説明

単室型固体酸化物形燃料電池、単室型固体酸化物形燃料電池システム及び単室型固体酸化物形燃料電池の運転方法

【課題】発電効率を向上させ得る単室型固体酸化物形燃料電池、これを用いた単室型固体酸化物形燃料電池システム、及びこの単室型固体酸化物形燃料電池の好適な運転方法を提供すること。
【解決手段】単室型固体酸化物形燃料電池は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池とを備え、この固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極とを備え、この燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する。
単室型固体酸化物形燃料電池システムは、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を具備する単室型固体酸化物形燃料電池を複数備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単室型固体酸化物形燃料電池、これを用いた単室型固体酸化物形燃料電池システム、及び単室型固体酸化物形燃料電池の運転方法に係り、更に詳細には、燃料極に水蒸気改質触媒を含有する単室型固体酸化物形燃料電池、これを用いた単室型固体酸化物形燃料電池システム、及びこの単室型固体酸化物形燃料電池の好適な運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料ガスと酸化剤ガスとを分離した状態で発電する通常の隔膜型の固体電解質型燃料電池において、燃料極に水蒸気改質触媒が用いられている。そして、通常の固体電解質型燃料電池においては、燃料と酸素イオンとの反応に加え、燃料の水蒸気改質反応を電極で行うことが検討されている(これは、内部改質とも呼ばれる。)。
このような通常の固体電解質型燃料電池においては、例えば低いスチーム/カーボン・モル比における固体電解質型燃料電池の運転が問題となっており、そのために、燃料極における耐炭素析出性の向上などについて様々な検討がなされている。(特許文献1〜3参照。)。
また、通常の固体電解質型燃料電池において、負極への間欠的な空気導入によって、固体電解質型燃料電池を高温状態にする方法が提案されている(特許文献3参照。)。
【0003】
一方、単室型固体酸化物形燃料電池の入口に熱交換器を設け、これに水を導入する方法が提案されている(特許文献4参照。)。
【特許文献1】特許第2891528号明細書
【特許文献2】特許第2948373号明細書
【特許文献3】特開2003‐132906号公報
【特許文献4】特開2004‐152758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の通常の固体電解質型燃料電池において用いられる気相酸素が存在しない状況で水蒸気改質反応を促進する触媒と、単室型固体酸化物形燃料電池において用いることができる気相酸素が存在する状況で水蒸気改質反応を促進する触媒とでは、要求される特性が異なるため、単室型固体酸化物形燃料電池に通常の固体電解質型燃料電池において燃料改質のために用いる触媒を適用することはできない。
また、上記特許文献4に記載の単室型固体電解質型燃料電池においては、燃料電池に供給される前の燃料ガスの部分的な改質やその改質反応の吸熱性による燃料電池スタックの高温部の冷却を目的としており、燃料極において水蒸気改質触媒を含有する等の構成については何ら検討がなされておらず、発電効率が十分なものではなかった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発電効率を向上させ得る単室型固体酸化物形燃料電池、これを用いた単室型固体酸化物形燃料電池システム、及びこの単室型固体酸化物形燃料電池の好適な運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池において、固体酸化物形燃料電池の燃料極に、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有させることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池であって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の好適形態は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池であって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有すると共に、上記燃料極において、上記混合気の流れ方向に対して上流側の部分酸化触媒の含有率が下流側の部分酸化触媒の含有率より高いことを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の他の好適形態は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池であって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有すると共に、上記燃料極において、上記固体酸化物電解質側の水蒸気改質触媒の含有率が該燃料極の表面側の水蒸気改質触媒の含有率より高いことを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の更に他の好適形態は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池であって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有すると共に、当該単