説明

医薬製剤

【課題】バリア機能の高い部位においてもNFκBデコイを皮膚内部まで効率良く送達でき、即効性に優れるとともに、安全性が高く容易に製造可能な医薬製剤を提供する。
【解決手段】生体適合性高分子をナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)とし、NFκBに結合して活性化を抑制するNFκBデコイをナノ粒子表面に担持させたものを用いて医薬製剤とする。ナノ粒子の細胞内への浸透により、NFκBデコイを疾患部位にまで到達させるとともに、ナノ粒子表面からNFκBデコイを放出させて疾患部位特異的に効率良く導入することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NFκBに結合するNFκBデコイオリゴヌクレオチドを含有する医薬製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトゲノムの全塩基配列が解読され、種々の病気が遺伝子疾患を原因として発症することが明らかにされてきており、今後もより多くの病気と遺伝子との関係が解明されると思われる。そして、これらの情報を元に、遺伝子疾患により発症する病気を遺伝子レベルで根本的に治療する、いわゆる遺伝子治療が、難治性疾患に対する新たな治療戦略として注目されている。
【0003】
例えば、喘息、癌、心臓病、動脈瘤、自己免疫疾患およびウイルス感染症などの種々の疾患は、それぞれ異なる症状を示すにもかかわらず、その大部分は、1種類または数種類のタンパク質が異常発現(過剰発現または過少発現)したことに起因することが示唆されている。一般に、これらタンパク質の発現は、種々の転写活性因子および転写抑制因子などの転写調節因子によって制御されている。
【0004】
NFκBは、p65とp50のヘテロダイマーからなる転写調節因子である。NFκBは、通常、その阻害因子IκBが結合した形で細胞質内に存在し、その核内移行が阻止されている。ところが、何らかの原因で、サイトカイン、虚血、再灌流などの刺激が加わると、IκBがリン酸化を受けて分解され、それによってNFκBが活性化されて核内に移行する。核内に移行したNFκBは、ゲノム上のNFκB結合領域に結合し、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NFκB結合部位の下流にある遺伝子として、例えば、IL−1、IL−6、IL−8、腫瘍壊死因子α(TNFα)などの炎症性サイトカイン類、VCAM−1、ICAM−1などの接着因子が知られている。
【0005】
また、難治性皮膚疾患の一つであるアトピー性皮膚炎の発症要因としては、アレルゲン、環境汚染、花粉、ストレス等の環境的要因や、過剰免疫システム、皮膚バリア異常等の遺伝的要因が考えられ、これらの要因が複合的に作用して皮膚角質層の水分保持機能やバリア機能が低下し、アレルゲン、刺激物質が皮膚内部へ侵入することにより刺激、痒みが発生する。また、掻爬の繰り返しにより皮膚角質層が損傷を受け、アレルゲン、刺激物質が容易に皮膚内部へ侵入するという悪循環を繰り返す。
【0006】
アトピー性皮膚炎の病態あるいはアトピー性皮膚炎モデル動物においては、NFκBの活性上昇がリンパ球の浸潤あるいは活性化を伴う炎症関連遺伝子群(サイトカイン、ケモカイン、接着因子等)の発現上昇を誘導し、病態の発症、進展に重要な役割を果たしていることが知られている。また、尋常性乾癬、接触性皮膚炎などの皮膚疾患においても、NFκBの活性化が重要なメカニズムの一つであることが示唆されている。
【0007】
そこで、近年、NFκBに結合して炎症を引き起こすサイトカイン等の生成を抑制するNFκBデコイオリゴヌクレオチド(NFκB Decoy Oligodeoxynucleotides、以下、NFκBデコイという)を投与することにより、アトピー性皮膚炎等の疾患原因を根本的に除去する研究が盛んに行われている。
【0008】
例えば特許文献1〜3には、NFκBデコイを含むアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患治療用の軟膏製剤が開示されている。また、特許文献4には、リポソームをNFκBデコイのキャリア(ベクター)として用いる方法が開示されている。さらに特許文献5には、核酸医薬を葉酸修飾ナノ粒子に包含させることにより、細胞内送達性を高める方法が開示されている。
【0009】
しかし、NFκBデコイは分子量が約12,000と極めて大きいため、特許文献1〜3の方法では、掻爬による糜爛(びらん)局面やバリア機能の比較的低い顔面以外では皮膚透過性が低く、疾患部位の細胞内部まで送達されない。そのため、バリア機能の高い部位ではNFκBデコイによる十分な治療効果が得られず、更なる皮膚浸透性、及び細胞内送達性の改善が求められていた。また、特許文献4の方法では、リポソームがリン脂質であるため人体に対する安全性は高い反面、NFκBデコイの導入効率及び効果の持続性の面で十分ではなかった。さらに特許文献5の方法では、葉酸修飾ナノ粒子の原料となる葉酸−ポリエチレングリコール−ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミンを合成する工程が別途必要となるため、製造工程数が増加して製剤のコストアップに繋がるという問題点があった。
【特許文献1】特許第3778357号公報
【特許文献2】特開2005−306877号公報
【特許文献3】特開2006−89475号公報
【特許文献4】特再表2003/099339号公報
【特許文献5】特開2006−111591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、バリア機能の高い部位においてもNFκBデコイを皮膚内部まで効率良く送達でき、即効性に優れるとともに、安全性が高く容易に製造可能な医薬製剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、表面がカチオン性高分子で被覆され、当該表面にNFκBデコイオリゴヌクレオチドが吸着担持されている生体適合性高分子のナノ粒子を含む医薬製剤である。
【0012】
また本発明の第2の構成は、上記構成の医薬製剤において、NFκBデコイオリゴヌクレオチドが前記ナノ粒子の内部にも封入されていることを特徴としている。
【0013】
また本発明の第3の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記ナノ粒子を結合剤により複合化するとともに、前記結合剤で形成された外層にNFκBデコイオリゴヌクレオチドをさらに封入したことを特徴としている。
【0014】
また本発明の第4の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記カチオン性高分子が、キトサンまたはキトサン誘導体であることを特徴としている。
【0015】
また本発明の第5の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかであることを特徴としている。
【0016】
また本発明の第6の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、以下の配列番号1で表されるNFκB結合配列(コンセンサス配列ともいう)を含むことを特徴としている。
[G]nGGRHTYYHC (配列番号1)
(式中、nは0または1を、RはAまたはGを、YはCまたはTを、HはA、CまたはTをそれぞれ意味する。)
【0017】
また本発明の第7の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、NFκB結合配列としてGGGATTTCCC(配列番号2)、GGGACTTTCC(配列番号3)、又はGGACTTTCC(配列番号4)の少なくとも一つを含むことを特徴としている。
【0018】
また本発明の第8の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、配列5′−CCTTGAAGGGATTTCCCTCC−3′(配列番号5)及びこれに相補的な配列5′−GGAGGGAAATCCCTTCAAGG−3′(配列番号6)からなる二本鎖オリゴヌクレオチドであることを特徴としている。
【0019】
また本発明の第9の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記ナノ粒子中のNFκBデコイオリゴヌクレオチドの含有率が0.5重量%以上30重量%以下であることを特徴としている。
【0020】
また本発明の第10の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上1,000nm以下であることを特徴としている。
