説明

半有機絶縁被膜付き電磁鋼板

【課題】クロム化合物の含有なしでも耐食性および耐水性の劣化がなく、また耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性および打抜性に優れ、しかも被膜の白濁化がなく被膜外観にも優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を提供する。
【解決手段】無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜において、該無機成分としてZr化合物、B化合物およびSi化合物をそれぞれ、全無機成分における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):10〜80質量%、B化合物(B23換算):1〜20質量%、Si化合物(SiO2換算):19〜70質量%含有させ、さらに該無機成分と該有機樹脂との接触抑制剤としてアクリル酸イタコン酸共重合体、コハク酸およびクエン酸のうちから選んだ少なくとも一種の有機酸を、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して5〜20質量部の割合で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム化合物の含有なしでも耐食性および耐水性の劣化がなく、また耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性および打抜性に優れ、しかも被膜の白濁化がなく被膜外観に優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜には、層間抵抗だけでなく、加工成形時の利便性および保管、使用時の安定性など種々の特性が要求される。電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化するので、これを解消するために750〜850℃程度の温度で歪取り焼純を行う場合が多い。従って、この場合には、絶縁被膜が歪取り焼鈍に耐え得るものでなければならない。
【0003】
絶縁被膜は、大別して
(1) 溶接性、耐熱性を重視し、歪取り焼鈍に耐える無機被膜、
(2) 打抜性、溶接性の両立を目指し歪取り焼鈍に耐える樹脂含有の無機被膜(すなわち、半有機被膜)、
(3) 特殊用途で歪取り焼鈍不可の有機被膜
の3種に分類されるが、汎用品として歪取り焼鈍に耐えるのは、上記(1), (2)に示した無機成分を含む被膜であり、両者ともクロム化合物を含むものであった。
【0004】
特に、(2)のタイプのクロム酸塩系絶縁被膜は、1コート1ベークの製造で無機系絶縁被膜に比較して打抜性を格段に向上させることができるので広く利用されている。
例えば、特許文献1には、少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に、該水溶液中のCrO3:100重量部に対し有機樹脂として酢酸ビニル/ベオバ比が90/10〜40/60の割合になる樹脂エマルジョンを樹脂固形分で5〜120重量部および有機還元剤を10〜60重量部の割合で配合した処理液を、基地鉄板の表面に塗布し、常法による焼付けを施して得た電気絶縁被膜を有する電磁鋼板が記載されている。
【0005】
しかし、昨今、環境意識が高まり、電磁鋼板の分野においてもクロム化合物を含まない絶縁被膜を有する製品が需要家等からも望まれている。
【0006】
そこで、クロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板が開発され、例えば、クロムを含まず打抜性が良好な絶縁被膜として樹脂およびコロイダルシリカ(アルミナ含有シリカ)を成分としたものが特許文献2に記載されている。また、コロイド状シリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上よりなり、水溶性またはエマルジョン樹脂を含有する絶縁被膜が特許文献3に記載され、クロムを含まないリン酸塩を主体とし、樹脂を含有した絶縁被膜が特許文献4に記載されている。
【0007】
しかし、これらのクロム化合物を含まない絶縁被膜付き電磁鋼板は、クロム化合物を含む場合と比べ、無機物同士の結合が比較的弱く、耐食性が劣化するという問題があった。また、スリット加工においてフェルトで鋼板表面を擦ってバックテンションをかけた場合(テンションパッドの使用)、粉吹き発生の問題があった。さらに、歪取り焼鈍後に被膜が弱くなり、キズが発生しやすいという問題があった。
【0008】
