説明

十字軸継手およびその製造方法

【課題】十字軸部材の強度のばらつきを防止し、十字軸部材の安定した強度を確保できる十字軸継手およびその製造方法を提供する。
【解決手段】十字軸部材30には、ファイバーフロー100の方向を識別可能な識別子60が設けられている。そして、識別子60に基づいて、駆動側軸部32Aと該駆動側軸部32Aに対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部33Bとをファイバーフロー100がつなぐように、かつ、駆動側軸部34Aと該駆動側軸部34Aに対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部35Bとをファイバーフロー100がつなぐように、十字軸部材30が駆動側ヨーク10および従動側ヨーク20に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のヨーク部材を十字軸部材により連結して構成される十字軸継手およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
十字軸継手は、一対のヨーク部材とそれらを連結する十字軸部材とを備えて構成される。十字軸部材は、胴部と該胴部からから十字状に配置された4つの軸部とを備える。この十字軸部材は、例えば特開平9−151955号公報(特許文献1)に記載されているように、鍛造により形成される。
【0003】
ところで、鍛造により形成される製品には、ファイバーフロー(メタルフロー、鍛流線とも称される)という金属組織の流れが生じる。ファイバーフローについては、例えば、特開2008−36710号公報(特許文献2)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−151955号公報
【特許文献2】特開2008−36710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、十字軸継手において、十字軸部材の強度にばらつきが生じていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、十字軸部材の強度のばらつきを防止し、十字軸部材の安定した強度を確保できる十字軸継手およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ね、十字軸部材の強度のばらつきとファイバーフローとの関係に着目し、本発明を発明するに至った。すなわち、ファイバーフローの方向と伝達トルクの方向との関係を統一することとした。本発明に係る十字軸継手およびその製造方法は、以下の通りである。
【0007】
(十字軸継手)
(請求項1)本発明に係る十字軸継手は、胴部と該胴部から十字状に配置された4つの軸部とを備える十字軸部材と、4つの前記軸部のうち同軸状の2つの駆動側軸部に取り付けられ、回転駆動力を前記駆動側軸部に伝達する駆動側ヨークと、4つの前記軸部のうち残りの2つの従動側軸部に取り付けられ、前記従動側軸部から回転駆動力が伝達される従動側ヨークと、を備え、前記十字軸部材には、鍛造形成によって、一方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐと共に、他方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐようにファイバーフローが形成され、前記十字軸部材には、前記ファイバーフローの方向を識別可能な識別子が設けられ、前記駆動側軸部が前記駆動側ヨークから受ける伝達トルクの方向をトルク負荷方向と定義し、前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記トルク負荷方向の反対側に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材が前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付けられている。
【0008】
(請求項2)また、前記十字軸継手は、最大トルクがかかる主回転方向と該主回転方向の反対方向である副回転方向とに回転可能であり、前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記副回転方向に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材が前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付けられているとしてもよい。
