説明

医療装置

【課題】 患者に不安感を与えずに治療ないし診断を行うことができる医療装置を提供する。
【解決手段】 アイソセンタ19を通る中心軸線を略水平方向に位置させた状態で立設された略円環形状の支持フレームと、支持フレームに対して相対的に摺動し、アイソセンタ19側に開口部を有する略円環形状の走行ガントリと、アイソセンタ19に向かってビームを出射する照射線出射部と、照射線出射部および走行ガントリ内周側を覆い、走行ガントリと共に走行する保護カバー52とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば放射線治療装置、CT(computed tomography)等の医療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍等の患部に対して放射線(照射線)を照射して治療する医療装置として、定位放射線治療装置が知られている。このような定位放射線治療装置は、同一の患部に対して多方向から放射線を多数回照射するものである。多方向から放射線を照射するためには、患部に照射する放射線を出射する箇所に相当する位置に照射線出射部を設け、この照射線出射部を患者の周囲の複数位置に移動させて位置決め可能とする必要がある。このような照射線出射部を移動させる形式として、カンチレバ型、ロボットアーム型およびガントリ型が知られている。
【0003】
カンチレバ型は、照射線出射部を片持ち梁の形式で支持し、患者の体軸回りに照射線出射部を回転させるものである。ロボットアーム型は、照射線出射部を多軸アームの先端に取り付け、任意の方向から放射線を照射するものである。しかし、カンチレバ型またはロボットアーム型は、梁またはアームの先端に照射線出射部を取り付ける構造となるため、照射線出射部の自重によって梁またはアームが変形してしまい、高精度な位置決め(照射方向設定)が困難となる。
これに対して、ガントリ型は、カウチ上に横臥された患者を包囲するようにガントリを位置させ、このガントリに沿って又はガントリと共に照射線出射部を走行させるようにしたものである。ガントリ型は、剛性が高い門型形状のガントリによって照射線出射部が支持されるため、高精度な位置決めを実現する構造として好ましい。このようなガントリ型の医療装置は、例えば、下記に示した放射線治療装置に関する特許文献1、及び、陽子線治療装置に関する特許文献2に開示されている。
なお、カンチレバ型やガントリ型では照射方向の自由度を上げるために、照射線出射部の単一方向の移動に加えて、患者が横臥したカウチの位置制御(移動および回転)が行われる。
【0004】
【特許文献1】特表平10−511595号公報
【特許文献2】特開平10−71213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の医療装置は、患者に向かって突出した状態で照射線出射部が患者の近傍を回転するため、患者に不安感を与える点で好ましくない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、患者に不安感を与えずに治療ないし診断を行うことができる医療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の医療装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の医療装置は、アイソセンタを通る中心軸線を略水平方向に位置させた状態で立設された略円環形状の支持フレームと、該支持フレームに対して相対的に摺動し、前記アイソセンタ側に開口部を有する略円環形状の走行ガントリと、前記アイソセンタに向かってビームを出射する照射線出射部と、該照射線出射部および走行ガントリ内周側を覆い、走行ガントリと共に走行する保護カバーとを備えている。
【0008】
保護カバーが、照射線出射部を覆っているので、照射線出射部が患者に対して突出して迫り来る印象を与えることがなく、患者に不安感を与えることがない。
なお、ここで走行とは、前記略水平方向に延在する中心軸線を中心とした任意方向に対する回転動作を意味し、連続的に回転を行うこと及び任意角度だけの回転を行うことのいずれも含む。
【0009】
さらに、本発明の医療装置によれば、前記保護カバーは、前記照射線出射部を覆う対向部と、前記中心軸線から見て該対向部の両側に位置する側部とを有する開口部を有し、前記中心軸線から前記対向部までの距離に比べ、前記中心軸線から前記側部までの距離の方が長いことを特徴とする。
【0010】
保護カバーは、対向部よりも中心軸線からの距離が大きくされた側部を備えているので、この側部では大きな空間が形成されることになる。したがって、患者を開口内に位置させた状態であっても、大きな作業空間が確保することができ、例えば技師による患者の患部のアイソセンタに対する位置あわせなどの作業性が向上する。
