説明

半導体装置およびその製造方法

【課題】半導体装置のしきい値電圧特性の劣化を抑制すること。
【解決手段】半導体基板2の表面にアルミニウム電極3を形成する。次いで、半導体基板2の表面にジンケート処理を行った後、水洗処理を行う。次いで、無電解めっき処理を行い、アルミニウム電極3の表面にニッケルめっき層5および金めっき層6をこの順で形成する。ジンケート処理後の水洗処理により、アルミニウム電極3の表面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度を9.20×1014atoms/cm2以下にする。無電解ニッケルめっき浴中のナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度を3400wtppm以下とする。このように作製された半導体装置1の、ニッケルめっき層5およびニッケルめっき層5とアルミニウム電極3との界面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度は3.20×1014atoms/cm2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、特にニッケル層を含む電極を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、パワー半導体装置の実装において、半導体装置の表面に形成された表面電極はアルミワイヤーを用いたワイヤボンディング技術を用いて接合されている。しかし、最近では、ワイヤボンディング技術に代わり、表面電極に電気配線用のリードフレームや外部電極端子など(以下、接続導体とする)をはんだ接合するパッケージング技術が用いられている。
【0003】
ところで、半導体装置には、大電流が流れる通電時に、半導体装置自体に大きな熱が発生してしまうという問題がある。そのため、接続導体には、半導体装置を電気的に接続する配線経路としての機能とともに、半導体装置に発生する熱を放熱させて冷却効率を向上させる放熱経路としての機能も備えられている。接続導体の放熱効率は、接続導体にある程度の体積を持たせることで確保することができる。そのため、半導体装置の表面において、接続導体がはんだ接合される領域を、接続導体に合わせて広い範囲で設ける必要がある。
【0004】
このような構造の半導体装置では、半導体装置の表面に形成されたアルミニウム(Al)電極の表面に、ニッケル(Ni)層および金(Au)層がこの順番で積層される。これにより、アルミニウム電極の表面に、接続導体をはんだ接合できるようになる。
【0005】
このようなニッケル層および金層を形成する方法として、次のような方法が提案されている。裏面電極が絶縁基板上に構成された回路パターンに接合され、おもて面電極が接続導体に接合される半導体チップにおいて、前記おもて面電極を形成するアルミニウム(Al)層の上に、ニッケル(Ni)層と前記ニッケル層の上に積層される金(Au)層の2層で構成される電極膜を無電解めっき法で成膜する(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0006】
また、別の方法として、導体素子のアルミニウム電極表面にバリアメタルあるいは突起電極としてニッケルめっきを施すにあたり、上記素材を酸性液あるいはアルカリ性液によりエッチング処理するライトエッチング工程と、アルカリ性亜鉛酸塩溶液を用いてジンケート処理を行うジンケート処理工程と、還元剤を溶かしたアルカリ性溶液に浸漬することにより前記アルミニウム電極表面を活性化する活性化工程と、前記還元剤溶液をアルミニウム電極に付着させた状態で前記アルミニウム電極を酸化還元反応型の無電解ニッケルめっき液に浸漬する無電解ニッケルめっき工程とを有する方法が提案されている。無電解めっき液としては、例えば無電解Ni−Pめっき液、無電解Ni−Bめっき液を用いることができる。また、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とするアルカリ性めっき液でも可能である。無電解金めっき液としては、一般的には水素化ホウ素カリウムあるいはジメチルアミンボラン(DMAB)などを還元剤とし、ジシアノ金(I)酸カリウムなどのシアン化金塩を金属塩としたものが用いられている(例えば、下記特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−051084号公報
【特許文献2】特開平11−214421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、次のことが新たに判明した。上述した特許文献2に示すような例えば次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケル−リン(Ni−P)めっき浴を用いて無電解ニッケルめっき処理を行う場合、無電解Ni−Pめっき浴中のナトリウム(Na)が、ニッケルめっき層およびニッケルめっき層とアルミニウム電極との界面に残留してしまう。このナトリウムは、後の半導体チップ実装工程である例えばはんだ接合などの熱処理により、アルミニウム電極を通過して半導体基板の内部に拡散し、半導体装置のしきい値電圧(Vth:Threshold Voltage)特性を劣化させる原因となる。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、半導体装置のしきい値電圧特性の劣化を抑制することができる半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる半導体装置は、以下の特徴を有する。半導体チップの表面に設けられたアルミニウム電極膜と、前記アルミニウム電極膜の表面に設けられたニッケルめっき層とを備えた半導体装置において、前記ニッケルめっき層および前記ニッケルめっき層と前記アルミニウム電極膜との界面に存在するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度が3.20×1014atoms/cm2以下である。
