説明

半導体レーザ素子およびそれを用いた半導体レーザ装置

【課題】接合不具合を抑制することが可能な半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】この半導体レーザ素子10は、GaAs基板11と、GaAs基板11上に形成され、複数の半導体層を含む半導体積層部と、GaAs基板11の半導体積層部とは反対側の下面上に形成されたn側電極19とを備えている。また、n側電極19は、アロイ処理が施された第1電極層19aと、アロイ処理が施されていない第2電極層19bとから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子およびそれを用いた半導体レーザ装置に関し、特に、電極層を備えた半導体レーザ素子およびそれを用いた半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板の一方の面上に活性層を含む複数の半導体層が積層されるとともに、基板の他方の面上に電極層が形成された半導体レーザ素子が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、n型GaAs基板の上面上に、発光層を含む複数の半導体層が形成されるとともに、n型GaAs基板の下面上にn側電極が形成された半導体レーザ素子が記載されている。なお、上記特許文献1に記載の半導体レーザ素子では、n型GaAs基板の上面側である、半導体層の最上部にp側電極が形成されている。このような半導体レーザ素子では、半導体に接触する電極をオーミック電極とするために、その製造プロセスにおいてアロイ処理(熱処理)が施される場合がある。
【0004】
一方、レーザ光を出射する半導体レーザ素子は、半導体レーザ装置を構成するために、パッケージに装着されるサブマウントなどの支持基板上に半田などの融着材によって接合される。
【特許文献1】特開2006−324552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本願発明者らが、鋭意検討した結果、アロイ処理が施された従来の半導体レーザ素子では、n側電極と支持基板とが対向するように配置した状態で半田材によって支持基板上に接合した場合に、半導体レーザ素子の接合不具合の発生する確率が高くなるという不都合があることを見いだした。すなわち、アロイ処理が施された従来の半導体レーザ素子では、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することが困難であるという問題点があることを見いだした。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、接合不具合を抑制することが可能な半導体レーザ素子を提供することである。
【0007】
この発明のもう1つの目的は、半導体レーザ素子の接合不具合が抑制された半導体レーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、アロイ処理を施すことよって基板から電極層に砒素が拡散するとともに、この拡散した砒素が半導体レーザ素子の接合不具合に影響を及ぼしている可能性があることを見いだした。
【0009】
すなわち、この発明の第1の局面による半導体レーザ素子は、少なくとも砒素を含む基板と、基板の上面上に形成され、複数の半導体層を含む半導体素子部と、基板の半導体素子部とは反対側の下面上に形成された電極層とを備え、この電極層は、少なくとも、アロイ処理が施された第1金属層と、第1金属層の基板とは反対側の表面上に形成され、アロイ処理が施されていない第2金属層とを含む。
【0010】
この第1の局面による半導体レーザ素子では、上記のように、電極層を、少なくとも、アロイ処理が施された第1金属層と、第1金属層の基板とは反対側の表面上に形成され、アロイ処理が施されていない第2金属層とを含むように構成することによって、アロイ処理が施されていない第2金属層により、接合不具合に及ぼす砒素の影響を低減させることができるので、半導体レーザ素子を融着材によって支持基板上に接合する際に、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合したとしても、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することができる。その理由については、以下のように考えられる。すなわち、アロイ処理を施すことによって、基板から電極層に砒素が拡散するとともに、拡散した砒素が、第2金属層が形成される前の電極層の表面近傍領域に濃縮する。この濃縮した砒素は他の元素(酸素など)と反応して砒素化合物(砒素酸化物など)を形成する。そして、形成された砒素化合物は、融着材による半導体レーザ素子の接合を阻害する働きをすると考えられる。一方、第1金属層の表面上に第2金属層を形成することによって、形成された砒素化合物を第2金属層によって覆うことができるので、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合した際に、砒素化合物による半導体レーザ素子の接合阻害機能が有効に抑制される。これにより、半導体レーザ素子の接合不具合が効果的に抑制されると考えられる。
【0011】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、基板は、GaAsから構成されているとともに、第1金属層および第2金属層は、それぞれ、金層から構成されている。このように構成すれば、半導体レーザ素子をAuSn半田などの融着材によって支持基板上に接合する際に、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合したとしても、容易に、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、第1金属層と基板との間には、第1金属層とは異なる材料から構成された第3金属層が形成されている。このように構成すれば、半導体レーザ素子を融着材によって支持基板上に接合する際に、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合したとしても、より容易に、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することができる。その理由については、以下のように考えられる。すなわち、第3金属層を形成することによって、基板からの砒素の拡散が第3金属層の位置で抑止される。このため、第2金属層が形成される前の電極層の表面近傍領域に濃縮する砒素の量が、第3金属層が形成されていない場合に比べて少なくなる。それに伴い、形成される砒素化合物の量も少なくなるので、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合した際に、砒素化合物による半導体レーザ素子の接合阻害機能がより有効に抑制される。その結果、半導体レーザ素子の接合不具合がより効果的に抑制されると考えられる。
