説明

半導体ウェーハ表面不純物の回収方法

【課題】 表面に親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の不純物を高い収率で自動回収する半導体ウェーハ表面不純物の回収方法を提供する。
【解決手段】 シリコンウェーハ11表面にシリコン酸化膜12が形成されたウェーハを水平に保持する。次に、シリコン酸化膜12および不純物を溶解しシリコンウェーハ11表面を疎水性にする溶解液13を粒状にしてシリコン酸化膜12の表面に付着させる。続いて、粒状の溶解液13を付着させ所定の時間経過後に、シリコンウェーハ11上に上記不純物を回収する回収液を滴下しシリコンウェーハ11上で移動走査させて、シリコンウェーハ11上の不純物を回収する。そして、このように回収された例えば金属不純物は物理的あるいは化学的に定量分析される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ表面不純物の回収方法に係り、表面に親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の不純物を高い収率で自動回収することができる半導体ウェーハ表面不純物の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造に使用される半導体基板となる例えばシリコンウェーハ等は、単結晶インゴット育成後、このインゴットをスライスして薄円盤状のウェーハを得るスライス工程、面取り工程、ラッピング工程、エッチング工程、鏡面研磨工程、洗浄工程、熱処理工程等、多くの工程を経て製品化される。このような半導体ウェーハは、上述したウェーハ製造工程においてFe、Cu、Ni、Cr、Al、Na等の金属不純物の微量な汚染を受ける。また、半導体デバイス製造の工程においても同様な汚染が生じる。
【0003】
この金属不純物は、例えばシリコンウェーハ表面でパーティクルの付着核になり、ウェーハ中では析出して結晶欠陥を引き起こす。また、ウェーハ中において電気的に深い準位を形成し半導体素子の電気的特性を低下させ、シリコンウェーハ表面に形成したシリコン酸化膜中に存在してその絶縁性を低下させる。このように金属不純物は、その金属の種類にもよるが半導体ウェーハに対して種々の悪影響を及ぼす。そこで、ウェーハの上面に形成された酸化膜あるいはそれ等の界面に含まれ汚染していたり、また表面を汚染している金属不純物の分析が、ウェーハ製品の管理、製造プロセスの条件設定、半導体素子の特性の向上、不良原因の解析等において行われる。
【0004】
このウェーハ表面の金属不純物の分析として、例えばシリコンウェーハ上にHF(フッ化水素酸)蒸気等の酸蒸気の接触により溶解液を付着させ、表面のシリコン酸化膜を溶解させ、その溶解液を自動的に全て回収して溶解液中に含まれる金属元素を定量分析する方法がある(例えば、特許文献1参照)。ここで、ウェーハ表面の金属不純物は溶解液に溶解し捕集される。あるいは、上記HF蒸気にシリコンウェーハを一定時間曝してウェーハ表面を疎水性にした後に、別の回収液をウェーハ表面に滴下しウェーハ表面全体で移動走査させることにより、ウェーハ表面の金属不純物を回収液に捕集して回収する方法がある(例えば、特許文献2参照)。この方法は、特許文献1に較べてウェーハ表面の金属不純物の回収処理が簡便になってその自動回収を容易にする利点を有する。
【0005】
以下、後者の自動回収が容易になる金属不純物の回収の一例について図5および図6を参照して説明する。図5は不純物の回収工程の概略を順に模式的に示す断面図である。図6はウェーハ表面における回収液の移動走査の一例を示す平面図である。
【0006】
先ず図5(a)に示した第1の工程で、シリコンウェーハ101表面にシリコン酸化膜102が形成されたシリコンウェーハ101を水平に保持し、シリコン酸化膜102をフッ化水素酸蒸気103の雰囲気に曝す。このようにすると、フッ化水素酸蒸気103はシリコン酸化膜102の表面にフッ化水素酸の液層を形成し、シリコン酸化膜102が上記液層に、SiO+6HF→HSiF+2HOの反応式によって溶解する。また、シリコン酸化膜102中あるいはその界面に含まれていたり、その表面を汚染している金属不純物(図示せず)もシリコン酸化膜102と共に溶解する。
【0007】
ここで、シリコン酸化膜102は、膜厚が〜2nm程度の自然酸化膜あるいは化学酸化膜である。自然酸化膜は、シリコンウェーハ101を例えばクリーンルーム内に保管し空気と触れて形成される多孔質のシリコン酸化膜である。また、化学酸化膜は、例えばNHOH(アンモニア水)−H(過酸化水素)−HO(純水)の混合した化学薬液(APMという)、HCl(塩酸)−H−HOの混合した化学薬液(HPMという)、HSO(硫酸)−H−HOの混合した化学薬液(SPMという)等によりシリコンウェーハ101を洗浄した後に形成される多孔質のシリコン酸化膜である。
