説明

半円球状微粒子の製造方法

【課題】橋架け構造の存在を必要とせずに、容易に半円球状微粒子を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】分散安定剤の水溶液中に、ポリマー及び該ポリマーと非相溶性で水難溶性の有機液体を含む有機溶媒溶液を分散させて、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域を有する有機溶媒液滴を得る第1工程と、該液滴から有機溶媒を除去する第2工程と、第2工程で得られたポリマー及び有機液体からなる2領域微粒子から該有機液体を除去する第3工程とを含む半円球状微粒子の製造方法であって、有機液体の蒸発速度が有機溶媒の蒸発速度より小さく、第1工程で得られる液滴中の、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーの差が−0.5〜2.0mN/mになるように、ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤を使用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半円球状微粒子の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、LCDのスペーサー、光拡散シート、防眩フィルム、導光板等の光学特性の向上が求められる分野や、液状又はパウダー状化粧品に含有される滑り剤・耐湿顔料のような化粧品分野等に適した特異な形状を有する樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料の艶消しや隠蔽性向上等の塗料分野、LCDの光拡散板や光拡散フィルム等のディスプレイ分野、液状化粧料やパウダー状化粧料等の化粧品分野において、多様な目的で様々な樹脂粒子が使用されている。
【0003】
このような樹脂粒子は、粉砕法及び乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、分散重合法等によって製造される。しかし、これら製造方法では、通常、不定形または球状の樹脂粒子しか得られず、そのため滑り性の向上及び塗料の艶消し性、隠蔽性の向上、光拡散性及び光透過性の向上が求められている用途等に利用しうる樹脂粒子が求められていた。
【0004】
特許文献1では、疎水性の液状媒体の存在下、懸濁重合法により得られたおわん状樹脂粒子及びその製造方法が開示されている。具体的には、ほぼ半球状または楕円状を有し、樹脂粒子の中央に大きな凹部を備えたおわん状の樹脂粒子が記載され、重合性単量体を架橋剤及び疎水性液体の存在下に水中で懸濁重合させることにより製造できることが記載されている。しかしながら、この文献に記載のおわん状の樹脂粒子は、光の散乱が強過ぎ、光透過性が低いという課題がある。また、滑り性についても球状粒子に比べ劣るものであり、化粧料に配合した場合、きしみやざらつきを感じるという課題がある。
【0005】
特許文献2では、重合性単官能ビニルモノマーと重合性多官能ビニルモノマーとを、疎水性の液状媒体及びリン酸エステルの存在下で、懸濁重合させる際に、特定の重合性多官能ビニルモノマーを使用し、かつ重合性単官能ビニルモノマー、重合性多官能ビニルモノマー、疎水性の液状媒体及びリン酸エステルを特定の割合で使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−317688号公報
【特許文献2】特開2004−27008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、橋架け構造を有するものに限定されており、汎用性に欠ける。
【0008】
本発明は、特許文献1のような課題を解決し、かつ、特許文献2のような橋架け構造の存在を必要としない、半円球状微粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記に示すとおりの半円球状微粒子の製造方法を提供するものである。
項1. 分散安定剤の水溶液中に、ポリマー及び該ポリマーと非相溶性で水難溶性の有機液体を含む有機溶媒溶液を分散させて、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域を有する有機溶媒液滴を得る第1工程と、該液滴から有機溶媒を除去する第2工程と、第2工程で得られたポリマー及び有機液体からなる2領域微粒子から該有機液体を除去する第3工程とを含む半円球状微粒子の製造方法であって、有機液体の蒸発速度が有機溶媒の蒸発速度より小さく、第1工程で得られる液滴中の、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーの差が−0.5〜2.0mN/mになるように、ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤を使用する方法。