また、側部に大きく空間を形成しているため、患者を開口内に位置させる際における、患者の不安感や圧迫感を低減させることができる。
更にまた、側部によって大きく形成された空間を利用して、患部の位置確認を行うレーザ光や赤外光を照射することができるので、これらレーザ光や赤外光に対して大きな走査範囲を確保することができる。
【0011】
さらに、本発明の医療装置によれば、前記側部は、平坦部を備えていることを特徴とする。
【0012】
側部に平坦部を備えているので、作業者は作業時に平坦部に手をついて体重の一部を預けた状態で作業を行うことができ、作業性が向上する。特に、平坦部が水平に位置しているときが効果的である。
【0013】
さらに、本発明の医療装置によれば、患者を前記開口の内側に導入する際に、前記保護カバーの前記側部を患者の視線方向に位置させる患者導入モードを備えていることを特徴とする。
【0014】
患者を円形軌道内に導入する際に、患者の視線方向に側部を位置させることとしたので、患者の視線方向には大きな空間が形成されることになり、患者の不安感や圧迫感を更に減少させることができる。
【0015】
さらに、本発明の医療装置によれば、前記保護カバーの外周側には、前記支持フレームに固定された外側カバーが設けられていることを特徴とする。
【0016】
保護カバーに対して外側カバーを配置したことにより、、医療装置において走行動作する機器(照射線出射部など)に接触することがなくなるため、安全性が向上する。また、、機械構造物が直接目に触れることを回避できることから、開口に挿入される患者に対して安心感を与えることができる。更にまた外側カバーを設けることによって、保護カバーとともに医療装置の内部機器を収容することとした。これにより異物・液体等の混入による当該内部機器の健全性阻害を防止することができると共に、内部機器の落下等を生じた際にも一層の安全性を図ることができる。
【0017】
さらに、本発明の医療装置によれば、前記保護カバーは、少なくとも2以上に分割されていることを特徴とする。
【0018】
保護カバーが部分的に取り外し可能とされているので、保守・点検時に保護カバー全体を取り外す必要がない。例えば、頻繁なメンテナンスが必要な照射線出射部に対応する対向部を部分的に取り外し可能としておけば、保守・点検作業が極めて簡便となる。
【0019】
さらに、本発明の医療装置によれば、前記保護カバーには、安全スイッチが設けられていることを特徴とする。
【0020】
保護カバーに安全スイッチが設けられているので、何らかの原因で人や物が接触した場合であっても医療装置を停止することができ、事故を回避することができる。本接触には、走行および旋回動作中の患者と医療装置との接触が例示される。
【発明の効果】
【0021】
保護カバーの形状によって患者が配置される空間において照射線出射部の突出を排除し且つ当該空間を極力広く取ることとしたので、照射線出射部が患者に対して突出して迫り来る印象を与えることがなく、患者に不安感を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
先ず、本実施形態にかかる放射線治療装置の概要を述べた後に、本発明に関連する事項の詳細説明を行うこととする。
【0023】
図1には、本実施形態にかかる放射線治療装置の概略斜視図が示されている。放射線治療装置(医療装置)3は、旋回駆動装置11と、支持フレーム12と、走行ガントリ14と、首振り機構15と、治療用放射線照射装置(照射線出射部)16とを備えている。
【0024】
旋回駆動装置11は、略鉛直方向に延在する旋回軸線17回りに旋回可能に支持フレーム12を支持している。つまり、支持フレーム12は、その下方に位置する旋回駆動装置11のみによって一カ所で支持されている。旋回駆動装置11における旋回制御は、放射線治療装置制御装置(図示せず)によって行われる。
なお、ここで旋回とは、垂直方向に延在する軸を中心とした任意方向に対する回転動作を意味し、連続的に回転を行うこと及び任意角度だけの回転を行うことのいずれも含む。
【0025】
支持フレーム12は、中央に開口を有する略円環形状である。なお、本発明において支持フレーム形状は円環形状に限定されるものではない。長方形形状で中央に開口が設けられているものなどでもよい。このような形状は、支持フレーム12の安定性(重心が低いほど安定性が高い)、健全性(変形性)、旋回に伴う所要スペース等の観点から決めることが望ましい。
【0026】
