説明

単一チューブ型光ファイバケーブル

【課題】細径化・軽量化を図りながら、マイクロダクトへの良好な空気圧送特性を実現することができ、かつ低温環境下においても良好な伝送特性を維持できる単一チューブ型光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】マイクロダクトに布設するための単一チューブ型光ファイバケーブルであって、1本又は複数本の光ファイバ2を止水可能な充填材6とともに収容したチューブ3の周囲に、繊維強化プラスチック(FRP)からなるロッド状の抗張力体4を3本又は4本撚り合わせ、ケーブル外被5として前記抗張力体を埋め込む態様でプラスチック材料を被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、マイクロダクトに布設するための単一チューブ型光ファイバケーブルに関し、特に低温環境での伝送特性、マイクロダクトへの空気圧送特性を向上させたものである。
【背景技術】
【0002】
既設のマイクロダクト(細径の管状ダクト)にケーブルを空気圧送により送り込む工法は、マイクロダクトシステム工法と称され、海外(特にダクト配線が主流のエリア)において導入されつつある。
光ネットワークの拡大にあわせて、必要な光ファイバをすばやく増設することが可能であるこのシステムは、FTTHの実現に有効な手段と考えられ、ケーブル構造・敷設工法の観点から多くの研究がなされ報告されている。
【0003】
公知の単一チューブ型光ファイバケーブルとして、図3に示すように、複数の光ファイバ12を有する単一のバッファチューブ13と、プラスチック材料からなるジャケット15と、ジャケット15の内面付近に180度間隔で埋設された2本の強度部材(抗張力体)14とを備えた単一チューブ型光ファイバケーブル11がある(特許文献1)。
この2本の強度部材14は、ケーブルに沿って並行(縦添え)に配置されている。同図において、16はバッファチューブ13上に逆螺旋状に巻かれた強度糸、17は鋼製外装である。
この光ファイバケーブル11は、(a)全ての型の戸外の取付けを含む多種の取付けに使用されることを可能にする、(b)多くの従来のケーブルと比較して、ダクトの取付けを容易にするために全体の直径および重量を減少させるケーブル設計を可能にする、(c)容易に経済的に製造されることが可能であり動作寿命が長い等の効果を奏する、とされる。
【0004】
また、図4に示した単一チューブ型光ファイバケーブル21は、複数の光ファイバ22を有する単一のバッファチューブ23と、このバッファチューブ23の周囲に撚り合わせた多数本の強度部材24からなる強度部材層と、最外層のジャケット25とを備え、前記強度部材24はガラス糸(glass yarn)若しくはガラス繊維(glass fibers)であり、互いに接合されかつ薄い接着剤層26で覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−212907
【特許文献2】US 2004/0240811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の光ファイバケーブル11は、ジャケット15の内面付近に180度間隔で埋設された2個の強度部材(抗張力体)14を含むように構成されているので、ケーブルの曲げ方向が限定され(すなわち、図3のA−A線と直角な方向にしか曲がらない)、したがって、マイクロダクト内への空気圧送での布設特性向上が困難な可能性がある。
【0007】
また、特許文献2の光ファイバケーブル21は、強度部材24としてガラス糸(glass
yarn)若しくはガラス繊維(glass fibers)を用いるように構成されているので、−30℃の動作温度(operation temperature)で、ケーブルの長手方向の圧縮に耐えて良好な伝送特性を維持するには、大量のガラス糸若しくはガラス繊維が必要となる可能性がある。
【0008】
マイクロダクトシステム工法は、上記のように光ネットワークの拡大にあわせて必要な光ファイバをすばやく増設することが可能でFTTHの実現に極めて有効な手段なので、特にアクセス/ドロップエリアにおいてこのマイクロダクトシステム工法を適用するのに好適な光ファイバケーブルが求められる。
そのために、少心化需要に容易に対応できるためのケーブル細径化・軽量化を図りながら、マイクロダクトへの良好な空気圧送特性を実現し、かつ低温環境下において伝送特性を損なわない光ファイバケーブルが望まれる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、細径化・軽量化を図りながら、マイクロダクトへの良好な空気圧送特性を実現することができ、かつ低温環境下においても良好な伝送特性を維持できる単一チューブ型光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する請求項1の発明は、マイクロダクトに布設するための単一チューブ型光ファイバケーブルであって、
1本又は複数本の光ファイバを止水可能な充填材とともに収容したチューブの周囲に、繊維強化プラスチック(FRP)からなるロッド状の抗張力体を3本又は4本撚り合わせ、ケーブル外被として前記抗張力体を埋め込む態様でプラスチック材料を被覆したことを特徴とする。
【0011】
請求項2は、請求項1の単一チューブ型光ファイバケーブルにおいて、チューブ内の光ファイバの心数が24心以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抗張力体がFRPからなるロッド状をなすので、剛性を確保することができ、低温時にケーブルのプラスチック材料(ケーブル外被)の収縮によるケーブル長手方向の圧縮に耐えることができる。したがって、低温時にプラスチック材料の収縮によりチューブ内でファイバに余長が生じてその余長による蛇行曲率半径が極端に小さくなる、という問題は軽減され、低温時においても良好な伝送特性を確保できる。
