説明

半球状光硬化物パターンの形成方法

【課題】本発明は、液晶ディスプレイ製造工程で必要な部材であるスペーサー等を簡便に製造するための半球状光硬化物の形成方法の提供。
【解決手段】半球状光硬化物パターンを形成する方法であって、(i)感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを、印刷法を用いて被印刷基材上の特定の位置に塗布する工程、(iii)塗布された感光性樹脂組成物を加熱することにより半球状に成形する工程、(iv)半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)の全面に高エネルギー線を照射し硬化させ半球状光硬化物パターンを形成する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶ディスプレイの製造等で用いるスペーサー等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ製造における重要な部材として、上下2枚の基板間に液晶化合物を挿入して空間の厚さを規定するスペーサーという部材がある。液晶化合物に加わる電界強度を一定に保ち、液晶化合物の機能を発揮させるためには、液晶層の厚さを均一に規定することが必須であるため、このようなスペーサーという部材が必要となる。
従来技術において、スペーサーとして用いられてきた部材として、粒子径を非常に狭い範囲に制御して作製された樹脂製微粒子、ガラス製微粒子あるいはセラミックス製微粒子が使用されていた。しかしながら、これらの微粒子を用いる方法では、微粒子を噴霧して基板上に散布するプロセスを採るため、微粒子の位置を規定することが不可能であった。微粒子の位置が規定されないので、液晶層の厚さを全面的に均一に保つことが難しく、振動により微粒子が移動してしまい厚さの均一性を損なうという課題があった。また、微粒子が表示部画素上にも散布されるため、光抜けや微粒子周辺部では配向不良等により表示品質の低下が問題となっていた。
【0003】
また、近年、感光性樹脂組成物とフォトリソグラフィーを用い、特定の位置にスペーサーを形成する方法が、非特許文献1(光応用技術・材料事典、産業技術サービスセンター発行、2006年4月26日、379〜382ページ)に提案されている。しかしながら、この方法では、露光、現像工程を経てスペーサーのパターンが形成されるため、工程が長くかつ複雑である。更に、現像工程で未硬化部が、現像液に溶解あるいは分散されることにより除去されるため、不要な材料が多量に発生するという問題があった。
特許文献1(特開2001−108813号公報)には、インクジェット印刷を用いて粗いパターンを形成し、その後、フォトリソグラフィーを用いて正確な寸法のパターン形成が行われる方法の記載がある。この方法では、現像工程において除去される材料を少なくできるメリットはあるものの、フォトリソグラフィーを用いてパターンを形成するため工程が複雑であり、特に露光マスクの位置合わせに多大な時間を要するという大きな問題があった。また、インキ滴を飛び出させる印刷ヘッドの目詰まりによる欠陥の発生、一度に印刷できるドットパターンの厚さは、1μm以下であり、スペーサーとして機能させるためには、複数回同じ場所にインキ滴を的中させる必要があるなど、印刷工程でのプロセス時間が多大に必要であるなどの問題があった。
いずれの従来技術においても、液晶ディスプレイ製造で必要な部材であるスペーサーを形成する方法としては、複雑であり、不要な材料が発生するなど問題があり、スペーサーを簡便に形成できる方法は知られていなかった。
【特許文献1】特開2001−108813号公報
【非特許文献1】光応用技術・材料事典、産業技術サービスセンター発行、2006年4月26日、379〜382ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液晶ディスプレイ製造工程で必要な部材であるスペーサー等を簡便に製造するための半球状光硬化物の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来の球状微粒子がランダムな位置に配置される方法やフォトリソグラフィーを用いて複雑な工程を経て無駄になる感光性樹脂組成物が多く必要とされる方法に代わって、特定の位置に簡便な方法で半球状光硬化物パターンを形成する方法を鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)半球状光硬化物パターンを形成する方法であって、(i)感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを、印刷法を用いて被印刷基材上の特定の位置に塗布する工程、(iii)塗布された感光性樹脂組成物を加熱することにより半球状に成形する工程、(iv)半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)の全面に高エネルギー線を照射し硬化させ半球状光硬化物パターンを形成する工程を含むことを特徴とする半球状光硬化物パターンの形成方法。
(2)工程(i)と工程(iii)の間に、更に、(ii)感光性樹脂組成物(α)を、固体状の感光性樹脂組成物(β)に変化させる工程を含む、上記(1)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(3)感光性樹脂組成物(α)を固体状の感光性樹脂組成物(β)に変化させる方法が、感光性樹脂組成物(α)中の溶剤成分を除去する方法である、上記(2)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(4)工程(iii)の後に、更に、該半球状化した感光性樹脂組成物(γ)を冷却する工程を含む、上記(1)〜(3)のいずれかの半球状光硬化物パターンの形成方法。
(5)液状インキを塗布する方法が、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法からなる群より選択される少なくとも1種類の方法である、上記(1)〜(4)のいずれかの半球状光硬化物パターンの形成方法。
(6)感光性樹脂組成物(α)が、樹脂(a)、有機化合物(b)、光重合開始剤(c)とを含有し、樹脂(a)が20℃において固体状であり、数平均分子量が1000以上50万以下であり、有機化合物(b)が重合性官能基を有し数平均分子量が1000未満である、上記(1)〜(5)のいずれかの半球状光硬化物パターンの形成方法。
(7)感光性樹脂組成物(α)が、更に、有機珪素化合物および/又は有機フッ素化合物を含有する、上記(6)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(8)光重合開始剤(c)が、崩壊型光重合開始剤および水素引き抜き型重合開始剤を含むか、あるいは崩壊型光重合開始剤として機能する部位と水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位を有する化合物を含む、上記(6)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(9)被印刷基材が、ガラス基板、セラミックス基板、金属製基板、フィルム、紙からなる群より選択される少なくとも1種類の基材である、上記(1)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(10)半球状光硬化物パターンが、液晶ディスプレイ用のスペーサー材料として使用される、上記(1)〜(9)のいずれかの半球状光硬化物パターンの形成方法。
(11)液状インキを塗布する方法がフレキソ印刷法であって、フレキソ印刷法で用いる表面に凸パターンを有する印刷基材が、写真製版技術を用いて前記パターンが形成された感光性樹脂印刷版であるか、あるいはレーザー彫刻法を用いて前記パターンが形成されたレーザー彫刻印刷版である、上記(1)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(12)工程(iii)において、感光性樹脂組成物を60℃以上200℃以下に加熱し、、熱源が熱線、赤外線、マイクロ波から選択される少なくとも1種類の熱源である、上記(1)〜(11)のいずれかの半球状光硬化物パターンの形成方法。
(13)工程(ii)で得られる感光性樹脂組成物(β)の厚さよりも、工程(iii)で得られる感光性樹脂組成物(γ)の厚さが厚い、上記(2)の半球状光硬化物パターンの形成方法。
(14)上記(1)〜(13)のいずれかの方法で形成された半球状光硬化物パターン。
(15)半球状光硬化物パターンの高さばらつきが±5%以内の範囲である、上記(14)の半球状光硬化物パターン。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、液晶ディスプレイ作製工程等で使用されるスペーサー材料等として有用な半球状光硬化パターンを簡便に精度高く作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、さらに詳細に本発明の好ましい実施態様を説明する。
