説明

単結晶成長方法および装置

【課題】垂直ブリッジマン法による単結晶の成長装置において、簡便な方法で、高品質な単結晶を安定して得ることができる構造の結晶製造装置を提供する。
【解決手段】単結晶3を成長させるルツボ1の下部を、支持して引き下げを行うための支持部材10と、下方に向かって先細りする傾斜部を備え、傾斜部の下方部が支持部材10に取り付けられ、かつ上方部がルツボ1の底面に取り付けられている傾斜部材20から構成し、結晶3の中央部が上に凸となるように、ルツボ1の底面の温度分布を最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直ブリッジマン法による、単結晶の成長装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶を育成する製造法である垂直ブリッジマン法は、結晶形状がルツボの形状に依存するので、形状制御が容易であるが、ルツボに直に触れた状態で結晶が成長するために、ルツボの中心部と外周部との間では温度勾配が生じ、結晶成長に欠陥を生じさせることになる。
【0003】
従来の垂直ブリッジマン法からなる結晶成長装置構造を図6に示す。図6の従来装置構造では、ルツボ1の底部に種結晶を位置させておき、その上に原料溶融液2を投入して、ルツボ1で結晶3を成長させ、結晶の成長では、結晶の固液界面4が存在する。
【0004】
そして、ルツボ1を支持する支持体5と、ルツボ1の周囲を覆うように炉心管6を設け、その周囲に上下方向の温度を任意に設定できる側面ヒーター7を配置し、これらは、筐体8内に配置されて、筐体8の内側は、断熱材9により熱が外部に逃げることを防いでいる。
【0005】
また、図7に記載の従来の別の装置構成においては、ルツボ1の底面の中心部を、支持棒10により支持し、ルツボ1の底部中心部からの熱の逃げが大きくなることを防ぐために、支持棒10を優先的に加熱するヒーター11を有している。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10‐101484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
結晶の固液界面4の形状については、下に凸形状になると、ルツボ1の内壁で発生する欠陥が結晶中に取り込まれて単結晶化を困難にすることや、下に凸部中心の結晶中央部には異物が集まりやすくなり、結晶の中央部に欠陥が生じるという問題があった。
【0008】
このため、結晶の固液界面4を上に凸形状にする必要がある。
結晶の固液界面4が上に凸になるか、下に凸になるかは、ルツボ1に接触している原料溶融液の周辺部分の温度が、原料溶融液中央の温度と比較して高くなるか、低くなるかである。
【0009】
図6(a)に示す従来装置においては、結晶融液のルツボ1壁近傍と中心部とでは、ルツボ1壁近傍の温度が低く、中心部の温度が高くなるような温度差が生じ、ルツボの底面においては、図6(b)に示す温度特性となる。このような温度特性では、結晶の固液界面4では、図6(c)に示すように、下に凸形状の結晶となる。この原因として、ルツボを支える支持体からの熱の逃げも影響をしている。
【0010】
また、図7のように、ルツボ1を支持棒10で支持する場合もあり、この従来例では、支持棒10をヒーター11で加熱し、原料溶融液の温度分布がほぼ均一になるように伝熱量の制御を行うという方法もある(例えば特許文献1)。
【0011】
しかし、図7(a)のような構成では、ルツボの底部が側面よりもヒーター11による熱の影響を大きくうけることになるので、図7(b)に示す温度特性のように、中心の温度が高くなる。したがって、図7(c)のように、結晶の中心にくぼみができてしまう。
【0012】
また、従来技術では、支持棒とルツボの間に熱伝導率異方性を有する円柱型の部材を用いることで界面の底上げを行っていることを特徴としている。しかしながら、円柱型の部材は側面からの熱の流入が少ないため、熱が全体に伝わりにくい。
【0013】
上述のように、側面部分と中央部分には温度差が生じやすく、その温度差や温度勾配により高品質な単結晶が得にくい。
そこで、本発明では、簡便な方法で、高品質な単結晶を安定して得ることができる構造の結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明では、結晶性物質の原料溶融液を保持するルツボと、前記ルツボの周囲に配置された側面ヒーターとを有し、断熱材で覆われた筐体に収納され、前記ルツボを引き下げて単結晶を成長させる結晶の成長装置で、前記ルツボの底面に取り付けられていて、引き下げ方向の軸に対して下方に向かって先細りする傾斜部材と、前記傾斜部材の下方部を支持して引き下げを行うための支持部材とを有するように構成する。
【0015】
装置の仕様や、結晶成長装置の動作条件により、傾斜部材の最適な高さを決めることにより、周囲環境を含めた動作条件に変化が無ければ、特別な制御を必要とせずに、ルツボの底面での温度特性として、ルツボの中央部が、周囲に対して、緩やかな傾斜により低くなるようにすることができるので、固液界面が上に凸形状となる結晶が得られる。