【0013】
この場合において、好ましくは、第3金属層は、白金層から構成されている。このように構成すれば、さらに容易に、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することができる。
【0014】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、半導体積層部には、10μm以上の電流注入幅を有する電流注入領域が形成されている。このように構成すれば、容易に、接合不具合の発生を抑制することが可能なブロードエリア型の半導体レーザ素子を得ることができる。
【0015】
この発明の第2の局面による半導体レーザ装置は、上記第1の局面による半導体レーザ素子と、半導体レーザ素子が接合される支持基板とを備え、半導体レーザ素子が、電極層と支持基板とが対向するように配置された状態で支持基板上に接合された半導体レーザ装置である。このように構成すれば、半導体レーザ素子を融着材によって支持基板上に接合する際に、電極層と支持基板とが対向するように半導体レーザ素子を配置した状態で接合した場合でも、半導体レーザ素子の接合不具合が抑制された半導体レーザ装置を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、接合不具合を抑制することが可能な半導体レーザ素子を容易に得ることができる。
【0017】
また、本発明によれば、半導体レーザ素子の接合不具合が抑制された半導体レーザ装置を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、第1実施形態および第2実施形態では、半導体レーザ素子の一例である、高出力でレーザ光を出射可能なブロードエリア型の半導体レーザ素子に本発明を適用した例について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による半導体レーザ装置の構造を示した全体斜視図であり、図2は、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図3は、図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の発光層の構造を示した断面図であり、図4は、図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。図5〜図7は、図1に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ装置の構造を説明するための図である。まず、図1〜図7を参照して、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子10およびその半導体レーザ素子10が搭載された半導体レーザ装置の構造について説明する。
【0020】
第1実施形態による半導体レーザ装置は、図1に示すように、キャンパッケージ型の半導体レーザ装置である。また、第1実施形態による半導体レーザ装置は、ステム1と、ステム1の上面上に固定されたヒートシンク2と、ヒートシンク2に取り付けられたサブマウント3と、サブマウント3に接合(実装)された半導体レーザ素子10と、ステム1の上面上に半導体レーザ素子10などを覆うように取り付けられたキャップ4と、3本のリードピン6、7および8とを備えている。
【0021】
ステム1は、鉄または銅などの金属材料から構成されており、円板状に形成されている。また、ヒートシンク2は、銅などの金属材料によって構成されており、ステム1の上面(主面)の中央部近傍領域に固定されている。このヒートシンク2は、半導体レーザ素子10の熱を、サブマウント3を介して放熱する機能を有している。なお、ヒートシンク2は、ステム1に一体に形成された構成となる場合もある。
【0022】
また、サブマウント3は、ヒートシンク2の所定領域に固定されている。このサブマウント3は、図5に示すように、サブマウント基板3aと、サブマウント基板3aの上面上および下面上にそれぞれ形成された金属膜3bおよび3cと、金属膜3b上の所定領域に形成された、AuSn(Au:70wt%程度)からなる半田層(融着材)3dとから構成されている。なお、サブマウント3は、本発明の「支持基板」の一例である。
【0023】
また、第1実施形態による半導体レーザ素子10の具体的な構造としては、図2に示すように、約100μmの厚みを有するGaAs基板11上に、約3.3μmの厚みを有するn型Al0.48Ga0.52Asからなるn型クラッド層12が形成されている。n型クラッド層12上には、発光層13が形成されている。この発光層13は、図3に示すように、約9nmの厚みを有するGaAsからなる2つの量子井戸層13aと、約8nmの厚みを有するAl0.39Ga0.61Asからなる1つの障壁層13bとが交互に積層されたMQW(多重量子井戸)構造を有する活性層13cを含んでいる。また、活性層13cを挟むように、約30nmの厚みを有するAl0.39Ga0.61Asからなる光ガイド層13dおよび13eが設けられている。そして、活性層13cと、光ガイド層13dおよび13eとによって、発光層13が構成されている。なお、GaAs基板11は、本発明の「基板」の一例である。
【0024】
また、図2に示すように、発光層13の光ガイド層13e(図3参照)上には、約1.2μmの厚みを有するp型Al0.49Ga0.51Asからなるp型クラッド層14が形成されている。p型クラッド層14上には、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型コンタクト層15が形成されている。p型コンタクト層15上には、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型キャップ層16が形成されている。p型キャップ層16上の所定の領域には、電流ブロック層17が形成されている。この電流ブロック層17は、電流注入領域20に対応する領域に開口部17cを有している。また、電流ブロック層17の開口部17cに対応する領域に形成された電流注入領域20は、約360μmの幅Wを有するとともに、平面的に見て、光の出射方向に延びるストライプ状(細長状)に形成されている。
【0025】
また、電流ブロック層17は、p型キャップ層16側から、約0.6μmの厚みを有するn型Al0.7Ga0.3Asからなるn型AlGaAs層17aと、約0.3μmの厚みを有するn型GaAs層17bとが積層された2層構造を有している。なお、GaAs基板11上に形成された半導体各層12〜17は、本発明の「半導体積層部」の一例である。
【0026】
そして、p型キャップ層16上および電流ブロック層17上には、p型キャップ層16および電流ブロック層17側から、Cr層と、Au層と、Pt層と、Au層とが順次積層された約2.3μmの合計厚みを有するp側電極18が形成されている。また、GaAs基板11の裏面上には、約1.3μmの合計厚みを有するn側電極19が形成されている。なお、n側電極19は、本発明の「電極層」の一例である。