【0008】
そして、シリコン酸化膜102のフッ化水素酸蒸気103からなる上記液層による溶解が進むことで、図5(b)に示す第2の工程に至る。すなわち、充分なフッ化水素酸蒸気103が供給され続けることによって、シリコンウェーハ101上のシリコン酸化膜102が全て溶解し、シリコンウェーハ101表面が疎水性となる。そして、上記液層は疎水性のシリコンウェーハ101表面で弾かれた状態になり液滴状の溶解液104として不均一に付着するようになる。ここで、液滴状の溶解液104は種々の大きさの径を有してシリコンウェーハ101表面に点在する。また、シリコン酸化膜102中あるいはその界面に含まれていたり、その表面を汚染していた金属不純物はイオン化して溶解液104中に溶解している。なお、シリコンウェーハ101はフッ化水素酸には反応しないため、シリコン酸化膜102が溶解し終わった時点で反応は停止する。そして、フッ化水素酸蒸気103の供給が止められる。
【0009】
その後、図5(c)に示す第3の工程に至り、シリコンウェーハ101表面に付着した溶解液104の一部に気化105が生じる。そして、溶解液104のうちで径が小さいものは霧散し消滅するようになる。この場合、溶解液104中に溶解していた金属不純物はシリコンウェーハ101表面に析出するようになる。
【0010】
そして、図5(d)に示した第4の工程で、シリコンウェーハ101の表面の所定の箇所に回収液106を滴下する。ここで、回収液106としては例えば塩酸と過酸化水素水を含む混合液が使用される。
【0011】
そして、図6に示した第5の工程で、回収液106をシリコンウェーハ101表面全体に行き渡らせるように移動走査する。図6では、ウェーハ中心に滴下した回収液106がウェーハ中心から周縁部に向かう螺旋状の移動軌跡107に沿って走査する場合を示している。この走査の軌跡はその他に種々の形態がある。例えば、ウェーハ101の端部から表面横方向あるいは縦方向に回収液106を移動する方法がある。
【0012】
そして、この移動走査により、シリコンウェーハ101表面の全ての溶解液104を回収液106に合体させる。また、シリコンウェーハ101表面に析出した金属不純物を回収液106に溶解させる。このようにしてシリコンウェーハ101上の金属不純物を自動回収する。その後、全ての溶解液104と合体し金属不純物を捕集した回収液106は、回収部材(図示しない)により吸引回収する。そして回収した回収液106は、例えばICP−MS(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectroscopy)によりその不純物の定量分析を行う。
【0013】
このように、表面にシリコン酸化膜102が形成されたシリコンウェーハ101上の金属不純物の回収方法は、はじめにそのシリコン酸化膜102を溶解しウェーハ表面を疎水性にすることにより、その後に表面に滴下する回収液106が表面張力により弾けてウェーハ表面全体にわたって移動走査し易くなり自動回収が容易になるというものである。しかしながら、例えば図5(c)に示した第3の工程において酸化膜および金属不純物を溶解した溶解液104の一部が気化していくと、シリコン元素より酸化還元電位(電子を奪う力に相当する)が高い金属元素は、はじめは溶解液104に正イオンとして溶けているが、そのイオン濃度が高くなったり溶解液104の一部が消滅して、シリコン元素から電子を奪って還元され金属粒子として析出する。そして、ウェーハ上を移動走査される回収液106に溶解し難くなり、その回収率が低下するようになる。
【0014】
なお、上記回収液106として、フッ化水素酸に酸化剤として過酸化水素水を混合した化学薬液を使用する方法、あるいはフッ化水素酸と王水の混合した化学薬液を使用する方法も一部で使用されている。
【特許文献1】特開2000−19084号公報