【0011】
また、請求項2の発明にかかる半導体装置の製造方法は、以下の特徴を有する。半導体基板に表面電極を有する半導体装置を製造するにあたって、まず、前記半導体基板の表面に、金属電極膜を形成する工程を行う。次いで、前記金属電極膜の表面に、無電解ニッケルめっき処理によりニッケルめっき層を形成するめっき層形成工程を行う。このとき、前記めっき層形成工程の前の、前記金属電極膜の表面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度は9.20×1014atoms/cm2以下である。また、前記無電解ニッケルめっき処理に用いられる無電解ニッケルめっき浴中に含有されるナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度は3400wtppm以下である。
【0012】
また、請求項3の発明にかかる半導体装置の製造方法は、請求項2に記載の発明において、前記無電解ニッケルめっき浴は、ホウ素系化合物を還元剤として用いた無電解ニッケル−ホウ素めっき浴であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の発明にかかる半導体装置の製造方法は、請求項3に記載の発明において、前記ホウ素系化合物は、ジメチルアミンボランであることを特徴とする。
【0014】
上述した発明によれば、ニッケルめっき層を形成する前の金属電極膜表面のナトリウムおよびカリウム(K)の合計の元素濃度(以下、第1のNa+K元素濃度とする)を9.20×1014atoms/cm2以下とする。また、ニッケルめっき層を形成するための無電解ニッケルめっき浴中に含有されるナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(以下、第2のNa+K元素濃度とする)を3400wtppm以下とする。これにより、ニッケルめっき層およびニッケルめっき層と金属電極膜との界面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(以下、第3のNa+K元素濃度とする)を、その後の半導体チップ実装工程のはんだ接合などの熱処理により半導体基板内部に拡散するナトリウムの分量が半導体装置のしきい値電圧特性に影響を及ぼさない程度の元素濃度(3.20×1014atoms/cm2以下)にまで抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる半導体装置およびその製造方法によれば、半導体装置の表面に電極を有する半導体装置において、半導体装置のしきい値電圧特性の劣化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる半導体装置の模式的な構造を示す断面図である。
【図2】本発明にかかる半導体装置の製造方法における無電解Ni−Pめっき浴の液組成を示す図である。
【図3】本発明にかかる半導体装置の製造方法における無電解Ni−Bめっき浴の液組成を示す図である。
【図4】本発明にかかる半導体装置のNa+K元素濃度としきい値電圧特性との関係を示す図である。
【図5】本発明にかかる半導体装置のはんだ濡れ性評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置およびその製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明およびすべての添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明にかかる半導体装置の模式的な構造を示す断面図である。図1に示す半導体装置1では、半導体基板2の表面に、アルミニウム電極3が設けられている。アルミニウム電極3の表面には、ニッケルめっき層5が設けられている。ニッケルめっき層5の表面には、金めっき層6が設けられている。半導体基板2の外周端部には、例えばポリイミド膜からなる周辺耐圧構造部4が設けられている。但し、実際の半導体装置では、半導体基板2の内部に、半導体装置に応じて、種々のp型領域やn型領域が設けられている。また、アルミニウム電極3、ニッケルめっき層5および金めっき層6からなる電極は、半導体装置に応じて、アノード電極、カソード電極、エミッタ電極やソース電極などになるものであり、所定の形状にパターニングされている。
【0019】
このような半導体装置1において、電極部分を形成するための製造方法について説明する。まず、半導体基板2の表面にアルミニウム電極3を積層する。次いで、例えば超音波やプラズマなどを用いたクリーナーによる洗浄処理や、エッチングによる洗浄処理などを行い、半導体基板2の表面に付着しているパーティクルや有機物を除去する。次いで、無電解ニッケルめっき処理の前処理として、半導体基板2の表面にジンケートめっき処理を行う。各洗浄処理およびジンケートめっき処理の後には、半導体基板2に水洗処理を行っている。
