説明

単結晶ならびにその製造装置および製造方法

【課題】特に流動性の高い原料融液を用いて酸化物単結晶を育成する場合等であっても、クラックや融液ダレを生じることなく、種結晶方位と同じ方位に単結晶を育成できる単結晶の製造装置等を提供する。
【解決手段】育成炉1内に、原料融解槽11と融液保持槽12と種結晶保持部13と駆動部14とを具え、融液保持槽12が、上下方向に延びる第1貫通孔19をもち、融液を受け止める上板部材16と、この下方に設置され、上板部材16の第1貫通孔19を通して流下する融液を保持する空間構造20をもつ中間部材17と、この空間構造20に保持された融液を、下方に設置された種結晶15に連続供給するため、第2貫通孔22をもつ下板部材18とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育成炉内に、原料を融解して融液とする原料融解槽と、該原料融解槽の下方に位置し、この原料融解槽から移送された融液を保持しつつその一部を下方に流下させる融液保持槽と、該融液保持槽の下方に位置し、融液保持槽から流下した融液が供給される種結晶を下方に移動できるように保持する種結晶保持部と、該種結晶保持部を回転させながら下方に移動させる駆動部とを具える、いわゆる引き下げ法で育成された単結晶ならびにその製造装置および製造方法に関し、特に、本発明は、粘度が1,000ポアズ以下である、流動性の高い原料融液を用いて酸化物単結晶を育成する場合や、融液組成と、析出する結晶の組成とが一致しない、非一致溶融組成(非コングルエント組成)の酸化物単結晶を育成する場合に適する。
【背景技術】
【0002】
単結晶、例えば酸化物単結晶の育成装置と育成方法に関しては、チョクラルスキー法(CZ法)、垂直ブリッジマン法(VB法)等が知られている。又、本発明でいう引き下げ法も、酸化物単結晶の育成方法として知られている。
【0003】
CZ法では、単結晶原料を電気炉内下段部に設置された坩堝内に充填する。坩堝材質は、原料の融点、坩堝材質との反応性及び単結晶育成時の炉内雰囲気によって選択される。例えば、シリコン単結晶においては、融点が1400℃以下であり、育成時の炉内雰囲気も低圧アルゴンであるため、石英が用いられ、ニオブ酸リチウム(LN)のようなコングルエント組成をもつ単結晶の場合は、白金坩堝が用いられる。CZ法は、これら坩堝に充填された原料を融点以上に加熱融解させ、しかる後、棒状種結晶の下端部を融液に接触させ、回転させながら引き上げる事で種結晶と同一の結晶方位を持つ単結晶を育成させる方法である。
【0004】
垂直ブリッジマン法(VB法)も、単結晶原料を坩堝に充填する点ではCZ法と同様である。坩堝材質は、原料の融点、坩堝材質との反応性及び単結晶育成時の炉内雰囲気によって選択される。例えば、マンガン亜鉛(MnZn)フェライト単結晶においては、融点が1650℃近傍であり、大気中にて育成される事から、白金坩堝が用いられる。VB法においては、底部に種結晶を設置した後、種結晶の最底部にあたる坩堝部分を封止し、その上部に原料を充填した坩堝を、温度勾配を形成した電気炉中に種結晶部分を下にして設置する。しかる後、種結晶の上部の一部分までを原料融点以上とし、種結晶の下部を原料融点以下とするように電気炉中の上下方向の温度勾配を設定する事で、充填された原料と種結晶の上部を融解する。その後、この温度勾配を持つ電気炉内で坩堝を上方から下方に移動させる事で種結晶と同一結晶方位を持つ単結晶を育成する。
【0005】
引き下げ法育成での装置と育成方法に関しては、特許文献1および2に例示されている。その内容は、底に細孔を設けた白金坩堝中に多結晶原料を入れ、この白金坩堝の上側を原料の融点以上、下側を原料の融点以下に保った電気炉内のもっとも温度勾配が急峻な位置に配置して原料を融解させ、白金坩堝の細孔から重力によって流出した原料融液に棒状の種結晶の上端を接触させた状態で、種結晶を回転させながら引き下げる事によって結晶させる方法であり、融液の保持に関しては、特許文献1及び2に、白金坩堝の細孔から漏れ出た原料融液の白金坩堝下部との濡れ性及び表面張力を利用して白金坩堝下部と種結晶との間に原料融液を保持しつつ結晶育成を行うと記載されている。対象とされる単結晶として、特許文献1では、実施例に四硼酸リチウム(LBO)単結晶、特許文献2では、請求項及び実施例にLN単結晶(リチウム比:48.5〜50.0%)及びLT単結晶(リチウム比:48.5〜50.0%)が挙げられている。
【0006】
CZ法或いはVB法など、原料を坩堝中に一回で充填して育成する従来の方法について、育成単結晶組成に関して以下の問題点が指摘されている。
