説明

半絶縁性GaAs単結晶ウエハ

【課題】半導体装置の製造工程において発生するスリップ転位や割れを防止できる半絶縁性GaAs単結晶ウエハを提供する。
【解決手段】直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハを対象にし、ウエハの中心から0.9Rを超える外周部の転位密度をウエハの中心から0.9Rより内側に位置する中心部の転位密度の平均値の1.5倍以上にすると共に外周部の転位密度を120,000個/cm以上にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は直径が6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハに関するもので、特に半導体装置の性能向上及び製造歩留まり向上に寄与する半絶縁性GaAs単結晶ウエハを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
半絶縁性GaAs単結晶ウエハはシリコンウエハに比較して電子移動度が高いこと、シート抵抗が数MΩ/口と高いためリーク電流や寄生容量が低減できることから高速動作及び低消費電力が要求される半導体装置例えばGaAsFET GaAsIC等に広く使用されている。
【0003】
半絶縁性GaAs単結晶ウエハを使用した半導体装置が期待する性能を発揮すると共に高い製造歩留まりを実現するためには、結晶性の高い半絶縁性GaAs単結晶ウエハが必要になる。半絶縁性GaAs単結晶ウエハは、例えばLEC法と称する技術で製造された柱状の半絶縁性GaAs単結晶を薄い円盤状にスライスすることによって製造している。LEC法は、高圧の不活性ガス雰囲気に維持された坩堝中に保持され表面封止液体で覆われたGaAs原料融液に種結晶を接触させ、この種結晶を引き上げつつ種結晶の鉛直下方に単結晶を成長させる技術である(特許文献1)。このLEC法は種結晶の引き上げ時に1200度を超える高温のGaAs原料融液を低率で降温すること、種結晶及び坩堝を互いに反対方向に低速で回転すること、柱状の半絶縁性GaAs単結晶の外径を所定値に制御すること、結晶成長後に室温まで冷却すること等複雑な制御を必要としている。特に、単結晶の成長、冷却の過程で結晶中心部と外周部の温度差に起因して熱応力が加わることにより、ウエハ面内で転位密度に特定のパターン、即ちウエハの面内において外周部より中央部において転移密度が高くなることが知られている。本発明者は、この点に注目してウエハの外周部の転位密度を中央部のそれより高くする方法を提案した(特許文献2)。具体的には、成長時における結晶の成長方向における温度勾配を規定することにより、ウエハの半径をRとした時、中心から2/3Rまでの領域の転位密度を他の領域のそれより小さくすることが可能になり、これによって半導体装置の製造工程の歩留まり向上及び半導体装置のリーク電流低減を実現できることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−23867号
【特許文献2】特開2008−273804号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示された半絶縁性GaAs単結晶の製造方法を用いても、そのGaAs単結晶ウエハを使用する半導体装置の製造工程の歩留まり向上及び半導体装置のリーク電流低減は十分でなかった。例えば、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶をウエハとして用いる半導体装置の製造において、転位密度の影響でイオン注入後の活性化アニール処理及び気相エピタキシャル法(MOVPE法)によるエピ成長後に、GaAs単結晶ウエハにスリップ転位の発生やウエハ割れが発生し、半導体装置として使用できないという不都合がある。
【0006】
本発明の1つの目的は、上記不都合を解決する半絶縁性GaAs単結晶ウエハを提供することにある。
本発明の別の目的は実施例の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成する本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの特徴とするところは、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハであって、その面内において最も転位密度の高い個所が外周部に位置する点にある。具体的には、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハの半径をRとしたとき半絶縁性GaAs単結晶ウエハの中心から0.9Rより外側に位置している領域を外周部といい、半絶縁性GaAs単結晶ウエハ面内において最も転位密度の高い個所が外周部に位置する点にある。
【0008】
上述の目的を達成する本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの他の特徴とするところは、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハの外周部の転位密度が、ウエハの中心から0.9Rより内側の転位密度の平均値の1.5倍以上である点にある。これによって、スリップ発生率を略0%にすることが可能になる。
