半導体装置及びその制御方法
【課題】半導体素子と実装基板との間の接合材層に生じた応力を緩和できる半導体装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】実装基板4と、前記実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5を介して実装された半導体素子2,3と、前記半導体素子を通電制御する制御手段6と、を備えた半導体装置において、前記制御手段は、所定条件で前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する。
【解決手段】実装基板4と、前記実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5を介して実装された半導体素子2,3と、前記半導体素子を通電制御する制御手段6と、を備えた半導体装置において、前記制御手段は、所定条件で前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタなどとして用いられる半導体装置であって、半導体チップと、該半導体チップからの電流を絶縁する絶縁材と、半導体チップの発熱を放熱する放熱材と、を備えた半導体装置において、絶縁材と放熱材との熱膨張差による熱応力を緩衝するための緩衝材を備えたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−277317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、緩衝材により絶縁材と放熱材との熱膨張差による熱応力は緩衝できるものの、半導体チップからの発熱により半導体チップを回路基板に実装するためのはんだ層に熱応力が作用し、これが残留応力となってはんだ層にクラックが発生するおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、半導体素子と実装基板との間の接合材層に生じた応力を緩和できる半導体装置及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、半導体素子を通電制御して半導体素子と実装基板との間の熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させることによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性接合材層を軟化させることで、当該熱可塑性接合材層に蓄積された残留応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る半導体装置を示す等価回路である。
【図4】図3のコントローラの制御手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る半導体装置を示す平面図(図2のV矢視)である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図7】図6のVII-VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図9】図8のIX-IX線に沿う断面図である。
【図10】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図11】図10のXI-XI線に沿う断面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図13】図12のXIII-XIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
本例に係る半導体装置1は、たとえば図3に示すトランジスタ2及びダイオード3などのように、通電すると発熱する半導体素子を有し、これらが図1及び図2に示すように実装基板4にはんだなどの熱可塑性接合材層5を介して実装された半導体装置であって、図3に示すようにトランジスタ2をON/OFF制御するコントローラ6を備える。この種の半導体装置1は、図1及び図2に示すようなパワーモジュールとして構成されて、AC−AC、AC−DC、DC−AC電力変換回路に用いることができる。
【0010】
以下、図3に示す回路構成の半導体装置1を含む電力変換回路(インバータ回路)を電気自動車の電力変換装置に適用した例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明の半導体装置1は、発熱する半導体素子を基板に実装したものであれば適用することができる。
【0011】
