説明

半導体・液晶製造装置からの排ガス処理装置用部材

【課題】PFCガスによる高温腐食に対して、すぐれた耐食性を有し、かつ、排ガス処理装置を軽量化・小型化する排ガス処理装置用部材を提供すること。
【解決手段】基材の表面にNi−Al合金層を形成した半導体・液晶製造装置からの排ガス処理装置用部材であって、基材の材質がNi−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金であり、Ni−Al合金層が厚さ:10〜200μmであり、組成:Al;10〜60重量%で、CoとMoとFeとWの含有量の合計が25重量%以下で、残部:Niと不可避不純物であることを特徴とする排ガス処理装置用部材基材により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶製造に係わるCVD装置、PVD装置、LCD装置等において、成膜・クリーニングガスに用いられるSiH、Si、CF、C、C、NF、ClFの排ガス処理環境で耐食性を有する排ガス処理装置用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶製造に係わるCVD装置、PVD装置、LCD装置等において、エッチングや洗浄に用いる代替フロン・ガスの一種であるPFCガス(CF、C、C等)は、CとFの結合が強い難分解性ガスである。このガスを無害化するには、排ガス処理装置、すなわち、除害装置が必要である。除害装置は、PCFガスの温度を900−1150℃まで上昇させ、水蒸気や酸素などの高温酸化によって、PFCガスをCOとFやHFの分解ガスに転換させる。FやHFガスは水に溶けやすいため、湿式スクラバーにより水に吸収されて回収される。
【0003】
従来、除害装置を構成する部材、すなわち、排ガス処理装置用部材を構成する材質としては、900−1150℃の高温となった分解ガスF、HFに対する高温腐食に耐えるために、セラミックスが採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ハステロイ(登録商標)合金(Ni基合金)にセラミックスをコーティングすることも行われている(例えば、特許文献1参照)。なお、ハステロイ(登録商標)合金とは、ヘインズインターナショナル社が開発したNi合金群に冠せられているが、一般的にはNi−Cr−Mo系合金を指すことが多い。また,ほとんどのハステロイ(登録商標)合金がASTM、ASMEなどに規格化登録されており,商標である“ハステロイ”は冠せないが,同一規格の合金をヘインズインターナショナル社以外でも製造販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−85555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、フッ化物系ガス(PFCガス)による高温腐食には、アルミナなどのセラミックスがすぐれることは前述のように周知であるが、セラミックスは脆く、機械的強度の点で問題がある。また、ハステロイ(登録商標)合金にセラミックスをコーティングすることも前述のように知られているが、セラミックスコーティングは部分的に剥離しやすいとともに、セラミックスの剥離箇所からハステロイ(登録商標)合金にも腐食が見られたとの事例もある。
さらに、排ガス処理装置を軽量化・小型化するためにも、排ガス処理装置用部材には金属材料を採用したいというニーズがある。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、PFCガスによる高温腐食に対して、すぐれた耐食性を有し、かつ、排ガス処理装置を軽量化・小型化する排ガス処理装置用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意研究したところ、高温強度や高温HFガスにすぐれた耐食性を有する等の特性を持つNi−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金を基材として用い、Ni−Al合金層を前記基材表面に形成することにより、Ni−Al合金層の表面は、Alが酸素との親和性が高いため、極低分圧の酸素含有環境であっても高温環境におけるアルミナを形成する。これにより、高温フッ化物系ガスに対する耐食性を発揮できる。また、いわゆるセラミックスのコーティングとは異なり、合金から形成したものであるため、密着性が非常に高く簡単に剥離しない。さらに、Ni−Al合金層と基材は、拡散による金属結合のため一体化しており、剥離しない。したがって、このような構成を有する排ガス処理装置用部材は、基材が金属であるため軽量化・小型化が図れるとともに、高温強度、高温フッ化物系ガスに対する耐食性にもすぐれており、排ガス処理装置用部材としてすぐれた特性を備えているという新規な知見を得た。
【0009】
本発明は、この知見に基づき完成されたものであって、
「(1) 基材の表面にNi−Al合金層を形成した半導体・液晶製造装置からの排ガス処理装置用部材であって、
前記基材の材質がNi−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金であり、
前記Ni−Al合金層が厚さ:10〜200μmであり、組成:Al;10〜60重量%で、CoとMoとFeとWの含有量の合計が25重量%以下で、残部:Niと不可避不純物であることを特徴とする排ガス処理装置用部材。