【0021】
また本発明の第11の構成は、上記構成の医薬製剤において、前記ナノ粒子の平均粒子径が50nm以上300nm以下であることを特徴としている。
【0022】
また本発明の第12の構成は、上記構成の医薬製剤が皮膚疾患の治療に使用されることを特徴としている。
【0023】
また本発明の第13の構成は、上記構成の医薬製剤において、皮膚疾患がアトピー性皮膚炎であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の構成によれば、生体適合性高分子で構成されたナノ粒子の表面にNFκBデコイを担持させることにより、ナノ粒子の高い生体内浸透性により細胞内部へNFκBデコイを効率的に導入可能であり、人体への安全性にも優れた医薬製剤を提供することができる。また、投与後短時間でナノ粒子表面のNFκBデコイが溶出するため、ナノ粒子に内包する場合に比べて即効性において有利となる。さらに、負帯電した細胞壁へのナノ粒子の吸着性が高まるため、表面に担持されたNFκBデコイの細胞内への到達効率を向上させることができる。なお、本発明に使用されるナノ粒子は、粒子表面をカチオン性高分子で被覆することにより容易に製造できる。
【0025】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の医薬製剤において、NFκBデコイをナノ粒子の内部にも封入することにより、製剤中のNFκBデコイ含量を高めて標的部位まで効率良く送達することができ、且つ剤形の小型化も可能な医薬製剤が提供される。また、ナノ粒子の表面に担持されたNFκBデコイにより製剤の即効性を高めつつ、ナノ粒子の内部に封入されたNFκBデコイを徐々に放出させることにより製剤の持続性を高めることができる。
【0026】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成の医薬製剤において、結合剤によってナノ粒子を複合化するとともに、ナノ粒子表面に形成される結合剤層にもNFκBデコイを封入することにより、ナノ粒子表面へのNFκBデコイの担持量を増加することができる。さらに、複合化によってナノ粒子の取り扱い性も向上する。
【0027】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1乃至第3のいずれかの構成の医薬製剤において、カチオン性高分子として生分解性のキトサンまたはその誘導体を用いることにより、生体への悪影響がより少なく、さらに安全性も高い医薬製剤となる。
【0028】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1乃至第4のいずれかの構成の医薬製剤において、生体適合性高分子として、生分解性のポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかを用いることにより、生体への刺激・毒性が低くNFκBデコイを内包可能であり、且つNFκBデコイの効力を保持したまま長期間保存できるとともに、生体適合性高分子の分解によりNFκBデコイの徐放が可能な医薬製剤となる。
【0029】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1乃至第5のいずれかの構成の医薬製剤において、一般式(1)で表されるNFκB結合配列を含むNFκBデコイを用いることにより、ゲノム上の本来の結合部位へのNFκBの結合を防止してサイトカイン等の生成及びそれに伴う炎症の発生を効果的に抑制する医薬製剤となる。
【0030】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第6の構成の医薬製剤において、NFκB結合配列としてGGGATTTCCC(配列番号2)、GGGACTTTCC(配列番号3)、又はGGACTTTCC(配列番号4)の少なくとも1つを含むNFκBデコイを用いることにより、NFκBがより良好に結合する好適な医薬製剤となる。
【0031】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第7の構成の医薬製剤において、配列5′−CCTTGAAGGGATTTCCCTCC−3′(配列番号5)及び5′−GGAGGGAAATCCCTTCAAGG−3′(配列番号6)の相補的二本鎖からなるNFκBデコイを用いることにより、NFκBが特に良好に結合する好適な医薬製剤となる。
【0032】
また、本発明の第9の構成によれば、上記第1乃至第8のいずれかの構成の医薬製剤において、ナノ粒子中のNFκBデコイの含有率を0.5重量%以上30重量%以下とすることにより、製剤中へのナノ粒子の配合量を抑えつつ粒子径の増大も抑制する適度な含有率となる。
【0033】
また、本発明の第10の構成によれば、上記第1乃至第9のいずれかの構成の医薬製剤において、平均粒子径が10nm以上1,000nm以下のナノ粒子を用いることにより、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞内に取り込まれ易くなり、高い遺伝子発現効率を実現する。また、経皮投与用途に用いる場合に皮膚への浸透性が高い医薬製剤となる。
【0034】
また、本発明の第11の構成によれば、上記第10の構成において、平均粒子径が50nm以上300nm以下のナノ粒子を用いることにより、経皮投与用途に用いる場合に皮膚への浸透性が非常に高い医薬製剤となる。
【0035】
また、本発明の第12の構成によれば、上記第1乃至第11の医薬製剤を皮膚疾患治療用に用いることにより、ナノ粒子の皮膚浸透効果及び細胞壁への吸着効果により皮膚疾患に対し優れた治療効果を発現する。
【0036】
また、本発明の第13の構成によれば、上記第12の構成において、対象とする皮膚疾患をアトピー性皮膚炎とすることにより、難治性の皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎に対し優れた治療方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の医薬製剤に用いられる生体適合性ナノ粒子は、生体適合性高分子をナノ単位の大きさの粒子(ナノスフェア)とし、核酸化合物であるNFκBデコイをナノ粒子表面に担持させたものである。このナノ粒子を生体内部に浸透させることにより、NFκBデコイを疾患部位にまで到達させるとともに、ナノ粒子表面からNFκBデコイを放出させることができるため、医薬製剤の材料として好適に用いることができる。
【0038】
本発明の医薬製剤の薬効成分であるNFκBデコイは、NFκBが結合するゲノム上の結合領域と競合して、NFκBと選択的に結合するデコイとして作用する。
【0039】
本明細書中において「デコイ」とは、本来転写因子が結合すべきゲノム上の結合領域に似せた構造を有する、いわゆる「おとり分子」を指す。デコイの共存下では、転写因子の一部は、本来結合すべきゲノム上の結合領域に結合せず、結合領域の「おとり」として機能するデコイに結合する。このため、本来の結合領域に結合する転写因子の分子数が減少し、転写因子の活性が低下することになる。
【0040】
デコイとしては、前記、配列番号1で表される結合配列の両端に任意のヌクレオチドが連結されたオリゴヌクレオチドが一般的である。この結合配列両端のヌクレオチド部分は付加配列とも呼ばれ、1以上の塩基から成り、好ましくは1〜20ヌクレオチド、より好ましくは1〜10ヌクレオチド、さらに好ましくは1〜7ヌクレオチドから成る。またデコイの全鎖長は限定されず通常は15〜35ヌクレオチドであるが、好ましくは16〜30ヌクレオチド、より好ましくは17〜25ヌクレオチドである。
【0041】
またNFκBデコイは、NFκBの結合配列を1つ以上含む二本鎖オリゴヌクレオチドであり、この二本鎖は完全に相補的な配列であることが好ましい。即ち、5′−5′末端付加配列−結合配列−3′末端付加配列−3′という構成のセンス鎖オリゴヌクレオチドと、それに相補的なアンチセンス鎖から成る二本鎖オリゴヌクレオチドが典型的なNFκBデコイの構成として挙げられる。
【0042】
なお、1以上(通常は1又は2組)の非相補的な塩基対を含んでいても、NFκBと結合し得る限り本明細書中のNFκBデコイに包含される。さらに、5′末端付加配列と3′末端付加配列との間に複数の結合配列がタンデムに直接、または1〜数個のヌクレオチドを挟んで連結されている複数の転写因子結合部位を有する二本鎖オリゴヌクレオチドも、他のNFκBデコイの構成として挙げられる。
【0043】
さらにまた、一本鎖のオリゴヌクレオチドであっても、分子内に結合配列とその相補的配列とを有し、これらが分子内で二本鎖を形成しているような、いわゆるリボン型デコイ又はステイプル型デコイと呼ばれるものも、NFκBが結合する限り本明細書にいうNFκBデコイに含まれる。