【特許文献2】特開2000−107672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、従来技術においては、半導体ウェーハを構成する元素よりも高い酸化還元電位を有する金属元素は、半導体ウェーハの表面に析出し金属粒子となって析出し易く、回収液による回収が充分に行えなくなるという問題があった。例えば、半導体ウェーハがシリコンウェーハである場合には、Cuなどの貴金属の回収率がFe、Ni、Cr、Al、Na等の金属の回収率に較べて10〜20%程度低下する。本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、表面に親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の金属不純物を高い収率で自動回収することができる半導体ウェーハ表面不純物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明にかかる半導体ウェーハ表面不純物の回収方法は、表面に親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の汚染した不純物を計測するために、前記不純物を回収する方法であって、前記半導体ウェーハ上の薄膜および前記不純物を溶解し前記半導体ウェーハ表面を疎水性にする溶解液を粒状にして前記薄膜の表面に付着させる工程と、前記粒状の溶解液を付着させ所定の時間経過後に、前記半導体ウェーハ上に前記不純物を回収する回収液を滴下し半導体ウェーハ上で移動走査させて、前記半導体ウェーハ上の不純物を回収する工程と、を有する構成になっている。
【0017】
上記発明により、半導体ウェーハ状に付着した溶解液の気化による消滅が防止され、半導体ウェーハ表面が疎水性になって生じる金属粒子の析出が無くなる。そして、半導体ウェーハを構成する元素よりも高い酸化還元電位を有する金属元素であっても、回収液により高い収率で自動回収できるようになる。
【0018】
上記発明において、前記薄膜がシリコン酸化膜であって、前記溶解液がフッ化水素酸を含んでいる。そして、好適な実施態様では、前記シリコン酸化膜の表面における前記溶解液の付着占有率が30〜70%の範囲にある。また、前記所定の時間経過は、5〜10minの範囲になる。更に、好適な実施態様では、前記回収液は、フッ化水素酸と過酸化水素を含んでいる。そして、前記半導体ウェーハはシリコンウェーハであり、前記不純物は貴金属を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の構成により、表面に酸化膜のような親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の金属不純物を高い収率で自動回収する半導体ウェーハ表面不純物の回収方法を提供することができる。そして、シリコンウェーハの表面に存在する金属不純物、特にCu等の貴金属が簡便にしかも高い収率で回収できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図1は不純物の回収工程の概略を順に模式的に示す平面図である。図2はウェーハ表面への粒状の溶解液の散布方法の一例を示す概念図である。
【0021】
図1(a)に示す第1の工程で、シリコンウェーハ11表面にシリコン酸化膜12が形成されたウェーハを水平に保持する。ここで、シリコン酸化膜12は、従来技術で説明したのと同様に膜厚が1〜2nm程度の自然酸化膜あるいは化学酸化膜である。なお、金属不純物は、シリコン酸化膜12中あるいはそのシリコンウェーハ11との界面に含まれ汚染していたり、シリコン酸化膜12の表面を汚染している。
【0022】
次に、図1(b)に示す第2の工程で、シリコン酸化膜12および金属不純物を溶解する溶解液13を粒状に付着させる。ここで、上記溶解液13としては、HF−HOの希釈した化学薬液(DHFという)が好適である。このフッ化水素酸の純水希釈液中の濃度は、0.01〜1質量%の範囲で適宜に設定される。
【0023】
この溶解液13は、図2に示されるように、シリコンウェーハ11の上方部において例えば噴霧器14を移動方向15にほぼ一定速度で移動させながら、その下部からシリコンウェーハ11上のシリコン酸化膜12表面にほぼ均一に散布し付着する。ここで、粒状に散布される溶解液13aの粒径は50nm〜1μmの範囲で適宜に設定される。そして、散布される溶解液13aは、その全てがほぼ同じ粒径になるように噴霧器14から吐出すると好適である。また、溶解液13aは、その粒径が平均粒径±50%の範囲でばらついていても構わない。
【0024】
次に、シリコン酸化膜12表面に付着した溶解液13がシリコン酸化膜10をほぼ溶解した後において、図1(c)に示す第3の工程で、シリコンウェーハ11の表面の所定の箇所に回収液16を滴下する。ここで、回収液16としては例えばHF−H−HOの混合した化学薬液(FPMという)が好適に使用される。
【0025】
そして、従来技術で説明したのと同様にして、例えば図6に示す第4の工程で、回収液16をシリコンウェーハ11表面全体に行き渡らせるように移動走査する。ここで、回収液16はシリコンウェーハ11表面の全ての溶解液13と合体し、金属不純物を回収する。