例えば、特許文献3に記載された方法でコロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルの1種または2種以上を単純に使用しても上記課題は解決できず、それぞれの成分を複合して用い、特定量混合した場合についても十分検討されていなかった。また、特許文献4に記載されているようなリン酸塩被膜でクロムを含まない組成の場合にはベタツキが発生し、耐水性が劣化する傾向があった。
これらの問題は、300℃以下の比較的低温で焼き付けた場合に発生しやすい問題であり、200℃以下の場合には、その発生が顕著であった。一方で、焼付け温度は消費エネルギーおよび製造コストの低減等の観点から、できるだけ低くすべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭60−36476号公報
【特許文献2】特開平10−130858号公報
【特許文献3】特開平10−46350号公報
【特許文献4】特許第2944849号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、半有機被膜中の無機成分として、Zr化合物とB化合物とSi化合物を複合含有させることにより、上記の問題が有利に解決されることを見出した。
しかしながら、上記のような無機成分を用いた場合には、被膜形成後に被膜が白濁化する現象が生じた。さらに、歪取り焼鈍後には被膜の色が茶系の色調を帯び、甚だしい場合にはヒビ割れが生じることもあった。
【0011】
そこで、次に、発明者ら、上記した白濁化の原因について検討を加えた結果、Zr化合物とB化合物を含む無機成分とアクリル樹脂等の有機樹脂が接触すると、有機樹脂の親水性サイトが疎水化されて、無機と樹脂の複合化粒子が析出し、これが白濁化の原因であることを突き止めた。
【0012】
そこで、さらに発明者らは、かかる白濁化を防止すべく種々検討を重ねた結果、アクリル酸イタコン酸共重合体やコハク酸、クエン酸などの有機酸を添加すると、かかる有機酸が無機成分と有機樹脂の接触抑制剤として作用し、その結果、懸念された被膜の白濁化が解消されて、透明化することを見出した。また、この透明被膜は、歪取り焼鈍後には均一な灰色となり、ヒビ割れなどの発生もないことが知見された。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分としてZr化合物、B化合物およびSi化合物をそれぞれ、全無機成分における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):10〜80質量%、B化合物(B23換算):1〜20質量%、Si化合物(SiO2換算):19〜70質量%含有し、
該無機成分と該有機樹脂の割合が、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して有機樹脂:10〜100質量部であり、
さらに、該無機成分と該有機樹脂との接触抑制剤としてアクリル酸イタコン酸共重合体、コハク酸およびクエン酸のうちから選んだ少なくとも一種の有機酸を、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して5〜20質量部の割合で含有することを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【0014】
2.前記無機成分として、さらにリン化合物(PO4換算)を、全無機成分における比率で35質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐粉吹き性、耐キズ性、スティッキング性および打抜性等の諸特性に優れるのはいうまでもなく、クロム化合物を含有していなくても耐水性や耐食性の劣化がなく、しかも被膜の白濁化がなく被膜外観にも優れる半有機絶縁被膜付き電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来法で製造した半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の被膜外観を示す写真(SEM写真)である。
【図2】本発明に従う半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の被膜外観を示す写真(SEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、半有機被膜の無機成分として、Zr化合物、B化合物およびSi化合物を、前記の成分範囲に限定した理由について説明する。
なお、これらの成分の質量%は、全無機成分における比率である。
【0018】
Zr化合物:ZrO2換算で10〜80質量%
本発明において、Zr化合物としては、例えば、酢酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、リン酸ナトリウムジルコニウム、六フッ化ジルコニウムカリウム、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシステアレート等が挙げられる。これらは、単独添加は勿論のこと、2種以上複合して用いることもできる。