項2. ポリマー及び有機液体を実質的に同容積使用する項1に記載の方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の半円球状微粒子の製造方法は、分散安定剤の水溶液中に、ポリマー及び該ポリマーと非相溶性で水難溶性の有機液体を含む有機溶媒溶液を分散させて、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域を有する有機溶媒液滴を得る第1工程と、該液滴から有機溶媒を除去する第2工程と、第2工程で得られたポリマー及び有機液体からなる2領域微粒子から該有機液体を除去する第3工程とを含む半円球状微粒子の製造方法であって、有機液体の蒸発速度が有機溶媒の蒸発速度より小さく、第1工程で得られる液滴中の、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーの差が−0.5〜2.0mN/mになるように、ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤を使用する方法である。
【0012】
本発明において、半円球状微粒子とは、半円球状、凸型半円球状、凹型半円球状及びそれらに準ずる非球状の形状であり、1.4〜2.5の縦横比(Lmax/Lver:ここで、Lmaxは樹脂粒子の面積が最小となるように投影した投影樹脂粒子の最大長、LverはLmaxを含む面に垂直な方向における投影樹脂粒子の最大垂直長、凹型半円球状の場合は最小垂直長)を有するものである。
【0013】
[分散安定剤]
分散安定剤としては、ポリマーと水難溶性の有機液体を含む有機溶媒溶液を水中に分散して形成した液滴が、合一しないようにする作用を有するものを広い範囲から使用できる。
【0014】
分散安定剤は、ポリマー分散安定剤として公知のものを制限無く使用できる。このような公知の分散安定剤として、例えば以下のものが挙げられる。
【0015】
ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルイミド、ポリエチレンオキシド、ポリ(ハイドロオキシステアリン酸−g−メタクリル酸メチル−co−メタクリル酸)共重合体等の高分子分散安定剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルチオエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドのようなポリオキシエチレン系界面活性剤、ポリエチレンイミン、ソルビタンアルキルエステル、グリセリン又はポリグリセリンと油脂、脂肪酸、樹脂酸、又はナフテン酸とのエステル、グリコールエステル、ペンタエリスリットエステル、サッカロースエステルのような多価アルコールと脂肪酸とのエステル、脂肪酸エタノールアミド、メチロールアミド、オキシメチルエタノールアミド、脂肪酸エタノールアミド誘導体のようなアミド型界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;炭素数12〜30程度の高級脂肪酸塩(以下、「高級」とは炭素数12〜30程度を指す)、第2級高級脂肪酸塩、高級アルキル・ジカルボン酸塩のようなカルボン酸型陰イオン性界面活性剤、第1級高級アルコール硫酸エステル塩、第1級高級アルコール硫酸エステル塩のような硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、第1級高級アルキル硫酸エステル塩、第2級高級アルキル硫酸エステル塩のような硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、第1級高級アルキル・スルフォン酸塩、第2級高級アルキル・スルフォン酸塩、高級アルキル・ジスルフォン酸塩、硫酸化脂肪及び硫酸化脂肪塩、スルフォン化高級脂肪酸塩のようなスルホン酸型陰イオン性界面活性剤、高級アルキルリン酸エステル塩のようなリン酸エステル型陰イオン性界面活性剤、アルキルベンゼン・スルフォン酸塩、アルキルフェノール・スルフォン酸塩、アルキルナフタリン・スルフォン酸塩、アルキルテトラリン・スルフォン酸塩のようなアルキルアリルスルフォン酸塩、高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩、高級脂肪酸アミドのアルキル化スルフォン酸塩のようなアミドスルフォン酸塩型アニオン系界面活性剤;アルキルアミン塩、変性アルキルアミン塩、テトラアルキル第4級アンモニウム塩、変性トリアルキル第4級アンモニウム塩、トリアルキル・ベンジル第4級アンモニウム塩、アルキル・ピリジニウム塩、変性アルキル・ピリジニウム塩、アルキル・キノリニウム塩、アルキル・フォスフォニウム塩、アルキル・スルフォニウム塩等のカチオン性界面活性剤;陽イオン性基としてテトラアルキル第4級アンモニウム塩を有し、陰イオン性基としてカルボキシル基、又はスルフォン酸基を有する両性界面活性剤等が挙げられる。
【0016】
分散安定剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。2種以上を使用する場合は、それぞれの分散安定剤は、液滴において馴染みのよいポリマー溶液の表面に吸着される。また、1種を単独で使用する場合でも、液滴を構成するポリマー溶液領域に対する吸着量が異なる。従って、1種使用する場合、及び2種使用する場合の双方において、分散安定剤の種類は、液滴における各領域表面の界面自由エネルギーに影響を与える。
【0017】