【0027】
ここで、第1実施形態では、図2に示すように、n側電極19は、GaAs基板11側から形成された、アロイ処理が施された第1電極層19aと、アロイ処理が施されていない第2電極層19bとから構成されている。なお、アロイ処理は、半導体に接触する電極をオーミック電極とするために行われる。
【0028】
また、第1実施形態では、図4に示すように、n側電極19の第1電極層19aは、GaAs基板11側から順次形成された、約0.007μmの厚みを有する第1Au層191aと、約0.02μmの厚みを有するGe層192aと、約0.16μmの厚みを有する第2Au層193aと、約0.03μmの厚みを有するNi層194aと、約0.8μmの厚みを有する第3Au層195aとから構成されている。なお、第3Au層195aは、本発明の「第1金属層」の一例である。
【0029】
また、第1実施形態では、アロイ処理が施されていない第2電極層19bは、約0.3μmの厚みを有する第4Au層19bから構成されているとともに、第1電極層19aの第3Au層195a上に形成されている。なお、第2電極層19bおよび第4Au層19bは、本発明の「第2金属層」の一例である。
【0030】
また、第1実施形態では、図6および図7に示すように、半導体レーザ素子10は、ジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合されている。具体的には、半導体レーザ素子10は、n側電極19とサブマウント3の上面とが対向するように配置された状態で、半田層3eによってサブマウント3上に接合されている。なお、図7に示す半田層3eは、n側電極19の第2電極層(第4Au層)19bおよび第1電極層19aの第3Au層195aと、サブマウント3の半田層3d(AuSn、図5参照)とが共晶反応することによって形成されている。
【0031】
また、ブロードエリア型の半導体レーザ素子10では、発熱量が比較的大きくなるため、半導体レーザ素子10とサブマウント3(サブマウント基板3a)との熱膨張係数の差に起因して半導体レーザ素子10に生じる熱応力も比較的大きくなる。このため、半導体レーザ素子10を、発光層13がサブマウント3から遠ざかるジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合した場合の方が、発光層13がサブマウント3に近付くジャンクションダウン方式でサブマウント3上に接合した場合に比べて、発光層13へのひずみの導入が抑制される。したがって、半導体レーザ素子10をジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合することによって、ジャンクションダウン方式でサブマウント3上に接合する場合に比べて、放熱性は劣るものの、発光層13へのひずみの導入が抑制される分、素子特性の低下が抑制される。
【0032】
また、図1に示すように、キャップ4は、銅などの金属材料によって構成されるとともに、一面を開放した円筒形状を有している。このキャップ4の開放端には、フランジ部4aが設けられており、キャップ4の閉鎖端には、半導体レーザ素子10から出射されるレーザ光を取り出すための出射孔4bが設けられている。また、その出射孔4bは、ガラス5によって覆われている。また、キャップ4は、そのフランジ部4aがステム1に溶接されることによって、半導体レーザ素子10などを覆うように、ステム1の上面上に固定されている。
【0033】
第1実施形態では、上記のように、n側電極19を、第3Au層195aを含むアロイ処理が施された第1電極層19aと、第3Au層195aの上面上に形成されたアロイ処理が施されていない第2電極層(第4Au層)19bとから構成することによって、半導体レーザ素子10を半田層3dによってサブマウント3上に接合する際に、n側電極19とサブマウント3とが対向するように半導体レーザ素子10を配置した状態で接合したとしても、半導体レーザ素子10の接合不具合を抑制することができる。すなわち、上記のように構成することによって、半導体レーザ素子10をジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合したとしても、半導体レーザ素子10の接合不具合を抑制することができる。
【0034】
その理由については、以下のように考えられる。すなわち、アロイ処理を施すことによって、GaAs基板11からn側電極19に砒素(As)が拡散するとともに、拡散した砒素が、第1電極層19a(第3Au層195a)の表面近傍領域に濃縮する。この濃縮した砒素は他の元素(酸素など)と反応して砒素化合物(砒素酸化物など)を形成する。そして、形成された砒素化合物は、半田層3dによる半導体レーザ素子10の接合を阻害する働きをすると考えられる。一方、第1電極層19a(第3Au層195a)の表面上に第2電極層(第4Au層)19bを形成することによって、形成された砒素化合物を第2電極層(第4Au層)19bによって覆うことができるので、n側電極19とサブマウント3とが対向するように半導体レーザ素子10を配置した状態(ジャンクションアップ方式)で接合した際に、砒素化合物による半導体レーザ素子10の接合阻害機能が有効に抑制される。これにより、半導体レーザ素子10の接合不具合が効果的に抑制されると考えられる。
【0035】
また、第1実施形態では、半導体レーザ装置に半導体レーザ素子10を搭載することによって、半導体レーザ素子10をジャンクションアップ方式で半田層3dによってサブマウント3上に接合した場合でも、半導体レーザ素子10の接合不具合が抑制された半導体レーザ装置を容易に得ることができる。
【0036】
図8〜図15は、図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。次に、図2〜図4、および、図8〜図15を参照して、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子10の製造方法について説明する。
【0037】
まず、図8に示すように、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)を用いて、約350μmの厚みを有するとともに、{100}結晶面から約4°傾斜したGaAs基板11の上面上に、約3.3μmの厚みを有するn型Al0.48Ga0.52Asからなるn型クラッド層12、発光層13、約1.2μmの厚みを有するp型Al0.49Ga0.51Asからなるp型クラッド層14、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型コンタクト層15、および、約1.0μmの厚みを有するp型GaAsからなるp型キャップ層16を順次成長させる。
【0038】
なお、発光層13は、図3に示したように、約30nmの厚みを有するAl0.39Ga0.61Asからなる光ガイド層13d上に、MQW構造を有する活性層13c、および、約30nmの厚みを有するAl0.39Ga0.61Asからなる光ガイド層13eを順次成長させることにより形成する。また、活性層13cは、約9nmの厚みを有するGaAsからなる2つの量子井戸層13aと、約8nmの厚みを有するAl0.39Ga0.61Asからなる1つの障壁層13bとを交互に積層することにより形成する。