図1及び図2に示す実装基板4は、絶縁性基板4aの表裏それぞれに導電性パターン4bが形成された剛性を有する基板であり、図示は省略するが、同図において下側の裏面には放熱フィンが装着されたり他のパワーモジュールが接続されたりする。一方、実装基板4の表面の導電性パターン4bにはIGBTなどのトランジスタ2とダイオード3が熱可塑性接合材層5を介して実装されている。
【0012】
本例の熱可塑性接合材層5は、はんだ材料などの電気伝導性と熱可塑性とを有する接合材からなる層であり、トランジスタ2及びダイオード3は、はんだのリフロー工程により実装基板4の表面に接合される。熱可塑性接合材層5は、材料が軟化する軟化点(軟化温度)と、これより高温領域において材料が溶融する融点を有し、熱可塑性接合材層5の温度が上昇すると、軟化点で軟化し始めたのち融点で液状に溶融するが、温度が軟化点より下降すると元の固体に戻る性質を有する。
【0013】
本例のコントローラ6は、トランジスタ2又はダイオード3を通電制御するものであって、具体的にはトランジスタ2へON/OFF信号を出力する制御装置である。図3においては専用のコントローラ6として表しているが、インバータなどの電力変換回路に適用する場合は、当該インバータのトランジスタへON/OFF信号を出力するコントローラに含ませることができる。本例のコントローラ6は、
所定条件で熱可塑性接合材層5を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する。これについては後述する。
【0014】
図1及び図2に示すように、半導体装置1のトランジスタ2の近傍には温度センサ7が実装されており、この温度センサ7による検出信号がコントローラ6に出力されるように温度センサ7はコントローラ6に接続されている。なお、温度センサ7はトランジスタ2を固定する熱可塑性接合材層5の温度を直接的に検出することができるが、同時にダイオード3を固定する熱可塑性接合材層5の温度も補正係数を乗じるなどして間接的に検出することができる。熱可塑性接合材層5には、トランジスタ2やダイオード3からの熱が伝わり、冷熱サイクルを繰り返すことで残留応力が発生するが、この冷熱サイクルの状態を検出するために温度センサ7による検出温度が用いられる。ただし、本発明の半導体装置において温度センサ7は必須ではなく、コントローラ6や電力変換回路の制御回路からの制御信号に基づいて熱可塑性接合材層5の温度を推定してもよい。
【0015】
図3に示すように、コントローラ6には、当該半導体装置1が搭載された車両のコントローラ8から駆動負荷状態に関する信号が入力される。この車両の駆動負荷状態とは、本例の半導体装置1が停止している状態を駆動負荷=ゼロとするものであり、車両が停止又は停車している状態のほか、ハイブリッド車両などにおいて電力変換回路が停止している状態などが含まれる。車両の駆動負荷が大きい場合に本例の応力緩和制御を実行すると、車両の走行性能に影響を与えるため、車両の駆動負荷がゼロ又は低い場合など応力緩和制御を実行して好ましいタイミングを判断するために車両の駆動負荷状態が検出される。
【0016】
次にコントローラ6の制御手順を説明する。
図4に示すように、まず温度センサ7の出力信号を読み出し(ステップS1)、熱可塑性接合材層5の温度が所定の閾温度Tth以上か否かを判断する(ステップS2)。所定の閾温度Tthとしては、熱可塑性接合材層5に熱応力が発生する温度の下限値を設定することが好ましい。熱可塑性接合材層5の温度が所定の閾温度Tth未満の場合はステップS1へ戻って温度センサ7からの出力信号の読み出しを繰り返すが、所定の閾温度Tth以上の場合にはステップS3へ進み、所定の閾温度Tth以上になった回数をカウントするとともに、今までカウントされた回数が所定回数Nth以上か否かを判断する。所定の回数Nthとしては、熱可塑性接合材層5が所定の閾温度Tth以上になることが時間的にどれくらい繰り返されると残留応力が発生するかを基準にして設定することが好ましい。すなわち、本例のステップS2及びS3においては、温度×時間の積算度合いにて熱可塑性接合材層5の残留応力を検出乃至推定している。
【0017】
ステップS3にて所定の閾温度Tth以上になった回数が所定回数Nth未満の場合はステップS1へ戻って温度センサ7の読み出しから繰り返すが、所定回数Nth以上の場合にはステップS4へ進み、本例の半導体装置1が搭載された車両のコントローラ8からの駆動負荷状態に関する信号に基づいて、当該車両が停車中か否かを判断する。そして、ステップS4にて車両が停車中ではない場合はステップS1へ戻って温度センサ7の読み出しから繰り返すが、車両が停車中である場合はステップS5へ進み、コントローラ6から制御信号を出力してトランジスタ2及びダイオード3に電流を流して応力緩和制御を開始する。これによりトランジスタ2及びダイオード3は発熱し、熱可塑性接合材層5の温度が昇温し始める。