本発明は、被印刷基材上の特定の位置に半球状光硬化物パターンを簡便に形成する方法に関する。本発明の方法は、(i)感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを、印刷法を用いて被印刷基材上の特定の位置に塗布する工程、(ii)塗布された感光性樹脂組成物を加熱することにより半球状に成形する工程、(iv)半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)の全面に高エネルギー線を照射し硬化させ半球状光硬化物パターンを形成する工程を含む。
【0008】
[工程(i)について]
本発明の工程(i)では、印刷法を用いて感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを、被印刷基材上の特定の位置に塗布する。本発明で用いる印刷法は、インクジェット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法から選択される少なくとも1種類の方法であることが好ましく、更にはフレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法から選択される少なくとも1種類の方法であることが好ましい。インクジェット印刷法では、液状インキ滴を射出するインクヘッドから被印刷基材上に吐出される。インクヘッドの機構は、ピエゾ素子や袋を膨らませることによりインキ滴を射出するものである。フレキソ印刷法は、比較的柔らかい素材から形成される凸版を用いて、凸部表面に載せたインキを被印刷基材上の直接転写させる方法である。グラビア印刷法は、印刷版表面に形成された凹部にインキを溜め、柔らかい被印刷基材上に直接転写する方法である。オフセット印刷法は、表面に親水性・疎水性の部分を形成された印刷版表面に疎水性インキを載せ、柔らかい素材から形成されたブランケット表面を介して、被印刷基材上にインキが転写される方法である。凸版印刷版を用いたドライオフセット印刷法もオフセット印刷法の1つである。スクリーン印刷法は、メッシュ素材表面に樹脂でパターンを形成したスクリーンの片側にインキを載せ、開口部からインキを通過させることにより、反対側に設置されている被印刷基材上にインキを転写させる方法である。これらの印刷方法のうち、インキが載っている凸部のみが被印刷基材と接触すること、比較的低い印圧条件で印刷ができることから、フレキソ印刷法が最も好ましい方法である。
【0009】
フレキソ印刷においては、印刷版として、表面に架橋ゴムやエラストマー性を有する感光性樹脂硬化物を有するものを用いることができる。印刷版表面にパターンを形成する容易さから、感光性樹脂硬化物を用いた印刷版が好ましい。感光性樹脂硬化物を用いる方法では、感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーを用いてパターンを形成する方法と、感光性樹脂組成物を全面光硬化させて形成された感光性樹脂硬化物をレーザーで彫刻してパターンを形成する方法を用いることができる。フォトリソグラフィーを用いる方法では、パターンは露光、現像工程を経て形成されるため、用いる感光性樹脂組成物の材質は、現像工程において用いる現像液に溶解、分散し易い素材に限定される。これに対し、レーザーで彫刻する方法では、感光性樹脂組成物は、現像工程を経ずにパターン形成できるため、使用できる材料の選択の幅が極めて広いという特徴を有する。そのため、各種の溶剤に対する耐性を考慮した素材を選択することが可能である。したがって、フレキソ印刷の中でも、感光性樹脂硬化物表面にレーザーで直接パターンを彫刻した印刷版を用いる方法がより好ましい方法である。また、フレキソ印刷版は複数層を積層した構成であっても構わない。すなわち、表面に比較的硬い層を配置し、その下にクッション性を有する比較的柔らかい層を配置するような構成体も含まれる。
【0010】
[工程(iii)について]
本発明では、上記工程(i)で塗布された感光性樹脂組成物を加熱することにより半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)を得る。本発明は、このような工程を含むことにより従来技術のようにフォトリソグラフィーを用いることなく簡便に半球状パターンを形成でき、プロセス時間を大幅に短縮化できるという効果を奏する。加熱方法として、加熱された高温状態の雰囲気に曝す方法(熱線)、赤外線あるいはマイクロ波を照射する方法などを挙げることができる。特に、均一に加熱処理できる点から熱源が熱線、赤外線、マイクロ波のいずれかであることが好ましい。加熱温度は、工程(ii)において溶剤成分を乾燥除去できる温度よりも高い温度で熱処理することが好ましい。特に、省エネルギーと被印刷基材の変形等の影響がない点からは60℃以上200℃以下であることが好ましい。
【0011】
[工程(ii)について]
本発明では、工程(i)と工程(iii)の間に、更に、工程(ii)として、感光性樹脂組成物(α)を固体状の感光性樹脂組成物(β)に変化させる工程を含むことが好ましい。このような工程を経ることで、均一な膜厚を確保できるという効果を奏する。
固体状の感光性樹脂組成物(β)を得る方法は、感光性樹脂組成物(α)中に含有される溶剤成分を乾燥除去する方法、および溶剤を含有しない感光性樹脂組成物(α)に弱く光硬化させ半硬化状態にする方法を挙げることができる。したがって、感光性樹脂組成物(α)が溶剤を含有する場合には、感光性樹脂組成物(α)を塗布後、加熱することにより溶剤成分が揮発除去される。無溶剤型の感光性樹脂組成物(α)の場合、弱く光硬化させ半硬化状態にするが、ここで半硬化状態とは、完全に硬化して得られる樹脂硬化物の硬度を基準として、50%以下の硬度を有する状態と定義する。
【0012】
[工程(iv)について]
本発明では、更に、半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)は、高エネルギー線照射により光硬化される。用いる高エネルギー線として、紫外線、可視光線、真空紫外線、電子線、X線、γ線等を挙げることができる。これらのうち、装置の簡便さの観点からは、光、すなわち紫外線あるいは可視光線、もしくは電子線の照射により硬化させる方法が好ましい。
本発明では、半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)の全面に高エネルギー線が照射される点で、フォトリソグラフィーを用いてパターンが形成される従来技術とは異なる。すなわち、フォトリソグラフィーを用いてパターンが形成される従来技術においては、高エネルギー線は、マスク等を通じて感光性樹脂組成物の一部に照射され、照射後未硬化部分が現像される事等により感光性樹脂組成物が半球状化されるのに対して、本発明では、半球状化は高エネルギー線照射に先立つ加熱、すなわち工程(iii)でなされる。そして、半球状化された後になされる、感光性樹脂組成物(γ)への高エネルギー線の照射は、マスク等を通さず、感光性樹脂組成物(γ)の全面になされるものであってすでに半球状化された組成物を硬化するものである。本発明の方法は、工程(iii)の後に現像工程を経る必要がなく、従来技術に比べて簡便である。
以下、本発明で用いる材料、印刷版等について説明する。
【0013】
[感光性樹脂組成物(α)について]
本発明では、感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを用いる。感光性樹脂組成物(α)は樹脂(a)、有機化合物(b)、光重合開始剤(c)とを含有することが好ましい。また、最終的に形成される半球状の光硬化物が、長期間に使用される場合、機械的物性、耐候性、耐熱性等の特性が良好であることが好ましい。
樹脂(a)は、数平均分子量が1000以上50万以下であることが好ましい。より好ましくは1万以上40万以下、更に好ましくは5万以上30万以下である。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0014】
また、樹脂(a)は、20℃において液状の高分子、固体状の高分子のいずれであっても構わないが、プロセスを簡便化する観点から20℃において固体状の高分子が好ましい。更に、樹脂(a)は、加熱されることにより溶融し流動化する熱可塑性高分子が好ましく、流動化温度が80℃以上250℃以下である事が好ましい。より好ましくは100℃以上200℃以下、更に好ましくは130℃以上200℃以下である。ここで、流動化温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、室温から温度を上昇させていった場合に、粘性率が大きく変化する(粘性率曲線の傾きが変化する)最初の温度と定義する。