(請求項3)また、前記十字軸継手は、車両の動力伝達装置に適用され、前記主回転方向は、車両の前進時の前記十字軸継手の回転方向としてもよい。
【0009】
(十字軸継手の製造方法)
(請求項4)本発明に係る十字軸継手の製造方法は、以下の通りである。前記十字軸継手は、胴部と該胴部から十字状に配置された4つの軸部とを備える十字軸部材と、4つの前記軸部のうち同軸状の2つの駆動側軸部に取り付けられ、回転駆動力を前記駆動側軸部に伝達する駆動側ヨークと、4つの前記軸部のうち残りの2つの従動側軸部に取り付けられ、前記従動側軸部から回転駆動力が伝達される従動側ヨークと、を備え、前記十字軸部材には、鍛造形成によって、一方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐと共に、他方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐようにファイバーフローが形成され、前記十字軸部材には、前記ファイバーフローの方向を識別可能な識別子が設けられる。駆動側軸部が前記駆動側ヨークから受ける伝達トルクの方向をトルク負荷方向と定義する。そして、前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記トルク負荷方向の反対側に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材を前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付ける。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1)本発明によれば、駆動側軸部と該駆動側軸部に対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部とをファイバーフローがつなぐように、十字軸部材が駆動側ヨークおよび従動側ヨークに取り付けられている。このような取付を行うために、識別子に基づいて行われる。
【0011】
十字軸部材にかかる力について説明する。十字軸部材は、駆動側ヨークから回転駆動力が伝達されて、従動側ヨークへ回転駆動力を伝達する。そのため、十字軸部材における隣り合う軸部同士は、周方向に遠ざかるように変形する場合と、周方向近づくように変形する場合とがある。具体的には、ある駆動側軸部と該駆動側軸部に対してトルク負荷方向に隣り合う従動側軸部とは、周方向に近づくように変形する。一方、ある駆動側軸部と該駆動側軸部に対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部とは、周方向に遠ざかるように変形する。
【0012】
ここで、ファイバーフローの方向と強度との関係について説明する。ファイバーフローの延びている方向に対して直交する方向のせん断力に対して、大きな強度を有する。一方、ファイバーフローの延びている方向に平行な方向のせん断力に対しては、相対的に強度が低下する。本発明によれば、ファイバーフローは、駆動側軸部と該駆動側軸部に対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部とをつなぐように流れている。つまり、ファイバーフローによりつながれている駆動側軸部と従動側軸部とが遠ざかるように変形する。そうすると、当該駆動側軸部と当該従動側軸部との間には、せん断力が作用する。
【0013】
しかしながら、当該軸部同士は、ファイバーフローによりつながれているため、せん断力に対して高い強度を有する。従って、常に、駆動側軸部と該駆動側軸部に対してトルク負荷方向の反対側に隣り合う従動側軸部とをファイバーフローがつなぐように、十字軸部材が駆動側ヨークおよび従動側ヨークに取り付けることで、強度のばらつきを防止して、強度の安定化を図ることができる。
【0014】
そして、常に上記のように取り付けるために、十字軸部材に設けられている識別子を用いている。この識別子は、十字軸部材に設けられ、ファイバーフローの方向を識別可能な識別子である。つまり、識別子に基づいて、十字軸部材を駆動側ヨークおよび従動側ヨークに取り付けることで、確実にばらつきを防止でき、強度の安定化を図ることができる。
【0015】
(請求項2)十字軸継手が両方向に回転する場合であって、最大トルクに差があることが一般的である。そこで、最大トルクが大きい方を主回転方向とし、最大トルクが小さい方を副回転方向とする。この場合に、識別子に基づいて駆動側軸部と該駆動側軸部に対して副回転方向に隣り合う従動側軸部とをファイバーフローがつなぐようにすることで、主回転方向に十字軸継手が回転する場合に高い強度にできる。
