説明

単結晶の製造方法

【課題】Naなどの易酸化性物質または易吸湿性物質を含む原料を用いてフラックス法により単結晶を育成するのに際して、単結晶育成時の窒化率を向上させ、単結晶の着色を防止することである。
【解決手段】
育成原料溶液の上層部7aに局在する不純物18を反応容器1から排出し、次いで原料溶液7中で単結晶8を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Naフラックスなどを用いて単結晶を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム系III-V窒化物は、優れた青色発光素子として注目を集めており、発光ダイオードにおいて実用化され、光ピックアップ用の青紫色半導体レーザー素子としても期待されている。Naフラックス法によって窒化ガリウム単結晶を育成する方法としては、特許文献1では、窒素とアンモニアの混合ガスを用いて10から100気圧としている。特許文献2でも、育成時の雰囲気圧力は100気圧以下であり、実施例では2、3、5MPa(約20気圧、30気圧、50気圧)である。
【特許文献1】特開2002−293696号公報
【特許文献2】特開2003−292400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フラックス法により結晶育成を行う場合には、以下の問題点が起こることが判明してきた。
【0004】
金属ナトリウムなどは、非常に酸化しやすいため、グローブボックス内で秤量しているが、露点−80℃以下、酸素濃度1ppm以下という低水分濃度、低酸素濃度環境においても、秤量を行っている数分程度の間に、ナトリウム金属の表面がうっすらと白く変化してくる。秤量作業は、場合によるが、短い場合でも30分間、サンプル数が多い場合には数時間程度かかる場合がある。特にサンプル数が多い場合には、露点が徐々に悪化し、ナトリウム金属の表面がより酸化しやすくなる。酸化したナトリウムを原料としたフラックスで育成した場合は、原料溶液液面における窒素の溶け込みが阻害され、ガリウムの窒化率が低くなり、かつ黒く着色した窒化ガリウム単結晶が得られることが分かった。
また、原料成分内の酸化物等の不純物や、反応容器や原料に付着した有機物等の不純物によって、ガリウムの窒化率が低くなり、かつ黒く着色した窒化ガリウム単結晶が得られることが分かった。
【0005】
本発明の課題は、Naなどの易酸化性物質または易吸湿性物質を含む原料を用いてフラックス法により単結晶を育成するのに際して、単結晶育成時の窒化率を向上させ、単結晶の着色を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フラックス法により単結晶を育成する方法であって、
育成原料溶液の上層部を反応容器から排出する排出工程;および
次いで前記育成原料溶液中で単結晶を育成する育成工程
を有することを特徴とする、単結晶の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明者は、原料混合物を加熱溶融させたときに、前述したような酸化物、有機物を中心とする不純物が、フラックスの上層部に集まることを見いだした。そして、フラックスの上層部をいったん反応容器外へと排出し、次いで所定条件下にフラックス内で単結晶の育成を試みたところ、窒化率が高く、着色等のない高品質の単結晶が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を適宜参照しつつ、本発明を更に詳細に説明する。
原料混合物を構成する各原料を非酸化性雰囲気のグローブボックス内で秤量し、反応容器1の内側空間に非酸化性雰囲気内で封入する(図1)。この反応容器1には蓋を設けても良い。本例では、原料は、易酸化性物質または易吸湿性物質と、それ以外の物質との混合物からなる。反応容器1の底部には種結晶基板6を設置しておく。この状態で反応容器1をグローブボックスから取り出し、匣鉢16上に載せ、外側容器21内で加熱溶融する。
【0009】
この段階で、図1(a)に示すように、フラックス7の上層部に、酸化物を中心とする不純物18が集まる傾向がある。そこで、反応容器1内の原料溶液7のうち上層部7aを反応容器外へと排出し、次いで所定条件でフラックス内に単結晶を生成させる。
【0010】
