説明

半自動アーク溶接におけるスパッタ付着防止剤の発明。

【課題】ノズルにスパッタの付着を防止するスパッタ付着防止剤を提供する。
【解決手段】黒鉛と金属の酸化物、酸化重合形樹脂、オルガノポリシロキサン、超微粒子状無水シリカ等からなるものである。このスパッタ8付着防止剤をノズル1の内外に塗布することで硬質厚膜が形成され、スパッタ付着防止に効果を表わしている。ノズルのクリーニングは、無塗布の状態に比べ格段と軽微なものとなり、長時間の作業に耐えることが可能で、作業効率の向上、溶接の質向上を実現できた。また、当該スパッタ付着防止剤のもう一つの特徴は、ノズルへの塗布方法を選択できる仕様分けをしていることである。例えば、小口の溶接を行なう時は、利便性のあるスプレータイプ(油性、水性)とロボット溶接のような多くのノズルを使用する場合は浸漬タイプ(油性、水性)を使用し、作業前に塗膜を乾かしておけば好条件で使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半自動アーク溶接の炭酸ガスシールド法のトーチノズルにスパッタの付着防止に関する発明である。
【0002】
本発明は溶接作業の効率化向上と溶接品質の向上を確保できる技術の発明である。
【0003】
スパッタ付着防止剤の使用により労働環境の改善に寄与できる技術の発明である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−275871公報
【特許文献2】特開2004−230413公報
【非特許文献1】特許庁・特許マップ、アーク溶接技術1,3,2,マグ溶接(1)〜(3)応用研究の現状
【0005】
特許文献1は、アーク溶接におけるシールドガスにスパッタ抑制剤を分散させるための制御装置を提供するものである。自動溶接機であり、大仕掛けな装置で汎用的でない。対投資効果などは望めない。
【0006】
特許文献2は、レーザー加工方法及びレーザー加工装置にスパッタ防止剤を噴射剤を噴射させる大仕掛けな装置であり、半自動のアーク溶接機への応用性は考えにくい。
【0007】
非特許文献1
(1)技術内容
マグ(MAG:Metal Active Gas)溶接法は、溶接電源、ワイヤ送給装置、溶接トーチ、シールドガスボンベ、ガス流量調節器、遠隔制御器などから構成されている。(図―省略・出典:米国特許4857692)
溶接が開始されると、溶接ワイヤが連続的に送給され、溶接ワイヤと母材間に発生したアークが持続されて、溶接が進行する。溶接ワイヤはアークを発生する電極と同時にそのアーク熱によって自らも溶融して溶接金属を形成する。
この際、溶接トーチ先端部のノズルより流出するシールドガスによって溶接金属を遮蔽し、大気の悪影響を防ぐ。(図―省略・出典:米国特許5081334)
シールドガスとしては、炭酸ガスのほかに、通常75〜80%のアルゴンガスに20〜25%の炭酸ガスを混合したガスが用いられる。
本法では、溶接ワイヤやシールドガスは自動的に送給されるが、溶接トーチの操作を溶接工が行なうことが多いので半自動溶接の代表的な方法として知られている。
本法は被覆アーク溶接にくらべ次のような利点がある。(マグ溶接法の利点)
▲1▼溶接速度が大きいので溶接を早く仕上げることができる。
▲2▼溶着効率が高いので溶接材料を節約することができる。
▲3▼溶け込みが深いので母材の開先断面積を減らすことが出来る。
なお、溶接ワイヤにはソリッドワイヤやフラックス入りワイヤが使用される。
この場合溶接作業性や溶接金属の機械的性質に相違が生じるが、前述した技術内容は同じである。
また、「マグ溶接」という用語は近年シールドガスの種類、特性を考慮して定義されたもので溶接法の原理はマグ溶接や炭酸ガスアーク溶接と同じである。
(2)適用分野
マグ溶接法に使用されるソリッドワイヤとフラックス入りワイヤの合計量の全溶接材料生産量に占める割合は、10年前は約42%であったが、現在ではそれが64%まで増加している。この現象はマグ溶接法がより多く使用されるようになったことは言うまでもなく、またあくまでも平均的な使用比率であるが、溶接の半自動化、自動化、さらにはロボット化が激しい経済環境に置かれた重厚長大産業のコスト削減及び人手不足対策として近年急速に進展してきたことを裏付けるものがある。
そのような趨勢の中で、もともと代表的な半自動溶接法であったマグ溶接法の適用分野が拡大してきたのは当然といえる。なぜならマグ溶接法では溶接ワイヤが連続的に送給されながら溶接が進行し、しかも溶接姿勢が限定されないうえ、可視アークであり制御がしやすいことから、半自動化にとどまらず、自動化、ロボット化、が最も容易な溶接法であるからである。
また、このような溶接の高効率化指向のなかで作業性や能率性の優れたフラックス入りワイヤの開発と普及が果たした役割は特に大きいといえる。