即ち、これらの育成方法においては、育成方向となる酸化物単結晶の長手方向の組成は均一にならない事である。これら育成法では、一回の育成に使用される原料はその組成に調整後、全量が坩堝中に投入される。LNやMnZnフェライトなどの酸化物単結晶育成に際しては、原料融液中の組成と、育成される単結晶中の各構成元素又は構成酸化物の組成は一般に異なる。これは、融液中の各構成元素又は構成酸化物に対して、育成された単結晶中の各構成元素又は構成酸化物の偏析係数が異なるためである。単結晶を構成するすべての構成元素又は構成酸化物の偏析係数が1に等しくない限り、単結晶中の構成元素又は構成酸化物の組成比は、原料融液中のそれらの組成比と異なる事は物理的必然であるが、一般的に偏析係数はすべての構成元素又は構成酸化物に対して1にならない事は周知の事実である。
【0007】
融液組成と、析出する結晶の組成とが一致する一致溶融組成(コングルエント組成)の酸化物に関しては、融液からの結晶析出初期においては、単結晶と融液の組成は一致するが、例えば図1に示すLNの一致組成近傍の状態図を見れば明らかなように、一致溶融組成の低温部には、広い範囲の不定比固溶体組成が存在し、その組成範囲で組成のばらついた単結晶が育成される。これは融液中の揺らぎなどの組成変動をそのまま反映した組成であり、逆にこのような単結晶が育成される事により、融液中の組成変動が助長される事になり、更に揺らぎが拡大した、即ち、一致溶融組成範囲内で大きな組成変動を持つ単結晶が育成される事になる。
【0008】
一方、特許文献1及び特許文献2では、実際に育成を行う坩堝に、その上方にある原料融解槽から、細線などの融液移動治具を用いて融液を連続的に移動することで、坩堝下部の結晶育成位置での融液組成を均一化し、育成原料の全量を育成前に坩堝に充填するCZ法やVB法では原理的に不可避な組成の変動を抑制した単結晶育成が可能であると記載されている。また、特許文献1及び2においては、坩堝の下部にあたる結晶育成位置での融液組成を均一化するために、育成に必要な融液量を連続的に原料融液槽に等量供給する事が必要であって、坩堝に融液を溜める事は、組成変動を発生させる原因となると指摘している。
【0009】
しかしながら、原料融液の粘性が低く、粘度が1000ポアズ以下の低粘度であるような場合には、原料融液が坩堝の上部にある原料融液槽から坩堝に連続的に等量供給される事は難しく、細線を伝わらせたとしても、脈動的に多量の原料融液が坩堝に供給される事態が発生する。これら特許文献1及び2においては、このような場合、坩堝下部の細孔を通して結晶育成位置に脈動的に多量の融液が供給される事を防止する機構が備わっていないために、組成の変動が発生する事になる。更に、粘性の低い融液が多量に坩堝下部と育成された単結晶の間の狭い融液層に供給されるため、融液が育成された単結晶の側面から垂れ落ちる、所謂、融液ダレを生じ、そのため育成された単結晶にクラックなどの致命的な欠陥を発生させる事が容易に予見されるという問題点がある。
【0010】
例えば、タンタルニオブ酸カリウム(KTN)の場合、図2の状態図から明らかなように、KTNはタンタル酸カリウム(KTaO3)とニオブ酸カリウム(KNbO3)との擬二元系全率固溶体を形成する。その組成は、X=0〜1としたとき、K(NbXTa1-X)O3と記述される。X=0.5近傍の組成を持ち、高屈折率光学単結晶として利用される
K(Nb1/2Ta1/2)O3を、この平衡状態での擬二元系相図に基づいて育成する場合、融液組成はKNbO3 80モル%近傍のNbリッチな組成である必要がある。K(Nb1/2Ta1/2)O3の凝固温度は約1135℃であるから、固液界面の融液温度もこれに等しくなければならない。一方、純KNbO3の融点は図2の状態図から約1040℃である。融液の主要成分であるKNbO3に関しては、融点より約100℃高い温度で保持されることから、融液の粘度は小さく、1000ポアズ以下となっている。また、特許文献1及び2では、原料融解槽から融液保持槽へ細線を伝わらせて原料融液を移送するとされているが、原料融解槽の温度は、融液保持槽の温度より高く、更に融液粘度が小さくなっている事から、融液の脈動的な供給が避けられず、坩堝下部と種結晶の間に表面張力で保持されることになる融液の量の変動が避けられない。このため、融液の温度変動が発生し、単結晶と融液界面の位置変動の原因となると共に、凝固組成の変動を発生する。更に、脈動的な融液の供給が、坩堝下部と単結晶の間で保持されるための表面張力の限界を超えた場合、単結晶側面への融液ダレを発生し、クラック発生の原因となる。
