説明

半導体歪センサーおよび半導体歪センサーの取付け方法

【課題】 半導体歪ゲージを用いた半導体歪センサーにおいて、特性が長期間安定し、測
定対象物の歪に応じて歪センサーチップに生じる歪の変換係数が、歪測定レンジにおいて
安定にする。
【解決手段】 歪センサーチップ裏面とベース板表面を接合し、ベース板の裏面に歪セン
サーチップの側辺部に側辺長以上の長さで、歪センサーチップ接続部と接続エリアを分断
する溝を形成する。歪センサーチップの裏面に溝に挟まれた突出部が形成されることで、
表裏の剛性バランスが改善し、歪センサーチップの曲げ変形が起こり難くなり、歪の変換
係数を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の歪や応力の測定に用いられる歪センサーで、特に半導体歪ゲージを
用いた半導体歪センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の歪や応力の計測には、ストレインゲージと称される歪ゲージが多く用いられて
いる。歪ゲージは、Cu−Ni系合金やNi−Cr系合金の金属薄膜の配線パターンを、
可撓性のあるポリイミドやエポキシ樹脂フィルムで覆った構造であり、歪ゲージを被測定
物に接着剤で接着して使用する。金属薄膜が歪を受けて変形した時の抵抗変化から、歪量
を算出することができる。
【0003】
検知部を金属薄膜ではなく、シリコンなどの半導体に不純物をドープして形成した半導
体ピエゾ抵抗を利用した半導体歪ゲージがある。半導体歪ゲージは、歪に対する抵抗変化
率が金属薄膜を用いた歪ゲージの数10倍と大きく、微小な歪を測定することが可能であ
る。また、金属薄膜の歪ゲージでは、抵抗変化が小さいため得られる電気信号を増幅する
必要があり、そのため外部のアンプが必要となる。半導体歪ゲージは抵抗変化が大きいた
め、得られた電気信号を外部のアンプを用いずに使用することもでき、また半導体歪ゲー
ジのチップにアンプ回路を作りこむことも可能であるため、歪センサーの用途や使用上の
利便性が大きく広がると期待される。本明細書では、歪センサーと歪ゲージを同義に使用
している。
【0004】
半導体歪ゲージは、従来の半導体製造技術を用いて、シリコンウエハー上に不純物ドー
プや配線を形成した後、チップ化することで得られる。このチップ(以下歪センサーチッ
プと呼ぶ)に、測定対象物の歪が正しく伝わることが重要であり、歪センサーチップのモ
ジュール化と測定対象物への取付けがポイントとなる。
【0005】
特許文献1には、半導体歪ゲージを実用的なモジュールにした構造が開示されている。
図16a)に、半導体歪ゲージの斜視図を示す。シリコンウエハー表面に半導体歪ゲージ
を形成した後、シリコンウエハーを数μmの厚さまでエッチングした後、チップ化し歪セ
ンサーチップ52を得る。配線53を形成しポリイミドフィルム54で挟んで半導体歪ゲ
ージ51を得ている。歪センサーチップ52と配線53をモジュール化しているので、従
来の歪ゲージのように半導体歪ゲージを扱えるものである。
【0006】
特許文献2には、歪センサーチップ52をガラス製の台座57に低融点ガラス58を用
いて接合した歪検出センサー56が開示されている。図16b)に、歪検出センサーの側
面図を示す。ガラス製の台座を測定対象物にボルト止めなどで固定する。歪センサーチッ
プ52とガラス製台座57間とガラス製台座57間と測定対象物間には、樹脂接着剤がな
いため、接着樹脂と歪検出センサー間の熱膨張係数の違いによって発生する温度ドリフト
を抑えることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−264188号 公報
【特許文献2】特開2001−272287号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の半導体歪ゲージは、従来の金属薄膜を用いた歪ゲージと同様、樹脂接着剤
を用いて測定対象物に貼り付けて使用することができる。樹脂接着剤を用いるため、樹脂
接着剤が変質や劣化すると、感度やゼロ点が変化し易くなる問題があった。これは、長期
間使用する時には特性の安定性の点で課題となるものである。高感度な半導体歪ゲージを
用いているので、特性変化の影響はより顕著に現れることになる。
【0009】
特許文献2の歪検出センサーは、樹脂接着剤を用いないため、特許文献1に比べれば長
期的安定性は良いと考えられる。しかし、測定対象物に発生した歪の、歪センサーチップ
への伝わり方に課題がある。組立時の取り扱いを考えると歪センサーチップ52はある程
度の厚さが必要で、その厚さのため歪センサーチップ自体が無視できない剛性を有してい
る。そのため、歪センサーチップ52が接合された台座57全体は、剛性が一様ではない
。図17a)に示すように、特許文献2の歪検出センサーをボルト24で測定対象物6に
取付けた構造において、例えば測定対象物6に矢印で示す方向に引張の歪が加えられた場
合、ボルト間の変位に伴ってボルト24から台座57に力が伝えられる。それにより台座
全体に発生する歪は、歪センサーチップ52が有する剛性の影響で一様にはならず、歪検
出部59のある歪センサーチップ表面に発生する歪は、測定対象物6の歪とは異なってし
まう。
【0010】
測定対象物6の歪に対する歪センサーチップ52の歪が、図17b)に示すように、必
要な測定レンジ範囲内で比例の関係を有していれば、グラフの傾きである歪の変換係数を
用いて、歪センサーチップで検出される歪値から測定対象物の歪を求めることができる。
実際には、歪センサー出力はピエゾ抵抗変化による電圧の出力変化などで得られ、センサ
ー感度であるゲージ率を掛けて歪検出部59の歪が求められ、それに上記歪の変換係数を
掛けることで測定対象物6の歪が求められる。
【0011】
特許文献2では、単純な板状の台座57に歪センサーチップ52を低融点ガラス58で
接合しており、歪センサーチップが接合された領域では、歪センサーチップが接合された
面側に剛性が偏っている。そのため、図18に示すように例えば測定対象物6に矢印で示
す方向の変位に追従して台座57が引っ張られたとき、台座57に曲げ変形が発生してし
まう。曲げ変形が発生すると歪センサーチップの厚み方向に歪の勾配が発生し、歪センサ
ーチップ表面の歪検出部59の歪は、測定対象物6の歪と著しく異なってしまう。極端な
場合には、台座が引っ張られるほど歪検出部59に圧縮歪が発生してしまう。これは、測