【0019】
かようなZr化合物は、酸素との結合力が強く、Fe表面の酸化物、水酸化物などと強固に結合することができる。また、Zr化合物は3つ以上の結合手を持つため、Zr同士、もしくは他の無機化合物とネットワークを形成することでクロムを使用することなく強靭な被膜を形成することができる。しかしながら、無機成分の全固形分質量に対する含有量が、ZrO2換算で10質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方80質量%を超えると耐食性および耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性も劣化するので、Zr化合物はZrO2換算で10〜80質量%の範囲に限定した。
【0020】
B化合物:B23換算で1〜20質量%
本発明において、B化合物としては、ホウ酸、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、これらを単独または複合して使用することができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、例えば、水に溶けてホウ酸イオンを生じさせるような化合物でもよく、またホウ酸イオンは直線型や環状に重合していてもよい。
【0021】
かようなB化合物は、Zr化合物を単独で添加した場合の問題の解決に有利に寄与する。すなわち、Zr化合物を単独で添加した場合には耐食性や耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性が著しく劣化する傾向が見られた。この理由は、Zr化合物単独では、焼付けた際の体積収縮が大きいために被膜割れが生じやすく、部分的に素地が露出する箇所が発生するためと考えられる。
これに対し、B化合物をZr化合物に適量配合することにより、Zr単独の場合に発生していた被膜割れが効果的に緩和され、耐粉吹き性を著しく改善することができる。
ここに、無機成分の全固形分に対するB化合物の含有量がB23換算で1質量%に満たないとその添加効果に乏しく、一方20質量%を超えると未反応物が被膜中に残存して、歪取り焼鈍後に被膜同士が融着する不具合(スティック)が発生するので、B化合物はB23換算で1〜20質量%の範囲に限定した。
【0022】
Si化合物:SiO2換算で19〜70質量%
Si化合物としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、アルコキシシランおよびシロキサン等が挙げられる。
このSi化合物は、B化合物と同様、Zr化合物を単独で添加した場合の問題の解決に有用である。すなわち、Zr化合物を単独で用いた場合には耐食性や耐粉吹き性が劣化し、歪取り焼鈍板での耐キズ性も著しく劣化する傾向が見られたが、Si化合物を適量配合することによって、耐粉吹き性を大幅に改善することができる。
ここに、Si化合物の含有量が、無機成分の全固形分に対するSiO2換算値で19質量%に満たないと十分な耐食性が得られず、一方70質量%を超えると耐粉吹き性が劣化し、また歪取り焼鈍板での耐キズ性も劣化するのでSi化合物は19〜70質量%の範囲に限定した。
【0023】
また、本発明では、上記した3成分の他、さらにリン化合物を含有させることもできる。
リン化合物:PO4換算で35質量%以下
本発明におけるリン化合物は、種々のリン酸およびリン酸塩を含むものである。ここに、リン酸としては、例えばオルトリン酸、無水リン酸、直鎖状ポリリン酸、環状メタリン酸が、またリン酸塩としては、リン酸Mg、リン酸Al、リン酸Ca、リン酸Zn等が好適である。
かようなリン化合物は、耐食性および耐キズ性の改善に有効に寄与するが、無機成分の全固形分に対するPO4換算値で35質量%を超えると、未反応物が被膜中に残存して耐水性を低下させるので、リン化合物はPO4換算で35質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
なお、本発明では、無機成分中に、不純物としてHfやHfO2、TiO2、Fe23などが混入することがあるが、これらの不純物の総量が全無機成分中1質量%以下であれば、特に問題は生じない。
【0025】
本発明では、上記したような無機成分:100質量部に対し、固形分換算で、有機樹脂を10〜100質量部の割合で配合する。
本発明において、有機樹脂としては特に制限はなく、従来から使用されている公知のものいずれもが有利に適合する。例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフイン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の水性樹脂(エマルジョン、ディスパーション、水溶性)が挙げられる。特に好ましくはアクリル樹脂やエチレンアクリル酸樹脂のエマルジョンである。