支持フレーム12は、その中心軸線18を略水平方向に位置させた状態で立設されている。支持フレーム12には、走行ガントリ14が走行可能に支持されている。走行ガントリ14は、支持フレーム12の両側面に設けた円形軌道(図示せず)に沿って支持フレーム12の中心軸線18回りに走行するようになっている。走行ガントリ14の走行中心である中心軸線18と、支持フレーム12の旋回軸線17との交点がアイソセンタ19に相当する。走行ガントリ14の走行制御は、放射線治療装置制御装置(図示せず)によって行われる。
なお、ここで走行とは、前記略水平方向に延在する中心軸を中心とした任意方向に対する回転動作を意味し、連続的に回転を行うこと及び任意角度だけの回転を行うことのいずれも含む。
【0027】
首振り機構15は、走行ガントリ14の内周側に固定され、治療用放射線照射装置16を回動可能に支持している。首振り機構15は、パン軸21およびチルト軸22を有している。パン軸21は、走行ガントリ14に対して固定されており、支持フレーム12の回転軸線18に対して直交している。チルト軸22は、走行ガントリ14に対して固定されており、パン軸21に対して直交している。首振り機構15は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されて、パン軸21を中心に治療用放射線照射装置16を回動させ、チルト軸22を中心に治療用放射線照射装置16を回動させる。このように、治療用放射線照射装置16は、照射角度を制御された状態で治療用放射線23を放射する。
【0028】
治療用放射線照射装置16は、図1において上方から下方へ向かって、加速器、放射線変換ターゲット、マルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator)が順に設けられている(いずれも図示せず)。加速器で加速された電子線は放射線変換ターゲットに入射することで制動放射線(X線)を出射する。本制動放射線は治療計画で立案した形状となるようにマルチリーフコリメータにより設定した開口にて成形される。更に一般には、放射線変換ターゲットの間に、固定型コリメータ、フラットニングフィルタなども配設される。通常、加速器は小型軽量である線形加速器が用いられる。全体を小型軽量にするために、前記各構成要素は本線形加速器の電子線加速方向(加速器の中心軸)に沿って直列に配設される。また、治療用放射線照射装置16は、本加速方向がアイソセンタ19に向かうように設置される。したがって、治療用放射線照射装置16は、略円環形状である走行ガントリ14においてアイソセンタ19に向かって突出する突出状を示すようように設置されることとなる。
【0029】
また、治療用放射線照射装置16は、支持フレーム12に対して走行する走行ガントリ14に支持されているので、首振り機構15で治療用放射線照射装置16がアイソセンタ19に向かうように一日調整されると、支持フレーム12が旋回し、または、走行ガントリ14が走行しても、治療用放射線23は常に概ねアイソセンタ19を通ることになる。
【0030】
放射線治療装置3は、さらに、複数のイメージャシステムを備えている。すなわち、放射線治療装置3は、線源駆動装置37,38と、診断用X線源24,25と、センサアレイ駆動装置27,28と、センサアレイ32,33とを備えている。
【0031】
線源駆動装置37は、走行ガントリ14の内周側に固定され、診断用X線源24を走行ガントリ14に対して支持している。線源駆動装置37は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されて診断用X線源24を走行ガントリ14に対して移動させる。診断用X線源24は、走行ガントリ14の内周側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源24を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源24は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線35を放射する。診断用X線35は、診断用X線源24の1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。
【0032】
線源駆動装置38は、走行ガントリ14の内周側に固定され、診断用X線源25を走行ガントリ14に対して支持している。線源駆動装置38は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されて診断用X線源25を走行ガントリ14に対して移動させる。診断用X線源25は、走行ガントリ14の内周側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源25を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源25は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線36を放射する。診断用X線36は、診断用X線源25の1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。
