説明

医薬組成物

【課題】安全性、安定性、溶解性に優れた注射剤の提供。
【解決手段】酸性セフェム系抗生物質と、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物とを含有してなる医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質として有用な化合物の注射用組成物に関する。詳細には、1)抗生物質の有機酸または無機酸の塩または付加物と2)所定の塩基性化合物とからなる注射用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セフェム系抗生物質では安定性や製造面で利点がある酸性物質の塩または付加物を原薬としていることがある。たとえば臨床上有用に使用される下記式、
【0003】
【化1】

【0004】
で表される塩酸セフォチアム(cefotiam hydrochloride:CTM)、
下記式、
【0005】
【化2】

【0006】
で表される塩酸セフメノキシム(cefmenoxime hemihydrochloride:CMX)および
下記式、
【0007】
【化3】

【0008】
で表される塩酸セフォゾプラン(cefozopran hydrochloride:CZOP)や、
近年臨床上問題となっているMRSA(methicillin resistant S. aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に有効な下記式、
【0009】
【化4】

【0010】
で表される化合物は有機酸または無機酸の塩または付加物として使用される。
【0011】
これらの有機酸または無機酸の塩または付加物を形成している抗生物質は、投与時には刺激性等の問題で酸性の塩または付加物としては投与が困難であり、炭酸ナトリウム等で用時中和もしくはpHを調整して用いるよう製品化されている場合がある。例えば、特開昭53−29936号公報(特許文献1)や特開平1−250322号公報(特許文献2)には炭酸塩を含有する製剤が開示されている。それは、水に難溶性の抗生物質の場合溶解性を高めるため酸性の塩または付加物としていることもあり、前記のような中和等の工程に炭酸ナトリウム等を使用することで、発生する二酸化炭素の攪拌効果により主薬の溶解を促進させる狙いもある。
【特許文献1】特開昭53−29936号公報
【特許文献2】特開平1−250322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、この場合一般には下記の問題がある。
【0013】
1)使用時に中和等することにより二酸化炭素が発生する。注射剤のようにガラスバイアルを用いる場合、内圧が高くなることを防止するために、予め減圧にする等の措置が必要となる。
【0014】
2)中和等時に発生した炭酸ガスが薬液に溶け込み、投与中に溶け込んだ二酸化炭素が徐々にガス化する可能性を払拭できない。
【0015】
従って、二酸化炭素が発生しないか、またはほとんど発生しない医薬製剤の開発が待望されている。
【0016】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、意外にも塩基性アミノ酸を使用するとガラスバイアルを直接容器として用いる場合でも、バイアル内部を予め減圧とする等の措置は不要であり前記の問題が解決できること、また主薬の溶解性の問題も各成分の粒子径バランスをとること及び混合度を高めることにより解決できること、たとえ炭酸塩を配合する場合でも塩基性アミノ酸を共存させることにより炭酸塩の配合量を減らすことでほぼ前記の問題を解決できること等を見出し、これらに基づいて本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、
(1) 酸性セフェム系抗生物質と塩基性化合物とを含有し、中和時に二酸化炭素を発生しない注射剤、
(2) 酸性セフェム系抗生物質が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランまたは式
【0018】
【化5】

【0019】
で表される化合物の、有機酸塩、無機酸塩、有機酸付加物または無機酸付加物である上記(1)記載の注射剤、
(3) 酸性セフェム系抗生物質が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランまたは式
【0020】
【化6】