【0016】
また、前記傾斜部材は、全体が熱伝導の良い、例えば銅などの熱伝導性に優れた部材で形成するか、あるいは、前記傾斜部材を外周が熱伝導性に優れた部材からなる中空構造とし、内部に熱伝導性に優れた流体を充填する構成とすることができる。
【0017】
さらに、前記傾斜部材と前記支持部材とは、ネジ接続され、前記傾斜部材と前記ルツボの底面とは、伝熱性ペーストの塗布を介して接触することが、熱の伝わりを向上させることができるので、好ましい形態である。
【0018】
そして、結晶成長中に、室温などの周囲環境に変化が起こる可能性のある場合には、前記支持部材を加熱と冷却とができる手段を有することが良く、固液界面での結晶が上に凸形状となるように、前記支持部材と前記ルツボとの移動熱量の制御を行うことが良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ルツボを支持する支持棒とルツボ底部との接触部に、ルツボの方向に広く、支持棒側に細くなるように、下方に向かって先細りする傾斜部を備えて、傾斜部の下方部が支持棒に取り付けられ、上方部がルツボの底面に取り付けられている傾斜部材を設けることで、ルツボの壁面から温度が逃げるのを軽減し、ルツボの底面での温度特性として、中央部が低くなるようにして、結晶の固液界面が上に凸形状になるようにできるので、高品質な単結晶を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】( a ) は本発明の実施の形態における単結晶の成長装置断面図( b )は 本発明の実施の形態における結晶の固液界面での温度特性グラフ( c ) は本発明の実施の形態による成長結晶の断面図
【図2】本発明の実施の形態における要部の説明図
【図3】本発明の実施の形態を示す要部の断面図
【図4】本発明の別の実施の形態を示す要部の断面図
【図5】ルツボの中心軸から側面までの相対温度値分布シミュレーション結果を示す図
【図6】( a ) 従来技術に用いられる単結晶の成長装置断面図 ( b ) 従来技術における結晶の固液界面での温度特性グラフ ( c ) 従来技術による成長結晶の断面図
【図7】( a ) 別の従来技術に用いられる単結晶の成長装置断面図 ( b ) 別の従来技術における結晶の固液界面での温度特性グラフ ( c ) 別の従来技術による成長結晶の断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
図1は、垂直ブリッジマン法による単結晶の成長装置で、本発明を適用した実施例である。
【0022】
従来の図7との相違点は、ルツボ1の下部の支持に、本発明の傾斜部材20を介して支持棒10を接続した点である。
この傾斜部材20は、ルツボ1と支持棒10の間に位置し、支持棒10の軸芯方向に傾斜する形状で、傾斜方向は、ルツボ1の方向に広くなり、逆に支持棒10の側に細くなっている。そして、傾斜部材20は、ルツボ1の底部との接触部は、ルツボ1と同じ径まで広がっていることが望ましいが、ルツボ1の径より小さくても良い。また、傾斜部材20は、図1に示すように、ルツボ1の底部の接触部まで傾斜させても良いし、ルツボ1の底部と接触させたい径まで傾斜されてから、支持棒10の軸芯方向に伸びる厚み部を設けるよう(円柱部材を重ねたような形状)にしても良い。傾斜部材20の支持棒10側は、支持棒10と同じ径まで細くなることが望ましいが、特にこの形状に限定はされない。
【0023】
この傾斜部材20は、ルツボ1の底部に一体形成しても良いし、支持棒10に一体形成しても良いが、形状の異なる傾斜部材20を容易に交換可能として用いるためには、傾斜部材20が、ルツボ1と支持棒10とは別の部品とすることが良い。
【0024】
傾斜部材20の最適形状は、結晶成長装置の仕様や実際の結晶成長のための装置動作条件により、ルツボ1の底面における温度特性として、ルツボの周囲から緩やかな傾斜で中央部が低くなるように、シミュレーションなどを用いて、傾斜部材20の最適な形状(高さ)を決める。
【0025】
結晶成長中での、周囲環境(周囲の雰囲気温度)を含めた動作条件に変化が無ければ、この発明による傾斜部材20を用いることにより、ルツボ1の底面の温度制御を必要とせずに、成長する結晶の固液界面が上に凸形状とすることができ、品質の良い単結晶を得ることができる。
【0026】
結晶成長装置の設置場所や環境などにより、結晶成長中に室温などの周囲環境に変化が起こる可能性のある場合には、前記支持部材20を加熱と冷却とができる手段を有することで、固液界面での結晶が上に凸形状となるように、前記支持部材と前記ルツボとの移動熱量の制御を行うことが良い。図1においては、支持棒10にヒーター11と冷却部23を設け、ヒーター電源や冷却機能装置を兼ね備えた温度制御部24により、ルツボ1の底面の温度をモニターしながら、適切な温度分布となるような制御が行われる。
【0027】
支持棒10に移動する熱量は、例えば、温度差が時間に依存せず、ほぼ定常状態とみなせる場合、式(1)と式(2)より、支持棒10内の特定区間の温度差から求めることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