【0011】
また、特許文献1及び2に開示された育成法では、別の問題点が指摘される。即ち、所望組成の複合酸化物単結晶を析出させるために、複合酸化物単結晶の成分の幾つか又は、複合酸化物を溶解させる事が出来る該複合酸化物の構成酸化物とは異なる物質をフラックス(溶媒)として使用する事を特徴とする複合酸化物単結晶の育成に関して、特許文献1及び2に示された方法では、育成が不可能である事である。ここに複合酸化物とは、例えば、単体の酸化物としても存在し得る炭酸カリウム(KCO3)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、炭酸リチウム(Li2CO3)、からなるニオブ酸リチウムカリウム(KLN)のような複数の単体酸化物からなる組成の酸化物を指す。
【0012】
例えば、図3の状態図から明らかなように、KLN、即ち、K3Li(2-X)Nb(5+X)O(15+2X)において、X=0である化学量論組成のKLN単結晶を育成する事は、CZ法やVB法或いは引き下げ法等の育成法では不可能である。
【0013】
化学量論組成近傍であるX=0.1〜0.4の組成の単結晶を育成する場合でも、リチウム(Li)リッチ側の組成であるX=−0.6〜−0.4の融液中から析出させる必要がある。これは、リチウムをセルフフラックス(自己溶媒)として使用し、目的組成の溶質を育成中の単結晶と融液の界面へリチウムリッチ組成の融液を通過させて輸送し、単結晶表面において析出させる事によってのみ実現可能なものであって、CZ法やVB法では困難である。
【0014】
特許文献1及び2に開示された引き下げ法育成においても、坩堝下部に形成される非常に薄い融液層を想定しているため、このような溶質の輸送を該融液層において実現する事は不可能である。即ち、特許文献1及び2に開示された育成法では、例え坩堝下部に、ここに言うリチウムリッチなセルフフラックス層が形成されたとしても、単結晶表面において、このフラックスを含んだ状態で固相が析出することは避けられず、単結晶化したとしても、所望の組成からずれた単結晶が育成される事が避けられないという問題点がある。
【特許文献1】特許第3550495号公報
【特許文献2】特許第3527203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、特に、粘度が1000ポアズ以下である、流動性の高い原料融液を用いて酸化物単結晶を育成する場合や、融液組成と、析出する結晶の組成とが一致しない、非一致溶融組成(非コングルエント組成)の酸化物単結晶を育成する場合に適する、いわゆる引き下げ法で育成された単結晶ならびにその製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1)育成炉内に、原料を融解して融液とする原料融解槽と、該原料融解槽の下方に位置し、この原料融解槽から移送された融液を保持しつつその一部を下方に流下させる融液保持槽と、該融液保持槽の下方に位置し、融液保持槽から流下した融液が供給される種結晶を下方に移動できるように保持する種結晶保持部と、該種結晶保持部を回転させながら下方に移動させる駆動部とを具える単結晶の製造装置において、前記融液保持槽が、上下方向に延びる少なくとも1個の第1貫通孔をもち、前記融液を受け止める上板部材と、該上板部材の下方に設置され、前記上板部材の第1貫通孔を通して流下する融液を保持する空間構造をもつ中間部材と、該中間部材の空間構造に保持された融液を、下方に設置された種結晶に連続供給するため、上下方向に延びる少なくとも1個の第2貫通孔をもつ下板部材とを有することを特徴とする単結晶の製造装置。
【0017】
(2)前記中間部材の空間構造の外周部に、前記第1貫通孔を通して流下した融液が空間構造外へ流出するのを防止する案内板を設ける上記(1)に記載の単結晶の製造装置。
【0018】
(3)育成炉内で、原料融解槽で原料を融解して融液とし、この融液を融液保持槽で保持しつつその一部を下方に流下させるとともに、駆動部を用いて回転させながら種結晶保持部を下方に移動させることで、種結晶保持部に保持され、かつ融液保持槽から流下した融液が供給される種結晶が下方に移動し、これにより単結晶を育成する単結晶の製造方法において、前記融液保持槽が、上下方向に延びる少なくとも1個の第1貫通孔をもち、前記融液を受け止める上板部材と、該上板部材の下方に設置され、前記上板部材の第1貫通孔を通して流下する融液を保持する空間構造をもつ中間部材と、該中間部材の空間構造に保持された融液を、下方に設置された種結晶に連続供給するため、上下方向に延びる少なくとも1個の第2貫通孔をもつ下板部材とを有することを特徴とする単結晶の製造方法。