定対象物6の平面歪を、歪センサーチップ52の曲げに変換して検出していることになり
、歪の変換係数が小さいと感度が低下してしまうことになる。歪センサーチップ52に曲
げ変形が発生すると、台座57と測定対象物6との接触状態の変化などが関与して非線形
の挙動を示し、測定レンジ内で歪の変換係数を一定に保ち難くなるだけではなく、歪セン
サー間の変換係数のばらつきも大きくなってしまう。歪センサーチップ2の厚みに対し台
座57の厚みを十分に厚くすることで、この様な課題は低減するが、台座を含むセンサモ
ジュール全体の剛性が高くなるため、測定対象物の変形そのものへの影響が大きくなって
しまう。
【0012】
本願発明の目的は、高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、特性が長期間安定
し、かつ歪センサーチップの曲げ変形を防止して、測定対象物の歪に応じて歪センサーチ
ップに生じる歪の変換係数が、歪測定レンジにおいて安定な半導体歪センサーを提供する
ことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチ
ップと、ベース板と、前記歪センサーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部とを
有し、歪センサーチップ裏面とベース板表面は歪センサーチップ接続部で接合され、歪セ
ンサーチップの側方に張り出したベース板に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上
の接続エリアを有する半導体歪センサーであって、ベース板の裏面に歪センサーチップの
側辺部に側辺長以上の長さで、歪センサーチップ接続部と接続エリアを分断する溝が形成
されていることが好ましい。
【0014】
2つの接続エリアと歪センサーチップ接続部をつなぐ方向(以降、X方向と称す)の断
面で見たときに、ベース板の歪センサーチップ接続面の反対面に、溝で挟まれた部分が突
出した構造となり、この突出部が歪センサーチップの裏面にあることで、溝部と歪センサ
ーチップ接合部を含む領域が、表裏対称に近い構造となる。表裏対称とすることで、表裏
の剛性バランスを改善できるので、接続エリアからベース板に歪が伝えられた時に、歪セ
ンサーチップが曲げ変形を起こし難くなり、歪の変換係数を安定させることができる。
【0015】
本願発明の半導体歪センサーは、歪センサーチップ接続部と接続エリアを分断する溝は
、少なくとも歪センサーチップの歪検出方向に対し直角方向に、歪センサーチップ接続部
の両側に形成されていることが好ましい。
【0016】
また、2つの接続エリアと歪センサーチップを結ぶ方向に垂直な方向(以降、Y方向と
称す)において、ベース板の両端間を横断して溝が形成されていることが好ましい。ベー
ス板の歪センサーチップからY方向へ張り出した部分では、歪センサーチップが無いため
表裏の剛性バランスが悪く、曲げ変形が起こり易い。溝をY方向に横断して形成しておく
ことで、接続エリアからセンサーチップ側部に連続して曲げ変形することを防げるので、
曲げ変形の影響を低減することができる。
【0017】
歪センサーチップのY方向の側部に、歪センサーチップの側面に沿ってX方向に伸びる
溝を形成することで、ベース板の歪センサーチップからY方向に張り出した部分の曲げ変
形の影響をさらに軽減できる。ベース板に歪センサーチップの側辺に沿って井桁状に溝を
形成した構造となる。
【0018】
本願発明の半導体歪センサーは、歪センサーチップに近い側の溝壁と歪センサーチップ
の側辺の位置が略一致していることが好ましい。
【0019】
歪センサーチップに近い側の溝壁と歪センサーチップの側辺の位置を合わせる事で、ベ
ース板の溝に挟まれた突出部の形状が歪センサーチップの形状と一致するので、表裏の剛
性バランスをより一致させることができる。
【0020】
本願発明の半導体歪センサーは、ベース板のヤング率Esと歪センサーチップのヤング
率Ed、歪センサーチップの厚さtd、溝の深さtsが、ts×Es=td×Edである
ことが好ましい。
【0021】
ts×Es=td×Edの関係を完全に満たす必要はなく、表裏の剛性バランスが得ら
れる位に満たしていれば良いので、ts×Es≒td×Edと表すこともできる。これら
の関係を満たす事で、ベース板の溝に挟まれた突出部の剛性が、歪センサーチップの剛性
と一致するので、表裏の剛性バランスをより向上させることができる。
【0022】
本願発明の半導体歪センサーは、ベース板表面側に、裏面の溝と歪センサーチップ接続
部を含む領域と略一致した形状で、裏面の溝と同じ深さの凹部を設け、凹部の底面に歪セ
ンサーチップ裏面を接合することが好ましい。
【0023】
溝と歪センサーチップ接合部以外の部分においても、ベース板の表裏の剛性バランスが
改善されるので、ベース板全域にわたって曲げ変形を起こし難くできる。
【0024】
本願発明の半導体歪センサーは、2つの接続エリアと歪センサーチップ接続部が連続す
る方向の断面において、歪センサーチップの接続部での歪センサーチップとベース板を合
わせた厚さta、溝部のベース板厚さtb、接続エリアのベース板厚さtc、歪センサー
チップの長さla、溝の幅lbが、lb=la/2×[tb×(ta−tc) ]/[t
a×(tc−tb) ]であることが好ましい。
【0025】
lb=la/2×[tb×(ta−tc) ]/[ta×(tc−tb) ]の関係を
完全に満たす必要はなく、歪の変換係数がばらつくのを防ぐことができる位に満たしてい
れば良いので、lb≒la/2×[tb×(ta−tc) ]/[ta×(tc−tb)
]と表すこともできる。これら前記の関係を満たす事で、溝から歪センサーチップ接続
部にかけてのベース板と歪センサーチップを合わせた剛性が、接続エリアのベース板の剛
性と略一致するので、両者への歪の配分が等しくなる。そのため、接続エリアにおける測
定対象物との接合部の位置が変化しても、歪の変換係数の変化を小さくすることができる
。歪センサーチップの測定対象物への取付け位置でばらつきが生じても、歪の変換係数が
ばらつくのを防ぐことができる。
【0026】
本願発明の半導体歪センサーは、歪センサーチップ裏面とベース板表面は、金属はんだ
を用いて接合されていることが好ましい。
【0027】
歪センサーチップは金属製のベース板に金属材料を用いて接合されるため、歪センサー
チップで発生した熱はセンサーチップ裏面を伝わりベース板に熱伝導し易くなる。また、