【0039】
次に、図9に示すように、p型キャップ層16上に、p型キャップ層16側から、約0.6μmの厚みを有するn型Al0.7Ga0.3Asからなるn型AlGaAs層17aと、約0.3μmの厚みを有するn型GaAs層17bとを順次成長させることによって、n型AlGaAs層17aとn型GaAs層17bとの2層からなる電流ブロック層17を形成する。
【0040】
そして、図10に示すように、フォトリソグラフィ技術などを用いて、電流ブロック層17上の所定領域にレジスト膜30を形成する。その後、図11に示すように、形成したレジスト膜30をマスクとして、電流ブロック層17をエッチングする。これにより、図2に示したような、幅W(約360μm)を有する、電流注入領域20に対応する開口部17cが電流ブロック層17に形成される。その後、形成したレジスト膜30を除去することにより、図12に示す形状を得る。
【0041】
次に、図13に示すように、真空蒸着法などを用いて、p型キャップ層16上および電流ブロック層17上に、p型キャップ層16および電流ブロック層17側から、Cr層と、Au層と、Pt層と、Au層とが順次積層された約2.3μmの合計厚みを有するp側電極18を形成する。
【0042】
続いて、GaAs基板11の裏面を研磨等の方法を用いて、GaAs基板11の厚みが約100μmの厚みになるまで薄くする。
【0043】
次に、図2に示したように、真空蒸着法などを用いて、GaAs基板11の裏面上に、約1.3μmの合計厚みを有するn側電極19を形成する。具体的には、図14および図15に示すように、まず、GaAs基板11の裏面上に、GaAs基板11側から、約0.007μmの厚みを有する第1Au層191aと、約0.02μmの厚みを有するGe層192aと、約0.16μmの厚みを有する第2Au層193aと、約0.03μmの厚みを有するNi層194aと、約0.8μmの厚みを有する第3Au層195aとが順次積層された第1電極層19aを形成する。次に、処理温度370℃(許容誤差±10℃)、処理時間35分のアロイ処理条件で半導体レーザ素子10のアロイ処理を行う。これは、半導体に接触する電極をオーミック電極とするためである。そして、図4に示したように、真空蒸着法などを用いて、第1電極層19aの第3Au層195aの表面上に、約0.3μmの厚みを有する第4Au層19bを形成する。これにより、GaAs基板11の裏面上に、アロイ処理が施された第1電極層19aと、アロイ処理が施されていない第2電極層19bとから構成されるn側電極19が形成される。
【0044】
このようにして、図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子10が形成される。
【0045】
図16は、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子をサブマウント上に接合する方法を説明するための断面図である。次に、図7および図16を参照して、第1実施形態による半導体レーザ素子10をサブマウント3上に接合する方法について説明する。まず、図16に示すように、サブマウント3をヒータステージ40上に載置するとともに、そのサブマウント3上に、ピックアップコレット50によって、半導体レーザ素子10を載置する。この際、半導体レーザ素子10は、n側電極19とサブマウント3の半田層3dとが接触するように、サブマウント3上に載置する。次に、ヒータステージ40により、サブマウント3の半田層3dが溶融する所定温度まで昇温(加熱)することによって、半田層3dを溶融させる。そして、ピックアップコレット50によって、約28gの加重を加えた状態で所定時間保持する。これにより、AuSnからなる半田層3dとn側電極19とが共晶反応し、図7に示したような半田層3eが形成される。その後、窒素ガスを1.4L/minの流量で流しながら冷却を行うことによって、半田層3eを固化させる。このようにして、サブマウント3上に、ジャンクションアップ方式で半導体レーザ素子10が接合される。
【0046】
続いて、上記第1実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、n側電極の構造を変えた場合の半導体レーザ素子の接合状態を確認するために、n側電極にアロイ処理が施されていない第2電極層を含む実施例1と、n側電極にアロイ処理が施されていない第2電極層を含まない比較例1とについて、サブマウント上に接合された半導体レーザ素子を剥がした後の半導体レーザ素子の剥がれ状態を比較した。
【0047】
なお、実施例1には、上記第1実施形態による半導体レーザ素子10と同様の構造を有する半導体レーザ素子を用いた。具体的には、実施例1では、図2に示したように、半導体レーザ素子のn側電極を、アロイ処理が施された第1電極層19aと、アロイ処理が施されていない第2電極層19bとから構成した。
【0048】
また、比較例1には、上記第1実施形態による半導体レーザ素子10とn側電極の構造のみが異なる半導体レーザ素子を用いた。図17は、比較例1による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。図17を参照して、この比較例1による半導体レーザ素子には、実施例1の第1電極層19a(図4参照)と同様の構造を有するn側電極60が形成されている。すなわち、この比較例1による半導体レーザ素子では、アロイ処理が施された第1電極層のみからn側電極60が構成されている。したがって、n側電極60にアロイ処理が施されていない第2電極層19b(図4参照)が形成されていない点のみが、実施例1と異なる。また、実施例1および比較例1のいずれも、半導体レーザ素子の共振器長を1000μmとし、半導体レーザ素子の共振器幅を800μmとした。
【0049】
そして、上記した半導体レーザ素子10の接合方法と同様の方法を用いて、実施例1および比較例1による半導体レーザ素子を、それぞれ、サブマウント上に接合した。また、ヒータステージによる加熱温度および加熱時間については、接合条件1および接合条件2の2条件で行った。なお、接合条件1は、加熱温度が400℃、加熱時間が10秒であり、接合条件2は、加熱温度が350℃、加熱時間が20秒である。また、実施例1および比較例1について、接合条件1で接合した試料をそれぞれ2個ずつ作製するとともに、接合条件2で接合した試料もそれぞれ2個ずつ作製した。
【0050】
上記のようにして作製した実施例1および比較例1のそれぞれ試料について、サブマウント上から半導体レーザ素子を剥がした。図18は、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がす方法について説明するための概略図である。図18を参照して、サブマウント3上から半導体レーザ素子10を剥がす際には、半導体レーザ素子10が接合されたサブマウント3を載置台70上に固定した後、フック部材80を半導体レーザ素子10の側面に当接させる。そして、フック部材80をサブマウント3の主表面と平行に矢印Y1方向に移動させる。これにより、サブマウント3から半導体レーザ素子10が剥がれる。