【0033】
センサアレイ駆動装置27は、走行ガントリ14の内周側に固定され、センサアレイ32を走行ガントリ14に対して支持している。センサアレイ駆動装置27は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてセンサアレイ32を走行ガントリ14に対して移動させる。
センサアレイ駆動装置28は、走行ガントリ14の内側に固定され、センサアレイ33を走行ガントリ14に対して支持している。センサアレイ駆動装置28は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてセンサアレイ33を走行ガントリ14に対して移動させる。
センサアレイ32は、診断用X線源24により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線35を受光して、その被写体の透過画像を生成する。
センサアレイ33は、診断用X線源25により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線36を受光して、その被写体の透過画像を生成する。
センサアレイ32,33としては、例えば、FPD(Flat Panel Detector)やX線II(Image intensifier)が挙げられる。
【0034】
このようなイメージャシステムによれば、センサアレイ32,33は、各々、線源駆動装置37,38により診断用X線源24,25が移動されても、センサアレイ駆動装置27,28により適宜移動されてアイソセンタ19を中心とする透過画像を生成することができる。
【0035】
放射線治療装置3は、さらに、センサアレイ駆動装置26とセンサアレイ31とを備えている。センサアレイ駆動装置26は、走行ガントリ14の内周側に固定され、センサアレイ31を走行ガントリ14に対して支持している。センサアレイ駆動装置26は、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてセンサアレイ31を走行ガントリ14に対して移動させる。センサアレイ31は、治療用放射線照射装置16により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した治療用放射線23を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ31としては、例えば、FPD(Flat Panel Detector)やX線II(Image intensifier)が挙げられる。センサアレイ31は、首振り機構15によって治療用放射線照射装置16が移動されても、センサアレイ駆動装置26により適宜移動されてアイソセンタ19を中心とする透過画像を生成することができる。
【0036】
なお、診断用X線源24は、アイソセンタ19から診断用X線源24を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鈍角になるような位置に配置されることもできる。すなわち、センサアレイ32は、アイソセンタ19からセンサアレイ32を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置される。
同様に、診断用X線源25は、アイソセンタ19から診断用X線源25を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鈍角になるような位置に配置されることもできる。すなわち、センサアレイ33は、アイソセンタ19からセンサアレイ33を結ぶ線分とアイソセンタ19から治療用放射線照射装置16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置される。
このように配置すれば、センサアレイ32,33は、治療用放射線照射装置16から放射される治療用放射線23に照射されにくくなるので、機器の保護の観点から好ましい。
【0037】
なお、線源駆動装置37,38は、それぞれ、診断用X線源24,25を治療用放射線照射装置16に対して支持することもできる。このとき、放射線治療装置3は、首振り機構15により治療用放射線照射装置16が移動されたときでも、治療用放射線照射装置16との相対位置が一定になり、診断用X線源24,25の位置を制御することがより容易になるという利点がある。