金属性のベース板は歪センサーチップより平面の面積も大きいため、熱の放散が効率良く
行われる。熱放散が良いので、歪センサーチップの温度上昇を防ぐことができるとともに
、ベース板と歪センサーチップの温度を均一に保ち易い。半導体歪センサーの温度を均一
化できることで、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や、センサーチップとベース板と
の温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子に加わる応力が変化するなどして起こる特性
変化を抑えることができる。また、歪センサーチップとベース板間は金属接合を用いてい
るので、クリープや劣化、変質を起こし難く特性の長期的安定性に優れている。
【0028】
また、歪センサーチップが測定対象物と接するベース板まで導電性の材料で構成してい
るため、電気的ノイズに強い特徴もある。歪センサーチップと測定対象物の間に絶縁性の
材料が介在していると、測定対象物に電流が流れるなどして電位が変動した時に、歪セン
サーチップの各部位と測定対象物との間に寄生容量を持つ。寄生容量が発生すると電位も
変動し、ノイズが発生し易くなる。本願発明の半導体歪センサーでは、歪センサーチップ
のグランドを歪センサーチップ裏面を通して測定対象物に電気的に接続できるので、セン
サーチップのグランドが測定対象物の電位と一致して揺らぐため、ノイズが発生し難くで
きる。
【0029】
本願発明の半導体歪センサーは、配線部は、ベース板上に樹脂接着されたフレキシブル
配線板と、フレキシブル配線板の配線と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する
金属ワイヤーと、少なくとも歪センサーチップの電極と金属ワイヤーを覆う樹脂で構成さ
れていることが好ましい。
【0030】
フレキシブル配線板と歪センサーチップ間は、被覆されていない金属ワイヤーを、超音
波溶接や半田付けすることで、導通を得ることができる。金属ワイヤーはФ10μmから
Ф200μm径の裸金線を用いることができる。金属ワイヤーとその接続部や電極を樹脂
で覆う事で、電気的な絶縁や外気からの絶縁を確保することができる。配線部だけでなく
歪センサーチップも樹脂で覆っても良いものである。フレキシブル配線板とそれを接着す
る接着剤の剛性が大きいと、フレキシブル配線板や接着剤のクリープや劣化、変質が半導
体歪センサー全体の剛性に影響する危険性がある。出来得る限りフレキシブル配線板や接
着剤の弾性率を小さくし体積も小さくすることが好ましい。
【0031】
本願発明の半導体歪センサーは、配線部は、フレキシブル配線板の配線の一部が、歪セ
ンサーチップの電極に設けられた金属バンプに直接接続していることが好ましい。
【0032】
歪センサーチップの電極に金属バンプを設けることで、フレキシブル配線板を直接歪セ
ンサーチップの表面に接続でき、フレキシブル配線板をベース板に接着する必要がない。
そのため、歪センサーチップ側方に配する接続エリアの設計自由度を上げることができる
。フレキシブル配線板は出来得る限り薄くして、半導体歪センサーの剛性に影響与えない
ようにすることが好ましい。
【0033】
本願発明の半導体歪センサーは、配線部は、ベース板上に絶縁膜を介して形成されたベ
ース板電極と、ベース板電極と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイ
ヤーと、少なくともベース板電極と金属ワイヤー、歪センサーチップの電極を覆う樹脂で
構成されていることが好ましい。
【0034】
電極を有するベース板を用いることで、フレキシブル配線板を無くすことができる。ベ
ース板電極と歪センサーチップの電極間を金属ワイヤーで接続し、ベース板電極に被覆ワ
イヤーをはんだ付けすることで、歪センサーチップの電気信号をチップの外部に取り出す
ことができる。金属ワイヤーとその接続部や電極を樹脂で覆う事で、電気的な絶縁や外気
からの絶縁を確保することができる。
【0035】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーのベース板の裏面と測定対象部材が
対向し、半導体歪センサーはベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部
材に固着されるように取付けられることが好ましい。
【0036】
ベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部材に固着されていることが
必要である。測定対象物に歪が発生すると、それに伴う力は固着部を介してベース板に伝
わるので、固着部の面積が小さいと、固着部に力が集中して塑性変形する危険性がある。
測定したい歪範囲で固着部が塑性変形しないように固着部の面積を確保すれば、接続エリ
アの全域を固着する必要はない。勿論、接続エリア全域が測定対象部材と固着されていて
も構わない。接続エリア以外のベース板と測定対象部材は固着していなくとも良く、間隙
を有していても良いものである。歪センサーチップから発生する熱を効率良く放散させる
には、間隙を持たず密接していることが好ましい。
【0037】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーと測定対象部材は、少なくとも2つ
以上の接続エリアで、各接続エリアは少なくとも一ヶ所以上の溶接部で固着されるように
取付けられることが好ましい。
【0038】
溶接は、レーザー溶接や抵抗スポット溶接を用いることができる。測定対象部材が溶接
できるものに限られるが、溶接部にはクリープや劣化、変質が起こり難いため、長期的安
定性に優れる。溶接は接続エリアの材質と測定対象部の材質のみで行うこともできるが、
接続エリアと測定対象部の間にろう材のような金属を介することもできる。ハンディタイ
プのスポット溶接機を用いれば、既設の装置や構造物に対しても、本願発明の半導体歪セ
ンサーを容易に現場で取付けることができる。また、取付け時に歪センサーチップに直接
力を加えることがないので、歪センサーチップを破壊したり、不必要な歪を与えて歪セン
サーチップ特性を変化させたりする危険性を低くすることができる。
【0039】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーと測定対象部材は、少なくとも2つ