樹脂(a)として、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)等のポリスチレン系熱可塑性高分子、ポリウレタン系熱可塑性高分子、ポリエステル系熱可塑性高分子、ポリ塩化ビニル系熱可塑性高分子、EPM、EPDM等のポリオレフィン系熱可塑性高分子、ポリアミド系熱可塑性高分子、シリコーン系熱可塑性高分子、ポリスルホン系熱可塑性高分子、ポリアクリル系熱可塑性高分子、フッ素ゴム系熱可塑性高分子、ポリフェニレンエーテル系熱可塑性高分子等を挙げることができる。
【0015】
本発明の樹脂(a)は、分子中に重合性不飽和基を有することができる。重合性不飽和基とは、ラジカル重合反応あるいは付加重合反応に寄与する官能基である。特に好ましいものとして1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、感光性樹脂組成物より得られる印刷原版の機械強度に優れ、レーザー彫刻時にレリーフ形状が崩れ難くなる。さらにその耐久性も良好で、繰り返しの使用にも耐えられるのものとなり好ましい。印刷原版の機械強度を考慮すると、樹脂(a)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を越える量が更に好ましい。ポリマー成分の重合性不飽和基の存在比率については、高分解能核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて定量化することができる。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。
【0016】
付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。樹脂(a)の分子内に重合性不飽和基を導入する方法としては、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の上記成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0017】
特にガラス、セラミックス等の硬い被印刷基材上に材料を塗布する場合には、樹脂(a)として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/またはその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類があげられる。その含有量は、ポリマー成分全体に対して30wt%以上含有することが好ましい。特に電子材料あるいは光学材料に含有される溶剤に対する耐性の観点から、ポリカーボネート骨格、ポリエステル骨格、脂肪族炭化水素骨格から選択される少なくとも1種類の分子骨格を有し、かつウレタン結合、アミド結合、イミド結合から選択される少なくとも1種類の結合を有する化合物を含有することが好ましい。
【0018】
有機化合物(b)の数平均分子量は上記樹脂(a)との希釈のし易さの点から、1000未満であることが好ましい。また、光硬化物の機械的物性確保の点から100以上であることが好ましい。重合性モノマー成分は、分子中に重合性不飽和基を含有することが好ましい。すなわち、本発明の感光性樹脂組成物は、重合性不飽和基を有し、数平均分子量が1000未満の有機化合物(b)を含有することが好ましい。本発明の重合性不飽和基とは、ラジカルまたは付加重合反応に関与する重合性不飽和基と定義する。ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。
【0019】
有機化合物(b)は、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。
有機化合物(b)の分子構造として、シクロアルキル骨格、ビシクロアルキル骨格、シクロアルケン骨格、ビシクロアルケン骨格などの脂環族炭化水素骨格、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、ナフチル基、ピレニル基等を有する芳香族炭化水素骨格、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基等を有する分子構造、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステル化合物などがあげられる。
【0020】
本発明において、これら重合性不飽和基を有する有機化合物(b)は、その目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。印刷基材として電子材料あるいは光学材料を塗布する場合、該電子材料あるいは光学材料に含まれる溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
有機化合物(b)の数平均分子量(Mn)の測定方法について説明する。重合性モノマー成分が溶解する溶剤に溶かし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)で分析し、分子量既知の標準ポリスチレンに対して換算して数平均分子量(Mn)を算出する。分子量分布の広い化合物については、この方法で求める。分子量分布に関する尺度として、数平均分子量(Mn)と、Mnと同時に算出される重量平均分子量(Mw)の比、すなわち多分散度(Mw/Mn)を用いる。多分散度が1.1以上である場合、分子量分布が広いとして、GPC法で求められる数平均分子量を採用する。また、多分散度が1.1未満のものは分子量分布が極めて狭いため、分子構造解析が可能であり、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)あるいは質量分析法を用いて算出した分子量を数平均分子量とする。
【0021】
本発明の感光性樹脂組成物(α)より得られる光硬化物の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族炭化水素骨格または芳香族炭化水素骨格を有する化合物を少なくとも1種類以上、特に、有機化合物(b)の全体量の20wt%以上更には50wt%以上含有することが好ましい。
上記工程(iv)において、半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)を紫外線あるいは可視光線を用いて光硬化させる場合には、感光性樹脂組成物(α)に光重合開始剤(c)を添加する事が好ましい。光重合開始剤(c)は一般に使用されているものから選択でき、例えば高分子学会編「高分子データ・ハンドブックー基礎編」1986年培風館発行、に例示されているラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合の光重合開始剤などが使用できる。ラジカル重合反応を誘起させる光重合開始剤としては、水素引き抜き型光重合開始剤と崩壊形光重合開始剤が、特に効果的な光重合開始剤として用いられる。
【0022】
水素引き抜き型光重合開始剤として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率よく励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応気候が提案されている。生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本発明で用いる水素引き抜き型光重合開始剤として励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化合物であればなんでも構わない。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヘラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類を挙げることが出来、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。
【0023】
ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノン或いはその誘導体を指し、具体的には3,3’,4,4’―ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’―テトラメトキシベンゾフェノン等である。ミヘラーケトン類とは、ミヘラーケトンおよびその誘導体をいう。キサンテン類とは,キサンテンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいう。チオキサントン類とは、チオキサントンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をさし、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることが出来る。アントラキノン類とは、アントラキノンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をいう。水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、液状感光性樹脂組成物を大気中で硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は十分確保でき、また、耐光性を確保することが出来る点から、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下である。
【0024】
崩壊型光重合開始剤とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシー2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イソウ化合物類、ジケトン類等を挙げることが出来、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、べンゾインイソブチルエーテル、「感光性高分子」(講談社、1977年出版、頁228)に記載の化合物を挙げることが出来る。2,2−ジアルコキシー2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシー2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシー2−フェニルアセトフェノン等を挙げることが出来る。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等を挙げることが出来る。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム等を挙げることが出来る。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることが出来る。有機イオウ化合物としては、芳香族チオール、モノおよびジスルフィド、チウラムスルフィド、ジチオカルバメート、S−アシルジチオカルバメート、チオスルホネート、スルホキシド、スルフェネート、ジチオカルボネート等を挙げることが出来る。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることが出来る。崩壊型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は十分に確保出来る点から、感光性樹脂組成物全体量の0.1wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.3wt%以上3wt%以下である。
【0025】
特に酸素濃度が5vol%以上である雰囲気において光硬化させたいラジカル重合系の感光性樹脂組成物の場合、光重合開始剤として、水素引き抜き型光重合開始剤と崩壊型光重合開始剤との組み合わせ、あるいは同一分子内に水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を両方有する光重合開始剤を使用することが好ましい。酸素を5vol%以上含有する雰囲気においては、酸素による硬化阻害のため特に表面近傍の硬化が不十分となる問題があった。そのため、硬化阻害を防止するために、不活性ガス雰囲気、水中の雰囲気、あるいは感光性樹脂組成物の表面を光透過性フィルムで被覆し、酸素を遮断するなどの特別な工夫が必要であり、露光するための装置においても特別な機構を取り付ける必要があった。
【0026】
上記樹脂(a)又は有機化合物(b)は、分子鎖中に存在する酸素原子あるいは窒素原子に対しα位に存在する水素原子を有する化合物、チオールのような硫黄原子に直接結合している水素原子を有する化合物を、感光性樹脂組成物(α)全体量の少なくとも20wt%以上含有することが好ましい。より好ましくは40wt%以上である。前記酸素原子の由来原子団としては、アルコール、エーテル、エステル、カーボネート等を挙げることができ、また前記窒素原子の由来原子団としてはウレタン、ウレア、アミド等を挙げることができる。詳しい反応メカニズムは明確ではないが、ポリマー成分あるいは重合性モノマー成分の分子中に存在する前記α位水素や硫黄原子に直接結合している水素を、水素引き抜き型光重合開始剤の励起三重項状態が効率良く引き抜く反応によりラジカル種が発生し、生成したラジカル種が架橋反応に寄与するためと考えられる。水素引き抜き型光重合開始剤は200nm〜300nmの波長領域に強い光吸収を示す化合物が多く、これらの光は感光性樹脂組成物層内部で急速に減衰するため、特に表面での効率が高いものと推定される。
【0027】
感光性樹脂組成物(α)中に含有される好ましい溶剤として、n−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、γ−ブチルラクトン、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ジエチルカルビトール、エチルセロソルブ、ブチルソロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ターピネオール、ペンタンジオール、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、テトラヒドロフランから選択される少なくとも1種類の化合物を挙げることができる。好ましい溶剤の沸点は、均一性膜性の観点から、低過ぎず高過ぎないことが好ましい。好ましくは、60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上200℃以下である。更に好ましくは、100℃以上200℃以下である。
感光性樹脂組成物(α)は、更に、有機珪素化合物あるいは/および有機フッ素化合物を含有することが好ましい。有機珪素化合物として、シランカップリング剤やシリコーンオイル等の化合物を挙げることができる。また、有機フッ素化合物としては、分子中の一部分に含フッ素官能基を有する化合物を用いることができる。これらの化合物は、感光性樹脂組成物を加熱した際に、表面エネルギーを調整する効果があり、最終的に得られる半球状光硬化物パターンの高さばらつきを低減する効果がある。
【0028】
[被印刷基材について]
本発明で用いる被印刷基材は、ガラス板、セラミックス板、フィルム、金属板、金属シート、紙から選択される少なくとも1種類の基材であることが好ましい。フィルムとしては、プラスチック製フィルムや金属製フィルム、表面にセラミックスや金属薄膜が形成されたプラスチック製フィルムなどの異種材料を積層したプラスチック製フィルムや金属製フィルムも含まれ、また、紙としては、繊維状物から形成されているものであれば何でも構わない。織布であっても不織布であっても構わない。繊維状物の材料として、天然繊維、合成繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維等を挙げることができる。また、ガラス板として、表面にITO、酸化亜鉛等の電極材料の薄膜が被覆されているものであっても構わない。
【0029】
[工程(i)の印刷法、印刷版について]
本発明で用いる印刷方法として、フレキソ印刷法が最も好ましい方法である。フレキソ印刷法で用いられる印刷基材として、シリンダー等の円筒状支持体やスリーブ等の中空円筒状支持体上に形成された円筒状印刷基材や、シート状支持体上に形成されたシート状印刷基材を挙げることができる。フレキソ印刷版の表面には凹凸パターンが形成される。凹凸パターンの形成方法として、写真製版技術を用いて露光、現像工程を経てパターン化される方法、レーザー光を照射して照射された部分の樹脂が除去されることにより凹パターンが形成されるレーザー彫刻法を挙げることができる。写真製版技術を用いる方法では、感光性樹脂を露光マスクを通して露光して感光性樹脂組成物に潜像を形成し、未硬化部分を現像により除去する工程を経る。また、レーザー彫刻法では、従来、加硫ゴムが使用されていたが、レーザー彫刻性から近年では感光性樹脂を組成物を光硬化させて得られる感光性樹脂硬化物を用いられるようになってきた。レーザー彫刻法において用いられる感光性樹脂組成物には、現像液へ溶解あるいは分散し易いという制約条件がないため、材料の選択範囲が広いという大きな利点がある。したがって、インキ中に含有される各種の溶剤に対する耐性の高い材料を開発することが容易となる。
【0030】
本発明で用いるフレキソ印刷版の形成材料である感光性樹脂組成物(d)について以下に記載する。
本発明で用いる感光性樹脂組成物(d)は、数平均分子量が1000以上50万以下の樹脂(A)、数平均分子量1000未満の重合性反応基を有する有機化合物(B)を含むことが好ましい。