【0038】
カウチ41は、治療される患者43が横臥するために用いられる。カウチ41は、図示されていない固定具を備えている。その固定具は、その患者が動かないように、その患者をカウチ41上に固定する。カウチ駆動装置42は、カウチ41を土台に支持し、放射線治療装置制御装置(図示せず)により制御されてカウチ41を支持フレーム12の開口内に導くように移動させる。
【0039】
図2には、上述の放射線治療装置3に対してカバー50を施した斜視図が示されている。
カバー50は、内周側に位置する保護カバー52と、保護カバーの外周側に位置する外側カバー53とを備えている。これら保護カバー52と外側カバー53によって閉じられた空間内に、図1に示した各構成が収納されている。
カバー50の下方には、旋回床55が配置されている。この旋回床55は、旋回駆動装置11による旋回動作に伴って旋回軸線17の周りを回動可能なように、支持フレーム12に対して固定されている。外側カバー53は、本旋回床55に対して下端部が固定されている。したがって、外側カバー53は、旋回床55とともに旋回する。
【0040】
保護カバー52は、中央部に開口57を形成するように構成されている。すなわち、保護カバー52は、アイソセンタ19から見て360°にわたって延在している。
保護カバー52は、走行ガントリ14に固定されている。このため、保護カバー52は、走行ガントリ14の走行動作に伴って、中心軸線18回りを走行する。本保護カバー52は外側カバー53と分離されている。このため、走行ガントリ14の走行動作に対して、外側カバー53は一定位置を保持する。即ち、走行動作に対して、保護カバー52と外側カバー53とは相対的に移動する。このため、保護カバー52と外側カバー53の間に挟まれてしまう事態を回避する安全性担保、及びカバー50内への異物、液体等の混入防止による装置健全性担保のために、これらの合わせ面における隙間は可能な限り小さくすることが好ましく、端部に折り返し処理を施した相互に重なり合う構造であることが望ましい。
【0041】
保護カバー52は、治療用放射線照射装置16およびこれら周辺の各機器を収容する照射カバー部59と、照射カバー部59の両側に位置する側部カバー部61と、照射カバー部59に対向して位置するとともに、センサアレイ31,32,33等を収容するセンサカバー部63とを備えている。
【0042】
照射カバー部59は、治療用放射線装置16に対向して位置する対向部59aと、アイソセンタ19から見て対向部59aの両側に位置する隣接部59bとを備えている。対向部59aの配置は、アイソセンタ19と放射線変換ターゲットとの距離及び放射線治療装置16における放射線変換ターゲット以降の構成要素の全長から決まる。患者43はカウチ41に横臥した後に、開口57内に配される。この際の患者に対する圧迫感を極力低減させるためには、開口57内における空間を極力広く取ることが望ましい。この場合には本対向部59aは、アイソセンタ19からの距離が最も近いこととなる。
【0043】
対向部59a及び隣接部59bは、略直線状に並列に配置されている。すなわち、対向部59a及び隣接部59bは、アイソセンタ19に向かって突出する治療用放射線装置16の突出形状を隠すような面で構成されている。このように、保護カバーが、照射線出射部を覆っているので、照射線出射部が患者に対して突出して迫り来る印象を与えることがなく、患者に不安感を与えることがない。
【0044】
側部カバー部61は、アイソセンタ19からの距離が照射カバー部59よりも大きくされている。これにより、側部カバー部61の内側には、大きな空間を形成することができる。具体的には、患者43を開口57内に配置した際における、技師による患者43の患部位置をアイソセンタ19に位置あわせをする作業を行う際の作業空間を大きくすることが可能になる。このため作業空間の増大による技師による作業性の向上、技師による確認視野の確保による位置あわせ精度向上、更には位置あわせ時の技師とカウチとの接触による設定誤差排除(または設定誤差減少)が可能となる。
【0045】
