説明

半導体レーザ及びその製造方法

【課題】簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器が形成された半導体レーザ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】β―Ga系単結晶からなる基板と、基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面が成長して形成されたエピタキシャル層と、エピタキシャル層の劈開面である(1−100)面を共振面端面として形成されるレーザ共振器と、を有する半導体レーザ構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ及びその製造方法に関し、特に、β―Ga基板を使用した半導体レーザ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザの短波長化は光記録の高密度化や高速かつ大容量の光通信を長距離において可能にするため大いに期待されている。また、光センシングやレーザ加工、ディスプレイ関連の分野においても非常に期待されている。
【0003】
ここで、従来の半導体レーザとして、サファイア基板上に窒化物半導体から成る複数の層を形成し、レーザ共振器部分を残して他の部分をエッチングにより除去することで、共振器をメサ型に形成した半導体レーザがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
この構成では、Clガスを用いて反応性イオンビームエッチングにより半導体レーザのレーザ共振器を形成するので、エッチングレートの高いエッチングが可能となり、また、レーザ共振器端面の鏡面精度を向上させることができる。
【特許文献1】特開平11−145566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の半導体レーザによれば、サファイア基板上に窒化物半導体から成る複数の層を形成しているが、サファイア基板には劈開性がほとんどないため、劈開により共振器端面を形成することが困難である。よってエッチングによりレーザ共振器を形成する必要があり、簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器を形成することが難しいという問題がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、エッチング等によらず劈開により精度のよいレーザ共振器が形成された構成の半導体レーザ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明は、上記の目的を達成するため、β―Ga系単結晶からなる基板と、前記基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面が成長して形成されたエピタキシャル層と、前記エピタキシャル層の劈開面である(1−100)面を共振面端面として形成されるレーザ共振器と、を有する半導体レーザを提供する。
【0008】
[2]前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(100)面であることを特徴とする上記[1]に記載の半導体レーザであってもよい。
【0009】
[3]前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(001)面と垂直な面であることを特徴とする上記[1]に記載の半導体レーザであってもよい。
【0010】
[4]また、本発明は、上記の目的を達成するため、β―Ga系単結晶からなる基板を準備する工程と、前記基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面を成長させてエピタキシャル層を形成するエピタキシャル工程と、前記エピタキシャル層の(1−100)面を劈開してレーザ共振器を形成する共振器形成工程と、を有する半導体レーザの製造方法を提供する。
【0011】
[5]前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(100)面であることを特徴とする上記[4]に記載の半導体レーザの製造方法であってもよい。
【0012】
[6]前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(001)面と垂直な面であることを特徴とする上記[4]に記載の半導体レーザの製造方法であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器が形成された半導体レーザ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る半導体レーザの模式的斜視図である。半導体レーザ1は、n型の導電性を示すβ―Ga系単結晶からなる基板10と、基板10の上にウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面が成長して形成されたエピタキシャル層11と、活性領域12の両端にエピタキシャル層11の劈開面である共振器端面13が形成されたレーザ共振器とを有する。
【0015】
図2は、β―Ga系単結晶の結晶方位及び結晶面を示す図である。結晶方位は、a軸<100>、b軸<010>、c軸<001>で、a軸とc軸は103.7°の軸角を成している。本発明の第1の実施の形態に係る半導体レーザの基板10は、上記の結晶方位及び結晶面を有し、n型の導電性を示すものである。
【0016】
尚、β―Ga系単結晶からなる基板10は、上記のようにβ―Ga単結晶からなることを基本とするが、Cu、Ag、Zn、Cd、Al、In、Si、GeおよびSnからなる群から選ばれる1種以上を添加したGaを主成分とした酸化物で構成してもよい。これらの元素を添加することにより、格子定数あるいはバンドギャップエネルギーを制御することができる。例えば、AlとInの元素を添加することにより、(GaAlIn(1−x−y)(ただし、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表わされる基板10を得ることができる。