【0051】
そして、実施例1および比較例1のそれぞれについて、半導体レーザ素子を剥がした後の半導体レーザ素子の剥がれ状態を観察した。なお、半導体レーザ素子の剥がれ状態の観察においては、半導体レーザ素子を剥がした後のサブマウント上に、半導体レーザ素子の欠片が残存しているか否かを重点的に観察した。これらの結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

ここで、上記表1中のAは、半導体レーザ素子を剥がした後のサブマウント上に、半導体レーザ素子の欠片が残存していたことを示しており、上記表1中のBは、半導体レーザ素子の欠片が残存していなかったことを示している。また、上記表1中の◎印は、接合領域のほぼ全体に半導体レーザ素子の欠片が残存していたことを示しており、○印は、接合領域のほぼ半分に半導体レーザ素子の欠片が残存していたことを示している。また、△印は、接合領域の一部に半導体レーザ素子の欠片が残存していたことを示しており、×印は、接合領域に半導体レーザ素子の欠片が残存していなかったことを示している。なお、半導体レーザ素子の欠片が残存していた場合には、半導体レーザ素子が破断する程の接合強度を有することを意味する。このため、この場合には、半導体レーザ素子の接合不具合が生じていなかったと判断できる。また、残存する欠片の量が多い程、その接合状態が良好であると判断できるので、半導体レーザ素子の接合状態は、×印<△印<○印<◎印の順で良好であると判断できる。一方、半導体レーザ素子の欠片が残存していない場合(Bおよび×印)は、半導体レーザ素子の接合不具合が生じていたと判断できる。
【0053】
上記表1に示すように、実施例1と比較例1とを比べた結果、実施例1の方が、比較例1よりも、良好な接合状態で半導体レーザ素子がサブマウント上に接合されていたことが判明した。具体的には、アロイ処理が施された第1電極層19aの表面上に、アロイ処理が施されていない第2電極層19bを形成した実施例1では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察された。また、その残存量は、ほぼ全体(◎)およびほぼ半分(○)であり、半導体レーザ素子の接合状態は良好であった。これに対して、アロイ処理が施された第1電極層のみからn側電極60を構成した比較例1では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察されなかった。すなわち、半導体レーザ素子の接合不具合が生じていた。
【0054】
以上のように、n側電極を、アロイ処理が施された第1電極層と、第1電極層の表面上に形成された、アロイ処理が施されていない第2電極層とから構成することによって、半導体レーザ素子をジャンクションアップ方式でサブマウント上に接合した場合に、半導体レーザ素子の接合不具合が抑制されることが確認された。
【0055】
(第2実施形態)
図19は、本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図20は、図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。次に、図19および図20を参照して、本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子100の構造について説明する。なお、n側電極119以外の構造は、上記第1実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0056】
この第2実施形態による半導体レーザ素子100では、図19に示すように、GaAs基板11の裏面上に、約1.2μmの合計厚みを有するn側電極119が形成されている。なお、n側電極119は、本発明の「電極層」の一例である。このn側電極119は、上記第1実施形態のn側電極19(図4参照)の合計厚み(約1.3μm)よりも小さい厚みに構成されている。
【0057】
また、第2実施形態では、上記第1実施形態と同様、n側電極119は、GaAs基板11側から形成された、アロイ処理が施された第1電極層119aと、アロイ処理が施されていない第2電極層119bとから構成されている。
【0058】
また、n側電極119の第1電極層119aは、図20に示すように、GaAs基板11側から順次形成された、約0.007μmの厚みを有する第1Au層1191aと、約0.02μmの厚みを有するGe層1192aと、約0.16μmの厚みを有する第2Au層1193aと、約0.03μmの厚みを有するNi層1194aと、約0.1μmの厚みを有する第3Au層1195aと、約0.2μmの厚みを有するPt層(白金層)1196aと、約0.4μmの厚みを有する第4Au層1197aとから構成されている。すなわち、第2実施形態では、上記第1実施形態と異なり、第4Au層1197aと第3Au層1195aとの間にPt層1196aが形成されている。なお、第4Au層1197aは、本発明の「第1金属層」の一例であり、Pt層1196aは、本発明の「第3金属層」の一例である。
【0059】
また、第2実施形態による半導体レーザ素子100では、アロイ処理が施されていない第2電極層119bは、約0.3μmの厚みを有する第5Au層119bから構成されているとともに、第1電極層119aの第4Au層1197aの表面上に形成されている。なお、第2電極層119bおよび第5Au層119bは、本発明の「第2金属層」の一例である。
【0060】
また、第2実施形態による半導体レーザ素子100は、上記第1実施形態と同様、ジャンクションアップ方式でサブマウント3(図7参照)上に接合されている。
【0061】
第2実施形態では、上記のように、第4Au層1197aと第3Au層1195aとの間に、約0.2μmの厚みを有するPt層1196aを形成することによって、半導体レーザ素子100を半田層3d(図5参照)によりサブマウント3(図7参照)上に接合する際に、半導体レーザ素子100をジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合したとしても、より容易に、半導体レーザ素子100の接合不具合を抑制することができる。
【0062】
その理由については、以下のように考えられる。すなわち、第4Au層1197aと第3Au層1195aとの間にPt層1196aを形成することによって、GaAs基板11からの砒素の拡散がPt層1196aの位置で抑止される。このため、第1電極層119a(第4Au層1197a)の表面近傍領域に濃縮する砒素の量が、Pt層1196aが形成されていない場合に比べて少なくなる。それに伴い、形成される砒素化合物の量も少なくなるので、n側電極119とサブマウント3とが対向するように半導体レーザ素子100を配置した状態(ジャンクションアップ方式)で接合した際に、砒素化合物による半導体レーザ素子100の接合阻害機能がより有効に抑制される。その結果、半導体レーザ素子100の接合不具合がより効果的に抑制されると考えられる。
