説明

半導体装置

【課題】 双方向伝送において伝送電圧の変動の小さい半導体装置を提供する。
【解決手段】 配線領域10bとチップ搭載領域10aを有する配線基板10と、チップ搭載領域10aに搭載され、表面に高速伝送回路に電気的接続された対をなす高速伝送用電極パッド31を有する半導体チップ1と、配線領域10bに設けられ、高速伝送回路に対して信号を伝送する対をなす高速伝送用配線パターン11と、高速伝送用電極パッド31と高速伝送用配線パターン11を電気的接続する高速伝送用ボンディングワイヤ20と、配線基板10に設けられ、高速伝送用配線パターン11と電気的接続された外部接続端子23とを備え、高速伝送用ボンディングワイヤ20に高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpを補償する補償インダクタンスLwを付加し、このLwを付加した箇所より外部接続端子23側の高速伝送用配線パターン11に寄生容量Cpを補償する補償容量Ccを付加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップの電極パッドから配線基板の外部接続端子に至る伝送線路でインピーダンス整合を行う半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、パーソナルコンピュータと周辺機器との伝送においては、数100Mbps帯のUSB(Universal Serial Bus)が使用され、更に高速データ伝送(以下、高速伝送と称す)が要求されている。USB等の高速伝送には、差動信号あるいは小振幅差動信号(Low Voltage Differential Signaling、LVDS)が用いられている。これらの差動信号を伝送するための高速伝送線路には、往路及び復路の1対のからなる平衡伝送線路が用いられ、その高速伝送路の例えば、送信側、受信側にはそれぞれ半導体装置が接続されている。
【0003】
この半導体装置は、一般に高速伝送回路を内蔵した半導体チップを配線基板上に塔載し、半導体チップの電極パッドと配線基板の配線パターンとをボンディングワイヤで接続した構造となっているが、電極パッドの寄生容量により、反射電圧が大きくなり規定の伝送品質を満足させることができなくなる。
【0004】
そこで、寄生容量を補償して規定の伝送品質を満たすようにした半導体装置が報告されている。すなわち、半導体装置内部の半導体チップと配線基板の差動信号の伝送線路において、例えば、半導体チップの電極パッド及びESD(Electrostatic Discharge)保護回路の寄生容量を、半導体チップの電極パッドと配線基板(インターポーザ)の配線とを接続するボンディングワイヤを長くして、ボンディングワイヤの長さに由来するインダクタンスで補償することによって、半導体チップの方向に伝送するTDR(Time Domain Reflectometry、時間領域反射率測定)の反射電圧に見られる大きな落ち込みを軽減することができる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、この非特許文献1の半導体装置では、一方向の差動信号の伝送においては有効であるが、双方向伝送においては好ましくないという問題が発生する。すなわち、半導体チップ方向への伝送の場合には、時間軸に対する反射電圧は、ボンディングワイヤによるインダクタンスの作用により引き上げられて、電極パッドの容量によって大きく落ち込むのを緩和し、規定の伝送品質を維持している。しかし、逆の半導体チップから外部方向の伝送の場合には、時間軸に対する反射電圧は、まず、電極パッドの容量によって大きな落ち込みが発生するために、規定の伝送品質を維持できない。つまり、ボンディングワイヤの長さを調整するだけでは、双方向伝送に適する特性インピーダンスを確保することが難しいという問題を有している。
【非特許文献1】Seungyoung Ahn et al.,”Compensation of ESD Input Capacitance Effect by Using Package Bondwire Inductance for Over Gbps Differential SerDes Devices,” Electrical Performance of Electrical Packaging, Oct.27-29, 2003. pp.159-162, Fig.7-8.