【0018】
ステップS6では温度センサ7の出力信号を読み出し、ステップS7では温度センサ7により検出された熱可塑性接合材層5の温度に応じてコントローラ6からの制御信号を制御し、トランジスタ2及びダイオード3に流れる電流を調節する。すなわち、熱可塑性接合材層5の温度と軟化点との温度差が大きい場合にはトランジスタ2及びダイオード3に大電流が流れる通電制御を実行し、逆に熱可塑性接合材層5の温度と軟化点との温度差が小さい場合にはトランジスタ2及びダイオード3に流れる電流を抑制する。
【0019】
なお、熱可塑性接合材層5を少なくとも軟化点以上に昇温させれば、熱可塑性接合材層5が軟化するので、本例の応力緩和制御では、熱可塑性接合材層5を軟化点以上に昇温することにより残留応力を低減することとしているが、熱可塑性接合材層5の融点以上に昇温させてもよい。融点以上に昇温することで、より一層残留応力が低減乃至除去される。
【0020】
ステップS8では温度センサ7により検出された熱可塑性接合材層5の温度が軟化点に達したか否かを判断し、達していない場合にはステップS6へ戻ってステップS7及びS8を繰り返す。これに対して、熱可塑性接合材層5の温度が軟化点に達した場合にはステップS9へ進み、コントローラ6による熱可塑性接合材層5の応力緩和制御を終了する。
【0021】
ステップS10ではコントローラ6の制御信号により熱可塑性接合材層5を冷却し、再固化させる。このとき、自然冷却させてもよいが、コントローラ6の制御信号を調節して、トランジスタ2及びダイオード3を実装したときのリフロー工程と同じ温度プロファイルで冷却させることが好ましい。熱可塑性接合材層5の再固化が終了したら、ステップS3にてカウントされた回数をリセットしたのちステップS1に戻り、以上の処理を繰り返す。
【0022】
以上のとおり本例の半導体装置1によれば、熱可塑性接合材層5に残留応力が発生すると、車両の走行状態等に影響を与えないタイミングで応力緩和制御を実行するので、熱可塑性接合材層5が軟化し、それまでに蓄積していた残留応力を低減乃至除去することができる。その結果、トランジスタ2やダイオード3の実装部分を延命させることができる。
【0023】
また本例の半導体装置1によれば、温度センサ7からの温度検出値を用いることでコントローラ6の制御精度が向上し、最適な温度で最適な時間だけ軟化させることができる。
【0024】
また本例の半導体装置1によれば、熱可塑性接合材層5の温度×時間の積算度合いといった実際の動作環境に基づいて残留応力を検出乃至推定し、この残留応力が所定の閾値以上になった場合に応力緩和制御を実行するので、不要なタイミングで熱可塑性接合材層5を軟化させることが回避できる。
【0025】
また本例の半導体装置1によれば、車両が停車している場合など駆動負荷状態を検出し、駆動負荷が小さい場合に応力緩和制御を実行するので、車両の走行性能に悪影響を与えることが防止される。
【0026】
また本例の半導体装置1によれば、ステップS10の冷却工程において熱可塑性接合材層5が再固化するときの温度プロファイルを実装時のリフロー工程の温度プロファイルと同じ特性とするので、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5の粒子の大きさを初期の実装直後と同じにすることができる。
【0027】
《第2実施形態》
本発明の他の実施の形態に係る半導体装置1について説明する。図5は、図2のV矢視図であって、トランジスタ2又はダイオード3の上から見た熱可塑性接合材層5の透視平面図である。本例の実装基板4と半導体素子2又は3との間は、上述した第1実施形態の熱可塑性接合材層5と、この熱可塑性接合材層5以外の部分に設けられた第2の熱可塑性接合材層5Aとから構成されている。具体的には、図5に示すように、トランジスタ2又はダイオード3の端部を除いた部分、すなわち熱可塑性接合材層5の中央部分に、熱可塑性接合材層5の軟化点T1(又は融点)より高い軟化点T2(又は融点)と電気伝導性とを有する第2の熱可塑性接合材層5が設けられている。
【0028】
そして、図4のステップS5以降の応力緩和制御において、コントローラ6は、少なくとも第2の熱可塑性接合材層5Aの温度が軟化点T2未満の温度となるようにトランジスタ2又はダイオード3に通電制御する。
【0029】
本例の半導体装置1によれば、軟化点(又は融点)が低い電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5が軟化もしくは液化しても、第2の熱可塑性接合材層5Aは軟化又は液化しないので、トランジスタ2又はダイオード3などの半導体素子の傾きを防止することができる。その結果、応力緩和制御を実行したことにより電気的な短絡が発生するのを防止することができる。また、軟化や液化したときに熱可塑性接合材層5の厚さがばらつくことも防止できるので、応力集中する部分が生じるのも防止することができる。
