説明

医薬組成物およびアルギナーゼを用いる肝炎の処置方法

本発明は、ポリエチレングリコールによって修飾されたヒトアルギナーゼIにより肝炎を処置するための方法、および医薬の製造におけるその使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、医薬組成物およびその使用に関する。好ましい一実施形態では、本発明は、肝炎を処置することができる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
肝炎の処置のための抗ウイルス性薬物は多数あり、以下のものは、最も高頻度に使用されている:(1)インターフェロン:細胞が、ウイルスを直接死滅または抑制するのではなく、細胞表面受容体に対する反応によってその自身の抗ウイルス性タンパク質を産生し、したがって、B型およびC型肝炎ウイルスの複製の抑制をもたらすように誘導する広域抗ウイルス剤。同時に、これは、NK細胞、マクロファージおよびTリンパ球の活性を刺激し、免疫系を調節し、抗ウイルス性能力を増強する。(2)インターロイキン−2:免疫系を調節し、抗ウイルスおよび抗腫瘍能力を有するT細胞成長因子。(3)ヌクレオシド:例えば、アシクロビルは、種々のDNAウイルスの複製を抑制する非環式プリンヌクレオシドである。(4)アラビノシド:インビボおよびインビトロの両方でB型肝炎に対して潜在的に有効であることが示されている。一部の患者は、処置中、異常な生化学および肝臓生検材料の改善を伴うHBV DNAポリメラーゼ潜在(latency)を示す。(5)その他:肝細胞成長促進因子(pHGF)、サイモシン、抗B型肝炎リボ核酸、リバビリン、レバミゾール、レンチナン、ポテンリン(potenline)、フィトヘマグルチニンなど。しかしながら、前述の薬物の有効性は、満足のいくものではなく、これらは、有害な副作用を容易に誘導する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明の概要
前述の背景に鑑み、本発明の目的は、肝炎を処置するためのより有効な医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
好ましい一実施形態では、医薬組成物は、肝炎の処置において患者のアルギニンレベルを選択的に低下させるために提供される。
【0005】
したがって、一態様において、アルギニンを分解する酵素(アルギニン分解酵素)が医薬の調製のために提供される。好ましい一実施形態では、アルギニン分解酵素はアルギナーゼまたはアルギニンデイミナーゼである。また別の実施形態では、アルギニン分解酵素は、単離され実質的に精製された組換えアルギナーゼである。より好ましい実施形態では、本発明のアルギナーゼはヒトアルギナーゼIである。また別のより好ましい実施形態では、本発明のヒトアルギナーゼIは、配列番号1または配列番号2に示すものと同じ核酸配列を含み、前記核酸配列は、配列番号3に示すものと同じアミノ酸配列を含む。また別の実施形態では、本発明の組換えヒトアルギナーゼIは80〜100%純度である。より好ましい実施形態では、本発明の組換えヒトアルギナーゼIは90〜100%純度である。
【0006】
また別の好ましい実施形態では、本発明のアルギナーゼは、患者において少なくとも3日間、「充分なアルギニン奪取」(以下、本明細書において「AAD」という)を維持するのに充分に高い酵素活性および安定性を有するように修飾される。修飾の好ましい方法
の一例は、6ヒスチジンのアミノ末端タグである。また別の好ましい修飾は、酵素の安定性を増大させるため、および患者によって惹起される免疫反応性を最小限に抑えるためのペグ化である。別のより好ましい実施形態では、ペグ化は、少なくとも1種類のポリエチレングリコールに共有結合されたカップリング剤を含む。最も好ましい実施形態では、カップリング剤は、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン(塩化シアヌル、CC)またはスクシニミドプロピオン酸(SPA)である。修飾アルギナーゼは、少なくとも250I.U./mgの比活性を有する。好ましい一実施形態では、比活性は少なくとも300〜350I.U./mgである。最も好ましい実施形態では、比活性は少なくとも500I.U./mgである。別の好ましい実施形態では、前記アルギナーゼは、充分な安定性を有するように、および少なくとも約3日間の血漿または血清半減期を有するように修飾される。
【0007】
また別の好ましい実施形態では、本発明によって調製される医薬は、肝炎を処置するために提供される。より好ましい実施形態では、本発明によって調製される医薬は、B型肝炎を処置するために提供される。
【0008】