【0044】
NFκBの結合配列は、種々の文献(例えば非特許文献1)に記載されており、具体的な結合配列としては、以下の配列番号1で表される。
[G]nGGRHTYYHC(配列番号1)
(式中、nは0または1を、RはAまたはGを、YはCまたはTを、HはA、CまたはTをそれぞれ意味する。)
具体的には、例えばGGGATTTCCC(配列番号2)、GGGACTTTCC(配列番号3)またはGGACTTTCC(配列番号4)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【非特許文献1】「分子細胞生物学辞典」(東京化学同人 1997年発行)891頁
【0045】
本発明に用いられる好ましいNFκBデコイの具体例としては、5′−CCTTGAAGGGATTTCCCTCC−3′(配列番号5)及びその相補体である5′−GGAGGGAAATCCCTTCAAGG−3′(配列番号6)からなる二本鎖オリゴヌクレオチド、5′−AGTTGAGGACTTTCCAGGC−3′(配列番号7)及びその相補体である5′−GCCTGGAAAGTCCTCAACT−3′(配列番号8)からなる二本鎖オリゴヌクレオチド、及び5′−AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC−3′(配列番号9)及びその相補体である5′−GCCTGGGAAAGTCCCCTCAACT−3′(配列番号10)からなる二本鎖オリゴヌクレオチド等が挙げられる。
【0046】
本発明で用いられるNFκBデコイの製造方法としては、遺伝子工学で一般的に用いられる核酸合成法を用いることができ、例えばDNA合成装置を用いて直接合成しても良いし、オリゴヌクレオチド又はその一部を合成した後、PCR法又はクローニングベクター法等を用いて増幅しても良い。さらに、これらの方法により得られたオリゴヌクレオチドを制限酵素等を用いて切断するか、或いはDNAリガーゼ等を用いて結合等を行い、NFκBデコイを製造しても良い。
【0047】
また、本発明に用いられるNFκBデコイは1つ以上の修飾された結合や核酸を含有していても良い。このような修飾された結合としては、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、ボラノホスフェート、メトキシエチルホスホエート、モルホリノホスホロアミデート等を、修飾された核酸としてはペプチド核酸(peptide nucleic acid:PNA)、ロックド核酸(locked nucleic acid:LNA)、ジニトロフェニル(DNP)化およびO−メチル化等で修飾された塩基を有する核酸等が挙げられる。前記結合の中でもホスホロチオエートがより好ましい。
【0048】
DNP化およびO−メチル化等は、通常はリボヌクレオシド(RNA)に対する修飾であるが、本発明においては、オリゴヌクレオチド中の修飾するデオキシリボヌクレオシド(DNA)を、RNAの場合と同様にしてオリゴヌクレオチドを合成し、該塩基を修飾することが可能である。
【0049】
また、デコイ又はデコイ候補となるオリゴヌクレオチドが転写因子に結合するか否かは結合活性試験により確認することができる。NFκBデコイの場合、NFκBに対する結合活性試験は、例えば、TransAM NFκB p65 Transcription Factor Assay Kit(商品名、ACTIVE MOTIF 社)を用いて、当該キットに添付の資料に基づいて、又は当業者が日常的に行う程度のプロトコルの改変により、容易に実施することができる。
【0050】
本発明に用いられるナノ粒子の製造方法としては、NFκBデコイおよび生体適合性高分子を1,000nm未満の平均粒径を有する粒子に加工することができる方法であれば特に限定されるものではないが、球形晶析法を好適に用いることができる。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法である。この球形晶析法の一つに、エマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
【0051】
ESD法は、次に示すような原理によって、ナノスフェア(ナノ粒子)を製造する技術である。本法には、薬物を封入する基剤ポリマーとなる乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)等を溶解できる良溶媒と、これとは逆にPLGAを溶解しない貧溶媒の二種類の溶媒が用いられる。この良溶媒には、PLGAを溶解し、且つ貧溶媒へ混和するアセトン等の有機溶媒を用いる。そして、貧溶媒には、通常、ポリビニルアルコール水溶液等を用いる。
【0052】
操作手順としては、まず、良溶媒中にPLGAを溶解後、このPLGAが析出しないように、薬物溶解液を良溶媒中へ添加混合する。このPLGAと薬物を含む混合液を、貧溶媒中に攪拌下、滴下すると、混合液中の良溶媒(有機溶媒)が貧溶媒中へ急速に拡散移行する。その結果、貧溶媒中で良溶媒の自己乳化が起き、サブミクロンサイズの良溶媒のエマルジョン滴が形成される。さらに、良溶媒と貧溶媒の相互拡散により、エマルジョン内から有機溶媒が貧溶媒へと継続的に拡散していくので、エマルジョン滴内のPLGA並びに薬物の溶解度が低下し、最終的に、薬物を包含した球形結晶粒子のPLGAナノスフェアが生成する(以上、ナノ粒子形成工程)。
【0053】
上記球形晶析法では、物理化学的な手法でナノ粒子を形成でき、しかも得られるナノ粒子が略球形であるため、均質なナノ粒子を、触媒や原料化合物の残留といった問題を考慮する必要なく、容易に形成することができる。その後、良溶媒である有機溶媒を減圧留去し(溶媒留去工程)、ナノ粒子粉末を得る。そして、得られた粉末をそのまま、或いは必要に応じて凍結乾燥等により複合化し(複合化工程)、複合粒子とする。
【0054】
上記良溶媒および貧溶媒の種類は、目的となる薬物の種類等に応じて決定されるものであり特に限定されるものではないが、ナノ粒子は人体へ直接投与する医薬製剤の原料として用いられるため、人体に対して安全性が高く、且つ環境負荷の少ないものを用いる必要がある。このような貧溶媒としては、例えばポリビニルアルコール水溶液が好適に用いられ、ポリビニルアルコール以外の界面活性剤としては、レシチン、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0055】
良溶媒としては、低沸点の有機溶媒であるハロゲン化アルカン類、アセトン、メタノール、エタノール、エチルアセテート、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等が挙げられるが、例えば環境や人体に対する悪影響が少ないアセトンのみ、若しくはアセトンとエタノールの混合液が好適に用いられる。なお、余剰のポリビニルアルコールが残存している場合は、溶媒留去工程の後に、遠心分離等によりポリビニルアルコールを除去する工程(除去工程)を設けても良い。
【0056】
ポリビニルアルコール水溶液の濃度についても、球形造粒結晶の粒径(本発明の場合ナノオーダー)等に応じて適宜決定すればよいが、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が高いほどナノ粒子表面へのポリビニルアルコールの付着が良好となり、乾燥後の水への再分散性が向上する反面、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が所定以上になると、貧溶媒の粘度が上昇して良溶媒の拡散性に悪影響を与える。そのため、ポリビニルアルコールの重合度やけん化度によっても異なるが、ナノ粒子形成工程後に除去工程を設ける場合は0.1重量%以上10重量%以下が好ましく、2%程度がより好ましい。なお、除去工程を設けない場合は0.5重量%以下とすることが好ましい。
【0057】
以上のようにして得られたナノ粒子は、凍結乾燥等により粉末化させる際に再分散可能な凝集粒子(ナノコンポジット)に複合化できる。このとき、有機または無機の物質を結合剤として用いて再分散可能に複合化させ、ナノ粒子と共に乾燥させることもできる。例えば、糖アルコールや糖と共に複合化することにより、封入率のばらつきを効果的に防止するとともに、糖アルコール等が賦形剤(結合剤)となりナノ粒子の取り扱い性を高めることができる。糖アルコールとしては、マンニトール、ソルビトール、エリスリトール等が、糖としては、トレハロース、マルチトース、キシリトース等が挙げられ、この中でも特にトレハロースが好ましい。
【0058】