【0021】
で表される化合物の塩酸塩である上記(1)記載の注射剤、
(4) 塩基性化合物が、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物である上記(1)記載の注射剤、
(5) 塩基性化合物がアルギニンである上記(1)記載の注射剤、
(6) 酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.1重量部以上である上記(1)記載の注射剤、
(7) 酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.2重量部以上である上記(1)記載の注射剤、
(8) 酸性セフェム系抗生物質に対して0.5〜7当量の塩基性化合物を含有する上記(1)記載の注射剤、
(9) 中和後のpHが3.5〜9.5である上記(1)記載の注射剤、
(10) 酸性セフェム系抗生物質が粉末である上記(1)記載の注射剤、
(11) 酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質がそれぞれ粉末であり、それらが混合されている上記(1)記載の注射剤、
(12) 酸性セフェム系抗生物質の粉末の平均粒子径が約200μm以下である上記(10)または(11)記載の注射剤、
(13) 塩基性物質の粉末の平均粒子系が約20μm〜約200μmである上記(11)記載の注射剤、
(14) 酸性セフェム系抗生物質の粉末の平均粒子径が約200μm以下であり、塩基性物質の粉末の平均粒子系が約20μm〜約200μmである上記(11)記載の注射剤、
(15) 塩基性化合物の粉末が、そのERH以下の低湿環境下で粉砕されて得られた粉末である上記(11)記載の注射剤、
(16) バイアル製剤またはキット製剤である上記(1)記載の注射剤、
(17) (i)酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質の混合粉末が封入されている部屋と、(ii)注射用の生理食塩液またはブドウ糖液が封入されている部屋とを有し、当該2部屋が用時に開通されるキット製剤である上記(12)記載の注射剤、
(18) 酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.1重量部以上である上記(16)記載の注射剤、
(19) 酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質が生理食塩液中またはブドウ糖液中に溶解している上記(1)記載の注射剤溶液、
(20) 凍結して保管され、用時に解凍される上記(19)記載の注射剤溶液、
(21) 約−80℃〜約0℃の温度で保管される上記(20)記載の注射剤溶液、
(22) (i)酸性セフェム系抗生物質、(ii)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物、ならびに(iii)NaHCO3またはNa2CO3を含有し、中和時にほとんど二酸化炭素を発生しない注射剤、
(23) 酸性セフェム系抗生物質を塩基性化合物で中和する方法であって、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物を用いることを特徴とする方法に関する。
【0022】
さらに、本発明は、
(1’) 酸性セフェム系抗生物質と、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物とを含有してなる医薬製剤、
(2’) 1)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0023】
【化7】

【0024】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物と、2)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物とからなり、かつ少なくとも当該1)で選ばれた1または2以上の化合物が粉末の状態であることを特徴とする用時溶解型の注射剤、
(3’) 前記1)で選ばれた1または2以上の化合物および前記塩基性化合物が粉末の状態でいっしょに包装された前記(2’)記載の注射剤、
(4’) 用時溶解時に二酸化炭素を発生しない前記(1’)または(2’)記載の剤、
(5’) 前記塩基性化合物の配合量が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0025】
【化8】

【0026】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物1重量部に対し0.1重量部以上である前記(2’)記載の注射剤、
(6’) 前記塩基性化合物の配合量が、0.2重量部以上である前記(5’)記載の注射剤、
(7’) セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0027】
【化9】

【0028】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の平均粒子径が約200μm以下である前記(2’)記載の注射剤、
(8’) 前記塩基性化合物の平均粒子径が約20μm〜200μmである前記(3’)記載の注射剤、
(9’) セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0029】
【化10】

【0030】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物に対して前記塩基性化合物を0.5〜7当量使用する前記(2’)記載の注射剤、
(10’) 無機酸塩が塩酸塩である前記(2’)記載の注射剤、
(11’) 前記塩基性化合物がアルギニンである前記(2’)記載の注射剤、
(12’) 用時溶解したときの水溶液のpHが3.5〜9.5となるよう調製された1)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0031】
【化11】

【0032】
表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物と、2)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物とからなる医薬製剤、
(13’) バイアル製剤またはキット製剤である前記(2’)または(12’)記載の剤、
(14’) 注射剤を用時調製する場合において、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0033】
【化12】

【0034】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の水溶液のpHを、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物で調整する方法、
(15’) 1)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0035】
【化13】