別の実施において、単離され実質的に精製された組換えアルギナーゼを含む医薬組成物がさらに提供される。好ましい一実施形態では、80〜100%純度を有する組換えアルギナーゼを含む医薬組成物が本明細書において提供される。また別の好ましい実施形態では、組換えヒトアルギナーゼは、任意のアルギニン分解酵素、例えば、アルギニンデイミナーゼまたはヒトアルギナーゼIである。最も好ましい実施形態では、前記酵素は、配列番号1または配列番号2に示すものと同じアミノ酸配列で本質的に構成され、前記アミノ酸コード配列は、配列番号3に示すものと同じアミノ酸配列を含む。好ましい一実施形態では、前記アルギナーゼは、患者の血漿または血清半減期において、約3日間高い比活性および充分な安定性を有するように修飾される。別の好ましい修飾は、酵素の安定性を増大させ、免疫反応性を最小限に抑えるためのペグ化である。
【0009】
本発明のまた別の態様では、医薬組成物は、患者のアルギニンレベルを低下させるために提供される。好ましい一実施形態では、本発明は、肝炎を調節するためのものである。より好ましい実施形態では、本発明により、B型肝炎を処置することができる。別の実施形態では、本発明の医薬組成物は、固形物、液状物、エマルジョン、懸濁液、小アルブミン凝集体(small albumin aggregate)(SAA)またはリポソームの形態で調製される。また別の好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は、経口または静脈内投与するのに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書で用いる場合、用語「ペグ化されたアルギナーゼ」は、酵素の安定性を増大させるため、および免疫反応性を最小限に抑えるためにペグ化(WO2004/001048を参照)によって修飾された本発明のアルギナーゼIをいう。
【0011】
本明細書で用いる場合、語句「実質的に同じ」は、DNAのヌクレオチド配列、RNAのリボヌクレオチド配列、またはタンパク質のアミノ酸配列のいずれに関して用いる場合も、本明細書に開示する実際の配列に由来する、軽微で重大でない配列バリエーションを伴う配列をいう。実質的に同じ配列を有する種は、開示した配列と均等であるとみなし、したがって、添付の特許請求の範囲の範囲に含まれる。これに関連して、「軽微で重大でない配列バリエーション」は、本明細書に開示および/または特許請求の範囲に記載したDNA、RNAまたはタンパク質と実質的に同じである配列は、本明細書に開示および/または特許請求の範囲に記載した配列と機能的に等価であることを意味する。機能的に等価な配列は、実質的に同様に機能し、本明細書に開示および特許請求の範囲に記載した核
酸およびアミノ酸組成物と実質的に同じ組成物を産生させる。特に、機能的に等価なDNAは、本明細書に開示したものと同じタンパク質、または保存的アミノ酸バリエーション(例えば、別の非極性残基での非極性残基の置換または同様の荷電残基での荷電残基の置換など)を有するタンパク質をコードする。これらの変化としては、当業者によって認識されるものであって、該タンパク質の3次構造を実質的に改変しないものが含まれる。用語「充分に高い酵素活性」は、少なくとも250I.U./mg、好ましくは少なくとも300〜350I.U./mg、より好ましくは少なくとも500I.U./mgの組換えヒトアルギナーゼの酵素比活性をいう。好ましい実施形態では、アルギナーゼは、500〜600I.U./mgの比活性を有する。用語「安定性」は、アルギナーゼのインビトロ安定性をいう。より好ましくは、該安定性は、インビボ安定性をいう。酵素活性の減少速度は、単離され精製された組換えヒトアルギナーゼの血漿中安定性に反比例する。この関係は、血漿中のヒトアルギナーゼの半減期に反映される。
【0012】
本明細書で用いる場合、用語「充分なアルギニン奪取」(AAD)は、10μM以下のインビボアルギニンレベルをいう。用語「半減期」(1/2期)は、ヒト血漿中のアルギナーゼの濃度がインビトロで半分に低下するのに必要とされ得る時間をいう。
【0013】
技術的専門知識および本明細書で用いる用語に関する他のすべての情報は、WO2004/001048およびWO2004/000349に見られ得る。
【0014】
アルギナーゼの抗B型肝炎ウイルス効果を調べるため、本発明では、B型肝炎ウイルス遺伝子でトランスフェクトしたヒト肝臓癌細胞株2.2.15を用いて、アルギナーゼの細胞毒性、アルギナーゼによるHBsAgおよびHBeAg分泌の抑制、ならびにアルギナーゼによるHBV−DNAの抑制を試験する。ラミブジン(GlaxoWellcome,UK)を陽性コントロールとして用い、比較を行なう。結果は、8日間のCPE法の薬物添加後、ペグ化された組換えアルギナーゼのTC50は40IU/mlであり、TC0は20±0IU/mlであることを示す。TC0=20IU/mlを用いた実験の2つのバッチでのHBeAg分泌の抑制割合、IC50およびSIは、それぞれ68.69±8.89、6.37±0.45IU/ml、6.30±0.45である。HBsAg分泌の抑制割合、IC50およびSIは、それぞれ29.81±27.35、10.72IU/ml(実験の一方のバッチのもの)および3.73(実験の一方のバッチのもの)である。培養培地の上清みでのHBV−DNAドットブロットのIC50は13.18±0.45IU/mLであり、選択指数(SI)は3.19±0.98である。細胞におけるHBV−DNA Southern Blot SumのIC50は19.79±7.95IU/mlであり、選択指数は2.91±0.88である。細胞におけるHBV−DNA