1種使用する場合は、界面張力を低下させる性能がよい点で、ノニオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレン系界面活性剤が好ましく,ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルエステルがより好ましい。また2種以上を使用する場合は、安定性を上昇させる点で、高分子乳化剤とポリオキシエチレン系界面活性剤との組み合わせが好ましく、このような組み合わせとして例えばポリビニルアルコールとポリオキシエチレンソルビタンモノアルキルエステルとの組み合わせが挙げられる。
【0018】
分散安定剤の使用量は、広い範囲から選択できるが、一般には、ポリマーと有機液体を含む液滴の1重量部に対して、0.0005〜1重量部程度、特に0.001〜0.1重量部程度とするのが好ましい。
【0019】
また、分散安定剤の水溶液において、分散安定剤の濃度は上記液滴が合一しないような濃度となるように適宜選択すればよい。一般には、分散安定剤水溶液の濃度は、0.002〜5重量%程度、特に0.005〜1重量%程度の範囲に調整するのが好ましい。
【0020】
[ポリマー]
ポリマーは、有機溶媒に溶解する熱可塑性樹脂であればよく、特に限定されない。
【0021】
使用可能なポリマーとしては、例えば、ビニル系モノマーを重合させたポリマー、又は2種以上のビニル系モノマーを共重合させたポリマーなどが挙げられる。
【0022】
このようなビニル系モノマーとしては、モノビニル芳香族系モノマー、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマー,ビニルエステル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、モノオレフィン系モノマー、ハロゲン化オレフィン系モノマー、ジオレフィン等の単官能性モノマーが挙げられる。
【0023】
上記モノビニル芳香族系モノマーとしては、モノビニル芳香族炭化水素、低級(炭素数1〜4)アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級(炭素数1〜4)アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレン等が挙げられる。
【0024】
上記モノビニル芳香族炭化水素の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
更に、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルビフェニル、低級アルキル基で置換されていてもよいビニルナフタレンとしては、ビニルビフェニル、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルビフェニル、ビニルナフタレン、メチル基、エチル基等の低級アルキル基で置換されているビニルナフタレン等を例示できる。これらモノビニル芳香族単量体は、単独であるいは2種類以上併用することができる。
【0026】
上記アクリル系モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸γ−ヒドロキシブチル、アクリル酸δ−ヒドロキシブチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、アクリル酸γ−アミノプロピル、アクリル酸γ−N,N−ジエチルアミノプロピル等が挙げられる。
【0027】
上記ビニルエステル系モノマーの具体例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0028】
上記ビニルエーテル系モノマーの具体例としては、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルn−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0029】
上記モノオレフィン系モノマーの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1等が挙げられる。
【0030】
上記ハロゲン化オレフィン系モノマーとしては、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンを挙げることができる。
【0031】
さらに、ジオレフィン類である、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等も単官能性モノマーに含めることができる。
【0032】
また、ビニル系の多官能性モノマーは、一方のビニル基のみが重合に関与し,他のビニル基(官能基)が残存し,溶媒に溶解する線状ポリマーであれば使用できる。例えば,アリルメタクリレートなどの反応性の違う2重結合を持ったモノマーの重合の場合がそれに相当する。
【0033】
また、上記例示したビニル系ポリマーの他に、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミドなども使用できる。
【0034】
中でも、モノビニル芳香族系モノマー、アクリル系モノマー、メタクリル系モノマー、ビニルエステル系モノマーが好ましく、モノビニル芳香族系モノマー、アクリル系モノマーがより好ましい。
【0035】
ポリマーの分子量は、5000〜600000程度が好ましく、50000〜400000程度がより好ましい。上記分子量の範囲であれば、相分離が円滑に起こり、かつ拡散が早いため明確に層分離する。
【0036】