(請求項3)車両の動力伝達装置に十字軸継手を適用する場合には、車両の前進時における十字軸継手の回転方向の場合に最大トルクが生じる。そこで、主回転方向を、車両の前進時の十字軸継手の回転方向とすることで、確実に上記効果を奏する。
【0016】
(請求項4)上記においては、本発明を十字軸継手として捉えたが、本発明は、十字軸継手の製造方法として捉えることもできる。そこで、本発明に係る十字軸継手の製造方法によれば、上記の十字軸継手による効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態における十字軸継手の全体図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】本実施形態における十字軸継手の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図2の十字軸部材のファイバーフローを示す模式図であり、二点鎖線にて変形後の十字軸部材の形状を示す。
【図5】比較例としての十字軸部材のファイバーフローを示す模式図であり、二点鎖線にて変形後の十字軸部材の形状を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(十字軸継手の構成)
本実施形態の十字軸継手の構成について、図1および図2を参照して説明する。十字軸継手は、例えば、車両の動力伝達装置を構成するプロペラシャフトとして適用される。なお、本発明の十字軸継手は、プロペラシャフトに限られるものではなく、他の回転駆動力を伝達する装置に適用可能である。ただし、以下において、プロペラシャフトに適用した場合における十字軸継手について説明する。
【0019】
十字軸継手1の概要について、図1を参照して説明する。十字軸継手1は、2つのシャフト2,3を連結しており、両シャフト2,3を傾けた状態で回転駆動力を一方のシャフト2から他方のシャフト3へ伝達する。ここで、一方のシャフト2は、エンジンなどの駆動源(図示せず)から回転駆動力を伝達されたシャフトであり、以下、駆動側シャフトと称する。従動側シャフト3は、ディファレンシャル装置(図示せず)側に連結され、駆動側シャフト2から十字軸継手1を介して伝達された回転駆動力をディファレンシャル装置へ伝達する。
【0020】
ここで、車両の前進時におけるプロペラシャフトの回転方向を図1の回転矢印にて示す。車両前進時の回転方向を主回転方向とする。一方、車両の後進時におけるプロペラシャフトの回転方向は、図1の回転矢印とは反対方向となる。車両後進時の回転方向を副回転方向とする。一般に、主回転方向は、副回転方向に比べて、最大トルクが大きく、かつ、使用頻度が高い。
【0021】
次に、十字軸継手1の詳細構成について図1および図2を参照して説明する。十字軸継手1は、駆動側ヨーク10と、従動側ヨーク20と、十字軸部材30と、キャップユニット40と、スナップリング50とを備えて構成される。また、図2において、車両前進時である正回転方向を時計回りとする。
【0022】
駆動側ヨーク10は、駆動側シャフト2の一端に設けられ、駆動側シャフト2の軸方向外方に開口するU字形状状に形成されている。この駆動側ヨーク10の対向面には、駆動側シャフト2の軸方向に直交する軸に同軸状となるように貫通孔11,11が形成されている。
【0023】
従動側ヨーク20は、従動側シャフト3の一端に設けられ、従動側シャフト3の軸方向外方に開口するU字形状状に形成されている。この従動側ヨーク20の対向面には、従動側シャフト3の軸方向に直交する軸に同軸状となるように貫通孔21,21が形成されている。そして、駆動側ヨーク10のU字形状の開口側と従動側ヨーク20のU字形状の開口側とが向かい合うように、両ヨーク10,20が配置される。
【0024】
十字軸部材30は、駆動側ヨーク10および従動側ヨーク20に連結され、駆動側ヨーク10から従動側ヨーク20へ回転駆動力トルクを伝達する。十字軸部材30は、図2に示すように、胴部31と、該胴部31から十字状に配置された4つの軸部32A,33B,34A,35Bとを備え、これらを一体的に形成されている。
【0025】
4つの軸部32A,33B,34A,35Bのうち2つの軸部32A,34Aは、ほぼ円柱状に形成され、かつ同軸状に設けられている。2つの軸部32A,34Aは、駆動側ヨーク10の貫通孔11,11にそれぞれ挿入されて取り付けられ、駆動側ヨーク10から回転駆動力が伝達される。そこで、以下、当該2つの軸部32A,34Aを、駆動側軸部32A,34Aと称する。
【0026】
また、残りの2つの軸部33B,35Bは、ほぼ円柱状に形成され、かつ同軸状に設けられている。そして、当該2つの軸部33B,35Bは、駆動側軸部32A,34Aに対して、90度の角度をなしている。2つの軸部33B,35Bは、従動側ヨーク20の貫通孔21,21にそれぞれ挿入されて取り付けられ、従動側ヨーク20へ回転駆動力を伝達する。そこで、以下、当該2つの軸部33B,35Bを、従動側軸部33B,35Bと称する。
