評価を行った。
(1) ガスバリア性評価:
(i)酸素透過度の測定:
温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、オクストラン(OX−TRAN2/20)〕にて測定した。
【0103】
(ii)水蒸気透過度の測定:
温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、パ−マトラン(PERMATRAN3/31)〕にて測定した。結果を表2に示す。なお、表2において、酸素透過度の単位は、〔cc/m2/day・23℃・90%RH〕であり、水蒸気透過度の単位は、〔g/m2/day・40℃・90%RH〕である。
【0104】
(2) 剥離性評価:
ニチバン製セロハンテープ(巾24mm)を実施例1,2、比較例1、比較例2の医療用離型フィルムの離型層に貼り付け、指で軽く押さえつけてから剥離したときの剥離感を(◎、○、△、×)の4段階で評価した。なお、比較例3として、厚さ50μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの離型性も、併せて評価した。なお、粘着テープとの剥離性において、◎は抵抗感無く良好、○は若干の抵抗感あるが問題ない、△は抵抗感あり、×は抵抗感が強い、を示す。
【0105】
【表2】

(結果)
(1) 実施例2と比較例2に示すように、エンボス加工により離型性が向上することが判明した。
【0106】
(2) CVDによって炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成し、所定のガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を形成した実施例1の医療用離型フィルムと、EBにより酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した比較例1とを比較すると、実施例1の医療用フィルムは、酸素透過度および水蒸気透過度がそれぞれ2〜3倍高いことが判明した。
【0107】
(3) 実施例2と比較例2とを比較すると、比較例2ではエンボス加工によって酸素透過度が1.03から7.13へと大きく低下し、水蒸気透過度も1.16から4.86へと低下するのに対し、実施例2ではエンボス加工による酸素透過度および水蒸気透過度の低下は極めて僅かなものであった。よって、CVDによって炭素含有酸化珪素の蒸着膜を形成し、所定のガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を形成することでエンボス加工による離型性と高いガスバリア性との双方を確保しうることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の医療用離型フィルムは、ガスバリア性および離型性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明に係る医療用離型フィルムの層構成の一例を示す概略的断面図である。
【図2】低温プラズマ化学蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【図3】複数の製膜室を有する低温プラズマ化学蒸着装置の一例を示す概略的構成図である。
【符号の説明】
【0110】
20・・・ガスバリア性積層フィルム、
21・・・基材フィルム、
23・・・炭素含有酸化珪素の蒸着膜、
25・・・ガスバリア性塗布膜、
30・・・硬化性シリコーン樹脂層、
100・・・プラズマ化学気相成長装置、
101・・・基材フィルム、
110・・・基材フィルム供給室、
111・・・巻き出しロール、
120・・・第一製膜室、
121、123、131、133、141、143・・・補助ロール、
122、132、142・・・冷却・電極ドラム、
124、134、144・・・原料揮発供給装置、
125、135、145・・・ガス供給装置、
127、137、147・・・原料供給ノズル
128、138、148・・・グロー放電プラズマ、
129、139、149・・・マグネット、
130・・・第二製膜室、
140・・・第三製膜室、
150・・・巻取り室、
153・・・真空ポンプ、
160・・・電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともガスバリア性積層フィルムと離型層とからなる医療用離型フィルムであって、
前記ガスバリア性積層フィルムは、化学気相成長法により有機珪素化合物を蒸着用モノマーとして供給して基材フィルムの一方の面に炭素含有酸化珪素の蒸着膜を設け、該炭素含有酸化珪素の蒸着膜の面上に一般式R1nM(OR2m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1〜8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けた積層フィルムであり、
前記離型層は、硬化性シリコーン樹脂層である、医療用離型フィルム。
【請求項2】
エンボス模様が形成されたことを特徴とする、請求項1記載の医療用離型フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−248453(P2009−248453A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99372(P2008−99372)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】