Southern Blot In LaneのIC50は、20.06±1.96IU/mlであり、選択指数は2.00±0.20である。陽性コントロールラミブジンのTC50およびTC0は、それぞれ1198.97±97.50および800±0μg/mlである。2.2.15細胞のHBeAgおよびHBsAg分泌は、TC0 800μg/mlのラミブジンとの8日間のインキュベーション後、有意に抑制されない。培養培地の上清みにおけるHBV−DNAドットブロットのIC50は113.76μg/mLであり、選択指数は10.54である。細胞におけるHBV−DNA Southern
Blot SumのIC50は88.78±6.37μg/mLであり、選択指数は13.54±0.97である。複数の実験結果は、公開された文献と一致し、実験は信頼性があることを示す。結果は、アルギナーゼが、HBsAgおよびHBeAgの分泌を有意に抑制し、細胞内でHBV−DNAを低減させることを示す。
【実施例1】
【0015】
材料の調製
1.1 試験対象の薬物
名称:ペグ化組換えヒトアルギナーゼ(BCT−100)(以下、本明細書において「アルギナーゼ」という)。このアルギナーゼは、図1A、1Bおよび1Cに示す核酸配列ならびにその対応するアミノ酸配列を含む。
【0016】
調製:WO2004/001048の明細書中の実施例1〜8を参照されたい。組換えヒトアルギナーゼは、イケモトマサキ教授の研究室(京都大学;住所:日本国606−8507京都府京都市左京区聖護院川原町53)から、WO2004/001048の最も早い出願日前に入手可能である。アルギナーゼは、表示した投薬群に従ってMEM培地で調製する。
【0017】
保存:4℃の冷蔵庫内で保存。
1.2 陽性コントロール:ラミブジン(GlaxoWellcome(UK)製)。バッチ番号:B008923、錠剤1錠あたり100mg、実験中、薬物を培地中に浸漬および溶解させ、遠心分離して沈殿物を除去し、MEM培地で表示した投薬群に従って調製する。保存:4℃の冷蔵庫内で保存。
【0018】
1.3 2.2.15細胞:B型肝炎ウイルスでトランスフェクトしたヒト肝臓癌細胞(Hep G2)の2.2.15細胞株(Mount Sinai Medical Centerにより構築)。輸入し、本発明者らの研究所で培養。
【0019】
1.4 試薬:イーグルMEM粉末、G−418(ジェネティシン)、酵母t−RNA、プロテイナーゼ−K(Gibco,U.S.A.);ウシ胎児血清(Hyclone Lab,U.S.A.);L−グルタミン(Jingke Chemical Reagent Company;HBsAg、HBeAgラジオイムノアッセイ(China Isotope Corporation Beifang Immunoreagent Research Center);カナマイシン(North China Pharmaceutical Group Corporation);ポリエチレングリコール(Fluka,スウェーデン);DMSO(Sigma);d−32p−dCTP(Beijing Yahui Bio Medical Engineering Company)。
【0020】
1.5 器具:培養ボトル(Tunclon TM,デンマーク);96ウェル、24ウェルおよび6ウェルプレート(Corning,U.S.A.);二酸化炭素インキュベータ(Shel−Lab,U.S.A.);γ計数装置(Beckman,ドイツ);スキャナー(Microtek);Gel−Pro解析ソフトウェア(MEDIA Cybemetice(登録商標)。
【0021】
1.6 細胞培養培地および試薬
MEM培地100ml:ウシ胎児血清10%、グルタミン0.03%、G418 380μg/ml、カナマイシン50μg/ml含有
1.7 2.2.15細胞培養物:0.25%トリプシンを、充分成長させた2.2.15細胞の入った培養ボトル内に添加し、10分間37℃で消化させ、培地を添加して分散させる。1:3継代培養、10日後、充分成長
【実施例2】
【0022】
細胞に対するアルギナーゼ毒性の試験
実験をコントロール群および異なる薬物濃度の試験群に分ける。細胞を消化し、200,000細胞/mlに希釈し、培養プレートに移し(96ウェルプレートに100μl/ウェル)、24時間、5%CO下で37℃にてインキュベートし、細胞が単層に成長したときを実験準備完了とする。アルギナーゼを培養培地で40IU/mlに希釈し、20
、10、5、2.5IU/mlに連続希釈し、96ウェルプレート内に添加し(全部で5種類の異なる濃度、1つの濃度あたり3ウェル)、アルギナーゼ溶液を4日毎に交換する(元の同じ濃度で)。細胞病理学的変化を8日間または4日間、顕微鏡下で観察する。完全な破壊を4;75%破壊を3;50%破壊を2,25%破壊を1;変化なしを0とする。Reed−Muench法にしたがってTC50およびTC0を計算する。