【0030】
《第3実施形態》
本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置1について説明する。図6〜図13は、熱可塑性接合材層5の周囲に、当該熱可塑性接合材層5の溶融材料を堰き止める流出防止手段9,10,11,12を設けた各実施形態を示す斜視図及び断面図である。それぞれについて説明すると、図6及び図7に示す第1例は、トランジスタ2及びダイオード3のそれぞれの周囲を囲むように実装基板4の表面に樹脂製枠体9を設けたものである。
【0031】
また図8及び図9に示す第2例は、トランジスタ2及びダイオード3を含む範囲を樹脂モールドによる樹脂製封止体10で封止したものである。また図10及び図11に示す第3例は、熱可塑性接合材層5の周囲を囲む樹脂製レジスト膜11を設けたものである。また図12及び図13に示す第4例は、熱可塑性接合材層5の周囲に環状凹部12を設けたものである。
【0032】
第1例から第4例のいずれの形態においても、応力緩和制御を実行した際に熱可塑性接合材層5が液化しても、樹脂性枠体9、樹脂製封止体10、樹脂製レジスト膜11又は環状凹部12によって液化材料の流出を堰き止めることができ、再固化した際に半導体装置1の性能を悪化させることが防止できる。
【0033】
上記トランジスタ2及びダイオード3は本発明に係る半導体素子に相当し、上記コントローラ6は本発明に係る制御手段に相当し、上記温度センサは本発明に係る温度検出手段に相当し、上記車両コントローラ8は本発明に係る負荷検出手段に相当し、上記樹脂製枠体9、樹脂製封止体10、樹脂製レジスト膜11、環状凹部12は本発明に係る流出防止手段に相当する。
【符号の説明】
【0034】
1…半導体装置
2…トランジスタ
3…ダイオード
4…実装基板
5…熱可塑性接合材層
5A…第2の熱可塑性接合材層
6…コントローラ
7…温度センサ
8…車両コントローラ
9…樹脂製枠体
10…樹脂製封止体
11…樹脂製レジスト膜
12…環状凹部
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタなどとして用いられる半導体装置であって、半導体チップと、該半導体チップからの電流を絶縁する絶縁材と、半導体チップの発熱を放熱する放熱材と、を備えた半導体装置において、絶縁材と放熱材との熱膨張差による熱応力を緩衝するための緩衝材を備えたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−277317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術は、緩衝材により絶縁材と放熱材との熱膨張差による熱応力は緩衝できるものの、半導体チップからの発熱により半導体チップを回路基板に実装するためのはんだ層に熱応力が作用し、これが残留応力となってはんだ層にクラックが発生するおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、半導体素子と実装基板との間の接合材層に生じた応力を緩和できる半導体装置及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、半導体素子を通電制御して半導体素子と実装基板との間の熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させることによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性接合材層を軟化させることで、当該熱可塑性接合材層に蓄積された残留応力を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る半導体装置を示す等価回路である。
【図4】図3のコントローラの制御手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る半導体装置を示す平面図(図2のV矢視)である。
【図6】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図7】図6のVII-VII線に沿う断面図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図9】図8のIX-IX線に沿う断面図である。
【図10】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図11】図10のXI-XI線に沿う断面図である。