ここで、反応容器外へと原料溶液の上層部を排出する方法は特に限定されない。例えば、反応容器を傾斜させることができる。この場合には、反応容器を外側容器内に収容し、外側容器を傾斜させることによって反応容器も傾斜させ、反応容器の縁部から原料溶液の上層部を流し出すことができる。
【0011】
例えば、図1(b)に示すように、外側容器21を水平線Lに対して傾斜させる。これによって、外側容器21、匣鉢16および反応容器1を水平線Lに対して角度θだけ傾斜させる。これによって、反応容器1の縁部から、原料溶液の上層部7aを匣鉢16内へと流しだす。このとき、上層部内に集まっている不純物18もほぼ反応容器1外へと排出される。次いで、図1(c)に示すように外側容器21を水平に戻し、所定条件で原料溶液内で単結晶8を育成する。
【0012】
あるいは、反応容器を複数の支持脚によって支持し、少なくとも一つの支持脚を低くするか、あるいは支持脚を除くことによって反応容器を傾斜させることができる。これによって反応容器内の原料溶液の上層部を反応容器外へと排出させる。例えば図2(a)に示すように、反応容器1を支持脚22、23によって支持する。ここで、支持脚22は温度t22で溶融する材料から製造し、支持脚23は温度t23で溶融する金属から製造する。t23はt22よりも低くする。
【0013】
この状態で、温度をt23より高くし、t22よりも低くする。すると、支持脚23が溶融し、支持脚22は溶融しないので、反応容器1は傾斜し、反応容器内の原料溶液の上層部7aが反応容器外へと流れだす。これによって、上層部内に主として存在する不純部18を反応容器外へと排出する。
【0014】
次いで、温度をt22よりも高くすることによって、支持脚22も溶融させ、図2(c)に示すように反応容器1を略水平に戻す。反応容器外には、不純物18、支持脚22の溶融物および支持脚23の溶融物を含む溶融物24が溜まる。この状態で所定圧力および温度を維持し、原料溶液内に単結晶8を育成する。
【0015】
また、好適な実施形態においては、反応容器に栓を設け、この栓を除去することによって上層部を反応容器外に排出させる。例えば図3(a)に示すように、反応容器1の上側縁部近辺に栓25を取り付ける。次いで、反応容器内の原料混合物が溶融した時点で、図3(b)に示すように栓25を取り去り、開口から原料溶液の上層部7aを排出させる。これによって、上層部内に主として存在する不純物18を反応容器外へと排出する。
【0016】
次いで、この状態で所定圧力および温度を維持し、フラックス内に単結晶8を育成する。
【0017】
反応容器を傾斜させることによって、原料溶液の上層部を反応容器外へと流し出す場合には、容器の傾斜角度θは特に限定されない。θは、原料溶液上層部の排出を促進するという観点からは、5 °以上が好ましく、10°以上が更に好ましい。また、反応容器の傾斜角度が大きくなりすぎると、必要な部分まで反応容器外に排出され易くなるので、この観点からは、θは45°以下であることが好ましく、30°以下であることが更に好ましい。
【0018】
また、反応容器を傾斜させる方法は前述のとおりであるが、特に限定されない。反応容器を収容する外側容器を傾斜させる方法は特に限定されない。例えば外側容器を機械的クランプで保持して傾斜させたり、外側容器を回動軸に取り付け、回動軸を回動させることが傾斜させることができる。
【0019】
また、少なくとも一対の支持脚で反応容器を支持したあと、少なくとも一つの支持脚を低くすることで反応容器を傾斜させる場合には、支持脚の一部を除去したり、溶融させることができ、また支持脚の実質的に全部を除去あるいは溶融させることができる。例えば図2(a)〜(c)に示すように、支持脚を段階的に溶融させる場合には、低温側の溶融温度t23は、例えば97.8℃〜500℃とすることができ、更に好ましくは97.8℃〜250℃とすることができる。また、高温側の溶融温度t22は、例えば180℃〜1000℃とすることができ、更に好ましくは200℃〜700℃とすることができる。
【0020】
また、相対的に低温側で溶融する支持脚の材質は、例えばNa, Li, Zn, Cd,
In, Tl, Sn, Pb, Bi, S, Se, Te, I, 共晶はんだ(低融点はんだ)とすることができる。相対的に高温側で溶融する支持脚の材質は、例えば、Al, Ag, Ca, Liおよびこれらの合金、はんだとすることができる。
【0021】
また、反応容器に設ける栓の材質は特に限定されないが、Na, Li, Zn, Cd,
In, Sn, Bi、およびこれらの合金、はんだであってよい。これらのうち、Snが最も好ましい。