感光性樹脂組成物(d)は20℃において液状であっても固体状であっても構わないが、成形性の容易さから20℃において液状であることが特に好ましい。
【0031】
樹脂(A)は、20℃において液状であっても固体状であっても構わないが、成型加工性の観点から20℃で液状樹脂であることが好ましい。ここで言う液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対応する言葉である。樹脂(α)が20℃において液状樹脂である場合には、感光性樹脂組成物(A)も20℃において液状となり、シート状、もしくは円筒状に成形する際に、良好な厚み精度や寸法精度を得ることができる。液状感光性樹脂を用いる場合、感光性樹脂組成物(δ)の粘度は、好ましくは、20℃において10Pa・s以上10kPa・s以下である。さらに好ましくは、50Pa・s以上5kPa・s以下である。粘度が10Pa・s以上であれば、作製される印刷基材の機械的強度が十分であり、円筒状に成形する際であっても形状を保持し易く、加工し易い。粘度が10kPa・s以下であれば、高温にしなくとも変形し易く、加工が容易である。シート状あるいは円筒状の印刷基材に成形し易く、プロセスも簡便である。特に厚み精度の高い印刷基材を得るためには、該感光性樹脂組成物が重力により液ダレ等の現象を起こさないように粘度を100Pa・s以上、より好ましくは200Pa・s以上、更に好ましくは500Pa・s以上の比較的粘度の高い感光性樹脂組成物であることが望ましい。
【0032】
樹脂(A)の数平均分子量は、1000以上50万以下、より好ましくは5000以20万以下、更に好ましくは1万以上10万以下である。樹脂(A)の数平均分子量は1000以上であれば、後に架橋して作製する原版が強度を保ち、印刷基材として用いる場合、繰り返しの使用にも耐えられる。また、樹脂(A)の数平均分子量の上限は、50万以下が好ましい。50万以下であれば、感光性樹脂組成物の粘度が過度に上昇することもなく、シート状、あるいは円筒状に成形する際に加熱押し出し等の複雑な加工方法は必要ない。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0033】
樹脂(A)は、分子内に重合性不飽和基を有していても構わない。特に好ましいものとして1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、感光性樹脂組成物より得られる印刷原版の機械強度に優れ、レーザー彫刻時にレリーフ形状が崩れ難くなる。さらにその耐久性も良好で、繰り返しの使用にも耐えられるのものとなり好ましい。印刷原版の機械強度を考慮すると、樹脂(A)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を越える量が更に好ましい。樹脂(A)の重合性不飽和基の存在比率については、高分解能核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて定量化することができる。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。本発明の重合性不飽和基とは、ラジカルまたは付加重合反応に関与する重合性不飽和基と定義する。ラジカル重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性不飽和基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。
【0034】
樹脂(A)の分子内に重合性不飽和基を導入する方法としては、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する数千程度の分子量の上記成分の反応性基と結合しうる基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後、この末端結合性基と反応する基と重合性不飽和基を有する有機化合物と反応させて末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0035】
特にガラス、セラミックス等の硬い被印刷基材上に材料を塗布する場合には、樹脂(A)として、一部、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、さらに好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を用いることが好ましい。このような液状樹脂として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/またはその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類があげられる。その含有量は、樹脂(A)全体に対して30wt%以上含有することが好ましい。特にインキに含有される溶剤に対する耐性の観点から、ポリカーボネート骨格、ポリエステル骨格、脂肪族炭化水素骨格から選択される少なくとも1種類の分子骨格を有し、かつウレタン結合、アミド結合、イミド結合から選択される少なくとも1種類の結合を有する化合物を含有することが好ましい。
【0036】
有機化合物(B)は、数平均分子量が1000未満、分子内に重合性反応基を有する化合物であることが好ましい。重合性反応基は、ラジカル重合反応、付加重合反応、開環付加重合反応に寄与する官能基である。ラジカル重合反応に関与する重合性反応基の好ましい例としては、ビニル基、アセチレン基、アクリル基、メタクリル基などが挙げられる。付加重合反応に関与する重合性反応基の好ましい例としては、シンナモイル基、チオール基、アジド基、開環付加反応するエポキシ基、オキセタン基、環状エステル基、ジオキシラン基、スピロオルトカーボネート基、スピロオルトエステル基、ビシクロオルトエステル基、環状イミノエーテル基等が挙げられる。樹脂(A)との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量は1000未満が好ましい。有機化合物(B)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及びその誘導体が好ましい例である。
【0037】
有機化合物(B)の分子構造として、シクロアルキル骨格、ビシクロアルキル骨格、シクロアルケン骨格、ビシクロアルケン骨格などの脂環族炭化水素骨格、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、ナフチル基、ピレニル基等を有する芳香族炭化水素骨格、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基等を有する分子構造、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステル化合物などがあげられる。
本発明において、これら重合性反応基を有する有機化合物(B)は、その目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。印刷基材として電子材料あるいは光学材料を塗布する場合、該電子材料あるいは光学材料に含まれる溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
【0038】
本発明の有機化合物(B)の数平均分子量(Mn)は、上記有機化合物(b)と同様の方法により測定できる。
感光性樹脂組成物(δ)より得られる印刷基材の機械強度を高めるためには、有機化合物(B)としては脂環族炭化水素骨格または芳香族炭化水素骨格を有する化合物を少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、有機化合物(B)の全体量の20wt%以上であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上である。
感光性樹脂組成物(δ)として熱硬化性樹脂組成物、加硫ゴム系材料を用いる場合には、熱を用いて樹脂硬化物を得る。高温の反応槽内に設置する方法、赤外線ランプ等を用いて直接加熱する方法等を挙げることができる。
【0039】
感光性樹脂組成物(δ)として感光性樹脂組成物を用いる場合、該感光性樹脂組成物を光、すなわち紫外線あるいは可視光線、もしくは電子線の照射により硬化させる方法が好ましい。紫外線あるいは可視光線を用いて光硬化させる場合には、上記感光性樹脂(α)と同様の光重合開始剤を添加する事が出来る。
樹脂(A)あるいは有機化合物(B)は、樹脂(a)や有機化合物(b)と同様、分子鎖中に存在する酸素原子あるいは窒素原子に対しα位に存在する水素原子を有する化合物、チオールのような硫黄原子に直接結合している水素原子を有する化合物を、感光性樹脂組成物全体量の少なくとも20wt%以上含有することが好ましい。より好ましくは40wt%以上である。