【0063】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記した第1実施形態の効果と同様である。
【0064】
図21および図22は、図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。次に、図8〜図13、および、図19〜図22を参照して、本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子100の製造方法について説明する。
【0065】
まず、図8に示した第1実施形態と同様の製造方法を用いて、n型GaAs基板11上に、n型クラッド層12、発光層13、p型クラッド層14、p型コンタクト層15、および、p型キャップ層16を順次成長させる。次に、図9に示した第1実施形態と同様の製造方法を用いて、p型キャップ層16上に、p型キャップ層16側から、n型AlGaAs層17aと、n型GaAs層17bとを順次成長させることによって、n型AlGaAs層17aとn型GaAs層17bとの2層からなる電流ブロック層17を形成する。そして、図10〜図12に示した第1実施形態と同様の製造方法を用いて、電流ブロック層17に、電流注入領域20に対応する開口部17cを形成する。その後、図13に示した第1実施形態と同様の製造方法を用いて、p型キャップ層16上および電流ブロック層17上に、p型キャップ層16および電流ブロック層17側から、Cr層と、Au層と、Pt層と、Au層とが順次積層された約2.3μmの合計厚みを有するp側電極18を形成する。
【0066】
続いて、GaAs基板11の裏面を研磨等の方法を用いて、GaAs基板11の厚みが約100μmの厚みになるまで薄くした後、図21に示したように、真空蒸着法などを用いて、GaAs基板11の裏面上に、約1.2μmの合計厚みを有するn側電極119を形成する。具体的には、図21に示すように、まず、GaAs基板11の裏面上に、GaAs基板11側から、約0.007μmの厚みを有する第1Au層1191aと、約0.02μmの厚みを有するGe層1192aと、約0.16μmの厚みを有する第2Au層1193aと、約0.03μmの厚みを有するNi層1194aと、約0.1μmの厚みを有する第3Au層1195aと、約0.2μmの厚みを有するPt層1196aと、約0.4μmの厚みを有する第4Au層1197aとが順次積層された第1電極層119aを形成する。次に、処理温度370℃(許容誤差±10℃)、処理時間35分のアロイ処理条件で半導体レーザ素子100のアロイ処理を行う。これは、半導体に接触する電極をオーミック電極とするためである。そして、図20に示したように、真空蒸着法などを用いて、第1電極層119aの第4Au層1197aの表面上に、約0.3μmの厚みを有する第5Au層119bを形成する。これにより、GaAs基板11の裏面上に、アロイ処理が施された第1電極層119aと、アロイ処理が施されていない第2電極層119bとから構成されるn側電極119が形成される。
【0067】
このようにして、図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子100が形成される。
【0068】
また、このようにして製造された半導体レーザ素子100は、上記した第1実施形態と同様の方法によって、ジャンクションアップ方式でサブマウント3上に接合される。
【0069】
続いて、上記第2実施形態の効果を確認するために行った実験について説明する。この実験では、n側電極の第1電極層にPt層を形成した場合の効果を確認するために、アロイ処理が施された第1電極層にPt層を含み、第1電極層の表面上にアロイ処理が施されていない第2電極層を含む実施例2と、アロイ処理が施された第1電極層にPt層を含み、第1電極層の表面上にアロイ処理が施されていない第2電極層を含まない比較例2および比較例3とについて、サブマウント上に接合された半導体レーザ素子を剥がした後の半導体レーザ素子の剥がれ状態を比較した。また、第1電極層にPt層を形成した実施例2と、第1電極層にPt層が形成していない第1実施形態による実施例1とについても、サブマウント上に接合された半導体レーザ素子を剥がした後の半導体レーザ素子の剥がれ状態を比較した。
【0070】
なお、実施例2には、上記第2実施形態による半導体レーザ素子100と同様の構造を有する半導体レーザ素子を用いた。具体的には、実施例2では、図20に示すように、半導体レーザ素子のn側電極を、アロイ処理が施された第1電極層119aと、アロイ処理が施されていない第2電極層119bとから構成するとともに、第1電極層119aの第4Au層1197aと第3Au層1195aとの間に、約0.2μmの厚みを有するPt層1196aを形成した。
【0071】
また、比較例2には、実施例2の第1電極層と同様の構造を有するn側電極が形成された半導体レーザ素子を用いた。図23は、比較例2による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。図20および図23を参照して、この比較例2による半導体レーザ素子には、実施例2の第1電極層119a(図20参照)と同様の構造を有するn側電極120が形成されている。すなわち、この比較例2による半導体レーザ素子では、アロイ処理が施された第1電極層のみからn側電極120が構成されている。したがって、n側電極120にアロイ処理が施されていない第2電極層119b(図20参照)が形成されていない点のみが、実施例2と異なる。
【0072】
また、比較例3には、実施例2のn側電極と同じ合計厚みを有するn側電極が形成された半導体レーザ素子を用いた。図24は、比較例3による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。図20および図24を参照して、この比較例3による半導体レーザ素子では、n側電極121の第4Au層1197bの厚みを、実施例2の第4Au層1197aと第5Au層119bとを足した厚みと同じ厚み(約0.7μm)に構成した。なお、比較例3のn側電極121には、アロイ処理が施されている。
【0073】
また、実施例2、比較例2および比較例3のいずれも、上記第1実施形態と同様、半導体レーザ素子の共振器長を1000μmにし、半導体レーザ素子の共振器幅を800μmとした。
【0074】
そして、上記第1実施形態による接合方法と同様の方法を用いて、実施例2、比較例2および比較例3の半導体レーザ素子を、それぞれ、サブマウント上に接合した。なお、ヒータステージによる加熱温度および加熱時間については、上記第1実施形態と同様、接合条件1および接合条件2の2条件で行った。また、接合条件1は、加熱温度が400℃、加熱時間が10秒であり、接合条件2は、加熱温度が350℃、加熱時間が20秒である。また、実施例2、比較例2および比較例3について、接合条件1で接合した試料をそれぞれ2個ずつ作製するとともに、接合条件2で接合した試料もそれぞれ2個ずつ作製した。
