説明

医薬組成物、DNA、ベクター、形質転換体、ポリペプチド、及びクローニング方法

【課題】EBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる医薬組成物等を提供すること。
【解決手段】本発明の医薬組成物は、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のサブタイプIgG1、IgG4の2種からなるEBVゲノム陰性抗体(TT1+TT2)を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物、DNA、ベクター、形質転換体、ポリペプチド、及びクローニング方法に関し、より詳しくは、EBVウイルスが除去された抗体を用いる製薬技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マウス等の実験動物種の抗体の一部をヒト抗体に置き換えた、キメラ抗体やヒト型化抗体が作製容易な抗体として、実用化されている。しかし、キメラ抗体やヒト型化抗体は、その一部にヒト以外の動物種の抗体が混在するため、ヒト免疫系において抗原として認識される。よって、キメラ抗体やヒト型化抗体を使用した医薬品は、重複投与できない等の欠点を有する。
【0003】
従って、医薬品に使用する抗体としては、重複投与可能な点、更に、抗原に対する親和性が高いという点から、ヒト以外の動物種の抗体が混在しない抗体である完全ヒト抗体が好ましい。
【0004】
従来からの完全ヒト抗体の作製方法としては、EBV−ハイブリドーマ法が挙げられる。この方法によれば、たとえ目的の抗原が未知の場合にも、抗原決定基を有するポリペプチドの合成等を行う必要がないので、迅速に、目的の完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを作製できる(例えば、非特許文献1参照)。従って、完全ヒト抗体を、迅速且つ容易に作製できる。
【0005】
しかし、EBV−ハイブリドーマ法では、ヒトB細胞として、EBVにより形質転換されたものを使用するから、作製された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマにEBVゲノムが残存する。EBVは、欧米では白血病、アジアでは上皮性癌(例えば、上咽頭癌)の原因の一つと考えられている。このため、抗体を製剤化する際には、安全上の観点から、EBVゲノムを除去する必要がある。
【0006】
このような問題に対して、特許文献1は、ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞を用いる抗体作製方法を開示している。
【特許文献1】特開2007−141号公報
【非特許文献1】E.Traggiaiら、「Nature Medicine」、2004年発行、10、p.871〜875
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に示される方法では、作製される抗体の、疾患の治療又は予防に対する効果が不充分である場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、EBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる完全ヒト抗体の作製を可能にするDNA、ベクター、形質転換体、及びポリペプチドを提供することを第一の目的とする。
【0009】
また、本発明は、EBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる完全ヒト抗体で構成された医薬組成物を提供することを第二の目的とする。
【0010】
更に、本発明は、EBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる完全ヒト抗体の作製を可能にするDNAのクローニング方法を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述した完全ヒト化抗体の複数のサブタイプを併用することで、疾病の治療又は予防の効果を飛躍的に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0012】
(1) 以下の(a)から(d)のいずれかのDNA。
(a)ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するEBVゲノム陰性ハイブリドーマから得られ、前記抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNA
(b)塩基配列(a)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)前記抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)塩基配列(a)と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【0013】
(2) 前記抗体は、IgG4サブタイプである(1)記載のDNA。
【0014】
(3) 塩基配列(a)は、配列番号1又は2の塩基配列である(2)記載のDNA。
【0015】
(4) (1)から(3)いずれか記載のDNAを含むベクター。
【0016】
(5) (4)記載のベクターが導入された形質転換体。
【0017】
(6) 複数のサブクラスの前記完全ヒト抗体を発現する(5)記載の形質転換体。
【0018】
(7) 前記複数のサブクラスは、前記完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する抗体群に含まれるものである(6)記載の形質転換体。
【0019】
(8) (1)から(3)いずれか記載のDNAによりコードされるポリペプチド。
【0020】
(9) ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のサブタイプの2種以上からなるEBVゲノム陰性抗体を有効成分とする医薬組成物。
【0021】
(10) 前記EBVゲノム陰性抗体は、ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するEBVゲノム陰性細胞株から得られる抗体である(9)記載の医薬組成物。
【0022】
(11) 前記EBVゲノム陰性抗体は、(8)記載のポリペプチドである(9)記載の医薬組成物。
【0023】
(12) 前記EBVゲノム陰性抗体は、少なくともIgG4サブタイプを含む(9)から(11)いずれか記載の医薬組成物。
【0024】
(13) 破傷風の治療に用いられ、
前記IgG4サブタイプは、配列番号1の塩基配列と、配列番号2の塩基配列と、によってコードされる(12)記載の医薬組成物。
【0025】
(14) 配列番号3の塩基配列と、配列番号3の塩基配列と、によってコードされるIgG1サブタイプを更に含む(13)記載の医薬組成物。
【0026】
(15) ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のIgG4サブタイプを有効成分とし、他のサブタイプの効用を増強する抗体増強剤。
【0027】
(16) 前記効用は破傷風の治療におけるものであり、
前記IgG4サブタイプは、配列番号1の塩基配列と、配列番号2の塩基配列と、によってコードされる(15)記載の抗体増強剤。
【0028】
(17) 抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNAのクローニング方法であって、
ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ、又はこの完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマから抽出されるmRNAを鋳型として、前記抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNAを特異的に増幅する手順を含むクローニング方法。
【0029】