以上の接続エリアで、各接続エリアは少なくとも一ヶ所以上のねじ部で固着されるように
取付けられることが好ましい。
【0040】
測定対象物にネジ穴を形成する必要があるが、溶接ができない材質の測定対象物にも容
易に本願発明の半導体歪センサーを取付けることができる。また、半導体歪センサーの取
付けに、レーザー溶接機やスポット溶接機などの装置を必要としないため、狭い場所や高
い場所等での取付けが容易となる。
【発明の効果】
【0041】
高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、特性が長期間安定し、かつ歪センサー
チップの曲げ変形を防止して、測定対象物の歪に応じて歪センサーチップに生じる歪の変
換係数が、歪測定レンジにおいて安定な半導体歪センサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下本発明を図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判り易くす
るため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【実施例1】
【0043】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーの構造および製作方法について、図1と図2
を用いて以下説明する。図1は第一実施例の歪センサーを測定対象物に取付けた状態の平
面図で、図2は図1のk−k’断面図である。ピエゾ抵抗素子(図示せず)が形成された
半導体歪ゲージとして機能するシリコン製の歪センサーチップ2を、金属製のベース板3
の略中央位置に金属接合材の金属はんだ4で固着した。ベース板3は図1のX方向に長い
長方形状とした。第1接続エリア11と第2接続エリア12の歪センサーチップ接続部1
5側の溝30が形成される部位を、便宜上第1溝エリア31と第2溝エリア32と呼称す
る。X方向には歪センサーチップ2側から見ると、第1接続エリア11、第1溝エリア3
1、歪センサーチップ接続部15、第2溝エリア32、第2接続エリア12と並んでいる
。裏面から見ると、第1接続エリア11、溝30、突出部35、溝30、第2接続エリア
12と並んでいる。歪センサーチップ接続部15の表面に、歪センサーチップ2を金属は
んだ4で固着している。
【0044】
歪センサーチップ2に近い側の溝30の壁と歪センサーチップの側辺の位置を略一致さ
せているので、突出部のX方向の長さと歪センサーチップ接続部15のX方向の長さ、歪
センサーチップ2のX方向の長さは略同じ値である。概略の寸法は次の通りである。ベー
ス板3はY方向6mm、X方向14mmで、X方向の第1接続エリア11が5.75mm
で内第1溝エリア31が0.3mm、歪センサーチップ接続部15が2.5mm、第2接
続エリア12が5.75mmで内第2溝エリア32が0.3mmである。裏面の溝30は
0.3mm、突出部35が2.5mmである。溝30の深さtsは、0.18mmとした
。歪センサーチップ2は2.5mm角×0.16mm厚である。ベース板3は、シリコン
と熱膨張係数の近い鉄58−ニッケル42合金で、厚みは0.3mmとした。
【0045】
歪センサーチップ2とベース板3の固着には金属はんだ接合を用いた。歪センサーチッ
プ2のベース板対向側面にTi−Pt−Auの3層メタライズをスパッターにより形成し
、その上にSn系の金属はんだ材料を蒸着により形成した。ベース板3の歪センサーチッ
プ対向側面にも、Ti−Pt−Auの3層メタライズをスパッターにより形成した。歪セ
ンサーチップ接続部15の略中央部に歪センサーチップ2を位置合わせした後、金属はん
だを加熱溶融してベース板3に歪センサーチップ2を固着した。ベース板側の3層メタラ
イズは歪センサーチップが固着される部位だけで良いが、マスクスパッター等の手間を省
くためベース板全面に形成してもよい。
【0046】
歪センサーチップ2の電極16からの配線引き出しには、フレキシブル配線板5を用い
た。フレキシブル配線板5の先端の配線が露出している面と反対の面を、ベース板上のセ
ンサーチップ接合部のY方向に隣接した位置にエポキシ系樹脂接着剤を用いて接着した。
フレキシブル配線板5の配線と歪センサーチップの電極16間は、Ф20μmの裸Auワ
イヤー17を超音波溶接で接続した。歪センサーチップの電極16とAuワイヤー17、
フレキシブル配線板5の配線を覆うようにカバー樹脂18を塗布した。カバー樹脂18は
熱硬化型樹脂を用いた。塗布する樹脂接着剤の弾性率が高い場合や、塗布厚を厚くせざる
を得ない場合は、樹脂による応力の不均一を無くすため、配線部だけではなく少なくとも
配線部の対称位置にも接着材を塗布することが良い。歪センサーチップ全体を覆う様に樹
脂を塗布することもできる。また、歪センサーのピエゾ抵抗素子は光の影響を受けるので
、光の影響を抑制したいときには歪センサーチップ全体を有色の樹脂で覆うのが望ましい

【0047】
ベース板3上に歪センサーチップ2を金属はんだ4で接合し、配線を行った半導体歪セ
ンサー1を測定対象物6に取付けた。半導体歪センサー1を測定対象物6の所望の位置に
設置した後、第1接続エリア11と第2接続エリア12に、各10点のスポット溶接を行
い、半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。10点のスポット溶接は2列5行で
、溶接点19はY方向に5点等間隔で3点目の溶接点がベース板のY方向の中心線上にな
る様にしている。
【0048】
歪センサーチップ2には、X方向とY方向の歪を検出できるようにピエゾ抵抗素子が形
成されている。詳細は省略するが、複数のピエゾ抵抗素子を用いてブリッジ回路を形成し
、X方向とY方向の歪量に比例した出力が得られるように構成した。本実施例では、X方
向の歪量を測定するピエゾ抵抗素子のみを使用している。測定対象物6がX方向に引っ張
られて歪を発生すると、スポット溶接部を介して半導体歪センサーのベース板も引っ張ら
れ、ベース板3と歪センサーチップ2に歪が発生して、ピエゾ抵抗素子の抵抗変化により
、測定対象物の歪量に応じた電気信号出力が得られる。歪センサーチップ2が固着された
ベース板3全体は剛性が一様でないため、歪センサーチップ2に発生する歪量は測定対象
物の歪量と一致しないが、予め歪の変換係数を求めておくことで、実用的な歪センサーと
して用いることができる。