【図12】本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置を示す斜視図である。
【図13】図12のXIII-XIII線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
本例に係る半導体装置1は、たとえば図3に示すトランジスタ2及びダイオード3などのように、通電すると発熱する半導体素子を有し、これらが図1及び図2に示すように実装基板4にはんだなどの熱可塑性接合材層5を介して実装された半導体装置であって、図3に示すようにトランジスタ2をON/OFF制御するコントローラ6を備える。この種の半導体装置1は、図1及び図2に示すようなパワーモジュールとして構成されて、AC−AC、AC−DC、DC−AC電力変換回路に用いることができる。
【0010】
以下、図3に示す回路構成の半導体装置1を含む電力変換回路(インバータ回路)を電気自動車の電力変換装置に適用した例を挙げて本発明を説明する。ただし、本発明の半導体装置1は、発熱する半導体素子を基板に実装したものであれば適用することができる。
【0011】
図1及び図2に示す実装基板4は、絶縁性基板4aの表裏それぞれに導電性パターン4bが形成された剛性を有する基板であり、図示は省略するが、同図において下側の裏面には放熱フィンが装着されたり他のパワーモジュールが接続されたりする。一方、実装基板4の表面の導電性パターン4bにはIGBTなどのトランジスタ2とダイオード3が熱可塑性接合材層5を介して実装されている。
【0012】
本例の熱可塑性接合材層5は、はんだ材料などの電気伝導性と熱可塑性とを有する接合材からなる層であり、トランジスタ2及びダイオード3は、はんだのリフロー工程により実装基板4の表面に接合される。熱可塑性接合材層5は、材料が軟化する軟化点(軟化温度)と、これより高温領域において材料が溶融する融点を有し、熱可塑性接合材層5の温度が上昇すると、軟化点で軟化し始めたのち融点で液状に溶融するが、温度が軟化点より下降すると元の固体に戻る性質を有する。
【0013】
本例のコントローラ6は、トランジスタ2又はダイオード3を通電制御するものであって、具体的にはトランジスタ2へON/OFF信号を出力する制御装置である。図3においては専用のコントローラ6として表しているが、インバータなどの電力変換回路に適用する場合は、当該インバータのトランジスタへON/OFF信号を出力するコントローラに含ませることができる。本例のコントローラ6は、
所定条件で熱可塑性接合材層5を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する。これについては後述する。
【0014】
図1及び図2に示すように、半導体装置1のトランジスタ2の近傍には温度センサ7が実装されており、この温度センサ7による検出信号がコントローラ6に出力されるように温度センサ7はコントローラ6に接続されている。なお、温度センサ7はトランジスタ2を固定する熱可塑性接合材層5の温度を直接的に検出することができるが、同時にダイオード3を固定する熱可塑性接合材層5の温度も補正係数を乗じるなどして間接的に検出することができる。熱可塑性接合材層5には、トランジスタ2やダイオード3からの熱が伝わり、冷熱サイクルを繰り返すことで残留応力が発生するが、この冷熱サイクルの状態を検出するために温度センサ7による検出温度が用いられる。ただし、本発明の半導体装置において温度センサ7は必須ではなく、コントローラ6や電力変換回路の制御回路からの制御信号に基づいて熱可塑性接合材層5の温度を推定してもよい。
【0015】
図3に示すように、コントローラ6には、当該半導体装置1が搭載された車両のコントローラ8から駆動負荷状態に関する信号が入力される。この車両の駆動負荷状態とは、本例の半導体装置1が停止している状態を駆動負荷=ゼロとするものであり、車両が停止又は停車している状態のほか、ハイブリッド車両などにおいて電力変換回路が停止している状態などが含まれる。車両の駆動負荷が大きい場合に本例の応力緩和制御を実行すると、車両の走行性能に影響を与えるため、車両の駆動負荷がゼロ又は低い場合など応力緩和制御を実行して好ましいタイミングを判断するために車両の駆動負荷状態が検出される。
【0016】
次にコントローラ6の制御手順を説明する。