【0075】
上記ようにして作製した実施例2、比較例2および比較例3のそれぞれの試料について、上記第1実施形態と同様の方法を用いて、サブマウント上から半導体レーザ素子を剥がした。そして、実施例2、比較例2および比較例3のそれぞれについて、半導体レーザ素子を剥がした後の半導体レーザ素子の剥がれ状態を観察した。これらの結果を、上記第1実施形態の実施例1とともに、表2に示す。なお、剥がれ状態の観察は、第1実施形態と同様に行った。また、表2中の表記については、表1中の表記と同様であるので、その説明は省略する。
【0076】
【表2】

上記表2に示すように、実施例2と比較例2とを比べた結果、実施例2の方が、比較例2よりも、良好な接合状態で半導体レーザ素子がサブマウント上に接合されていたことが判明した。具体的には、アロイ処理が施された第1電極層の表面上に、アロイ処理が施されていない第2電極層を形成した実施例2では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察された。また、その残存量は、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、ほぼ全体(◎)であり、半導体レーザ素子の接合状態は非常に良好であった。これに対して、アロイ処理が施された第1電極層のみからn側電極120を構成した比較例2では、接合条件2でのみ、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が一部に観察されたものの、接合条件1では、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察されなかった。
【0077】
一方、実施例2と実施例1とを比べた結果、実施例2の方が、実施例1よりも、より良好な接合状態で半導体レーザ素子がサブマウント上に接合されていたことが判明した。すなわち、実施例2および実施例1のいずれも、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察されたが、その残存量に違いが認められた。具体的には、実施例2では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、その残存量は、2つともほぼ全体(◎)であったのに対し、実施例1では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、その残存量は、1つがほぼ全体(◎)であり、もう1つがほぼ半分(○)であった。
【0078】
このように、n側電極にアロイ処理が施されていない第2電極層を含まない場合には、第1電極層にPt層を形成した場合でも、半導体レーザ素子の接合不具合を抑制することが困難である一方、n側電極にアロイ処理が施されていない第2電極層を含む場合には、第1電極層にPt層を形成することによって、半導体レーザ素子の接合状態がさらに良好になることが判明した。
【0079】
さらに、実施例2と比較例3とを比べた結果、実施例2の方が、比較例3よりも、良好な接合状態で半導体レーザ素子がサブマウント上に接合されていたことが判明した。具体的には、実施例2では、上記のように、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、良好な接合状態であったのに対し、比較例3では、接合条件1および接合条件2のいずれの条件でも、半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がした後に、半導体レーザ素子の欠片の残存が観察されず、半導体レーザ素子の接合不具合が生じていた。すなわち、n側電極の合計厚みを同じにしたとして、n側電極にアロイ処理が施されていない第2電極層を含まない場合には、半導体レーザ素子の接合状態を良好にすることが困難であることが判明した。
【0080】
なお、実施例2では、n側電極の合計厚みを実施例1よりも小さく構成したにも関わらず、より良好な結果が得られている。このことより、n側電極を、アロイ処理が施された第1電極層と、アロイ処理が施されていない第2電極層とから構成するとともに、第1電極層にPt層を形成することによって、n側電極の厚みを必要以上に大きくすることなく、半導体レーザ素子の接合不具合を効果的に抑制可能である。したがって、n側電極が厚くなり過ぎることに起因して、基板の裏面上にn側電極を形成する際に、n側電極をパターンニングしなければならなくなるという不都合が生じるのを抑制することが可能となる。
【0081】
以上のように、n側電極を、アロイ処理が施された第1電極層と、第1電極層の表面上に形成された、アロイ処理が施されていない第2電極層とから構成するとともに、さらに、第1電極層にPt層を形成することによって、半導体レーザ素子をジャンクションアップ方式でサブマウント上に接合した場合に、半導体レーザ素子の接合不具合がより効果的に抑制されることが確認された。
【0082】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0083】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、キャンパッケージ型の半導体レーザ装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限らず、フレームパッケージ型の半導体レーザ装置に本発明を適用してもよい。
【0084】
また、上記第1および第2実施形態では、ブロードエリア型の半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、ブロードエリア型以外の半導体レーザ素子に本発明を適用してもよい。
【0085】
また、上記第1および第2実施形態では、AuSn半田を用いて、半導体レーザ素子をサブマウント上に接合した例を示したが、本発明はこれに限らず、AuSn半田以外の融着材を用いて、半導体レーザ素子をサブマウント上に接合してもよい。
【0086】
また、上記第1および第2実施形態では、半導体レーザ素子をサブマウント上に接合した例を示したが、本発明はこれに限らず、サブマウント以外の支持基板上に半導体レーザ素子を接合してもよい。
【0087】
また、上記第1および第2実施形態では、n型の基板を用いて半導体レーザ素子を作製した例を示したが、本発明はこれに限らず、p型の基板を用いて半導体レーザ素子を作製してもよい。
【0088】