液滴中のポリマーの濃度は、1〜25重量%程度が好ましく、5〜10重量%程度がより好ましい。液滴中のポリマー濃度が上記範囲であれば、実用的な時間内に溶媒を放出させることができ、かつ粘度が高くなりすぎず明確に相分離する。
【0037】
また、半円球微粒子を得ようとする場合は、ポリマー及び有機液体の使用量を同容積、又は実質的に同容積にすればよい。実質的に同容積であるとは、容積が大きい方を基準として容積差が20%以下であることをいう。
【0038】
[有機液体]
本発明に用いる有機液体は、上記ポリマーと非相溶性であり、有機溶媒に溶解する。また、水に難溶性であり、水への溶解度は、100g/L以下であるのが好ましく、10g/L以下であるのがより好ましい。有機液体の蒸発速度は、有機溶媒の蒸発速度より小さく、有機溶媒の1/10以下であるのが好ましく、1/100以下であるのがより好ましい。
【0039】
このような有機液体の具体例としては、C8以上の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。中でも、デカン、ドデカン、ヘキサデカン等が好ましい。
【0040】
[有機溶媒]
有機溶媒は、ポリマーを溶解させるもので、かつ有機液体を溶解させるものであればよい。有機溶媒としては、例えば、C1〜7の直鎖状および分岐状脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン,ベンゼン,キシレン,シクロヘキシルベンゼン、1,2-ジメチルナフタレン、1,3-ジメチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレンのような芳香族炭化水素系溶媒;ジベンジルエーテルのようなエーテル系溶媒;アセチルクエン酸トリエチル、安息香酸イソアミル、安息香酸ベンジル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、シュウ酸ジアミル、酒石酸ジブチル、フタル酸ジエチルのようなエステル系溶媒;ジオクチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N-ジブチルアニリン、トリアミルアミン、トリ-n-ブチルアミンのような含窒素系溶媒などが挙げられる。中でも、芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。
【0041】
有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0042】
[ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤の好適な組合せ]
ポリマー及び有機液体を含む有機溶媒溶液が水中に分散されてなる液滴は、ポリマー溶液及び有機液体溶液からなる2領域に分離する。この溶液の分離は、液滴表面に2領域ができるように行われる。ここで、各溶液は、分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーが小さいほど大きな表面積を占めるようになる。従って、2種の溶液の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーが互いに実質的に同じ、即ち、両者の差(γPS-T/Eaq −γHD-T/Eaq)が−0.5〜2.0になるようにすれば、2種の溶液からなる半球状に分離した液滴が得られ、最終的に、ポリマー及び有機液体からなる半球状部分が合一した形の球状微粒子(2領域微粒子)が得られる。
【0043】
液滴中の各溶液の分散安定剤水溶液との間の界面張力は、ポリマー及び有機液体の種類だけでなく、液滴表面に吸着する分散安定剤の種類及び吸着量によっても異なってくる。例えば、1種の分散安定剤を使用する場合でも、ポリマー溶液及び有機液体溶液への吸着量が異なるため、ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤の種類を適宜設定することが必要となる。
【0044】
各領域の分散安定剤水溶液との間の界面張力を実質的に同じにすることができるポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤の好適な組合せとしては、以下の表1に示す組合せが挙げられる。
【0045】
【表1】

界面自由エネルギーは、界面張力と界面積との積である。従って、液滴においてポリマー溶液からなる領域の表面積及び有機液体溶液からなる領域の表面積が同じになるようにするためには、2種の溶液の分散安定剤水溶液との間の界面張力が同じになるようにすればよい。
【0046】
本発明において、各溶液の分散安定剤水溶液との間の界面張力は、ASTM−971−50に規定されるデュヌイの白金リング法(ペンダントドロップ法)で測定した値である。すなわち、所定の濃度の分散安定剤水溶液中に、室温下で、ポリマー又は有機液体を溶解した(18wt%)トルエン溶液を内径1mmの逆針より押し出し、ペンダント型に形成されたトルエン滴の形状とそれぞれの密度差より測定した値である。
【0047】
このように、2つの半球状領域で構成される微粒子を得るための、ポリマーと有機液体と有機溶媒と分散安定剤との組合せは、表1の組合せの他に、上記のようにして界面張力を測定すれば選択することができる。
【0048】
[分散工程]