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、双方向伝送において伝送電圧の変動の小さい半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の半導体装置は、表面に配線領域とチップ搭載領域を有する配線基板と、前記配線基板のチップ搭載領域に搭載され、且つ高速伝送回路が組み込まれて、表面に前記高速伝送回路に電気的接続された対をなす高速伝送用の電極パッドを有する半導体チップと、前記配線基板の配線領域に設けられ、前記高速伝送回路に対して信号を伝送する対をなす高速伝送用の配線パターンと、前記高速伝送用の電極パッドと前記高速伝送用の配線パターンを電気的接続する高速伝送用の接続手段と、前記配線基板に設けられ、前記高速伝送用の配線パターンと電気的接続された外部接続端子とを備え、前記高速伝送用の配線パターンまたは前記高速伝送用の接続手段に前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量を補償するための補償インダクタンスを付加し、前記補償インダクタンスを付加した箇所より前記外部接続端子側の前記高速伝送用の配線パターンに前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量を補償するための補償容量を付加したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の別の態様の半導体装置は、表面に配線領域とチップ搭載領域を有する配線基板と、前記配線基板のチップ搭載領域に搭載され、且つ高速伝送回路及び低速伝送回路が組み込まれて、表面に前記高速伝送回路及び前記低速伝送回路にそれぞれ電気的接続された対をなす高速伝送用及び低速伝送用の電極パッドを有する半導体チップと、前記配線基板の配線領域に設けられ、前記高速伝送回路に対して信号を伝送する対をなす高速伝送用の配線パターンと、前記配線基板の配線領域に設けられ、前記低速伝送回路に対して信号を伝送する低速伝送用の配線パターンと、前記高速伝送用の電極パッドと前記高速伝送用の配線パターンを電気的接続する高速伝送用の接続手段と、前記低速伝送用の電極パッドと前記低速伝送用の配線パターンを電気的接続する低速伝送用の接続手段と、前記配線基板に設けられ、前記高速伝送用及び低速伝送用の配線パターンと電気的接続された外部接続端子とを備え、前記低速伝送用の接続手段の前記配線基板表面からの高さに比べて、前記高速伝送用の接続手段の前記配線基板表面からの高さを高くして前記高速伝送用の接続手段全長を長くすることにより前記高速伝送用の接続手段に補償インダクタンスを付加し、前記高速伝送用の配線パターンの一部を張出して設けた張出し部により前記高速伝送用の配線パターンに補償容量を付加したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、双方向伝送において伝送電圧の変動の小さい半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら説明する。以下に示す図では、同一の構成要素には同一の符号を付す。
【実施例】
【0011】
本発明の実施例に係る半導体装置について、図1乃至図3を参照しながら説明する。図1は、半導体装置の要部を模式的に示すもので、図1(a)は封止樹脂を除去した平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図、図2は対をなした伝送線路を模式的に示す斜視図である。図3は図2の伝送線路の等価回路図である。
【0012】
図1に示すように、本実施例の半導体装置1は、配線基板10と、配線基板10表面に設けられた高速伝送用配線パターン11、及び低速伝送用配線パターン12と、配線基板10表面に設けられた半導体チップ30と、半導体チップ30と高速伝送用配線パターン11とを電気的接続する高速伝送用接続手段であるボンディングワイヤ20と、半導体チップ30と低速伝送用配線パターン12とを電気的接続する低速伝送用接続手段であるボンディングワイヤ21と、配線基板10裏面に設けられた外部接続端子23と、半導体チップ30、高速伝送用及び低速伝送用配線パターン11、12、高速伝送用及び低速伝送用ボンディングワイヤ20、21を覆う封止樹脂40を有している。
【0013】
配線基板10は、パッケージ基板あるいはインターポーザとも称され、ここでは、例えば、エポキシ樹脂系の単層配線基板からなるが、フレキシブルなテープ配線基板、セラミクス配線基板、あるいは多様な材料からなる多層配線基板等であって差し支えない。この配線基板10の表面には、半導体チップ30が搭載されるチップ搭載領域10aと高速伝送用及び低速伝送用の配線パターン11、12が設けられる配線領域10bとを有する。
【0014】
この配線領域10bには、半導体チップに組み込まれた高速伝送回路に対して入出力信号を双方向伝送するための複数の対をなした高速伝送用配線パターン11と低速伝送回路に対して入出力信号を伝送するための複数の低速伝送用配線パターン12とが設けられている。
【0015】
この低速伝送用配線パターン12は、一端部にボンディングパッド13を有し、他端部にランド14を有し、ボンディングパッド13とランド14間に直線状部分15を有する構造に形成され、一端部のボンディングパッド13がチップ搭載領域10aに近接して配置され、他端部のランド14が配線基板10の周縁部に配置されている。また、低速伝送用配線パターン12のランド14は、配線基板10を貫通する金属あるいは導電性部材からなるビアプラグ16を介して配線基板10の裏面に設けられたランド17上の半田ボール等の外部接続端子23に電気的に接続されている。低速伝送用配線パターン12は、直線状部分15の長さが異なる2種類が図示されている。
