説明

医薬組成物

【課題】本発明は、注意力低下、学習記憶障害等の認知障害、又は不安亢進における治療剤又は予防剤として好適に使用される医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の医薬組成物は、ベンゾアゼピン化合物又はその塩等のバソプレシン拮抗薬を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バソプレシン拮抗薬は、高血圧、浮腫、腹水、心不全、腎機能障害、バソプレシン分泌異常症候群(SIADH)、肝硬変、低ナトリウム血症、低カリウム血症、多発性嚢胞腎、糖尿病、循環不全、心筋梗塞、脳梗塞等の疾患の予防及び/又は治療に有用であることが知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平4−154765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、注意力低下、学習記憶障害等の認知障害、又は不安亢進において、治療又は予防効果を発現し得る医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の研究を重ねた結果、バソプレシン拮抗薬が注意力低下、学習記憶障害等の認知障害、又は不安亢進を抑制する作用を有していることを見い出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0005】
本発明は、下記項1〜項4に示す医薬組成物を提供する。
項1.バソプレッシン拮抗薬を有効成分とし、認知障害又は不安亢進を抑制するために用いられる医薬組成物。
項2.バソプレッシン拮抗薬が、一般式(1)
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、Rは、水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは、水酸基又は基−NR(R及びRは、同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示す。)を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。]
で表されるベンゾアゼピン化合物又はその塩である項1に記載の医薬組成物。
項3.一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物が、トルバプタンである項2に記載の医薬組成物。
項4.認知障害が、注意力低下又は学習記憶障害である項1に記載の医薬組成物。
【0008】
本発明で用いられるバソプレシン拮抗薬としては、公知のバソプレシン拮抗薬を広く使用でき、好ましくは一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物又はその塩が挙げられる。
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、Rは、水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは、水酸基又は基−NR(R及びRは、同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示す。)を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。]
上記一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物及びその塩は、アルギニンバソプレシン(AVP)タイプ1A(V1A)受容体及びタイプ2(V2)受容体へのバソプレシンの結合を競合的又は非競合的に阻害する作用(すなわちV1/V2)、或いはV2受容体へのバソプレシンの結合を選択的に競合的又は非競合的に阻害する作用を有する。
【0011】
上記一般式(1)において示される各基は、より具体的にはそれぞれ次の通りである。
【0012】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を示す。
【0013】
低級アルキル基は、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を含み、好ましい例として、メチル、エチル、n−プロピル,イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル基等を挙げることができる。
【0014】
低級アルコキシ基は、炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状アルコキシ基を含み、好ましい例としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、tert−ブトキシ、sec−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、3−メチルペンチルオキシ基等を挙げることができる。
【0015】
上記一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物及びその塩の中でも、トルバプタン、モザバプタン及びモザバプタン塩酸塩が好ましく、トルバプタンがより好ましい。
【0016】
一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物及びその塩は、例えば、WO91/05549号公報、USP5258510明細書、USP5753677明細書、特開平4−154765号公報、特開平6−80641号公報等に記載の方法で容易に製造される。
【0017】
本発明の一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物は、立体異性体及び光学異性体を包含する。
【0018】
本発明の一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物のうち塩基性基を有する化合物は、通常の薬理的に許容される酸と容易に塩を形成し得る。斯かる酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸及びメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、安息香酸、蓚酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸等の有機酸が挙げられる。
【0019】
本発明の一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物のうち酸性基を有する化合物は、医薬的に許容される塩基性化合物を作用させることにより容易に塩を形成し得る。斯かる塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸類;ナトリウムメチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属アルコラート類等を挙げることができる。
【0020】
更に、溶媒和物(例えば、水和物、エタノール和物等)形態の化合物も、一般式(1)のベンゾアゼピン化合物に含まれる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、バソプレシン拮抗薬を通常の医療製剤の形態に製剤したものであって、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤及び/又は賦形剤を用いて調製される。
【0022】
このような医療製剤としては、治療目的に応じて種々の形態の中から選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等が挙げられる。
【0023】
錠剤の形態に成形する際に用いられる担体としては、公知のものを広く使用でき、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース等の賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤、グリセリン、デンプン等の保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等が挙げられる。
【0024】
更に、錠剤は、必要に応じて通常の被覆物質を用いて被覆し、例えば、糖衣剤、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。
【0025】
丸剤の形態に成形する際に用いられる担体としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、寒天等の崩壊剤等が挙げられる。
【0026】
坐剤の形態に成形する際に用いられる担体としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等が挙げられる。
【0027】