この複合化により、使用前まではナノ粒子が集まった、取り扱いやすい凝集粒子となっており、使用時に水分に触れることでナノ粒子に戻って高反応性等の特性を復元する複合粒子となる。ナノ粒子の複合化方法としては、凍結乾燥法が好適に用いられる。また、流動層乾燥造粒法により複合化しても良い。特に、流動層乾燥造粒法の中でも粒子化する材料を含む混合物を流動ガス中に噴霧する噴霧乾燥式流動層造粒法を用いた場合、時間と手間のかかる凍結乾燥工程を省略可能となり、複合粒子を容易に且つ短時間で製造できるため工業化にも有利となる。
【0059】
なお、噴霧乾燥式流動層造粒法においては、結合剤として結晶性の弱い糖や糖アルコールを用いると、複合化の際に非晶質(アモルファス)化してしまい良好に粒子化できなくなる。そのため、結晶性の強いマンニトールを用いることが好ましい。
【0060】
次に、ナノ粒子表面にNFκBデコイを付着させる方法について説明する。ここでは、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際、ナノ粒子表面へNFκBデコイを静電気的に担持させる静電気的付着法を用いる。水溶液中でアニオン分子として存在するNFκBデコイをナノ粒子表面へ静電気的に担持させるためには、ナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させておく必要がある。
【0061】
一般に、液体中に分散された粒子の多くは正又は負に帯電しており、逆の電荷を有するイオンが粒子表面に強く引き寄せられ固定された層(固定層)と、その外側に存在する層(拡散層)とで、いわゆる拡散電気二重層が形成されており、拡散層の内側の一部と固定層とが粒子と共に移動するものと推定される。
【0062】
ゼータ電位は、粒子から十分に離れた電気的に中性な領域の電位を基準とした場合の、上記移動が生じる面(滑り面)の電位である。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性は高くなり、逆にゼータ電位が0に近づくにつれて粒子は凝集を起こしやすくなる。そのため、ゼータ電位は粒子の分散状態の指標として用いられている。
【0063】
上記ナノ粒子形成工程においてカチオン性高分子を貧溶媒中に添加すると、形成されたナノ粒子の表面がカチオン性高分子により修飾(被覆)され、粒子表面のゼータ電位が正となる。そして、凍結乾燥によりナノ粒子を複合化する際にNFκBデコイを添加することにより、水溶液中で負の電荷を持つアニオン分子となったNFκBデコイが静電気的相互効果によりナノ粒子表面に所定量担持される。
【0064】
また、生体内の細胞壁は負に帯電しているが、従来の球形晶析法で製造されたナノ粒子の表面は、一般的に負のゼータ電位を有しているため、電気的反発力によりナノ粒子の細胞接着性が悪くなるという問題点があった。従って、本発明のようにカチオン性高分子を用いてナノ粒子表面が正のゼータ電位を有するように帯電させることは、負帯電の細胞壁に対するナノ粒子の接着性を増大させ、NFκBデコイの細胞内移行性を向上させる観点からも好ましい。
【0065】
NFκBデコイが粒子表面に静電気的に担持されたナノ粒子の構造を図1に示す。生体適合性ナノ粒子1の表面はポリビニルアルコール2で被覆され、さらにその外側をカチオン性高分子3で被覆されており、カチオン性高分子3により正のゼータ電位を有している。NFκBデコイ4は、ナノ粒子1表面に静電気的に担持されている。
【0066】
なお、凍結乾燥の前に、遠心分離等により余剰のポリビニルアルコールを除去する除去工程を設ける場合は、ポリビニルアルコールと共に粒子表面のカチオン性高分子も一部除去されてしまう可能性がある。そのため、除去工程の後に再度ナノ粒子をカチオン性高分子溶液に浸漬する工程を設けることが好ましい。
【0067】
カチオン性高分子としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)、細胞膜(生体膜)の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(MPC)を構成単位とする高分子に第4級アンモニウム塩等のカチオン基を結合させたカチオン性高分子(例えばMPCと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマー)等が挙げられるが、特にキトサン或いはその誘導体が好適に用いられる。
【0068】
キトサンは、エビやカニ、昆虫の外殻に含まれる、アミノ基を有する糖の1種であるグルコサミンが多数結合した天然高分子であり、乳化安定性、保形性、生分解性、生体適合性、抗菌性等の特徴を有するため、化粧品や食品、衣料品、医薬品等の原料として広く用いられている。このキトサンを貧溶媒中に添加することにより、正のゼータ電位を有するとともに、生体への悪影響がなく安全性の高いナノ粒子を製造することができる。
【0069】
なお、カチオン性高分子の中でもカチオン性のより強いものを用いることにより、ゼータ電位がより大きな正の値となるため、粒子表面により多くのNFκBデコイを担持可能になるとともに、粒子間の反発力が強くなって粒子の安定性も高くなる。例えば、元来カチオン性であるキトサンの一部を第四級化することで、さらにカチオン性を高めた塩化N−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]キトサン等のキトサン誘導体(カチオニックキトサン)を用いることが好ましい。
【0070】
ところで、従来の球形晶析法を用いてNFκBデコイを封入したナノ粒子を製造しようとすると、良溶媒中に分散混合した水溶性のNFκBデコイが貧溶媒中に漏出、溶解してしまい、ナノ粒子を形成する高分子だけが沈積するため、NFκBデコイがほとんど封入されなかった。しかし、ナノ粒子形成工程において貧溶媒中にカチオン性高分子を添加すると、ナノ粒子内部にもNFκBデコイを封入できるようになる。これは、ナノ粒子表面に吸着したカチオン性高分子がエマルジョン滴表面に存在するNFκBデコイと相互作用し、貧溶媒中へのNFκBデコイの漏出を抑制するためであると考えられる。
【0071】
NFκBデコイが粒子表面に静電気的に担持され、さらに粒子内部にも封入されたナノ粒子の構造を図2に示す。NFκBデコイ4は、カチオン性高分子3で被覆されたナノ粒子1の表面に静電気的に担持されるとともに、ナノ粒子1の内部にも封入されている。従って、ナノ粒子内部への封入が極めて困難であったNFκBデコイの、ナノ粒子内部及び表面を合わせたトータルの含有率を高めることができる。また、投与直後にナノ粒子の表面から溶け出すNFκBデコイとは別に、ナノ粒子内部から徐放的に放出されるNFκBデコイを作用させることで、医薬製剤に即効性と持続性の両方を付与することができる。
【0072】
このとき、良溶媒中にNFκBデコイと効能や作用機序の異なる他の薬効成分を溶解して、ナノ粒子内部に1種又は複数種封入しても良い。この場合、NFκBデコイと他の薬効成分との相乗効果により薬効の促進が期待できる。
【0073】
また、良溶媒中でのNFκBデコイの親和性及び分散安定性を向上させるため、良溶媒中にN-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,N-trimethylammonium salts(DOTAP)等のカチオン性脂質を添加し、NFκBデコイと複合体を形成させても良い。但し、細胞内において放出されたカチオン性脂質により細胞障害性を示すおそれがあるため、添加量には注意が必要である。
【0074】
また、ナノ粒子を結合剤と共に複合化する際、結合剤により形成される外層にNFκBデコイをさらに封入しても良い。これにより、ナノ粒子表面へのNFκBデコイ担持量を一層増加させることができる。
【0075】
本発明に用いられる生体適合性高分子は、生体への刺激・毒性が低く、生体適合性で、投与後分解して代謝される生体内分解性のものが望ましい。また、表面に担持或いは内包するNFκBデコイを持続して徐々に放出する粒子であることが好ましい。このような素材としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)等を挙げることができ、特にPLGAを好適に用いることができる。PLGAナノ粒子はNFκBデコイを内包可能であり、NFκBデコイの効力を保持したまま長期間保存可能である。
【0076】