【0016】
一方、各対の高速伝送用配線パターン11は、低速伝送用配線パターン12と同様に、一端部にボンディングパッド13を有し、他端部にランド14を有し、両端部間が直線状部分15を有する構造に形成されているが、更に、ボンディングパッド13に近接して直線状部分15に、後述する半導体チップ30の高速伝送用電極パッド31の寄生容量の影響を考慮してインピーダンス整合をとるための補償容量Ccを形成するための張出し部50が形成されている。この高速伝送用配線パターン11は、低速伝送用配線パターン12と同様に、その一端部のボンディングパッド13がチップ搭載領域10aに近接して配置され、他端部のランド14が配線基板10の周縁部に配置されている。また、高速伝送用配線パターン11のランド14は、低速伝送用配線パターン12と同様に、配線基板10を貫通するビアプラグ16を介して配線基板10の裏面に設けられた外部接続端子23に電気的に接続されている。高速伝送用配線パターン11は、直線状部分15の長さが異なる2種類が図示されている。
【0017】
上記高速伝送用及び低速伝送用配線パターン11、12は、例えば、エポキシ樹脂基材の表面に貼着されたCu箔をパターンニングして形成されている。
【0018】
また、対をなす2本の高速伝送用配線パターン11は、互いに近接して平行に配置され、且つ面対称に設けられている。一方の高速伝送用配線パターン11が信号の往路となり、他方の高速伝送用配線パターン11が信号の復路となる。また、この高速伝送用配線パターン11に接続された対をなす2本のビアプラグ16も、同様に、互いに近接して、平行に配置されている。
【0019】
なお、本実施例は、配線基板10の表面に配線パターン11、12、裏面に外部接続端子23が形成された構造であるが、配線パターン11、12と外部接続端子23を、配線基板10の同一面、例えば表面に形成した構造としても差し支えない。その場合、ビアプラグ16等は不要となる。
【0020】
一方、低速伝送用配線パターン12は、半導体チップ30の低速伝送用電極パッド32の寄生容量を考慮したインピーダンス整合が厳密に取れていなくても、実質的な伝送特性が確保される低速伝送等に用いられる配線である。この低速伝送用配線パターン12は、低速伝送用電極パッド32の寄生容量の影響が及ぶボンディングパッド13に近い部分では、インピーダンス整合が必ずしも取れていないが、離れた部分、例えばランド14等では、実装基板(図示略)のインピーダンスに実質的に等しい特性インピーダンスを有している。
【0021】
また、半導体チップ30は、高速伝送を必要とする高速差動伝送回路と、高速伝送を必要としない低速伝送回路とが内部に組み込まれている。その表面周辺部には高速差動伝送回路に電気的に接続された対をなす複数の高速伝送用電極パッド31と低速伝送回路に電気的に接続された複数の低速伝送用電極パッド32が表面周辺部に互いに隣接して配置されている。この半導体チップ30は、配線基板10のチップ搭載領域10aに、例えば、エポキシ樹脂系のマウント剤33により固着されている。
【0022】
高速伝送用電極パッド31は、例えば、Auからなる高速伝送用ボンディングワイヤ20を介して高速伝送用配線パターン11のボンディングパッド13に接続されている。高速伝送用電極パッド31に付した、例えば、符号31a及び31bは、対をなしていることを示す。また、低速伝送用電極パッド32は、例えば、Auからなる低速伝送用ボンディングワイヤ21を介して低速伝送用配線パターン12のボンディングパッド13に接続されている。
【0023】
そして、この高速伝送用ボンディングワイヤ20は、低速伝送用ボンディングワイヤ21に比較してループ高を高くすることによりループ長を長くし、高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpを補償するための補償インダクタンスLwを生成している。ここでは、高速伝送用ボンディングワイヤ20は、低速伝送用ボンディングワイヤ21に比較して、約40%だけワイヤ長が長く設けられることにより、補償インダクタンスLwを生成している。
【0024】
図2は、半導体チップ30の高速差動伝送回路に対する信号を伝送するための第1及び第2の伝送線路6、7を模式的に示す斜視図である。ここで、第1及び第2の伝送線路6、7とは、高速伝送用電極パッド31から外部接続端子23までの範囲の信号伝送路をいう。この第1及び第2の伝送線路6、7には、図示の如く、高速伝送用電極パッド31の集中寄生容量Cp、この集中寄生容量Cpを補償するための高速伝送用ボンディングワイヤ20による補償インダクタンスLw及び高速伝送用配線パターン11の張出し部50による補償容量Ccが、高速伝送用電極パッド31から外部接続端子23の方向に、それぞれ存在している。
【0025】