【0023】
【数1】

【実施例3】
【0024】
HBeAgおよびHBsAgのアルギナーゼ抑制に関する試験
実験は、HBsAgおよびHBeAg陽性コントロール群、陰性コントロール群、細胞コントロール群および異なる薬物濃度の試験群を有するように設計する。200000細胞/mlの2.2.15細胞を24ウェルプレート上(1ml/ウェル)で成長させ、24時間5%CO下で37℃にてインキュベートする。TC0薬物溶液を、各薬物について5段階の希釈液に連続希釈し(アルギナーゼでは20、10、5、2.5、1.25IU/ml;ラミブジンでは800、400、200、100、50μg/ml、1つの濃度あたり4ウェル)、5%CO下で37℃にてインキュベートし、薬物溶液を4日毎に交換し(同じ濃度で)、第8日に培養培地を取り出し、−20℃で保存する。実験を2バッチで繰り返し、HBsAgおよびHBeAgについて別々に試験する。各ウェルについてγ計数装置を用いてcpm値を確認する。
【0025】
薬物有効性の計算:細胞対照群および異なる薬物濃度群のCpmの平均および標準偏差、P/N値ならびに抑制割合IC50およびSIを計算する。
【0026】
【数2】

【実施例4】
【0027】
2.2.15細胞DNAのアルギナーゼ抑制に関する試験
2.2.15細胞上清みからのHBV−DNAの抽出:200000細胞/mlの2.2.15細胞を24ウェルプレート上(1ml/ウェル)で成長させ、24時間のインキュベーション後に薬物を添加し、薬物溶液を4日毎に交換し(同じ濃度で)、薬物を培養物に添加した日から数えて8日間のインキュベーション後の細胞培養物から上清みを回収し、ポリエチレングリコールで沈殿させ、プロテイナーゼKで消化し、フェノール:クロロホルム:イソペンタノールで抽出し、無水エタノールによる核酸沈殿などの手順を行ない、真空乾燥し、TEバッファー中に再溶解して試料とする。
【0028】
ドットブロット:ドットの配置:20μl試料(25μg DNA含有)を採取し、変性させ、中和し、20×SSCバッファーで1:8希釈までニトロセルロース膜上で連続希釈し、オーブン乾燥し、予備ハイブリダイズさせ、ハイブリダイズさせ、膜を洗浄し、放射能自己曝露(radioactive self exposure)などの手順を行なう。慣用法によりX線フィルムを現像する。現像したフィルムをスキャナーでスキャンし、Gel−Proソフトウェアにより密度を測定し、抑制率(rate)およびIC50を計算する。
【0029】
【数3】

【0030】
サザンブロット:2.2.15細胞からのHBV−DNAの抽出:薬物を添加して2.2.15細胞を8日間インキュベートし、培地を除去して細胞を回収し、細胞を溶解溶液により溶解し、等量のフェノール:クロロホルム:イソペンタノールで2回抽出し、無水エタノールを添加して核酸を沈殿させ、真空乾燥し、20μl TEバッファーに再溶解し、DNA試料バッファーを添加し、試料をアガロースゲルに置いて電気泳動させる。電気泳動後、変性させ、中和し、膜に移す。オーブン乾燥し、ハイブリダイズさせ、同じ回数(the same time)ドットブロットに曝露する。現像したフィルムをスキャナーでスキャンし、Gel−Proソフトウェアにより相対密度を解析し、抑制率およびIC50を計算する。
【0031】
結果
TC50およびTC0を、Reed−Muench法により計算する。上記の式に従ってHBsAgおよびHBeAg抑制を計算する。HBV−DNAのアガロースゲル電気泳動の相対密度を解析することにより、抑制率およびIC50を計算する。
【0032】
1. 2.2.15細胞培養物におけるアルギナーゼ毒性
B型肝炎ウイルス遺伝子でトランスフェクトしたヒト肝臓癌2.2.15細胞に対するアルギナーゼ毒性を観察するため、連続希釈した薬物溶液を、24時間のインキュベーション後の細胞培養物中に添加する。40IU/mlから開始し、続いて20、10、5、2.5IU/mlとし、薬物溶液を4日毎に8日間まで交換し、細胞病理学的変化を顕微鏡下で観察し、CPEを顕微鏡で確認する。結果:CPE法(8日間の薬物投与)によるB型肝炎ウイルス遺伝子でトランスフェクトしたヒト肝臓癌細胞2.2.15細胞におけるアルギナーゼ毒性:2つのバッチ実験において、TC50は40IU/mlであり、TC0は20±0μg/mlである。ラミブジン陽性コントロールでは、TC50は1198.97±97.50μg/mlであり、TC0は800±0μg/mlである(表1A参照)。
【0033】
2. HBeAgおよびHBsAgのアルギナーゼ抑制
TC0濃度のアルギナーゼおよびラミブジンを2.2.15細胞に添加し、8日後のHBsAgおよびHBeAgのcpm値を確認し、薬物抑制の有効性を計算する。実験結果については表2を参照のこと。
【0034】
2.1. HBeAgのアルギナーゼ抑制割合