センサカバー部63には、センサアレイ32,33の受光面側に開口63aが形成されている。当該開口63aにはセンサアレイ32,33を保護するために略均一な肉厚を有する図示しないアクリル板を配することが望ましい。一般に、医療装置のカバー50は曲面形状を有することから、カバー50の肉厚を略一定に制御した製作を行わない。しかし、カバー50に対して中心軸線回りに相対移動するセンサアレイによってカバー50を介して診断用X線を検出した場合、当該カバーでのX線の減衰が位置により異なるため正確な情報を得ることができない。また、本影響を排除するために、カバー50を中心軸線18に直交する面で少なくとも2分割にしてそのつなぎ部を略均一な肉厚材で接続し、当該肉厚材を介したX線検出をする場合が考えられる。この場合、カバー50が固定されている場合には全周に対して当該肉厚材を配置することになり、カバー50自身の強度が低下する。しかし、本実施形態のように、走行ガントリ14と共に走行する保護カバー52に開口63aを設けた構成をとることで、このためカバー50の肉厚分布の影響を受けない低減衰で患者43を通過した診断用X線を検出することが可能になる。このことは曲面形状を有するカバー50の肉厚を略一定に制御する必要がないことから低コストでカバー50を製作できることにも繋がる。
また、当該センサカバー部63は走行動作に伴い走行を行う。このため、任意走行角度に対する診断用X線の検出を、大寸法のセンサアレイにて、カバー50の構造物としての強度を充分確保した上で、対応することが可能になる。このことは、大寸法の面分解能を持って診断用X線の検出が可能になることを意味するため、単一撮影により撮影対象箇所(患部等)を含む広範な領域を評価することが可能になる。
【0046】
側部カバー部61は、センサカバー部63との間に、平坦部65を備えている。このため作業者は、作業時に、この平坦部65に手をついて体重の一部を預けた状態で作業を行うことも可能となり、作業性を向上させることができる。本作業には、技師による患者の患部のアイソセンタに対する位置あわせが例示される。特に、図2に示すように平坦部65が水平に位置しているときが効果的である。
【0047】
上述の照射カバー部59、側部カバー部61、センサカバー部63は、それぞれ個別に
保護カバー52本体に対して取外しができるようになっている。さらに好ましくは、各カバー部59,61,62の一部分が取外しできるようになっている。取外し可能とされた各部分は、カバー50に対して位置決めピン、マジックテープ(登録商標)等の面ファスナ、磁石などで仮位置決めを行い得ることが作業性向上及び取り外し部位の落下防止の観点から望ましい。このように部分的に取外し可能とすることにより、メンテナンス時にカバー50全体を取り外す必要がない。例えば、治療用放射線照射装置16のマルチリーフコリメータは、放射線環境下で使用することから、特にリーフ駆動用モータ(図示せず)の寿命が短い。このため当該部は高頻度で保守・点検を要するが、照射カバー部59を部分的に取り外し可能としておくことにより、保守・点検作業を簡便にすることができ、所要期間の短縮を図り得ることとなる。
【0048】
図3(a)及び(b)には、カバー50を正面視した図が示されている。本図は旋回台55より上部に位置する箇所に相当する。図3(a)に示すように、照射カバー部59が、アイソセンタ19の直上に位置し且つ旋回軸線17方向に対してアイソセンタとの距離が最小となる状態を基準状態とする。この基準状態に対して、保護カバー52を時計回りに90°回転させた状態が図3(b)となる。この状態は、側部カバー部61が上下に位置することになり、上下に大きな空間が形成されることになる。このように上方に大きな空間が形成されるので、カウチ41上に横臥させた患者を開口57へと導く際には、患者に与える圧迫感が減じられるので好ましい。このように、側部カバー部61を上方に位置するモードを患者導入モードとして備えておくと、患者の不安感を低減させることができる。
【0049】
また、図3(b)に示したように側部カバー部61が上方に位置する状態では、大きく形成された上方空間を利用して、患部の位置確認を行うレーザ光や赤外光を照射することができるので、これらレーザ光や赤外光に対して大きな走査範囲を確保することができる。例えば、診断用X線源24,25による患部の診断を行う前の大まかな位置特定を行う際には、放射線治療装置3が設置された居室の天井に固定したレーザ光源や赤外光源からレーザ光や赤外光を照射する場合に有効である。
【0050】
また、旋回駆動装置11によるカバー50の旋回範囲は、カウチ41上に横臥した患者との接触を避けるために、以下のように決定される。
走行ガントリ14と共に走行する保護カバー52の走行位置に応じて、カバー50の旋回範囲が決定される。すなわち、図3(a)のように、アイソセンタ19の両側(即ちカウチ41上に横臥した患者の両側)に側部カバー部61が位置している場合には、カバー50の旋回範囲を大きくするように設定し、図3(b)のように、アイソセンタ19からの距離が最も近い照射カバー部59がアイソセンタの側方(即ちカウチ41上に横臥した患者の側方)に位置している場合には、旋回範囲を小さくするように設定する。このように、保護カバー52の走行位置に応じてカバー50の旋回範囲を決定することにより、患者が保護カバー52の照射カバー部59に接触することがなく、安全な運転が可能となる。