また、本実施例において、この第1及び第2の伝送線路6、7の線路長は、遷移の等価長の1/4である17.7mmを越えない範囲にそれぞれ設定されている。
【0026】
ここで、遷移の等価長とは、信号が遷移する時間に走行する距離(遷移時間と伝播速度の積)のことであり、この等価長の1/4以下の長さであれば、信号伝送線路上の集中負荷と見なしてよいことが知られている。例えば、USB仕様の信号伝送では、信号の遷移時間(立ち上がり時間)500ps、エポキシ樹脂系の配線基板10の比誘電率4.5として、遷移の等価長は70.7mmとなる。従って、その1/4である17.7mm以下であれば、集中負荷と見なすことができ、この範囲内の容量あるいはインダクタンス等は互いに電気的な影響を及ぼし合う。なお、この伝送線路6、7の長さは、厳密に遷移の等価長の1/4以下でなくても、1/4に近い長さであれば、集中負荷に準じた扱いができることが知られている。
【0027】
図3は、第1及び第2の伝送線路6、7の等価回路である。図3に示すように、半導体チップ30における、例えば、CMOSロジック回路等の入出力回路60で生成されたLVDS信号は、高速伝送用電極パッド31、補償インダクタンスLwを有する高速伝送用ボンディングワイヤ20(図2参照)、及び、高速伝送用配線パターン11のインピーダンスZ0の部分を経由し、外部接続端子23から出力される。従って、補償インダクタンスLwは、インピーダンス整合条件からLw=(Cp+Cc)・Z0であるように設定されている。なお、インピーダンスZ0は、例えば、高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpの影響が及ばない伝送線路、すなわち、遷移の等価長よりずっと離れた伝送線路のインピーダンスであり、半導体装置1が実装される実装基板(図示略)のインピーダンスと実質的に同等な値である。
【0028】
そして、半導体チップ30は、高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpを除いた入出力インピーダンスZ1、及び、高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpを有している。入出力インピーダンスZ1は、高速伝送用配線パターン11のインピーダンスZ0(例えば、Z0=50Ω)に等しい。高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cp(例えば、Cp=1pF)及び高速伝送用配線パターン11の張出し部50による補償容量Cc(例えば、Cc=Cp=1pF)が、補償インダクタンスLw(例えば、Lw=5nH)の高速伝送用ボンディングワイヤ20の両端にそれぞれ接続し、それぞれの他端は接地されている。
【0029】
補償インダクタンスLwを挟んで、両側に高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpと張出し部50の補償容量Ccがそれぞれ接続されたインピーダンス整合回路9は、対称的な構成となっている。すなわち、入出力回路60側からみたインピーダンス整合回路9と、外部接続端子23側から見たインピーダンス整合回路9は、信号伝送路として実質的に等価である。
【0030】
上述したように、インピーダンス整合回路9を備えた半導体装置1は、次のような構成にまとめられる。つまり、高速伝送用電極パッド31の寄生容量Cpを、例えば、1pF、張出し部50の補償容量Ccを、例えば、1pF、及び、高速伝送用配線パターン11の特性インピーダンスZ0を例えば、50Ωとして、補償用インダクタンスLwを(Cp+Cc)・Z0、例えば、5nH乃至は5nHに近い値に設定してある。また、高速伝送用電極パッド31から張出し部50までの長さは、信号が遷移する時間に走行する距離、例えば、70.7mmよりも十分短く、例えば、17.7mm以下にしてある。
【0031】
次に、本実施例の伝送特性について説明する。伝送特性の測定は、半導体チップの電極パッド寄生容量(1pF)及び終端抵抗(50Ω)を電気的に模擬する周知の方法で行った。以下の伝送特性についての説明では、図1に示される構成要素及び符号を参照して行う。測定には、上記の図1に示される容量補償された高速伝送用配線パターン11を有する配線基板10を用い、その配線基板10には、本来の半導体チップ30に代えて、半導体チップ30の高速伝送用電極パッド31に相当する位置に、半導体チップ30の寄生容量及び終端抵抗に相当するチップキャパシタ及びチップ抵抗をそれぞれ配置し、インダクタンス補償された高速伝送用ボンディングワイヤ20により高速伝送用配線パターン11と接続した。
【0032】
この構成の伝送線路の特性測定には、TDR法を用い、USBを想定した入力電圧400mV、立ち上がり時間500psの信号を使用し、半導体チップ30の高速伝送用電極パッド31相当位置側から入力させた場合と、逆の外部接続端子23側から入力させた場合の2通りについて測定した。ここで、TDRは、測定対象となる伝送線路に矩形パルスを印加して、反射波が返って来るまでの時間と、反射波の大きさを測定する方法である。