【0040】
感光性樹脂組成物(δ)には用途や目的に応じて重合禁止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。
感光性樹脂組成物(δ)には、無機微粒子或いは無機有機複合微粒子を添加することができる。特に多孔質体、あるいは超微粒子であることが好ましい。多孔質体とは、粒子中に微小細孔を有する、あるいは微小な空隙を有する微粒子であり、表面の調整工程において樹脂硬化物層表面には熱がかかるため、切削、研削、研磨工程において発生する粘稠性の液状カスを吸収除去することに効果があり、表面のタック防止効果も有する。また、超微粒子とは数平均粒子径が5nm以上100nm以下の微粒子とする。超微粒子を添加することによっても、同様の効果が期待できる。
【0041】
感光性樹脂組成物(δ)をシート状、もしくは円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、ドクターブレードと塗布法、ダイ押し出し法、スプレー塗布法、グラビアコート法、ロールコート法等を挙げることができる。また、塗布した樹脂組成物層をロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法等を採ることができる。その際、樹脂組成物の性能を落とさない範囲で加熱しながら成形を行なうことも可能である。PETやニッケルなどの素材からなるシート状支持体の上に成形される場合が多いが、直接印刷機のシリンダー等の円筒状支持体上に成形する場合、エアーシリンダー上に装着されたスリーブ等の中空円筒状支持体上に成形される場合もある。シート状支持体、円筒状支持体あるいは中空円筒状支持体の役割は、印刷基材の寸法安定性を確保することである。したがって、寸法安定性の高いものを選択する必要がある。
【0042】
線熱膨張係数を用いて評価すると、好ましい材料の上限値は100ppm/℃以下、更に好ましくは70ppm/℃以下である。材料の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビスマレイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンチオエーテル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂からなる液晶樹脂、全芳香族ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を積層して用いることもできる。例えば、厚み4.5μmの全芳香族ポリアミドフィルムの両面に厚み50μmのポリエチレンテレフタレートの層を積層したシート等でもよい。また、多孔質性のシート、例えば繊維を編んで形成したクロスや、不織布、フィルムに細孔を形成したもの等をバックフィルムとして用いることができる。バックフィルムとして多孔質性シートを用いる場合、感光性樹脂組成物を孔に含浸させた後に光硬化させることで、感光性樹脂硬化物層とバックフィルムとが一体化するために高い接着性を得ることができる。
【0043】
クロスあるいは不織布を形成する繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アルミナ・シリカ繊維、ホウ素繊維、高珪素繊維、チタン酸カリウム繊維、サファイア繊維などの無機系繊維、木綿、麻などの天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド等の合成繊維を挙げることができる。また、バクテリアの生成するセルロースは、高結晶性ナノファイバーであり、薄くて寸法安定性の高い不織布を作製することのできる材料である。
また、支持体の線熱膨張係数を小さくする方法として、充填剤を添加する方法、全芳香族ポリアミド等のメッシュ状クロス、ガラスクロスなどに樹脂を含浸あるいは被覆する方法などを挙げることができる。充填剤としては、通常用いられる有機系微粒子、金属酸化物あるいは金属等の無機系微粒子、有機・無機複合微粒子など用いることができる。また、多孔質微粒子、内部に空洞を有する微粒子、マイクロカプセル粒子、低分子化合物が内部にインターカレーションする層状化合物粒子を用いることもできる。特に、アルミナ、シリカ、酸化チタン、ゼオライト等の金属酸化物微粒子、ポリスチレン・ポリブタジエン共重合体からなるラテックス微粒子、高結晶性セルロース等の天然物系の有機系微粒子等が有用である。
【0044】
本発明で用いるシート状支持体、円筒状支持体、あるいは中空円筒状支持体の表面に物理的、化学的処理を行うことにより、感光性樹脂組成物層あるいは接着剤層との接着性を向上させることができる。物理的処理方法としては、サンドブラスト法、微粒子を含有した液体を噴射するウエットブラスト法、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、紫外線あるいは真空紫外線照射法などを挙げることができる。また、化学的処理方法としては、強酸・強アルカリ処理法、酸化剤処理法、カップリング剤処理法などである。
成形された感光性樹脂組成物(δ)層は、光照射により硬化させ、感光性樹脂硬化物層を形成する。また、成型しながら光照射により硬化させることもできる。硬化に用いられる光源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、殺菌灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等が挙げることができる。感光性樹脂組成物層に照射される光は、200nmから300nmの波長の光を有することが好ましい。特に水素引き抜き型光重合開始剤は、この波長領域に強い光吸収を有するものが多いため、200nmから300nmの波長の光を有する場合、感光性樹脂硬化物層表面の硬化性を充分に確保することができる。硬化に用いる光源は、1種類でも構わないが、波長の異なる2種類以上の光源を用いて硬化させることにより、樹脂の硬化性が向上することがあるので、2種類以上の光源を用いることも差し支えない。
【0045】
本発明では、凹パターンを形成される樹脂硬化物層の下部にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。一般的にレーザー彫刻される層の厚さは、0.1〜数mmであるため、それ以外の下部層は組成の異なる材料であっても構わない。クッション層としては、ショアA硬度が10から70度のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が10度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、70度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。微細孔を有する多孔質エラストマー層であってもよい。特にシート状あるいは円筒状印刷版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
【0046】
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤および光重合開始剤等を混合したもの、プラストマー樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状組成物などを挙げることができる。本発明では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、ある程度の機械的強度を確保できれば良いため、材料の選定において自由度が極めて高い。
【0047】
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の非硫黄架橋型ゴムを用いることもできる。
更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
本発明の印刷基材の電子材料あるいは光学材料に含有される溶剤に対する耐溶剤性は、溶剤浸漬膨潤テストにて評価し、前記溶剤への浸漬前後の重量変化率が10wt%以下であることが好ましい。より好ましくは5wt%以下である。本発明における溶剤浸漬膨潤テストは、テストサンプルを室温において24時間、溶剤に浸漬して実施される。重量変化率が10wt%以下であれば、印刷基材の寸法変化が小さく、微細なパターンの印刷が可能であり、薄膜の均一塗布も可能となる。
【0048】