【0017】
図3は、β―Ga系単結晶からなる基板10の(100)面上へ六方結晶系のGaN系化合物の(0001)面をエピタキシャル成長させた場合の、それぞれa軸、b軸、c軸の関係を示すものである。β―Ga系単結晶の(001)面とGaN系化合物の(1−100)面とが、基板10の(100)面上において、一致するので、基板10とGaN系化合物のエピタキシャル層11との劈開方向が同じ方向になる。
【0018】
半導体レーザ1は、図1に示すように、β―Ga系単結晶からなる基板10の(100)面上に、GaNバッファ層21、n−GaN層22、n−InGaN層23、n−AlGaN層24、n−GaN層25、InGaN MQW26、p−AlGaN層27、p−GaN層28、p−AlGaN層29、及び、p−GaN層30がエピタキシャル層11として形成されている。また、基板10のエピタキシャル層11が形成されていない側の面にn電極31、その反対側の面にp電極32が形成されている。尚、エピタキシャル層11は、上記の各層の全部または一部を有して構成されるものである。
【0019】
上記において、主に、GaNバッファ層21は基板10との格子不整合を緩和するためのバッファ層、n−GaN層22はコンタクト層、n−InGaN層23はクラッド層、n−AlGaN層24は下地層、n−GaN層25はガイド層、InGaN MQW26は発光層、p−AlGaN層27はキャップ層、p−GaN層28はガイド層、p−AlGaN層29はクラッド層、及び、p−GaN層30はコンタクト層として機能する。
【0020】
p電極32は、図1に示すように、ストライプ型の電極とされ、ストライプ幅により電流狭窄の範囲を規定することにより活性領域12の範囲を設定している。
【0021】
ここで、図1に示すように、β―Ga系単結晶からなる基板10の(100)面にエピタキシャル層11が平行に形成されるが、基板10の(001)面は(100)面と103.7°の角度を成している。従って、基板10の劈開面である(001)面とエピタキシャル層11の劈開面である(1−100)面とは、上記の103.7°に対応した角度を有するが、劈開性に特に問題は生じない。
【0022】
半導体レーザ1のレーザ共振器は、活性領域12を含むエピタキシャル層11の(1−100)面、すなわち、エピタキシャル層11の両端の劈開面を共振器端面13として形成されている。
【0023】
尚、図示は省略するが、上記の半導体レーザ1は、n電極31及びp電極32にワイヤボンディング等により電流供給のための配線が施され、実装のためのパッケージングが施される。
【0024】
(第1の実施の形態の作用効果)
第1の実施の形態によれば、以下に示す作用効果を有する。
(1)β―Ga系単結晶からなる基板10の(100)面にGaN系化合物の(0001)面を成長させているので、劈開面がほぼ同じ方向の面となる。よって劈開を利用して、容易に良質な共振器端面13が得られる。
(2)β―Ga系単結晶からなる基板10は、導電性を有するので電極をエピタキシャル層11の側とそれと反対側の基板10に設けた垂直構造とすることが可能となるので、半導体レーザの簡易的な製造プロセスにより作製することが可能となる。
(3)β―Ga系単結晶からなる基板10は、GaNと熱膨張率が非常に近いため、プロセス中の基板10の反りの影響が少なく、基板10の全体に亘って均一なエピタキシャル層11が得られ歩留まりが向上する。
【0025】
以上から、従来技術で実施されている、例えば、サファイア基板をレーザリフト法により除去してSi基板等へ貼りかえる必要等がなく、劈開を利用して簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器が形成された半導体レーザが可能となる。
【0026】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る半導体レーザの模式的斜視図である。第1の実施の形態と異なるところとして、第2の実施の形態では、β―Ga系単結晶からなる基板50の(001)面に垂直な面に、GaNバッファ層21、n−GaN層22、n−InGaN層23、n−AlGaN層24、n−GaN層25、InGaN MQW26、p−AlGaN層27、p−GaN層28、p−AlGaN層29、及び、p−GaN層30をエピタキシャル層11として形成している。その他、n電極31、p電極32等の構成は第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0027】
図4において、基板50の(001)面は、エピタキシャル層の成長面と90°の角度を成している。従って、基板50の劈開面である(001)面とエピタキシャル層11の劈開面である(1−100)面とは、同一の方向の面となっている。
【0028】
(第2の実施の形態の作用効果)
第2の実施の形態によれば、基板50の(001)面に垂直な面上にエピタキシャル層11を形成するので、基板50の劈開面である(001)面とエピタキシャル層11の劈開面である(1−100)面とが一致し、矩形状のチップとすることができる。これにより、エピタキシャル層11の劈開が第1の実施の形態よりも更に容易で、かつ、高精度にできるので、劈開を利用して簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器が形成された半導体レーザが可能となる。その他の作用効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0029】
(第1及び第2の実施の形態に係る半導体レーザの製造方法)
第1の実施の形態および第2の実施の形態に係る半導体レーザ1の製造方法は、β―Ga系単結晶からなる基板を準備する工程と、基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面を成長させてエピタキシャル層を形成するエピタキシャル工程と、エピタキシャル層の所定の劈開面を劈開してレーザ共振器を形成する共振器形成工程と、を有する製造工程により提供される。
【0030】