2つのバッチでのアルギナーゼ実験:TC0 20IU/mlを10、5、2.5および1.25IU/mlに連続希釈し、各濃度の2.2.15細胞を8日間インキュベートする。上清みにおけるHBeAgの平均抑制割合は、20IU/mlで68.69±8.89%抑制;10IU/mlで60.73±17.49%抑制;5IU/mlで53.96±20.36%抑制;2.5IU/mlで51.83±14.16%抑制;1.25IU/mlで37.34%抑制である。平均IC50は6.37±0.45IU/mlであり、SIは6.30±0.45である。
【0035】
2.2 HBsAgのアルギナーゼ抑制割合
第1のバッチでのアルギナーゼ実験:20、10、5、2.5、1.25IU/mlの濃度での8日間のインキュベーション後の2.2.15細胞培養物の細胞培養上清みにおけるHBsAgの抑制割合は、それぞれ49.16%、47.97%、42.29%および37.18%である。IC50は10.72IU/mlであり、SIは3.7.3である。しかしながら、抑制割合は、第2のバッチでは低い。HBsAgに対する抑制割合は50%未満であり、TC0濃度は20IU/mlに等しく、IC50>20IU/mlである。
【0036】
2.3. HBsAgおよびHBeAgに対するラミブジンの効果
ラミブジンをTC0濃度800μg/mlから、それぞれ400、200、100および50μg/mlまで連続希釈し、2.2.15細胞に添加し、8日間のインキュベーション後のHBsAgおよびHBeAgの力価を確認し、抑制の効果を計算する(表1B参照)。
【0037】
2.4. HBeAgのラミブジン抑制割合
800、400、200、100および50μg/mlの濃度のラミブジンとの8日間のインキュベーション後の2.2.15細胞培養物の細胞培養上清みにおけるHBsAgの平均抑制割合は、8.23±3.02%、12.99±0.46%、17.83±2.09%、15.84±2.33%、14.10±1.27%である。有意な抑制は示されていない。
【0038】
2.5. HBsAgのラミブジン抑制割合
800、400、200、100および50μg/mlの濃度のラミブジンとの8日間のインキュベーション後の2.2.15細胞の細胞培養上清みにおけるHBeAgの平均抑制割合は、4.65±6.58%、4.05±5.73%、5.67±4.70%、8.60±4.88%、3.45±3.95%である。有意な抑制は示されていない。
【0039】
【表1】

【0040】
3. 2.2.15細胞培養物の上清みにおけるHBV−DNAのアルギナーゼおよびラミブジン抑制
3.1 2.2.15細胞培養物の上清みにおけるHBV−DNAにおけるアルギナーゼドットブロット
2.2.15細胞培養物の上清みにおけるHBV−DNAに対するアルギナーゼの効果
、8日間のインキュベーション後のHBV−DNAに対する試験溶液の2つのバッチのIC50は、16.04、10.31IU/mlである。平均IC50は13.18±4.05IU/mlであり、SIは2.49、3.88であり、平均は3.19±0.98である。結果については表2を参照のこと。
【0041】
【表2】

【0042】
3.2 2.2.15細胞培養物の上清みにおけるHBV−DNAに対するラミブジンの効果
第1のバッチ実験の2.2.15細胞培養物の上清みにおけるHBV−DNAに対するラミブジンの効果:IC50は113.76μg/mlであり、TC50は1198.97±97.50μg/mlであり、SIは10.54である。表3の結果を参照のこと。
【0043】
【表3】

【0044】
3.3. 2.2.15細胞におけるHBV−DNA Southern Blotのアルギナーゼおよびラミブジン抑制
3.3.1 アルギナーゼによる2.2.15細胞におけるHBV−DNA Southern Blotの抑制
結果は、2.2.15細胞における全HBV−DNA Southern Blotの結果は、添加したアルギナーゼとの8日間のインキュベーション後、完全に抑制されることを示す:実験の2つのバッチのIC50は、25.42、14.17IU/mlであり、平均IC50は19.79±7.95であり、SIはそれぞれ1.57および2.82であり、平均は2.19±0.88である。2.2.15細胞における全HBV−DNA
Southern Blot In Laneの結果:実験の2つのバッチのIC50は21.45、18.67IU/mlであり、平均は20.06±1.96IU/mlであり、SIは1.86、2.14であり、平均は2.00±0.20である。表4の結果を参照のこと。
【0045】
【表4】

【0046】
3.3.2 ラミブジンによる2.2.15細胞におけるHBV−DNA Southern Blotの抑制
結果は、ラミブジンによる2.2.15細胞における全HBV−DNA Southern Blotの抑制効果を示す:実験の2つのバッチのIC50は84.27、93.28μg/mlであり、平均は88.78±6.37μg/mlであり、TC50は1198.97μg/mlであり、SIはそれぞれ14.23および12.85であり、平均は13.54±0.97である(表5参照)。