【0036】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の粉末および2)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物の粉末が充填された部屋と、注射用の生理食塩液またはブドウ糖液が充填された部屋とを有し、両室を用時開通して用いるキット製剤、
(16’) セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0037】
【化14】

【0038】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の平均粒子径が約200μm以下であり、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物の平均粒子径が約20μm〜200μmである前記(15’)記載の製剤、
(17’) 前記塩基性化合物の配合量が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0039】
【化15】

【0040】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物1重量部に対し0.1重量部である前記(15’)記載の製剤、
(18’) 1)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0041】
【化16】

【0042】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物、2)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物および3)NaHCOまたはNaCOからなり、かつ少なくとも当該1)で選ばれた1または2以上の化合物が粉末の状態であることを特徴とする用時溶解型の注射剤、
(19’) 1)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび式
【0043】
【化17】

【0044】
で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物と2)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物とを含有する生理食塩液またはブドウ糖液からなる注射剤、
(20’) 凍結して保管され、用時解凍して用いられる前記(19’)記載の注射剤、
(21’) 約−80℃〜約0℃に保持された前記(19’)記載の注射剤、
(22’) 前記塩基性化合物がその化合物のERH(Equilibrium relative humidity(平衡相対湿度))以下の低湿環境下で粉砕され、配合される前記(3’)記載の注射剤、および
(23’) 酸性セフェム系抗生物質と、塩基性化合物とを含有し、用時溶解時に二酸化炭素を発生しない医薬製剤等に関する。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、安全性、安定性、溶解性すべてを満足した二酸化炭素を発生しないかほとんど発生しない注射用抗生物質製剤を得ることができ臨床上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下本発明の内容を詳細に説明する。
【0047】
酸性セフェム系抗生物質とは、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび下記式
【0048】
【化18】