【0022】
また、栓を除去する方法は、以下の方法がある。
(1) 栓を機械的クラップによって把持して除去する。
(2) 栓を低融点金属によって形成する。低融点金属の融点以上の温度で保持することによって,栓を流出させる。こうした栓の材質としてはNa, Li, Zn, Cd,
In, Sn, Bi、およびこれらの合金、はんだを例示できる。
【0023】
反応容器外に排出される原料溶液の上層部の量は特に限定されない。上層部はいわゆる上澄みを意味しており、上澄みは原料溶液表面のうちわずかな部分を占めるだけである。また、本発明では、上層部の一部分のみを排出すれば足りる。
【0024】
ただし、酸化物を中心とする不純物を原料溶液外に排出して単結晶育成を良好に行うという観点からは、原料溶液100体積部に対する上層部の排出量は,1体積部以上とすることが好ましく、3体積部以上とすることが更に好ましい。また、反応容器中における原料溶液の溶融時の高さをHとしたとき、上層部を排出した後の原料溶液の高さhとの差(H−h)は、1mm以上とすることが好ましく、2mm以上とすることが更に好ましい。
【0025】
一方、原料溶液を反応容器から排出しすぎると、原料溶液が無駄になり、生産性が低下する。この観点からは、原料溶液100体積部に対する上層部の排出量は,10体積部以下とすることが好ましく、7体積部以下とすることが更に好ましい。また、反応容器中における原料溶液の溶融時の高さをHとしたとき、上層部を排出した後の原料溶液の高さhとの差(H−h)は、10mm以下とすることが好ましく、5mm以下とすることが更に好ましい。
【0026】
フラックスにナトリウムを用いて窒化ガリウムを育成する場合には、不純物の排出作業の温度は600℃以下で行うことが好ましい。これは、600℃以下ではガリウムとナトリウムが相分離し、ナトリウムが上部に溜まり、ガリウムが下部に溜まるためである。
【0027】
例えば図4に示す例においては、HIP(熱間等方圧プレス)装置11の圧力容器12の中に外側容器21、容器1を設置する。圧力容器12の外部には、図示しない混合ガスボンベを設ける。混合ガスボンベ内には、所定組成の混合ガスが充填されており、この混合ガスを圧縮機によって圧縮して所定圧力とし、供給管15を通して圧力容器12内に矢印Aのように供給する。この雰囲気中の窒素は窒素源となり、アルゴンガス等の不活性ガスは原料溶液の蒸発を抑制する。この圧力は、図示しない圧力計によって監視する。外側容器21、容器1の周囲にはヒーター14が設置されており、容器内の育成温度を制御可能となっている。
【0028】
圧力容器12内で容器1を加熱および加圧すると、図5に示すように、容器1内で混合原料がすべて溶解し、育成原料溶液7を生成する。ここで、所定の単結晶育成条件を保持すれば、内側空間1aから窒素が育成原料溶液7中に安定して供給され、種結晶基板6上に単結晶膜8が成長する。
【0029】
ここで、本発明によれば、酸化した易酸化性物質または、吸湿した易吸湿性物質、または原料成分内の酸化物等の不純物、反応容器や原料に付着した有機物等の不純物量が著しく低減され、育成原料溶液中に窒素が矢印Bのように良好に供給され、窒化物単結晶がバラツキなく育成される。
【0030】
これに対して、易酸化性物質または易吸湿性物質、例えばナトリウム金属が酸化した場合や、原料成分内の酸化物等の不純物、反応容器や原料に付着した有機物等の不純物が原料溶液に混入した場合には、例えば図6に示すように、加熱処理時に、不純物が育成原料溶液7の液面近傍に集まり、窒素が育成原料溶液中に矢印Bのように溶け込むのを妨害する。このため窒素は育成原料溶液中に良好に供給されない。この結果、種結晶6上に良質な単結晶膜が生産性よく形成されないし、また得られた単結晶に着色などの問題が生ずることがある。この不純物を本発明にしたがって反応容器から排出する。
【0031】
本発明において、非酸化性雰囲気の種類は特に限定されず、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や一酸化炭素、水素などの還元性雰囲気が含まれるが、窒素含有雰囲気に対して特に好適である。窒素含有雰囲気は、窒素のみからなっていてよいが、窒素以外の非酸化性ガス、例えば、アルゴンなどの不活性ガスや還元性ガスを含有していてよい。
【0032】