注射剤として調製される場合は、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であるのが好ましい。これらの液剤、乳剤及び懸濁剤の形態に成形する際に用いられる希釈剤としては、公知のものを広く用いられているものを使用することができ、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルベタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。この場合、等張性の溶液を調製するのに十分な量の食塩、ブドウ糖或いはグリセリンを医薬製剤中に含有させてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を、更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等、及び/又は他の医薬品を含有させてもよい。
【0028】
医療製剤に含有される有効成分(バソプレシン拮抗薬)の量は、特に限定されず広い範囲内から適宜選択することができるが、通常、医療製剤医薬組成物中に有効成分を0.1〜95重量%程度、好ましくは1〜70重量%程度含有させるのが好ましい。
【0029】
本発明に係る医療製剤の投与方法としては特に制限はなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別、疾患の状態、その他の条件に応じた方法で投与される。例えば、錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤の場合には経口投与される。また、注射剤の場合には、単独で或いはブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内に投与したり、更には必要に応じて単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内に投与することができる。坐剤の場合には、直腸内に投与される。
【0030】
本明細書で使用される「有効量」は、臨床治療において日常的に使用されているバソプレシン拮抗薬の量のことである。一般的な有効量は、成人一人1日あたり(body per day)、バソプレシン拮抗薬が0.05〜5000mg程度、好ましくは0.05〜2500mg程度である。
【0031】
上記医療製剤の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件に応じて適宜選択すればよく、通常、成人一人1日あたり(body per day)に対して0.1〜1000mg程度、好ましくは0.5〜500mg程度、より好ましくは1mg〜100mgを1回〜数回に分けて投与される。
【0032】
上記投与量は、種々の条件で変動するので、上記範囲より少ない投与量で充分な場合もあるし、また上記範囲を超えた投与量が必要な場合もある。
【発明の効果】
【0033】
本発明の医薬組成物は、注意力低下、学習記憶障害等の認知障害、又は不安亢進における治療剤又は予防剤として好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0035】
薬理試験1(行動薬理試験)
1.試験方法
中等度及び重症の慢性低ナトリウム血症モデルを、覚醒雄性SDラットに浸透圧ミニポンプを用いてペプチド性バソプレシンV受容体アゴニストである[deamino-Cys1,D-Arg8]-バソプレシン(以下、「DDAVP」という)を皮下持続投与(0.3ng/h及び1ng/h)し、併せて液体飼料の給餌により水負荷することで作製した。DDAVPの最初の投与から0日目、5日目、9日目及び13日目に尾静脈より約0.3mL採血し、血漿ナトリウム濃度を測定した。症状が安定する試験5日目より各種行動薬理試験を実施した。
【0036】
まず、Irwin observation test 法を用いて、低ナトリウム血症におけるラットの一般症状を38項目にわたって観察した。
【0037】
オープンフィールド試験では、高さ40cmの壁に囲まれた100cm×100cmのオープンフィールドを20cm四方の25区域に区切り、上方より照明を行う装置を用い、5分間にラットが全区画及び中央部区画を横切った回数、総歩行距離及び立ち上がり回数を自動解析装置にて測定した。
【0038】
高架式十字迷路試験では、床から50cmの高さに位置する、幅10cm×長さ50cmの2本のオープンアームと、それと直角に交わる2本のクローズドアーム(高さ25cmの黒色アクリル製の壁で覆われている)から成る装置を用いて、ラットを迷路の中央に乗せた直後から5分間の各アームへの進入回数、同滞在時間及び各アームでの移動距離を自動解析装置にて測定した。
【0039】
ローターロッド試験では、まず6rpmで回転するローターロッドトレッドミル上に1分以上止まることができるようにラットに歩行訓練を行い、その後、3分間で6〜60回転まで加速するように設定されたローターロッドトレッドミル上にラットを載せてから落下するまでの時間を測定した。
【0040】
受動的回避学習試験では、まずトレーニングとして明室と暗室の2つの部屋を電気式落下扉にて仕切られたチャンバーの明室にラットを入れ、ラットが暗室に移動するとすぐに扉を閉じて3秒間、2mAの電気ショックを与えた。24時間後、同様にラットを明室に入れ、暗室に移動するまでの時間を測定し、トレーニング時の移動時間と、測定時の移動時間の差を算出した(上限180秒)。
【0041】
2.試験結果及び考察
DDAVP持続投与と液体飼料摂取により、中等度(血漿ナトリウム濃度:約125mEq/L)及び重度(血漿ナトリウム濃度:約117mEq/L)の低ナトリウム血症が発現した(図1)が、いずれにおいても一般症状(Irwin observation test における観察)に異常は認められなかった。
【0042】
自発運動(指標:オープンフィールド試験及び高架式十字迷路における総移動距離、図2及び図3)、及び運動機能(指標:ローターロッド試験における装置上滞在時間)にも差が見られなかった。
【0043】
しかし、このように一見無症候な状態においても、低ナトリウム血症ラットでは、オープンフィールド試験においては中央部滞在時間の短縮及び立ち上がり行動の減少が見られ(図2)、さらには高架式十字迷路試験においてオープンアーム滞在時間が短縮された(図3)ことから、不安の亢進が示唆された。
【0044】
さらに、受動的回避学習試験において、低ナトリウム血症ラットでは、暗室へ移動するまでの時間(明室滞在時間)が明らかに短縮しており(図4)、学習記憶障害が内在することが示唆された。
【0045】
薬理試験2(不安・学習記憶障害に対する改善効果試験)
上記薬理試験1において、バソプレシンV受容体拮抗薬(トルバプタン)を経口投与(初回0.25mg/kgより開始し、2日毎に0.5mg/kg、1mg/kg、2mg/kg及び4mg/kgに順次漸増)することによって、トルバプタンの漸増経口投与による不安亢進及び学習記憶障害が改善されることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、DDAVP投与からの日数と血漿ナトリウム濃度との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、薬理試験1におけるオープンフィールド試験の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、薬理試験1における高架式十字迷路試験の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、薬理試験1における受動的回避学習試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バソプレッシン拮抗薬を有効成分とし、認知障害又は不安亢進を抑制するために用いられる医薬組成物。
【請求項2】
バソプレッシン拮抗薬が、一般式(1)
【化1】

[式中、Rは、水素原子又はハロゲン原子を示す。Rは、水酸基又は基−NR(R及びRは、同一又は異なって水素原子又は低級アルキル基を示す。)を示す。Rは、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。Rは、ハロゲン原子、低級アルキル基又は低級アルコキシ基を示す。]
で表されるベンゾアゼピン化合物又はその塩である請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
一般式(1)で表されるベンゾアゼピン化合物が、トルバプタンである請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
認知障害が、注意力低下又は学習記憶障害である請求項1に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−24164(P2010−24164A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185712(P2008−185712)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】