【0027】
さらに、胴部31には、駆動側軸部32A,34Aと従動側軸部33B,35Bとを識別可能となるように識別子60が設けられている。図2においては、例えば、識別子60は、駆動側軸部32A,34Aに近い位置に、焼き付けなどによる刻印を付している。この他に、駆動側軸部32A,34Aと従動側軸部33B,35Bとを識別可能であれば、識別子60は、刻印に限られず、凹状の穴などを形成してもよい。
【0028】
キャップユニット40は、有底筒状に形成されており、それぞれの軸部32A,33B,34A,35Bに被せられ、それぞれの軸回りに相対回転可能に設けられている。さらに、キャップユニット40は、それぞれのヨーク10,20の貫通孔11,12に嵌め込まれている。このキャップユニット40は、カップ部41と、転動体42と、シール部材43とを備えて構成される。
【0029】
カップ部41は、有底円筒状に形成されており、各軸部32A,33B,34A,35Bを収容する。さらに、カップ部41は、各ヨーク10,20の各貫通孔11,12に嵌め込まれる。このカップ部41の外周面には、軸方向中央部に環状溝41aが形成されている。転動体42は、各カップ部41の内周面と各軸部32A,33B,34A,35Bの外周面との間に、周方向に沿って複数配置されている。つまり、転動体42は、各カップ部41と各軸部32A,33B,34A,35Bとが各軸回りに回転可能に支持する。シール部材43は、カップ部41の内周面の開口端側に固定され、各軸部32A,33B,34A,35Bの外周面の根元側に当接する。つまり、シール部材43は、外部からカップ部41の内部に塵埃が侵入することを防止する。
【0030】
スナップリング50は、各カップ部41の環状溝41aに装着され、各ヨーク10,20の貫通孔11,12の内側開口縁に対して係合する。つまり、スナップリング50は、各カップ部41が、各ヨーク10,20から径方向外方に離脱することを防止している。
【0031】
(十字軸継手の製造方法)
上述した十字軸継手1の製造方法について、図3を参照して説明する。図3に示すように、キャップユニット40の組み付けを行う(S1)。すなわち、カップ部41、転動体42およびシール部材43を組み付ける。続いて、識別子60を確認しながら、識別子60が付されている側に位置する駆動側軸部32A,34Aを駆動側ヨーク10の貫通孔11,11に挿入する(S2)。続いて、キャップユニット40を、貫通孔11,11の外方から嵌め入れながら、駆動側軸部32A,34Aに装着する(S3)。続いて、スナップリング50を、駆動側軸部32A,34Aに装着したカップ部41の環状溝41aに装着する(S4)。このようにして、駆動側軸部32A,34Aは、キャップユニット40を介して、駆動側ヨーク10に取り付けられる。
【0032】
さらに続いて、識別子60が付されていない側に位置する従動側軸部33B,35Bを従動側ヨーク20の貫通孔21,21に挿入する(S5)。続いて、キャップユニット40を、貫通孔21,21の外方から嵌め入れながら、従動側軸部33B,35Bに装着する(S6)。続いて、スナップリング50を、従動側軸部33B,35Bに装着したカップ部41の環状溝41aに装着する(S7)。このようにして、従動側軸部33B,35Bは、キャップユニット40を介して、従動側ヨーク20に取り付けられる。
【0033】
(十字軸部材のファイバーフロー)
次に、十字軸部材30のファイバーフロー100について、図4を参照して説明する。十字軸部材30は、鋼材またはアルミニウムなどの金属塊を、鍛造により形成する。例えば、特開平9−151955号公報に記載されている製造方法により、十字軸部材30は形成される。
【0034】
鍛造により形成される製品には、ファイバーフロー100という金属組織の流れが生じる。十字軸部材30は、金属塊から、各軸部32A,33B,34A,35Bを引き延ばすように形成される。そうすると、図4の細線にて示すようなファイバーフロー100が、十字軸部材30に形成される。
【0035】
十字軸部材30におけるファイバーフロー100の詳細について説明する。図4に示すように、ファイバーフロー100は、各軸部32A,33B,34A,35Bの部分においては、各軸方向に平行ではないが、各軸方向成分が大きくなる方向に向かって延びるように形成されている。そして、ファイバーフロー100は、一方の駆動側軸部32Aとそれに隣り合う従動側軸部35Bとをつなぐと共に、他方の駆動側軸部34Aとそれに隣り合う従動側軸部33Bとをつなぐように形成されている。そのため、一方の駆動側軸部32Aと他方の従動側軸部33B、および、他方の駆動側軸部34Aと一方の従動側軸部35Bは、ファイバーフロー100によりつながれていない。