なお、保護カバー52の走行位置とカバー50の旋回範囲の関係は、予めデータベース化しておき、これを参照するようにしても良い。
【0051】
さらに、本実施形態にかかる放射線治療装置3は、患者や技師あるいは物等がカバー50に接触した場合であっても、安全に放射線治療装置3の運転を停止することができる安全スイッチを備えている。安全スイッチに用いるセンサとしては、接触型でも非接触型でも構わない。例えば、タッチセンサ、超音波センサ、赤外線センサ等を用いることができる。また、安全スイッチに用いるセンサは、所定のセンシング範囲が確保できるように、面状とされていることが好ましい。
【0052】
図4には、カバー50の各部分にそれぞれ安全スイッチを設けた具体例が示されている。照射カバー部59の内周端部59cには、例えばカバー50が旋回した際に、患者が接触したことを検出するために安全スイッチが設けられている。
照射カバー部59の内周端部59cよりも外周側に位置する外周部59dには、例えば保護カバー52が走行して照射カバー部59が下方に位置したときに、治療用放射線照射装置16等の内部機器が損傷しないように、作業者や物に接触したことを検出する安全スイッチが設けられている。
側部カバー部61及びセンサカバー部63には、例えばカバー50が旋回した際に、患者が接触したことを検出するために安全スイッチが設けられている。なお、本実施形態のように、照射カバー部59の内周端部59c、側部カバー部61及びセンサカバー部63に設けた安全スイッチは、カバー50の旋回量ごとに人や物に接触する可能性が異なるので、それぞれ別個のものとすることが好ましい。
また、外側カバー部53の側部53aには、作業者が不用意に接触して機器に悪影響を及ぼすことを回避するために安全スイッチが設けられている。
なお、カウチ41に安全スイッチを設けることとして、カウチ側で接触を検出するようにしても良い。
【0053】
上記構成の放射線治療装置3は、以下のように使用される。
先ず、患者43をカウチ41上に横臥させ、保護カバー52の中央に形成された開口57へと導くようにカウチ41を移動させる。この際に、患者導入モードとして保護カバー52を中心軸線回りに走行させ、図3(b)に示すように側部カバー部61を上方に位置させることが好ましい。これにより、患者の視野が広がり、圧迫感が取り除かれるからである。
【0054】
次に、居室の天井に固定されたレーザ光源(図示せず)から患者の患部に向けてレーザ光を照射する。レーザ光源はレーザ光がアイソセンタ19を通過するように設置されている。患者の患部近傍の体表面にはマーカを印してある。マーカとしては十字形状物などが例示される。前記レーザ光が本マーカを照射するように、カウチ41の位置を調整することにより、患者の患部をアイソセンタ19に対して大まかに位置させることができる。この際、技師によってレーザ光の照射位置が目視確認されるが、保護カバー52に設けた平坦部65に技師が手をついて体重の一部を預けた状態で作業を行うことができるので、作業性を向上させることができる。また、上方に位置する側部61によって大きく形成された上方空間を利用することができるので、レーザ光に対して大きな走査範囲を確保することができる。
なお、レーザ光は赤外線光に置換することも可能である。赤外線光は室内灯と波長域が異なるため、室内灯を消灯することなく患部とアイソセンタの位置あわせ作業が可能となる点で優位である。なおこの場合にはマーカからの反射光の検出は赤外線カメラでの位置あわせ調整を行うこととなる。
【0055】
そして、患者の患部がアイソセンタ19に位置するように、診断用X線35,36を用いてカウチ41の位置を制御する。必要に応じて、治療用放射線23が患部を通過するように首振り機構15を制御する。
【0056】
保護カバー52は、治療計画によって決定される照射角度に治療用放射線照射装置16が位置するように中心軸線18回りに走行された後に位置決めされる。この際に、保護カバー52の照射カバー部59の対向部59aおよび隣接部59bによって治療用放射線照射装置16の突出形状が隠されているので、治療用放射線照射装置16が患者に対して突出して迫り来る印象を与えることがなく、患者に不安感を与えることがない。
【0057】
治療用放射線照射装置16が位置決めされた状態で、治療用放射線照射装置16から治療用放射線23が患部に向けて照射される。肺等のように患部が照射時に変位する場合には、治療用放射線23がその変位に追随するように首振り機構15によって治療用放射線照射装置16が動的に駆動される。
【0058】