【0020】
次いで、無電解ニッケルめっき処理を行い、アルミニウム電極3の表面にニッケルめっき層5を形成する。次いで、一般的な無電解金めっき処理を行い、ニッケルめっき層5の表面に金めっき層6を形成する。次いで、金めっき層6の表面を、例えば遠心力を利用したドライスピン法などで乾燥する。上述した工程により、半導体装置1が完成する。
【0021】
ジンケートめっき処理後の水洗処理では、アルミニウム電極3の表面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第1のNa+K元素濃度)を9.20×1014atoms/cm2以下となるまで例えば超純水などで水洗いするのが好ましい。その理由は、後述する。なお、ジンケートめっき処理後以外の水洗処理についても同様であっても良い。
【0022】
また、無電解ニッケルめっき処理では、ナトリウム含有量を従来に比べて低減させた無電解ニッケルめっき浴を用いる。このとき、めっき浴中に含有されるナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第2のNa+K元素濃度)を3400wtppm以下とするのが好ましい。その理由は、後述する。
【0023】
無電解ニッケルめっき浴は、例えば硫酸ニッケル(NiSO4)に次亜燐酸アンモニウムを還元剤として添加した無電解Ni−Pめっき浴を用いると良い。その理由は、後述する。めっき浴中のNi+イオンを錯体化するために用いる錯化剤として、例えばリンゴ酸(C465)、クエン酸ナトリウム(Na3(C657)・2H2O)およびクエン酸アンモニウムのいずれか一つ以上を添加しても良い。クエン酸ナトリウムの代わりにクエン酸アンモニウムを添加することで、無電解Ni−Pめっき浴中のナトリウムをさらに低減させることができる。また、めっき浴中のpH値を調整するために、例えばアンモニア(NH3)水を添加しても良い。また、従来と同様に、次亜燐酸ナトリウムを還元剤とする無電解Ni−Pめっき浴を用いても良い。その場合は、無電解Ni−Pめっき浴中のナトリウムを低減させるような液組成とすることが好ましい。
【0024】
また、無電解ニッケルめっき浴の別の例として、例えば硫酸ニッケルにジメチルアミンボラン(DMAB)のようなホウ素系化合物を還元剤として添加した無電解Ni−Bめっき浴を用いるとさらに好ましい。その理由は、後述する。無電解Ni−Bめっき浴には、例えば、塩化アンモニウム(NH4Cl)、錯化剤としてロシェル塩や、pH緩衝剤としてホウ酸(H3BO3)を添加しても良い。pH値の調整については、無電解ニッケルめっき浴と同様である。
【0025】
無電解ニッケルめっき法を用いることにより、アルミニウム電極3の表面の所望の位置にニッケルめっき層5を積層することができる。例えば、周辺耐圧構造部4の表面にニッケルめっき層5を形成しないように、めっき処理を行うことができる。また、無電解金めっき法を用いることにより、無電解ニッケルめっき法と同様に、ニッケルめっき層5の表面の所望の位置に金めっき層6を形成することができる。
【0026】
(実施例)
図2は、本発明にかかる半導体装置の製造方法における無電解Ni−Pめっき浴の液組成を示す図である。また、図3は、本発明にかかる半導体装置の製造方法における無電解Ni−Bめっき浴の液組成を示す図である。上述した実施の形態に従い、2枚のウェハを同時に処理して図1に示す構成の半導体装置1を2枚作製した。半導体装置1の作製では、まず、半導体基板2の表面に、アルミニウム電極3および周辺耐圧構造部4を形成した。次いで、各種洗浄処理およびジンケートめっき処理を行った。各洗浄処理およびジンケートめっき処理の後には、半導体基板2の表面に水洗処理を行っている。
【0027】
次いで、上記半導体装置1の1枚を用いて、第1のNa+K元素濃度の定量分析を行った。半導体装置1の残りの1枚には、アルミニウム電極3の表面にニッケルめっき層5および金めっき層6を順次形成した後、ニッケルめっき層5およびニッケルめっき層5とアルミニウム電極3との界面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第3のNa+K元素濃度)の定量分析を行った。ニッケルめっき層5の形成には、温度80℃、pH5に建浴した無電解ニッケルめっき浴を用いた。ニッケルめっき層5の膜厚は5μmとした。金めっき層6の表面には乾燥処理を行っている。次いで、試料作製が終了した後の無電解ニッケルめっき浴において、第2のNa+K元素濃度の定量分析を行った。それぞれのNa+K元素濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICPMS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定した。
【0028】
そして、図2および図3に示すように、ジンケートめっき処理後の水洗処理回数および無電解めっき浴の液組成を種々変更して、上述したように半導体装置1を繰り返し作製し、試料1〜9とした。
【0029】