【数2】

【0030】
そして、ルツボの底面での温度特性として、中央部が周囲に対して、緩やかな傾斜により低い最適な状態となるように、加熱冷却装置を用いて、支持棒10を移動する熱量をコントロールすることで、中心部と周囲(側面)の温度差をより細かに温度制御することも可能である。
【0031】
傾斜部材20の形状については、図2に示すように、傾斜角度θを変えて傾斜部材20に高さを変化させるようにする。図2( a )の傾斜部材20aのように、高さであるh1を広くしたり、図2( b )の傾斜部材20bのように、高さh2を狭くしたりすれば、ルツボ1内の原料溶融液2側から結晶3を通してルツボ1の下部に抜ける熱量が変わり、周囲と中央の温度差を調節することで、結晶の形状をコントロールすることができる。
【0032】
傾斜部材20の形態については、図3に示すように、全体が熱伝導の良い、例えば銅などの熱伝導性に優れた部材で形成することができる。
そして、傾斜部材20cと支持部材10aとはネジ接続をする構造とし、傾斜部材20cとルツボ1の底面とは、伝熱性ペーストを塗布してから接触させると、熱の伝わりを向上させることができる。
【0033】
接合部としてネジを使用すると、接触面積が増えるので、傾斜部材20cと支持部材10aをネジ接続とすることは、熱伝導の効果を高めることになる。
傾斜部材20の別の形態としては、図4に示すように、傾斜部材20dを外周が熱伝導性に優れた部材からなる中空構造として、その内部に熱伝導性に優れた流体21を充填する構成とすることもできる。
【0034】
本発明による効果として、本発明の傾斜部材20を用いた結晶成長装置と、図7に記載の従来装置との比較を、ルツボ1の底部の温度分布をシミュレーションによって行った。その結果を図5に示す。図5は、ルツボの半径と、任意の高さにおける固液界面温度の相対温度の関係を示した。
【0035】
また、図5において、本発明については、傾斜部材20の傾斜角度θ(図2参照)が45°以下の場合の結果であり、従来技術については、図7に示す支持棒のヒータを使った場合の結果である。
【0036】
図7の従来構成の場合、図5の結果では、中央の温度が高く、ルツボの周囲(側面)に向けて、急激に温度が低下し、その後も緩やかに温度が低下していることが分かる。このような温度分布においては、結晶の固液界面の形状が、下に凸形状になり、結晶の質が低下してしまう。
【0037】
そこで、本発明のように、傾斜部材20を用いた場合には、ルツボの周囲(側面)から中心部に向けて、温度が緩やかに低下をしており、上に凸形状の良好な結晶が得られる温度分布となることが分かる。
【0038】
本発明においては、結晶成長装置の仕様や運転条件から、図2に記載のような傾斜部材20の高さhを変えて、最適化するために、支持棒と結晶のモデルを作成し、熱伝導率等の物性値を設定して、結晶と原料溶融液との固液界面4での温度分布をシミュレーションで求めることで、温度分布が、ルツボ1の中心部が周囲(側面)よりも低くなるような、傾斜部材20の高さhの最適形状を決定することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ルツボ
2 原料溶融液
3 結晶
4 固液界面
5 支持体
6 炉心管
7 側面ヒーター
8 筐体
9 断熱材
10 支持棒
11 ヒーター
12 ヒーター制御装置
20 傾斜部材
21 伝熱性流体
22 伝熱性ペースト材
23 冷却部
24 温度制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性物質の原料溶融液を保持するルツボと、前記ルツボの周囲に配置された側面ヒーターとを有し、前記ルツボを引き下げて単結晶を成長させる結晶の成長装置において、
前記ルツボの底面に取り付けられていて下方に向かって先細りする傾斜部材と、
前記傾斜部材の下方部を支持して引き下げを行うための支持部材とを有することを特徴とする結晶の成長装置。
【請求項2】
前記傾斜部材は、前記ルツボの底面よりも全体が熱伝導性に優れた部材からなることを特徴とする請求項1に記載の結晶の成長装置。
【請求項3】
前記傾斜部材は、中空構造であり外周が熱伝導性に優れた部材からなり、前記中空構造の内部に熱伝導性に優れた流体を充填してなることを特徴とする請求項1に記載の結晶の成長装置。
【請求項4】
前記傾斜部材は、前記支持部材とネジ接続され、前記ルツボの底面とは、導電性ペーストの塗布を介して接触していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の結晶の成長装置。
【請求項5】
前記支持部材は加熱冷却手段を有し、前記支持部材と前記ルツボとの移動熱量を制御することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の結晶の成長装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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