【0049】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーは、ベース板に溝を形成したため、半導体歪
センサーの表裏の剛性バランスがよく、測定対象物のXY平面方向の変形に対して半導体
歪センサーが面外(Z方向)に曲げ変形してしまうのを防ぐことができる。そのため、測
定対象物の歪に応じて歪センサーチップに生じる歪の変換係数が、歪測定レンジにおいて
安定な半導体歪センサーを実現できた。
【0050】
溝エリアで溝形成により薄くなったベース板の部分をリンク部37と呼称する。歪セン
サーチップ接続部15では、歪センサーチップが固着されている反対面側に突出部35が
配置されているので、リンク部37のZ方向中心線からみて上下の剛性バランスがとれて
いる。例えば、測定対象物6が引っ張られて歪が発生したとき、溶接点19を介してベー
ス板3に力が伝えられ、さらにリンク部37を介して歪センサーチップ接続部15に伝わ
る。本実施例の半導体歪センサー1では、歪センサーチップ接続部2のZ方向の剛性バラ
ンスがリンク部37に対して取れているので、リンク部37に伝えられたX方向の力に対
して歪センサーチップ接続部15がZ方向に曲げ変形するのを防ぐことができる。これに
より、曲げ変形によってベース板3と測定対象物6の接触状態が変化することがなく、測
定レンジ内において、測定対象物6の歪に対する歪センサーチップ2の歪の変換係数が一
定な半導体歪センサーが実現できた。
【0051】
歪センサーチップ2に対して、ベース板裏面の突出部35で剛性バランスをとるには、
突出部の端部が歪センサーチップと一致していることが望ましいものである。歪センサー
チップに近い側の溝30の壁と歪センサーチップの側辺の位置を一致させて、金属はんだ
で固着を行った。
【0052】
また、歪センサーチップとベース板突出部の剛性が等しいことが望ましいので、ヤング
率とZ方向厚さの積を概略一致させた。歪センサーチップ2のヤング率をEd、厚さをt
d、ベース板3のヤング率をEs、突出部の高さ(溝の深さ)をtsとした時、Ed×t
d=Es×tsとした。歪センサーチップ2はシリコンでEd=169GPa、ベース板
3は鉄−ニッケル合金でEs=150GPaであるので、歪センサーチップ厚さtd=0
.16mm、ts=0.18mmとして、上記の関係を満たした。該半導体歪センサー1
の測定結果は、歪の変換係数は約0.63で、歪測定レンジ±500μεの範囲で歪の変
換係数は略一定であった。
【0053】
本実施例の半導体歪センサー1は、測定対象物6への取付けのし易さも充分考慮してい
る。歪測定の目的は様々であり、また測定対象物の形状や大きさも様々である。測定対象
物が狭い場所や高い場所にあったり、設置場所から移動できないものなどもある。直接、
歪センサーチップの裏面を測定対象物6に金属接合できれば金属製のベース板を設ける必
要はない。直接測定対象物に金属接合するには、測定対象物表面にメタライズ形成するこ
とや、はんだ材料の加熱溶融が必要である。設置場所から移動できないような測定対象物
にメタライズ形成やはんだ材料の加熱溶融を行うのは非常に困難である。本願発明の半導
体歪センサーは、歪センサーチップが予めベース板に金属接合されており、フレキシブル
回路板配線も接続された、モジュールとなっている。本願発明の半導体歪センサーの接続
エリアを測定対象物に溶接するだけで、歪量の測定が可能となる。持ち運び可能なスポッ
ト抵抗溶接機も市販されているので、動かせない測定対象物に対しても、現場にスポット
抵抗溶接機を持ち込んで取付けが可能である。また、スポット抵抗溶接に限らず、レーザ
ー溶接やシーム溶接なども用いることができる。ベース板を介して測定対象物に歪センサ
ーチップを取付けるため、取付け作業時に歪センサーチップを破損したり、不必要な歪を
与えて特性を変化させてしまう危険性を低くできた。
【0054】
接続エリアにおける溶接点は、歪センサーチップになるべく近い位置とすることが望ま
しい。図3に示す様に、第1接続エリア11の最も歪センサーチップ2に近い溶接点19
の位置を第1接続位置41、第2接続エリア12の最も歪センサーチップに近い溶接点1
9の位置を第2接続位置42とする。測定対象物6に発生した歪に応じて、ベース板3は
第1接続位置41と第2接続位置42の間の領域が力を受け歪を発生する。第1接続位置
41と第2接続位置42を歪センサーチップ2に近づける程、力を受けるベース板3の領
域を短くできるので、ベース板が曲げ変形を起こし難くすることができる。
【0055】
また、第1接続位置41と第2接続位置42との間において、接続エリアと溝エリア、
歪センサーチップ接続部では、それぞれの部位の断面の剛性が異なるので発生する歪も異
なる。接続位置41,42が変化する(ばらつく)と力を受ける接続エリアの領域が変化
するため歪の配分が変化し、歪センサーチップに発生する歪も変化してしまう。第1接続
位置41と第2接続位置42がばらつくと、歪の変換係数がばらついてしまう危険性があ
る。溝エリアと歪センサーチップ接続部との合計の剛性を、接続エリアの剛性と等しくな
るようにすることで、力を受ける接続エリアの長さが変化しても歪の配分が変わらないよ
うにできる。それにより、接続位置によらず歪の変換係数を一定にすることができる。
【0056】
図3に示すように、歪センサーチップ接続部の厚さをta、溝エリアのリンク部37の
厚さをtb、接続エリア(ベース板)の厚さをtc、歪センサーチップ2のX方向長さを
la、溝エリアの長さをlbとした時次の式で示される。
lb=la/2×[tb×(ta−tc) ]/[ta×(tc−tb) ]
ただし、歪センサーチップ2はベース板3とヤング率が異なるので、剛性が一致するよう
にベース板3に換算した厚さを用いる。本実施例では、歪センサーチップをベース板に換
算した厚さは0.18mmである。歪センサーチップ接続部の厚さta=0.48mm、
溝エリアのリンク部37の厚さtb=0.12mm、接続エリア(ベース板)の厚さtc
=0.3mm、歪センサーチップの幅la=2.5mmであるので、前式より計算して溝
エリアの長さ(溝30の幅)lbを0.3mmとした。
【0057】
図4は、本実施例のベース板を歪センサーチップが固着される面の反対面の斜視図であ
る。第1溝エリア31の溝30と第2溝エリア32の溝30は、ベース板30のY方向を
横断するように形成した。溝30の形成は化学エッチングで行った。金属の機械切削加工