本発明において、原料混合物を秤量する際には例えばグローブボックスを用いることができる。そして、秤量後の原料混合物の全部または一部を反応容器内で加熱溶融させる際の密閉容器は特に限定されない。この密閉容器内は前述の非酸化性雰囲気に保持されている。この圧力は特に限定されないが、例えば0.2KPa〜0.1MPaとすることができる。
【0033】
本発明において、単結晶育成装置において、原料混合物を加熱して育成原料溶液を生成させるための装置は特に限定されない。この装置は熱間等方圧プレス装置が好ましいが、それ以外の雰囲気加圧型加熱炉であってもよい。
【0034】
本発明を適用可能な易酸化性物質または易吸湿性物質は特に限定されない。易酸化性物質または易吸湿性物質は、常温下で大気に接触したときに容易に酸化、または吸湿が観測される物質を意味しており、例えば1分以内で酸化または吸湿が観測されるような物質を意味する。
【0035】
好適な実施形態においては、易酸化性物質または易吸湿性物質は、例えばアルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれた一種以上の金属またはその合金である。この金属としては、ナトリウム、リチウム、カルシウムが特に好ましく、ナトリウムが最も好ましい。
【0036】
また、原料混合物中に添加する易酸化性物質または易吸湿性物質以外の物質としては、以下の金属を例示できる。
カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、錫
またドーパントとして少量の不純物元素を添加することができる。例えば、n型ドーパントとしてシリコンを添加することができる。
【0037】
本発明の育成方法によって、例えば以下の単結晶を好適に育成できる。
GaN、AlN、InN、これらの混晶(AlGaInN)、BN
【0038】
また、易酸化性物質または易吸湿性物質は、所定の反応において、反応体として挙動してよく、あるいはフラックス中の反応しない1成分として存在していてよい。
【0039】
単結晶育成工程における加熱温度、圧力は、単結晶の種類によって選択するので特に限定されない。加熱温度は例えば800〜1500℃とすることができる。圧力も特に限定されないが、圧力は1MPa以上であることが好ましく、5MPa以上であることが更に好ましい。圧力の上限は特に規定しないが、例えば200MPa以下とすることができる。
【0040】
反応を行うための容器の材質は特に限定されず、目的とする加熱および加圧条件において耐久性のある気密性材料であればよい。こうした材料としては、金属タンタル、タングステン、モリブデンなどの高融点金属、アルミナ、サファイア、イットリアなどの酸化物、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化ホウ素などの窒化物セラミックス、タングステンカーバイド、タンタルカーバイドなどの高融点金属の炭化物、p−BN(パイロリティックBN)、p−Gr(パイロリティックグラファイト)などの熱分解生成体が挙げられる。
【0041】
以下、更に具体的な単結晶およびその育成手順について例示する。
(窒化ガリウム単結晶の育成例)
本発明を利用し、少なくともナトリウム金属を含むフラックスを使用して窒化ガリウム単結晶を育成できる。このフラックスには、ガリウム原料物質を混合する。ガリウム原料物質としては、ガリウム単体金属、ガリウム合金、ガリウム化合物を適用できるが、ガリウム単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0042】
このフラックスには、ナトリウム以外の金属、例えばリチウムを含有させることができる。ガリウム原料物質とナトリウムなどのフラックス原料物質との使用割合は、適宜であってよいが、一般的には、Na過剰量を用いることが考慮される。もちろん、このことは限定的ではない。
【0043】
この実施形態においては、窒素ガスを含む混合ガスからなる雰囲気下で、全圧300気圧以上、2000気圧以下の圧力下で窒化ガリウム単結晶を育成する。全圧を300気圧以上とすることによって、例えば900℃以上の高温領域において、更に好ましくは950℃以上の高温領域において、良質の窒化ガリウム単結晶を育成可能であった。この理由は、定かではないが、温度上昇に伴って窒素溶解度が上昇し、育成溶液に窒素が効率的に溶け込むためと推測される。また、雰囲気の全圧を2000気圧以上とすると、高圧ガスの密度と育成溶液の密度が近くなるために、育成溶液を反応を行うための容器内に保持することが困難になるために好ましくない。
【0044】