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極の近傍に、水ないし水蒸気を供給する水供給手段を更に備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムは、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を具備する単室型固体酸化物形燃料電池を複数備える単室型固体酸化物形燃料電池システムであって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する、ことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムの好適形態は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を具備する単室型固体酸化物形燃料電池を複数備える単室型固体酸化物形燃料電池システムであって、上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有すると共に、上記複数の単室型固体酸化物形燃料電池が上記混合気の流れ方向に対して直列に配設され、上流側の単室型固体酸化物形燃料電池から下流側の単室型固体酸化物形燃料電池に移行するにしたがって、当該単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極における水蒸気改質触媒の含有率が高くなることを特徴とする。
【0013】
更にまた、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の運転方法は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気を供給して、燃料極に部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する単室型固体酸化物形燃料電池を運転するに当たり、該燃料極側に供給される混合気に水ないし水蒸気を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池において、固体酸化物形燃料電池の燃料極に、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有させることなどとしたため、発電効率を向上させ得る単室型固体酸化物形燃料電池、これを用いた単室型固体酸化物形燃料電池システム、及びこの単室型固体酸化物形燃料電池の好適な運転方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、含有率(濃度)及び含有量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池は、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池とを備え、この固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極とを備える。
そして、かかる燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する。
【0016】
このような単室型固体酸化物形燃料電池は、燃料極の水蒸気改質触媒において、水蒸気改質反応(吸熱反応)が促進され、水と炭化水素とから高効率で水素が生成される。従って、発電効率を向上させることができる。
また、本発明においては、燃料極において、燃料電池反応による生成熱、更に燃料極で進行する部分酸化反応熱を水蒸気改質反応に直接的に利用することができるため、必ずしも外部に熱交換器を設ける必要が無く、より小型化することが可能であるという副次的な効果が得られる。また、これにより発電効率を更に向上させることができる。
ここで、本発明においては、固体酸化物形燃料電池は発電し得ればその構造や構成について特に限定されるものではなく、例えば単セル構造体であっても積層型のスタック構造体であってもよく、反応器内に少なくとも1個配設されていればよく、複数個配設されていてもよい。
【0017】
このような単室型固体酸化物形燃料電池における定常運転状態では、例えば図1に示すように、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器10と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池20とを備える。この固体酸化物形燃料電池20は、固体酸化物電解質21と、この固体酸化物電解質21を挟持するように配設される燃料極22及び空気極23とを備える。そして、この燃料極22は、図示しない部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する。
【0018】
例えば燃料ガスとしてのエタノール(COH)と酸化剤ガスとしての空気(O)との混合ガスを反応器に供給すると、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有し、酸化活性の高い燃料極22において、混合ガス中のエタノール(COH)が部分酸化されて、又は水蒸気(HO)と反応(水蒸気改質反応)して、水素(H)と一酸化炭素(CO)とが生じ、一酸化炭素(CO)は水蒸気(HO)と更に反応(シフト反応)して、水素(H)と二酸化炭素(CO)とが生じ、次の式(1)及び(2)ような燃料の酸化反応が起こる。
2H+2O2−→2HO+4e…(1)
2CO+2O2−→2CO+4e…(2)
【0019】
一方、空気極23においては、上記のような触媒を実質的に含有していないために、エタノール(COH)は反応せず、次の式(3)のような混合ガス中の酸素(O)の還元反応が起こる。
+4e→2O2−…(3)
【0020】