上述した水洗処理では、次に示すような工程を行った。半導体基板2を2リットル(以下Lで表す)/枚の容量で洗浄することができる水洗槽に収容し、18MΩ以上の脱イオン水に1分間ほど浸漬した。この工程を、脱イオン水を全量交換しながら、各試料の作製条件に合わせて1〜4回繰り返し行った。その後、半導体基板2の表面を、超純水により10L/minの流量で10秒間すすいだ。
【0030】
無電解ニッケルめっき浴には、無電解Ni−Pめっき浴または無電解Ni−Bめっき浴を用いた。なお、無電解Ni−Pめっき浴の液組成は、硫酸ニッケル0.73mol/L、次亜燐酸ナトリウム0.00〜1.28mol/L、次亜燐酸アンモニウム0.00〜1.28mol/L、リンゴ酸0.75mol/L、クエン酸ナトリウム0mol/Lまたは0.21mol/L、クエン酸アンモニウム0mol/Lまたは0.21mol/L、および適量のアンモニア水である。また、無電解Ni−Bめっき浴の液組成は、硫酸ニッケル0.19mol/L、ホウ酸0.49mol/L、塩化アンモニウム0.56mol/L、ロシェル塩0.21mol/L、ジメチルアミンボラン0.06mol/L、および適量のアンモニア水である。なお、アンモニア水の分量は、めっき浴がpH5になる程度の適量を添加している。次亜燐酸ナトリウム、次亜燐酸アンモニウム、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸アンモニウムは、各試料によって種々変化させている。
【0031】
試料1〜4では、次亜燐酸ナトリウムおよび次亜燐酸アンモニウムを還元剤とする無電解Ni−Pめっき浴を用いた。試料1〜4において、無電解Ni−Pめっき浴の液組成を変化させ、ジンケートめっき処理後の水洗処理回数を一定とした。無電解Ni−Pめっき浴には、次亜燐酸ナトリウムおよび次亜燐酸アンモニウムの総量が1.28mol/L(次亜燐酸ナトリウムの分量≠0.00)となるように添加した。錯化剤としてリンゴ酸およびクエン酸ナトリウムを添加した。クエン酸アンモニウムは添加していない。ジンケートめっき処理後の水洗処理を3回行った。
【0032】
試料5〜8では、次亜燐酸アンモニウムを還元剤とする無電解Ni−Pめっき浴を用いた。試料5〜8において、無電解Ni−Pめっき浴の液組成を一定とし、ジンケートめっき処理後の水洗処理回数を変化させた。無電解Ni−Pめっき浴には、次亜燐酸ナトリウムを添加せず(次亜燐酸ナトリウムの分量=0.00)、次亜燐酸アンモニウムのみを1.28mol/L添加した。錯化剤としてリンゴ酸およびクエン酸アンモニウムを添加した。クエン酸ナトリウムは添加していない。
【0033】
試料9では、ジメチルアミンボランを還元剤とする無電解Ni−Bめっき浴を用いた。ジンケートめっき処理後の水洗処理を3回行った。試料1〜9の全てにおいて、ジンケートめっき処理後以外の水洗処理を3回行った。なお、水洗処理方法は、ジンケートめっき処理後の水洗処理方法と同様である。
【0034】
このようにして作製した試料1〜9について、しきい値電圧特性試験を行った。図4は、本発明にかかる半導体装置のNa+K元素濃度としきい値電圧特性との関係を示す図である。試料1〜9における、第1のNa+K元素濃度(ジンケートめっき→水洗後表面Na+K量)、第2のNa+K元素濃度(めっき液中Na+K量)、第3のNa+K元素濃度(めっき界面Na+K量)およびしきい値電圧特性試験の不良数を示している。図4では、しきい値電圧特性試験の不良数が小さい(分子の値が小さい)ほど、しきい値電圧特性に優れていることを示している。つまり、しきい値電圧特性試験の不良数=0/50となる試料4および試料6〜9において、半導体装置のしきい値電圧特性の劣化が抑制されていることがわかる。従って、ニッケルめっき層の形成には、次亜燐酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムの合計の濃度が低い無電解ニッケルめっき浴が好適であり、無電解Ni−Bめっき浴または次亜燐酸アンモニウムを添加剤とした無電解Ni−Pめっき浴を用いるのが良いことがわかった。
【0035】
以上、図4の結果から、ニッケルめっき層5およびニッケルめっき層5とアルミニウム電極3との界面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第3のNa+K元素濃度)が3.32×1014atoms/cm2以下であるときに、半導体装置のしきい値電圧特性の劣化が抑制されることがわかる(図4の試料4参照)。また、第1のNa+K元素濃度および第2のNa+K元素濃度を調節することによって、第3のNa+K元素濃度を調整できることがわかる。従って、アルミニウム電極3の表面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第1のNa+K元素濃度)を9.20×1014atoms/cm2以下とするのが良いことがわかった(図4の試料6参照)。そして、上述した水洗処理方法で2回以上の処理を行うことで、所望の第1のNa+K元素濃度が得られることがわかった。また、無電解ニッケルめっき浴に含有されるナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第2のNa+K元素濃度)を3400wtppm以下とするのが良いことがわかった(図4の試料4参照)。
【0036】