【0026】
上述した半導体ウェーハ表面不純物の回収方法において、図1(b)に示した第2の工程では、シリコンウェーハ11上の全ての溶解液13のウェーハ面に占める付着占有率が、25〜75%の範囲になるようにすると好ましい。そして、その占有率を30〜70%の範囲になると更に好ましくなる。
【0027】
この溶解液13の占有面積の効果について、図3にその一例を示す。図3は図1および図6で説明した方法によりシリコンウェーハ11上の金属不純物を回収し、ICP−MSにより金属不純物を定量分析して求めたCuの回収率を示すグラフである。ここで、図3の縦軸にCuの回収率をとり、横軸に溶解液13のウェーハ面での付着占有率をとっている。なお、Cuの回収率は、回収しICP−MSにより計測したCu量の、シリコンウェーハ11を定量汚染したCu量に対する比として示してある。
【0028】
図3に示すように、溶解液13のウェーハ表面での占有率が25〜75%の範囲であれば、Cuの回収率は安定して95%以上になる。そして、それが30〜70%の範囲になれば、その回収率は安定的に98%以上になる。ここで、シリコン酸化膜12を有するシリコンウェーハ11上における溶解液13の占有率が25%未満であると、溶解液13によるシリコン酸化膜12の溶解が充分に進まず、その後に滴下した回収液16が弾かれて転がるほどのウェーハ面の疎水性が得られない。このため、回収液16の自動回収が難しくなり、上記占有率の低下と共に回収率は急減する。
【0029】
一方、上記溶解液13の占有率が75%を超えてくると、占有率の増加と共にCu回収率は急減する。これは、溶解液13の占有率が75%を超えて高くなると、ウェーハ表面は従来技術で説明したのと同じような疎水性が生じ、結果として溶解液13に溶解したCuの一部がシリコンウェーハ11表面に析出し金属粒子が形成され易くなり、そして、従来技術で説明したように回収液16に溶解しなくなってその回収率が低下するようになるからである。図3において溶解液13の占有率が100%の場合が従来技術にほぼ相当している。
なお、Cu以外の例えばFe、Ni、Cr、Al、Na等の金属では、溶解液13が25%以上であればそれ等の回収率は100近くになることが確認されている。
【0030】
また、上述した半導体ウェーハ表面不純物の回収方法において、図1(b)の第2の工程で溶解液13をウェーハ表面に付着させてから、図1(c)の第3の工程で滴下した回収液16の移動走査を開始するまでの待機時間(以下、回収までの待機時間と呼称する)は、5〜10minの範囲になるようにすると好ましい。
【0031】
この回収までの待機時間の効果について、図4にその一例を示す。図4は図1および図6で説明した方法によりシリコンウェーハ11上の金属不純物を回収し、ICP−MSにより金属不純物を定量分析して求めたCuの回収率を示すグラフである。ここで、図4の縦軸にCuの回収率をとり、横軸に上記第2の工程で溶解液13を全ウェーハ表面に付着させてから、第3の工程で滴下した回収液16の移動走査を開始する回収までの待機時間をとっている。なお、Cuの回収率は、ICP−MSにより計測したCu量のシリコンウェーハ11を強制汚染した一定量のCuに対する比として示してある。そして、上記溶解液13のウェーハ表面での占有率がパラメータにしてある。
【0032】
図4に示すように、回収の待機時間が5〜10minの範囲であれば、溶解液13の占有率が25%〜75%のパラメータに関係なくCuの回収率は安定して95%を越えるようになる。ここで、回収の待機時間が5minより短くなるに従い、Cuの回収率は急減する。これは、この状態では、溶解液13によるシリコン酸化膜12の溶解が充分に進まず、その後に滴下した回収液16が弾かれて転がるほどのウェーハ面の疎水性が得られないためである。
【0033】
同様に、回収の待機時間が10minより長くなってもCu回収率は減少するようになる。これは、溶解液13が付着していない領域において、溶解液13の気化したHF蒸気がシリコン酸化膜12を溶解し、ウェーハ表面は従来技術の場合と同じような疎水性を有するようになるからである。そして、溶解液13に溶解したCuの一部がシリコンウェーハ11表面に析出し金属粒子が形成され、回収液16に溶解しなくなってその回収率が低下する。なお、Cu以外の例えばFe、Ni、Cr、Al、Na等の金属では、回収の待機時間が5min以上であればそれ等の回収率は100近くになることが確認されている。
【0034】