なお、燃料ガスとしては、上記したエタノール(COH)の他に、例えばメタノール(CHOH)などのアルコール類、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、プロピレン(C)などの炭化水素、更にはガソリンなどを単独で又は適宜混合して使用することができる。
【0021】
また、本発明においては、その燃料極において、混合気の流れ方向に対して上流側の部分酸化触媒の含有率が、下流側の部分酸化触媒の含有率より高いことが望ましい。
ここで、図面を用いてより詳細に説明する。図2は、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の一例を示す構成図である。同図に示すように、反応器10に配設された固体酸化物形燃料電池20は、固体酸化物電解質21を挟持するように配設された燃料極22及び空気極23を備える。そして、燃料極22は、矢印Aで示す混合気の流れ方向に対して下流側における部分酸化触媒の含有率(濃度)が上流側における部分酸化触媒の含有率(濃度)より低くなっている。
これにより、部分酸化反応の反応熱が、固体熱伝導により水蒸気改質触媒に伝わり、この伝熱量に相当する外部熱交換器の容積を低減することが可能になる。つまり、外部の加熱装置を小型化することができる。
また、その際水蒸気改質触媒の含有率は、上流側から下流側に移行するにしたがって、漸次増加させても、段階的に増加させてもよい。
このような構成とすることにより、部分酸化触媒と比較して反応速度が遅い水蒸気改質触媒の加熱を促進させることができ、高温となった下流側で反応速度の向上効果が得られる。
そして、結果として、水蒸気改質反応に必要な領域を小さくすることが可能となる。換言すれば、反応域の空間速度を向上させることができる。これにより、高温条件下で一酸化炭素と水素からメタンが生成する望ましくない反応を抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0022】
更に、本発明においては、その燃料極において、固体酸化物電解質側の水蒸気改質触媒の含有率がその燃料極の表面側の水蒸気改質触媒の含有率より高いことが望ましい。
ここで、図面を用いてより詳細に説明する。図3は、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の他の例を示す構成図である。同図に示すように、反応器10に配設された固体酸化物形燃料電池20は、固体酸化物電解質21を挟持するように配設された燃料極22及び空気極23を備える。そして、燃料極22は、2層構造となっており、固体酸化物電解質側燃料極層22aの水蒸気改質触媒の含有率(濃度)がその燃料極の表面側燃料極層22bの水蒸気改質触媒の含有率(濃度)より高くなっている。なお、図中において混合気の流れ方向を矢印Aで示す。
このような構成とすることにより、燃料電池反応で生成した水が、拡散希釈される前に水蒸気改質触媒に接触し易く、水蒸気改質反応(吸熱反応)がより促進され、水と一酸化炭素とから高効率で水素が生成される。従って、発電効率をより向上させることができる。
なお、燃料極において、3層以上の積層構造とすることもできる。
【0023】
また、本発明において、上述した水蒸気改質触媒としては、例えばロジウム(Rh)を基材に担持して成る触媒であって、その基材にアルミナ(Al)及びセリア(CeO)のいずれか一方又は双方を含有するものを挙げることができる。
このような触媒は、効率的に水蒸気改質反応が進行し易いものである。
なお、アルミナ(Al)やセリア(CeO)にロジウム(Rh)を担持したものを水蒸気改質触媒として用いるものも本発明の範囲に含まれる。
【0024】
更に、本発明において、上述したアルミナ(Al)やセリア(CeO)は、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ニオブ(Nb)又はサマリウム(Sm)、及びこれらに任意の組み合わせに係る成分元素を担持していてもよい。これらは、混合物であっても複合化合物であってもよい。
このような触媒は、効率的に水蒸気改質反応が進行し易いものであり、更に触媒自体の耐熱性が向上する。
【0025】
また、本発明において、上述した部分酸化触媒としては、例えばニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、及びロジウム(Rh)などを含有するものを挙げることができるが、Pt及びPdのいずれか一方又は双方を含有するものをより好適なものとして挙げることができる。
このような触媒は、効率的に部分酸化反応が進行し易いものである。
そして、例えばこれをアルミナ(Al)やセリア(CeO)などの基材に担持したものを用いることができる。
【0026】
更に、本発明においては、燃料極は部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有していれば特に限定されるものではないが、例えば酸化物イオン伝導性を有する電解質を更に含有した燃料極(いわゆるサーメット電極である。)を用いることもできる。
【0027】
上記酸化物イオン伝導性を有する電解質としては、例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、セリア安定化ジルコニア、セリア、ビスマス酸化物(Bi)、マグネシア(MgO)、アルミナなどを挙げることができる。
当該燃料極に含まれる含まれる触媒金属と電解質の比率については、使用する触媒金属及び酸化物イオン伝導性を有する電解質の材質等に応じて、触媒金属による燃料ガスの酸化活性と、電子伝導性が得られるように選択することができ、例えば、燃料極としてNi担持セリア安定化ジルコニアを用いる場合においては、燃料極においてNiの比率を35〜85%とすることが好ましい。
【0028】