また、上記第2実施形態では、n側電極における第3Au層と第4Au層との間に、Pt層を形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、Pt層以外の他の金属層を形成してもよい。たとえば、Pt層の代わりにTi層やNi層などを形成してもよい。また、Ge層などの半導体層を形成してもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、MOCVD法を用いて、半導体各層を結晶成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、MOCVD法以外の方法を用いて、半導体各層を結晶成長させるようにしてもよい。MOCVD法以外の方法としては、たとえば、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハライド気相成長法)、および、ガスソースMBE法(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシャル成長法)などが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第1実施形態による半導体レーザ装置の構造を示した全体斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図3】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の発光層の構造を示した断面図である。
【図4】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。
【図5】図1に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ装置のサブマウントの構造を示した断面図である。
【図6】半導体レーザ素子をサブマウント上に搭載した状態を示した斜視図である。
【図7】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子をサブマウント上に接合した状態を示した断面図である。
【図8】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図9】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図10】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図11】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図12】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図13】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図14】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図15】図2に示した本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図16】本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子をサブマウント上に接合する方法を説明するための断面図である。
【図17】比較例1による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。
【図18】半導体レーザ素子をサブマウント上から剥がす方法について説明するための概略図である。
【図19】本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図20】図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。
【図21】図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図22】図19に示した本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子の製造方法を説明するための断面図である。
【図23】比較例2による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。
【図24】比較例3による半導体レーザ素子のn側電極の構造を示した断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 ステム
2 ヒートシンク
3 サブマウント(支持基板)
3d、3e 半田層
4 キャップ
5 ガラス
6、7、8 リードピン
10、100 半導体レーザ素子
11 GaAs基板(基板)
12 n型クラッド層
13 発光層
14 p型クラッド層
15 p型コンタクト層
16 p型キャップ層
17 電流ブロック層
18 p側電極
19、119 n側電極(電極層)
19a、119a 第1電極層
19b 第2電極層、第4Au層(第2金属層)
119b 第2電極層、第5Au層(第2金属層)
20 電流注入領域
191a、1191a 第1Au層
192a、1192a Ge層
193a、1193a 第2Au層
194a、1194a Ni層
195a 第3Au層(第1金属層)
1195a 第3Au層
1196a Pt層(第3金属層)
1197a 第4Au層(第1金属層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも砒素を含む基板と、
前記基板の上面上に形成され、複数の半導体層を含む半導体積層部と、
前記基板の前記半導体積層部とは反対側の下面上に形成された電極層とを備え、
前記電極層は、少なくとも、アロイ処理が施された第1金属層と、前記第1金属層の前記基板とは反対側の表面上に形成され、アロイ処理が施されていない第2金属層とを含むことを特徴とする、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記基板は、GaAsから構成されており、
前記第1金属層および前記第2金属層は、それぞれ、金層から構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1金属層と前記基板との間には、前記第1金属層とは異なる材料から構成された第3金属層が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第3金属層は、白金層から構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体積層部には、10μm以上の電流注入幅を有する電流注入領域が形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子が接合される支持基板とを備え、
前記半導体レーザ素子は、電極層と前記支持基板とが対向するように配置された状態で、前記支持基板上に接合されていることを特徴とする、半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2008−235682(P2008−235682A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74910(P2007−74910)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】