【0009】
上述の目的を達成する本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの別の特徴とするところは、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハの外周部の転位密度が、120,000個/cm以上である点にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハの外周部の転位密度が、ウエハの中心から0.9Rより内側の転位密度の平均値の1.5倍以上になっているため、半絶縁性GaAs単結晶ウエハを利用して半導体装置を製造する工程において、ウエハ周縁に発生するスリップSや、ウエハの湾曲及び割れを防止出来る。これによって、半導体装置の製造工程における歩留まりが大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの概略平面図である。
【図2】本発明は半絶縁性GaAs単結晶ウエハに発生するスリップを説明する概略平面図である。
【図3】外周部の転位密度と、転位密度比率(外周部の転位密度/中心部の転位密度)とスリップ発生率との関係を示す概略図である。
【図4】本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの製造に使用する成長炉の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の最良の実施形態は、直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハを対象とし、ウエハの中心から0.9Rを超える外周部の転位密度をウエハの中心から0.9Rより内側に位置する中心部の転位密度の平均値の1.5倍以上にすると共に外周部の転位密度を120,000個/cm以上にした構成である。
以下、本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの好ましい実施形態を図面を用いて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハを説明するための概略平面図で、図において、Wは直径6インチ以上の円形を有する半絶縁性GaAs単結晶ウエハで、その半径をRとすると中心から0.9Rまでの領域を中心部W1、それより外周側の領域即ち中心から0.9Rを超える領域を外周部W2と称す。外周部W2の転位密度は中心部W1の転位密度より高く、具体的には外周部W2の転位密度は中心部W1の転位密度の1.5倍になっている。また、半絶縁性GaAs単結晶ウエハの外周部の転位密度は120,000個/cm以上で、中心部の転位密度の平均は80,000個/cmになっている。転位密度をこのようにすることにより、半絶縁性GaAs単結晶ウエハを利用して半導体装置を製造する工程において、図2に示すようなウエハ周縁に発生するスリップSや、ウエハの湾曲及び割れを防止することが出来る。
【0014】
半絶縁性GaAs単結晶ウエハについて、外周部の転位密度と、転位密度比率(外周部の転位密度/中心部の転位密度)とスリップ発生率との関係を調査したところ図3に示す関係が得られた。図3は横軸に外周部の転位密度、縦軸に転位密度比率(外周部の転位密度/中心部の転位密度)を取り、スリップ発生率をファクターにして関係を示してある。この図の破線で示した領域、即ち、外周部の転位密度を120,000個/cm以上にし、転位密度比率(外周部の転位密度/中心部の転位密度)を1.5以上にすることによりスリップ発生率を0%にすることが可能であることが理解できる。
【実施例2】
【0015】
図4は本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハの製造に使用する成長炉(LEC炉)の概略構成図である。図において、1は圧力容器、2は圧力容器1内に配置された原料を溶融するPBN製の坩堝、3は上端が圧力容器1外に設置された駆動装置(図示せず)に連なり、下方先端に種結晶4を保持する引上げ軸、5は坩堝2をグラファイト製のサセプタ6で支持して回転すると共に上下移動するグラファイト製のペデスタル、7は坩堝2内の原料を加熱するヒーター、8はペデスタル5内に熱電対である。ペデスタル5の下端は圧力容器1外に設置された駆動装置(図示せず)に連なっている。
【0016】
図4は成長炉を用いて半絶縁性GaAs単結晶を製造する方法を説明する。先ず場合には、まず圧力容器1内を所定圧力の不活性ガス雰囲気に保持し、坩堝2内に原料としてのIII族元素Ga及びV族元素Asと液体封止材を案内し、ヒーター7で加熱溶融する。具体的には、ヒーター8の温度が液体封止材の溶融温度に達すると液体封止材が溶融し、次に原料の溶融温度に達すると原料が溶融する。一般に、GaAs融液9の比重が液体封止材2の融液10より大きいので、GaAs融液9の表面が液体封止材の融液10で被覆された状態で坩堝2内に保持される。これによって、GaAs融液9からAs元素の解離が防止される。この状態で、引上げ軸3を下降して種結晶4をGaAs融液9に接触させて結晶成長を開始する。種結晶4をGaAs融液9に接触させた状態で、GaAs融液9の温度を徐々に下げながら引上げ軸3をゆっくり引上げることにより種結晶の下端面に半絶縁性GaAs単結晶が成長する。結晶成長時には引上げ軸3と坩堝2を互いに反対方向に回転させる。