一方、空気極としては、燃料ガスに対する酸化活性が低いか、そのような活性を有しない材料であって、しかも酸素分子に電子を供給してイオン化し、後述する電解質中へ溶け込ませる機能を有する材料が用いられ、材料組成としては、例えばストロンチウム(Sr)をドープしたLn1−xSrCoO3±δ(式中のLnは希土類元素を表わし、特にランタン(La)及びサマリウム(Sm)の少なくとも1種が好ましく、xは0.2≦x≦0.8を満足し、δは酸素欠損等の量であって、0≦δ<1を満足する。)を用いることができる。
【0029】
そして、固体酸化物電解質としては、例えばイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、セリア安定化ジルコニア、セリア、ビスマス酸化物Bi)、マグネシア(MgO)、アルミナなどを挙げることができる。
なお、これら電解質や燃料極、空気極は多孔質とすることによって、ガス透過性を向上させることもできる。
【0030】
一方、本発明においては、燃料極の近傍に、水ないし水蒸気を供給する水供給手段を更に備えていてもよい。
このような水供給手段を備え、運転状況に応じて水ないし水蒸気を供給することにより、空気極近傍に比して燃料極近傍における水蒸気分圧が高まるため、水蒸気改質反応やシフト反応の反応効率が高くなる。一方、空気極の近傍には余分な水や水蒸気を供給しないため、水蒸気分圧があまり高くならず、燃料極に比して酸素分圧が高まるため、酸素の還元反応の反応効率が高くなる。
なお、空気極に余分な水を供給しないため、水の蒸発や加熱に要するエネルギーを削減することができ、外部熱交換器を小型化することも可能であり、場合によっては無くすこともできる。
【0031】
次に、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムについて詳細に説明する。
上述の如く、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムは、燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を具備する単室型固体酸化物形燃料電池を複数備える単室型固体酸化物形燃料電池システムであって、固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備える。
そして、かかる燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する。
このような単室型固体酸化物形燃料電池システムは、燃料極の水蒸気改質触媒において、水蒸気改質反応(吸熱反応)が促進され、水と炭化水素とから高効率で水素が生成される。従って、発電効率を向上させることができる。
なお、本発明においては、複数個備える単室型固体酸化物形燃料電池について、上述したように、その構成、例えばその構造や触媒の配置及び材料などを適宜変更することができる。
【0032】
また、本発明においては、複数の単室型固体酸化物形燃料電池が、混合気の流れ方向に対して直列に配設される場合に、上流側の単室型固体酸化物形燃料電池から下流側の単室型固体酸化物形燃料電池に移行するにしたがって、その単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極における水蒸気改質触媒の含有率が高くなるように設定することが望ましい。
ここで図面を用いてより詳細に説明する。図4は、本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムの一例を示す構成図である。同図に示すように、反応器10Aに配設された固体酸化物形燃料電池20Aは、固体酸化物電解質21Aを挟持するように配設された燃料極22A及び空気極23Aを備える。また、反応器10B及び10Cにそれぞれ配設された固体酸化物形燃料電池20B及び20Cは、それぞれ固体酸化物電解質21B及び21Cを挟持するように配設された燃料極22B及び22C並びに空気極23B及び23Cを備える。更に、反応器10A、10B及び10Cは、矢印Aで示すガス流れ方向に対して直列に配設される(例えば、図示しない配管などにより連結してもよいが、本発明においては、反応器の形状や連結方法などについて特に限定されるものではない。)。
そして、燃料極22Aより燃料極22Cの方が、水蒸気改質触媒の含有率が高くなっている。
このような構成とすることによっても、1つの単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極において水蒸気改質触媒の含有率に勾配を設ける場合と同様の効果を得ることができ、発電効率をより向上させることができる。
なお、水蒸気改質触媒の含有率は、上流側から下流側に移行するにしたがって、漸次増加させても、段階的に増加させてもよい。
【0033】
更に、本発明において、複数の単室型固体酸化物形燃料電池のうち少なくとも1つに、水ないし水蒸気を供給する水供給手段を少なくとも1つ更に備えるようにしてもよく、その場合には、水供給手段の供給口が一の単室型固体酸化物形燃料電池と他の単室型固体酸化物形燃料電池との間に位置するようにすることが望ましい。
このような構成とすることにより、各単室型固体酸化物形燃料電池の入口ガス条件(例えば、水ないし水蒸気の添加によるスチーム/カーボン・モル比の調整や温度調整などが挙げられる。)をより適切に調整することができ、発電効率を更に向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<固体酸化物電解質側燃料極層用スラリーの作製>