図4に示すように、まず温度センサ7の出力信号を読み出し(ステップS1)、熱可塑性接合材層5の温度が所定の閾温度Tth以上か否かを判断する(ステップS2)。所定の閾温度Tthとしては、熱可塑性接合材層5に熱応力が発生する温度の下限値を設定することが好ましい。熱可塑性接合材層5の温度が所定の閾温度Tth未満の場合はステップS1へ戻って温度センサ7からの出力信号の読み出しを繰り返すが、所定の閾温度Tth以上の場合にはステップS3へ進み、所定の閾温度Tth以上になった回数をカウントするとともに、今までカウントされた回数が所定回数Nth以上か否かを判断する。所定の回数Nthとしては、熱可塑性接合材層5が所定の閾温度Tth以上になることが時間的にどれくらい繰り返されると残留応力が発生するかを基準にして設定することが好ましい。すなわち、本例のステップS2及びS3においては、温度×時間の積算度合いにて熱可塑性接合材層5の残留応力を検出乃至推定している。
【0017】
ステップS3にて所定の閾温度Tth以上になった回数が所定回数Nth未満の場合はステップS1へ戻って温度センサ7の読み出しから繰り返すが、所定回数Nth以上の場合にはステップS4へ進み、本例の半導体装置1が搭載された車両のコントローラ8からの駆動負荷状態に関する信号に基づいて、当該車両が停車中か否かを判断する。そして、ステップS4にて車両が停車中ではない場合はステップS1へ戻って温度センサ7の読み出しから繰り返すが、車両が停車中である場合はステップS5へ進み、コントローラ6から制御信号を出力してトランジスタ2及びダイオード3に電流を流して応力緩和制御を開始する。これによりトランジスタ2及びダイオード3は発熱し、熱可塑性接合材層5の温度が昇温し始める。
【0018】
ステップS6では温度センサ7の出力信号を読み出し、ステップS7では温度センサ7により検出された熱可塑性接合材層5の温度に応じてコントローラ6からの制御信号を制御し、トランジスタ2及びダイオード3に流れる電流を調節する。すなわち、熱可塑性接合材層5の温度と軟化点との温度差が大きい場合にはトランジスタ2及びダイオード3に大電流が流れる通電制御を実行し、逆に熱可塑性接合材層5の温度と軟化点との温度差が小さい場合にはトランジスタ2及びダイオード3に流れる電流を抑制する。
【0019】
なお、熱可塑性接合材層5を少なくとも軟化点以上に昇温させれば、熱可塑性接合材層5が軟化するので、本例の応力緩和制御では、熱可塑性接合材層5を軟化点以上に昇温することにより残留応力を低減することとしているが、熱可塑性接合材層5の融点以上に昇温させてもよい。融点以上に昇温することで、より一層残留応力が低減乃至除去される。
【0020】
ステップS8では温度センサ7により検出された熱可塑性接合材層5の温度が軟化点に達したか否かを判断し、達していない場合にはステップS6へ戻ってステップS7及びS8を繰り返す。これに対して、熱可塑性接合材層5の温度が軟化点に達した場合にはステップS9へ進み、コントローラ6による熱可塑性接合材層5の応力緩和制御を終了する。
【0021】
ステップS10ではコントローラ6の制御信号により熱可塑性接合材層5を冷却し、再固化させる。このとき、自然冷却させてもよいが、コントローラ6の制御信号を調節して、トランジスタ2及びダイオード3を実装したときのリフロー工程と同じ温度プロファイルで冷却させることが好ましい。熱可塑性接合材層5の再固化が終了したら、ステップS3にてカウントされた回数をリセットしたのちステップS1に戻り、以上の処理を繰り返す。
【0022】
以上のとおり本例の半導体装置1によれば、熱可塑性接合材層5に残留応力が発生すると、車両の走行状態等に影響を与えないタイミングで応力緩和制御を実行するので、熱可塑性接合材層5が軟化し、それまでに蓄積していた残留応力を低減乃至除去することができる。その結果、トランジスタ2やダイオード3の実装部分を延命させることができる。
【0023】
また本例の半導体装置1によれば、温度センサ7からの温度検出値を用いることでコントローラ6の制御精度が向上し、最適な温度で最適な時間だけ軟化させることができる。
【0024】
また本例の半導体装置1によれば、熱可塑性接合材層5の温度×時間の積算度合いといった実際の動作環境に基づいて残留応力を検出乃至推定し、この残留応力が所定の閾値以上になった場合に応力緩和制御を実行するので、不要なタイミングで熱可塑性接合材層5を軟化させることが回避できる。
【0025】
また本例の半導体装置1によれば、車両が停車している場合など駆動負荷状態を検出し、駆動負荷が小さい場合に応力緩和制御を実行するので、車両の走行性能に悪影響を与えることが防止される。
【0026】
また本例の半導体装置1によれば、ステップS10の冷却工程において熱可塑性接合材層5が再固化するときの温度プロファイルを実装時のリフロー工程の温度プロファイルと同じ特性とするので、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5の粒子の大きさを初期の実装直後と同じにすることができる。
【0027】
《第2実施形態》