【0036】
ここで、図4においては、識別子60を図示している。そして、上記製造方法にて説明したように、識別子60を確認しながら、十字軸部材30を各ヨーク10,20に取り付けている。そのため、ファイバーフロー100は、駆動側軸部32Aと該駆動側軸部32Aに対して正回転方向の反対側(反時計回り)に隣り合う従動側軸部33Bとをつなぐように流れており、かつ、駆動側軸部34Aと該駆動側軸部34Aに対して正回転方向の反対側(反時計回り)に隣り合う従動側軸部35Bとをつなぐように流れている。
【0037】
(実施形態:トルク負荷時の十字軸部材)
次に、図4を参照して、本実施形態において、十字軸部材30がトルク負荷時に受ける力とファイバーフロー100との関係について説明する。図4に示すように、時計回りが車両前進時の正回転方向である。このとき、駆動側軸部32A(図4の上部)は、駆動側ヨーク10によって主回転方向へのトルクTinを受ける。また、駆動側軸部34A(図4の下部)も、駆動側ヨーク10によって主回転方向へのトルクTinを受ける。つまり、駆動側軸部32A,34Aが駆動側ヨーク10から受けるトルク負荷方向は、車両前進時の正回転方向となる。駆動側軸部32A,34Aが当該トルクを受けることによって、図4の二点鎖線にて示すように、先端側が正回転方向に撓むように変形する。
【0038】
一方、従動側軸部33B(図4の左部)は、従動側ヨーク20へ正回転方向の回転駆動力を伝達するため、作用反作用の関係により、従動側ヨーク20によって副回転方向(正回転方向の反対方向)へのトルクToutを受ける。また、従動側軸部33B(図4の右部)も、従動側ヨーク20によって副回転方向へのトルクToutを受ける。つまり、従動側軸部33B,35Bが従動側ヨーク20から受けるトルク負荷方向は、車両前進時の副回転方向となる。従動側軸部33B,35Bが当該トルクを受けることによって、図4の二点鎖線にて示すように、先端側が副回転方向に撓むように変形する。
【0039】
そうすると、一方の駆動側軸部32Aと一方の従動側軸部33Bとは、相互に周方向に遠ざかるように変形する。また、他方の駆動側軸部34Aと他方の従動側軸部35Bとは、相互に周方向に遠ざかるように変形する。そのため、駆動側軸部32Aと従動側軸部33Bとの間、および、駆動側軸部34Aと従動側軸部35Bとの間に、十字軸部材30の径方向に向かうせん断力τaが発生する。
【0040】
一方、駆動側軸部32Aと従動側軸部35B、および、駆動側軸部34Aと従動側軸部33Bとは、それぞれ、相互に周方向に近づくように変形する。そのため、駆動側軸部32Aと従動側軸部35Bとの間、および、駆動側軸部34Aと従動側軸部33Bとの間には、十字軸部材30の径方向に向かうせん断力が発生しない。
【0041】
ここで、ファイバーフロー100の方向と強度との関係について説明する。ファイバーフロー100の延びている方向に対して直交する方向のせん断力に対して、大きな強度を有する。一方、ファイバーフロー100の延びている方向に平行な方向のせん断力に対しては、相対的に強度が低下する。本実施形態によれば、ファイバーフロー100は、駆動側軸部32Aと該駆動側軸部32Aに対して副回転方向に隣り合う従動側軸部33Bとをつなぐように流れており、かつ、駆動側軸部34Aと該駆動側軸部34Aに対して副回転方向に隣り合う従動側軸部35Bとをつなぐように流れている。
【0042】
つまり、せん断力τaが作用する部分を跨ぐ軸部同士は、ファイバーフロー100によりつながれている。そのため、せん断力τaに対して高い強度を有する。従って、常に、駆動側軸部32Aと副回転方向に隣り合う従動側軸部33Bとをファイバーフロー100がつなぐように、かつ、駆動側軸部34Aと副回転方向に隣り合う従動側軸部35Bとをファイバーフロー100がつなぐように、十字軸部材30が駆動側ヨーク10および従動側ヨーク20に取り付けることで、強度のばらつきを防止して、強度の安定化を図ることができる。
【0043】
ここで、十字軸部材30に設けられている識別子60によって、十字軸部材30を駆動側ヨーク10および従動側ヨーク20に取り付けることで、常に上記のように取り付けることができる。
【0044】
(比較例:トルク負荷時の十字軸部材)
比較例として、駆動側軸部32Aと正回転方向に隣り合う従動側軸部35B、かつ、駆動側軸部34Aと従動側軸部33Bとをファイバーフロー200がつなぐように、十字軸部材130が駆動側ヨーク10および従動側ヨーク20に取り付けられた場合について、図5を参照して説明する。
【0045】