(18) 前記完全ヒト抗体産生ハイブリドーマからmRNAを抽出する(17)記載のクローニング方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、EBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる完全ヒト抗体の作製を可能にするDNA、ベクター、形質転換体、及びポリペプチド、並びにEBVゲノムが除去され且つ疾患を充分に治療又は予防できる完全ヒト抗体で構成された医薬組成物、前述したDNAのクローニング方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0032】
<DNA>
本発明のDNAは、以下の(a)から(d)のいずれかのDNAである。
(a)ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するEBVゲノム陰性ハイブリドーマから得られ、前記抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNA
(b)塩基配列(a)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)前記抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)塩基配列(a)と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【0033】
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖と二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであっても、合成されたDNAであってもよい。
【0034】
塩基配列(a)は、EBV形質転換ヒトB細胞が産生する抗体の重鎖又は軽鎖をコードする。EBV形質転換ヒトB細胞は複数のサブタイプの抗体を産生するのが通常であるところ、塩基配列(a)がコードするのは、いずれかのサブタイプの抗体の重鎖又は軽鎖である。
【0035】
本発明のDNAの最も好ましい態様は塩基配列(a)を有するDNAであるが、本発明のDNAには、更に、塩基配列(a)を有するDNAの種々の変異体やホモログが含まれる。塩基配列(a)の詳細については後述するが、他の抗体の効用を増強できる点で、IgG4サブタイプの重鎖又は軽鎖をコードする配列であることが好ましい。IgG4サブタイプの軽鎖をコードする塩基配列としては配列番号1の塩基配列、IgG4サブタイプの重鎖をコードする塩基配列としては配列番号2の塩基配列が挙げられ、これら塩基配列によってコードされるポリペプチドは破傷風の治療に有用である。
【0036】
塩基配列(a)を有するDNAの変異体やホモログには、例えば、塩基配列(a)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40〜70℃(好ましくは、60〜65℃)で反応を行い、塩濃度15〜300mM(好ましくは、15〜60mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0037】
また、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。筋特異的チロシンキナーゼを活性化する能力を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0038】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
【0039】
更に、塩基配列(a)を有するDNAの変異体やホモログには、塩基配列(a)と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、塩基配列(a)と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0040】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT−PCR法)、ゲノムDNAから調製する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0041】
〔完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ〕
塩基配列(a)の決定には、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ、又はこの完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマが用いられる。これらのハイブリドーマの作製方法の手順について、図1を参照しながら説明する。
【0042】
本発明の完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの作製方法は、融合ミエローマ細胞と、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを得る融合工程(S100)と、この完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを所定回数クローニングするクローニング工程(S200)と、前記クローニングされた完全抗体産生ハイブリドーマからEBVゲノム陰性細胞株を選抜する選抜工程(S300)と、を含む。
【0043】
次に、図2及び図3を参照して、S100で用いられる、融合ミエローマ細胞と、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、の調製手順について説明する。
【0044】
<融合工程>
[ヘテロハイブリドーマの作製]
まず、ヒトミエローマ細胞と、マウスミエローマ細胞と、を細胞融合し、ヘテロハイブリドーマを作製する(S10)。
【0045】
S10においては、ヒトミエローマ細胞、マウスミエローマ細胞としては、自己抗体産生能のない細胞を用いる。更に、ヒトミエローマ細胞、マウスミエローマ細胞のいずれか一方として、例えば、ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシルトランスフェラーゼ(以下、「HGPRT」と表記する。)を欠損した6―チオグアニン耐性株を用いることができる。
【0046】
6―チオグアニンを含有する培地において、生存できることを利用して、後述するS14において、目的のヘテロハイブリドーマを選別できるからである。また、HGPRTは、サルベージ回路経由のヌクレオチド合成に必須な酵素であるため、HGPRT欠損株はヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを含む培地(HAT培地)で生存できないことを利用して、後述するS150において、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを選出できるからである。
【0047】
このようなヒトミエローマ細胞としては、特に限定されないが、通常、例えば、U−266株を挙げることができる。また、このようなマウスミエローマ細胞としては、特に限定されないが、通常、例えばP3X63.Ag8.653株を挙げることができる。
【0048】
これらの細胞株は各々、適当な培地、例えばイスコフ改変ダルベッコ培地(以下、「IMDM培地」と表記する。)に、グルタミン、2−メルカプトエタノール、及びウシ胎児血清を加えた培地(IMDM改良培地)に6―チオグアニンを加えた培地、IMDM改良培地を用いて、継代培養する。そして、後述するS12を行う当日に2×10以上の細胞数を確保しておく。
【0049】
このヒトミエローマ細胞と、マウスミエローマ細胞と、を細胞融合する(S12)。細胞融合の方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合法等の常法を挙げることができ、細胞毒性が比較的少なく融合操作も簡単な点からは、PEG法が好ましい。
【0050】
例えば、PEG法によれば以下の手順となる(S12’[図示はしていない])。
即ち、ヒトミエローマ細胞と、マウスミエローマ細胞と、を、無血清培地(例えば、DMEM)又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でよく洗浄した後、ヒトミエローマ細胞とマウスミエローマ細胞との細胞数の比が1:4〜1:5程度になるように混合し、遠心分離する。遠心後の上清を除去し、沈殿した細胞群を十分にほぐした後、撹拌しながら0.6g/mLのPEG(分子量1000〜4000)を含む無血清培地1mLを滴下する。