やプレス加工、ドライエッチング等を用いて形成することもできる。
【0058】
図5に示すように、第1溝エリア31の溝30と第2溝エリア32の溝30をX方向に
つなぐ溝30’を形成することができる。溝30’の歪センサーチップに近い側の端部は
、歪センサーチップのY方向の側辺と一致するように形成した。歪センサーチップ接続部
で歪センサーチップからY方向に張り出したベース板の張出部27では、歪センサーチッ
プが無いため表裏の剛性バランスが取れないため、張出部27では曲げ変形が発生し易い
。溝30に直交する溝30’を形成することにより、張出部27の曲げ変形が歪センサー
チップに伝わり難くなるので、歪センサーチップ2の曲げ変形を起こし難くすることがで
きた。
【0059】
歪センサーチップ2から測定対象物6までの積層間に樹脂接着剤などの有機材料が介在
した場合、歪がかかった状態で長時間経過すると有機材料がクリープを起こして、歪検出
のゼロ点が変化してしまう問題があった。更に、有機材料の劣化や変質により歪の伝達が
阻害され、歪検出感度が変化してしまう問題もあった。本実施例の半導体歪センサーでは
、歪センサーチップとベース板の固着に金属はんだを用い、ベース板と測定対象物の取付
けに溶接を用いることで、有機材料に起因する前述のような特性変化を防止でき、センサ
ー特性の長期安定性に優れた歪センサーが得られた。固着に用いた金属材料に於いても微
小なクリープが発生する可能性があるが、樹脂接着剤を用いた場合に比較して格段の差が
有るので、長期安定性に対しては充分な効果がある。製品において長期安定性をそれほど
必要としない場合は、歪センサーチップのベース板への固着に樹脂接着材を用いてもよい
。金属はんだで固着する場合と比べて、メタライズが不要など工程を簡略化できる。
【0060】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーは、歪センサーチップ2が金属製のベース板
3に金属材料を用いて固着されているので、歪センサーチップ2で発生した熱はベース板
に伝導して放熱され易い。ピエゾ抵抗素子は電気抵抗が高いため発熱し易く、また歪セン
サーチップ内にアンプ回路を形成した場合にはアンプ回路からも発熱する。本実施例の半
導体歪センサーは、前述のようにベース板3に熱を伝導して放熱し易いので、歪センサー
チップ2の温度上昇を最小限に抑えることができるだけでなく、ベース板と歪センサーチ
ップの温度を均一に保ち易い。これにより、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や、歪
センサーチップとベース板との温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子の応力が変化す
るなどして起こる特性変化を抑えることができた。
【実施例2】
【0061】
本願発明の第二実施例の半導体歪センサーについて説明する。第一実施例と異なるのは
、測定対象物への取付け方法である。図6は第二実施例の歪センサーを測定対象物に取付
けた状態の平面図で、図7は図6のm―m’断面図である。ベース板3の第1接続エリア
11と第2接続エリア12にボルト孔23を形成し、半導体歪センサー1を測定対象物6
にボルト24で固着した。測定対象物6にはボルト24用のねじ穴25を形成する必要が
あるが、第一実施例の測定対象物は溶接ができる材料に限られていたが、本実施例ではね
じ穴が形成できれば溶接ができないセラミック等にも適用できるものである。逆に、測定
対象物にボルトを取付けて、接続エリアのボルト孔23に通してナットで固着することも
できる。
【実施例3】
【0062】
本願発明の第三実施例の半導体歪センサーについて説明する。配線引出し方法が第一実
施例と異なる。図8は、第三実施例の半導体歪センサーの平面図である。ベース板3上に
絶縁膜45を介してベース板電極46を形成した。ベース板電極46と歪センサーチップ
2の電極16間をAuワイヤー17で接続し、またベース板電極46に被服配線47の被
服を剥がした先端部をはんだ付けした。配線部を含め歪センサーチップ2を覆うようにカ
バー樹脂18を塗布した。樹脂による応力が大きい場合は、カバー樹脂の塗布を配線部の
み、もしくは配線部と配線部の対称位置とすることもできる。本実施例によれば、予めベ
ース板電極46を形成したベース板3を用いることで、フレキシブル配線板が不要になり
、フレキシブル配線板のベース板への接着など組立の工程が省ける。引出し配線数が少な
い場合に適した配線引き出し構造である。
【実施例4】
【0063】
本願発明の第四実施例の半導体歪センサーについて説明する。接続エリアの配置および
、配線引き出し方法、溝が第一実施例と異なる。図9は半導体歪センサーを測定対象物に
取付けた状態の平面図で、図10は図9のn−n’断面図である。図9に示すように、X
方向にセンサーチップ接続部15を挟む第1接続エリア11と第2接続エリア12に加え
て、Y方向にセンサーチップ接続部15を挟む様に、第3接続エリア13と第4接続エリ
ア14を配置した。また、センサーチップ接続部15と各接続エリア間を分断するように
溝30,30’を形成した。第1接続エリア11から第4接続エリア14を、測定対象物
にスポット溶接を行い半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。測定対象物のX方
向に加わる歪は第1接続エリア11と第2接続エリア12を介して歪センサーチップ2に
歪が伝達し、Y方向に加わる歪は第3接続エリア13と第4接続エリア14を介して歪セ
ンサーチップ2に歪が伝達し、測定対象物に加わった歪量を検出することができる。
【0064】
本実施例に用いたベース板を歪センサーチップの固着面の反対面側の斜視図を図11に
示す。ベース板3は略正方形とし、第1接続エリア11および第2接続エリア12と歪セ
ンサーチップ接続部15との間に溝30をY方向に横断するように形成した。Y方向の歪
検出に対応して第3接続エリア13および第4接続エリア14と歪センサーチップ接続部
15との間に溝30’をX方向に横断するように形成した。4本の溝の歪センサーチップ
に近い側の溝壁面で囲まれた突出部35の外形を、歪センサーチップ2の外形と同じとし
、突出部35の形成位置に合わせて歪センサーチップ2を反対面側に金属はんだで固着し
た。
【0065】
歪センサーチップの全周を取り囲むように第1接続エリア11から第4接続エリア14