この場合、図4と同様に、駆動側軸部32Aと従動側軸部33Bとの間、および、駆動側軸部34Aと従動側軸部35Bとの間に、十字軸部材30の径方向に向かうせん断力τbが発生する。つまり、せん断力τbが作用する部分を跨ぐ軸部同士は、ファイバーフロー200によりつながれている。従って、ファイバーフロー200の延びている方向に平行な方向にせん断力τbが発生する。そのため、せん断力τbに対して強度が低くなる。
【0046】
しかし、本実施形態によれば、識別子60を確認しながら、駆動側軸部32Aと副回転方向に隣り合う従動側軸部33Bとをファイバーフロー100がつなぐように、かつ、駆動側軸部34Aと副回転方向に隣り合う従動側軸部35Bとをファイバーフロー100がつなぐようにできる。従って、図5に示すような状態になることを防止できる。
【符号の説明】
【0047】
1:十字軸継手、 2:駆動側シャフト、 3:従動側シャフト、 10:駆動側ヨーク、 20:従動側ヨーク、 30,130:十字軸部材、 31:胴部、 32A,34A:駆動側軸部、 33B,35B:従動側軸部、 40:キャップユニット、 60:識別子、 100,200:ファイバーフロー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と該胴部から十字状に配置された4つの軸部とを備える十字軸部材と、
4つの前記軸部のうち同軸状の2つの駆動側軸部に取り付けられ、回転駆動力を前記駆動側軸部に伝達する駆動側ヨークと、
4つの前記軸部のうち残りの2つの従動側軸部に取り付けられ、前記従動側軸部から回転駆動力が伝達される従動側ヨークと、
を備え、
前記十字軸部材には、鍛造形成によって、一方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐと共に、他方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐようにファイバーフローが形成され、
前記十字軸部材には、前記ファイバーフローの方向を識別可能な識別子が設けられ、
前記駆動側軸部が前記駆動側ヨークから受ける伝達トルクの方向をトルク負荷方向と定義し、
前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記トルク負荷方向の反対側に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材が前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付けられている十字軸継手。
【請求項2】
請求項1において、
前記十字軸継手は、最大トルクがかかる主回転方向と該主回転方向の反対方向である副回転方向とに回転可能であり、
前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記副回転方向に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材が前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付けられている十字軸継手。
【請求項3】
請求項2において、
前記十字軸継手は、車両の動力伝達装置に適用され、
前記主回転方向は、車両の前進時の前記十字軸継手の回転方向である十字軸継手。
【請求項4】
十字軸継手の製造方法であって、
前記十字軸継手は、
胴部と該胴部から十字状に配置された4つの軸部とを備える十字軸部材と、
4つの前記軸部のうち同軸状の2つの駆動側軸部に取り付けられ、回転駆動力を前記駆動側軸部に伝達する駆動側ヨークと、
4つの前記軸部のうち残りの2つの従動側軸部に取り付けられ、前記従動側軸部から回転駆動力が伝達される従動側ヨークと、
を備え、
前記十字軸部材には、鍛造形成によって、一方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐと共に、他方の前記駆動側軸部とそれに隣り合う前記従動側軸部とをつなぐようにファイバーフローが形成され、
前記十字軸部材には、前記ファイバーフローの方向を識別可能な識別子が設けられ、
前記駆動側軸部が前記駆動側ヨークから受ける伝達トルクの方向をトルク負荷方向と定義し、
前記識別子に基づいて前記駆動側軸部と該駆動側軸部に対して前記トルク負荷方向の反対側に隣り合う前記従動側軸部とを前記ファイバーフローがつなぐように、前記十字軸部材を前記駆動側ヨークおよび前記従動側ヨークに取り付ける十字軸継手の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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