まず、市販のγアルミナを密閉ドラムの中で回転させ、そのドラム中に設置した噴霧ノズルから、硝酸セリウム及び硝酸ジルコニウムの混合水溶液をスプレー噴霧して、これらを含浸させた。次いで、得られた粉末を密閉ドラムから取出し、120℃で4時間乾燥し、700℃で4時間焼成して、Ce/Zr/γAlを得た。更に、これを密閉ドラムの中で回転させ、そのドラム中に設置した噴霧ノズルから、硝酸ロジウムの水溶液をスプレー噴霧して、これを含浸させた。得られた粉末を密閉ドラムから取出し、120℃で4時間乾燥し、700℃で4時間焼成して、Rh/Ce/Zr/γAlを得た。以下これを水蒸気改質触媒粉末という。
このとき、水蒸気改質触媒粉末のRh濃度は8%、Ce濃度は1%、Zr濃度は1%であった。
【0036】
酸化ニッケル(NiO)粉末を75重量部と、8mol%のイットリア(Y)を含むジルコニア(ZrO)粉末を10重量部と、上述の水蒸気改質触媒粉末を15重量部とを、ボールミルで24時間混合粉砕し、得られた粉末を1400℃で2時間焼成し、固体酸化物電解質側燃料極層用粉末を得、更に有機溶媒を混合し、ボールミルで混合粉砕して、固体酸化物電解質側燃料極層用スラリーを得た。
【0037】
<表面側燃料極層用スラリーの作製>
酸化ニッケル(NiO)粉末を75重量部と、8mol%のイットリア(Y)を含むジルコニア(ZrO)粉末を25重量部とを、ボールミルで24時間混合粉砕し、得られた粉末を1400℃で2時間焼成し、表面側燃料極層用粉末を得、更に有機溶媒を混合し、ボールミルで混合粉砕して、表面側燃料極層用スラリーを得た。
【0038】
<空気極(層)用スラリーの作製>
La0.5Sr0.5CoO3±δ粉末を用い、更に有機溶媒を混合し、ボールミルで混合粉砕して、空気極(層)用スラリーを得た。
【0039】
<固体酸化物電解質(層)用スラリーの作製>
8mol%のイットリア(Y)を含むジルコニア(ZrO)粉末を用い、更に有機溶媒を混合し、ボールミルで混合粉砕して、固体酸化物電解質(層)用スラリーを得た。
【0040】
<固体酸化物形燃料電池の作製>
ポーラスアルミナ板に、分散剤としてのポリカルボン酸アンモニウムを8%含有するポリスチレン粒子(平均粒径0.5μm)のペーストを充填し、スクレーパーでならした後、200℃で2時間乾燥して、平らな表面を有するポリスチレン粒子を充填したポーラスアルミナ板を得た。
【0041】
得られた表面に、上述した表面側燃料極層用スラリーをスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥し、300℃で2時間焼成した。これを工程Aという。
【0042】
得られた表面側燃料極層の表面に、上述した固体酸化物電解質側燃料極層用スラリーをスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥し、300℃で2時間焼成した。
ここで、得られた固体酸化物電解質側燃料極層の混合気の流れ方向に対して、流れ方向セル長さの上流側から1/5の範囲に、硝酸パラジウム及び硝酸白金を含有する混合水溶液をスプレー噴霧し、含浸させた。これを工程Bという。
このとき、固体酸化物電解質側燃料極層のPd濃度は5%、Pt濃度は5%であった。
【0043】
得られた固体酸化物電解質側燃料極層の表面に、上述した固体酸化物電解質(層)用スラリーをスクリーン印刷し、120℃で1時間乾燥し、300℃で2時間焼成した。これを工程Cという。
【0044】
得られた固体酸化物電解質の表面に、上述した空気極(層)用スラリーをスクリーン印刷し、上述した他のポリスチレン粒子を充填したポーラスアルミナ板を接着し、120℃で1時間乾燥し、300℃で2時間焼成した。これを工程Dという。
【0045】
上述の工程A〜Dを1つの積層単位として20回繰り返し、最後に、得られた積層体を900℃で4時間焼成し、ポーラスアルミナ板に充填されたポリスチレン粒子を焼失させ、混合気を流通させ得る流路となるポーラス層を有する積層型の固体酸化物形燃料電池を得た。これをエンドプレートで固定して、図5に示すような積層型の固体酸化物形燃料電池を得た。
同図に示すように、積層型の固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質21を挟持するように燃料極22及び空気極23が配置されている。燃料極22は、固体酸化物電解質側燃料極層22a及び22a´と表面側燃料極層22bから成り、固体酸化物電解質側燃料極層22a´には、白金とパラジウムとを含有する部分酸化触媒が含まれている。そして、これらがポーラス層24に積層されており、更に、これらが20個積層された積層体はエンドプレート25で挟持されている。図中において矢印Aは混合気の流れ方向を示す。
これを反応器内に配設することにより、本例の単室型固体酸化物形燃料電池を得た。
【0046】
(比較例1)
固体酸化物電解質側燃料極層用スラリーの作製に当たり、水蒸気改質触媒粉末を混合せず、且つ固体酸化物形燃料電池の作製に当たり、硝酸パラジウム及び硝酸白金を含有する混合水溶液をスプレー噴霧しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の単室型固体酸化物形燃料電池を得た。
【0047】
[性能評価]
上記各例の単室型固体酸化物形燃料電池に、メタン:酸素:水=2:1:1(モル比)の混合気を供給し、セル温度550℃にて様々な負荷(0.6V、0.8V)を与え、出力される電流密度を測定した。得られた結果を図6に示す。
【0048】
図6から分かるように、燃料極に部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有させたことにより、同じ電圧でも高い電流密度を得ることができる。
【0049】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、固体酸化物電解質とこれを挟持するように配設した燃料極及び空気極とを備える場合について説明したが、固体酸化物電解質と、この上に燃料極と空気極とが接触しないように配設されて備える場合についても、本発明を適用することができる。