が形成されているので、フレキシブル配線板5を歪センサーチップ2上に配置した。歪セ
ンサーチップの電極に金属バンプ26を形成し、フレキシブル配線板5を接続した。フレ
キシブル配線板の応力の影響を低減するため、歪センサーチップ2の片側にフレキシブル
配線板を設けるのではなく、歪センサーチップ2を覆うようにフレキシブル配線板5を配
した。フレキシブル配線板5と歪センサーチップ2間の隙間にはカバー樹脂18を塗布し
た。カバー樹脂18はエポキシ樹脂を用いた。カバー樹脂18は配線部の電気的絶縁と外
気との絶縁だけでなく、フレキシブル配線板と歪センサーチップ間の接合力増強の働きも
果たすものである。フレキシブル配線板を歪センサーチップ上に配置したので、第1接続
エリア11から第4接続エリア14と測定対象物6の溶接の際、フレキシブル配線板5が
溶接作業の邪魔になるようなことはなかった。
【実施例5】
【0066】
第四実施例の半導体歪センサーは、トルク検出にも適している。トルク検出の一例を図
12に示す。トルクが加わる円柱状部材7を測定対象物とし、円柱状部材の円柱側面に切
欠き溝8を形成し、溝底の平坦部に第四実施例の半導体歪センサー1を取付けた。本実施
例の半導体歪センサーは、歪センサーチップの周囲4ヶ所の接続エリアで測定対象物に溶
接で固着した。X方向もY方向も歪を伝達するので、測定対象物のねじりによるせん断歪
が歪センサーチップ2にも伝達し、トルクに比例したせん断歪を計算を行い求めることが
できた。本実施例では、歪センサーチップ内のピエゾ抵抗素子は、X方向とY方向と平行
に配している。しかし、予めX方向とY方向に対し45度にピエゾ抵抗素子を配した歪セ
ンサーチップを用いれば、せん断方向の歪を直接測定することができる。
【実施例6】
【0067】
本願発明の第六実施例の半導体歪センサーについて説明する。表裏の剛性バランスをさ
らに向上させたベース板の構造が第一実施例と異なる。図13は本実施例の半導体歪セン
サー1を測定対象物に取付けた状態の平面図で、図14は図13のk−k’断面図である
。図15にベース板3の表と裏側の斜視図を示す。図15a)に、測定対象物6と対向す
る面(裏面)の斜視図を示す。第一実施例では、歪センサーチップが固着された部分では
、半導体歪センサーの表裏の剛性バランスが一致するが、歪センサーチップにY方向に張
り出した部分や接続エリアでは、リンク部の中心線に対して表裏の剛性がバランスしてい
ない。バランスしていない部分で曲げが発生して、歪センサーチップの変形にも少なから
ず影響を及ぼす。本実施例では、歪センサーチップが固着された部分と溝エリア以外の部
分でも表裏の剛性バランスをとるため、ベース板表面側に、裏面の溝と歪センサーチップ
接続部を含む領域と略一致した形状で、裏面の溝と同じ深さの凹部を設け、凹部の底面に
歪センサーチップ裏面を金属はんだで接合した。図14の半導体歪センサー1の厚み方向
の中心線p−p’に対し、線対称の形状としている。金属はんだ4の厚みは歪センサーチ
ップ2の厚みtdに比べ極薄いため、金属はんだの厚みは歪センサーチップに厚みtdに
含めている。
【0068】
図15a)に、測定対象物6と対向する面(裏面)の斜視図を示す。ベース板3のY方
向に横断する2本の溝30と、2本の溝30を繋ぐようにX方向に2本の溝30’が形成
されている。溝で囲まれた領域が突出部35となる。図15b)は、歪センサーチップが
固着される面(表面)の斜視図である。裏面と同じ位置に溝30と溝30’が形成され、
溝で囲まれた部分は除去され凹部39を形成する。形成された凹部39の深さは、凹部を
囲む溝の深さと同じである。
【0069】
凹部39の底面の破線で囲んだ箇所に、突出部35の形成位置に合わせ、歪センサーチ
ップを金属はんだで固着した。凹部39の底面に歪センサーチップを固着することで、ベ
ース板全体の表裏の剛性バランスを等しくすることができた。ベース板全体に渡り、表裏
の剛性バランスを等しくできたので、ベース板3の曲げ変形が防止でき、測定対象物の歪
を歪センサーチップ表面に正しく再現できた。しかし、ベース板の表裏に溝を加工するた
め加工の工数が増え製造コストが上がってしまう。また、歪センサーチップの厚み分ベー
ス板が厚くなり剛性が増加するため、測定対象物の歪そのものに与える影響が増加する問
題がある。第一実施例の構成で十分な特性が得られる場合は、第一実施例のベース板形状
用いることが好ましい。
【0070】
本願発明の歪センサーの配線手段については、第一から第六実施例に示した構成に限ら
れたものではなく、例えばベース板上に絶縁膜を介して形成したベース板電極に対し、フ
レキシブル配線板の配線の一部を異方性導電接着剤を用いて電気的に接続する方法など、
様々な方法を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図2】一実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図3】第一実施例の半導体歪センサーの寸法記号を表す断面図である。
【図4】第一実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図5】第一実施例に用いたベース板の変形例の斜視図である。
【図6】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図7】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図8】第三実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図9】第四実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図10】第四実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図11】第四実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図12】第五実施例の半導体歪センサーを用いたトルク測定の例を示す斜視図である。
【図13】第六実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図14】第六実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図15】第六実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図16】従来品の歪センサーの外観を示す図である。