本実施形態では、表面に酸化膜が形成されている半導体ウェーハ上に存在する金属不純物の分析において、はじめにその酸化膜を溶解しウェーハ表面を疎水性にする粒状の溶解液をほぼ粒径を揃えて付着させ、次に所定の経過時間後に表面に滴下した回収液を移動走査して金属不純物を回収する。このようにすることにより、従来技術で説明した溶解液の気化による消滅が防止され、半導体ウェーハ表面における金属粒子の析出が無くなる。そして、半導体ウェーハを構成する元素よりも高い酸化還元電位を有する金属元素であっても、回収液により高い収率で自動回収できるようになる。例えば、半導体ウェーハがシリコンウェーハである場合には、Cu、Pt、Au、Ag等の貴金属であってもFe、Ni、Cr、Al、Na等の金属の回収率と同様に100%に近い回収率で回収できるようになる。
【0035】
そして、上記回収率が向上することから、半導体ウェーハ上を汚染する金属不純物の測定限界が容易に下限延長されるようになる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明の効果について具体的に説明する。ここで、金属不純物回収の試行実験には、8インチφ、p導電型、両面鏡面加工した面方位(100)のシリコンウェーハを用いた。また、このシリコンウェーハをAPMにより所定の時間洗浄した。この洗浄によりパーティクルが除去され、膜厚2nm程度の化学酸化膜が形成された。そして、これ等のシリコンウェーハに対しCuの強制汚染を施した。この強制汚染では、20枚のシリコンウェーハを準備し、それ等の化学酸化膜の表面に上記金属を含む溶液を塗布した後にNガス雰囲気中で乾燥させた。ここで、ウェーハ上のCu汚染量が1×1011原子/cmになるように上記溶液を調製した。
【0037】
そして、上記Cuの強制汚染を施したシリコンウェーハのうち5枚のウェーハ上のCuをそれぞれに回収してウェーハ表面のCu汚染量をICP−MSにより計測した。この5枚のシリコンウェーハで計測したCu汚染量を平均化して標準のCu汚染量とした。ここで、シリコンウェーハのCuの回収では、フッ化水素酸によりウェーハ上の化学酸化膜および金属汚染物を全て溶解させ、その溶解液を全て手動により回収するようにした。
なお、本発明はこのような実施例のみに限定されるものでないことに言及しておく。
【0038】
(実施例)
図1で説明した回収方法により、上記Cu金属を強制汚染させたシリコンウェーハ上のCuを自動回収した。ここで、5枚のシリコンウェーハについて全く同様な自動回収を行った。この自動回収における主条件は以下のようである。
溶解液13は濃度が0.1質量%のDHFであり、噴霧器14により吐出した溶解液13aは、その粒径が50〜100nmである。そして、30mリットル/時間の流速で吐出させ、シリコンウェーハ11上のシリコン酸化膜12表面に粒状の溶解液13を付着させた。ここで、溶解液13のシリコンウェーハ表面における占有率はほぼ50%になる。
また、回収液16としてはHF:H:HO=1:1:10のFPMを使用した。
そして、粒状の溶解液13をウェーハ表面に付着させてから回収液16を滴下し移動走査を開始する回収までの待機時間は7minとし、回収液16のシリコンウェーハ11上の移動走査は図6に示す方法で行った。
上記移動走査しシリコンウェーハ上の金属不純物を回収した回収液中のCu量はICP−MSにより計測した。そして、回収し計測したCu量を上記標準のCu汚染量で除算し、5枚のサンプルについてそれぞれに回収率を算出した。
【0039】
(比較例)
図5で説明した回収方法により、上記Cu金属を強制汚染させたシリコンウェーハ上のCuを自動回収した。ここで、5枚のシリコンウェーハについて全く同様な自動回収を行った。但し、図5において、フッ化水素酸蒸気103は、濃度が0.1質量%のDHFから成る。また、回収液106は実施例と同じHF:H:HO=1:1:10のFPMである。そして、実施例の場合と全く同様にしてICP−MSにより回収液中のCu量を計測した。そして、回収し計測したCu量を上記標準のCu汚染量で除算し、5枚のサンプルについてそれぞれに回収率を算出した。
【0040】
(評価)
上記実施例および比較例におけるCuの回収率は、まとめて表1に示している。表1に示すように、実施例では5枚のサンプルの回収率は97〜100%と安定して高い値になった。そして、その回収率の平均値は98である。これに対して、従来技術に相当する比較例では、その回収率は80〜89%であり、その平均値は83%であった。このように実施例では、比較例に較べてシリコンウェーハ上のCuの平均回収率が15%程度向上している。
【0041】
【表1】

【0042】