耐溶剤性の高い印刷基材用の材料を設計する指針として、用いる樹脂(A)を構成する主要部位と溶剤との溶解度パラメータの差が大きいものを選択することが好ましい。溶解度パラメータ(Solubility Parameter、以下SPと略す)とは、溶解度因子ともよばれ、物質の極性を示す指標であり、親和性の指標となる。溶解度パラメータについては、化学大辞典(東京化学同人社、1989年発行)にも記載がある。一般的に両者のSP値が近いほど互いに溶け合いやすく、また、一方が固体の時には濡れやすく、接着剤や溶剤の選択の一つの目安として使用されている。本発明においては、使用する電子材料あるいは光学材料に含有される溶剤に耐性を有していることが必要であるので、用いる樹脂(A)を構成する主要部位と溶剤との溶解度パラメータの差が大きいものを選択することが好ましい。
【0049】
例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ケロシン、アマニ油、大豆油、トルエン、キシレンなどの炭化水素化合物に対しては、炭化水素系のポリブタジエン骨格、ポリイソプレン骨格を有するプレポリマーを選択するよりも、不飽和ポリエステルやポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールを用いた不飽和ポリウレタンなどが好ましい。また、メチルピロリドン、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドなどの含窒素炭化水素化合物、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、γ−ブチロラクトンに対しては、ポリエステル、ポリウレタンを選択するよりも、ポリブタジエン等のポリアルキレン骨格を有するプレポリマーが好ましい。ブトキシエタノール、エトキシエタノールに対しては、不飽和ポリウレタン、ポリアルキレン骨格を有するポリマーが好ましい。クロルベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素化合物に対しては、不飽和ポリエステルが好ましい。安息香酸エステル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル化合物に対しては、不飽和ポリエステル、ポリカーボネートジオールを骨格に持つ不飽和ポリウレタンが好ましい。
【0050】
また、本発明の印刷基材の表面に改質層を形成させることにより、印刷版表面のタックの低減、電子材料あるいは光学材料への濡れ性の向上を行うこともできる。改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜等を挙げることができる。
広く用いられているシランカップリング剤は、基材の表面水酸基との反応性の高い官能基を分子内に有する化合物であり、そのような官能基とは、例えばトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリクロロシリル基、ジエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジモノクロロシリル基、モノエトキシシリル基、モノメトキシシリル基、モノクロロシリル基を挙げることができる。また、これらの官能基は分子内に少なくとも1つ以上存在し、基材の表面水酸基と反応することにより基材表面に固定化される。更に本発明のシランカップリング剤を構成する化合物は、分子内に反応性官能基としてアクリロイル基、メタクリロイル基、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、パーフルオロアルキル基、及びメルカプト基から選ばれた少なくとも1個の官能基を有するもの、あるいは長鎖アルキル基を有するものを用いることができる。
【0051】
本発明の印刷基材において、凹パターンを形成した後、得られた印刷基材の表面に紫外線を照射して、表面のべたつきを除去する工程を経ても構わない。紫外線を照射する雰囲気は、大気中、不活性ガス雰囲気下、水中などを挙げることができる。また、紫外線照射の前に、光重合開始剤を含有する処理液で印刷基材表面を処理することも好ましい方法である。
本発明の印刷基材は、印刷工程において長期間に渡り使用され使用頻度が極めて高かった場合などに、表面が若干磨耗し、表面の粗度が初期と変化する場合がある。その場合でも、印刷基材を再度、円筒状支持体上に固定し、表面を切削、研削、研磨等の手法を用いて調整することにより、印刷基材を再生することが可能である。
【0052】
本発明の印刷基材を用いて、被印刷基材上に感光性樹脂組成物(α)を塗布する際に使用する印刷機は、樹脂凸版を用いて印刷できるタイプの印刷機であれば特に限定するものでなく、市販のフレキソ印刷機、ドライオフセット印刷機、液晶配向膜印刷機等を挙げることができる。ロールからロールへの形態で印刷を行うフィルム、紙等への印刷を行う印刷機、枚様の被印刷基材に印刷する印刷機が市販されている。また、シート状印刷基材を版胴に巻きつけて使用する印刷機、中空円筒状印刷基材をエアーシリンダーに装着して使用するスリーブ対応印刷機であっても構わない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
(1)数平均分子量の測定
樹脂(A)及び(a)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。高速GPC装置「HLC−8020」(商標、日本国、東ソー社製)とポリスチレン充填カラム「TSKgel GMHXL」(商標、日本国、東ソー社製)を用い,テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。カラムの温度は40℃に設定した。GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1wt%のTHF溶液を調整し、注入量10μlとした。また、検出器としては、紫外吸収検出器を使用した。本発明の実施例或いは比較例で用いる樹脂(A)及び(a)は、GPC法で求めた多分散度(Mw/Mn)が1.1より大きいものであったため、GPC法で求めた数平均分子量Mnを採用した。
(2)粘度
感光性樹脂組成物の粘度は、B型粘度計(B8H型;日本国、東京計器社製)を用い、20℃で測定した。
(3)重合性不飽和基の数の測定
合成した樹脂(A)及び(a)の分子内に存在する重合性不飽和基の平均数は、未反応の低分子成分を液体クロマトグラフ法を用いて除去した後、核磁気共鳴スペクトル法(NMR法)を用いて分子構造解析し求めた。
【0054】
(実施例1)
樹脂(A)として水添ポリブタジエンジオールとトリレンジイソシアネートとからウレタン化により両末端が水酸基のポリウレタンを合成し、更に、該ポリウレタンの両末端にメタクリロキシイソシアネートを付加させた不飽和ポリウレタンを作製した。合成された不飽和ポリウレタンの数平均分子量は、約20000であった。不飽和ポリウレタン78重量部、有機化合物(B)としてラウリルメタクリレート(分子量245)13重量部と1,3−ブチレングリコールジメタクリレート(分子量226)3重量部およびポリプロピレングリコールジメタクリレート(分子量660)3重量部、光重合開始剤(C)として2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン0.6重量部、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチルアセトフェノン1重量部を混合し感光性樹脂組成物(ア)を調製した。感光性樹脂組成物(ア)の20℃における粘度は、35Pa・sであった。不飽和ポリウレタン末端の重合性不飽和基の数は、H−NMR法により2であることを確認した。
【0055】
ジカルボン酸成分がアジピン酸、フマル酸、イソフタル酸の重量比で2:1:1からなる混合物と、ジオール成分がジエチレングリコール、プロピレングリコールの重量比4:1からなる混合物を、ジカルボン酸成分とジオール成分が等モル比で縮重合させて数平均分子量約3000の不飽和ポリエステル樹脂(イ)を得た。また、ジカルボン酸成分がフマル酸、イソフタル酸、イタコン酸の重量比1:2:1からなる混合物と、ジエチレングリコールとを等モル比で縮重合させて数平均分子量約2500の不飽和ポリエステル樹脂(ウ)を得た。樹脂(A)として、不飽和ポリエステル樹脂(イ)50重量部と不飽和ポリエステル(ウ)50重量部、有機化合物(B)として2−ヒドロキシエチルメタクリレート(分子量:130)25重量部とジアセトンアクリルアミド(分子量:169)12重量部およびジエチレングリコールジメタクリレート(分子量:242)12重量部、光重合開始剤(C)としてベンゾインイソブチルエーテル4重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.2重量部を混合し、感光性樹脂組成物(エ)を得た。得られた感光性樹脂組成物(エ)の20℃の粘度は、12Pa・sであった。
【0056】
先ず感光性樹脂組成物(ア)を厚さ125μmのPETフィルム状に、厚さ2.5mmで塗布し、その上に作製した感光性樹脂組成物(エ)を厚さ0.2mmで塗布し、その上に厚さ15μmのカバーフィルムを被覆し、超高圧水銀灯の光を照射して光硬化させてシート状のレーザー彫刻用印刷原版を形成した。