また、薬物を目標組織/器官に効率的に到達させる技術、いわゆるDrug Delivery System(以下、DDSという)のキャリアとしての評価は、細胞への到達率、細胞内への取り込み性、及び細胞内での効果の発現性によって決まる。細胞内への取り込み率は膜融合リポソームが最も高いが、PLGAナノ粒子の表面をカチオン性高分子で修飾することにより取り込み率をリポソームと同等のレベルまで引き上げることが可能である。アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を対象とした経皮製剤への適用には、脂質二重膜で覆われた液体分散型粒子であるリポソームはその構造、形態を維持しつつ皮膚バリアを通過することが困難であるとともに、多様な成分より成る製剤中でその構造を安定的に保持し難い。一方、PLGAナノ粒子は固体分散型粒子であり、上記アプリケーションの使用においてもその構造を維持しつつ皮膚深部へ薬剤を効率良く送達することが可能である。さらに、PLGAの加水分解・長期半減期の特徴から、数日から1ヶ月単位の徐放ができると考えられる。これらの特徴から、PLGAナノ粒子はDDSの優れたキャリアとなる。
【0077】
PLGAの分子量は、5,000〜200,000の範囲内であることが好ましく、15,000〜25,000の範囲内であることがより好ましい。乳酸とグリコール酸との組成比は1:99〜99:1であればよいが、乳酸1に対しグリコール酸0.333であることが好ましい。また、乳酸およびグリコール酸の含有量が25重量%〜65重量%の範囲内であるPLGAは、非晶質であり、かつアセトン等の有機溶媒に可溶であるから、好適に使用される。
【0078】
また、PLGAの表面をポリエチレングリコール(PEG)で修飾しておくと、水溶性の核酸化合物とPLGAとの親和性が向上し、封入が容易になるため好ましい。また、アミノ酸のような荷電基あるいは官能基化し得る基を有していてもよい。
【0079】
上記以外の生体適合性高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテルおよびポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンテレフタレート、アクリル酸とメタクリル酸とのポリマー、セルロースおよび他の多糖類、ならびにペプチドまたはタンパク質、あるいはそれらのコポリマーまたは混合物が挙げられる。
【0080】
また、ナノ粒子の表面への担持に加えて、ナノ粒子内部にもNFκBデコイを封入する場合、表面に担持されるNFκBデコイと内部に封入されるNFκBデコイとの割合は、医薬製剤に要求される即効性、持続性の程度等により適宜設定することができる。即ち、投与直後より効果の発現が要求される製剤の場合は、ナノ粒子の表面への担持割合を高くすれば良い。一方、投与後長期間に亘る効果の持続性が要求される製剤の場合は、ナノ粒子内部への封入割合を高くすれば良い。
【0081】
ナノ粒子中のNFκBデコイ含有率が高いほど、製剤中に配合するナノ粒子量を少なくできるため好ましいが、ナノ粒子表面に担持可能なNFκBデコイ量には限界がある。また、NFκBデコイをナノ粒子内部にも封入する場合は、製造上の理由から封入率に比例してナノ粒子の粒子径も大きくなるため、ナノ粒子が生体深部まで到達し難くなる。そのため、表面担持及び内包されるNFκBデコイのトータルの含有率は0.5重量%以上30重量%以下が好ましい。
【0082】
ナノ粒子表面へのNFκBデコイの付着量は、カチオン性高分子の種類及び添加量や凍結乾燥時に添加するNFκBデコイ量の調整により変更可能である。凍結乾燥時に追加するNFκBデコイ量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001以下の場合、NFκBデコイの濃度が低すぎてナノ粒子表面への付着率が低くなり、1.0以上の場合、静電気的に担持可能な量を大幅に超えてしまい、ナノ粒子表面へ吸着されない余剰のNFκBデコイが多くなって付着効率が悪くなる。
【0083】
一方、ナノ粒子内部へのNFκBデコイの封入量は、ナノ粒子形成時に添加するNFκBデコイ量やカチオン性高分子の種類及び添加量の調整、ナノ粒子を形成する生体適合性高分子の種類により変更可能である。ナノ粒子形成時に有機溶媒に混合するNFκBデコイ量としては、生体適合性高分子に対する重量比を0.001以上1.0以下とすることが好ましい。生体適合性高分子に対する重量比が0.001以下の場合、良溶媒中でのNFκBデコイの濃度が低すぎてナノ粒子内部への封入率が低くなり、1.0以上の場合、良溶媒中でのNFκBデコイの分散性が低下して添加量に対する封入効率が悪くなる。
【0084】
本発明で製造される生体適合性ナノ粒子は、1,000nm未満の平均粒子径を有するものであれば特に制限はないが、標的部位にNFκBデコイを導入するためナノ粒子を細胞内に取り込ませる必要がある。標的細胞内への浸透効果を高めるためには、平均粒子径を500nm以下とすることが好ましく、50nmから300nmがさらに好ましい。
【0085】
特に、経皮投与用途に用いられる場合、標的部位に送達されたナノ粒子が細胞膜のエンドサイトーシスを受けて細胞内に取り込まれることにより、高い遺伝子発現効率を実現するためには100nm以下がより好ましい。また、一般に、皮膚細胞の大きさは15,000nm、皮膚細胞間隔は皮膚の浅い所と深い所でバラツキがあるが、70nm程度であると考えられているため、ナノ粒子の平均粒子径を100nm以下とすることで、皮膚への浸透性が非常に高いナノ粒子となる。
【0086】
また、貧溶媒中のカチオン性高分子の濃度が高くなるほどナノ粒子表面のゼータ電位も上昇するが、それにつれてナノ粒子の粒子径も大きくなる。アニオン性のNFκBデコイを静電気的に担持させ、且つ細胞接着性を向上させるためにはゼータ電位がなるべく高い方が好ましいが、粒子径の増大は皮膚浸透性を低下させる。従って、カチオン性高分子の濃度を皮膚浸透し得る粒子径(複合化前の一次粒子径で200〜300nm)のナノ粒子を構築可能な濃度に設定する必要があり、例えばカチオン性高分子としてキトサンを用いる場合、貧溶媒中のキトサン濃度を2mg/mLとすることが好ましい。
【0087】
このようにして製造されたNFκBデコイ担持ナノ粒子を医薬製剤の原料として用いた場合、高濃度のNFκBデコイを含有するため剤形の小型化が可能となり、皮下及び静脈注射用、経肺投与用、或いは経皮、経口投与用等の種々の用途に使用することができる。特に、難治性の皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎用の経皮投与用製剤とした場合、副作用が心配されるステロイド系薬剤等を使用せざるを得ない現状の治療戦略に画期的な変化をもたらすなど、その寄与するところは非常に大きいと考えられる。
【0088】
皮下または静脈内等への注射用製剤に用いる場合は、ナノ粒子を生体適合性の緩衝液、例えばハンクスの溶液、リンゲル溶液、緩衝化生理食塩水等の水溶液、或いはゴマ油等の脂肪酸、オレイン酸エチルやトリグリセリド等の合成脂肪エステルのような油性溶媒に分散して、水性または油性の注射懸濁液とすることが好ましい。
【0089】
経皮製剤に用いる場合は、ワセリン、ラノリン、パラフィン、ろう、硬膏剤、樹脂、プラスチック、高級アルコール類、グリコール類、グリセリン等の基剤と共に、必要に応じて水や乳化剤、懸濁化剤等を配合して混合し、軟膏、クリーム剤、ローション、或いはゲル剤等とすることが好ましい。
【0090】
また、経口製剤に用いる場合は、粒子表面に担持されたNFκBデコイが消化酵素による分解を受けにくくなるように、キトサンや糖アルコール等の賦形剤を用いて錠剤化するか、カプセル内に充填してカプセル剤とすることが好ましい。
【0091】
なお、上記製剤中に、薬効成分以外の任意の成分、例えば粘性多糖類、リン酸塩、尿素、リン脂質等の浸透促進剤、界面活性剤、pH調整剤、油脂、水溶性高分子、着色料、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤等を、本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。
【0092】
その他、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0093】
以下、本発明の医薬製剤について実施例及び比較例により更に具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例においては、配列5′−CCTTGAAGGGATTTCCCTCC−3′(配列番号5)及びその相補的配列5′−GGAGGGAAATCCCTTCAAGG−3′(配列番号6)の二本鎖オリゴヌクレオチド(二本鎖オリゴヌクレオチド中の全ての塩基間結合はホスホロチオエート結合である)から成るNFκBデコイを用いた。
[NFκBデコイ含有PLGAナノスフェアの調製法]
【実施例1】
【0094】