【0019】
(4)上記(3)に記載の方法により製造した単結晶。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、特に、粘度が1,000ポアズ以下である、流動性の高い原料融液を用いて酸化物単結晶を育成する場合や、融液組成と、析出する結晶の組成とが一致しない、非一致溶融組成(非コングルエント組成)の酸化物単結晶を育成する場合であっても、脈動的な原料融液の供給に起因する組成ズレや同じ現象に起因する融液ダレによるクラックの発生なく、いわゆる引き下げ法で高品質の酸化物単結晶を育成することが可能になった。
【0021】
また、本発明では、融液保持槽を上記のように構成することにより、融液保持槽を構成する中間部材に、フラックスと溶質からなる小容積の遷移領域を生成し、コングルエント組成と異なる組成の酸化物単結晶を育成することも可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下にこの発明の構成を詳細に説明する。
図4は、この発明に従う単結晶の製造装置1の要部を概略的に示したものであり、図中の符号10は(育成炉)炉本体、11は原料融解槽、12は融液保持槽、13は種結晶保持部、14は駆動部、および15は種結晶である。
【0023】
図4に示す製造装置1は、主に、炉本体10と、原料融解槽11と、融液保持槽12と、種結晶保持部13と、駆動部14とで構成されている。
【0024】
育成炉10は、例えば円筒形状の炉本体、例えば石英管又は耐火物と、この炉本体の外周に配置された加熱手段、例えば高周波誘導加熱コイル(図示せず)とで主に構成され、例えば電気炉等が挙げられる。
【0025】
原料融解槽11は、育成炉10内の上部に位置し、原料を融解して融液とするために設けられ、例えば、白金又はイリジウム製の坩堝等が用いられる。
【0026】
融液保持槽12は、原料融解槽11の下方に位置し、この原料融解槽11から移送された融液を保持しつつその一部を下方に流下させるために設けられる。
【0027】
種結晶保持部13は、融液保持槽12の下方に位置するとともに、融液保持槽12から流下した融液が供給される種結晶15の下部を、種結晶15が下方に移動できるように保持するために設けられる。
【0028】
駆動部14は、種結晶保持部13、ひいては種結晶15を回転させながら下方に移動させるために設けられる。
【0029】
そして、本発明の構成上の主な特徴は、融液保持槽12の適正化にあり、より具体的には、融液保持槽12が、3つの部材、すなわち、図4および図5に示すように、上板部材16、中間部材17および下板部材18で構成することにある。
【0030】
上板部材16は、図6(a)および(b)に示すように、上下方向に延びる少なくとも1個の第1貫通孔19をもち、前記融液を受け止めるために設けられる。上板部材16の形状としては、例えば円盤状、逆円錐状、半球状などが挙げられるが、前記融液を受け止めるために外縁部の厚さが中央部の厚さより厚い凹状の形状を持つことが好ましい。又、該上板部材16の第1貫通孔19と下板部材18の第2貫通孔22の位置は、上下方向に一致していても良く、又ずれていても良い。また、上板部材16の材質は、白金、イリジウム、モリブデン等の金属またはこれらの合金や、アルミナ、ジルコニア等の耐熱酸化物が好ましい。
【0031】
中間部材17は、図7(a)および(b)に示すように、上板部材16の下方に設置され、前記上板部材16の第1貫通孔19を通して流下する融液を保持しつつその一部の下方への流下を行なうための空間構造20を有する。空間構造20は、中間部材17の下方に位置する単結晶15への流下を実質均一量で安定化させる構造であればよく、種々の態様が考えられる。
【0032】
また、図7(a)では、金網構造の外周部23に、前記第1貫通孔19を通して流下した融液が空間構造20から外へ流出するのを防止する案内板24を設けた場合を示しているが、この案内板24は必要に応じて設けることができる。
【0033】
下板部材18は、図8(a)および(b)に示すように、中央部が窪んだ凹部21と、この凹部21の底面に形成され、上下方向に延びる少なくとも1個の第2貫通孔22とを有する。なお、図8(a)および(b)では、凹部21内に中間部材17を収容し、その上に、上板部材16を凹部21の外縁部に直接載置するか、又は凹部21の上側に設けたリング状の突起25上に載置することにより、融液保持槽12を構成しているが、かかる構成だけには限定されない。