【0047】
【表5】

【0048】
考察
実験により、8日間の添加薬物のインキュベーション後、B型肝炎ウイルスでトランスフェクトしたヒト肝臓癌細胞2215細胞株に対するアルギナーゼおよび抗B型肝炎ウイルス陽性コントロール薬物ラミブジンの毒性、細胞培養上清みにおけるHBsAgおよびHBeAg分泌(and)の抑制、ならびに細胞におけるHBV−DNAの抑制が観察される。概要については表6を参照のこと。
【0049】
【表6】

【0050】
1. 2.2.15細胞に対するアルギナーゼ毒性
アルギナーゼのTC50は40IU/mlであり、TC0は20±0IU/mlである。
【0051】
陽性コントロールラミブジンのTC50は1198.97±97.50μg/mlであり、TC0は800±0 μg/mlである。
【0052】
2. 2.2.15細胞におけるHBsAgおよびHBeAgの分泌のアルギナーゼおよびラミブジン抑制
TC0 20IU/mlアルギナーゼの4つの濃度を連続希釈し、2.2.15細胞に添加して8日間インキュベートする。HBeAg分泌に関する実験の2つのバッチの平均抑制割合は68.69±8.89%であり、HBeAgに対するIC50は6.37±0.45IU/mlであり、SIは6.30±0.45である。HBsAgの抑制割合は29.81±27.35%であり、HBsAgに対するIC50は、第1のバッチで10.72IU/mlであり、SIは3.73であり第2のバッチで20IU/mlである。
【0053】
抑制割合は50%未満であり、IC50>20IU/mlであり、SI:≦1である。実験の2つのバッチの平均はとらなかった。
【0054】
HBeAgおよびHBsAgについて、2.2.15細胞培養物にTC0 800μg/mlのラミブジンを添加して8日間インキュベートすることによる有意な抑制作用はない。有効濃度の半分およびSIは、計算することができない。
【0055】
3. 2.2.15細胞におけるHBV−DNAのアルギナーゼおよびラミブジン抑制
結果は、薬物を添加して8日間インキュベーションした後の細胞培養物の上清みのHBV−DNA Dot BlotにおけるアルギナーゼのIC50は13.18±4.05IU/mlであり、SIは3.19±0.98であること、8日後のHBV−DNA Southern BlotにおけるIC50は19.79±7.95IU/mlであり、SIは2.19±0.88であること、薬物を添加して8日後のHBV−DNA Dot
Blot In LaneにおけるIC50は20.06±1.96μg/mlであり、SIは2.00±0.20であることを示す。
【0056】
HBV−DNA Dot BlotにおけるラミブジンのIC50は113.76μg/mlであり、SIは10.54である。Southern blotの抑制において、実験の両方のバッチのIC50は84.27および93.28μg/mlであり、平均は88.78±6.37μg/mlであり、TC50は1198.97μg/mlであり、SIは、それぞれ14.23および12.85であり、平均は13.54±0.97である。
【0057】
本明細書で用いる場合および添付の特許請求の範囲において、単数形態「a」および「the」は、本文中で特に明白な記載のない限り、複数の指示対象物を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「単数形の医薬調製物(a pharmaceutical preparation)」に対する言及は、異なる調製物の混合物を含み、「処置方法(the method of treatment)」に対する言及は、当業者などにはわかる均等な工程および方法に対する言及を含む。
【0058】
特に記載のない限り、本明細書で用いるすべての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載したもの類似または同等な任意の方法および材料が本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料を以下に記載する。本明細書に挙げたすべての刊行物は、引用により本明細書に組み込まれ、具体的な情報を記載および開示する。これらの参考文献は、該情報との関連で本明細書に挙げた。本発明を充分に記載したが、その範囲内に含まれる修正は当業者に自明である。かかる修正はすべて、本発明の範囲内に含まれる。
【0059】
本発明の医薬組成物の製剤は、固形物、溶液、エマルジョン、分散液、ミセル、リポソームなどの形態で使用され得、ここで、得られる製剤は、1種類または複数の修飾ヒトア
ルギナーゼを本発明の実施における活性成分として、経腸または非経口適用に適した有機系または無機系の担体または賦形剤との混合物で含有する。活性成分は、アルギナーゼであり得、例えば、錠剤、ペレット剤、カプセル、坐剤、液剤、乳剤、懸濁剤、および固形、半固形または液状形態の調製物の製造における使用に適した任意の他の形態のための通常の無毒性の医薬的に許容され得る担体を伴い得る。助剤に加え、安定剤、増粘剤および着色剤ならびに香料が使用され得る。1種類または複数のアルギナーゼ活性成分が医薬製剤内に、標的となるプロセス、症状または疾患に対して所望の効果をもたらすのに充分な量で含まれる。