【0013】
3本又は4本の抗張力体がチューブの周囲に、それらが並行して配置される縦添えではなく撚り合わされているので、従来の180度間隔で並行して埋設される構造とは異なり、ケーブルの曲げ方向が限定されることはなく、任意の方向に曲がることができる。
また、抗張力体の材質がFRPで柔軟性があり、かつ、本数が前記の通り3本又は4本という最小限の本数とされているという点でも、任意の方向に曲がることが可能になっている。
また、FRPからなるロッド状の抗張力体を3本又は4本撚り合わせた構造であることで、前記の柔軟性と同時に、マイクロダクトへの空気圧送布設に耐えられる機械的強度を得ることができる。
したがって、マイクロダクト内に空気圧送する際の空気圧送特性が向上し、遠距離への空気圧送が可能となり、また、ケーブル布設の作業性が向上する。
また、抗張力体として金属材料を用いる場合と比べると、ケーブル全体が軽量化される。この点でも、空気圧送特性が向上し、遠距離での空気圧送が可能となり、また、ケーブル布設の作業性が向上し、効率的・経済的なFTTHのネットワーク構築が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例の単一チューブ型光ファイバケーブルの断面図である。
【図2】上記単一チューブ型光ファイバケーブルについてマイクロダクト内への空気圧送試験をした結果を示すグラフである。
【図3】従来の単一チューブ型光ファイバケーブルを示す斜視図である。
【図4】他の従来の単一チューブ型光ファイバケーブルを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施した単一チューブ型光ファイバケーブルについて、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の一実施例の単一チューブ型光ファイバケーブル1の断面図である。
この単一チューブ型光ファイバケーブル1は、マイクロダクトに布設するための単一チューブ型光ファイバケーブルである。
この単一チューブ型光ファイバケーブル(以下、場合により単に光ファイバケーブルと略す)1は、1本若しくは複数本(図示例では12本)の光ファイバ2を有し、これらの光ファイバ2は熱可塑性樹脂からなるチューブ3にて保護される。図示例の光ファイバ2は125μmφの裸ファイバにUV被覆を施した250μmφの光ファイバ心線である。
チューブ3内には、光ファイバ2の移動を防ぎかつチューブ内の止水を目的とする充填材料4が含まれている。
本発明では、前記チューブ3の周囲に、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber
Reinforced Plastic)からなるロッド状の抗張力体4を3本又は4本撚り合せた構造となっている。FRPの強化繊維としては、カーボン繊維、ガラス繊維その他種々の繊維を用いることができる。FRPのマトリクス樹脂も一般的な種々の樹脂を用いることができる。
ケーブル外被として、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、若しくは直鎖状低密度ポリエチレンなどのプラスチック材料5が前記抗張力体4を埋め込む態様で被覆される。
【0017】
上記の単一チューブ型光ファイバケーブル1によれば、次に述べるように、低温時においても良好な伝送特性を確保できる。
抗張力体として、ガラス糸、ガラス繊維、若しくはアラミド繊維などを用いた場合、低温時のケーブルの長手方向の圧縮に耐え得るには、大量の繊維を使用するか、収縮に強い繊維を使用するか、若しくは、収縮の小さいプラスチック材料を使用する、などの手段が必要となる。これは、低温時にプラスチック材料(ケーブル外被)の収縮により、チューブ内で光ファイバに余長が生じ、その余長による蛇行曲率半径が極端に小さくなることが考えられるので、それを防ぐ必要があるからである。
しかし、本発明の単一チューブ型光ファイバケーブル1によれば、抗張力体4がFRPからなるロッド状をなすので、剛性を確保することができ、低温時にケーブルのプラスチック材料(ケーブル外被)5の収縮によるケーブル長手方向の圧縮に耐えることができる。
したがって、低温時にプラスチック材料5の収縮によりチューブ3内で光ファイバ2に余長が生じてその余長による蛇行曲率半径が極端に小さくなる、という問題は軽減され、低温時においても良好な伝送特性を確保できる。
【0018】
また、3本又は4本の抗張力体4がチューブの周囲に、それらが並行して配置される縦添えではなく撚り合わされているので、従来の180度間隔で並行した配置で埋設される構造とは異なり、ケーブルの曲げ方向が限定されることはなく、任意の方向に曲がることができる。
また、抗張力体4の材質がFRPで柔軟性があり、かつ、本数が前記の通り3本又は4本という最小限の本数とされているという点でも、任意の方向に曲がることが可能になっている。
また、FRPからなるロッド状の抗張力体4を3本又は4本撚り合わせた構造であることで、前記の柔軟性と同時に、マイクロダクトへの空気圧送布設に耐えられる機械的強度を得ることができる。
したがって、マイクロダクト内に空気圧送する際の空気圧送特性が向上し、遠距離への空気圧送が可能となり、また、ケーブル布設の作業性が向上する。
また、抗張力体として金属材料を用いる場合と比べると、ケーブル全体が軽量化される。この点でも、空気圧送特性が向上し、遠距離での空気圧送が可能となり、また、ケーブル布設の作業性が向上し、効率的・経済的なFTTHのネットワーク構築が可能となる。
【0019】
上記の単一チューブ型光ファイバケーブル1の試作品、及び、これと比較した比較品について、伝送特性及び圧送特性を試験した結果を表1に示す。
【表1】