【0033】
測定結果は、高速伝送用電極パッド31相当位置側から入力させた場合、時間軸に沿った電圧波形は、基準値の直線に比較して、わずかに下がって、上がって、下がる変動を示し、電圧波形の電圧変動値は±5mV以内に抑えられていることが分かった。また、入力信号の方向を逆にして、外部接続端子23側から入力させた場合、時間軸に沿った電圧波形及び電圧変動値は、高速伝送用電極パッド31相当位置側から入力させた場合とほとんど同様の波形及び電圧変動値となった。
【0034】
なお、半導体チップの寄生容量(例えば、1〜2pF)を補償しないと、上述のUSB使用条件で、20〜40mVの反射が起こり、伝送信号に影響が出ることが分かっており、本実施例を模した系の電圧変動値が±5mV以内であるということは、伝送特性にほとんど影響ないレベルであることを意味する。
【0035】
すなわち、本実施例のインピーダンス整合回路9を有する半導体装置1は、電極パッド寄生容量Cpに対して、補償インダクタンスLwを挟んで補償容量Ccをほぼ対称、且つ信号が遷移する時間に走行する距離よりも十分短く配置したために、反射波形の乱れを波形の遷移中に起こさせることができ、入力波形の遷移と反射が重なり、波形の乱れを抑制することができた。その結果、双方向の信号入力に対して、時間軸に沿った電圧波形がほとんど等しく、且つ電圧変動値が小さくなる伝送特性を有する。従って、この高速伝送用ボンディングワイヤ20及び高速伝送用配線パターン11を使用した半導体装置1は、USB等を使用する双方向のLVDS信号伝送において、伝送品質を維持することが可能である。
【0036】
本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々、変形して実施することができる。
【0037】
例えば、実施例では、ボンディングワイヤの長さを長くして、インピーダンスを整合させる例を示したが、ボンディングワイヤの径を変化させて、インピーダンスを整合させることが可能である。更に、ボンディングワイヤの長さと径とを組み合わせてインピーダンスを整合させることは差し支えない。
【0038】
また、ボンディングワイヤの長さに代えて、配線パターンの長さ、または、太さを変化させてインピーダンスを整合させても差し支えない。そして、配線パターン及びボンディングワイヤの長さと太さを組み合わせて、インピーダンスを整合させることは差し支えない。ただし、これらの場合、張出し部は、配線パターンの長さ、または、太さを変化させた補償用インダクタンスより外部接続端子側に配置する必要がある。
【0039】
また、ボンディングワイヤの長さを長くするために、配線基板に対して垂直な方向に伸ばす例を示したが、配線基板に平行な面内で伸ばすことは差し支えないし、垂直方向と面内方向を組み合わせて、ボンディングワイヤの長さを長くすることは可能である。
【0040】
また、接続手段として、ボンディングワイヤを使用する例を示したが、例えば、TAB(Tape Automated Bonding)基板におけるインナーリード等の他の接続手段を採用することは差し支えない。インダクタンス補償を配線パターンの長さあるいは太さで行う場合であれば、接続手段はフリップチップ用バンプ等を選択することが可能である。
【0041】
また、張出し部は、ボンディングパッドに接触して配置される例を示したが、半導体チップの電極パッドからの距離が遷移の等価長の1/4以下であって、補償用インダクタンスを付加した箇所より外部接続端子側であれば、配線パターンのどの位置に接続しても差し支えない。対になった配線パターンでは、張出し部は互いに対応する位置に配設されることが好ましい。
【0042】
また、電極パッド寄生容量Cpに対して、補償容量をCcとして、Cc=Cp=1pFの例を示したが、要求される伝送信号の品質の許容範囲内であれば、Cc=Cpは近似的に成立することで差し支えない。
【0043】
また、補償インダクタンスは計算通り5nH乃至はこれに近い値である例を示した。しかしながら、伝送信号の速度によっては、5nHに対して、例えば±25%程度の変化であっても、伝送信号の品質には影響が出ない場合がある。すなわち、補償用インダクタンスは、伝送される信号波形が要求される品質を維持可能な範囲にある値であれば差し支えない。
【0044】
また、実施例では、高速伝送用配線パターンと低速伝送用配線パターンを使い分けるため、これらの配線パターンの形状及びボンディングワイヤの長さは異なっていたが、高速伝送が可能な、補償容量を付加した形状の配線パターン及び補償インダクタンスを付加した長さのボンディングワイヤに統一することは可能である。
【0045】
また、実施例では、高速伝送が必要な回路と低速伝送で十分な回路の両方を有する半導体装置の例を示したが、高速伝送が必要な回路のみで構成される半導体装置であっても差し支えない。その場合、半導体装置には、低速伝送用配線パターンは不要である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例に係る半導体装置の要部を模式的に示すもので、図1(a)は封止樹脂を除去した部分的な平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線に沿った断面図。