NFκBデコイ50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520(商品名)、分子量20,000、乳酸/グリコール酸モル比=75/25)1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記NFκBデコイの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:クラレ社製ポバール403(商品名)、重合度約300、けん化度約80mol%)水溶液25mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX(商品名)、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0095】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、得られたナノスフェアの懸濁液にNFκBデコイ20mgをさらに添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、ナノスフェア表面にNFκBデコイが担持され、ナノスフェア内部にNFκBデコイが封入された水への再分散性の良好なNFκBデコイ内包/表面担持型PLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例2】
【0096】
実施例1で得られたナノスフェアの懸濁液にNFκBデコイ30mgをさらに添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なNFκBデコイ内包/表面担持型PLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例3】
【0097】
NFκBデコイ60mgを用いてPLGAナノスフェアの懸濁液を調製する以外は、実施例1と全く同様の方法により、水への再分散性の良好なNFκBデコイ内包/表面担持型PLGAナノスフェア粉末を得た。
【実施例4】
【0098】
生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520(商品名))1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、精製水6mLを添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403(商品名)、クラレ社製)水溶液25mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX(商品名)、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0099】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、得られたナノスフェアの懸濁液にNFκBデコイ30mgを添加し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、ナノスフェア表面にNFκBデコイが担持された水への再分散性の良好なNFκBデコイ表面担持型PLGAナノスフェア粉末を得た。
【比較例1】
【0100】
NFκBデコイ50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520(商品名))1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記NFκBデコイの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403(商品名)、クラレ社製)水溶液25mLを貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0101】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、遠心分離操作(20,000rpm、20分)により余剰のポリビニルアルコールを除去し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なPLGAナノスフェア粉末を得た。
【比較例2】
【0102】
NFκBデコイ50mgを精製水6mLに溶解させた。生体適合性高分子である乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA:和光純薬工業(株)製PLGA7520(商品名))1gをその良溶媒であるアセトン43mLに溶解してポリマー溶液とした後、前記NFκBデコイの水溶液を添加、混合し混合液とした。また、2重量%のポリビニルアルコール(PVA:ポバール403(商品名)、クラレ社製)水溶液25mL中に2重量%カチオニックキトサン(モイスコートPX(商品名)、片倉チッカリン製)水溶液5gを混合し貧溶媒とした。この貧溶媒中に前記混合液を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノスフェアの懸濁液を得た。
【0103】
続いて、減圧下アセトンを留去した後、遠心分離操作(20,000rpm、20分)により余剰のポリビニルアルコールを除去し、−45℃で凍結乾燥し粉末化して、水への再分散性の良好なNFκBデコイ内包型PLGAナノスフェア粉末を得た。
【比較例3】
【0104】
実施例4で得られたPLGAナノスフェアの懸濁液を−45℃で凍結乾燥し粉末化した後、NFκBデコイ粉末をPLGAに対し2重量%の割合で均一に混合してNFκBデコイとPLGAナノスフェアの混合粉末を得た。
【実施例5】
【0105】
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたPLGAナノスフェアを水中へ再分散させた際の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC UPA(商品名)、HONEYWELL社製)により測定した。また、凍結乾燥後の粒子表面のゼータ電位をゼータ電位計(ZETASIZER Nano−Z(商品名)、Malvern Instruments 社製)を用いて測定した。さらに、分光光度計(V−530(商品名)、日本分光製、測定波長260nm)を用いて粒子中のNFκBデコイ含有率(PLGAナノスフェアに対するNFκBデコイの重量比)を定量した。測定結果を表1に示す。また、比較例1〜3で得られたナノスフェアの構造を図3〜図5に模式的に示す。なお、実施例1〜3で得られたナノスフェアの構造は図2、実施例4で得られたナノスフェアの構造は図1で示される。
【0106】
【表1】

※含有率の理論値(%)=PLGAナノスフェアに対するNFκBデコイの仕込み量 ×100を(内包+表面担持)に分けて示した。
【0107】
表1に示すように、凍結乾燥後におけるPLGAナノスフェアの平均粒子径は、実施例1〜4、比較例1〜3の順に、それぞれ355nm、533nm、474nm、413nm、280nm、360nm、及び466nmであり、おおよそ280nm〜530nmの範囲に分布していた。
【0108】
また、貧溶媒中にキトサンを添加した実施例1〜4、比較例2、3のナノスフェア表面のゼータ電位は、それぞれ+46.81mV、+27.07mV、+43.07mV、+55.83mV、+4.895mV、及び+88.11mVであり、粒子表面はプラスに帯電されていた。なお、比較例2のゼータ電位が他に比べて低いのは、遠心分離操作によりポリビニルアルコールと共に粒子表面のキトサンが除去されたためであると推認された。一方、貧溶媒中にキトサンを添加しなかった比較例1のナノスフェア表面のゼータ電位は−34.16mVであり、粒子表面はマイナスに帯電されていた。
【0109】
さらに、実施例1〜実施例4、及び比較例2のナノスフェアでは、NFκBデコイの含有率がそれぞれ3.5%、4.2%、5.5%、2.4%、及び4.5%であり、それぞれの理論値と同等若しくはそれ以上の封入率が得られた。これは、ナノ粒子1の表面に吸着されたカチオン性高分子(キトサン)3がNFκBデコイ4を静電気的に担持するとともに、貧溶媒中へのNFκBデコイ4の漏出を抑制してナノスフェア内部へのNFκBデコイ4の封入が可能となったため(図1、図2及び図4参照)であると推認された。
【0110】
なお、実施例1〜3において、粒子に内包されるNFκBデコイ含有率の理論値(3.0%及び3.6%)が、比較例2(4.8%)よりも低いのは、実施例1〜3では遠心分離操作を行わないため、比較例2に比べて粒子表面のキトサンやポリビニルアルコールの付着量が多く、含有率の算出において分母となるPLGAナノスフェアの総重量が大きくなっているためである。
【0111】
一方、貧溶媒中にキトサンを添加しなかった比較例1のナノスフェアは、内部にNFκBデコイがほとんど封入されていなかった。この結果より、比較例1においては水溶性であるNFκBデコイが外相である貧溶媒中に漏出し、図3に示すようにPLGAのみが沈積してナノスフェアを形成したものと推認された。