(2) 前記Ni−Al合金層の直下にCr濃縮層を有していることを特徴とする(1)に記載の排ガス処理装置用部材。」
に特徴を有するものである。
【0010】
以下に、本発明について、より具体的かつ詳細に説明する。
【0011】
本発明は、基材の最表面にPFCガス(CF、C、C等)に対する耐食性にすぐれたアルミナを形成する。このとき、通常のセラミックスコーティングによりアルミナを形成すると剥離しやすいため、本発明においては、まず、それ自身が、高温強度、PFCガスに対する耐食性にすぐれたNi−Al合金層を形成する。Ni−Al合金層中のAlは酸素との親和性が高いため、極低分圧の酸素含有環境であっても高温環境においてアルミナを形成する。これにより、高温状態のフッ化物系ガス(PFCガス)に対する耐食性を発揮できる。この方法により形成されたアルミナは、通常のセラミックスコーティングとは異なり、合金から形成したものであるため、密着性が高く簡単に剥離しない。
ここで、Ni−Al合金層の厚さとしては、10μm未満であると高温での保護性の高い緻密なアルミナを形成するのには不十分である。一方、200μmを超えると基材との熱膨張差などにより、高温での繰り返し使用中にNi−Al合金層に亀裂などが発生しやすくなるため好ましくない。したがって、Ni−Al合金層の厚さは、10〜200μmと定めた。
【0012】
また、Ni−Al合金層の組成は、Alが10重量%未満だと、保護性の高い緻密なアルミナを形成するのには不十分である。一方、60重量%を超えるとアルミニウムに近い挙動となり、高温環境で溶融してしまうので好ましくない。アルミニウム以外は、ニッケルであるが、基材成分に含まれるクロム+モリブデン+鉄+タングステンの合計値が25重量%以下含有することは許容される。
基材の材質は、Ni−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金を用いる。Ni−Cr−Mo合金は、固溶強化元素であるMoを含有しているため、高温強度を重視する場合に適している。また、湿潤なHFに対しても耐食性がすぐれている。Ni−Cr−Mo合金の具体例としては、重量%でCr:18.0〜20.0%、Mo:18.0〜20.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、商品名MAT(登録商標)21(UNS N06210)や、Cr:14.5〜16.5%、Mo:15.0〜17.0%、W:3.0〜4.5%、Fe:4.0〜7.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、C−276合金(UNS N10276)や、Cr:20.0〜22.5%以下、Mo:12.5〜14.5%、W:2.5〜3.5%、Fe:2.0〜6.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、22合金(UNS N06022)などがある。
一方、Ni−Cr−Fe合金は、特に高温HFガスにすぐれた耐食性を有している。Ni−Cr−Fe合金の具体例としては、重量%で、Cr:15.5%、Fe:7%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成をもつ、いわゆる600合金OLE_LINK1OLE_LINK2(UNS N06600)OLE_LINK1OLE_LINK2や、Cr:23%、Fe:14%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、いわゆる601合金(UNS N06601)や、Cr:30%、Fe:9.5%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、いわゆる690合金(UNS N06690)などがあげられる。
【0013】
また、基材に上述したようなCrを含有したNi基合金を用い、基材表面にカロライジング処理によりNi−Al合金層を形成すると基材中のCrが表面近傍に濃縮してきてNi−Al合金層と基材との間にCrリッチなNi−Cr合金層が形成される。このNi−Cr合金層が、Ni−Al合金層のバッファー層として作用し、Ni−Al合金層が破壊された場合のバックアップ機能を持たせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基材の表面にNi−Al合金層を形成した半導体・液晶製造装置からの排ガス処理装置用部材であって、基材の材質がNi−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金であり、Ni−Al合金層が厚さ:10〜200μmであり、組成:Al;10〜60重量%で、残部:Niと不可避不純物であることによって、Ni−Al合金の持つすぐれた高温フッ化ガス、特にPFCガスに対する耐食性にすぐれ、基材を金属とすることによって軽量化・小型化が図られるので、排ガス処理装置の軽量化・小型化・長寿命化を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の試験方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について、実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