所定の線量が照射されると、治療用放射線23の照射を停止した後、走行ガントリ14を走行させ、治療計画によって決定される次の照射角度に治療用放射線照射装置16が位置するように位置決めされる。そして、上記と同様に治療用放射線23が患部に向けて照射される。
【0059】
また、必要に応じて、旋回駆動装置11を動作させて支持フレーム12を旋回軸線17回りに旋回させることにより、所望の角度から治療用放射線23を照射する。本旋回機能を具備したことにより、走行ガントリ14の走行機能のみの場合よりも照射方向の自由度が増加する。このときの旋回駆動装置11による旋回範囲は、患者との接触を避けるために、保護カバー52の走行位置に応じて決定されている。ただし、予期せずに患者とカバー50とが接触した場合には、図4に示したいずれかの安全スイッチが作動し、放射線治療装置3の動作が停止される。
【0060】
図5乃至図7には、保護カバー15の中央部に設けた開口57の変形例が示されている。図5に示すように、楕円形状の開口としても良い。同図において、アイソセンタ19の上方に照射カバー部59が設けられている。
また、図6に示すように、照射カバー部59の対向部59bをアイソセンタ19側に僅かに張り出した形状としても良い。このような形状としても、治療用放射線照射装置16の形状が隠れているので、患者に不安感を与えることがない。
また、図7に示すように、照射カバー部59の隣接部59bよりも対向部59bを凹ませた形状としても良い。これにより、アイソセンタ19側に最も突出する診断用X線源24,25以外の部分を凹ませることができ、患者の圧迫感を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態にかかる放射線治療装置の概念を示す概略斜視図である。
【図2】カバーが設置された放射線治療装置を示した斜視図である。
【図3】カバーの正面図であって、(a)は保護カバーの照射カバー部が上方に位置した状態を示し、(b)は保護カバーの側部カバー部が上方に位置した状態を示す。
【図4】カバーに設けた安全スイッチの位置を示した正面図である。
【図5】保護カバーに設けた開口の変形例を示した正面図である。
【図6】保護カバーに設けた開口の変形例を示した正面図である。
【図7】保護カバーに設けた開口の変形例を示した正面図である。
【符号の説明】
【0062】
3 放射線治療装置(医療装置)
18 中心軸線
19 アイソセンタ
50 カバー
52 保護カバー
53 外側カバー
59 照射カバー部
59a 対向部
59b 隣接部
61 側部カバー部(側部)
65 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソセンタを通る中心軸線を略水平方向に位置させた状態で立設された略円環形状の支持フレームと、
該支持フレームに対して相対的に摺動し、該アイソセンタ側に開口部を有する略円環形状の走行ガントリと、
前記アイソセンタに向かってビームを出射する照射線出射部と、
該照射線出射部および走行ガントリ内周側を覆い、走行ガントリと共に走行する保護カバーとを備えたことを特徴とする医療装置。
【請求項2】
前記保護カバーは、前記照射線出射部を覆う対向部と、前記中心軸線から見て該対向部の両側に位置する側部とを備えた開口部を有し、
前記中心軸線から前記対向部までの距離に比べ、前記中心軸線から前記側部までの距離の方が長いことを特徴とする請求項1記載の医療装置。
【請求項3】
前記側部は、平坦部を備えていることを特徴とする請求項2記載の医療装置。
【請求項4】
患者を前記開口の内側に導入する際に、前記保護カバーの前記側部を患者の視線方向に位置させる患者導入モードを備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の医療装置。
【請求項5】
前記保護カバーの外周側には、前記支持フレームに固定された外側カバーが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の医療装置。
【請求項6】
前記保護カバーは、少なくとも2以上に分割されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の医療装置。
【請求項7】
前記保護カバーには、安全スイッチが設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−200090(P2008−200090A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36352(P2007−36352)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】