(基板10を準備する工程)
β―Ga系単結晶からなる基板10または基板50を準備する。基板10または基板50は、EFG法あるいはFZ法等により作製される。この工程では、基板10におけるエピタキシャル層成長面が(100)面、または、基板50におけるエピタキシャル層成長面が(001)面に垂直な面とされた基板を準備する。
【0031】
(エピタキシャル工程)
エピタキシャル工程は、以下に示すように、公知の半導体プロセスにより可能である。第1の実施の形態では、基板10の(100)面に、また、第2の実施の形態では、基板50の(001)面に垂直な面上に、GaNバッファ層21、n−GaN層22、n−InGaN層23、n−AlGaN層24、n−GaN層25、InGaN MQW26、p−AlGaN層27、p−GaN層28、p−AlGaN層29、及び、p−GaN層30を、MOCVD法等により各層を順次エピタキシャル成長させる。
【0032】
InGaN MQW26は、例えば、不純物を添加していないノンドープInGaNからなる半導体により形成され、多重量子井戸構造(MQW)をなしている。InとGaの組成比を調節したり、p型あるいはn型の導電性とすることにより、InGaN発光層のバンドギャップを変化させて発光波長を変化させることができる。
【0033】
(共振器形成工程)
エピタキシャル工程により得られたベア基板を、所定の共振器長になるよう、基板10または基板50の劈開面である(001)面で劈開する。この劈開面(001)は、共振器端面13としてエピタキシャル層11の両端に平行に形成されて、半導体レーザ1の共振器を構成する。
【0034】
(その他の工程)
劈開面(001)と垂直な方向はダイシング等により切断され、矩形状のベアチップが作製される。n電極31及びp電極32にワイヤボンディング等により電流供給のための配線が施され、実装のためのパッケージングが施されて、半導体レーザ1が製造される。
【0035】
(半導体レーザ1の製造方法の作用効果)
半導体レーザ1の製造方法によれば、以下に示す作用効果を有する。
(1)β―Ga系単結晶からなる基板10または基板50の劈開面である(001)面にGaN系化合物の(0001)面を成長させているので、劈開面がほぼ同じ面となる。よって劈開を利用して、容易に良質な共振器端面13が得られる。
(2)β―Ga系単結晶からなる基板は、導電性を有するので電極をエピタキシャル層11の側とそれと反対側の基板に設けた垂直構造とすることが可能となるので、半導体レーザの簡易的な製造プロセスにより作製することが可能となる。
(3)β―Ga系単結晶からなる基板は、GaNと熱膨張率が非常に近いため、プロセス中の基板の反りの影響が少なく、基板の全体に亘って均一なエピタキシャル層11が得られ歩留まりが向上する。
【0036】
以上から、従来技術で実施されている、例えば、サファイア基板をレーザリフト法により除去してSi基板等へ貼りかえる必要等がなく、劈開を利用して簡易な製造プロセスにより精度のよいレーザ共振器が形成された半導体レーザの製造方法が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る半導体レーザの模式的斜視図である。
【図2】図2は、β―Ga系単結晶の結晶方位及び結晶面を示す図である。
【図3】図3は、β―Ga系単結晶からなる基板10の(100)面上へ六方結晶系のGaN系化合物の(0001)面をエピタキシャル成長させた場合の、それぞれa軸、b軸、c軸の関係を示すものである。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の形態に係る半導体レーザの模式的斜視図である。
【符号の説明】
【0038】
10、50 基板
11 エピタキシャル層
12 活性領域
13 共振器端面
21 GaNバッファ層
22 n−GaN層
23 n−InGaN層
24 n−AlGaN層
25 n−GaN層
26 InGaN MQW
27 p−AlGaN層
28 p−GaN層
29 p−AlGaN層
30 p−GaN層
31 n電極
32 p電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β―Ga系単結晶からなる基板と、
前記基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面が成長して形成されたエピタキシャル層と、
前記エピタキシャル層の劈開面である(1−100)面を共振面端面として形成されるレーザ共振器と、
を有する半導体レーザ。
【請求項2】
前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(100)面であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項3】
前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(001)面と垂直な面であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ。
【請求項4】
β―Ga系単結晶からなる基板を準備する工程と、
前記基板の所定の面方位で規定される面上に、ウルツ鉱型構造のGaN系化合物の(0001)面を成長させてエピタキシャル層を形成するエピタキシャル工程と、
前記エピタキシャル層の(1−100)面を劈開してレーザ共振器を形成する共振器形成工程と、
を有する半導体レーザの製造方法。
【請求項5】
前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(100)面であることを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザの製造方法。
【請求項6】
前記基板の所定の面方位で規定される面は、前記基板の(001)面と垂直な面であることを特徴とする請求項4に記載の半導体レーザの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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