【0049】
で表される化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物等、注射用精製水に溶解したときに酸性を示すセフェム系抗生物質が用いられる。
【0050】
有機酸または無機酸とは、好ましくは薬学上許容されるものであって特に限定されないが、例えば有機酸としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等;無機酸としては塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等を用いることができる。好ましくは塩酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸等である。
【0051】
酸の塩または付加物であり、酸と塩を構成してもよいし、酸が単なる付加物となっていてもよい。
【0052】
本発明に用いられる塩基性化合物としては、(1)塩基性アミノ酸等の有機塩基類、ならびに(2)炭酸塩類以外の無機塩基類が挙げられる。塩基性アミノ酸としては、例えばアルギニン、リシン、ヒスチジン、オルニチン等を用いることができる。中でも、好ましくはアルギニンである。D−体、L−体どちらも用いることができるがL−体が好ましい。炭酸塩類以外の無機塩基類としては、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、水酸化ナトリウム、メグルミン等を用いることができる。中でも、好ましくはリン酸三ナトリウムである。
【0053】
粉末の状態とは砕けて細かくなったものをいい、結晶でも非晶質でもよい。
【0054】
用時溶解型の注射剤とは、特に限定されないが好ましくはバイアル製剤または点滴用バッグ製剤等のキット製剤である。
【0055】
本願発明において、主薬としての抗生物質と前記塩基性化合物は、それぞれを粉末として混合し、溶解液と別に包装しておいてもよく、また前記塩基性化合物を含む溶解液と主薬としての抗生物質とを別に包装しておいてもよく、さらに主薬としての抗生物質、前記塩基性化合物および溶解液をそれぞれ別に包装して提供し、用時三者を混合して用いてもよく、特に限定されない。少なくとも主薬としての抗生物質が粉末で提供されることが好ましい。
【0056】
用時溶解用製剤として提供される場合、一体成型された二つの部屋からなるバッグの1室に抗生物質と前記塩基性化合物を封入し、他方の部屋に溶解液としての生理食塩液またはブドウ糖液を封入し、両部屋の隔壁を用時容易に開通できるよう構成し、用時両者を混合し溶解して用いることのできる製剤とすることが好ましい。また、前記塩基性化合物を予め生理食塩液またはブドウ糖液に溶解した形態とすることもできる。更に、当該バッグに3室を構成し、それぞれに抗生物質、前記塩基性化合物または溶解液を充填し、用時各部屋の隔壁を容易に開通させることができるような形態で製剤化することもできる。
【0057】
さらには抗生物質と前記塩基性化合物が溶解された注射液を、冷凍または凍結保存し、用時解凍等して用いる製剤とすることもできる。この場合の保存温度は約−80℃〜約0℃が好ましく、凍結していることが好ましい。
【0058】
溶解液としては、生理食塩液やブドウ糖液が好ましい。
主薬に対する溶解液の使用量は特に限定されないが、例えば点滴静注製剤の場合主薬1g(力価)に対して例えば100mLを用いることができる。
【0059】
前記塩基性化合物の配合量は、塩を形成もしくは付加した酸の種類や、酸の当量によっても異なるが、通常1)酸性セフェム系抗生物質または2)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩を形成したものまたは付加したもの1重量部に対し、0.1重量部以上が用いられる。好ましくは0.1〜1.5重量部である。さらに好ましくは0.2重量部〜1重量部である。
【0060】
前記塩基性化合物の配合当量は、塩を形成もしくは付加した酸の種類や、酸の当量によっても異なるが、通常1)酸性セフェム系抗生物質または2)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩を形成したものまたは付加したもの1当量に対し、0.5〜7当量用いることができる。好ましくは0.8〜6当量、より好ましくは1〜5当量、さらに好ましくは1.3〜4当量であり、さらにより好ましくは1.5〜3当量である。
【0061】
本願発明製剤には、1)酸性セフェム系抗生物質または2)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩を形成したものまたは付加したものと前記塩基性化合物に加えてNaHCOまたはNaCOを配合することもできる。この場合、NaHCOまたはNaCOの配合量は抗生物質1当量に対し、0.1〜2当量使用することが好ましく、より好ましくは0.3〜1.7当量であり、さらに好ましくは0.5〜1.0当量である。前記塩基性化合物との共存下において二酸化炭素が発生しないかほとんど発生しない量が好ましい。
【0062】
1)酸性セフェム系抗生物質または2)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の平均粒子径(体積基準粒度分布)は約200μm以下が好ましい。より好ましくは130μm以下である。
【0063】
前記塩基性化合物の平均粒子径(体積基準粒度分布)は通常約20μm〜200μmであり、約20μm〜100μmが好ましい。より好ましくは約30μm〜80μmであり、さらに好ましくは約30μm〜60μmである。
【0064】
前記塩基性化合物はその化合物のERH(Equilibrium relative humidity(平衡相対湿度))以下の低湿環境下で粉砕されることが好ましい。より好ましくは30%RH以下の環境が好ましい。
【0065】
これらの化合物の粉砕には一般に用いられている粉砕機を使用することができ、特に限定されないが、パワーミルやジェットミルを使用することができる。
【0066】
1)酸性セフェム系抗生物質または2)セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物と前記塩基性化合物を用時溶解したときの水溶液のpHは好ましくは3.5〜9.5であり、より好ましくは4.5〜9であり、さらに好ましくは5.5〜8.5であり、さらにより好ましくは6〜8である。
【0067】