また、燃料極や空気極、固体酸化物電解質の形状や大きさについても特に限定されるものではなく、単室型固体酸化物形燃料電池に要求される性能や、その用途に応じて適宜変形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】燃料ガスとしてエタノールを用いた単室型固体酸化物形燃料電池における分解ガスの移動を説明する模式図である。
【図2】本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の単室型固体酸化物形燃料電池の他の例を示す構成図である。
【図4】本発明の単室型固体酸化物形燃料電池システムの一例を示す構成図である。
【図5】実施例1に用いた積層型の固体酸化物形燃料電池の構成を示す説明図である。
【図6】実施例1及び比較例1の性能評価の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
10,10A,10B,10C 反応器
20,20A,20B,20C 固体酸化物形燃料電池
21,21A,21B,21C 固体酸化物電解質
22,22A,22B,22C 燃料極
22a,22a´ 固体酸化物電解質側燃料極層
22b 表面側燃料極層
23,23A,23B,23C 空気極
24 ポーラス層
25 エンドプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を備える単室型固体酸化物形燃料電池であって、
上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、
上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有することを特徴とする単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項2】
上記燃料極において、上記混合気の流れ方向に対して上流側の部分酸化触媒の含有率が下流側の部分酸化触媒の含有率より高いことを特徴とする請求項1に記載の単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項3】
上記燃料極において、上記固体酸化物電解質側の水蒸気改質触媒の含有率が該燃料極の表面側の水蒸気改質触媒の含有率より高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項4】
上記水蒸気改質触媒が、ロジウムを基材に担持して成る触媒であって、該基材がアルミナ及び/又はセリアを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の単室型固体酸化物形燃料電池用。
【請求項5】
上記アルミナ及び/又はセリアが、セリウム、ジルコニウム、ランタン、プラセオジム、ニオブ及びサマリウムから成る群より選ばれた少なくとも1種の成分元素を担持することを特徴とする請求項4に記載の単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項6】
上記部分酸化触媒が、白金及び/又はパラジウムを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項7】
当該単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極の近傍に、水ないし水蒸気を供給する水供給手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の単室型固体酸化物形燃料電池。
【請求項8】
燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気が供給される反応器と、この内部に配設される固体酸化物形燃料電池と、を具備する単室型固体酸化物形燃料電池を複数備える単室型固体酸化物形燃料電池システムであって、
上記固体酸化物形燃料電池は、固体酸化物電解質と、この固体酸化物電解質に配設される燃料極及び空気極と、を備え、
上記燃料極は、部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する、ことを特徴とする単室型固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項9】
上記複数の単室型固体酸化物形燃料電池が上記混合気の流れ方向に対して直列に配設され、上流側の単室型固体酸化物形燃料電池から下流側の単室型固体酸化物形燃料電池に移行するにしたがって、当該単室型固体酸化物形燃料電池の燃料極における水蒸気改質触媒の含有率が高くなることを特徴とする請求項8に記載の単室型固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項10】
上記複数の単室型固体酸化物形燃料電池のうち少なくとも1つに、水ないし水蒸気を供給する水供給手段を少なくとも1つ更に備え、該水供給手段の供給口が一の単室型固体酸化物形燃料電池と他の単室型固体酸化物形燃料電池との間に位置することを特徴とする請求項8又は9に記載の単室型固体酸化物形燃料電池システム。
【請求項11】
燃料ガス及び酸化剤ガスを含有する混合気を供給して、燃料極に部分酸化触媒と水蒸気改質触媒とを含有する単室型固体酸化物形燃料電池を運転するに当たり、該燃料極側に供給される混合気に水ないし水蒸気を供給することを特徴とする単室型固体酸化物形燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−335314(P2007−335314A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167806(P2006−167806)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】