得られたレーザー彫刻用印刷原版を、炭酸ガスレーザー彫刻機を用いてレーザー彫刻して、表面形状が四角形の凸パターン、すなわち四角錐台パターンを形成した。印刷版表面での四角形パターンの一辺の長さは10μm、底部での幅は20μmで、XY方向にピッチ100μmで10×10配列させた。また、形成したパターンの深さは50μmであった。
【0057】
樹脂(a)として、20℃で固体状であり、数平均分子量が15万であるスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)熱可塑性エラストマー60重量部と数平均分子量が約5万の液状ポリブタジエン30重量部、有機化合物(b)として数平均分子量が268の1,9−ノナンジオールジアクリレート7重量部、光重合開始剤(c)として2,2−ジメトキシ−フェニルアセトフェノン2重量部、ベンゾフェノン3重量部、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール1重量部を150℃に加熱してニーダーで混練して、樹脂インキ用感光性樹脂組成物(オ)を作製した。得られた感光性樹脂組成物(オ)20重量部に対し、トルエン60重量部を混合し、液状インキを調整した。
【0058】
フレキソ印刷仕様の精密印刷機「JSC−m4050−M」(日本電子精機社製、商標)を用いて、アニロックスロール上の樹脂インキを、前記シート状印刷版をシリンダー表面に貼り付けて形成した円筒状印刷版表面の凸部に転写し、更に、ガラス基板上に液状インキを転写することにより印刷を行った。得られた液状インキパターンから溶剤成分を乾燥除去して固体状の感光性樹脂組成物(β)を形成させた。パターン幅は印刷版のパターン幅とほぼ同じ幅で、厚さは約3μmであった。
このようにして得られた感光性樹脂組成物(β)を、更に赤外線ヒーターを用いて約180℃で熱処理して溶融させることにより中央部が若干盛り上がった半球状の感光性樹脂組成物(γ)に変形させることができた。
次に、得られた感光性樹脂組成物(γ)の全面に超高圧水銀灯の光を照射し、光硬化させて半球状の光硬化物を得た。得られた半球状パターンの底面の直径は約6μm、高さは約6μmであった。得られた10×10配列の100個のパターンについて高さのばらつきは、平均値である5.7に対し±0.2μmの範囲であった。
液状インキを塗布してから半球状のパターンが形成されるまでに要した時間は、5分以内であった。
【0059】
(比較例1)
スペーサー形成用感光性樹脂組成物「オプトマーNN700」(JSR社製、商標)を、スピンコーター「1H−360S」(ミカサ社製、商標)を用いて、回転数を段階的に上げる条件で厚さ8μmに塗布し、その後、溶剤を乾燥除去し感光性樹脂層を形成した。この際、ガラス基板上に滴下したスペーサー用感光性樹脂組成物の重量とガラス基板上に残存した乾燥前のスペーサー用感光性樹脂組成物の重量から、95wt%のインキがガラス基板外に排出された。
その後、フォトリソグラフィーを用いて露光、現像工程を経てスペーサー用パターンを形成した。露光工程では、マスクアライナー「PLA−600」(キヤノン社製、商標)を用いて、ガラスクロムマスクを通して光を照射して潜像を形成し、その後アルカリ系現像液での現像工程、純水でのリンス工程を経てスペーサーパターンを形成した。得られたパターンの形状は円錐台状で、底面の直径が約7μm、上部の直径が約4μm、高さは約6μmであった。現像工程において、スピンコート法で形成された感光性樹脂層の95%は未硬化部として除去された。
スペーサー用感光性樹脂組成物をスピンコート法で塗布してから、スペーサーパターンが形成されるまでに要した時間は、10分以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は液晶ディスプレイの製造で用いるスペーサー等の製造方法に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状光硬化物パターンを形成する方法であって、(i)感光性樹脂組成物(α)を含有する液状インキを、印刷法を用いて被印刷基材上の特定の位置に塗布する工程、(iii)塗布された感光性樹脂組成物を加熱することにより半球状に成形する工程、(iv)半球状に成形された感光性樹脂組成物(γ)の全面に高エネルギー線を照射し硬化させ半球状光硬化物パターンを形成する工程を含むことを特徴とする半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項2】
工程(i)と工程(iii)の間に、更に、(ii)感光性樹脂組成物(α)を、固体状の感光性樹脂組成物(β)に変化させる工程を含む、請求項1に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項3】
感光性樹脂組成物(α)を固体状の感光性樹脂組成物(β)に変化させる方法が、感光性樹脂組成物(α)中の溶剤成分を除去する方法である、請求項2に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項4】
工程(iii)の後に、更に、該半球状化した感光性樹脂組成物(γ)を冷却する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項5】
液状インキを塗布する方法が、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法からなる群より選択される少なくとも1種類の方法である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項6】
感光性樹脂組成物(α)が、樹脂(a)、有機化合物(b)、光重合開始剤(c)とを含有し、樹脂(a)が20℃において固体状であり、数平均分子量が1000以上50万以下であり、有機化合物(b)が重合性官能基を有し数平均分子量が1000未満である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項7】
感光性樹脂組成物(α)が、更に、有機珪素化合物および/又は有機フッ素化合物を含有する、請求項6に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項8】
光重合開始剤(c)が、崩壊型光重合開始剤および水素引き抜き型重合開始剤を含むか、あるいは崩壊型光重合開始剤として機能する部位と水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位を有する化合物を含む、請求項6に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項9】
被印刷基材が、ガラス基板、セラミックス基板、金属製基板、フィルム、紙からなる群より選択される少なくとも1種類の基材である、請求項1に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項10】
半球状光硬化物パターンが、液晶ディスプレイ用のスペーサー材料として使用される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項11】
液状インキを塗布する方法がフレキソ印刷法であって、フレキソ印刷法で用いる表面に凸パターンを有する印刷基材が、写真製版技術を用いて前記パターンが形成された感光性樹脂印刷版であるか、あるいはレーザー彫刻法を用いて前記パターンが形成されたレーザー彫刻印刷版である、請求項1に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項12】
工程(iii)において、感光性樹脂組成物を60℃以上200℃以下に加熱し、、熱源が熱線、赤外線、マイクロ波から選択される少なくとも1種類の熱源である、請求項1から11のいずれか1項に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項13】
工程(ii)で得られる感光性樹脂組成物(β)の厚さよりも、工程(iii)で得られる感光性樹脂組成物(γ)の厚さが厚い、請求項2に記載の半球状光硬化物パターンの形成方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法で形成された半球状光硬化物パターン。
【請求項15】
半球状光硬化物パターンの高さばらつきが、±5%以内の範囲である、請求項14に記載の半球状光硬化物パターン。

【公開番号】特開2008−76875(P2008−76875A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257670(P2006−257670)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】