本発明の他の実施の形態に係る半導体装置1について説明する。図5は、図2のV矢視図であって、トランジスタ2又はダイオード3の上から見た熱可塑性接合材層5の透視平面図である。本例の実装基板4と半導体素子2又は3との間は、上述した第1実施形態の熱可塑性接合材層5と、この熱可塑性接合材層5以外の部分に設けられた第2の熱可塑性接合材層5Aとから構成されている。具体的には、図5に示すように、トランジスタ2又はダイオード3の端部を除いた部分、すなわち熱可塑性接合材層5の中央部分に、熱可塑性接合材層5の軟化点T1(又は融点)より高い軟化点T2(又は融点)と電気伝導性とを有する第2の熱可塑性接合材層5が設けられている。
【0028】
そして、図4のステップS5以降の応力緩和制御において、コントローラ6は、少なくとも第2の熱可塑性接合材層5Aの温度が軟化点T2未満の温度となるようにトランジスタ2又はダイオード3に通電制御する。
【0029】
本例の半導体装置1によれば、軟化点(又は融点)が低い電気伝導性を有する熱可塑性接合材層5が軟化もしくは液化しても、第2の熱可塑性接合材層5Aは軟化又は液化しないので、トランジスタ2又はダイオード3などの半導体素子の傾きを防止することができる。その結果、応力緩和制御を実行したことにより電気的な短絡が発生するのを防止することができる。また、軟化や液化したときに熱可塑性接合材層5の厚さがばらつくことも防止できるので、応力集中する部分が生じるのも防止することができる。
【0030】
《第3実施形態》
本発明のさらに他の実施の形態に係る半導体装置1について説明する。図6〜図13は、熱可塑性接合材層5の周囲に、当該熱可塑性接合材層5の溶融材料を堰き止める流出防止手段9,10,11,12を設けた各実施形態を示す斜視図及び断面図である。それぞれについて説明すると、図6及び図7に示す第1例は、トランジスタ2及びダイオード3のそれぞれの周囲を囲むように実装基板4の表面に樹脂製枠体9を設けたものである。
【0031】
また図8及び図9に示す第2例は、トランジスタ2及びダイオード3を含む範囲を樹脂モールドによる樹脂製封止体10で封止したものである。また図10及び図11に示す第3例は、熱可塑性接合材層5の周囲を囲む樹脂製レジスト膜11を設けたものである。また図12及び図13に示す第4例は、熱可塑性接合材層5の周囲に環状凹部12を設けたものである。
【0032】
第1例から第4例のいずれの形態においても、応力緩和制御を実行した際に熱可塑性接合材層5が液化しても、樹脂性枠体9、樹脂製封止体10、樹脂製レジスト膜11又は環状凹部12によって液化材料の流出を堰き止めることができ、再固化した際に半導体装置1の性能を悪化させることが防止できる。
【0033】
上記トランジスタ2及びダイオード3は本発明に係る半導体素子に相当し、上記コントローラ6は本発明に係る制御手段に相当し、上記温度センサは本発明に係る温度検出手段に相当し、上記車両コントローラ8は本発明に係る負荷検出手段に相当し、上記樹脂製枠体9、樹脂製封止体10、樹脂製レジスト膜11、環状凹部12は本発明に係る流出防止手段に相当する。
【符号の説明】
【0034】
1…半導体装置
2…トランジスタ
3…ダイオード
4…実装基板
5…熱可塑性接合材層
5A…第2の熱可塑性接合材層
6…コントローラ
7…温度センサ
8…車両コントローラ
9…樹脂製枠体
10…樹脂製封止体
11…樹脂製レジスト膜
12…環状凹部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装基板と、
前記実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層を介して実装された半導体素子と、
前記半導体素子を通電制御する制御手段と、を備えた半導体装置において、
前記制御手段は、所定条件で前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する半導体装置。
【請求項2】
前記熱可塑性接合材層の温度を直接的又は間接的に検出する温度検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段による検出温度に応じて前記半導体素子への通電を制御する請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記温度検出手段による検出温度が所定閾値以上となる時間又は回数が所定閾値以上に達した場合に前記応力緩和制御を実行する請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置が搭載された車両の駆動負荷状態を検出する負荷検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記負荷検出手段による車両の駆動負荷状態が所定閾値以下の場合に前記応力緩和制御を実行する請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記実装基板と前記半導体素子との間の前記熱可塑性接合材層以外の部分に設けられ、前記熱可塑性接合材層の軟化点T1より高い軟化点T2と電気伝導性とを有する第2の熱可塑性接合材層をさらに備え、