[NFκBデコイ含有PLGAナノスフェアからのNFκBデコイ溶出試験(in vitro)]
【実施例6】
【0112】
実施例1と同様の方法により調製したNFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェア(平均粒子径469nm、NFκBデコイ含有率5.4%)、及び比較例2と同様の方法により調製したNFκBデコイ内包型のPLGAナノスフェア(平均粒子径316nm、NFκBデコイ含有率3.4%)を500mgずつ秤量し、それぞれ生理食塩水50mLに分散した。分散液を32±0.5℃の温水浴中で攪拌した。その後、所定時間毎に5mLずつサンプリングを行い、10NのNaOH水溶液を100μL添加した後、メンブランフィルタ(0.2μm)でろ過した。ろ過液1mLを3.3MのNaCl水溶液(10NのNaOH水溶液でpH12に調整)で10mLにメスアップし、分光光度計(V−530(商品名)、日本分光製)を用いて測定し、得られた吸収波形のピークトップである波長260nmにおける吸収を用いてNFκBデコイ溶出量及び溶出率を計算した。結果を図6に示す。
【0113】
図6から明らかなように、NFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェアでは、分散後4時間でのNFκBデコイの溶出量は約7mg、溶出率は約30%であった。これは、粒子表面に担持されたNFκBデコイが投与後4時間以内の初期に溶出し、その後粒子に内包されたNFκBデコイが徐々に放出されるためであると推認された。一方、NFκBデコイ内包型のPLGAナノスフェアでは、4時間後のNFκBデコイの溶出率は5%以下であった。
【0114】
また、分散後4日目(96h後)においては、NFκBデコイの溶出量はNFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェアで約19mg、NFκBデコイ内包型のPLGAナノスフェアで約10mgであり、溶出率は共に50%を超えていた。また、7日後(168h後)においては、NFκBデコイの溶出量はNFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェアで約23mg、NFκBデコイ内包型のPLGAナノスフェアで約13mgであり、溶出率は共に70%を超えていた。この結果より、NFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェアの方がNFκBデコイ内包型に比べて即効性の面で有利であることが確認された。
【0115】
[オバルブミン(Ovalbumin)誘発遅延型アレルギーモデルを用いたNFκBデコイ含有PLGAナノスフェアの薬効評価(in vivo)]
実施例1〜4、比較例1〜3において調製したPLGAナノスフェアを用い、感作物質としてオバルブミン(卵白アルブミン、以下OVAと略す)を用いたOVA誘発遅延型アレルギー(DTH)モデルに対する抑制効果を調査した。試験方法を以下に説明する。
【実施例7】
【0116】
(薬剤サンプルの調製)
実施例1及び2で得られたPLGAナノスフェアを所定量秤量して少量の精製水に分散し、製剤中の水分含量が30%となるように白色ワセリンと混合して、NFκBデコイ含有率が0.05%、0.15%、0.5%の3種類のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を調製した。また、比較対照として、NFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏(陽性対照)及びNFκBデコイ未添加のワセリン軟膏(陰性対照)を調製した。
【0117】
(DTH反応抑制評価試験)
評価方法としては、2次感作の前日に評価サンプルを投与し、2次感作における感作物質に対する生体内の免疫システム緩和効果、即ち一旦生成した抗体によるアレルギー反応抑制効果を評価することが多いが、ここでは1次感作の前日に評価サンプルを投与することにより、アレルギー反応のさらに前段となる、受容細胞がOVAを抗原と認識しないようにする作用について評価した。
【0118】
BALB/cマウス(7週齢、雌、日本クレア社)の腹部にクリーム剤又は軟膏を1匹当たり10mg塗布した(各塗布群につきn=15)。1日後、5mg/mLのOVAを含む生理食塩水溶液を、腹部の2箇所に100μLずつ皮下注射した(1次感作)。
【0119】
OVA投与後8日目に、2mg/mLのOVAを含む生理食塩水溶液50μLを皮下注射により右後肢の足裏に投与した(2次感作)。一方、左後肢の足裏にはPBS(リン酸バッファ液)50μLを投与した。また、1次感作及び2次感作を行わないマウスを正常群(コントロール群)とした(n=15)。1日後、右後肢及び左後肢の足厚をノギスにより測定し、その差をOVAに対するDTH反応とした。各塗布群及び正常群について足厚の差の平均値を算出して統計処理を行い、DTH反応に対する抑制効果を評価した。
【0120】
有意差検定法としては、NFκBデコイ未添加のワセリン軟膏(陰性対照)に対するNFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏(陽性対照)の有意差については2群間の検定に好適なWilcoxson検定を用い、NFκBデコイ濃度が0.05%、0.15%、0.5%の3段階であるPLGAナノスフェア含有クリーム剤の有意差については、対照に対して各濃度の差を加味した有意差の検定が可能なDunnett検定を用いた。結果を図7、図8に示す。
【0121】
図7から明らかなように、実施例1のNFκBデコイ内包/表面担持型PLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、NFκBデコイ含有率が0.05%、0.15%、0.5%のクリーム剤塗布群において、右後肢と左後肢の足厚の差がそれぞれ95×10-3mm、75×10-3mm、70×10-3mmとなり、いずれもNFκBデコイ未含有ワセリン軟膏塗布群(110×10-3mm)と比較してDTH反応が抑制された。特に、NFκBデコイ含有率0.15%、0.5%のクリーム剤塗布群においては、NFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏塗布群(70×10-3mm)とほぼ同等に有意に抑制された(p<0.05)。
【0122】
また、実施例1よりもNFκBデコイの表面担持量が多い実施例2のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を用いて同様に評価した図8においても、NFκBデコイ含有率が0.05%、0.15%、0.5%のクリーム剤塗布群において、右後肢と左後肢の足厚の差がそれぞれ120×10-3mm、105×10-3mm、100×10-3mmとなり、いずれもNFκBデコイ未含有ワセリン軟膏塗布群(150×10-3mm)と比較してDTH反応が抑制された。特に、NFκBデコイ含有率0.15%、0.5%のクリーム剤塗布群においては、NFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏塗布群(90×10-3mm)とほぼ同等に有意に抑制された(p<0.05)。
【0123】
この結果より、NFκBデコイ内包/表面担持型のPLGAナノスフェアをクリーム剤に配合した場合は、NFκBデコイをそのまま配合した軟膏と比較して約1/10の低用量での有効性が認められた。これは、PLGAナノスフェアがキャリアとして作用することにより、NFκBデコイの細胞内への取り込み効率が約10倍高くなったためであると推認された。
【実施例8】
【0124】
実施例3、4及び比較例1〜3で得られたPLGAナノスフェアを用いて、実施例7と同様の方法によりNFκBデコイ含有率が0.5%のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を調製し、実施例7と同様の方法によりOVAに対するDTH反応の抑制効果を評価した。NFκBデコイ濃度が0.5%の1段階であるため、有意差検定法としては2群間の検定に好適なWilcoxson検定を用いた。結果を図9に示す。
【0125】
図9から明らかなように、NFκBデコイの表面担持量を減らし内包量を増加させた実施例3、及びNFκBデコイを表面にのみ担持した実施例4のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、足厚の差は共に70×10-3mmとなり、いずれもNFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏塗布群(80×10-3mm)とほぼ同等にDTH反応が有意に抑制された(p<0.05)。