【表1】

【0045】
好適な実施形態においては、育成時雰囲気中の窒素分圧を100気圧以上、2000気圧以下とする。この窒素分圧を100気圧以上とすることによって、例えば1000℃以上の高温領域において、原料溶液中への窒素の溶解を促進し、良質の窒化ガリウム単結晶を育成可能であった。この観点からは、雰囲気の窒素分圧を200気圧以上とすることが更に好ましい。また、窒素分圧は実用的には1000気圧以下とすることが好ましい。
【0046】
雰囲気中の窒素以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。窒素以外のガスの分圧は、全圧から窒素ガス分圧を除いた値である。
好適な実施形態においては、窒化ガリウム単結晶の育成温度は、950℃以上であり、1000℃以上とすることが更に好ましく、このような高温領域においても良質な窒化ガリウム単結晶が育成可能である。また、高温・高圧での育成により、生産性を向上させ得る可能性がある。
【0047】
窒化ガリウム単結晶の育成温度の上限は特にないが、育成温度が高すぎると結晶が成長しにくくなるので、1500℃以下とすることが好ましく、この観点からは、1200℃以下とすることが更に好ましい。
【0048】
窒化ガリウム結晶をエピタキシャル成長させるための育成用基板の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、シリコン単結晶、SiC単結晶、GaN自立基板MgO単結晶、スピネル(MgAl2O4)、LiAlO2、LiGaO2、LaAlO3,LaGaO3,NdGaO3等のペロブスカイト型複合酸化物を例示できる。また組成式〔A1−y(Sr1−xBax)y〕〔(Al1−zGaz)1−u・Du〕O3(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。また、SCAM(ScAlMgO4)も使用できる。
【0049】
(AlN単結晶の育成例)
本発明は、少なくともアルミニウムとアルカリ金属、またはアルカリ土類金属、または錫を含むフラックスを含む融液を特定の条件下で窒素含有雰囲気中で加圧することによって、AlN単結晶を育成する場合にも有効であることが確認できた。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
図1(a)〜(c)および図4、図5を参照しつつ説明したようにして、GaN単結晶8を種基板6上に育成した。具体的には、金属Na、金属Ga、金属Liをそれぞれモル比でNa:Ga:Li=73:27:1になるように、グローブボックス中で秤量した。これらの原料を内径φ80ミリ、深さ40ミリのアルミナ製るつぼ1に充填した。原料融液7の高さは約40mmとした。種結晶としてφ2インチのAlNテンプレート基板やGaNテンプレート基板やGaN単結晶自立基板を用いた。るつぼ1の底に、テンプレートの単結晶薄膜が上向きになるように、またはGaN単結晶自立基板のGa面が上向きになるように水平に配置した。AlNテンプレート基板は、サファイア基板上にAlN単結晶薄膜を1ミクロンエピタキシャル成長させた基板であり、GaNテンプレート基板は、サファイア基板上にGaN単結晶薄膜を3ミクロンエピタキシャル成長させた基板である。
【0051】
このるつぼ1をアルミナ匣鉢16に入れ、さらにステンレス製の耐圧容器21に入れ、窒素ガスを用いて200℃、100気圧に昇温・加圧した。次いで、炉を角度θ=20°傾け、不純物を含んだ金属融液の上澄みをるつぼ外に除去した。次いで、900℃まで1時間かけて昇温し、100時間保持した。次いで、室温まで自然放冷した後、圧力容器からるつぼ1を取り出し、エタノール中で処理することにより、Na、Liを溶かした。その後、約35℃の湯水につけ、残ったGaを除去し、GaN単結晶8を取り出した。このGaN単結晶8の大きさはφ2インチであり、厚さは約3mmであり、形状は略円形で、ほぼ透明であった。
【0052】
(実施例2)
図2(a)〜(c)、図4、および図5を参照しつつ説明したようにして、GaN単結晶を種基板上に育成した。具体的には、金属Na、金属Ga、金属Liをそれぞれモル比でNa:Ga:Li=73:27:1になるように、グローブボックス中で秤量した。これらの原料を内径φ80ミリ、深さ40ミリのアルミナ製るつぼ1に充填した。原料融液の高さは約40mmとした。種結晶としてφ2インチのAlNテンプレート基板やGaNテンプレート基板やGaN単結晶自立基板を用いた。るつぼ1の底に、テンプレートの単結晶薄膜が上向きになるように、またはGaN単結晶自立基板のGa面が上向きになるように水平に配置した。AlNテンプレート基板は、サファイア基板上にAlN単結晶薄膜を1ミクロンエピタキシャル成長させた基板であり、GaNテンプレート基板は、サファイア基板上にGaN単結晶薄膜を3ミクロンエピタキシャル成長させた基板である。