前記制御手段は、少なくとも前記第2の熱可塑性接合材層の温度が前記軟化点T2未満の温度となるように前記応力緩和制御を実行する請求項2〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記熱可塑性接合材層が溶融した場合に、冷却時の温度プロファイルを前記半導体素子の実装時の冷却工程の温度プロファイルと等しく設定する請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記熱可塑性接合材層の周囲に、当該熱可塑性接合材層の溶融材料を堰き止める流出防止手段をさらに備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層を介して半導体素子が実装された半導体装置に対し、
前記熱可塑性接合材層の残留応力を検出するステップと、
前記残留応力が所定閾値以上の場合に、前記半導体素子を通電制御して前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させるステップと、を含む半導体装置の制御方法。
【請求項1】
実装基板と、
前記実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層を介して実装された半導体素子と、
前記半導体素子を通電制御する制御手段と、を備えた半導体装置において、
前記制御手段は、所定条件で前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させる応力緩和制御を実行する半導体装置。
【請求項2】
前記熱可塑性接合材層の温度を直接的又は間接的に検出する温度検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段による検出温度に応じて前記半導体素子への通電を制御する請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記温度検出手段による検出温度が所定閾値以上となる時間又は回数が所定閾値以上に達した場合に前記応力緩和制御を実行する請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置が搭載された車両の駆動負荷状態を検出する負荷検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記負荷検出手段による車両の駆動負荷状態が所定閾値以下の場合に前記応力緩和制御を実行する請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記実装基板と前記半導体素子との間の前記熱可塑性接合材層以外の部分に設けられ、前記熱可塑性接合材層の軟化点T1より高い軟化点T2と電気伝導性とを有する第2の熱可塑性接合材層をさらに備え、
前記制御手段は、少なくとも前記第2の熱可塑性接合材層の温度が前記軟化点T2未満の温度となるように前記応力緩和制御を実行する請求項2〜4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記熱可塑性接合材層が溶融した場合に、冷却時の温度プロファイルを前記半導体素子の実装時の冷却工程の温度プロファイルと等しく設定する請求項1〜5のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記熱可塑性接合材層の周囲に、当該熱可塑性接合材層の溶融材料を堰き止める流出防止手段をさらに備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項8】
実装基板上に、電気伝導性を有する熱可塑性接合材層を介して半導体素子が実装された半導体装置に対し、
前記熱可塑性接合材層の残留応力を検出するステップと、
前記残留応力が所定閾値以上の場合に、前記半導体素子を通電制御して前記熱可塑性接合材層を少なくとも軟化させるステップと、を含む半導体装置の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−84657(P2013−84657A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221801(P2011−221801)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]