【図17】歪センサーの歪変換係数の概念を説明する図である。
【図18】従来品の歪センサーの曲げ変形の課題を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 半導体歪センサー、
2 歪センサーチップ、
3 ベース板、
4 金属はんだ、
5 フレキシブル配線板、
6 測定対象物、
7 円柱状部材、
8 切欠き溝、
11 第1接続エリア、
12 第2接続エリア、
13 第3接続エリア、
14 第4接続エリア、
15 歪センサーチップ接続部、
16 電極、
17 ワイヤー、
18 カバー樹脂、
19 溶接点、
23 ボルト孔、
24 ボルト、
25 ねじ穴、
26 金属バンプ、
27 張出部、
30,30’ 溝、
31 第一溝エリア、
32 第二溝エリア、
33 第三溝エリア、
34 第四溝エリア、
35 突出部、
37 リンク部、
39 凹部、
41 第一接続位置、
42 第二接続位置、
45 絶縁層、
46 ベース板電極、
47 被覆電線、
51 半導体歪ゲージ、
52 歪センサーチップ、
53 配線、
54 ポリイミドフィルム、
56 歪検出センサー、
57 ガラス製台座、
58 低融点ガラス、
59 歪検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチップと、ベース板と、前記歪セン
サーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部とを有し、歪センサーチップ裏面とベ
ース板表面は歪センサーチップ接続部で接合され、歪センサーチップの側方に張り出した
ベース板に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上の接続エリアを有する半導体歪セ
ンサーであって、ベース板の裏面に歪センサーチップの側辺部に側辺長以上の長さで、歪
センサーチップ接続部と接続エリアを分断する溝が形成されていることを特徴とする半導
体歪センサー。
【請求項2】
歪センサーチップ接続部と接続エリアを分断する溝は、少なくとも歪センサーチップの
歪検出方向に対し直角方向に、歪センサーチップ接続部の両側に形成されていることを特
徴とする請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項3】
歪センサーチップに近い側の溝壁と歪センサーチップの側辺の位置が略一致しているこ
とを特徴とする請求項1および2のいずれかに記載の半導体歪センサー。
【請求項4】
ベース板のヤング率Esと歪センサーチップのヤング率Ed、歪センサーチップの厚さ
td、溝の深さtsが、ts×Es=td×Edであることを特徴とする請求項1から3
のいずれかに記載の半導体歪センサー。
【請求項5】
ベース板表面側に、裏面の溝と歪センサーチップ接続部を含む領域と略一致した形状で
、裏面の溝と同じ深さの凹部を設け、凹部の底面に歪センサーチップ裏面を接合したこと
を特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の半導体歪センサー。
【請求項6】
2つの接続エリアと歪センサーチップ接続部が連続する方向の断面において、歪センサ
ーチップの接続部での歪センサーチップとベース板を合わせた厚さta、溝部のベース板
厚さtb、接続エリアのベース板厚さtc、歪センサーチップの長さla、溝の幅lbが
、lb=la/2×[tb×(ta−tc) ]/[(ta×(tc−tb)]であるこ
とを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の半導体歪センサー。
【請求項7】
歪センサーチップ裏面とベース板表面は、金属はんだを用いて接合されていることを特
徴とする請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項8】
配線部は、ベース板上に樹脂接着されたフレキシブル配線板と、フレキシブル配線板の
配線と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤーと、少なくとも歪セ
ンサーチップの電極と金属ワイヤーを覆う樹脂で構成されていることを特徴とする請求項
1に記載の半導体歪センサー。
【請求項9】
配線部は、フレキシブル配線板の配線の一部が、歪センサーチップの電極に設けられた
金属バンプに直接接続していることを特徴とする請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項10】
配線部は、ベース板上に絶縁膜を介して形成されたベース板電極と、ベース板電極と歪
センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤーと、少なくともベース板電極
と金属ワイヤー、歪センサーチップの電極を覆う樹脂で構成されていることを特徴とする
請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項11】
半導体歪センサーのベース板の裏面と測定対象部材が対向し、半導体歪センサーはベー
ス板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部材に固着されていることを特徴と
する請求項1に記載の半導体歪センサーの取付け方法。
【請求項12】
半導体歪センサーと測定対象部材は、少なくとも2つ以上の接続エリアで、各接続エリ
アは少なくとも一ヶ所以上の溶接部で固着されていることを特徴とする請求項11に記載
の半導体歪センサーの取付け方法。
【請求項13】
半導体歪センサーと測定対象部材は、少なくとも2つ以上の接続エリアで、各接続エリ
アは少なくとも一ヶ所以上のねじ部で固着されていることを特徴とする請求項11に記載
の半導体歪センサーの取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−75039(P2009−75039A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246695(P2007−246695)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】