【0060】
本明細書において想定する活性成分を含有する医薬製剤は、経口使用に適した形態、例えば、錠剤、トローチ剤、舐剤、水性もしくは油状懸濁剤、分散性の粉剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬質もしくは軟質カプセル、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤などであり得る。経口使用が意図される製剤は、医薬製剤の製造のための当該技術分野で知られた任意の方法に従って調製され得る。錠剤は、コーティングがなくてもよく、胃腸管内での崩壊および吸収を遅延させ、それにより、長時間にわたる持続作用を提供するために、公知の手法によってコーティングしてもよい。該錠剤はまた、制御放出のための浸透圧性治療用錠剤を形成するためにコーティングされ得る。
【0061】
場合によっては、経口使用のための製剤は、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリンなどと混合された硬質ゼラチンカプセルの形態であり得る。該錠剤はまた、活性成分が水または油媒体、例えば、ピーナッツ油、液状パラフィンもしくはオリーブ油と混合された軟質ゼラチンカプセルの形態であり得る。
【0062】
医薬製剤はまた、滅菌された注射用の溶液または懸濁液の形態であり得る。この懸濁液は、適当な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用い、公知の方法に従って製剤化され得る。また、滅菌された注射用調製物は、無毒性の非経口用に許容され得る希釈剤または溶媒中での滅菌された注射用の溶液または懸濁液、例えば、1,4−ブタンジオールの溶液であり得る。滅菌された固定油は、溶媒または懸濁媒体として慣用的に使用されているものである。この目的のため、任意のブランド固定油が使用され得、合成のモノ−もしくはジグリセリド、脂肪酸(オレイン酸など)、天然に存在する植物油、例えば、ゴマ油、ココナッツ油、ピーナッツ油、綿実油など、または合成脂肪族ビヒクル、例えば、オレイン酸エチルなどが挙げられる。緩衝剤、デキストロース溶液、保存剤、抗酸化剤などが、必要に応じて、可溶性酵素を溶解するために溶質として組み込まれるか、または使用され得る。
【0063】
医薬製剤はまた、他の化学療法剤と併用する付加処置であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】図1A、1Bおよび1Cは、ヒトアルギナーゼIの核酸配列および対応するアミノ酸配列である。図1Aは、プラスミド pAB101のEcoRI/MunI部位からXbaI部位までの核酸配列(配列番号1)である。核酸(nt)1〜6はEcoRI/MunI部位;nt 481〜486はプロモーター1の35までの領域;nt 504〜509はプロモーター1の10までの領域;nt 544〜549はプロモーター2の35までの領域;nt 566〜571はプロモーター2の10までの領域;nt 600〜605はリボソーム結合部位;nt 614〜616は開始コドン;nt 632〜637はNdeI部位;nt 1601〜1603、停止コドン;nt 1997〜2002はXbaI部位。
【図1B】図1A、1Bおよび1Cは、ヒトアルギナーゼIの核酸配列および対応するアミノ酸配列である。図1Bは、修飾ヒトアルギナーゼの核酸配列(配列番号2)およびその対応するアミノ酸配列(配列番号3)である。図1Aの核酸614〜1603は、修飾アルギナーゼアミノ酸配列のコード領域である。N末端上の6個のヒスチジン(配列番号4)を下線で示す。翻訳停止コドンに*を付す。
【図1C】図1A、1Bおよび1Cは、ヒトアルギナーゼIの核酸配列および対応するアミノ酸配列である。図1Cは、通常のヒトアルギナーゼIの核酸配列(配列番号8)およびその対応するアミノ酸配列(配列番号9)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝炎の処置のための医薬の製造におけるアルギニン分解酵素の使用。
【請求項2】
前記酵素が、単離され実質的に精製された組換えアルギナーゼである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組換えアルギナーゼの純度が80〜100%である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記組換えアルギナーゼがヒトアルギナーゼIである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記組換えアルギナーゼがアルギニンデイミナーゼである、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記酵素が配列番号1または配列番号2に示すものと実質的に同じ核酸配列を含み、前記核酸配列が配列番号3に示すものと実質的に同じアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