【0051】
次いで、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈殿した細胞を、IMDM培地に6―チオグアニンを加えた培地中に懸濁する。この懸濁物を培養用プレート(以下「プレート」という)の各ウェルに分注し、7%炭酸ガスの存在下、適宜6―チオグアニンを含有するIMDM培地を補いながら、37℃で2週間程度培養する。
【0052】
次に、S10を経て得られるヘテロハイブリドーマをクローニングする(S14)。
クローニングの方法としては、プレートの1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個ずつの細胞を取り出し培養する方法、セルソーターによって1個の細胞を分離する方法等を挙げることができる。このうち、操作が簡便な点から、限界希釈法がよく用いられる。
【0053】
そして、抗体を産生していないことを確認できたものを選出する(S16)。これにより、S100において用いることができるヘテロハイブリドーマを、選択的に得ることができる。
【0054】
選出の方法としては、特に限定されないが、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、受身血球凝縮反応法等の公知の方法を挙げることができる。このうち、検出感度、迅速性、正確性等の点からは、ELISA法が好ましい。このELISA法は、一般的な競合法、サンドイッチ法等の手法に従って行うことができ、液相系でも、固相系でも行うことができる。
【0055】
[融合ミエローマ細胞の作製]
このヘテロハイブリドーマと、ヒトB細胞と、を細胞融合し、融合ミエローマ細胞を作製する(S20)。
【0056】
ここで用いるヒトB細胞は、形質細胞又はその前駆細胞(リンパ球)であり、個体のいずれの部位から得てもよく、脾細胞、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、又はこれらを適宜組み合わせたもの等から得ることができる。このうち、採取が容易な点から、末梢血が最も一般的に用いられる。ここで用いるヒトB細胞は、自己抗体産生能のない細胞である。
【0057】
ヘテロハイブリドーマは、例えば、6―チオグアニンを含有するIMDM改良培地等を用いて継代培養し、後述するS22を行う当日に2×10以上の細胞数を確保しておく。
【0058】
ヘテロハイブリドーマがHGPRTを欠損した6―チオグアニン耐性株であった場合、6―チオグアニンを含有するIMDM改良培地を用いることで、目的の融合ミエローマ細胞を選別できる。即ち、融合しなかったヒトB細胞、及びヒトB細胞同士の融合細胞は、培地に6―チオグアニンが含まれているため、生存できないからである。
【0059】
このヘテロハイブリドーマと、ヒトB細胞と、を細胞融合する(S22)。細胞融合は、例えばPEG法によれば、以下の手順となる(S22’[図示はしていない])。
このヘテロハイブリドーマと、ヒトB細胞と、を、無血清培地(例えば、DMEM)又はPBSでよく洗浄し、ヘテロハイブリドーマとヒトB細胞との細胞数の比が1:4〜1:5程度になるように混合し、遠心分離する。遠心後の上清を除去し、沈殿した細胞群を十分にほぐした後、撹拌しながら0.6g/mLのPEG(分子量1000〜4000)を含む無血清培地1mLを滴下する。
【0060】
次いで、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈殿した細胞を、適量のヒトインターロイキン−6(ヒトIL−6)を更に含むウアバインを含有するIMDM改良培地中に懸濁する。この懸濁物をプレートの各ウェルに分注し、7%炭酸ガスの存在下、適宜ウアバインを含有するIMDM改良培地を補いながら、37℃で2週間程度培養する。
【0061】
S22を経て得られる融合ミエローマ細胞をクローニングする(S24)。S24は、S14と同様の手順で行うことができる。
【0062】
そして、抗体を産生していないことを確認できたものを選出する(S26)。これにより、S100において用いることができる融合ミエローマ細胞を、選択的に得ることができる。S26は、S16と同様の手順で行うことができる。
【0063】
このようにして、S100において用いられる融合ミエローマ細胞を得ることができる。この融合ミエローマ細胞の一例として、受託番号がFERM A−20590である融合ミエローマ細胞が寄託されている。
【0064】
[完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞の調製]
完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞を調製する(S30)。
【0065】
完全ヒト抗体を産生するヒトB細胞は、ワクチン接種を受けた又は疾患から回復したボランティア(ヒト)の形質細胞又はその前駆細胞(リンパ球)である。完全ヒト抗体を産生するヒトB細胞は、ボランティアのいずれの部位から得てもよく、一般には脾細胞、リンパ節、骨髄、扁桃、末梢血、又はこれらを適宜組み合わせたもの等から得る(S32)ことができる。なお、採取が容易な点から、末梢血から完全ヒト抗体を産生するヒトB細胞を得ることが、最も一般的である。
【0066】
このヒトB細胞にEBVを感染させることで、形質転換を行う(S34)。
形質転換の方法としては、特に限定されないが、例えば以下の手順を挙げることができる。即ち、放射線照射したフィーダー細胞上で、ヒトB細胞の培養を行う。このヒトB細胞に、EBV陽性マーモセット細胞株B95−8の培養上清中のウイルスを添加し、更にヒトB細胞を培養することで、EBVに感染させる。
【0067】
次いで、EBV形質転換ヒトB細胞をクローニングする(S36)。S36は、図2のS14と同様の手順で行うことができるが、形質転換されたB細胞の増殖を促進するため、ヒトIL−6等の増殖因子を適量添加しつつ、行うことが好ましい。
【0068】
更に、S36を経て得られるクローニングされたEBV形質転換ヒトB細胞から、完全ヒト抗体を産生するヒトB細胞を選出する(S38)。これにより、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞を、選択的に得ることができる。S38は、図2のS16と同様の手順で行うことができる。
【0069】
S38は、例えばELISA法によれば、以下のような手順により行うことができる(S38’[図示はしていない])。
即ち、まず、抗原をELISA法用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)により覆う。次いで、この表面を洗浄した後、一次抗体として、段階希釈した試料に接触させ、上記抗原に試料中の完全ヒト抗体を結合させる。更に、二次抗体として、酵素標識されたヒト抗体に対する抗体を加えて、ヒト抗体に結合させる。洗浄した後、この酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0070】
<完全ヒト抗体産生ハイブリドーマへの細胞融合>
次に、S20を経て得られる融合ミエローマ細胞と、S30を経て得られる完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを得る(S100)。
【0071】
融合ミエローマ細胞は、例えば、6―チオグアニン及びウアバインを含有するIMDM改良培地を用いて継代培養する。完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞は、例えば、IL−6、2−メルカプトエタノール、ウシインスリン、ヒトトランスフェリンを含有するIMDM改良培地を用いて継代培養する。いずれの細胞も、後述するS110を行う当日に2×10以上の細胞数を確保しておく。
【0072】