表1に基材として示した各種のNi合金製パイプ(外径25.4mm、厚さ3mm、長さ1000mm)の内外面にNi−Al合金層を形成することにより、加熱反応管を模擬する本発明1〜14および比較品1〜5の排ガス処理装置用部材を作成した(表1)。また、Ni−Al合金層を形成しない前述した化学組成を有するハステロイ(登録商標)C−276(UNS N10276)製パイプを従来品とした(表1)。
なお、表1中でMAT21と示した基材は、前述したように重量%でCr:18.0〜20.0%、Mo:18.0〜20.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、商品名MAT(登録商標)21と表されるNi−Cr−Mo合金を意味しており、C−276と示した基材は、Cr:14.5〜16.5%、Mo:15.0〜17.0%、W:3.0〜4.5%、Fe:4.0〜7.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、C−276と表されるNi−Cr−Mo合金を意味しており、22合金と示した基材は、Cr:20.0〜22.5%以下、Mo:12.5〜14.5%、W:2.5〜3.5%、Fe:2.0〜6.0%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つ、22合金と表されるNi−Cr−Mo合金を意味している。
また、表1中で600合金と示した基材は、前述したように重量%で、Cr:15.5%、Fe:7%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成をもつNi−Cr−Fe合金を示しており、601合金と示した基材は、Cr:23%、Fe:14%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つNi−Cr−Fe合金を示しており、690合金と示した基材は、Cr:30%、Fe:9.5%、残部Niおよび不可避不純物の化学組成を持つNi−Cr−Fe合金を示している。
【0018】
Ni−Al合金層の形成は、カロライジング処理を用いた。カロライジング処理は、被処理物(基材)にアルミニウムを拡散浸透させる処理で、具体的には、基材をFe−Al合金粉末およびNHCl粉よりなる調合剤とともに鋼製ケース内に埋め込み、ケースを密閉し、それを炉内にて900〜1050℃に加熱することによって基材の表面にNi−Al合金層を得た。温度や処理時間を変量にすることにより、所定の厚さ・組織の合金層とした。
【0019】
図1に示すように各反応管を管状炉(電気炉)に挿入し、管内にN+1%O+3000ppmC混合ガスを1L/mimの流量で通気して、1000℃に100時間保持した。電気炉から外側に位置する反応管の両端は水冷ジャケットにより冷却した。試験後、反応管を炉から取り出し、中央部となる端から500mm付近の肉厚を測定し、最大減肉量を記録した。肉厚測定は、端から500mm付近を長手方向に直角となるように切断し、バリ取りを行った後、水洗しながらステンレス鋼製のワイヤーブラシを用いて付着物を十分に除去し、さらに水洗・乾燥を行って、測定接触部が球型のマイクロメータを用いて肉厚測定を円周上の5点について実施した。5点にうち最小値を選定し、初期肉厚よりこの試験後の肉厚を引いた値を減肉量として記録した。なお、初期厚さは、同様の方法で予め端部の肉厚を測定しておき、この肉厚を初期厚さとみなした。
【0020】
この試験結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

表1から明らかなように、基材の表面に所定のNi−Al合金層を形成した本発明品は、最大減肉量が比較品に比べて小さく、排ガス処理装置用部材として適していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のとおり、本発明の排ガス処理装置用部材によれば、軽量化・小型化に寄与するばかりか、高温となったPFCガスにたいする高温腐食に対しても十分な耐食性を持っているため、より長寿命化が要求されるCVD装置、PVD装置、LCD装置および半導体製造装置に付随する排ガス処理装置用部材として大きな期待が持てるとともに、工業的な価値は極めて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にNi−Al合金層を形成した半導体・液晶製造装置からの排ガス処理装置用部材であって、
前記基材の材質がNi−Cr−Mo合金またはNi−Cr−Fe合金であり、
前記Ni−Al合金層が厚さ:10〜200μmであり、組成:Al;10〜60重量%で、CoとMoとFeとWの含有量の合計が25重量%以下で、残部:Niと不可避不純物であることを特徴とする排ガス処理装置用部材。
【請求項2】
前記Ni−Al合金層の直下にCr濃縮層を有していることを特徴とする請求項1に記載の排ガス処理装置用部材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229459(P2012−229459A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96824(P2011−96824)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(510312950)MMCスーパーアロイ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】