【0026】
かかる有機樹脂は、耐食性、耐キズ性および打抜性の改善に有効に寄与するが、無機成分:100質量部に対する割合配合が10質量部に満たないとその添加効果に乏しく、一方100質量部を超えると歪取り焼鈍後の耐キズ性が劣化するので、有機樹脂の割合配合は10〜100質量部の範囲に限定した。
【0027】
なお、固形分換算とは、鋼板の表面に形成した被膜を乾燥させた後の各成分の割合であり、有機樹脂の固形分換算値は、有機樹脂液の200℃,10分における乾燥後残存率から求めることができる。
【0028】
また、本発明では、上記した無機成分および有機樹脂に加え、アクリル酸イタコン酸共重合体やコハク酸、クエン酸のうちから選んだ少なくとも一種の有機酸を含有させることが重要である。これらの有機酸は、無機成分と有機樹脂との接触抑制剤として作用し、これにより被膜の白濁化を防止することができる。
ここに、かかる有機酸の配合割合は、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して5〜20質量部の範囲とする必要がある。
というのは、かかる有機酸の割合配合が5質量部に満たないと、被膜の白濁化を完全に防止することが難しく、一方20質量部を超えると耐水性が劣化するからである。
また、かかる有機酸は、アンモニアで中和されていることが好ましい。というのは、処理液中で安定となり、無機成分と有機成分との接触抑制剤として有効に作用することが可能となるためである。
【0029】
実験1
乾燥後の絶縁被膜の成分が、無機成分:100質量部に対して、固形分換算で有機樹脂(エポキシ樹脂:荒川化学工業(株)商品名モデピクス302):10質量部で、無機成分がそれぞれ、全無機成分における比率で、炭酸ジルコニウムカリウム(日本軽金属(株)商品名ジルメル100):ZrO2換算で30質量%、ホウ酸(関東化学(株)一般試薬):B23換算で10質量%、シリカ(日産化学工業(株)商品名スノーテックスN):SiO2換算で60質量%含有する割合になるように、Zr化合物、B化合物、Si化合物および有機樹脂を脱イオン水に添加し、処理液とした。このとき、脱イオン水に対する添加濃度は50g/lとした。
この処理液を、板厚:0.5mmの電磁鋼板から幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出した試験片の表面にロールコーターで塗布し、熱風焼付け炉にて到達鋼板温度:260℃の条件で焼付けした後、常温に放冷して、半有機絶縁被膜を形成した。
かくして得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の被膜外観について調査した結果、図1に示すように、被膜が白濁化しており、また割れの発生が見られた。
【0030】
実験2
次に、無機成分および有機樹脂の種類および配合割合は、実験1と同じながら、さらにアンモニアで中和したアクリル酸イタコン酸共重合体を、無機成分:100質量部に対して、固形分換算で10質量部配合した処理液を準備した。そして、この処理液を、実験1と同様に電磁鋼板の表面に塗布し、焼き付けて得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の被膜外観について調査した。
その結果、図2に示すように、被膜の白濁化は全く見られず、透明で割れのない被膜を得ることができた。
【0031】
さらに、本発明では、上記した成分の他、通常用いられる添加剤や、その他の無機化合物や有機化合物の含有を妨げるものではない。
ここに、添加剤は、絶縁被膜の性能や均一性を一層向上させるために添加されるもので、界面活性剤や防錆剤、シランカップリング剤、潤滑剤、酸化防止剤等が挙げられる。なお、かかる添加剤の配合量は、十分な被膜特性を維持する観点から、絶縁被膜の全固形分質量に対して10質量%程度以下とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、素材である電磁鋼板としては、特に制限はなく、従来から公知のものいずれもが適合する。
すなわち、磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)やSPCC等の一般冷延鋼板、また比抵抗を上げるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板などいずれもが有利に適合する。
【0033】
次に、絶縁被膜の形成方法について説明する。
本発明では、素材である電磁鋼板の前処理については特に規定しない。すなわち、未処理でもよいが、アルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理を施すことは有利である。