第1工程では、ポリマー及び有機液体の有機溶媒溶液を調製し、分散安定剤水溶液中で分散させる。ポリマー及び有機液体の有機溶媒溶液の使用量は、分散安定剤水溶液に対して0.1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がより好ましい。有機溶媒溶液の使用量が上記範囲であれば、実用的な生産性が得られ、かつ液滴同士の合一が起こり難い。
【0049】
分散方法としては、ホモジナイザーや膜乳化法など機械的せん断力による分散方法等の公知の方法を種々採用できる。分散の際の温度条件は、特に限定されないが、0〜30℃程度とすればよい。
【0050】
上記分散方法では、液滴の大きさは単分散ではなく、一般に種々の異なる粒子径の液滴が混在したものとなる。従って、最終的に得られる微粒子も異なる粒子径を有するものとなる。
【0051】
一方、分散方法を選択することにより、液滴の大きさを均一にして、単分散の液滴を得ることもできる。例えば多孔質ガラス(SPG)を利用した膜乳化法で単分散液滴を作製したり、シード膨潤法により上記液滴を作製することにより、液滴の大きさを均一にして、単分散の液滴を得ることができる。具体的には、例えば上記混合物を非常に大きさの揃った多孔質を有するSPG膜を通して分散安定剤含有の水溶液にガス圧により押し出すことにより単分散な液滴が作製される。
【0052】
このような粒子径が均一に揃った単分散の液滴を調製した場合は、最終的に得られる微粒子も粒子径が均一に揃った単分散となるため、好ましい。
【0053】
上記液滴の平均粒子径は、微粒子の用途に応じて適宜定めればよいが、一般には1〜50μm程度、特に2〜10μm程度とするのが好ましい。液滴の粘度、分散安定剤の使用量、分散安定剤水溶液の粘度、分散方法・分散条件を前記範囲で適宜設定することにより、この範囲の液滴平均粒子径が得られる。
【0054】
[有機溶媒の除去工程]
第2工程では、液滴から有機溶媒を除去する。例えば、液滴分散液を、温度0〜40℃程度の加熱下及び/又は圧力103〜105Pa程度の減圧条件下に置くことにより、分散安定剤水溶液を通して液滴中の有機溶媒が蒸発して除去される。上記温度範囲又は圧力範囲であれば、実用的な時間内に溶媒を除去することができるとともに、2領域の間の界面が平滑になり、例えば明確に半球状部分に分かれた2領域微粒子を得ることができる。なお、自然蒸発させたり、相分離後に分散安定剤水溶液ごとスプレードライすること等によっても乾燥できる。
【0055】
[有機液体の除去工程]
第3工程では、第2工程で得られたポリマー及び有機液体からなる2領域微粒子から有機液体を除去する。例えば、2領域微粒子を洗浄溶媒により、遠心洗浄等することにより有機液体が除去される。洗浄溶媒は、水と相溶し、ポリマーを溶解又は膨潤させず、かつ有機液体を溶解させるものであればよく、特に限定されない。洗浄溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどの低級アルコールやアセトンなどが挙げられる。
【0056】
このようにして、2領域微粒子から有機液体を除去することにより、ポリマーが半円球状に残り、本発明の半円球状微粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明の方法によれば、橋架け構造の存在を必要とせずに、容易に半円球状微粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図4】比較例2で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図5】比較例3で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図6】実施例3で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【図7】比較例4で得られた微粒子の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
[有機液体と分散安定剤水溶液の界面張力測定]
表面張力試験器(DropMaster500)(協和界面科学株式会社)を用いて、所定の濃度の界面活性剤水溶液中に、室温下、有機液体を溶解したトルエン溶液を内径1mmの逆針より押し出し、ペンダント型に形成されたトルエン滴の形状とそれぞれの密度差より、界面張力を測定した。
【0061】
[ポリマーと分散安定剤水溶液の界面張力]
ポリマー有機溶媒溶液/分散安定剤水溶液間界面張力は以下の式を用いて算出した。
ln[(φPSSPS)1/r/(φTST)] = [(γT/E aq. −γPS/E aq.)a/kT] + χPS/T(l + m)(φT −φPS) −χPS-Tl(φTS −φPSS) (1)
PS-T/E aq.− γT/E aq.)a/kT = ln(φTST) + [(r −1)/r](φPSS −φPS) + χPS-T[l(φPSS)2 −(l + m)(φPS)2] (2)