前記酵素が250I.U./mgの比活性を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項8】
前記酵素が、充分な安定性および少なくとも約3日間のインビトロ血漿半減期を有することをもたらす修飾を含む、請求項4に記載の使用。
【請求項9】
前記酵素がペグ化されている、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ペグ化が、カップリング剤を用いた前記アルギナーゼへの少なくとも1種類のポリエチレングリコール(PEG)部分の共有結合により生じる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記カップリング剤が、2,4,6−トリクロロ−s−トリアジン(塩化シアヌル、CC)またはスクシニミドプロピオン酸(SPA)である、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記ヒトアルギナーゼIが、そのアミノ末端に結合した6個のヒスチジンを含む、請求項4に記載の使用。
【請求項13】
前記肝炎がB型肝炎である、請求項1に記載の使用。
【請求項14】
アルギニン分解酵素を含む医薬組成物。
【請求項15】
前記酵素が、単離され実質的に精製された組換えアルギナーゼである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記組換えアルギナーゼの純度が80〜100%である、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組換えアルギナーゼがヒトアルギナーゼIである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記組換えアルギナーゼがアルギニンデイミナーゼである、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記酵素が配列番号1または配列番号2に示すものと実質的に同じ核酸配列を含み、前
記核酸配列が配列番号3に示すものと実質的に同じアミノ酸配列を含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記酵素が250I.U./mgの比活性を有する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記酵素が、患者血漿中で少なくとも3日間の半減期を有する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記酵素が、患者血漿中で少なくとも1日間の半減期を有する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記酵素がペグ化によって修飾されている、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記ヒトアルギナーゼIが、そのアミノ末端に結合した6個のヒスチジンを含む、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記酵素が患者の生理学的アルギニンレベルを低下させる、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記酵素が肝炎を調節する、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記肝炎がB型肝炎である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
前記組成物が、固形物、溶液、エマルジョン、分散液、ミセルまたはリポソームの形態にさらに製造され得る、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記組成物が経口使用または注射に好適である、請求項14に記載の医薬組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【公表番号】特表2008−512399(P2008−512399A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530572(P2007−530572)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【国際出願番号】PCT/CN2005/001411
【国際公開番号】WO2006/026915
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(507074328)康達医藥科技有限公司 (1)
【Fターム(参考)】