また、試料1〜9において、はんだ濡れ性の評価試験を行った。図5は、本発明にかかる半導体装置のはんだ濡れ性評価結果を示す図である。半導体装置1の表面に接合されたはんだを加熱溶解し、その広がり率を計測した。はんだ材料として直径3mmのスズ(Sn)−銀(Ag)−銅(Cu)系はんだ板を用いた。試験回数はn=5回とした。はんだ板の面積を100%と規定し、加熱溶解後のはんだ板の面積を測定した。図5に示す広がり率は、試験回数5回分の平均値である。図5の結果より、試料9における広がり率が他の試料に比べて大きく、無電解Ni−Bめっき浴を用いることにより半導体装置のはんだ濡れ性をさらに向上させることができることがわかった。
【0037】
以上、実施の形態によれば、ニッケルめっき層5を形成する前のアルミニウム電極3の表面のナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第1のNa+K元素濃度)を9.20×1014atoms/cm2以下にする。また、ニッケルめっき層5を形成するための無電解ニッケルめっき浴中のナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第2のNa+K元素濃度)を3400wtppm以下にする。これにより、接続導体をはんだ接合する前の半導体基板において、ニッケルめっき層5およびニッケルめっき層5とアルミニウム電極3との界面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度(第3のNa+K元素濃度)を3.20×1014atoms/cm2以下に低減することができる。第3のNa+K元素濃度を低減させることで、その後半導体チップ実装工程における熱処理によりナトリウムが半導体基板内部に拡散することを抑制し、半導体装置のしきい値電圧特性の劣化を抑制することができる。また、無電解ニッケルめっき浴として、ジメチルアミンボランのようなホウ素系化合物を還元剤として用いた無電解Ni−B素めっき浴を用いることで、半導体装置の表面のはんだ濡れ性を向上させることができる。
【0038】
また、ニッケルめっき層の形成に無電解めっき法を用いることで、上述した特許文献1および2と同様に、被膜特性(例えば、耐食性、硬度など)に優れたニッケルめっき層を形成することができる。また、めっき浴の管理を簡便にすることができる。
【0039】
以上において本発明では、水洗処理方法における数値、水洗処理方法および無電解ニッケルめっき浴の液組成は一例であり、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。また、半導体装置のおもて面に形成されるおもて面電極に限らず、半導体装置の裏面電極としても適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明にかかる半導体装置およびその製造方法は、無電解めっき法を用いて半導体装置の表面に金属電極を製造するのに有用であり、特に、ダイオード等の整流素子として用いられるパワー半導体装置の製造に適している。
【符号の説明】
【0041】
1 半導体装置
2 半導体基板
3 アルミニウム電極
4 周辺耐圧構造部
5 ニッケルめっき層
6 金めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップの表面に設けられたアルミニウム電極膜と、
前記アルミニウム電極膜の表面に設けられたニッケルめっき層とを備えた半導体装置において、
前記ニッケルめっき層および前記ニッケルめっき層と前記アルミニウム電極膜との界面に存在するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度が3.20×1014atoms/cm2以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
半導体基板に表面電極を有する半導体装置を製造するにあたって、
前記半導体基板の表面に、金属電極膜を形成する工程と、
前記金属電極膜の表面に、無電解ニッケルめっき処理によりニッケルめっき層を形成するめっき層形成工程とを含み、
前記めっき層形成工程の前の、前記金属電極膜の表面に残留するナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度が9.20×1014atoms/cm2以下であり、
前記無電解ニッケルめっき処理に用いられる無電解ニッケルめっき浴中に含有されるナトリウムおよびカリウムの合計の元素濃度が3400wtppm以下であることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記無電解ニッケルめっき浴は、ホウ素系化合物を還元剤として用いた無電解ニッケル−ホウ素めっき浴であることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ素系化合物は、ジメチルアミンボランであることを特徴とする請求項3に記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−42831(P2011−42831A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191502(P2009−191502)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000189327)上村工業株式会社 (101)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】