マグ溶接法の主要な適用分野は鉄骨、橋梁、造船、海洋構造物、自動車、車両、産業機械、などである。適用鋼種は軟鋼、高張力鋼、低合金鋼、ステンレス鋼などで、実用鋼鉄鋼材料のほとんど全てに及んでいる。
(3)応用研究の現状
マグ溶接法で使用する溶接材料にはソリッドワイヤとフラックス入りワイヤがあるが、この10年間の生産量はおよそ3倍の伸びを示している。
これは特にフラックス入りワイヤを用いるマグ溶接の分野が拡大してきたことを意味するものである。
このため、溶接材料に関して言えば応用研究もこの分野に関するものが中心である。
応用研究の内容はその目的によって次のように分類することが出来る。
▲1▼溶接作業環境の改善
▲2▼溶接の高効率化
▲3▼溶接の高品質化
▲4▼溶接の脱技能化
以上、アーク溶接(1)〜(3)をプレビユーの結果からも当該部門の今後の展開は非常に有望視されている。異質であるが化学品の特性を生かし、「スパッタ付着防止剤」がこの分野で寄与貢献できることが確信できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、「0007」のアーク溶接技術の応用研究の現状を更に改善できる一環として、ノズルへのスパッタ付着防止剤の硬質厚膜形成を提供するものである。
【問題を解決するための手段】
【0009】
「請求項1」の発明は、炭酸ガスアーク溶接においてノズルのスパッタ付着防止剤を研究開発したものである。
【0010】
「請求項1」の発明は、黒鉛と金属酸化物、微粒子酸化物から形成される層間化合物を構成し、これが硬質厚膜の超高熱耐久コーテングを可能としている。
【0011】
硬質厚膜は黒鉛の滑り性が作用し、当該膜の表面へのスパッタの付着抑制に寄与し、かつ防汚性にも機能していると考える。
【0012】
「0011」の塗膜は、再スプレイ、再浸漬を繰り返すことで厚膜が補強されると考えられる。
【0013】
「請求項1」の発明では、黒鉛は、スパッタ付着防止剤の全量にたいして望ましい量は、スプレイ型、浸漬型とも0.1〜7.0%である。
【0014】
「請求項1」の発明では、酸化重合形樹脂として、アルキド樹脂をスパッタ付着防止剤の全量にたいして望ましい量は、スプレイ型は、5.0〜25.0%、浸漬型は15.0〜35.0%である。
【0015】
「請求項1」の発明では、二酸化チタンはスパッタ付着防止剤の全量にたいして望ましい量は、スプレイ型、浸漬型とも10.0〜25.0%である。
【0016】
「請求項1」の発明では、スプレイ型油性タイプの溶剤は、スパッタ付着防止剤の全量にたいして、アセトン40.0〜50.0%又は、イソプロピルアルコール40.0〜50.0%、酢酸ブチル40.0〜50.0%、メチルイソブチルケトン5.0〜15.0%が望ましい。
【0017】
「請求項1」の発明では、スプレイ型水性タイプの溶剤は、スパッタ付着防止剤の全量にたいして、アセトン40.0〜50.0%又は、第二ブタノール40.0〜50.0%、イソプロピルアルコール40.0〜50.0%、メチルイソブチルケトン5.0〜15.0%が望ましい。
【0018】
「請求項1」の発明では、浸漬型油性タイプの溶剤は、スパッタ付着防止剤の全量にたいして、ミネラルスピリット40.0〜50.0%が望ましい。
【0019】
「請求項1」の発明では、浸漬型水性タイプの溶剤は、イソプロピルアルコール又は第2ブタノール40.0〜50.0%、純水20.0〜40.0%使用するのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のスパッタ付着防止剤は、長時間保存後でも安定性が高く、経時変化は認められず常時良好な状態で使用できる。
【0021】
本発明のスパッタ付着防止剤は、油性、水性、両タイプとも速乾性に優れており、使い易い。
【0022】
本発明のスパッタ付着防止剤は、溶接作業を中断し、若干の自然空冷の後でもスプレイを施すことができる。
【0023】
本発明のスパッタ付着防止剤を無塗布の場合は、スパッタがノズル先端部の内外面に付着固化し、(図2の状態)ヤスリや治具で除去していたが、当該スパッタ付着防止剤を使用すると1日に数回、布またはナイロンブラシ等で処理でき、作業効率が顕著にあがった。
【0024】
ノズルの傷や変形にはスパッタが成長する原因になるが、これが解決できたのでノズルの消耗が軽減できている。
【0025】
肉盛溶接が非常に綺麗な仕上がりで全般的に高品質の溶接が完成している。
【実施例1】
【0026】
実施例 ノズルへのスパッタ付着量の測定
実施条件 炭酸ガスアーク溶接
ソリッドワイヤ 1.2mm
320A電源 すみ肉溶接 各水準N=7、総N数35×3=105

スプレイ型においては、油性、水性では殆ど差異はなく、浸漬型においては油性タイプが膜付き良い結果を表している。