【0034】
また、融液保持槽12の他の実施態様として、図9に示すような3部材16〜18で構成することもできる。
【0035】
このように融液保持槽12を構成した本発明の製造装置1は、融液の粘度が1,000ポアズ以下と低粘度で流動性が高い組成の単結晶、特に酸化物単結晶であっても、脈動的な原料融液の供給に起因する組成ズレや同じ現象に起因する融液ダレによるクラックの発生がない単結晶の育成を可能にし、また、中間部材17に、フラックスと溶質からなる小容積の遷移領域を生成することができ、その結果、コングルエント組成と異なる組成の単結晶、特に酸化物単結晶の育成もまた可能にしたのである。
【0036】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明に従う製造装置を用いて単結晶を試作したので以下で説明する。
(試験例1)
複合酸化物タンタルニオブ酸カリウム〔 K(NbXTa1-X)O3;X=0.5 〕単結晶を、本発明に示した3部材16〜18で構成される融液保持槽12を有する単結晶引き下げ育成装置にて育成したものである(実施例1〜3)。比較のため、特許文献1
に示された構造の融液保持槽を有する単結晶引き下げ育成法にて、同組成の複合酸化物タンタルニオブ酸カリウム〔 K(NbXTa1-X)O3;X=0.5 〕単結晶を育成した(比較例1〜3)。育成例の原料構成、(Nb比率X)、種結晶方位、原料融解槽温度、融液保持槽(坩堝)温度および育成速度をそれぞれ表1に示す。なお、実施例1〜3は、本発明に示した3部材16〜18で構成される融液保持槽12を有する単結晶引き下げ育成装置を用い、単結晶育成速度を0.75mm/hと一定化し、原料融解槽温度および融液保持槽(坩堝)温度を変更して育成したものであり、また、比較例1〜3は、特許文献1記載の構造をもつ融液保持槽を有する単結晶引き下げ育成装置を用いること以外は、それぞれ実施例1〜3と同じ条件で単結晶を育成したものである。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜3はいずれも、クラックや融液ダレを生じることなく、種結晶方位と同じ方位<100>方向に単結晶を育成する事が出来た。
一方、比較例1〜3はいずれも、組成変動が見られ、比較例1では、多結晶化し、また、比較例2および3ではいずれもクラックが発生し、加えて、比較例2では、融液ダレが起こり、比較例1〜3のいずれも良好な単結晶を育成する事が出来なかった。
【0040】
(試験例2)
複合酸化物リチウムニオブ酸カリウム(KLN)、〔K3Li2-XNb5+XO15+2X;X=0.2,0.3 〕単結晶を、図9に示した3部材16〜18で構成される融液保持槽12を有する単結晶引き下げ育成装置にて育成した(実施例I〜III)。比較のため、特許文献2に示された構造の融液保持槽を有する単結晶引き下げ育成法にて、同組成の複合酸化物リチウムニオブ酸カリウム(KLN)〔K3Li2-XNb5+XO15+2X:X=0.2,0.3 〕単結晶を育成した(比較例I〜III)。育成例の原料構成、(KLNの化学式中のX値)、Nb2O5のモル%、種結晶方位、原料融解槽温度、融液保持槽(坩堝)温度および育成速度をそれぞれ表2に示す。なお、実施例I〜IIIは、図9に示した3部材16〜18で構成される融液保持槽12を有する単結晶引き下げ育成装置を用い、単結晶育成速度を0.50mm/hと一定化し、原料融解槽温度および融液保持槽(坩堝)温度を変更して育成したものであり、また、比較例I〜IIIは、特許文献2記載の構造をもつ融液保持槽を有する単結晶引き下げ育成装置を用いること以外は、それぞれ実施例I〜IIIとほぼ同じ条件で単結晶を育成したものである。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例I〜IIIはいずれも、クラックや融液ダレを生じることなく、種結晶方位と同じ方位に単結晶を育成する事が出来た。
一方、比較例I〜IIIはいずれも、組成変動が見られ、比較例1および3では、いずれも多結晶化し、また、比較例2ではクラックが発生し、比較例1〜3のいずれも良好な単結晶を育成する事が出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、特に、粘度が1,000ポアズ以下である、流動性の高い原料融液を用いて酸化物単結晶を育成する場合や、融液組成と、析出する結晶の組成とが一致しない、非一致溶融組成(非コングルエント組成)の酸化物単結晶を育成する場合であっても、脈動的な原料融液の供給に起因する組成ズレや同じ現象に起因する融液ダレによるクラックの発生なく、いわゆる引き下げ法で高品質の酸化物単結晶を育成することが可能になった。