【0126】
一方、NFκBデコイ内包型の比較例2のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、足厚の差は110×10-3mmとなり、NFκBデコイ未含有ワセリン軟膏塗布群(130×10-3mm)と比較してDTH反応が抑制されたが、NFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏塗布群(80×10-3mm)と比較すると抑制効果は低く、有効用量の低下は認められなかった。
【0127】
実施例6において、NFκBデコイ内包/表面担持型PLGAナノスフェアでは24時間後のNFκBデコイ溶出率が40%に達していたのに対し、NFκBデコイ内包型PLGAナノスフェアでは20%未満であったことを考慮すると(図6参照)、実施例3及び4のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、ナノスフェア表面に担持されたNFκBデコイが投与後短時間で溶出して即効性に寄与していることが推認された。
【0128】
また、NFκBデコイ未含有のPLGAナノスフェアとNFκBデコイ粉末を混合した比較例3のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、足厚の差は110×10-3mmとなり、NFκBデコイ2%含有ワセリン軟膏塗布群(80×10-3mm)と比較すると抑制効果は低かった。これは、図5に示すようにナノスフェア1表面へのNFκBデコイ4の吸着力が弱いため、NFκBデコイ4がナノスフェア1と共に皮膚を透過して細胞内部まで十分に到達しないためであると推認された。
【0129】
なお、NFκBデコイを含有しない比較例1のPLGAナノスフェア含有クリーム剤を塗布した場合、足厚の差は170×10-3mmであり、DTH反応の抑制効果は認められなかった。この結果より、PLGA自体には抑制効果は無いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の医薬製剤によれば、カチオン性高分子により表面のゼータ電位を正とし、NFκBデコイを静電気的に担持させた生体適合性ナノ粒子を用いたので、生体内浸透性が高く細胞内部へのNFκBデコイ導入効率の高い医薬製剤となる。また、投与後短時間でNFκBデコイが溶出するため、即効性においても有利となる。従って、バリア機能の高い部位においてもNFκBデコイが疾患部位の細胞内部まで迅速に且つ十分に送達されるため、難治性の皮膚疾患であるアトピー性皮膚炎に対する有効な治療薬として期待できる。
【0131】
また、ナノ粒子の内部にもNFκBデコイを封入しておくことにより、NFκBデコイの含有率をより高めて剤形の小型化が可能であるとともに、即効性と持続性とを兼ね備えた医薬製剤となる。さらに、カチオン性高分子としてキトサンやキトサン誘導体を用い、生体適合性高分子としてポリ乳酸、ポリグリコール酸、PLGAのいずれかを用いることにより、安全性が高く、安定性、徐放性にも優れた医薬製剤となる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】は、粒子表面に静電気的にNFκBデコイが担持されたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図2】は、粒子表面に静電気的にNFκBデコイが担持され、粒子内部にもNFκBデコイを封入したナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図3】は、比較例1で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図4】は、比較例2で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図5】は、比較例3で得られたナノスフェアの構造を示す模式図である。
【図6】は、NFκBデコイ内包/表面担持型及びNFκBデコイ内包型ナノスフェアからのNFκBデコイの溶出挙動を示すグラフである。
【図7】は、実施例1のナノスフェアを用いた場合のOVA誘発遅延型アレルギー抑制効果を示すグラフである。
【図8】は、実施例2のナノスフェアを用いた場合のOVA誘発遅延型アレルギー抑制効果を示すグラフである。
【図9】は、実施例3、4及び比較例1〜3のナノスフェアを用いた場合のOVA誘発遅延型アレルギー抑制効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0133】
1 生体適合性ナノ粒子(ナノスフェア)
2 ポリビニルアルコール
3 カチオン性高分子
4 NFκBデコイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面がカチオン性高分子で被覆され、当該表面にNFκBデコイオリゴヌクレオチドが吸着担持されている生体適合性高分子のナノ粒子を含む医薬製剤。
【請求項2】
NFκBデコイオリゴヌクレオチドが前記ナノ粒子の内部にも封入されていることを特徴とする請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
前記ナノ粒子を結合剤により複合化するとともに、前記結合剤で形成された外層にNFκBデコイオリゴヌクレオチドをさらに封入したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医薬製剤。
【請求項4】
前記カチオン性高分子が、キトサンまたはキトサン誘導体であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記生体適合性高分子が、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、若しくは乳酸・グリコール酸共重合体のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、以下の配列番号1で表されるNFκB結合配列を含む請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の医薬製剤。
[G]nGGRHTYYHC (配列番号1)
(式中、nは0または1を、RはAまたはGを、YはCまたはTを、HはA、CまたはTをそれぞれ意味する。)
【請求項7】
前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、NFκB結合配列としてGGGATTTCCC(配列番号2)、GGGACTTTCC(配列番号3)、又はGGACTTTCC(配列番号4)の少なくとも一つを含む請求項6に記載の医薬製剤。
【請求項8】
前記NFκBデコイオリゴヌクレオチドが、配列5′−CCTTGAAGGGATTTCCCTCC−3′(配列番号5)及びこれに相補的な配列5′−GGAGGGAAATCCCTTCAAGG−3′(配列番号6)からなる二本鎖オリゴヌクレオチドである請求項7に記載の医薬製剤。
【請求項9】
前記ナノ粒子中のNFκBデコイオリゴヌクレオチドの含有率が0.5重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項10】
前記ナノ粒子の平均粒子径が10nm以上1,000nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項11】
前記ナノ粒子の平均粒子径が50nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項10に記載の医薬製剤。
【請求項12】
皮膚疾患の治療に使用されることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
皮膚疾患がアトピー性皮膚炎である請求項12に記載の医薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−56611(P2008−56611A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235153(P2006−235153)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本DDS学会、第22回日本DDS学会プログラム予稿集(2006年6月20日発行)
【出願人】(502360363)株式会社ホソカワ粉体技術研究所 (59)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【Fターム(参考)】