以上のことから、本実施形態で説明したように、シリコンウェーハ上の貴金属であるCuの回収率が安定的に向上することが確認された。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0044】
例えば、本実施形態で説明した金属不純物の回収方法は、いわゆるSOI(Silicon on Insulator)ウェーハ、シリコンエピタキシャルウェーハを含むシリコンウェーハの他に、化合物半導体から成る半導体ウェーハの場合にも同様に適用することができる。
【0045】
また、上記実施形態では半導体ウェーハ表面に形成される親水性の薄膜として自然酸化膜あるいは化学酸化膜の場合について説明したが、ウェーハの熱酸化あるいは化学気相成長等で成膜した絶縁膜であっても構わない。この場合、溶解液はこれ等の絶縁膜および金属不純物を溶解する化学薬液が用いられる。
【0046】
また、半導体ウェーハ上を汚染する金属不純物は、金属を含んだ不純物であればよく、金属の有機化合物、金属の無機化合物等の種々の形態で存在するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態にかかる半導体ウェーハ表面不純物の回収方法の概略を順に模式的に示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるウェーハ表面への粒状の溶解液の散布方法の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の実施形態におけるウェーハ表面での溶解液の付着占有率とCu回収率の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態におけるウェーハ表面への溶解液の付着から回収液の移動走査を開始するまでの待機時間とCu回収率の関係を示すグラフである。
【図5】従来の技術における金属不純物の回収工程の概略を順に模式的に示す断面図である。
【図6】ウェーハ表面における回収液の移動走査の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0048】
11 シリコンウェーハ
12 シリコン酸化膜
13 溶解液
13a 散布される溶解液
14 噴霧器
15 移動方向
16 回収液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に親水性の薄膜が形成された半導体ウェーハ上の汚染した不純物を計測するために、前記不純物を回収する方法であって、
前記半導体ウェーハ上の薄膜および前記不純物を溶解し前記半導体ウェーハ表面を疎水性にする溶解液を粒状にして前記薄膜の表面に付着させる工程と、
前記粒状の溶解液を付着させ所定の時間経過後に、前記半導体ウェーハ上に前記不純物を回収する回収液を滴下し半導体ウェーハ上で移動走査させて、前記半導体ウェーハ上の不純物を回収する工程と、
を有してなることを特徴とする半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。
【請求項2】
前記薄膜がシリコン酸化膜であって、前記溶解液がフッ化水素酸を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。
【請求項3】
前記シリコン酸化膜の表面における前記溶解液の付着占有率が30〜70%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。
【請求項4】
前記所定の時間経過は、5〜10minの範囲になることを特徴とする請求項2又は3に記載の半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。
【請求項5】
前記回収液は、フッ化水素酸と過酸化水素を含んでいることを特徴とする請求項2,3又は4に記載の半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。
【請求項6】
前記半導体ウェーハはシリコンウェーハであり、前記不純物は貴金属を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の半導体ウェーハ表面不純物の回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−21507(P2009−21507A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184584(P2007−184584)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】