上記融合ミエローマ細胞がHGPRTを欠損した6―チオグアニン耐性及びウアバイン耐性株であった場合、6―チオグアニン及びウアバインを含有するHAT培地を用いることで、目的のハイブリドーマを選別できる。即ち、融合しなかった完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞、及び完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞同士の融合細胞は、培地に6―チオグアニン及びウアバインが含有されているため、生存できない。一方、融合しなかった融合ミエローマ細胞、及び融合ミエローマ細胞同士の融合細胞は、培地にHATが含まれているため、生存できないからである。
【0073】
この融合ミエローマ細胞と、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合する(S110)。S110は、図2のS12と同様の手順で行うことができる。
【0074】
細胞融合は、例えばPEG法によれば、以下の手順(S110’[図示はしていない])となる。
即ち、融合ミエローマ細胞と、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を、無血清培地(例えば、DMEM)又はPBSでよく洗浄し、融合ミエローマ細胞と完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞との細胞数の比が1:4〜1:5程度になるように混合し、遠心分離する。遠心後の上清を除去し、沈殿した細胞群を十分にほぐした後、撹拌しながら0.6g/mLのPEG(分子量1000〜4000)を含む無血清培地1mLを滴下する。
【0075】
次いで、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離する。再び上清を捨て、沈殿した細胞を、適量のヒトIL−6を更に含み、6―チオグアニン及びウアバインを含有するHAT培地中に懸濁する。この懸濁物をプレートの各ウェルに分注し、5%炭酸ガスの存在下、適宜6―チオグアニン及びウアバインを含有するHAT培地を補いながら、37℃で2週間程度培養する。
【0076】
次に、S110を経て得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマをクローニングする(S130)。S130は、図2のS14と同様の手順で行うことができる。
【0077】
次に、S130を経て得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの中から、抗体産生能及び細胞増殖能が高いものを選出する(S150)。
選出の方法としては、特に限定されないが、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、受身血球凝縮反応法等の公知の方法により抗体産生能が高いものを選出できる。
【0078】
<クローニング工程>
次に、S150を経て選出された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに、後述するS210及びS230を所定回数施す(S200)。
【0079】
S150を経て選出された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを、別のプレートに移しクローニングを行う(S210[図示はしていない])。S210は、図2のS14と同様の手順で行うことができる。
【0080】
S210を経て得られる株(サブクローン)の中から、S150と同様の手順で、抗体産生能及び細胞増殖能が高いことを指標に、次にクローニングを施す株を選出する(S230[図示はしていない])。
【0081】
このようなS210及びS230を所定回数行うことにより、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを得ることができる。
【0082】
<選抜工程>
得られた完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの中から、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを選抜する(S300)。選抜の方法としては、特に限定されないが、例えば、定性的PCR法、定量的PCR法を挙げることができ、これらを併せて行うこともできる。
【0083】
(定性的PCR法)
定性的PCR法によれば、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ内におけるEBVゲノムの存否を確認する(S310[図示はしていない])ことができる。
【0084】
PCRにおいて鋳型となるDNAは、培養された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマから、常法に従って、「QIA amp DNA Mini Kit」(キアゲン社製)等を用いて精製できる(S311[図示はしていない])。
【0085】
増幅させて検出する対象としては、特に限定されないが、検出感度を高めるという点で、例えば、BamHI W領域等の繰り返し配列を有する領域が好ましい。例えば、BamHI W領域は、EBVゲノム中、約12回の繰り返し配列となっており、他の領域に比べて、より多量に増幅することができるからである。
【0086】
定性的PCR法においてBamHI W領域を増幅させるためのプライマーとしては、特に限定されないが、例えば、配列表の配列番号1及び2記載のプライマーを挙げることができる。
【0087】
(定量的PCR法)
定量的PCR法によれば、ハイブリドーマ内におけるEBVゲノムの存否及びコピー数を確認する(S320[図示はしていない])ことができる。S311と同様の手順で、PCRにおいて鋳型となるDNAを精製できる(S321[図示はしてない])。増幅させて検出する対象としては、特に限定されないが、例えば、BALF5(DNAポリメラーゼの遺伝子領域)等の構造遺伝子領域が挙げられる。
【0088】
定量的PCR法においてBALF5領域を増幅させるためのプライマーとしては、特に限定されないが、例えば、配列表の配列番号3及び4記載のプライマーを挙げることができ、プローブとしては配列表の配列番号5記載のプローブを挙げることができる。
【0089】
また、単位細胞当たりのコピー数を定量化するための内部標準としては、特に限定されないが、ヒトグリセルアルデヒド―3―リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)やマウスβ―アクチン等の構造遺伝子領域を挙げることができる。
【0090】
なお、定量的PCRを簡便に行うため、「ABI Prism(登録商標) 7000」(アプライドバイオシステムズ社製)等によるReal−Time PCR法を用いることもできる。
【0091】
〔クローニング方法〕
このようにして作製される、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ又はこの完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマは、通常の培地で継代培養することができ、また液体窒素中で長期間保存できる。このため、これら完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ又はその由来ハイブリドーマを用いることで、塩基配列(a)を有するDNAのクローニング、及び塩基配列(a)の決定を行うことができる。ただし、由来ハイブリドーマの作製は長時間を要することから、迅速にクローニングできる点で、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを用いることが好ましい。
【0092】
その手順を次に示す。まず、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ又はその由来ハイブリドーマからmRNAを抽出し、逆転写することでcDNAを調製する。このcDNAを鋳型とし、重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を挟む既知の保存領域に特異的に結合するプライマーを用いることで、PCR法にて重鎖又は軽鎖の塩基配列を増幅することで、塩基配列(a)を有するDNAが得られ、単離してDNAをクローニングする。また、公知の手順で、塩基配列(a)を決定すれば、この決定された配列に基づいて、塩基配列(b)〜(d)を得ることができる。ここで使用できるプライマーは、既知の保存領域に特異的に結合できる限りにおいて、後述の実施例で使用されるものに限定されない。