そして、この電磁鋼板の表面に、Zr化合物、B化合物およびSi化合物、さらにはリン化合物や、必要に応じて添加剤等を、有機樹脂および有機酸と共に所定の割合で配合した処理液を塗布し、焼き付けることにより絶縁被膜を形成させる。絶縁被膜用処理液の塗布方法は、一般工業的に用いられるロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター等種々の方法が適用可能である。また、焼き付け方法についても、通常実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等が可能である。焼付け温度も通常レベルであればよく、到達鋼板温度で150〜350℃程度であればよい。
【0034】
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、歪取り焼鈍を施して、例えば、打抜き加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取り焼鈍雰囲気としては、N2雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点を高く、例えばDp:5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。また、好ましい歪取り焼鈍温度としては700〜900℃、より好ましくは750〜850℃である。歪取り焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましいが、2時間以上がより好ましい。
【0035】
絶縁被膜の付着量は特に限定しないが、片面当たり0.05〜5g/m2程度とすることが好ましい。付着量、すなわち本発明の絶縁被膜の全固形分質量は、アルカリ剥離による被膜除去後の重量減少から測定することができる。また、付着量が少ない場合には蛍光X線とアルカリ剥離法との検量線から測定することができる。付着量が0.05g/m2未満では耐食性ばかりか絶縁性が不足するし、付着量が5g/m2超では密着性が低下し、塗装焼付時にふくれが発生するなど塗装性が低下する。より好ましくは0.1〜3.0g/m2である。絶縁被膜は鋼板の両面にあることが好ましいが、目的によっては片面のみでも構わない。また、目的によっては片面のみ施し、他面は他の絶縁被膜としても構わない。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
乾燥後の絶縁被膜の成分が表1−1,表1−2に示す割合になるように、Zr化合物、B化合物およびSi化合物、さらにはリン化合物や添加剤を、有機樹脂および有機酸と共に脱イオン水に添加し、処理液とした。なお、脱イオン水量に対する添加濃度は50g/lとした。
これらの各処理液を、板厚:0.5mmの電磁鋼板〔A230(JIS C 2552(2000))〕から幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出した試験片の表面にロールコーターで塗布し、熱風焼付け炉により表1−1,表1−2に示す焼付け温度(到達鋼板温度)で焼付けした後、常温に放冷して、絶縁被膜を形成した。
かくして得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板の白濁性、耐食性および耐粉吹き性について調べた結果を、表2に示す。
さらに、窒素雰囲気中にて750℃、2時間の歪取り焼鈍を行ったのちの耐キズ性、スティッキング性、打抜性および耐水性について調査を行い、得られた結果を表2に併記する。
【0037】
なお、Zr化合物の種類は表3に、B化合物の種類は表4に、Si化合物の種類は表5に、リン化合物の種類は表6に、有機樹脂の種類は表7に、有機酸の種類は表8に、それぞれ示したとおりである。
【0038】
また、各特性の評価方法は次のとおりである。
<白濁性>
塗装焼付け後の表面を目視で観察し、判定した。
(判定基準)
◎;白濁全くなし、SEM観察による被膜割れなし
○;若干白いが、SEM観察で割れなし
△;若干白く、SEM観察で被膜割れ有り
×;白濁大
【0039】
<耐食性>
供試材に対して湿潤試験(50℃、相対湿度 >98%)を行い、48時間後の赤錆発生率を目視で観察し、面積率で評価した。
(判定基準)
◎:赤錆面積率 20%未満
○:赤錆面積率 20%以上、40%未満
△:赤錆面積率 40%以上、60%未満
×:赤錆面積率 60%以上
【0040】
<耐粉吹き性>
試験条件;フェルト接触面幅20mm×10mm、荷重:3.8kg/cm2(0.4MPa)、被膜表面を100回単純往復。試験後の擦り跡を目視観察し、被膜の剥離状態および粉吹き状態を評価した。
(判定基準)