【0053】
このるつぼ1を、高さ2cmの金属Caからなる支持脚22と金属Snからなる支持脚23を用いて嵩上げし、アルミナ匣鉢に入れ、さらにステンレス製の耐圧容器に入れ、窒素ガスを用いて250℃、100気圧に昇温・加圧した。るつぼ1嵩上げ用の金属Sn支持脚23が融解し、るつぼ1が傾き、不純物を含んだ金属融液の上澄みがるつぼ外に除去された。次いで、900℃まで1時間かけて昇温した。るつぼ1嵩上げ用の金属Ca支持脚22が融解し、るつぼ1は水平になった。そのまま100時間保持した。次いで、室温まで自然放冷した後、圧力容器からるつぼ1を取り出し、エタノール中で処理することにより、Na、Liを溶かした。その後、約35℃の湯水につけ、残ったGaを除去し、GaN単結晶4を取り出した。このGaN単結晶4の大きさはφ2インチであり、厚さは約3mmであり、形状は略円形で、ほぼ透明であった。
【0054】
(実施例3)
図3(a)〜(c)、図4および図5を参照しつつ説明したようにして、GaN単結晶を種基板上に育成した。具体的には、金属Na、金属Ga、金属Liをそれぞれモル比でNa:Ga:Li=73:27:1になるように、グローブボックス中で秤量した。これらの原料を内径φ80ミリ、深さ40ミリ、るつぼの上端から10mmの切り込みを施したアルミナ製るつぼ1に充填した。るつぼ1の切り込みには金属Snからなる栓25を充填した。原料融液の高さは約40mmとした。種結晶としてφ2インチのAlNテンプレート基板やGaNテンプレート基板やGaN単結晶自立基板を用いた。るつぼ1の底に、テンプレートの単結晶薄膜が上向きになるように、またはGaN単結晶自立基板のGa面が上向きになるように水平に配置した。AlNテンプレート基板は、サファイア基板上にAlN単結晶薄膜を1ミクロンエピタキシャル成長させた基板であり、GaNテンプレート基板は、サファイア基板上にGaN単結晶薄膜を3ミクロンエピタキシャル成長させた基板である。
【0055】
このるつぼ1を、アルミナ匣鉢に入れ、さらにステンレス製の耐圧容器に入れ、窒素ガスを用いて250℃、100気圧に昇温・加圧した。るつぼ1の切り込みに充填した金属Snからなる栓が融解し、不純物18を含んだ金属融液の上澄み7aがるつぼ外に除去された。次いで、900℃まで1時間かけて昇温し、100時間保持した。次いで、室温まで自然放冷した後、圧力容器からるつぼ1を取り出し、エタノール中で処理することにより、Na、Liを溶かした。その後、約35℃の湯水につけ、残ったGaを除去し、GaN単結晶4を取り出した。このGaN単結晶4の大きさはφ2インチであり、厚さは約3mmであり、形状は略円形で、ほぼ透明であった。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様にして実験を行った。ただし、原料溶液から不純物を除去する工程は設けていない。この結果、実施例1と比較し、黒く着色したGaN単結晶が育成された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】(a)は、反応容器1内で原料混合物を溶融させた状態を示す模式図であり、(b)は、外側容器21および反応容器1を角度θ傾斜させた状態を示す模式図であり、(c)は、上層部の除去後に単結晶を育成している状態を示す模式図である。
【図2】(a)は、反応容器1内で原料混合物を溶融させた状態を示す模式図であり、(b)は、反応容器1を角度θ傾斜させた状態を示す模式図であり、(c)は、上層部の除去後に単結晶を育成している状態を示す模式図である。
【図3】(a)は、反応容器1内で原料混合物を溶融させた状態を示す模式図であり、(b)は、反応容器1の栓を除去して上層部を流しだしている状態を示す模式図であり、(c)は、上層部の除去後に単結晶を育成している状態を示す模式図である。
【図4】反応容器をHIP装置にセットした状態を示す模式図である。
【図5】反応容器1内で原料混合物を溶融させ、単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。