下付き文字PS、T及びE aq.は、例として、それぞれ、ポリマーとしてポリスチレン、有機溶剤としてトルエン、分散安定剤水溶液だとすると、φi及びφiSは、それぞれ、構成要素iの滴全体における体積分率及び界面付近における体積分率を示す。本系では、油相はポリスチレンとトルエンから構成されているため、φPS = 1 −φT及びφPSS = 1 −φTSが成り立つ。γT/E aq.は、懸滴法により測定したトルエン/分散安定剤水溶液間界面張力を、γPS/E aq.は、接触角より算出したポリスチレン/分散安定剤水溶液間界面張力を用いた。また、rは、トルエンに対するポリスチレンのモル体積比、kは、ボルツマン定数(1.38 × 10-23 J × K-1)、Tは、温度(298 K)、χPS/Tは、ポリスチレンとトルエンの相互作用パラメーター(χPS/T= 0.40)、l及びmは、定数(l = 0.5 and m = 0.25)、aは、a = {M/(d ×NA )}2/3より計算される界面におけるトルエン分子の占有面積(3.14 ×10-19 m2)をそれぞれ示す。ここで、Mはトルエンの分子量(92 g ・ mol-1)、dはトルエンの密度(0.8669 g ・ cm-3)、NAはアボガドロ定数(6.02 ×1023mol-1)を示す。分子量2500以上のポリマーを用いる場合、(1)式左辺はln(φTTS)に書き換えられる。また、χPS/Tは、濃度に依らず一定と仮定した。式(1)、(2)の連立方程式を解くことで、各φPSにおけるγPS-T/E aq.を求めた。
【0062】
実際比較するγPS-T/E aqは、有機溶剤放出温度と有機溶剤含有ポリマーのガラス転移点が一致するところのφPSにおける界面張力値とする。具体的には、ポリスチレン相のガラス転移温度(Tg)はトルエンの放出に伴い上昇する。フォックスの式より、ポリスチレンの重量分率0.75において、Tgは室温(25℃)に達し、粒子の構造は決定されると考えられる。ポリスチレン及びヘキサデカンの重量分率0.75において、上式より算出したポリスチレンのトルエン溶液/分散安定剤水溶液間界面張力値(γPS-T/E aq.)は、それぞれ6.63(Emulgen930)、8.63(Emulgen931)、11.73(Emulgen950)、9.53 (SDS)、13.13 (PVA)、懸滴法により測定されたヘキサデカンのトルエン溶液/分散安定剤水溶液間界面張力値(γHD-T/E aq.)は、それぞれ3.2(Emulgen930)、8.2(Emulgen931)、11.5(Emulgen950)、6.8 (SDS)、14.1(PVA),であった。この値と有機液体と分散安定剤水溶液の界面張力値の差を考える。(−0.5≦γPS-T/Eaq −γHD-T/E aq≦2.0)。
【0063】
[ポリスチレンの製造]
以下で使用するポリスチレンは溶液重合により製造した。具体的には、スチレン10g、アゾビスイソブチロニトリル25mg及びトルエン6gの均一溶液を、窒素雰囲気下、70℃で24時間重合を行った。得られたポリスチレンは、数平均分子量が42000、Mw/Mnが2.1であった。
【0064】
実施例1
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサデカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(花王社製、商品名「Emulgen931」、HLB値17.2)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、0.43mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/ヘキサデカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してヘキサデカンを除去することにより、目的とするポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、半円球状微粒子であった。顕微鏡写真を図1に示す。
【0065】
比較例1
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサデカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(花王社製、商品名「Emulgen930」、HLB値15.1)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、3.43mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/ヘキサデカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してヘキサデカンを除去することにより、目的とするポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、凸型半円球状の微粒子であったが、縦横比が1.3であり、本発明における半円球状微粒子の定義から外れる。顕微鏡写真を図2に示す。
【0066】
実施例2
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサデカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(花王社製、商品名「Emulgen950」、HLB値18.2)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、0.23mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/ヘキサデカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してヘキサデカンを除去することにより、目的とするポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、凹型半円球状微粒子であった。顕微鏡写真を図3に示す。