【0020】
本発明の試作品は表1中のD(FRP抗張力体3本の層撚り)、E(FRP抗張力体4本の層撚り)である。
比較品は表1中のA(アラミド繊維6本の層撚り)、B(ガラス糸6本の層撚り)、C(FRP抗張力体2本の縦添え)である。
ケーブル外被の材質は試作品及び比較品のいずれも高密度ポリエチレンである。
試作品及び比較品のサイズは、ケーブル外径が4.0mmである。
対象としたマイクロダクトの寸法は、その外径が10mm、内径が8mmである。
表1に示す試作品の評価結果の通り、本発明の単一チューブ型光ファイバケーブルでは良好な伝送特性が確認されている。
なお、表1中の伝送特性(*1)の評価は、損失温度特性−30℃〜+70℃×2サイクルにおける1550nmでの波長範囲でのケーブル化後ロスに対する最大損失変動値が0.15dB/km以下が合格(○)、0.15dB/kmを超える場合が不合格(×)としている。なお、損失温度特性は「IEC 60794-1-2 F1 Temperature cycling」に基づいた試験方法で試験した結果である。
同じく表1に示す試作品の評価結果の通り、本発明の単一チューブ型光ファイバケーブルでは良好な圧送特性が確認されている。
なお、表1中の圧送特性(*2)の評価は、72心のルースチューブ型光ファイバケーブル(Y.Hashimoto
et al, “ Development and Challenge to Realize Ultra High Density Loose tube
Cable Optimized for Microduct Use”, Proceedings 55 IWCS / Focus 2006, p.415-418
(Nov, 2006).)
と同等の圧送特性(90%以上の圧送距離)が合格(○)、90%未満が不合格(×)としている。(−)は未評価である。
上記の通り、本発明の実施例の試作品(D、E)は、比較品と比べて、低温環境下における伝送特性、及び、マイクロダクトへの空気圧送特性がいずれも良好である。
なお、本発明の単一チューブ型光ファイバケーブルは、マイクロダクトへの布設に用いるものであり、例えば24心以下などの少心数の光ファイバケーブルに適用して好適である。

【実施例2】
【0021】
本発明の他の実施例の試作品及びこれと比較した現行品を表2に示す。
他の実施例のこの試作品は、最大12心まで実装可能な単一チューブ型光ファイバケーブルであり、抗張力体の本数は3本である。ケーブル外径は4.0mm、重量は10kg/kmである。ケーブル外被は高密度ポリエチレンからなる。
これと比較した現行品は、最大72心まで実装可能なルースチューブであり、外径が6.0mm、重量が27kg/kmである。
対象としたマイクロダクトの寸法については、その外径が10mm、内径が8mmである。
【表2】



【0022】
上記の通り、本発明の単一チューブ型光ファイバケーブルは、外径が現行品の6.0mmに対して4.0mmと、33%の細径化を実現している。
また、重量については現行品の27kg/kmに対し10kg・kmと、63%の軽量化を達成している。
また現行品と同様、内径8mm
のマイクロダクトへ送通が可能となっている。
【0023】
ケーブル特性については、本発明の上記実施例の光ファイバケーブルの損失温度特性は、−40℃〜+80℃の範囲で損失変動量が0.1dB/km(波長1.55μm)以下であった。
また、実施例の光ファイバケーブルの機械的強度は、空気圧送の試験をした結果から、マイクロダクトへの空気圧送布設に耐えうる十分な機械強度を有している。
【0024】
空気圧送性能については、内径8mm のマイクロダクト内への空気圧送試験結果を図2に示す。
空気圧送試験をしたマイクロダクトの布設形態は、1周約125mの8 字型である。
本発明実施例の単一チューブ型光ファイバケーブルの圧送距離は図示のように2500mとなり、現行72心型の結果(2600m)と同等の良好な結果が得られた。
この試験結果から推定して、内径5.5mmのダクト内への適用も期待でき、布設エリアの省スペース化が見込まれる。

【符号の説明】
【0025】
1 単一チューブ型光ファイバケーブル(光ファイバケーブル)
2 光ファイバ
3 チューブ
4 抗張力体
5 プラスチック材料(ケーブル外被)
6 充填材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロダクトに布設するための単一チューブ型光ファイバケーブルであって、
1本又は複数本の光ファイバを止水可能な充填材とともに収容したチューブの周囲に、繊維強化プラスチック(FRP)からなるロッド状の抗張力体を3本又は4本撚り合わせ、ケーブル外被として前記抗張力体を埋め込む態様でプラスチック材料を被覆したことを特徴とする単一チューブ型光ファイバケーブル。

【請求項2】
前記チューブ内の光ファイバの心数が24心以下であることを特徴とする請求項1記載の単一チューブ型光ファイバケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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