【0017】
図4に示す成長炉を用いて本発明半絶縁性GaAs単結晶ウエハを製造する方法を説明する。直径300mmの坩堝2に40kgのGaAsの多結晶原料と液体封止材としてのBを4kgチャージし、圧力容器内の雰囲気を不活性ガスで置換する。具体的には真空引きにより排気した後、不活性ガスを充填する方法で実施する。この状態で、坩堝2をヒーター7により加熱してGaAsの融点である1238℃以上に昇温し、GaAsの多結晶原料を融解した。次に、引上げ軸3を下降して、下端に取り付けた種結晶4の先端を原料融液9に接触させ、温度に十分なじませた後、温度コントローラによりヒーター7の設定温度を3℃/hの割合で下げながら、種結晶4を6〜10mm/hの速度でゆっくりと引上げた。結晶成長時は、引上げ軸3及びペデスタル5により種結晶4は時計廻りに5rpmで、坩堝2は反時計廻りに20rpmでそれぞれ回転した。結晶肩部の成長が終了して直径が約160mmになった時に、外部コントローラにより成長結晶の外径の自動制御を開始した。外径の自動制御とは、成長した結晶の重量を引上げ軸3に設置したロードセルによりリアルタイムで計測し、単位時間当たりの重量の増加分と引上げ軸3の移動量から成長結晶の外径をモニタし、成長結晶の外径が設定した値になるようにヒーター7の温度制御を行う温度コントローラにフィードバックを行う制御である。結晶成長中は成長量の増加に伴い原料融液9の量が徐々に減少し、原料融液9の液面位置が低下する。この原料融液9の液面位置低下を補正するべく、引上げ軸3に設置したロードセルの出力から液面の低下量を計算し、常に原料融液9の液面がヒーター7に対して定位置に来るように坩堝2を自動で上昇させる制御を行っている。成長させた結晶をチャージしたGaAsの多結晶原料の所定の重量まで引上げられた時点でヒーター7の温度を上昇させ、結晶の尾部形状を形成した後、結晶を原料融液9から切り離して室温まで冷却し、直径160mmの柱状の半絶縁性GaAs単結晶インゴットを得た。この柱状の半絶縁性GaAs単結晶インゴットは、通常の加工工程即ち、その円柱状の外周面を円筒研削機により研削して所定寸法の直径に仕上げ、長手方向と直角方向にスライスし、スライスされた円盤状の基板にラッピング、エッチング、ポリッシング等を施すことにより、直径152.4mm(6インチ)の半絶縁性GaAs単結晶ウエハを得た。また、半絶縁性GaAs単結晶ウエハに結晶方位を示すオリエンタルフラットを設けることがある。この半絶縁性GaAs単結晶ウエハの中心から0.9R=137.2mmより外周側の領域の転位密度を測定したところ、ウエハ面内で最高値の120,000個/cmであり、中心から0.9R=137.2mmより内側の領域の転位密度の平均は80,000個/cmであった。転位密度の測定は、半絶縁性GaAs単結晶ウエハをエッチングして生じるエッチピットの数を電子顕微鏡でカウントすることで行った。この半絶縁性GaAs単結晶ウエハを用いて気相エピタキシャル法によりエピ成長を100枚実施したが、スリップ転位やウエハ割れは発生しなかった。
【符号の説明】
【0018】
W 半絶縁性GaAs単結晶ウエハ
W1 中心部
W2 外周部
S スリット
R ウエハの半径
1 圧力容器
2 坩堝
3 引上げ軸
4 種結晶4
5 ペデスタル
6 サセプタ
7 ヒーター
8 熱電対
9 原料融液
10 液体封止材の融液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径6インチ以上の半絶縁性GaAs単結晶ウエハであって、その面内において最も転位密度の高い個所が外周部に位置することを特徴とする半絶縁性GaAs単結晶ウエハ。
【請求項2】
前記外周部が、前記ウエハの半径をRとしたとき前記ウエハの中心から0.9Rより
外側に位置していることを特徴とする請求項1記載の半絶縁性GaAs単結晶ウエハ。
【請求項3】
前記外周部の転位密度が、前記ウエハの中心から0.9Rより内側の転位密度の平均値の1.5倍以上であることを特徴とする請求項1記載の半絶縁性GaAs単結晶ウエハ。
【請求項4】
前記外周部の転位密度が、120,000個/cm2以上であることを特徴とする請求項1乃至3記載の半絶縁性GaAs単結晶ウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31004(P2012−31004A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171268(P2010−171268)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】