【0093】
<ベクター>
本発明のベクターは、前述したDNAを含むものであり、適当なベクターに上述のDNAを挿入することにより作製できる。
【0094】
「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチドを取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11−29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0095】
<形質転換体>
本発明の形質転換体は、前述したベクターを宿主に導入することで作製できる。ここで、形質転換体は、後述する医薬組成物を1種の形質転換体を用いて調製できる点で、複数のサブクラスの完全ヒト抗体を発現することが好ましい。また、複数のサブクラスは、治療効果の向上を保証できる点で、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する抗体群に含まれるものであることが好ましい。なお、このような形質転換体は、複数のベクターを導入することで作製できる。
【0096】
このような宿主は、本発明のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。しかし、発現ベクターを導入しヒトへの使用を目指す限りにおいて、安全性の観点から、動物細胞、特にCOS細胞が好ましく使用される。
【0097】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できるものである。その具体例としては、特に限定されないが、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0098】
<ポリペプチド>
本発明のポリペプチドは、前述したDNAによりコードされるものであり、例えば、前述のDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで作製できる。まず、形質転換体を適宜の条件で培養し、DNAがコードするタンパク質(ポリペプチド)を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、本発明のポリペプチドが得られる。
【0099】
形質転換体の培養は、ポリペプチドが大量に且つ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11−29599号公報参照)。
【0100】
ポリペプチドの単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0101】
<医薬組成物・抗体増強剤>
本発明の医薬組成物は、前述した完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体であって、前述の融合ミエローマ細胞が産生する抗体のサブタイプの2種以上からなるEBVゲノム陰性抗体を有効成分とする。
【0102】
EBVゲノム陰性抗体は、抗体の効用を増強できる点で、IgG4サブタイプを少なくとも含むことが好ましい。特に、破傷風毒素に対するIgG4サブタイプの軽鎖は配列番号1の塩基配列によってコードされ、重鎖は配列番号2の塩基配列によってコードされる。また、これら塩基配列によってコードされるIgG4サブタイプは、配列番号3の塩基配列によってコードされるIgG1軽鎖と、配列番号3の塩基配列によってコードされるIgG1重鎖によって構成されるIgG1サブタイプの効用を特に増強する。このように、本発明で使用される完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のIgG4サブタイプは、他のサブタイプ(例えば、IgG1)の効用を増強する抗体増強剤として作用する。
【0103】
前述の融合ミエローマ細胞が産生する抗体のサブタイプは、抗原抗体反応等を用いて、公知の方法で決定できる。医薬組成物は、決定されたすべてのサブタイプを含有することが好ましいが、製造コスト等を考慮して所望の治療効果が得られる最小の組合せを含有すればよい。なお、各サブタイプの含有量や含有比率は、適宜設定されてよい。
【0104】
EBVゲノム陰性抗体は、例えば、S300を経て選抜された、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマによって産生されてよい。産生の手順は、特に限定されないが、例えば、以下の通りである。まず、S300を経て選抜された、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを、HATを除いたHY培地又はIMDM改良培地に接種し、培養する。次いで、培養後の培養上清を回収する。大量培養をするときは、大型培養瓶を用いた回転培養、スピナー培養、あるいはホローファイバーシステムを用いた培養を行うことができる。比較的高純度の目的抗体を培養上清として得ることができる点で、大量培養は有利である。
【0105】
また、EBVゲノム陰性抗体は、増殖速度が早い形質転換体を用いて迅速且つ大量に製造できる点で、前述したポリペプチドであることが好ましい。
【0106】
抗体産生ハイブリドーマの培養上清及びマウス等の腹水は、そのまま粗製抗体液として用いることができる。また、これらは常法に従って、硫酸アンミモニウム分画、塩析、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAカラムクロマトグラフィー等のアフィニテイクロマトグラフィー等により精製して、精製抗体とすることもできる。
【0107】
本発明の医薬組成物は、経口あるいは非経口(例えば、注射による筋肉への直接投与)で投与できる。投与量は、患者の年齢、性別、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるため、適宜選択すべきものである。
【0108】
「有効成分」とは、神経筋伝達障害の治療用医薬品もしくは予防用医薬品として有効である程度に含まれる成分という意味であって、他の任意成分を含むことを除外するものではない。
【0109】
他の任意成分としては、特に限定されないが、賦形剤、希釈剤、増粘剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝材、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘調剤、溶解補助剤等の担体等が挙げられる。これらの任意成分によれば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トロー剤、エリキシル剤等の様々な形態の医薬組成物を容易に調整できる。
【0110】
<その他>
[記録媒体]
前述したDNAの塩基配列、及び、ポリペプチドのアミノ酸配列は、コンピュータ読み取り可能記録媒体に保存されてよい。この記録媒体によれば、保存されている本発明のポリペプチドのアミノ酸配列、及び、DNAの塩基配列を、コンピュータを用いてデータベース化することができる。このため、このアミノ酸配列や塩基配列を配列情報としても活用できる。
【0111】
記録媒体としては、コンピュータ読み取り可能であれば、特に限定されず、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ等の磁気媒体、CD−ROM、MO、CD−R、CD−RW、DVD−R、DVD−RAM等の光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。
【0112】
[網羅的解析用ツール]
本発明のDNA及びポリペプチド、並びに、これらの部分断片は、基盤上に、担体として結合させた状態で、使用することもできる。本発明のポリペプチドやDNA以外に、更に、他のポリペプチドやDNAを結合させた基盤は、本発明のポリペプチドやDNAを含めた網羅的な解析に使用できる。
【0113】
基盤としては、特に限定されないが、ナイロン膜、ポリプロピレン膜等の樹脂基板、ニトロセルロース膜、ガラスプレート、シリコンプレート等が挙げられる。また、ハイブリダイゼーションの検出を、例えば蛍光物質といった非放射性同位体物質を用いて行う場合、基盤として、蛍光物質を含まないガラスプレート、シリコンプレート等を好ましく使用できる。