本発明において用いられるセフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記一般式(I)で表される化合物は、公知の方法または一般有機合成法を用いて製造することができるが、例えば以下の公報に開示の方法で製造することができる。
セフォチアムは、例えば特開昭53−29913号公報開示の方法および公知の一般有機合成法を用いて製造することができる。
【0068】
セフメノキシムは、例えば特開昭55−79393号公報開示の方法および公知の一般有機合成法を用いて製造することができる。
【0069】
セフォゾプランは、例えば特開平1−250322号公報開示の方法および公知の一般有機合成法を用いて製造することができる。
【0070】
前記式(I)で表される化合物は、例えば特開平11−255772号公報開示の方法および公知の一般有機合成法を用いて製造することができる。
【0071】
これらの化合物は公知の方法または前記の公報記載の方法で有機酸または無機酸の塩または付加物とすることができる。
【0072】
これらの抗生物質またはその有機酸または無機酸の塩または付加物は、さらに溶媒付加物(溶媒和物)または非溶媒付加物(非溶媒和物)、特に水和物または非水和物であってもよい。また、これらの化合物が、コンフィギュレーショナルアイソマー(配置異性体)、ジアステレオマー、コンフォーマー等として存在する場合には、所望により、公知の分離、精製手段によりそれぞれを単離することができ、また、これらの化合物がラセミ体である場合には、通常の光学分割手段によりS体及びR体に分離することができる。これらの化合物に立体異性体が存在する場合には、この異性体が単独の場合及びそれらの混合物の場合も本発明に含まれ、さらに、これらの化合物は同位元素(例、H、14C、35S)等で標識されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明においてセフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランおよび前記一般式(I)で表される化合物からなる群より選ばれる1または2以上の化合物の有機酸または無機酸の塩または付加物の投与量は、投与ルート、症状等によって異なるが、例えば1日0.1〜4g力価を1回または2〜4回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例および試験例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
実施例1、2、3、4で使用したL−アルギニンの粉砕は、L−アルギニンのERH(Equilibrium relative humidity(平衡相対湿度))以下の湿度環境下(30%RH以下)で行った。粗粉砕機にはパワーミル(昭和化学工作所製)、微粉砕はジェットミル(日本ニューマチック工業製)を使用した。
【0076】
粉砕したL−アルギニン等の粉末の平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定機(HEROS & RODOS SYMPATEC社製)を用いて、以下の方法で行った。本明細書中、平均粒子径とは、この方法で測定した数値を意味する。
【0077】
・平均粒子径の測定方法
粉砕したL−アルギニン等をそれぞれ適当な分散媒(例、L−アルギニンの場合、L−アルギニンの飽和エタノール溶液)に分散させ、湿式測定法(CUVETTE分散)により粒度分布を測定した。得られた体積基準粒度分布から平均粒子径(VMD)を読み取った。
【0078】
実施例1
平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム10kg力価に対して平均粒子径が約60μmのL−アルギニン7,127gを添加し、クロスミキサーにて40分間よく混合した。簡単な操作にて開通可能な隔壁で隔てられた2室を有するソフトバッグの一室に生理食塩液100mLを充填し、他の一室に前記混合末の塩酸セフォチアム1g力価相当分を充填しバッグ製品とした。
【0079】
実施例2
平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム10kg力価に対して平均粒子径が約60μmのL−アルギニン7,127gを添加し、クロスミキサーにて40分間よく混合した。内容積35mLのガラスバイアルに前記混合末の塩酸セフォチアム1g力価相当分を充填しバイアル製品とした。
【0080】
実施例3
L−アルギニン712.7mgを100mLの生理食塩液で溶解し、簡単な操作にて開通可能な隔壁で隔てられた2室を有するソフトバッグの一室に充填し、一方、平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム1g力価相当分をもう一室に充填しバッグ製品とした。
【0081】
実施例4
L−アルギニン712.7mgおよび平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム1g力価相当分を100mLの生理食塩液で溶解し、ソフトバッグに充填した後−20℃で凍結し、バッグ製品とした。
【0082】
実施例5
平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム1kg力価に対して、平均粒子径が60μmのリン酸3ナトリウム1.447kgを配合し、ロッキングミキサーにて40分間混合した。簡単な操作にて開通可能な隔壁で隔てられた2室を有するソフトバッグの一室に生理食塩液100mLを充填し、他の一室に前記混合末の塩酸セフォチアム1g力価相当分を充填しバッグ製品とした。
【0083】
実施例6
平均粒子径が約120μmの塩酸セフォチアム1kg力価に対して、平均粒子径が60μmのリン酸3ナトリウム723gを配合し、ロッキングミキサーにて40分間混合した。内容量35mLのガラスバイアルに前記混合末の塩酸セフォチアム1g力価相当分を充填し製品とした。
【0084】
試験例1
実施例3のバッグ製剤においてL−アルギニンを含む溶解液が充填された部屋と塩酸セフォチアムが充填された部屋の間の隔壁を開通し、塩酸セフォチアムを溶液が均一になるように溶解したところ、問題となる二酸化炭素等のガスの発生はまったくなかった。また、実施例6のバッグ製剤でも、同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性セフェム系抗生物質と塩基性化合物とを含有し、中和時に二酸化炭素を発生しない注射剤。
【請求項2】
酸性セフェム系抗生物質が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランまたは式
【化1】