【0044】
また、本発明では、融液保持槽を上記のように構成することにより、融液保持槽を構成する中間部材に、フラックスと溶質からなる小容積の遷移領域を生成し、コングルエント組成と異なる組成の酸化物単結晶を育成することも可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ニオブ酸リチウム(LN)の状態図である。
【図2】タンタル酸カリウムとニオブ酸カリウムの相図である。
【図3】リチウムニオブ酸カリウム(KLN)の状態図である。
【図4】本発明に従う単結晶製造装置の要部構成を示す図である。
【図5】図4の装置を構成する融液保持槽の断面図である。
【図6】図5の融液保持槽を構成する上板部材を示したものであって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図7】図5の融液保持槽を構成する中間部材を示したものであって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図8】図5の融液保持槽を構成する下板部材を示したものであって、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図9】融液保持槽12の他の実施態様を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
1 単結晶製造装置
10 育成炉
11 原料融解槽
12 融液保持槽
13 種結晶保持部
14 駆動部
15 種結晶
16 上板部材
17 中間部材
18 下板部材
19 第1貫通孔
20 空間構造
21 凹部
22 第2貫通孔
23 空間構造(または金網構造)の外周部
24 案内板
25 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
育成炉内に、原料を融解して融液とする原料融解槽と、該原料融解槽の下方に位置し、この原料融解槽から移送された融液を保持しつつその一部を下方に流下させる融液保持槽と、該融液保持槽の下方に位置し、融液保持槽から流下した融液が供給される種結晶を下方に移動できるように保持する種結晶保持部と、該種結晶保持部を回転させながら下方に移動させる駆動部とを具える単結晶の製造装置において、
前記融液保持槽が、
上下方向に延びる少なくとも1個の第1貫通孔をもち、前記融液を受け止める上板部材と、
該上板部材の下方に設置され、前記上板部材の第1貫通孔を通して流下する融液を保持する空間構造をもつ中間部材と、
該中間部材の空間構造に保持された融液を、下方に設置された種結晶に連続供給するため、上下方向に延びる少なくとも1個の第2貫通孔をもつ下板部材と
を有することを特徴とする単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記中間部材の空間構造の外周部に、前記第1貫通孔を通して流下した融液が空間構造外へ流出するのを防止する案内板を設ける請求項1に記載の単結晶の製造装置。
【請求項3】
育成炉内で、原料融解槽で原料を融解して融液とし、この融液を融液保持部で保持しつつその一部を下方に流下させるとともに、駆動部を用いて回転させながら種結晶保持部を下方に移動させることで、種結晶保持部に保持され、かつ融液保持部から流下した融液が供給される種結晶が下方に移動し、これにより単結晶を育成する単結晶の製造方法において、
前記融液保持槽が、
上下方向に延びる少なくとも1個の第1貫通孔をもち、前記融液を受け止める上板部材と、
該上板部材の下方に設置され、前記上板部材の第1貫通孔を通して流下する融液を保持する空間構造をもつ中間部材と、
該中間部材の空間構造に保持された融液を、下方に設置された種結晶に連続供給するため、上下方向に延びる少なくとも1個の第2貫通孔をもつ下板部材と
を有することを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法により製造した単結晶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−63180(P2008−63180A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241927(P2006−241927)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】