◎:ほとんど擦り跡が認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
△:被膜の剥離が進行し擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0041】
<焼鈍後耐キズ性>
試験条件;N2雰囲気、750℃で2時間保持して焼鈍したサンプル表面を鋼板せん断エッジで引っかき、キズ、粉吹きの程度を判定した。
(判定基準)
◎:キズ、粉吹きの発生がほとんど認められない
○:若干の擦り跡および若干の粉吹きが認められる程度
△:擦り跡および粉吹きがはっきりわかる程度
×:地鉄が露出するほど剥離し粉塵が甚大
【0042】
<スティッキング性>
50mm角の供試材10枚を重ねて荷重(200g/cm2:20kPa)をかけながら窒素雰囲気下で750℃,2時間の条件にて焼鈍を行った。ついで、供試材(鋼板)上に500gの分銅を落下させ、5分割するときの落下高さを調査した。
(判定基準)
◎:10cm以下
○:10cm超、15cm以下
△:15cm超、30cm以下
×:30cm超
【0043】
<打抜性>
供試材に対して、15mmφスチールダイスを用いて、かえり高さが50μmに達するまで打ち抜きを行い、その打ち抜き数で評価した。
(判定基準)
◎:100万回以上
○:50万回以上、100万回未満
△:10万回以上、50万回未満
×:10万回未満
【0044】
<耐水性>
供試材に対して、沸騰水蒸気中に30分暴露させ、外観変化を観察した。
(判定基準)
◎:変化なし
○:目視で若干の変色が認められる程度
△:目視で変色がはっきり認められる程度
×:被膜溶解
【0045】
【表1−1】

【0046】
【表1−2】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
【表8】

【0054】
表2に示したとおり、本発明に従い得られた半有機絶縁被膜付き電磁鋼板はいずれも、白濁性、耐食性および耐粉吹き性に優れるのはいうまでもなく、歪取り焼鈍後の耐キズ性、スティッキング性、打抜性および耐水性にも優れていた。
ただし、リン化合物が好適範囲を超えた発明例39は、耐食性が若干劣っていた。
また、絶縁被膜の付着量が好適範囲より少ない発明例40は、耐食性、打抜性が若干劣り、一方絶縁被膜の付着量が好適範囲より多すぎる発明例41は、白濁性、耐粉吹き性、耐水性が若干劣っていた。
これに対し、Zr化合物が適正範囲から外れた比較例1,2は、耐食性、耐粉吹き性、さらには焼鈍後耐キズ性、打抜性に劣っていた。
また、B化合物が適正範囲から外れた比較例3,4はそれぞれ、耐食性、スティッキング性に劣っていた。
Si化合物が適正範囲に満たない比較例5は、白濁性、耐食性に劣り、一方Si化合物が適正範囲を超えた比較例6は、耐粉吹き性、焼鈍後耐キズ性、打抜性に劣っていた。
有機樹脂が適正範囲に満たない比較例7は、耐粉吹き性、打抜性に劣っていた。一方、有機樹脂量が多すぎる比較例8は、焼鈍後耐キズ性に劣っていた。
有機酸が下限に満たない比較例9は、白濁性が劣り、一方有機酸が上限を超えた比較例10は、耐水性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、無機成分と有機樹脂からなる半有機絶縁被膜をそなえる電磁鋼板であって、
該無機成分としてZr化合物、B化合物およびSi化合物をそれぞれ、全無機成分における比率で、Zr化合物(ZrO2換算):10〜80質量%、B化合物(B23換算):1〜20質量%、Si化合物(SiO2換算):19〜70質量%含有し、
該無機成分と該有機樹脂の割合が、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して有機樹脂:10〜100質量部であり、
さらに、該無機成分と該有機樹脂との接触抑制剤としてアクリル酸イタコン酸共重合体、コハク酸およびクエン酸のうちから選んだ少なくとも一種の有機酸を、固形分換算で、無機成分:100質量部に対して5〜20質量部の割合で含有することを特徴とする半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。
【請求項2】
前記無機成分として、さらにリン化合物(PO4換算)を、全無機成分における比率で35質量%以下の割合で含有することを特徴とする請求項1記載の半有機絶縁被膜付き電磁鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12296(P2011−12296A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156017(P2009−156017)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】