【0067】
比較例2
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサデカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(ナカライテスク社製、商品名「ドデシル硫酸ナトリウム」、SDS)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、2.73mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/ヘキサデカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してヘキサデカンを除去することにより、ポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、やや扁平した球状微粒子であり、縦横比は1.2であった。顕微鏡写真を図4に示す。
【0068】
比較例3
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサデカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液15g中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、−0.97mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/ヘキサデカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してヘキサデカンを除去することにより、ポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、穴が開いたカプセル微粒子であった。顕微鏡写真を図5に示す。
【0069】
実施例3
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、デカン18mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(花王社製、商品名「Emulgen931」、HLB値17.2)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、0.2mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させることにより、ポリスチレン/デカン複合微粒子を製造した。次いで、メタノールで遠心洗浄してデカンを除去することにより、目的とするポリスチレン粒子を得た。得られた粒子は、半円球状微粒子であった。顕微鏡写真を図6に示す。
【0070】
比較例4
溶液重合で得られたポリスチレン25mgを、ヘキサン17mg及びトルエン0.6gの混合媒体に溶解させ、これを、分散安定剤(花王社製、商品名「Emulgen931」、HLB値17.2)50mgが溶解した15gの水溶液中で撹拌して分散させた(界面自由エネルギーの差は、0.7mN/m)。得られた懸濁滴からトルエンを室温で徐放させると、ヘキサンも同時に放出され、真球状のポリスチレン微粒子を得た。顕微鏡写真を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明で得られた半円球状微粒子は、塗料の艶消しや隠蔽性向上等の塗料分野、LCDの光拡散板や光拡散フィルム等のディスプレイ分野、液状化粧料やパウダー状化粧料等の化粧品分野等において利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散安定剤の水溶液中に、ポリマー及び該ポリマーと非相溶性で水難溶性の有機液体を含む有機溶媒溶液を分散させて、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域を有する有機溶媒液滴を得る第1工程と、
該液滴から有機溶媒を除去する第2工程と、
第2工程で得られたポリマー及び有機液体からなる2領域微粒子から該有機液体を除去する第3工程と
を含む半円球状微粒子の製造方法であって、
有機液体の蒸発速度が有機溶媒の蒸発速度より小さく、第1工程で得られる液滴中の、ポリマーを含む溶液及び有機液体を含む溶液からなる2つの表面領域の分散安定剤水溶液との間の界面自由エネルギーの差が−0.5〜2.0mN/mになるように、ポリマー、有機液体、有機溶媒及び分散安定剤を使用する方法。
【請求項2】
ポリマー及び有機液体を実質的に同容積使用する請求項1に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−189483(P2010−189483A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33052(P2009−33052)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】