【実施例】
【0114】
次に、本発明を実施例及び比較例を挙げて説明する。具体的には、破傷風毒素に対する抗体の作製を行った。
【0115】
<ヒト完全抗体の作製>
破傷風毒素のワクチン接種をしたボランティア(ヒト)から末梢血を採取し、破傷風毒素に対する抗体を産生するヒトB細胞を得た。このヒトB細胞に、B95−8を添加することによりEBVを感染させ、形質転換した。
【0116】
次いで、このEBV形質転換ヒトB細胞を、1U/mLのIL−6を添加しつつ、常法に従って限界希釈法により、クローニングした。そして、クローニングされたEBV形質転換ヒトB細胞から、常法に従ってELISA法により、破傷風毒素に対する完全ヒト抗体の産生が確認されたヒトB細胞を選出した。このようにして、破傷風毒素に対する完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換B細胞(5−11F D11)を得た。
【0117】
受託番号がFERM A−20590として寄託されている融合ミエローマ細胞と、5−11F D11と、を各々、ウアバインを含有するIMDM改良培地、BSA、L−グルタミン、及び2−メルカプトエタノールを含有するIMDM改良培地を用いて、融合当日に2×10以上の細胞数を確保した。
【0118】
この融合ミエローマ細胞と、完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を、DMEMでよく洗浄し、FERM A−20590と5−11F D11との細胞数の比が1:5程度になるように混合し、遠心分離した。遠心後の上清を除去し、沈殿した細胞群を十分にほぐした後、撹拌しながら0.6g/mLのPEG(分子量4000)を含む無血清培地1mLを滴下した。次いで、10mLの無血清培地をゆっくりと加えた後、遠心分離した。再び上清を捨て、沈殿した細胞を、ウアバインを含有するHAT培地中に懸濁した。この懸濁物をプレートの各ウェルに分注し、7%炭酸ガスの存在下、適宜6―チオグアニン及びウアバインを含有するHAT培地を補いながら、37℃で2週間程度培養した。
【0119】
このようにして得られた破傷風毒素に対する完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの中から、ELISA法により抗体産生能が高いもの(1C11、2B5、3C7、4F8、3B7、2G11)を選出し、吸光度が比較的高いもの(1C11、2G11)を細胞増殖能が高いものとして選出した。
【0120】
[クローニング工程]
(第1回目クローニング)
1C11を、別のプレートに移し、プレートの1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈して培養する限界希釈法によりクローニングを行った。クローニングされた株の中から、上述と同様の手順で、抗体産生能が高いもの(1D3、1F10、2E3、2E7)を選出し、更に、細胞増殖能が高いもの(2E7)を選出した。同様に、2G11から1D5及び1C6を選出した。
【0121】
(第2回目クローニング)
2E7を用いて第1回目クローニングと同じ手順でクローニングを行い、クローニングされた株の中から、上述と同様の手順で、抗体産生能が高いもの(1F5、2D4、1B4、1G7)を選出し、更に、細胞増殖能が高いもの(1B4、1G7)を選出し、次のクローニングを施すこととした。
【0122】
同様に、1D5から3C9、1C6から1B6及び2G10を、それぞれ破傷風毒素に対する特異的抗体を持続的に産生し、且つ、安定に増殖するハイブリドーマとして得た。
【0123】
(第3回目クローニング)
1B4、1G7を用いて第1回目クローニングと同じ手順でクローニングを行い、破傷風毒素に対する特異的抗体を持続的に産生し、且つ、安定に増殖する6株のハイブリドーマ(1C4、1F8、2D3、2F11、1B3、2D2)を得た。
【0124】
なお、以上説明した各細胞株の関係は、図4に示す通りである。
【0125】
[選抜工程]
選出したハイブリドーマの中から、定量的PCR法を用いて、EBVゲノムが除去された完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを選抜した。具体的には、これらの6株各々を、10mlのHY培地に接種し、37℃で3日間培養して得られたハイブリドーマ(細胞数5×10)から「QIAamp DNA mini Kit」(キアゲン社製)を用いて精製したDNAを鋳型とし、EBVゲノム内のBALF5領域を増幅可能なプライマー(配列表の配列番号3及び4記載のプライマー)を用いて、「ABI Prism(登録商標) 7000」(アプライドバイオシステムズ社製)等によるReal−Time PCRを行った。また、プローブとして「QuantiTect(登録商標) Probe PCR Kit」(キアゲン社製)を使用し、内部標準としてヒトグリセルアルデヒド―3―リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及びマウスβ―アクチンを用いた。その結果、前述した9株はいずれもEBVゲノムの単位細胞あたりのコピー数が0又は0に限りなく近く、EBVゲノムが除去されていることが分かった(図5参照)。
【0126】
[完全ヒト抗体の調製]
選抜された9株を、各々、500mlのHY培地に接種し、スピナーフラスコ内、37℃で培養した(大量培養)。この培養上清から、常法に従って、プロテインAカラムクロマトグラフィーにより各々の抗体を精製することにより、破傷風毒素に対する完全ヒト抗体を得た。
【0127】
[アイソタイプ及びサブタイプの決定]
この完全ヒト抗体のアイソタイプはサンドウィッチELISAにて決定し、コーティング緩衝液で5000倍希釈したヤギ抗ヒト抗体(IgA、IgG、IgM、重鎖、及び軽鎖)(0301−0231,Cappel社製)をEIAプレート(coster社製)に各ウェル50μlで加え4℃にて一晩コーティングした。破傷風菌毒素特異的抗体の内訳は抗原特異的ELISAを利用し、破傷風トキソイドを0.5μg/mlにコーティング緩衝液で希釈しEIAプレートに各ウェル50μlで加え4℃にて一晩コーティングした。その後、コーティング液を除き、25%ブロックエース添加PBS(−)を各ウェルに100μlずつ加え4℃にて一晩ブロッキングした。「PBS−Tween」(登録商標)150μlで2回洗浄後に一次反応としてハイブリドーマあるいは不死化B細胞集団の10倍希釈培養液を50μlで加え室温にて1時間静置し、その後4回洗浄した。
【0128】
二次抗体としては、それぞれ以下のものを使用した。
IgA;マウス抗ヒトIgA Common Specificity腹水 (BRL, 9458SA)
IgM;マウス抗ヒトIgM (Fab) 腹水 (BRL, 9480SA)
IgG1;ビオチン化マウス抗ヒトIgG1 (クローン: HP6069) (ICN, 63472)
IgG2;ビオチン化マウス抗ヒトIgG2 (クローン: HP6002) (ICN, 63473)
IgG3;ビオチン化マウス抗ヒトIgG3 (クローン: HP6047) (ICN, 63474)
IgG4;ビオチン化マウス抗ヒトIgG4 (クローン: HP6025) (ICN, 63475)
κ鎖;マウス抗ヒト軽鎖-κ腹水 (BRL, 9470SA)
λ鎖;マウス抗ヒト軽鎖-λ 腹水 (BRL, 9490SA)
【0129】
二次抗体がマウス腹水である場合は、二次反応として5000倍希釈した上記抗体を50μl/ウェルで加え室温で1時間静置した。4回洗浄し、三次反応として5000倍希釈のALP標識ヤギ抗マウスIgG+IgM(AMI3705,Biosource社製)を50μl/ウェルで加え室温で1時間静置した。その後4回洗浄し、終濃度1mg/mlのpNPPを100μlずつ加え発色させた。二次抗体がビオチン化抗体である場合は、二次反応として1000倍希釈した上記抗体を50μl/ウェルで加え室温で1時間静置した。4回洗浄し、三次反応として5000倍希釈のALP標識アビジン(9542SA, Gibco BRL社製)を50μl/ウェルで加え室温で1時間静置した。その後、4回洗浄し、基質pNPPを100μlずつ加え発色させた。
【0130】