で表される化合物の、有機酸塩、無機酸塩、有機酸付加物または無機酸付加物である請求項1記載の注射剤。
【請求項3】
酸性セフェム系抗生物質が、セフォチアム、セフメノキシム、セフォゾプランまたは式
【化2】

で表される化合物の塩酸塩である請求項1記載の注射剤。
【請求項4】
塩基性化合物が、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物である請求項1記載の注射剤。
【請求項5】
塩基性化合物がアルギニンである請求項1記載の注射剤。
【請求項6】
酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.1重量部以上である請求項1記載の注射剤。
【請求項7】
酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.2重量部以上である請求項1記載の注射剤。
【請求項8】
酸性セフェム系抗生物質に対して0.5〜7当量の塩基性化合物を含有する請求項1記載の注射剤。
【請求項9】
中和後のpHが3.5〜9.5である請求項1記載の注射剤。
【請求項10】
酸性セフェム系抗生物質が粉末である請求項1記載の注射剤。
【請求項11】
酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質がそれぞれ粉末であり、それらが混合されている請求項1記載の注射剤。
【請求項12】
酸性セフェム系抗生物質の粉末の平均粒子径が約200μm以下である請求項10または11記載の注射剤。
【請求項13】
塩基性物質の粉末の平均粒子系が約20μm〜約200μmである請求項11記載の注射剤。
【請求項14】
酸性セフェム系抗生物質の粉末の平均粒子径が約200μm以下であり、塩基性物質の粉末の平均粒子系が約20μm〜約200μmである請求項11記載の注射剤。
【請求項15】
塩基性化合物の粉末が、そのERH以下の低湿環境下で粉砕されて得られた粉末である請求項11記載の注射剤。
【請求項16】
バイアル製剤またはキット製剤である請求項1記載の注射剤。
【請求項17】
(i)酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質の混合粉末が封入されている部屋と、(ii)注射用の生理食塩液またはブドウ糖液が封入されている部屋とを有し、当該2部屋が用時に開通されるキット製剤である請求項12記載の注射剤。
【請求項18】
酸性セフェム系抗生物質1重量部に対する塩基性物質の量が0.1重量部以上である請求項16記載の注射剤。
【請求項19】
酸性セフェム系抗生物質および塩基性物質が生理食塩液中またはブドウ糖液中に溶解している請求項1記載の注射剤溶液。
【請求項20】
凍結して保管され、用時に解凍される請求項19記載の注射剤溶液。
【請求項21】
約−80℃〜約0℃の温度で保管される請求項20記載の注射剤溶液。
【請求項22】
(i)酸性セフェム系抗生物質、(ii)塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物、ならびに(iii)NaHCOまたはNaCOを含有し、中和時にほとんど二酸化炭素を発生しない注射剤。
【請求項23】
酸性セフェム系抗生物質を塩基性化合物で中和する方法であって、塩基性アミノ酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、水酸化ナトリウム、およびメグルミンからなる群より選ばれる1または2以上の塩基性化合物を用いることを特徴とする方法。

【公開番号】特開2006−63090(P2006−63090A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332088(P2005−332088)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【分割の表示】特願2003−31592(P2003−31592)の分割
【原出願日】平成15年2月7日(2003.2.7)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】