【図6】酸化した原料を使用して単結晶を育成している状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 反応容器 6 種結晶 7 原料溶液 7a 原料溶液の上層部 8 単結晶薄膜 16 匣鉢 18 原料溶液中の不純物 21 外側容器 A、B 窒素の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス法により単結晶を育成する方法であって、
育成原料溶液の上層部を反応容器から排出する排出工程;および、
次いで前記育成原料溶液中で単結晶を育成する育成工程
を有することを特徴とする、単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記上層部が、前記育成原料中の不純物を含むことを特徴とする、請求項1記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記不純物が前記育成原料の酸化物または水和物であることを特徴とする、請求項2記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記上層部が、前記反応容器に付着した不純物を含むことを特徴する、請求項1記載の単結晶の育成方法。
【請求項5】
前記上層部が、前記育成原料に付着した不純物を含むことを特徴する、請求項1記載の単結晶の育成方法。
【請求項6】
前記反応容器を傾斜させることによって前記上層部を前記反応容器の縁部から排出させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記反応容器を外側容器内に収容し、前記外側容器を傾斜させることによって前記反応容器を傾斜させることを特徴とする、請求項6記載の単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記反応容器を複数の支持脚によって支持し、少なくとも一つの前記支持脚を低くすることによって前記反応容器を傾斜させることを特徴とする、請求項6記載の単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記反応容器を複数の支持脚によって支持し、少なくとも一つの前記支持脚を除くことによって前記反応容器を傾斜させることを特徴とする、請求項6記載の単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記反応容器に栓を設け、この栓を除去することによって前記上層部を前記反応容器外に排出させることを特徴とする、請求項1記載の単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記育成原料溶液が、易酸化性物質または易吸湿性物質を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つの請求項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記易酸化性物質または易吸湿性物質が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選ばれた一種以上の金属を含有することを特徴とする、請求項11記載の単結晶の製造方法。
【請求項13】
窒素含有雰囲気下で加圧しながら前記単結晶を育成することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つの請求項に記載の単結晶の製造方法。
【請求項14】
前記単結晶が、窒化物単結晶であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一つの請求項に記載の方法。
【請求項15】
熱間等方圧プレス装置内で前記単結晶を育成することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一つの請求項に記載の単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−254201(P2007−254201A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80258(P2006−80258)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】