無塗布の場合は、大きな格差が表れており、当該スパッタ付着防止剤の有効性を立証している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例の概念図
【図2】スパッタ付着状態のスケッチ
【符号の説明】
【0028】
1.ノズル(内径19mm、長さ88mm)
2.コンタクトチップ
3.溶接ワイヤ
4.シールドガス
5.溶融池
6.母材 A
7.母材 B
8.付着スパッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸ガスアーク溶接において、トーチの核心部を保護するノズルにスパッタの付着を防止するスパッタ付着防止剤である。
【請求項2】
二酸化チタン(TiO)、黒鉛を主剤とし、更にアルキド樹脂、有機溶剤、を含むことを特徴とするスパッタ付着防止剤である。
【請求項3】
二酸化チタン(TiO)、黒鉛を主剤とし、更にアルキド樹脂、水、を含むことを特徴とするスパッタ付着防止剤である。
【請求項4】
二酸化チタン(TiO)、が二酸化チタン以外の微粒子酸化物である「請求項1」に記載したスパッタ付着防止剤である。
【請求項5】
微粒子酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)、二硫化タングステン(WS)、酸化タングステン(WO)、酸化マンガン(MnO)酸化第二鉄(Fe)、酸化アルミニウム(Al)、窒化ホウ素(BN)、二硫化モリブデン(MoS)、石膏(CaSO)、炭酸カルシウム(CaCO)、オルガノポリシロキサン、超微粒子状無水シリカ、等からなる群より選ばれた1種以上の化合物で「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項6】
「請求項5」の酸化物単体の融点は、850℃以上が望ましいスパッタ付着防止剤である。
【請求項7】
「請求項2」乃至「請求項3」で形成された塗膜は、1,800℃耐久を実現できるスパッタ付着防止剤である。
【請求項8】
当該、スパッタ付着防止剤の用法は、少量使用時に利便性のある「密閉型(スプレイ型)」とロボット溶接などに多量のノズルを使用するときの「開放型(浸漬型)」(所謂ドブ漬け法)との選択ができる「請求項1」に記載したスパッタ付着防止剤である。
【請求項9】
「請求項8」の「密閉型(スプレイ型)」と「開放型(浸漬型)」は、各々「油性」と「水性」の種類を提供できる「請求項1」に記載したスパッタ付着防止剤である。
【請求項10】
「請求項9」の「密閉型(スプレイ型)」の「水性」タイプの噴射剤は、DME・ジメチルエーテル・である「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項11】
「請求項9」の「密閉型(スプレイ型)」の「油性」タイプの噴射剤は、LPG・(C)である「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項12】
「請求項10」の「密閉型(スプレイ型)の「水性」タイプの溶剤は、アセトン、または第2ブタノール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、仕様の「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項13】
「請求項11」の「密閉型(スプレイ型)の「油性」タイプの溶剤は、アセトン、又は酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、ミネラルスピリット、仕様の「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項14】
「請求項9」の「開放型(浸漬型)」の「水性」タイプの溶剤はアセトン、又は第2ブタノール、イソプロピルアルコール仕様の「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。
【請求項15】
「請求項9」の「開放型(浸漬型)」の「油性」タイプの溶剤はミネラルスピリット仕様の「請求項1」に記載のスパッタ付着防止剤である。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−162599(P2010−162599A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169481(P2009−169481)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(502131361)株式会社海保技研 (1)
【Fターム(参考)】