陽性対照として、一次反応は同上、二次反応は「PBS−Tween」、三次反応抗体として5000倍希釈したALP標識ヤギ抗ヒトIgA、IgM,IgG+L(AHI1705,BIOSOURCE社製)及び5000倍希釈したALP標識ヤギ抗ヒトIgG(4600,TAGO社製)を使用した。また、各反応系において一次反応を培地で行ったものを陰性対照とした。
【0131】
その結果、図4に示されるように、1C4、1F8、2D3、2F11、1B3、及び2D2の6株は、IgG1を産生する細胞株群TT1に属する一方、3C9、1B6、及び2G10の3株は、IgG4を産生する細胞株群TT2に属することが分かった。
【0132】
〔EBVゲノムの除去についての評価〕
(定性的PCR法)
1C4、1F8、2D3、2F11、1B3、2D2、3C9、1B6、2G10及びその作製過程で得られたハイブリドーマ各々について、前述した手順と同じ手順の定性的PCR法により、EBVゲノムの存否を確認した。その結果は、図10の通りであった。
【0133】
図10から、1C11及び2E3を除き、EBVゲノムが、少なくとも検出限界以下にまで、除去されていることが分かった。
【0134】
(定量的PCR法)
1C4、1F8、2D3、2F11、1B3、2D2、3C9、1B6、2G10及びその作製過程で得られたハイブリドーマ各々について、前述した手順と同じ手順の定性的PCR法により、EBVゲノムの存否を確認した。その結果は、図5の通りであった。
【0135】
図5から、1C11、2E3、1F8、2G11、3B7を除き、単位細胞当たりのEBVゲノムコピー数が、0もしくは0とほぼ近似できる程度にまで、除去されていることが分かった。
【0136】
〔完全ヒト抗体についての評価〕
完全ヒト抗体の破傷風毒素に対する中和能に関し、マウスを用いたin vivo試験法で評価を行った。試験の手順は、抗血清等の国家検定等で利用される試験法に則り、L+/100レベルで試験を行った。破傷風毒素500μl及び精製抗体溶液500μlを混合し、室温で30分間静置した。得られた抗体抗原複合体を、4週齢のddYマウス雌(三協ラボサービス社より入手)の左大腿部皮下に、1匹あたり400μl投与した。抗体としては、2D3から精製したもの(TT1のみ)、1B6から精製したもの(TT2のみ)、これらを等量ずつ混合したもの(TT1+TT2)の3種を採用した。
【0137】
マウス1匹あたり投与される毒素量は一律400LD50(LD50とは、母集団の半分が死亡する50%致死量である)とし、マウス1匹あたり投与される抗体溶液を、抗体量が500μg及び125μgとなるように希釈した。検体数は、一群あたり5匹とした。
【0138】
その後24時間おきに記録を採取することで、投与後のマウスの生存率の経時的変化を調べた。図10(a)は抗体量500μgのとき、(b)は抗体量125μgのときの結果をそれぞれ示す。
【0139】
図10に示されるように、TT1群から精製したもの(IgG1)のみ、TT2群から精製したもの(IgG4)のみの投与では、マウス生存率の改善の程度は不充分であった。これに対して、複数のサブタイプ(IgG1、IgG4)を併用した場合には、マウス生存率が長期間に亘って高く維持された。この結果は、EBV形質転換ヒトB細胞が産生する抗体のサブタイプの2種以上からなるEBVゲノム陰性抗体を有効量投与することで、疾患を充分に治療又は予防できることを強く示唆するものである。
【0140】
また、この結果を異なる側面から見れば、細胞群TT2から精製した抗体(IgG4)は、他のサブタイプであり細胞群TT1から精製した抗体(TT1)の効用を増強できることになる。
【0141】
<DNAのクローニング>
〔完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマの使用〕
完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来する2D3及び1B6を用い、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする塩基配列を有するDNAのクローニングを行った。まず、ハイブリドーマから「QuickPrep micro mRNA Purification Kit」(Amersham Biosciences社製)を用いてmRNAを抽出し、このmRNAを鋳型にして、「Superscript II Reverse Transcriptase 」(Invitrogen社製)を用いてcDNAを調製した。実際の調製法は、添付説明書の記載に従った。
【0142】
クローニング及びポリペプチド発現は、Invitrogen社の「GATEWAY」(登録商標)システムを利用した。まず、調製した完全長cDNAをpENTR/D−TOPOベクターに挿入し、クローニングした。重鎖をコードする塩基配列を有するDNAのクローニングは、「Pyrobest DNAポリメラーゼ」(Takara社製)を使用し、94℃にて1分静置した後、94℃にて15秒、56℃にて90秒、68℃にて90秒のサイクルを25回繰り返し、最後に68℃にて5分の伸長反応を行った。プライマーとしては、分泌シグナルの違いにより5’末端側に5種類、3’末端側に共通で1種類の計5種類の組合せを準備した。各プライマーの配列は、以下に示す通りとした。
【0143】
【表1】

【0144】
λ鎖及びκ鎖の伸長は、「KODプラスDNAポリメラーゼ」(Toyobo社製)を使用し、94℃にて1分静置した後、94℃にて15秒、56℃にて30秒、68℃にて45秒のサイクルを35回繰り返し、最後に68℃にて5分の伸長反応を行った。プライマーとしては、分泌シグナルの違いにより5’末端側にκ鎖について2種類、λ鎖について3種類、3’末端側にそれぞれ1種類準備した。プライマーの組合せとしては、κ鎖で2種類、λ鎖で3種類を準備した。各プライマーの配列は、以下に示す通りとした。
【0145】
【表2】

【0146】
クローニングした抗体遺伝子のDNAの塩基配列について、M13フォワードプライマー(5’−G TAAAACGACGGCCAG 3’)及びM13リバースプライマー(5’−CAGGAAACAGCTATGA C−3’)を用い、「ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer」(Applied Biosystems社製)により決定した。この結果、2D3(IgG1)の軽鎖の塩基配列は配列番号3、重鎖の塩基配列は配列番号4の通り、また、1B6(IgG4)の軽鎖の塩基配列は配列番号1、重鎖の塩基配列は配列番号2の通りであることが分かった。
【0147】
TT1群である2D3に由来するDNAは、重鎖5’−4(センス)プライマー及びラムダ5’−3(センス)プライマーの組合せ、TT2群である1B6に由来するDNAは、重鎖5’−5(センス)プライマー及びカッパ5’−1(センス)の組合せ、をそれぞれ使用した場合にのみ増幅が確認された。また、決定した塩基配列に基づき、Kabatデータベースを使用して可変領域のアミノ酸配列を解析した。これにより、2D3に由来する抗体と、1B6に由来するDNAとでは、抗原への結合に重要な相補性決定領域(CD1、CD2、CD3)が大きく異なることが確認された。この結果は、前述のタンパク質レベルで行った試験の結果と一致するものである。
【0148】
〔完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの使用〕
次に、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ1C11及び2G11を用いても、DNAをクローニングできるか否かを確認する試験を行った。まず、クローン1C11及び2G11に関して10細胞から10細胞まで段階的に希釈した細胞懸濁液からmRNAを調製し、このmRNAからcDNAを逆転写した。このcDNAを鋳型としたところ、前述したプライマーの組合せにおいてのみ、DNAの増幅が確認され、完全ヒト抗体産生ハイブリドーマを用いてもDNAをクローニングできることが分かった。また、最小10細胞から調製されるcDNAの量であっても、充分量にまで増幅でき、クローニングできることが分かった(図8(a)参照)。
【0149】