【図2】本発明の実施例に係る半導体装置の伝送線路を模式的に示す斜視図。
【図3】本発明の実施例に係る半導体装置の図2に相当する伝送線路の等価回路図。
【符号の説明】
【0047】
1 半導体装置
6 第1の伝送線路
7 第2の伝送線路
9 インピーダンス整合回路
10 配線基板
10a チップ塔載領域
10b 配線領域
11 高速伝送用配線パターン
12 低速伝送用配線パターン
13 ボンディングパッド
14、17 ランド
15 直線部分
16 ビアプラグ
20 高速伝送用ボンディングワイヤ
21 低速伝送用ボンディングワイヤ
23 外部接続端子
30 半導体チップ
31、31a、31b 高速伝送用電極パッド
32 低速伝送用電極パッド
33 マウント剤
40 封止樹脂
50 張出し部
60 入出力回路
Cc 補償容量
Cp 寄生容量
Lw 補償インダクタンス
Z0 インピーダンス
Z1 入出力インピーダンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に配線領域とチップ搭載領域を有する配線基板と、
前記配線基板のチップ搭載領域に搭載され、且つ高速伝送回路が組み込まれて、表面に前記高速伝送回路に電気的接続された対をなす高速伝送用の電極パッドを有する半導体チップと、
前記配線基板の配線領域に設けられ、前記高速伝送回路に対して信号を伝送する対をなす高速伝送用の配線パターンと、
前記高速伝送用の電極パッドと前記高速伝送用の配線パターンを電気的接続する高速伝送用の接続手段と、
前記配線基板に設けられ、前記高速伝送用の配線パターンと電気的接続された外部接続端子と、
を備え、
前記高速伝送用の配線パターンまたは前記高速伝送用の接続手段に前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量を補償するための補償インダクタンスを付加し、前記補償インダクタンスを付加した箇所より前記外部接続端子側の前記高速伝送用の配線パターンに前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量を補償するための補償容量を付加したことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
表面に配線領域とチップ搭載領域を有する配線基板と、
前記配線基板のチップ搭載領域に搭載され、且つ高速伝送回路及び低速伝送回路が組み込まれて、表面に前記高速伝送回路及び前記低速伝送回路にそれぞれ電気的接続された対をなす高速伝送用及び低速伝送用の電極パッドを有する半導体チップと、
前記配線基板の配線領域に設けられ、前記高速伝送回路に対して信号を伝送する対をなす高速伝送用の配線パターンと、
前記配線基板の配線領域に設けられ、前記低速伝送回路に対して信号を伝送する低速伝送用の配線パターンと、
前記高速伝送用の電極パッドと前記高速伝送用の配線パターンを電気的接続する高速伝送用の接続手段と、
前記低速伝送用の電極パッドと前記低速伝送用の配線パターンを電気的接続する低速伝送用の接続手段と、
前記配線基板に設けられ、前記高速伝送用及び低速伝送用の配線パターンと電気的接続された外部接続端子と、
を備え、
前記低速伝送用の接続手段の前記配線基板表面からの高さに比べて、前記高速伝送用の接続手段の前記配線基板表面からの高さを高くして前記高速伝送用の接続手段全長を長くすることにより前記高速伝送用の接続手段に補償インダクタンスを付加し、前記高速伝送用の配線パターンの一部を張出して設けた張出し部により前記高速伝送用の配線パターンに補償容量を付加したことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
前記補償容量は、前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量に実質的に等しい容量値を有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記高速伝送用の電極パッドの寄生容量をCp、前記補償容量をCc、及び、信号伝送線路の特性インピーダンスをZ0とすると、前記補償インダクタンスは、(Cp+Cc)・Z0の値に近似し、且つ前記高速伝送用の電極パッドから前記補償容量までの距離は、信号の遷移の等価長よりも短いことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記高速伝送用の電極パッドから前記補償容量までの距離は、信号の遷移の等価長の1/4以下であることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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