更に、1C11及び2G11の単クローン1〜3を用いて、同様の手順でDNAのクローニングを試みた。この結果を図8(b)に示す。1C11の単クローン2の重鎖DNAのように、mRNAの発現量の低下によると考えられる低増幅効率のクローンも存在したが、単クローンからでも容易にDNAをクローニングできることが明らかになった。
【0150】
〔親和性〕
ハイブリドーマ2D3及び1B6が産生する天然完全ヒト抗体(細胞群TT1又はTT2から精製)、及び同様のアミノ酸配列を有する合成ポリペプチドの、破傷風毒素(TT)及び不活化トキソイド(Ttd)に対する親和性の評価を行った。破傷風毒素としては国立感染症研究所より入手した「T1403−K」を使用し、この毒素を0.5%ホルマリンで処理した毒素を不活化破傷風毒素として使用した。
【0151】
破傷風毒素及び不活化破傷風毒素をコーティング緩衝液にて0.5μg/mlに希釈してコーティング液を調製した。このコーティング液をEIAプレートに各ウェル50μlで加え、4℃で一晩コーティングを行った。コーティング液を除去し、0.5%(w/v)ゼラチン添加PBS(−)を、各ウェルに100μlずつ加え、4℃で一晩ブロッキングを行った。「PBS−Tween」で2回洗浄した後、一次反応として、「PBS−Tween」で抗体又はポリペプチドを1μg/mlから段階的に10倍希釈した希釈液を50μlで加え、室温で1時間静置した。「PBS−Tween」で4回洗浄し、5000倍希釈したALP標識ヤギ抗ヒト抗体(AHI1705,Biosource社製)を加え、更に1時間静置した。4回洗浄した後、基質pNPPを100μlずつ加えて発色させ、ELISAリーダにより吸光度を測定した。この結果を図9に示す。なお、測定は3点で行い、その測定値を平均値±標準偏差で表示する。
【0152】
図9(a)に示されるように、細胞群TT1及びTT2から精製した抗体は、破傷風毒素及び不活化トキソイドに対する親和性に優れることが分かった。一方、破傷風毒素に対する親和性は、細胞群TT1から精製した抗体において非常に高い一方、TT2から精製した抗体において低いことも分かった。また、図9(b)に示されるように、合成ポリペプチドは、天然抗体と同様の親和性を有することが分かった。
【0153】
以上より、細胞群TT2から精製した抗体(IgG4)は、他のサブタイプであり細胞群TT1から精製した抗体(TT1)の効用を増強できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明に係るDNAの作製に使用される完全ヒト抗体産生ハイブリドーマの作製手順のフローチャート。
【図2】本発明で用いられる融合ミエローマ細胞の調整手順のフローチャート。
【図3】本発明で用いられる完全ヒト抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞の調整手順のフローチャート。
【図4】本発明の実施例で得た各細胞株の関係を示す図。
【図5】本発明の実施例における定量的PCR法による解析の結果を示す図。
【図6】本発明の実施例における完全ヒト抗体をマウスに投与したときの、マウス生存率の経時的変化を示すグラフ。
【図7】本発明の実施例における完全ヒト抗体の可変領域アミノ酸配列を示す図。
【図8】本発明の実施例におけるDNAクローニングの結果を示す図。
【図9】本発明の実施例における完全ヒト抗体又はポリペプチドの、破傷風毒素に対する親和性を示すグラフ。
【図10】本発明の実施例における定性的PCR法による解析結果を示す電気泳動図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)から(d)のいずれかのDNA。
(a)ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ、又はこの完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマから得られ、前記抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNA
(b)塩基配列(a)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)前記抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)塩基配列(a)と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【請求項2】
前記抗体は、IgG4サブタイプである請求項1記載のDNA。
【請求項3】
塩基配列(a)は、配列番号1又は2の塩基配列である請求項2記載のDNA。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項4記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項6】
複数のサブクラスの前記完全ヒト抗体を発現する請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
前記複数のサブクラスは、前記完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する抗体群に含まれるものである請求項6記載の形質転換体。
【請求項8】
請求項1から3いずれか記載のDNAによりコードされるポリペプチド。
【請求項9】
ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のサブタイプの2種以上からなるEBVゲノム陰性抗体を有効成分とする医薬組成物。
【請求項10】
前記EBVゲノム陰性抗体は、ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するEBVゲノム陰性細胞株から得られる抗体である請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記EBVゲノム陰性抗体は、請求項8記載のポリペプチドである請求項9記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記EBVゲノム陰性抗体は、少なくともIgG4サブタイプを含む請求項9から11いずれか記載の医薬組成物。
【請求項13】
破傷風の治療に用いられ、
前記IgG4サブタイプは、配列番号1の塩基配列と、配列番号2の塩基配列と、によってコードされる請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
配列番号3の塩基配列と、配列番号3の塩基配列と、によってコードされるIgG1サブタイプを更に含む請求項13記載の医薬組成物。
【請求項15】
ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマが産生する完全ヒト抗体のIgG4サブタイプを有効成分とし、他のサブタイプの効用を増強する抗体増強剤。
【請求項16】
前記効用は破傷風の治療におけるものであり、
前記IgG4サブタイプは、配列番号1の塩基配列と、配列番号2の塩基配列と、によってコードされる請求項15記載の抗体増強剤。
【請求項17】
抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNAのクローニング方法であって、
ヒトミエローマ細胞及びマウスミエローマ細胞を細胞融合して得られたヘテロハイブリドーマに、ヒトB細胞が更に細胞融合され、EBVゲノム陰性であることを指標に選抜されて得られた融合ミエローマ細胞と、ある抗原に対する抗体を産生するEBV形質転換ヒトB細胞と、を細胞融合して得られる完全ヒト抗体産生ハイブリドーマ、又はこの完全ヒト抗体産生ハイブリドーマに由来するハイブリドーマから抽出されるmRNAを鋳型として、前記抗体の重鎖又は軽鎖をコードする塩基配列を有するDNAを特異的に増幅する手順を含むクローニング方法。
【請求項18】
前記完全ヒト抗体産生ハイブリドーマからmRNAを抽出する請求項17記載のクローニング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−253149(P2008−253149A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95380(P2007−95380)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】